●リプレイ本文
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揺れることない月の大地が揺れる。
崑崙基地に基地駐在KVの攻撃を掻い潜り突貫したBFが突き刺さった為だ。
強襲を受けた基地は即座に戦闘態勢へ入り――けたたましく警告のアラームが鳴り響く。
食堂で休憩していた傭兵達も例外ではなかった。
食堂で談笑している傭兵達。
刹那――。
ズン!
「うお!」
衝撃が基地に走り――。
騒然とする食堂――若干の混乱も見られるが、すぐにそれも収まる。
明かりが非常灯に変わり――。
「敵襲撃! これは演習にあらず! 繰り返す! 敵襲撃!」
基地内に鳴り響く警告のアラームとともに敵の襲撃を知らせる放送が流れる。
傭兵達に緊張感が走る――。
「悪あがきでありますね」
美空(
gb1906)は切り捨てるように言う。
「敵さんも無茶しますねぇ‥‥焦ってる、か‥‥」
御守 剣清(
gb6210)はいざという時のために準備をする。
「基地を狙ってきたか‥‥バグアどもめ。ふん、だがやっと取り戻しつつある宇宙だ‥‥消し飛ばしてやる!」
ルーガ・バルハザード(
gc8043)は
一部の傭兵は迎撃に向かおうとするが――。
「ん?」
須佐 武流(
ga1461)の無線に連絡が入る。
「‥‥わかった」
一言二言言葉を交わすと無線を切る。
「俺達が敵の最も傍にいるらしい――敵を迎撃しろとの緊急依頼だ」
須佐はほかの洋平達を見渡して言う。
「わかった」
(こんな無茶な突撃‥‥。いや、こういう状況が一番怖いんだけど。一体何が出てくる?)
すぐに答えたのは旭(
ga6764)。
他の傭兵たちも無言で答え、各々、外気が無いために備えて宇宙服を着用する。
オペレータの指示に従いながら非常灯に照らされた廊下を進む傭兵達。
敵へと向かう間、敵の情報が知らされる――武装した強化人間と杖のような物を持つ少女――照合結果、強化人間の「高畑 直美」であると。
(カルンバ基地襲撃の際には姿を見せなかった理由は、これでありますか)
美空は襲撃した敵が高畑であると知ると以前、【オーストラリア】で会った事を思い出す。
(オーストラリアに居た彼女がここに?)
【オーストラリア】の依頼に幾度と参加した御守、報告書上ではあるが知っていた。
(正義様か――久しぶりだな。気をつけないとな)
【千葉】で対峙したことのあるアルト・ハーニー(
ga8228)は高畑の行動に警戒していた。
(私とっては、単なる敵の一人にすぎん)
敵はただ倒す――ただそれだけなのは蕾霧(
gc7044)。
(正攻法によらず、奇策とは末期‥‥ですね)
共に並走している婚約者の蕾霧を見て考えるは紅苑(
gc7057)。
●会敵
オペレータの指示に従いながら進む傭兵達は敵がいるのであろう廊下の曲がり角までやってきた。
「高畑はいないであります」
曲がり角の廊下から様子を伺った美空は高畑が居ない事を皆に告げる。
「厄介だな。あの時も建物を利用してたから、な」
アルトは建物を利用して攻撃した高畑の戦いを思い出す。
「だが、高畑以外の強化人間を倒せれば、盾となるのもいなくなる」
紅苑は先に排除することを提案する。
「其処を撃たれる可能性がある、な」
「危険であります。が、砲撃後に隙ができる可能性があります」
傭兵達は作戦を練る――。
取り巻きの強化人間の排除を須佐、旭、紅苑、蕾霧。
高畑の対処をアルト、ルーガ、御守、美空。
二班に分けて行動することになった。
まず、高畑のレーザーを警戒しながら強化人間と対峙する須佐達。
基地の廊下という閉所戦闘――御守達も出てくれば纏めて攻撃される可能性が有ったので、高畑が出てくるまで待機することになった。
対強化人間
銃器等で武装した強化人間に対して須佐達は――。
機械脚甲「スコル」と脚爪「オセ」した須佐、聖剣「デュランダル」を装備した旭、二人は前衛といえる近接装備だ。
「援護は任せてくれ、紅苑は攻撃に集中してくれ」
「頼りにしていますよ?」
蕾霧と紅苑がターミネーターとガトリングシールドで援護射撃を行い、旭は投剣を行い牽制し接近する須佐。
対する強化人間も須佐達前衛を迎えるグループと紅苑達と銃撃戦を行うグループに別れた。
須佐はスコルで打撃を、オセで蹴撃を、振り回すように複数に対して攻撃を行う。
旭は素早く脚甲「インカローズ」を装備すると須佐とともに乱戦へ身を投じる。
