タイトル:夏の終焉マスター:後醍醐

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 14 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/26 18:08

●オープニング本文


 ●
 けたたましく鳴くセミ、青い空と入道雲――太陽を見上げる向日葵。
 バグアによる長く続く戦乱の世――地上奪還を目指した大規模戦闘が起こり、それを起点に各地での奪還作戦が行わる中――。
 これまでの戦闘で傷つき、倒れていった人々を祀り、奉る事で鎮魂し、残された者達を慰める祭りが開かれる。
 
 厳粛にそして静粛に亡き人と向き合う時間と場所、そして残された者達が明日のために日常を忘れる場所。
 そんな祭りが開かれようとしていた。
 祭りは――石段を登り、山中に開けて作られた神社、そして近くの川で灯篭流しが行われる予定だ。
 ただ――残された人々だけでは難しい為、ULTへも協力の要請が出されていた。
 広く場所が取られた神社の広場では櫓が組まれる予定だが、女子供、老人ばかりでうまく行ってない様子。
 それ以外にも、設営であり、屋台であり、運営の手伝いであったりと様々だ。
 無論――ずっとという訳ではなく――合間に祭りを楽しむことや、想うことも出来るだろう。
 
 

●参加者一覧

/ 須佐 武流(ga1461) / UNKNOWN(ga4276) / L3・ヴァサーゴ(ga7281) / 伊万里 冬無(ga8209) / 大鳥居・麗華(gb0839) / 御守 剣清(gb6210) / 樹・籐子(gc0214) / エレシア・ハートネス(gc3040) / ミリハナク(gc4008) / 追儺(gc5241) / 明神坂 アリス(gc6119) / アクア・J・アルビス(gc7588) / ルーガ・バルハザード(gc8043) / エルレーン(gc8086

●リプレイ本文

 ●
 セミがけたたましく鳴き、蒼空に白き入道雲がかかり、地上には向日葵が太陽に向けて咲いている。
 
 バグアとの戦いで傷つき、倒れていった人々を慰霊し、残された人々の日常を忘れさせる――夏祭りが始まる。
 
 だが、現実は厳しい――彼等だけでは祭りをする事も難しかった――故に、ULTへと依頼する事になった。
 
 無論、ずっと拘束と言うわけではない――合間に楽しむこともできるという条件だ。
 
 そして――依頼を受けた傭兵たちがやってくる。
 
 ●其々の祭り
 
「誰かが笑っている姿を見るのは好きですの。お祭が成功するようにお手伝いしますわね」
 赤色の竜のきぐるみを着たミリハナク(gc4008)だ。
 ちなみに――前述のセリフは「みぎゃみぎゃ」としか他所からは聞こえていない。
「手伝いの傭兵さんかね?」
 見慣れぬ竜の着ぐるみを着たミリハナクを見つけた老婆は話しかける。
「みぎゃ」
 ミリハナクは首肯して問に肯定する。
「人に慣れぬ者もいると聞く‥‥お主もそうかもの‥‥力仕事はできるかえ?」
「みぎゃ」
 問に対して力拳をつくる格好で答えるミリハナク。
「では――こっちで手伝って欲しいのじゃ」
 と言うと、老婆は着ぐるみを着たミリハナクの手をとって、櫓の資材が置かれている所へ連れて行った。
 その光景は微笑ましいものであった。
 
 一方、櫓の場所から離れた場所――屋台を設置している者もいた――その名はUNKNOWN(ga4276)。
 いつもの姿――ロイヤルブラックの艶無しのフロックコートに身を包み、同色の艶無しのズボンとウェストコート。
 その下にはパールホワイトの立襟カフスシャツにスカーレットのタイとチーフと古美術品なカフとタイピンをつけて兎皮の黒帽子を被っている。
 勿論、彼自身の屋台も設置するが――他の屋台の設置を手伝っていた。
「すまないね‥‥」
「お兄ちゃん、すごーい」
 手慣れた手つきで見る見る間に組み上げていくUNKNOWN。
 コードバンの黒皮靴と共皮の革手袋も汚れてはないようだ。
「これでいいだろう」
 そう言い残すと、UNKNOWNは自分の屋台を設置する場所へと移動していった。
 隅に確保した場所で自身の屋台を組み上げていく。
 オープンカフェテラス用のテーブルセットを用意し、屋台BAR用の什器や屋台を用意する。
 準備は万端だ――後は――祭りの開始を待つだけだ。
 
