タイトル:【MO】エリミー査問会マスター:後醍醐

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/17 08:10

●オープニング本文


 ●
 エリミーの部屋
「それ、手紙だ」
「ありがとう」
 前の依頼の後、傭兵から受け取った手紙を渡すエカテリーナ・ジェコフ(gz0490)、それを嬉しそうに受け取るエリミー。
 傭兵からの手紙をすぐに読みだすエリミーとその横で椅子に腰掛けその様子を伺うエカテリーナ。
 暖かな光がエリミーに差し込み、ゆっくりと時間がすぎる。
「‥‥頑張れ、か‥‥」
「ん、奴らしいな」
「うぅ‥‥」
「どうしたんだ?」
 突然、泣きだしたエリミーを心配するエカテリーナ。
 (‥‥あたしも丸くなったもんだな‥‥)
「嬉しくて‥‥」
「こいつで拭け」
 目をこすり、涙を拭き取るエリミーにテッシュを差し出すエカテリーナ。
「エリミー、お前はあたしみたいに一人じゃない。ガキ以外にもお前のことを思ってくれている奴も居るんだ」
「うん‥‥」
「だからな、『信じるんだ』人の想いを」
 (‥‥このクソったげなオーストラリアでせめてもの救いを‥‥)
 
 司令官室――
「‥‥なんて言った?」
「ですから、エリミーちゃんを子供達と合わせてあげたいのよ」
 重厚な机に椅子に座った基地司令とそれに対峙するのは基地司令の妻。
 妻の言葉を聞き返す基地司令。
「孤児の子供達は親代わりであったエリミーちゃんに会いたがっているのよ」
 どうやら預けられていた孤児の子供達と合う機会が有ったようだ。
 その妻が曰く、「子供達が会いたい」と言ったらしい。
 『誰か』の手引きがあったのだろう――そうとしか考えられない。
「しかし、だな‥‥相手は強化人間だ。早々と合わせることは出来ない」
「強化人間じゃなきゃいいんでしょ! 成功したっていう話もあるみたいだし」
 どうやら、強化人間から人へ戻った事例を子供達と合った後に調べたようだ。
 誰の入れ知恵だ? 司令は考える。
「尚更無理だ。強化人間を人にもどす? 前線で戦っている兵士たちになんて言うんだ? 可哀想だから助けた?」
 前線の人間は危険と隣り合わせで戦っている――倉庫で子供の強化人間の自爆騒ぎがあったばかりだ。
 すんなり行くとは考えられない。 少なくとも、前線の兵士や身内を殺された人間からしてみれば。
「そうよ! 可哀想じゃない! それに、何も悪いことをしてないって言うじゃない!」
 勝手な、感情だけの意見だと基地司令は思い、ヤレヤレといった態度を取り妻の言葉を否定するも尚も食い下がる妻。
「もう! 解ったわ!」
 憤りながら退室する妻の背中を見ることしか出来なかった基地司令だった。
「誰だ‥‥一体」

 ●
 それから――基地は騒がしくなった。
 基地司令の妻は――賛同した他の兵士の妻とともにエリミーと子供達の対面させるように基地内で訴えかけていた。
 もちろんそれは通過点――出来るのであれば人へと戻したいという思いも有る――が。
「強化人間――敵じゃないか」
 前線の人間から言わせれば、強化人間は『敵』だ。特に最近は強化人間による自爆攻撃による被害が出ている。
 オーストラリア東部――それは、バグアの支配地域。侵攻された人類が侵攻する側に立つ土地。
 敵支配地域での侵攻は――過去の事例をとってもゲリラ攻撃に合いやすい、それは人類側が侵攻側であっても。
 人類側の反バグア派、バグアと共にする親バグア派は互いの憎悪が増幅している土地、それがオーストラリア東の現状だ。
 占領した地域では反バグア派の自警団により親バグア派の人間が街頭に吊るされ、物を、命を収奪する事態だ。
 そんな、最前線に立っている兵士たちが直ぐに納得するわけではない。
「彼女は――」
 知らされている事実――エリミーはただ、子供達の世話を見ていただけと言う話をする。
「善良な強化人間ね――いれば見てみたいもんだ」
「えぇ。いいわよ」
 
