タイトル:【MO】希望の灯火マスター:後醍醐

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/01 16:52

●オープニング本文


 ●
 混迷を極める東オーストラリア。
 子供の強化人間が野生動物を狩り、食料庫を吹き飛ばす――。
 それらにより、東オーストラリアの開放地域での食料事情が悪化し逼迫している。
 ミル・バーウェン(gz0475)の持ってきた資材もKV用に改造されたばら積み船の為、当初よりも物資は少なかった。
 勿論それだけではない。
 バグア達が連れていかなった住民達――彼らにとって必要ないと切り捨てられた存在。
 多くは幼児と老人と素行の悪い人間だった。
 そう、十分に有った食料も奪い、奪われるどころか湯水のように浪費する様であった。
 解放者であるUPCはそんな彼らに救いの手を差し伸べざる得なかった。
 それはまるでバグアによる焦土作戦の様相を呈していた。
 
 ●
「各地で問題が発生――その上に不穏な話――」
 食料が底を突きそうになり開放地域では暴動を起こしかねない空気が漂う。
「しかもだ――」
 一枚のビラを差し出す――。
 それは、傭兵たちが強化人間との子供との対峙してい場面で有ったが――意図的に鎌が消されている。
「子殺しのULTにUPCねぇ‥‥」
 親バグア地域だけでなく、開放した地域にまでもビラが撒かれている。
「いやらしい手を使う‥‥」
 親バグアにとってはUPCは侵略者でしか無いのだ。
「それに、だ」
 情報によると各地のシェルターではUPC等へ対抗するために強化人間の為の募兵が行われているとの情報だ。
「まるでアレだな――所謂、一つの紛争地域だな」
 バグアにとっては人は道具に過ぎず、万が一敗北しても新バグア派と反バグアとの火種を残しておくつもりのようだった。
「とにかく、炊き出し用の物資が欠乏しつつあり、毎日の炊き出しが難しくなりつつ有る――特に食料庫を失ったのが痛い」
「申請はしているのですよね?」
 申請していればそろそろ到着してもいいはずだ。
「あぁ、『アレが吹き飛んだ』なんて情報が入った直後にな――そろそろのはずだ」
「でしたら、特に問題はないのでは?」
 そう、普通であれば――
「基地の襲撃があったりとして、民間の協力者が退避してしまってな――届いたとしても手が回らない」
「そう言えば、いくつかの慈善団体は西に避難したようですね」
「仕方ない。命あっての物種だ。彼等を非難することは出来ない」
 戦火の為、活動する人間が著しく減少してしまったのだ。
「彼等に頼もうかと思う――特に軍人が敬遠される所なら、彼等の出番だ」
「どちらかと言うと慰問に近そうですけどね」
 目を落とす資料には戦災孤児院と書かれていた。
 

●参加者一覧

風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
カズキ・S・玖珂(gc5095
23歳・♂・EL
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN

●リプレイ本文

 ●
 見捨てられた孤児院
 悪化する戦況に民間慈善団体はよく言えば西オーストラリアへ退避、実際には逃げ出してしまった。
 辛うじて食料の補給があるもののそれも心許ない。
 孤児院から出されたSOSは軍を経由し、ULTへと依頼された。
 
 傭兵たちを含めた何台かの車列が孤児院へ向かう。
 そう、ソレは当座を凌ぐ以上の食料と物資を満載させて。
「酷いな‥‥」
 カズキ・S・玖珂(gc5095)の車窓から見えるのは爆発のクレーター。
 200m四方ある倉庫を跡形もなく消し飛ばした後にできたクレーターだった。
「失策の罪は償わねばならんのじゃ」
 カズキの隣にいた美具・ザム・ツバイ(gc0857)は車窓から見えるソレを見て言葉を呟く。
 (‥‥例えそれを口にすることが出来なくとも、謝罪も、伏して許しを願う事が許されないとしてもじゃ。だからこそ、ここに来た‥‥)
「希望を、光を、なのじゃ」
 (ボランティアも民間人の支援団体も見捨てたからこそ来なければならなかった。誰もが希望を失った最後の戦場を戦うことこそが能力者の使命なのじゃから)
「美具‥‥」
「カズキ‥‥」
 心痛めている美具にそっと抱きしめるカズキ。この一時だけでも忘れて貰おうと。
 