 
「ん‥‥セシリー‥‥」
「こんにちわ。エレシアさんっ、お久しぶりです」
 エレシア・ハートネス(gc3040)が祭りの準備をしていたセシリー・ニミッツ(gz0463)へ浴衣の差し入れをする。
「えっ‥‥浴衣? ありがとう!」
「ん‥‥」
 祭りを手伝うことを考えていて浴衣を用意してなかったセシリーはエレシアの差し入れに喜び、感謝する。
 セシリーの喜びように少し恥ずかしそうにするエレシア。
「セシリー‥‥またね‥‥灯篭作り‥‥手伝ってくる‥‥」
 そう言うとエレシアは灯篭作りをしている所へ向かう。
 
 神社の社務所――
 其処では灯篭流しに使われる灯篭の作成が行われていた。
 見渡せば――力仕事に向かないであろう老人や子供が灯篭の作成を行なっていた。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「ん‥‥祭りの手伝い‥‥」
 社務所に入ってきたエレシアを見つけた子供が声を掛け、答えるエレシア。
「ULTの傭兵さんだねー、こっちだよー」
 子供のに手を引かれて案内されるエレシア。
 よく見れば――傷痍し退役したと思われる人も灯篭の作成を行なっていた。
 開いたスペースで作業する事になったエレシアと少年。
「これをこうすれば!」
「ん‥‥こうやって‥‥こう?」
 少年から組立の手ほどきを受けるけ、エレシアは黙々と作っていく。
 
 櫓の設置――
 
 その場に居合わせる二人――。
「お久しぶりです。アリスさん」
「リズ、お久しぶり」
 久しぶりのリズ=マッケネン(gz0466)との再会した明神坂 アリス(gc6119)。
 久しぶりに会うリズの喜びもひとしおだ。
「僕は、櫓の手伝いをするよ。リズは?」
「私もお手伝いしますね」
 アリスの問にリズはアリスを手伝う旨を答えた。
「それじゃ、いこっか!」
 リズの手を引っ張って現場へ向かう二人だった。 
 
「やたい、いろいろあるねー」
「色々とあるようだな‥‥ん?」
 準備中の屋台に目を輝かせるエルレーン(gc8086)と、それを微笑ましく見ているルーガ・バルハザード(gc8043)が近づいてくる人に気がついた。
「依頼したULTの方かの?」
「私は、ルーガ・バルハザード。こっちは弟子のエルレーン」
 老婆は見慣れぬ二人に声をかけ、ルーガは自身とエルレーンの紹介をした。
「櫓の設置を頼むかのう」
 老婆に案内されて向かうは櫓の設置場所。
 何人かの能力者が集まっている様だ。
 ルーガ、エルレーン達も其のに加わる。
 
 エルレーンとルーガが向かっている頃。
「お、御守!」
「お久しぶりです、エカテリーナさん」
 御守 剣清(gb6210)を見つけたエカテリーナが声をかける。
「前は‥‥」
「ああ、あれなら気するな。ああ言うこともある」
「でしたら‥‥」
 以前の依頼で気にしていたことを告げる御守にエカテリーナは答える。
「櫓の設置をするんだが、手伝ってくれないか?」
「いいですよ〜」
 御守と共に櫓の場所へ向かうエカテリーナ。
 
 ミリハナク、アリス、エルレーン、ルーガ、御守、リズ、エカテリーナ。
 櫓のメンバーが揃ったところで組立が開始される。
 
「ぐぎゃ、ぐぎゃ」
 身振り手振りで意思疎通をしながら作業をするミリハナク。
「恐竜さんだ、可愛い〜」
「見てないで仕事をするぞ!」
 恐竜姿のミリハナクをみて和んでいるエルレーンに作業を取り掛かるように注意するルーガ。
「こっち、こうですか?」
「ん、ああ。そうだ」
 図面を見ながらああだこうだと行っている御守とエカテリーナ。
「ここ、おねがいしますよ〜」
「ぐぎゃ!」
 ミリハナクに作業の説明をして、自身も作業に入る御守。
 作業に危険がないかチェックするエカテリーナだった。
 
「故郷では…夏は本当に待ち遠しかったな」
 作業をしながらポツリと呟くルーガ。
「この日本の夏は、私には暑すぎるくらいだが。それでも…こんな風に、澄み渡った青空がどこまでも続いている、というのは、素晴らしいものだな」
 ぽつり、ぽつりと昔のことを語るルーガ。
「‥‥」
 珍しく、自分語りを――過去を語るルーガの言葉を微笑しながら聞いているエルレーン。
 エルレーンはルーガに救われる以前の記憶が欠落してしまっている。
 故に、エルレーンにとっての故郷も欠落――無いに等しいが――。
 嬉しそうに自らの故郷を語るルーガをエルレーンも自身のように嬉しそうに聞いていた。
に聞いていた。