 
 ●
「クソッ 軍の面目丸つぶれだ」
 妻の起こした行動に苛々を抑え切れない基地司令。
「仕方がない――」
 
 こうして、基地司令の妻と傭兵の立ち会いのもとエリミーと子供達との再会――そして、査問会が開かれることになった。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN

●リプレイ本文

 混迷を迎える東オーストラリア。
 その地で、一人の少女の命運を掛けた出来事が始まった。
 
 ●再会
 警備の配置に付く前に物思いに耽る傭兵がいた。
 「んー、どんな人かなー」
 クラフト・J・アルビス(gc7360)は会ったことが無い強化人間、エリミー・アリューシンについて考える。
 (‥‥でも、今までの強化人間達には悪じゃない人もいた。彼女もそうなのかな‥‥)
「まぁ、実際に見ないと、ね」
 クラフトは思案しながらも警備場所に向かう。
 
「できることなんて高が知れてますけど‥‥やらずにいるなんては無理ですよ」
 御守 剣清(gb6210)はこの査問会に希望を託す。
 
 基地の一室。
 ちょっとした会議場ほどの大きさがある部屋には遠巻きに警備している傭兵達と司令官の妻。
 そして、エリミーがいた。
「そもそも、子供達が会いたいって言ってる以上、悪い人じゃなさそうだけんねー」
 そう、この再会は子供達の願いによって叶えられたものだ。
 クラフトはそんな事情を知り、エリミーを見て様子を伺う。
 開け放たれる会議室のドア。其処からは不安げそうな子供達の表情が見えたが――。
「エリミーお姉ちゃん!」
「!?」
 一人の子供がエリミーの存在を確認し、明るい表情になり叫ぶと、他の子供達の表情も明るいものになった。
 そして、その声と子供達をみて涙ぐむエリミーに駆け寄る子供達。
 子供達の輪ができ、その真ん中にエリミーがいると行った形になった。
「やっぱり、嬉しそう‥‥」
 (偽りの光景には見えない‥‥心から嬉しそう‥‥)
 その様子を静かに見守っていた風代 律子(ga7966)。そして、再会できた事にエリミーを知るものとしては嬉しさを禁じ得ない。「本当に好きそうだねー」
 クラフトもまた、再会を嬉しそうにしているエリミーと子供達を見て偽りを感じていなかった。
 (良いのもいれば、悪いのもいる‥‥でも、見極めなきゃ)
「‥‥」
 再会の様子を見ていた狐月 銀子(gb2552)は想う。そして、初めて遭った『あの時』の――エリミーを思い出す。
 (人間にだって悪人も善人もいる、それはバグアだって同じじゃないかしらね)
「お姉ちゃん?」
 そんな、狐月の元に子供達がやって来る。どうやら、子供達は狐月の顔を覚えていたようだ。
「お久しぶりね」
 そんな子供達に挨拶をする狐月――そして、質問を切り出す。
「君達のママの名前はちゃんと言える?」
「エリミーお姉ちゃんだよ!」
 さも当たり前のように口々に答える子供達――その言葉には一つの迷いもなかった。
「逢えて、嬉しい?」
「もちろんだよ!」
「お姉ちゃんに会えなかって、寂しかった‥‥」
 続いての狐月の質問にまた、子供達が口々に答える。
 (本当に――逢いたかったんだ)
「バグアってしってる?」
「知らないよー」
「なにそれ?」
 どうやら、子供達はバグアのことを知らないらしい――キメラは獣と同じで危ない存在だと言うことぐらいだった。
 バグア占領地域で住むということはキメラの危険について知っておくことは一般的だ。
 エリミーは子供達には外で遊ぶ際に気をつける事として教えいていただけの様だった。
「タッチ!」
 屈んで子供達と話している狐月に悪戯をする子供がいた。
「やめなさい! ‥‥すみません、狐月さん」
「子供のした事だから、気にしてないわよ」
 そんな子供を母親の様に叱り、狐月に謝るエリミー。
 狐月は子供のやり取りを見て、かつてのエリミーと子供達の生活を垣間見た。
 (いつも、ああしてたのかな)
「‥‥」
 その様子を見ていたクラフトは確信する。
 (子供のことを思えば叱れる‥‥付け焼刃じゃ出来ない)
 エリミーの周りできゃきゃと遊ぶ子供達。無論――狐月の様に子供達が会ったことのある傭兵たちの元へも向かう。
「お兄ちゃん!」
 御守の下に子供達が集まる。
「やぁ、こんにちわ〜」
 陽気に挨拶する御守――御守もまた、『あの時』遭った子供達を覚えている。
「元気か?」
「うん!」
 と、子供達の頭を撫でる御守――それを嬉しそうに受ける子供達。
「あそぼー! 肩車がいい〜」
「あ、御守さん。すみません。 ダメでしょ」
「エリミーさん、いいですよ。 よし!」
 子供を叱るエリミー、そして、御守のことを覚えていたようだ。
 ねだる子供に肩車をしてあげる御守。声を上げて喜ぶ子供。
「いいなーいいなー僕もー!」
 そんな様子を見ていた子供達が次々とねだる――そんな子供達を次々と肩車をする御守。
 子供をあやす様子はまるで親子のようにも見えた。
「あー。お姉ちゃん!」
 同じ頃に風代のところにも子供達がやってくる。
 ニコニコと子供達を見ている風代。
「こんにちわ」
「こんにちわー!」
 風代の挨拶に元気よく、返す子供達。
 他愛のない話を子供達とする。何が好きなのか、好きな食べ物や――。
 子供達との交流を図る傭兵たちであった。
 
