●リプレイ本文
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LH近海――海中を傭兵たちのKVが往く。
そのKVの中で傭兵たちは様々な思いを寄せていた。
先頭を行く「SS−500 かいりゅう」と艦名を愛称として名付けられたリヴァイアサンの中で里見・さやか(
ga0153)は呟く。
「敵は、もうかなり傷付いているのに‥‥戦力も少ないのに、どうして、退かないの‥‥? まさか、生還を期さない攻撃だとでも‥‥?」
LHから送られてきた情報では――ビッグフィッシュ(以下BF)は中破しているとの情報だった。
なのに――LHへ向かってくるということに疑問を感じていた。
いや――本当は気づいていたのかもしれない。
その隣を往く「興覇」と名付けたリヴァイアサンに乗る榊 兵衛(
ga0388)はこれからの行動を考えていた。
「敵も必死のようだが、あのデカブツをLHに近付けるわけにはいかないな。早々に護衛のワームを墜として、BFを食い止めることとしよう」
その後方で「アルバトロス改」に乗る赤崎羽矢子(
gb2140)は接敵しつつあるBFを捉えたレーダを睨めつけ疑問をぶつける。
「手負いの鯨、あれだけの損傷でまだ諦めないなんて、死ぬ気で向かって来るつもり?」
手負いの虎、窮鼠猫を噛む――手負いの方が厄介である事に警戒する。
その右隣で「ドルフィン」を愛称として名付けられたKVの中でUNKNOWN(
ga4276)はこの機体について考えていた。
「おお、こんな機体も私は持っていたのか、よし、機体を作りかえる前に特性を見る、か」
正確に言えば、所持しているわけではないが。
UNKNOWNの能力にとっては機体の特性を見る格好の依頼だったのだろう。
羽矢子の左隣で「アルバトロス」を操る逆代楓(
gb5803)は医師を志している者としては矛盾を感じながらボヤく。
「荒事は好きやおまへんねんけど‥‥そうも言うてられまへんな」
そう――LHの危機、さらなる犠牲者を出さない為にも。
羽矢子の後方で「ビーストソウル改」を操縦するマヘル・ハシバス(
gb3207)はBFが相当のダメージを受けているのに侵攻してくる事に戸惑いを持っていた。
「こんなになってまで戦いたいなんて、正直理解できません。バグアには、帰る星もあるのでしょう」
還るべき所があるなら還った方がいい――マヘルはそう思っていた。
「私たちの帰る場所を壊されるわけにはいかないんです」
だけれども――護るために引くことができない。
一方、上空を往く傭兵たちも居た。――対BFの切り札として。
「夜朱雀」と命名した「F−201D/A3」の操縦席でブロント・アルフォード(
gb5351)は決意を固めていた。
(失敗は許されない‥‥必ず落としてみせる‥‥!)
皆を――LHを護ると愛刀に誓って。
その横を「トオル1号」と名付けた「ラスヴィエート」、最近出た宇宙機を操縦するのは初依頼で初KV戦の坂上 透(
gc8191)。
まだ新しい機体の特徴である匂いを感じながらクッションの敷いた操縦席で憤っていた。
「カミカゼ特攻なんぞ命を無駄にするだけじゃ、敵ながらに腹立たしい」
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――BF戦闘指揮室
『レーダ及びソナーに感アリ!』
上空を往く二個の光点と海中を進む6つの音を捉えた。
『総員戦闘配置!』
即座に艦長のバグアが艦内に命令を出す――そうすると艦内が興奮に満ち溢れ慌ただしくなる。
格納庫ではマンタワーム(以下MW)に搭乗したバグア達がバグアの整備員達の引きちぎれんばかりの帽振れで次々と出撃していく。
互いに――帰還することが無いことを知りながら見送った。
――海中
先ず動いたのは傭兵たちだった。
マヘルとUNKNOWNが「ソナーブイ」を展開し始める。
UNKNOWNがイルカのように操作し、ドルフィンジャンプを披露する。
「さて、やってみるか」
と――煙草に手にしようとしたが灰皿がなく断念した。
MW達はその行動を挑発とみて戦速をあげて傭兵たちへ向かっていく。
「まずは護衛を引き剥がしましょか」
それをチャンスと見た楓が「小型魚雷」と「ホールディングミサイル」を射程ギリギリで発射する。
命中はしなかったものの何機かが楓の方に向かっていった様に見えた。
「敵ワームへ魚雷攻撃を実施する。対潜戦闘、各個に定めた目標。魚雷攻撃始め」
互いの有効射程へ近づくと、里見が「七十式魚雷」で弾幕を張る――大型魚雷が斉射される光景は圧巻だ。
それを見たMWは即座に反転し後退した。それに対して、MWと距離を詰めようとする傭兵たち。
「この動き‥‥?」
一連のMWの手練な動きを見た羽矢子はこの五機が無人機でないことを悟った。
「その損傷じゃ勝ち目はないよ。諦めて投降する気はない?」
『同胞の為に投降する気など無い!我々が反撃の狼煙となるのだ!』
オープン回線でBFとMWに投降を奨めるが無駄のようだった。
「そう‥‥」
一呼吸置き。
「下らない。自分達から侵略仕掛けて来といて、負けそうになれば死んだ仲間を理由に特攻?最初から攻めて来なければ、互いに死なずに済んだ命がどれだけあったか。お前達のエゴで、これ以上人の命は奪わせないよ!」
決死で向かってくる相手に負けない様に気迫で迎え撃つ!