 交通整理組――
「海や山なんかも良いですけど、日本人なら此れですよ、此れ♪ さぁ〜気合を入れて準備しますですよ、うふふふふ〜♪」
 上機嫌な様子の伊万里 冬無(ga8209)。
「お祭り‥‥楽しみ‥‥」
 冬無の隣には同行しているL3・ヴァサーゴ(ga7281)が表情からは伺うのは難しいが、楽しそうにしていた。
「水着の誘惑も良けれども、浴衣もいいですわね」
 ヴァサーゴとの逆サイドの冬無の隣に居て、浴衣姿を楽しみにしているのは大鳥居・麗華(gb0839)だ。
 三人仲良く交通整理を行うために設置されたプレハブへ向かう。
 反射板のついたリフレクターベストと誘導棒を手に入れる三人。
「まるでラ●トセーバーみたいですわね」
「‥‥寧ろ‥‥知覚武器‥‥」
「こうやって、こうです♪」
 某有名武器に似ていると感想を洩らす麗華と冷静に突っ込むヴァサーゴ、誘導棒を機嫌よく振る冬無。
 
「祭りが清々円滑に進むように――交通整理は重要だな」
 追儺(gc5241)は自分たちが守っている「日常」を見るために、そして感じるために参加したのであった。
「ふむ‥‥」
 動線の書かれた地図を手に辺りを確認している――まだ、屋台は準備中の所が多い。
「ここも気をつけるべきだな」
 神社へ向かう参道の階段――ヘタをすれば、大惨事にもなりかねない。
 地図にメモを追記していく追儺。
 下見を兼ねて誘導を行う場所の確認を行うのであった。
 
 各人が各人なりに祭りが始まるまで待機している――。 
 未だ祭りが始まるまでは時間がある――。
 
 花火の準備――
 
 打ち上がり、その美しさを魅せるのは一瞬――その為に準備する人々。
 【Steishia】サマーリネンスーツにハーフパンツな装いをした樹・籐子(gc0214)もその一人だ。
「やはりこの季節の風物詩は夏祭りよねー」
 藤子は――夏の風物詩である夏祭りに参加して盛り上げようと考え参加していた。
「よろしくなのよー」
 花火師の手伝いをする藤子はリーダーから作業の注意点や手順などの指導を受ける。
「こうでいいのかしらねー」
 指示図と現場の指示に従いながら仕掛け花火をセッティングをしていく。
 勿論、打ち上げ花火のもある。
 細工は流々仕上げを御覧じろといった具合であった。
 あとは本番を待つのみ――。
 
 ●祭り開始
 
 青かった空も日が落ち、黄昏時も終えた頃――祭りが始まる。
 
 祭りに集まってくる人々――それを捌いているのは四人の傭兵達。
「こちらなのですよー」
「‥‥危ない‥‥」
「危ないから、押さないでくださいですわ」
 冬無、ヴァサーゴ、麗華のトリオは境内に向かう人々の交通整理を行なっていた。
 山中に続く石畳の階段の参道――それは事故の危険も孕む故に重点的に交通整理が行われているのだ。
「そこでイチャついて止まらないで下さいですー」
 時にはイチャつき流れを止めようとしているカップルに注意をし――。
「やるなら‥‥あっち」
 イチャつくカップルに林の茂みを指すヴァサーゴ。
「きゃ! やめて下さいですわ!」
「うへへへ〜後生じゃ〜」
 すでに出来上がって酔っぱらいった年寄りのソフトタッチに注意する麗華。
「なにやってるんですかー!」
 と言いながら、羨ましい光景に我慢しつつ冬無も酔った年寄りを注意する。
「ママー!」
「‥‥大丈夫‥‥?」
 迷子になった子供にオロオロと戸惑いながら対処するヴァサーゴ。
「どうしたのしら?‥‥迷子のようですわね」
 そこへやってくる麗華。
「私が迷子を預けるところへ連れていきますわ」
 迷子の子供をあやしながら社務所へ向かう麗華だった。
 
 程なく――三人の手伝いが終わり、思い思いの衣装に着替える三人。
「‥‥我‥‥好きなデザイン故‥‥嬉しい‥‥」
 ヴァサーゴは冬無が用意したゴスロリ風浴衣を身に纏う。
 自身の好きなデザインに嬉しさがこみ上げる。
 少し、派手目の浴衣を着たのは麗華。
「オーソドックスなのも良いですけど、こう云うのも良いですわね」
 浴衣の柄を鏡で写したりして確認している麗華。
 藍色布地のミニスカ浴衣を着たのは冬無。
「あはぁ♪ 御両人とも、可愛く、よーく似合ってますですよ♪」
 着替えた二人の姿を見て少し、興奮気味の冬無。
「流石、伊万里ですわ」
 褒められたことを嬉しそうに、そして浴衣を選んでくれた事に感謝する麗華。
「‥‥ありがとう‥‥」
 冬無に褒められ可愛いと言われ、照れ臭そうに、でも嬉しそうにしているヴァサーゴ。