 ●接触
 エリミーと面会する傭兵達。
 面会場所は仕切られており、プライバシーに配慮された作りになっていた。
 先ずは――風代がエリミーと面会することになった。
「こんにちわ。お久しぶり」
「お久しぶりです」
 挨拶を交わし、他愛の無い会話をする二人。
「ねぇ、エリミーちゃん。あそこにいる前は――どうしてたの?」
 風代がエリミーに子供達の世話をする前のことを聞く――。
「‥‥強化人間にされてすぐに――戦場に――前線に連れて行かれました」
「なんで脱走したの?」
「‥‥怖かったから――それに――人を傷つけたくなかったから。だから、すぐに逃げ出したの」
「‥‥脱走して無事だったのね」
 普通に考えれば――脱走すれば、処分は免れない。だが、こうしてエリミーはここにいる。
「‥‥バグアの‥‥お婆さんが助けてくれて『資源の無駄遣いは感心しない』って」
「それから、あそこで子供達の世話をする事になったの。最初は塞ぎがちな子供達だった――でも、徐々に様子が変わってきた。それから、心なしか配達される食料も良くなってきたの‥‥よりよい物を、と申請は下たけど――今となったら‥‥」
 きっと、『計画』の為に様子が良くなったから食料が良くなったのかもと、苦悩するエリミー。
「『計画』は本当に知らなかった?」
 エリミーの眼を見て、真剣に問い質す風代。
「はい。ただ、子供の世話を――見ること‥‥それだけを求められてました」
 それに対してエリミーは目をそらさずに答ええる。
「そして、あの日の数日前――何時もとは違う連絡があって‥‥」
 そう、もしかしたら子供達が運ばれていたかもしれないという話だった。
「強化人間にさせられ、戦場から逃げ出し、子供達の世話をみて――今に至る。『計画』の事は知らなかった。そうよね?」
 エリミーの語った話を纏め、確認する風代。
「はい。もし――知っていいれば、到底、あの子達の世話ができなかった」
「だから――知らされてなかったと」
「ええ‥‥」
 少なくとも、あの依頼の時に逢い、こうして会話をしている風代にとっては納得の行く答だった。
「頑張るから、頑張ろうね」
「はい」
 こうして、風代とエリミーの面会が終わる。
 