「LHに向かわせる訳にいかないのでな!」
「フッ‥‥」
「‥‥行きます!」
兵衛・UNKNOWN・マヘルが一定距離を保ち攻撃を回避しようとするMWに対して接近しつつ魚雷やミサイルを放つ。
この攻撃である程度のダメージをMW五機に与えることに成功した様だ。
『後退!』
後退していくMW、傭兵たちは攻勢により乱れた体制を立て直し、互いに対峙する形となった。
里見と対峙する形となったMWはBFの進路上に位置し護衛と血路を開く役割をしていた。
「七十式魚雷、セドナ魚雷発射始め!」
そんなMWに対し里見は「七十式魚雷」の残弾を牽制し多量の「セドナ魚雷」を使い攻撃を加える。
幾つものおびただしい雷跡がMWへ伸びていき――その先では爆発が起こり、一際大きい爆発と共にMWが圧壊して逝くのが見えた。
「させるかっ!」
兵衛は迂回突破を計ろうとした一機のMWを補足し、操縦技能と専用機の移動力を持って「ホーミングミサイル」で攻撃しながら吶喊し、近接距離になったときに人型へ変形し「ベヒモス」を使い格闘戦へと持ち込んだ。
「食らえっ!」
格闘戦では人型になった兵衛の機体がかなり優勢に進み、「ベヒモス」の一撃で致命傷を与え撃沈した。
「3度右に流れる」
「奴は左に回避する癖があるようだ、な」
そんな激戦の中、悠々と機体を操り「撮影演算システム」で戦域管制を行うUNKNOWNがいた――歴戦の傭兵である彼はMWと対峙するより傭兵たちのフォローに回る事を選択した。
先達であるUNKNOWNのフォローにより傭兵たちの戦闘が優位に進んでいる――こういう事は経験がモノを言うのであった。
羽矢子は投降を呼びかけて対応したMWと「ガウスガン」と「レーザークロー」で中近距離戦を行なっていた。
撃ち出される「プロトン砲」と「ガウスガン」が激しく交差し、迫り来る「プロトン砲」を潜りぬけ「レーザークロー」で切り込みにかかる。
「落ちろっ!」
幾度となく繰り返される交戦、それも終わりに近づきつつあった。
「レーザークロー」の蓄積ダメージ部分から亀裂が発生し、MWは圧壊して撃沈するに至った。
強引にLHへ向け突破しようとするMWが一機――それを阻む「ホーミングミサイル」で補足し、攻勢をかけるマヘル。
それに対し、MWは反転しマヘルへ向かってダメージに怯まず突き進んできた!