 準備が整った三人は祭りを楽しみことにする。
「ケビン、セシリー、こんばんはですわ♪ ケビン、この浴衣どうですかしら? 似あってます?」
 セシリーとケビンをみつけて挨拶する麗華。
「こんばんわ、麗華さん」
「麗華さん、似あってますっ」
 声をかけてきた麗華に返事をするセシリーとケビン――どうやら、二人も浴衣姿のようだ。
「屋台でも見ませんですか?」
「いいですね。ケビン、セシリーもどうですかしら?」
 屋台周りを提案する冬無、二人を誘う麗華。
「僕は問題無いですよ」
「私も〜」
 ヴァサーゴ達三人と二人合わせて五人で屋台巡りをする。
「‥‥チョコバナナ‥‥」
「美味しそう‥‥」
「僕、初めてだね!」
「お祭りといえばチョコバナナです♪」
「おしいそうですわね。‥‥五人分、いただけるかしら」
 チョコバナナを美味しそうに見つめるヴァサーゴとセシリー、初めてみたケビン、嬉しそうな冬無に皆の分を頼む麗華であった。
「ケビン、どうぞ」
「麗華さんも――」
 ケビンにチョコバナを食べさし――ケビンもまたお返しとばかリに麗華に食べさす。
「ぶぅ〜。麗華さん、ケビン君ばっかりかまけてますです」
 そんな光景にちょっとジェラシーを感じる冬無。
「はぁーい、ヴァサーゴさん。あーん、して下さい♪」
「ん‥‥」
 ヴァサーゴにチョコバナナを食べさす冬無。そこに似つかわしくないくぐもった声と水音が聞こえる――。
 音の正体は――ヴァサーゴが、チョコバナナを咥えて上下に動かしている為だ。
 (‥‥冬無、何故‥‥然様な、厭らしい目で、見る‥‥?)
 冬無の視線に疑問を覚えるヴァサーゴ。
 どうやら咥えてチョコを舐めとっているのだが――どうもその姿は艶かしく、赤面するケビンとそれを見て恍惚な表情をする冬無であった。
「セシリーさん、チョコついてますです♪」
「ん‥‥っ」
 セシリーの胸元に落ちたチョコを拭く傍、悪戯をする冬無――セシリーもその様子に慣れたようだ。
 そんなこんなしているうちに、かき氷屋につく五人。
「イチゴ‥‥練乳‥‥」
「宇治金時に白玉と練乳」
「練乳2つお願いしますわ」
 (イチゴに練乳‥‥。甘くて美味‥‥至高の、味‥‥)
 イチゴに練乳のかき氷を頬張り至福なヴァサーゴ。
「‥‥練乳‥‥乳‥‥」
 ふと、他の女性陣三人の胸を見て、そして自分の胸を見比べるように見るて落ち込むヴァサーゴ。
「あんっ、ちょっと零しちゃいましたです♪」
 白いナニか――いつもならキメラの粘液だったりすのだが――そうではなく、ただの練乳だ。
 練乳のはずなのに――煽情的な艶かしい姿を披露するのは冬無。
「あらあら、ついてますわよ」
「あ、ありがとう」
 ケビンの顔を拭ってやる麗華。息がかかりそうな距離に近づく麗華に赤面するケビン。
 そうこうしている内にセシリーと別れることなになる三人組。
 別れるセシリーに笑顔で手を振る冬無だった。
 
 
「やぁ、ようこそ」
 UNKNOWNのオープンカフェテラスを併設した屋台BAR。
 いつもと違い、酒を作る側なUNKNOWN。
「――時に、静かに考える時間と言うのは。大変貴重なものなのだよ」
 静かに、そして疲れた者を酒で迎える。
 ここでは時間もゆっくりと進んでいくような錯覚を覚えるぐらい平穏で静かな空間になっている。
 ある意味では――賑やかな祭りとは対極的な様子だ。
 そして、ここに来て飲む人もまたその雰囲気故か、疲れた心と身体を癒すように静かに飲んでいる。
 来るのは大人だけでない、子供たちもまたUNKNOWNの屋台にやってくる。
 だが、屋台の雰囲気に飲まれたのか何時もなら騒がしいだろう子供たちもノンアルコールカクテルを手に静かにしている。
 酒や、ノンアルコールカクテル以外にもオーブンを使った、本格的ながらも品のいい小皿料理とも言えるツマミをだす。
 ふと、ヴァイオリンの澄んだ音色が聞こえてくる。
 演奏しているのはUNKNOWN――雰囲気にあった静かな曲を演奏している。
 耳を傾ける屋台にいる人々――。 
 いい酒にうまい料理、そして落ち着く良い雰囲気――それがUNKNOWNの屋台であった。
 