「最近の子達はどんな感じなのかなー?」
 クラフト・J・アルビス(gc7360)はオーストラリア自体から長く離れていたので、最近の子のことが気になる様だった。
 そう、クラフトも気になるほどにこの国を、オーストラリアを長く離れざるをえなかったのだった。
「過酷な世界で生きる子供達。少しでも彼らに笑顔を届けてあげたいものね」
 過酷なオーストラリアで生きている子供達に僅かな時でも笑顔にしたい、その為にも出来ればこの状況を終わらせたいと思っている。
「腕の揮い甲斐の有る現場よね」
 百地・悠季(ga8270)は大変だからこそ、子供相手なら、得意中の得意という事で色々受け止めて対応しようと考えていた。
 
 こうしてトラックが目的地へと着く。
 
 ●朝
 先ずは、物資の積み下ろしを行う傭兵達は恙無く終わる。
「思った以上だな‥‥」
 カズキの眼前には生活の悪化を物語る惨状が目の前に広がる。
 傭兵をしている以上、見慣れた戦地の光景ではある。しかし、決して慣れることはなかった。
「俺は俺の仕事をするだけだ。救えるだけ、救ってやる」
 サングラスを外し、懐に入れ、乾いた空気を吸って感傷を払う。
 傭兵達は各々動き出した――。
 
「この分だと身の回りの事もやった方が良いからねえ‥‥」
 頑然に広がる状況――あまり良くない状態を見て思案しているのは百地だ。
「まずは‥‥日が上がっている内に洗濯かな」
 子供達の所へ向かう百地。
「こんにちわ!」
「お姉ちゃん、だーれ?」
 百地を見た子供達がキャッキャと話しかけてくる。
「あたしは」百地・悠季。ULTの依頼で手伝いにきたの」
「ありがとうございます。私はメアリー・アン。この子達の世話を見ています」
 そんな子供達を相手しながら名前を、そして手伝いに来たことを子供達の中で一番の年長で17歳の少女に話をする。
 どうやら、支援の人々が撤収したことによって世話を見ることに支障が出てきた様だった。
「洗濯をした方が良さそうね。洗濯機は借りれるかしら?」
「あ、はい。古いやつですが‥‥」
 旧式の洗濯機を借り受けて洗濯を始める百地。
「こんだけもあって、中々洗濯が追いつかないのです‥‥」
 目の前にある洗たく量は膨大だ。これをアン一人では到底捌ききれなかった様だ。
「そうねぇ‥‥」
 大量に積まれている洗濯物と洗濯機を見比べ――明らかに処理オーバーな状況だ。
 日用品の物資から桶と洗濯板を幾つか、徐ろに取り出した。
「これは洗濯板、こうやって使って洗濯するのよ」
「うんしょ、うんしょ」
 百地は何人かの子供に洗濯板と桶の使い方をレクチャーして洗濯をしていく。
 皆と一緒になって洗濯をする百地。楽しく会話しながらのお陰か、あれほど有った洗濯物も見る見る間に減っていき――。
「干すの手伝ってもらえないかな?」
「うん!」
 百地は能力者である利点を生かして洗濯物を一気に運び、子供達と一緒に干していく。
「おねーさんが、いろいろ相談にのるよ?」
「えっと‥‥」
 百地は年長組の女子達に女性ならではの相談を受けることにした。
 共に洗濯をしていた事もあり、日常の相談から女性ならではの色々な相談を受けて答えたり聞いたりした。
「聞いてくれてありがとう!」
 相談し、話を聞いてくれた子供達の表情は明るい――彼女たちには相談できる大人が必要なのだ。
 晴天に風を受けてはためくシーツや、服等の洗濯物。そして、子供達の歓声、清々しい光景だ。
 