「なんて戦い方‥‥」
捨て身とも言える攻撃に困惑を隠し切れない――が、今は戦闘中――意識を切り替えないと海の藻屑になるのは自分。
プロトン砲と共に体当たりしようと突撃してくるMWを変形した人型で回避しつつすれ違いざまに「レーザークロー」でダメージを与える。
それは――まるで闘牛の様な光景だった。が、そんな光景も推進部に当たった攻撃により爆発轟沈した。
最後の一機となったMWと対峙する楓――これを撃沈すればBF一隻のみとなる。
「これでルートを狭めて‥‥ほい、ミサイル発射」
魚雷で弾幕を張りつつミサイルを発射するが、ダメージを受けながらも突き進んでくる。
「なんですのん、こいつら避ける気あらしまへんのか?」
「寄って来んといてくださいな!」
しかし、MWが接近してくるのを楓は見逃さなかった。
チャンスとばかり「メトロニウムシザース」でMWの真下に回りこみ執拗に攻撃を与えていく。
致命傷を負ったMWは体当たりを敢行しようとするが間一髪の所で大爆発を起こして爆散した。
「下は片付きましたえ、よろしゅう頼んます」
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――LH近海上空
水中での戦闘が嘘のような静けさが広がる。
透は長期戦となった為、空腹を感じていた――何か「板チョコ」でも携帯しておけばと思っていた。
時折、MWが撃墜されたのだろうか水柱が上がっていた。
その水柱も五本を数えた時に、海面からUNKNOWNの機体が現れ透達の居た地点まで移動してきた。
そして、待ちに待った合図がやってきた。
「下は片付きましたえ、よろしゅう頼んます」
直掩のMWの全滅をもって仕上げとなるBFへの攻撃合図だ。
里見から送られてきたデータを元に透とアルフォードとUNKNOWNの三人がBFに対して「航空爆雷」を投下し始めた。
まず、UNKNOWNから爆雷を投下する。
狙いすましたように目標地点へ吸い込まれる形で落下する爆雷――投下から数秒後――一際大きい水柱が上がる。
「このドルフィンもなかなか使える、な」
UNKNOWNはそのままBFが上がってこないように旋回しながら警戒についた。
「まず1発目だ、巻きこまれるなよ」
続けてアルフォードが爆雷を1発投下し――水柱が1度上がる。
水中の里見からのノイズ混じりの通信が入る。
「敵、依然健在っ!」
流石、ここまで来たというべきだろうか――ダメージを受けながらもBFは健在のようだった。
更に二発目の爆雷を狙いすまして投下する。
「上手く掛かってくれよ‥‥そこだッ!」
先ほどとは違う、大きめの水柱が上がる。
爆雷投下を終えたアルフォードはUNKNOWNと共に旋回して警戒を怠らない。
水中の様子が落ち着くと里見が通信を入れてきた。
「損傷を確認なれど、健在」
――ダメージは通っているようだ
続いて、透が爆雷をまず、一発投下する――水柱に機械油のようなものが混じっていた。
「うむ、沈まぬか」
「敵、BF船速低下」
観測によると――ダメージのせいだろうか、船速がかなり低下したとの事だった。
ほぼ停止状態になったBFに最後の爆雷を投下した。
「しぶといやつじゃの、さっさと沈むが良い」
その攻撃が――BFを大破まで至らせた。
――再び水中
BFは大破したものの沈没までに至ってないが――傭兵達に包囲されていた。
「ただの輸送型で何のつもりかと思うたら神風ですかい。随分でらい回天もあったもんどすなぁ‥‥となると腹の中は爆薬かキメラ満載って所でおますかな?」
輸送型にしては――頑丈なBFをみて楓が感想を漏らす。
MW戦で傭兵たちは魚雷を使いきったので近接戦闘に推移する事となった。
里見は近接戦闘にあたり、攻撃を当たらないようにサポートに回った。
まずは兵衛が「システム・インヴィディア」を使用し「ヘビモス」で砲台へ斬りかかり、羽矢子が損傷部に対して「ガウスガン」攻撃し、マヘルが「レーザークロー」で装甲を引き裂く。
「バグアお得意の不思議動力やろけど、推進部自体はあるはずですやろ!」
更に――楓が「メトロニウムシザース」で動力部らしき所を攻撃する。
連携した攻撃により、BFの表面ではいくつもの小爆発が発生し、大爆発寸前の警告を里見から受けとると、水中・上空の傭兵たちは安全圏まで退避した。
次の瞬間――今まで以上の水柱――否、きのこ雲を出しながら大爆発が海を覆った。
それはまるで――BFの最後の咆哮のようでもあった。
爆散した敵を見た里見は黙祷した――彼らもまた――必死に生きていたのだから。
こうして、バグア達はLHを護る傭兵たちによって海の藻屑と消え――兵どもが夢の跡となった。
――上空
すでに――空は黄昏時だ。
爆発を見届けたアルフォードはLHへ帰投する――
「見事な特攻だったが、相手が悪かったな‥‥」
その後ろに続いて透も帰投する。
「帰って夕餉とするかの」
夕日に照らされる護ったLHを見て夕餉の献立考える。
帰るべき所が有る者たちが――帰っていく。
人は――帰るべき所が有るからこそ――強い。
護りたい――そんな気持ちが――彼らを突き動かし――彼らの力になる。
だからこそ――人類は――この戦いを戦い抜こうとしている。
Fin