 
 雑踏に目を向けてみよう――。
「あっ! ちょこばなな‥‥食べたい! 食べたい! 食べたい! いいでしょ、ルーガ?!」
 チョコバナナの屋台の前で子供のようにルーガの袖を引っ張っておねだりをしているのはエルレーン。
「すまないが、ひとつくれないか?」
 苦笑しながらも、ねだられたチョコバナナを頼むのはルーガ。
 まるでその光景は親子のようだ。
「あいよ! おまけしておいたよ!」
 屋台の大将はチョコバナナにカラフルなチョコのカラースプレーに銀のアラザンをかけて渡した。
「わぁ〜きれい〜」
 カラフルにデコレーションされたチョコバナナに釘付けなエルレーン。
「食べないと、溶けるぞ」
「わ、たべる〜」
 残暑とはいえまだ暑い――チョコが溶けるのも問題だ。
 美味しそうに笑顔で頬張りながら食べるエルレーンを微笑ましく見ているルーガ。
 食べ終えたエルレーンが次に目にしたものは――。
「おこのみやき! ねぎやき! 食べくらべる! 買って、買ってぇ!」
 お好み焼きの屋台で駄々っ子を発動するエルレーン。
「お好み焼きか‥‥」
 ふと、ルーガの脳裏にかつての依頼が思い起こされ、懐かしい思いになる。
「ん、いいだろう‥‥、お好み焼きとねぎ焼きを頼む」
「お好み焼きは何にするんだい?」
 そう――お好み焼きは幾つかの種類が存在する――店主は色々と説明するが――。
「全部欲しい! 」食べ比べる!」
「お嬢ちゃん、嬉しいけどよ、食べきれるのかい?」
 全部と言いはるエルレーンに屋台のオヤジが言う。
「う〜」
「さすがに私も全部は無理だぞ」
 能力者と言えども一部を除いていは普通の人と変わりはない。
「うっし、そまで行ってくれるならこうしよう」
 二口サイズのミニサイズで各種のお好み焼きを焼く親父。
「これで食べ比べできるな!」
「すまない‥‥」
 幾つもの種類が入ったお好み焼きとねぎ焼きを受け取るルーガ。
「なに、いいってもんよ!」
 サムズ・アップした屋台のオヤジを背に落ち着いて食べれそうな所へ移動するエルレーンとルーガであった。
 
「いらっしゃいです〜」
 射的の屋台の手伝いをしているのはアクア・J・アルビス(gc7588)。
 早く手伝いがわらないかなー と考えいてが、楽しく手伝えば苦にならないと思い、手伝っていた。
「惜しかったです〜」
 射的を外した小さな子供に代わりに煎餅を渡すアクア。
 小さな子なので普通のお煎餅だ。
「残念でした〜」
 高学年や中高生といった子供たちには――。
「辛っ」
「ロシアン煎餅なんですよ〜」
 といった具合に、食べれるレベルで調整されたロシアンルーレットな煎餅を渡してた。
 
 しばらくすると、屋台の休憩時間になって自由行動できるようになったアクア。
「セシリーさーん! こんばんは〜!」
「こんばんわ、アクアさん」
 お酒を片手に社務所で休憩していたセシリーに会いに来たアクア。
「ちゃんと規則的なせーかつしてるですか〜?」
「あはは‥‥これが必須だけどね」
 お酒を掲げるセシリー。
「飲み過ぎはだめですよ〜」
 アクアはセシリーの身を案じているようだ。
「気をつけるよー‥‥それは?」
「お酒なんですよ〜一緒に飲みませんか〜?」
「お言葉に甘えて‥‥」
 互いに酒をつぎ飲むセシリーとアクア。
「‥‥なんですよ〜」
 酔うと甘え上戸なアクアと色々な話をするセシリー。
「お、楽しそうだな」
「あ、エカテリーナさん、はじめましてですー」
「ん、はじめましてだ‥‥えーと」
「アクア・J・アルビスです〜。モココさんの、彼氏のクラフト、姉です〜」
「ああ、なるほど」
「‥‥グラップラーのセシリーです」
「はじめまして だ。エースアサルトのエカテリーナだ」
 実のところ初対面なセシリーとエカテリーナであった。
「これどうぞ〜」
 アクアが差し出したのはロシアン煎餅。
「ん、酒のつまによさそうだな」
 どうやら辛いのに当たった様だが、酒のつまになるようだ。
 こうして、アクア、セシリー、エカテリーナと三人で飲み会が続く――。
「そろそろ、休憩時間が終わるのでもどるのですよ〜」
「お疲れ様〜」
「お疲れだ」
 ちょっと頬を赤くしたアクアは二人に見送られて屋台の方へ戻っていた。
 