 次は――狐月だ。
「元気・・・?」
「はい‥‥手紙、ありがとうございます」
 躊躇いがちに挨拶をする狐月と手紙の感謝を述べるエリミー。
「届いたんだ」
「はい‥‥エカテリーナさんが、持ってきてくれました」
 敵には残虐と言っていいかもしれないが、またこれもエカテリーナの一面性なのかもしれない。
「そっか‥‥」
 手紙では書き切れなかった話をお互いにする――。
「厳しい事になるかもだけど。あの子達の為にバグアを捨てられる? 完全な決別が前提になるわよ? 中立が許される程甘くも無い程に――」
 厳しい表情で話を切り出す狐月――それは、エリミーをそして、エリミーの子供達を想って。
「あの子達のためなら――私は。『あの時』もし、あの子達に何かがあれば、私は貴方達と戦い――あの子達と共に自決してたかもしれません。あの子達を守るために」
「覚悟――しているのね」
 エリミーはあり得たかもしれない出来事を語りだす――『あの依頼』が不幸な出会いをしていれば――それは悲壮な覚悟だった。
「はい」
 人になることにより、狙われるのなら――エミタを埋めて傭兵になってでも守りたい――そんな気持ちを吐露するエリミー。
「話は良くわかったわ。覚悟も、子供達がどれほど大事なのかも」
 こうして、狐月との面会が終わった。
 
 狐月の次は、御守。
「先程は、こんにちわ」
「あの達の世話を見てもらって‥‥ありがとうございます」
 挨拶する御守と子供の相手をしてくれた事に感謝を表すエリミー。
 御守とエリミーは子供の話で盛り上がるが――。
「助けられなかった‥‥すまない‥‥」
 御守は突然、エリミーに謝る。
「どう、したんですか?」
 突然の謝罪にびっくりするエリミー。
「実は――」
 御守の出た依頼でエリミーを知ってそうな強化人間の子供と出会ったこと――そして、倒したことを懺悔するように告げる。
「‥‥」
 御守の話した話の内容から世話を見ていた子供にあたりがないか思い出そうとするエリミー。
「――いた」
 エリミーの話によると失踪した子がいたとの事だった――必死に探したが、オーストラリアの現状から行くとキメラに襲われたと思っていたらしい、だが、御守の話で一致した。
「‥‥そうですか」
「気を確かに‥‥」
 守れなかった事に悔やむエリミー、御守はそんなエリミーを只々、慰めていた。
「‥‥ありがとうございます」
 少しは、立ち直った様子のエリミー。
 御守との面会時間が終わりを告げる。
「査問会‥‥君や子供らにとって辛い事を言うかもしれない。それを受け入れようとはしなくていい。ただ、そういう覚悟はしておいて‥‥」
「‥‥はい」
 別れ際に言い残す御守だった。
 
 ●査問会
 他の傭兵達との面接が終わり――丁度、査問会の時間となった。
 証言台を囲むようにコの字型の――法廷のような形で傍聴席側が開けていて基地の兵士たちも傍聴に詰めかけていた。
「被験体103022号、前へ」
 査問官が資料から得たエリミーの強化人間としての名前を呼ぶ。
「彼女はエリミーよ。被験体103022号って名前じゃない!」
 狐月の抗議の声が上がる。
「‥‥エリミー・アリューシン。前へ」
 名前を言い換える査問官。そして、証言台に立つエリミーの姿は傭兵達との面会のおかげが覚悟を決めた様子だった。
「では、嘘偽りのないあなた自身のことを証言しなさい」
 証言台に立つエリミーと査問官。査問会が始まる。
「名は『エリミー・アリューシン』。オーストラリア出身。歳は17歳‥‥間違い無いですね」
「‥‥はい」
 読み上げるプロフィールに間違い無いと答えるエリミー。
「貴方が強化人間になったのはいつですか?」
「2年前です。 連れ去られ、気がつけば強化人間にさせられてました」
 その時の様子を克明に語る。
「記憶は残っているのですね。 では、すぐに前線へ出たということですか」
「はい。 訳の分からないまま、前線へ連れて行かれました」
「そこで、貴方は戦闘しましたか?」
 隙かさず、質問を入れる査問官。
「いいえ、怖くなって逃げました」
 武器を持たされたが、戦闘が怖くなり、武器を捨てて逃亡したことを述べる。
「軍でもそうですが――敵前逃亡は場合によっては死刑になることもあります‥‥ですが、貴方は無事だ」
「はい。 確かに私は、処分されそうになりました。ですが、歳をとったバグアに助けられました」
 その時の様子を語る――。
「それは――この人ですか?」
 査問官が人相書きをエリミーに見せる。
「‥‥はい」
「そうですか――――人相書きの人物は、バグアの司令官、それを知ってましたか?」
「いいえ」
「いいでしょう。では――その後は?」
「教会だったのを改築した建物であの子達の世話を見るように言われました」
 そう、対面したばかりの子供達はやせ細っており、表情も暗いものだった、と。
「貴方は――『計画』のことを知っていた?」
「いいえ――私に命令されたのは『子供達の世話をする』と言うことだけでした」
「ふむ――その『命令』は今も有効だと?」
 査問官が此処までに子供達に執着するのは『命令』のせいではと思い質問する。
「私は――ただ、命令とは関係なくあの子達と共に暮らしたいだけです――その為なら『何でも』します」
「『何でも』ね――」
 (強化人間だからこそ出来るものも有るか――)
 幾つかの応答が終わり査問官によるエリミーへの質問が終わる。
 