二人の攻勢に敵の前衛がその数を減らしつつある。
だが、閉所戦闘――乱戦における銃撃は前衛で戦っている両者に少なからず銃弾が止む得なく当たる。
それでも蕾霧達の援護を受けた旭達が優勢だ。
しかし――。
杖を構えた高畑が角から現れ――。
キィィィィィィィン
エネルギーが収束する甲高い音を上げて大型収束レーザーが放たれる。
咄嗟に回避する須佐、旭は虚闇黒衣を発動し回避し、蕾霧と紅苑も回避する。 放たれるのは力強い光条のレーザー――辺りを眩しい光で包む。
光が――収まる。
放たれたであろう射線の下に敷かれたリノリウムの廊下は融解し、爛れている。
前衛で旭達と戦っていた強化人間の姿は――跡形もない。
「カハッ」
鮮血――否、ドス黒い血をおびただしく吐血し辺りを、服を血で染める高畑。 どうやら――その様子から高畑の命数が後僅かであることがうかがえた。
敵から煙幕が炊かれる。
「しまっ――」
旭が動こうとするが――。
杖に凭れ掛かる高畑は後衛の強化人間におぶられて撤退していった。
自身の移動が遅いのであれば運んでもらうのが道理だ。
殿となった他の後衛の強化人間を蕾霧と紅苑が対処し、他の傭兵たちが追跡する。
「聞きしに勝る威力とは――」
初めて高畑のレーザーを目の前にしたルーガは想像以上の威力に驚いていた。
無論、他の傭兵たちも同じ気持ちだ。
「後、一発ですね――」
「三発目は――撃たせたくないですね」
「自壊しての終了なんぞさせんよ。そんな決着は納得出来んのでな」
御守、旭、アルトは【三発目】を危惧する。
【資料】から二発が限度――【三発目】は―――すなわち、死を意味していた。
傭兵たちは追う――高畑達が逃げたその先へと。
其の追跡途中、基地駐屯の友軍の能力者と合流することが出来、行動を共にすることにした。
●散るぞ悲しき――玉砕
基地の外――宇宙空間。
再び傭兵達は対峙する――が、なにやら敵の様子がおかしい。
対峙した場所は開けた基地の外。宇宙服に着替えた高畑が杖にもたれかかり、運んできた強化人間――そして、見かけぬバグア達とそれを護衛していると思しき強化人間と其の増援。
「増援か。だが、生憎と俺達はお前の対応専任でな。最後まで付き合ってもらうんだぞ、と」
杖に身を任せている高畑を見据えて言うアルト。
「フハハハ! 我々の成果を見よ!」
どうやら研究者の様なバグアがそんな高畑に【何か】をしようとする。
「させるかっ!」
「ぐっ!」
紅苑が其のバグアを射撃するが、護衛の強化人間が盾になり、撃たれて倒れる。
「高畑よ! 奴らを消しクズにしろ!」
高畑の首元に打たれたのはアンプルが装着された注射器。青息吐息で顔面蒼白になって今にも死にそうだった高畑がレーザーを撃つ前と前と変わらない様子に戻った。
「貴様! 何をした!」
「なに、『最後』の力を振り絞らせただけだ」
「外道が!」
問うルーガに答える研究者バグア、返答に憤る御守。
「やれ! 高畑が撃つまでに守り切るのだ!」
増援、護衛の強化人間が傭兵達を襲う。
バグア達と対峙するのは――
「許せない――」
研究者バグア達を狙う旭。
「テメェの様なヤツぁ許せそうになくてな‥‥」
オーストラリアや高畑のことで許せない御守も研究者バグア達を狙う。
「数だけの雑魚がうざったい‥‥!」
蕾霧は襲い来る強化人間の排除。
「研究者がただ現れた訳ではないでしょう。不審な素振りに十分注意を」
合流した友軍の能力者と連携して蕾霧と共に強化人間の排除を行う。
「いくらようが、雑魚は雑魚だ」
須佐もまた、目の前の邪魔なものを排除しようと動く。
旭、御守は力の限りスキルを駆使して研究者バグアに速攻をかえる。
それは御守の怒りであり、旭の闇を――邪を祓う誓いであった。
強化人間達はそんな御守と旭を迎え撃とうとするが――。
「貴様らの相手は俺だ」
二人に向かう強化人間を吹き飛ばす影――それは須佐。
「今ですっ、蕾霧っ」
蕾霧の銃撃が強化人間を吹き飛ばす。
「貴様‥‥紅苑を狙った罪は、貴様の死で償え!」
無論、敵も木偶ではない、反撃もしてくる――それが紅苑を襲い、かばう蕾霧。
「何も用意せずに来たと思ったか!‥‥グアアアアアアアアアア!」
自らも注射を打つバグア達――雰囲気が変わる――それは狂戦士のように。
「僕はこの聖剣で邪悪を打ち払う!」
「‥‥死ねっ!」
その変化に怯えることなく立ち向かう、旭と御守。
激闘が始まる――が。