 
 さて、櫓の下では人溜まり――主に子供だができていた。
「ぐぎゃ、ぐぎゃ」
 そう、恐竜スーツを着たミリハナクが子供達に囲まれている。
 その愛らしい、恐竜の姿が子供達に受けたようで一躍、人気者だ。
「ぐぎゃ、ぐぎゃ」
 うでにぶら下がる小さな子を腕を上げてぶら下げるミリハナク。
 (AAとしての力もありますしね)
 勿論、子供に囲まれているだけではない――。
「おー!」
 違法駐車とおもわれる車両を難なく移動させる光景に皆が缶たんの声を上げる。
 子供たちをあやし、仕事をする姿は彼らの目にHEROと写っても差し支えないだろう。
 
 
 その近くでは灯籠流しの灯籠ぼ作成を終えたエレシアが屋台を巡っていた。
「あ‥‥セシリー‥‥」
 セシリーを見つけたエレシア――着ている浴衣はエレシアが渡した浴衣だ。
「エレシアさん、こんばんわ」
「‥‥一緒に‥‥どう?」
「いいよっ」
 笑顔で即答するセシリー。
 セシリーは一緒に屋台を回る提案をエレシアから受けて一緒に回ることにした。
「あ、あイカ焼きだねっ」
「ん、美味しそう‥‥」
 イカ焼きを買って食べ歩く二人。心なしか楽しそうだ。
「ん‥‥」
「あ、そこっ」
 途中、金魚すくいを楽しむ二人、エレシアが金魚を救うのを楽しそうに見ているセシリー。
 エレシアは金魚を10匹捕まえることに成功した。
「半分こ‥‥」
「ありがとうっ」
「ほらよっ」
 半分の5匹をセシリーにあげるエレシア。屋台の旦那から金魚を受け取るセシリー。
 金魚すくいを離れた二人は次の屋台へと向かう。
 りんご飴を買って色々な屋台をめぐる。
「ん‥‥あたった」
「すごい、すごいっ」
 射的では当たりづらい的を当てるエレシア。対してセシリーは苦手のようだ。
 褒められ、恥ずかしそうにするエレシア。そんな、微笑ましい光景が続く。
「ちょっとお祭りの本部に呼ばれたから行くね」
「ん‥‥ばいばい」
 トラブルなのか――お祭りの運営本部から呼ばれたセシリーは名残惜しそうにエレシアに別れを告げる。
 
 
 セシリーとエレシアが回っていた頃。
「ちょいと、店番手伝ってもらえませんか?」
「ん、いいぜ」
 焼きそば屋を手伝っていて、エプロンをしていた御守がエカテリーナへ声をかけ、それを快諾する。
 率先してヘラを使って焼きそばを炒める御守、エカテリーナは具材の用意やパックへの詰め込を行う。
「焼きそば2つですね〜」
 御守が注文を受け。
「おまちどう」
 エカテリーナが渡す。そんなコンビネーションで屋台を切り盛りする二人。
「こういうのは苦手ですか?」
「ん、余り慣れないな‥‥あたしは――」
 余り誰にも話したことなのない過去を話すエカテリーナ。
「そうだな――アレぐらいの歳には銃を持って戦場に出ていた」
 エカテリーナの視線の先には小学生らしき子供が。
「あの年ぐらいには――祖国の軍隊でテロ屋や暴徒を相手にしていた」
 次の視線の先には大学生ほどの男。
「あたしは知らない――『日常』って言う奴を。只々、殺し合いするのがあたしの『日常』」
「ま、こういうのも悪くはないな」
 最後に照れるような表情のエカテリーナ。
 エカテリーナの過去の語りをじっと聞く、御守。
「オレは戦場ん中より、子供と戯れてたり、こういう中のエカテリーナさんのが見てて好きですけどね〜」
 そんな言葉かける御守。
「ま、そういうのも悪くは‥‥ないな」
 まんざらではない答え方をするエカテリーナ。
「今は戦うしかないですけど、もうちっとマシな世の中になったら
そんな穏やかな生き方もアリなんじゃないですかね」
「そうだ、な」
 何かを考える表情のエカテリーナ。
「ま、本人が納得したカタチが一番ですからね、そこはエカテリーナさん次第、と‥‥」
「確かにだ‥‥」
「さ、張り切って頑張りましょう〜」
 空気を切り替えるように明るい声で言う御守。
「うし、頑張るか!」
 その声に応えるように腕まくりするエカテリーナ、こうして二人で屋台を切り盛りしていく。
 