 一方、美具とカズキも子供達の所へ向かうが、互いの適性を鑑みて個々に活動することになった。
「おねえちゃん?」
 年少組の子供だろうか、エアーソフト剣を持ち眼帯をした美具を珍しそうに見ている。
「美具・ザム・ツバイじゃ。お話に来たのじゃ」
「お話? どんなの?」
 名乗った美具の話に興味を示してキラキラとした目を向ける子供。
 他の子供達も美具を見つけて、集まってくる。
「そうじゃな。色んな所のお話を‥‥と、その前にじゃ」
 と、お菓子を取り出す美具。
「お菓子だ―!」
「さあ、皆の分は充分にあるから押さずに並ぶのじゃ。‥‥うわっ」
 お菓子を配ろうとする美具に群がる子供達、さすがの傭兵であっても110cmの美具では子供達にもみくちゃにされる。
「‥‥行き渡ったようじゃな‥‥」
 もみくちゃにされ、少しお疲れ気味の美具であった。
「それでは‥‥」
 そして、子供達を見渡し、手にお菓子を持ち美具を中心として円陣のように囲む子供達を確認すると話を始める。
 語る内容は傭兵として各地へ行った時の世界の様子、人々の生活。
 そして、珍しい光景や食べ物、等などオーストラリアにいては知ることが出来ない沢山の事を面白おかしく、また、楽しく語っていく。
「えっとー‥‥」
「そうじゃな――」
 もちろん、子供達も疑問に思った事を、興味の有る事に質問を投げかけ、美具もえ答えていく。
 
「こんにちわ」
「こんにちわー」
 風代 律子(ga7966)も子供達に挨拶をすると洗濯や話を聞いている子供達以外から挨拶が返ってくる。
 ビーチボールを持った風代を珍しそうに子供達が寄ってくる。
「これは?」
「これで遊びましょ」
 ビーチボールを使い、ビーチバレーのように遊ぶことを提案する風代。
「わーい! あそぼー!」
「それじゃあ、お姉さんはこっちね」
 班分けをする子供達、風代は人数の少ない班に入れてもらって一緒に遊ぶ。
 白熱する子供達の遊び。無論、風代は手加減することを忘れない。
 時折、班を変えたりしたりして風代は色んな子達と共に遊んでいた。
 
「さーて、昔の俺とどっちがすごいかなぁ?」
 元いたずらっ子(今も)なクラフトは妙な対抗心を燃やしていた。
「こんにちわー」
 何事も挨拶。と言う事で打ち解けるためにも子供達の所へ行って挨拶をする。
「お兄ちゃんだれ?」
 挨拶してきたクラフトを気にかける男の子。女性陣と違って少し警戒が有るようだ。
「クラフト・J・アルビスって言うんだよー? 君はー?」
 明るく、そして元気に答えるクラフト。
「僕、カール。クラフトお兄ちゃんはどうしたの?」
「みんなと遊びに来たんだよー」
 依頼だ、なんだというより、子供にはこういった方が分かりやすい。
「みんなー」
 カールと名乗った子供が周りの子供達を呼ぶ。
「このお兄ちゃんが遊んでくれるって!」
 どうやら、カールが確認をして、安全だと思ったのだろう、その呼びかけに子供達がクラフトの元へ集まる。
「ねーねー、何して遊ぶのー?」
 ねだるように何をして遊ぶのか聞いてくる子供達。
「そうだねー‥‥ちょっと待っててね」
 移動し準備をするクラフト
「闇夜をかけ抜く一陣の風! 怪盗KJA見参!」
「すげー! すげ!」
 変装したクラフトの姿に興奮する子供達。
 傭兵の能力を生かしてアクションをして子供達を喜ばせるクラフトだった。

 ●昼食
「美味いぞ。食ってみな」
 カズキは手馴れていた手つきでパンとソーセージを焼き、キャベツの酢漬けを挟み込みホットドックを作る。
「おいし〜♪」
「うむ、美味しいのじゃ」
 ソーセージの焼き方が上手かったのかカズキの作ったホットドックは男の子達や他に人間にも好評だ。
 人だかりができてあっという間になくなる。
「お店できるよ!」
「ホットドック屋‥‥」
 大きいパラソルを挿したホットドッグの屋台でカズキがホットドックを作り美具が売る、そんな光景をイメージする美具。
「そんな時代が来るといいな‥‥」
 
 一方、百地も料理を準備していた。
 コンソメ風の雑炊を出していた。
「‥‥美味しい」
 百地と共に洗濯を手伝っていた子供達が一緒に食べている。
「これって‥‥」
 興味があったのだろう、百地に作り方を聞く子供もいた。
「それはね‥‥」
 作り方を教える百地。あくまでも百地達が居るのは一時的なモノ、だからこそ洗濯を、料理を教えていた。
 