所詮は非戦闘員のバグア、薬剤を使って強くなった所で本気を出した旭や御守の前では的ではなかった。
「ありえぬ! 計算が正しかったはず!」
「人類を――意志の力を侮っていたからだ。これは、散々人の意思を捻じ曲げ利用してきたお前への、罰だ」
「想いによって人は強くなれる――」
【両断剣・絶】により聖剣を青く輝かせ、気合一閃する旭。
【刹那】を使い抜刀して切り飛ばす御守。
二人によってバグア達は倒された。
強化人間に対処している三人も――。
紅苑が狙われたことに激高し敵の攻撃に構わず執拗に、激しく攻撃する蕾霧。
「お互いこんな所で死んではいられませんからね。そうでしょう? 蕾霧」
攻撃に晒される蕾霧を【ボディガード】を使用して護りながら、落ち着かせる。
舞う様に攻撃する須佐と蕾霧と紅苑の激しい銃撃の前に強化人間が全滅するのは時間の問題だった。
一方、高畑と対峙するのは――。
「覚えているでありますか?以前にお会いした美空でありますよ」
こんな形では出会いたくなかった――そんな気持ちの美空。
「は、正義が聞いて飽きれるな。お前の正義はその程度かね?そんなんじゃ、悪の総帥には勝てないぞ、と」
捻れ、歪められた高畑の正義を否定するアルト。
「お前は死なねばならん。それだけだ」
眼前に居るのは敵、と切り捨てたのはルーガ。
傭兵達は砲撃を、高畑もまた近接を警戒し膠着状態が生まれる。
「結局こうなってしまったでありますか。あの時にちょっとでも疑問を感じてもらえれば違った結果になったかもしれないけれど一人で戦わせてしまったごめんなさいなのであります」
そんな膠着状態に美空は高畑に語る。
「あの時? ‥‥知らないっ!」
だが、記憶を改竄された高畑は美空の問に知らないと答える。
「まだ気づかないでありますか? この戦闘はただバグアの保身のためだけなのであります。理想が本物ならここで戦っているのは彼らのはずなのに。撃ってもいいのは撃たれる覚悟のある者だけなのであります」
更に続ける美空。
「私は! 妹たちを! 友を倒した貴方達が憎い! 私たちの正義は間違っていない! 」
「恨むなら他人でなく自分を恨め。俺たちを倒せなかった自分を。仲間を助けられなかった自分を、な」
アルトは言う、【千葉】の時に倒せなかった自分たちが悪いと。
決裂――否、強化人間と対処していた傭兵たちが戻ってくる――そのための時間稼ぎだった。
【迅雷】で駆け寄り拘束する御守。弱っていたのもあったのだろう、高畑は年相応の腕力しかなった。
チャンスだが、今攻撃すれば御守も巻き込んでしまう。
「出来れば武器を収めてもらえると、こっちも楽なんだが‥‥」
「出来ないよっ! 何もかも遅すぎたの!」
拒絶する高畑に御守は地上で――オーストラリで有った真実を告げる。
だが――。
「皆がいなくなったのは事実なのっ!」
投降を拒否する――御守は【迅雷】で離れる。
杖を構える高畑――撃たせまいと動く傭兵達。
勝負は一瞬でついた。
高畑の武器を破壊する御守、其の支えていた腕を切り飛ばしたのはルーガ。
これにより、唯一と言える攻撃力が喪失した。
武器を、腕を亡くした高畑は、アルトのハンマーで叩きつけられ吹き飛び。
吹き飛んだ高畑を【真燕貫突】を付与させた、オセとスコルでドリルのような回転を加えた飛び蹴りを高畑の腹に当てた須佐。
臓物をぶちまけ、腹に大穴を開けて月の大地に仰向けに激しく倒れる高畑。
「さよなら」
確実に倒すために高畑の眉間を撃つ美空。
局地決戦兵器として開発が計画されたプロトタイプの強化人間「高畑 直美」は傭兵達によって討ち取られた。
「‥‥もしかしたらっ」
突き刺さるBFを見上げる旭は嫌な予感がしていた。
「急いで!」
嫌な予感――意図に気づいた傭兵たちがBFへ突入していく。
嫌な予感は正しかった。
そう――BFを自爆させる気だったのだから。
直ぐ様、爆発物を見つけた傭兵達は基地へ連絡し、専門部隊によって解除された。
「危なかったです――爆発すれば、この基地ごと吹き飛ぶ可能性もありました」
専門部隊の隊長が傭兵達に感謝の言葉を告げる。
傭兵達は一度となく、二度も基地を危機から救ったことになる。
こうして、バグア達の襲撃に端を発した戦闘が終わりを告げる。
「この『夏』もあと少しですか‥‥」
隣にいる蕾霧を見てそっと呟く紅苑。
崑崙基地外れ――。
旭と御守によって埋葬された高畑――バグアに翻弄された少女。
墓標の代わりに壊れた杖が突き刺されている。
崑崙強襲――残滓 FIN