 
「やっほー。スーパーボールすくいだよっ」
 明るい、明瞭な声が祭りの喧騒に負けずに響く。
 声の主は――アリスだ。
 リズとともに櫓の設置を手伝った後、アリスはスーパーボールすくいの手伝いをしていた。
「嬢ちゃん、元気いっぱいだな! ほれ!」
 スーパーボールすくいのおやっさんがアリスに冷えたサイダーを渡す。
「ありがとー‥‥ん、冷えて美味しいっ」
 昔ながらのビー玉を押し出すラムネ瓶を器用に開けて飲むアリス。
「あ、やりたいなー」
「あ、僕もー」
 子供たちがやってくる。
「はーい、君たち遊ぶ?」
「うん!」
 飲み終えたサイダーを置き、明るく元気に接客するアリス。
 アリスの手伝いは続く。
 
 
「よっ」
「あ、追儺さんっ」
 トラブルの対処が終わったセシリーに声をかけるのは追儺。
「今、暇か?」
「うん、暇だよっ」
 セシリーを誘う追儺、笑顔で答えるセシリー。
 連れ添った二人は屋台や出し物を見て回る。
 心地良い沈黙が――静かさが二人を包む。
 そこに流れてきたのは太鼓と囃子の音。
「お、盆踊りか‥‥」
 子供に集られている恐竜のきぐるみの横では人々が盆踊りをしている。
「セシリーは初めてか?」
「うんっ」
 見よう見まねで盆踊りをするセシリーとそれを微笑ましく見る追儺。
 そんな、時間が流れていく。
 そして――。
「それじゃ、そろそろ」
「ああ、またな」
 追儺と別れるセシリーだった。
 
 
 花火が打ち上げる――。
 打ち上げているのは花火師とそれを手伝う藤子だ。
 花火師の支持に従って起動させていく。
 
      ドーン!
 
 それにより、夜空に大輪の花とも言える花火が花開く。
 それを見つつも、次の花火の打ち上げの準備をする。
 次々と上がる花火。そして、そのたびに上がる歓声。
 花火による一時の時間を皆が過ごしているのがわかる光景だ。
「ふふ、夏らしくていいわね〜」
 そんな様子に藤子も満足気だ。
 
 一段落ついたところで、社務所のシャワーを借りて化粧直しした藤子は屋台をめぐる。
「いいわね〜」
 藤子が目についたのはUNKNOWNの屋台。
「お、いらっしゃい」
「そうね、おすすめをもらえるかしら」
 そう言って出てきたのは「クィーン・エリザベス・2世」、ソーダベースにカンパリとグレナデン・シロップの赤い色が美しい色合いを奏でている。
 静かに、カクテルを嗜む藤子。
「よかったわ」
 そう言ってUNKNOWNの屋台を後にする。
 
「ふふっ、頑張ってねー」
「ええ、がんばりますよ〜」
「ああ、頑張るぜ」
 サイダー片手にめぐる屋台、御守とエカテリーナが切り盛りしている焼きそば屋を立ち寄ったり。
「ちょっと、ピリ辛ね〜」
「あたりなんですよ〜」
 アクアの手伝っている射的屋を訪れたり。
「ぐぎゃ、ぐぎゃ」
「可愛い、恐竜さんね〜」
 恐竜の着ぐるみをきて手伝っているミリハナクを愛でてみたり――。
 キラキラとした時間が流れる――。
 
 
 少しさかのぼり、花火が上がるその前――。
 花火がよく見える境内で一番高いところ――。
「須佐さん」
「リズか」
 花火を見に行こうと思ったリズが須佐を見る見つける。
「隣‥‥いいですか?」
「ああ」
 紺の浴衣をきた須佐の隣に金魚柄の浴衣を着たリズが座る。
 しばし無言‥‥。
「あ、あの‥‥」
「ん‥‥」
「私は‥‥結局、傭兵になりませんでした‥‥けど、メイさんが、私のために‥‥ために‥‥」
 リズが傭兵にならず、代わりにメイが傭兵になり、そして負傷したことを嗚咽で詰まりながらも話すリズ。
「自分のせいで、ああなってしまったメイさんには‥‥幸せに暮らして欲しいです‥‥」
 ボロボロと泣きながら語るリズを須佐は優しい目で見る。
「そうか‥‥頑張れ」
「はいっ」
 優しく、声をかける須佐。立ち上がるリズ。
 
 
 花火が上がるその時。
「アリスさんっ」
「リズっ」
 化粧直しをしたリズがアリスを見つけ、嬉しそうに声を掛け、アリスも嬉しそうに答える。
「リズ、一緒にまわろっか?」
「うんっ」
 二人、仲良く――姉妹のように手をつないで回る二人。
 心からアリスと一緒の祭りを楽しむリズ。
 花火が打ち上げる――。
 夜空を花火という大輪、の花が咲き、花火の音が、光が二人を包む。
「綺麗‥‥」
「うん‥‥」
 一瞬で咲き、散っていく花火に切なくなるアリスとリズ。
 二人は見上げる、夜空を。
 