 クラフトはカレーを料理していた。
 辺りにカレーの匂いが漂う。
「おいしそー!」
「美味しそうね」
 クラフトと遊んでいた子供達や風代と其の子供達がやってきた。
 午前中、動きまくった子供達は腹ペコだ。
「慌てない、慌てない」
「まだまだあるよー」
 がっつく子供を諌める風代とおかわりを注ぐクラフト。
 楽しいひと時がすぎる。
 
 ●昼
 子供達と協力して昼の片付けを終わった頃。
「缶蹴りする人このゆびとーまれ!」
 クラフトは缶コーヒーの空き缶を子供達に見えるように掲げる
「やるー!」
 子供達が続々とクラフトの元へ集まる。
「どこかなー?」
 鬼役になったクラフトは能力を使わず子供達を探す。
 隠れ場所を見つけたら目が合うまで見て、そこから走るクラフト。
「大人げなくてもはしーる!」
 また、クラフトが逃げる側になった時。
 隠れるが、そのまま簡易変装して堂々と気づかれぬように歩いて行って奇襲する。
「あ、おにいちゃん!」
 背丈が違うので直ぐにバレてしまう。
「ばれちゃったかー、みんな助けてー」
 こうしてキャッキャッと子供達と混じって遊ぶクラフトだった。
 
「何してるのー?」
「プールの準備よっ」
 熱くなるだろうと思って簡易プールを用意する風代。
「冷たいー」
 流石に一個では足りないので幾つかの簡易プールに入って遊ぶ子供達。
「きゃー」
「やったなー」
 最初はおとなしく浸かっていた子供達だが、いつからか水をかけっこして遊びはじめた。
「やったわねー」
 無論、風代も水をかけられるので子供達のようにかけ返す。
 涼し気な水音と子供達の歓声が辺りに響く。
 
 一方――
 不穏な動きを察知した美具が向かうと其処には暴徒がいた。
「ここから立ち去るのじゃ」
「‥‥大丈夫だ。あの姉ちゃんがなんとかしてくれるからな」
 暴徒に立ちはだかる美具と子供を落ち着かせているカズキ。
 穏便では済むような輩で無いと感じた美具は覚醒する、そしてそれを見た暴徒は――。
「傭兵じゃねぇか! 勝てねぇ! ずらかるぞ」
 唯の人の暴徒達は能力者である傭兵には太刀打ち出来ないと思い、直ぐに逃げ出した。
 こうして、安全は確保された。
 
 日が暮れる頃――洗濯物を片付ける子供達。楽しい一日もあと僅かだ。
 
 ●夕食。
 ハンバーグを用意する百地。
 風代や美具、カズキ、クラフトも手伝っている。
 もちろん、主役は子供達。
 手捏ねて形を整形している子供達と種を作っている傭兵達。
 因みにクラフトはこのハンバーグを利用したハンバーグカレーを予定だ。
 皆での共同作業――力をあわせて物事をする楽しさ、そして役割分担。
 楽しそうに作り、そして焼いていく。
「いただきまーす」
 皆で用意した食事――楽しい会話をしながらの夕食。
「うまくできたわね」
 楽しそうな子供達の顔を見渡しても持ちは想う。
 (あたし達がいなくてもやっていけるといいわね‥‥)
 楽しい時間はあっという間だ――別れの時間がやってくる。
 使い捨てカメラを取り出した風代は傭兵達と子供達との記念撮影を撮る。
 有ったときは違う、満面の笑みの子供達、それにつられて笑顔の傭兵達。
 この日は子供達にとって、傭兵達にとって忘れられない一日になるだろう。
 
 ぐずる子供達に送り出される傭兵達。来たトラックに乗って戻る――。
 トラックの中で子供達が見なくなり――カズキは美具に話しかける。
「お前は、ベストを尽くしてる。そこから先は神の御業だ。だから‥‥」
 カズキはその先の言葉が続かない。その言葉の無意味さ、救いようのなさに気づいてしまったからだ。
「これが戦争、なんだよな」
 敵を倒すだけでは終わらない戦争の後遺症、そしてとばっちりとも言えるこの現実は、何度もカズキを打ちのめす。
「‥‥終わらせてやる。一刻も早く」
 そう、心に誓いながら――。