 いつまでも続くかと思われた花火も終わる――それは、楽しい時間が有限であるかのように。
 
 
 一方――
 ヴァサーゴ達、三人も花火を見上げていた。
「‥‥一瞬にて、大きく咲けども‥‥散りゆく華‥‥美しい、けど…何処か、儚い‥‥」
 思わず、隣の冬無と麗華の手を離したくない、と言わんばかりにぎゅっと握る。
 無言で握り返す、冬無と麗華。
「‥‥何でも、ない。只、傍に居ること、確かめたかった‥‥」
 ヴァサーゴはそうつぶやき、言葉が闇に消える。
 
 そして、幾程か時間が流れた後――灯篭流し開始の放送が流れる――。
 
 
 ●逝く者たち、残された者たち――灯篭流し。
 
 残された人々の想いをのせて流される灯籠――。
 
 エレンシアは希望者から流される灯籠に絵付けをする作業をしていた。
 子供から大人、老人まで――故人を偲び、明日への平和を祈り――朝顔や季節柄の絵を描く。
 嬉しそうに、または、大事に神妙に受けとった人々は思い思いの言葉を書いて流す。
 
 灯籠が流れていく様子を無言でに見ているのはルーガとエルレーン。
 
 支え合いながら灯籠を流しているのは冬無、麗華、ヴァサーゴの三人。
「‥‥数多の灯篭、流れる様‥‥美しい‥‥」
 麗華の腕に抱きついている冬無。
 流れる様子に見とれている三人。
 
 
「――リズ」
 リズとアリスが灯篭流しをしている――アリスが灯籠を流すとき――語りはじめた。
「兄のように慕っていた人‥‥」
 とある依頼で出会った、兄のように慕っていた人物。
 バグアに改造された彼を、助けたかったけれど助けることができなかったこと。
 静かに、アリスの言葉を聞くリズ。
「っ‥‥」
 思い切り凹んで自己嫌悪して、でも、泣かないって誓ったから泣くのだけは我慢してたことを語るアリスの目に――。
 そして不意に抱きしめようとするアリス――。
「‥‥ごめん。このこと、誰かに打ち明けたの、今日が始めてだから‥‥なんか、ちょっと苦しくなっちゃって。ちょっとだけ、おねーちゃんに胸を貸してもらえるかな‥‥?」
 堪え切れずに涙をぽろぽろ流し、嗚咽混じりに言うアリスに無言でぎゅっと抱きしめるアリス。
 声が、今まで我慢してた感情が溢れ出し――リズに抱かれてくぐもった泣き声が聞こえる。
「‥‥」
 リズは、ぎゅっと抱きながらアリスの頭をなでる――優しさを込めて。
「すぅ‥‥すぅ‥‥」
 溜まりきった感情を溢れだし、抱きしめられ頭をなでられ安心したのか――アリスはリズの胸で寝ている。
 アリスが起きるまで、抱きしめているリズだった。
 
 ●祭りの後
 祭りが――夏が終わる。
 
「さ、片付けまでが祭りですよ〜」
「ああ‥‥」
 御守はエカテリーナと共に灯籠の回収を行なっている。
 色々な想いを込められた灯籠――。
 
 
「最後くらい頑張って働くですよー」
 屋台の撤収を手伝っているアクアは仕上げとばかりに張り切っている。
 
 黙々と散らかったゴミを拾ったり、後片付けをするセシリーとエレンシア。
 夏が『終わる』――。
 
 
「セシリーちゃん、一晩どう?」
「うん、いいよ‥‥」
 片付けが終わり、祭りの余韻か切なそうにしていたセシリーに声を掛ける藤子。
 二人の影が――夜の街の帳に消える――。
 
 
 街頭に照らされ伸びる4つの影――。
「はぁ〜楽しかったでうね♪ うふふふ〜♪」
 ヴァサーゴの腰を抱き寄せながら、戯れている冬無。
「‥‥皆で、色々‥‥楽しかった‥‥」
 冬無に腰を抱かれ、自らも抱きつくようにしているヴァサーゴ。
「お祭り、よかったですわね」
 ケビンを抱きながら帰る麗華。
 
 
「楽しかったねー」
「ああ、また、いけるといいな‥‥」
 手をつなぎ仲良く帰るエルレーンとルーガ。
 
 
「楽しかったねっ!」
「うん」
 仲良く、手をつないで帰る影――リズとアリスの二人。
 
 
「お祭りが成功してよかったですわ」
 恐竜の着ぐるみを脱いだミリハナクが踵を返して帰る。
 
 
 
                 夏が終わる――。
 
 
        夏が終わり、秋が去り、冬が訪れ、『春』がやってくる。
 
        楽しかった思い出を何時までも心に――。 



 
 夏の終焉 了