「では――当査問会にて彼女と関わり有った人物と第三者的立場の人物による証言を聞いていきたと思います」
 先ず、証言台に上がったのは狐月だった。
「貴方は?」
「私は、狐月 銀子。エリミーの引き渡す事になった依頼にも参加してました」
 何時もと違って真剣な口調の狐月。
「彼女――エリミーがバグアに協力していたのなら――子供達へ相応の教育をしていたと考えれますが――」
「貴方は子供達の様子を見てどう思いましたか?」
「エリミーが教えていたのは、『外で遊ぶ際にキメラに注意する』こと。それぐらいしか子供達に教えていなかった」
 バグアの立場からすれば、人類は敵である といった教育を子供達に施していなかった事を子供達との会話やエリミーの会話から説明する。
「では、思想的な教育を行っていなかった――極一般的な――と言うと語弊がありますが日常生活における教育だけだと」
「はい。子供達の様子からはそう言った思想めいたものは見受けられませんでした」
「そうですか」
「今の東オーストラリアは『シェルター』やらで人を取り込んでいる土地で民意もどちらにあるか解らない場所で、人でもバグアでもあり、人類側を選んだ母は戦後処理。特に孤児とか自我の成り立って無い子の為になると思います」
「孤児は我々の管轄ではありませんが――それに、そう云うのは民間に任せれば済む話です。強化人間を戻してまですることとは‥‥」
「ですがっ。民間だと外の人間を信用しないかもしれません。エリミーならこの国の人間。受け入れてくれるかと思います」
 査問官の言葉に反論する狐月。
「親バグア派は、彼女を裏切りと見るでしょう。彼女とその子供達を余計に危険な目に合わせるだけになる可能性もあります」
 懸念点を指摘する査問官。
「治安維持は――貴方達の仕事じゃない!」
 ついに激昂する狐月。
「だれが好き好んで敵だった人間を守るんだ!」
 傍聴席の兵士から狐月に向けて野次が飛ぶ。
「もう、エリミーは『敵』じゃ無いでしょ! あんた達は、自分の子供、孫・・‥その先までずっと恨みで戦わせるつもり!?」
 傍聴席を睨み言葉を投げかける狐月。
「バグアと友達になれってんじゃ無い!‥‥同胞を育てられた母親も、出生が違うからって投げ捨てるんじゃ、次に恨まれるのはあたしらって事よ。あの子らにさ」
 興奮を残しながらも徐々に落ちつかせながら喋り、エリミーを見る狐月。
「あたしは、エリミーとその子供達、そしてオーストラリアにいる身寄りな無い子供達為にも――そしてそれが、UPCやULTの為になると思っているわ」
 狐月はバグアによって流されている悪評を拭い去るためにも必要なことだと力説した。

 こうして、狐月の証言が終わり、次は風代の番になった。
「風代 律子。私もエリミーちゃんの時にもいたわ」
 依頼の時の様子を語る風代。
「あの時に会ったエリミーちゃんは本当に何も知らなかった――本当にただ、子供達の世話をしている様子だった」
 そう、あの依頼の時、その素振りからは感じられなかった、と。
「エリミーちゃんは『計画』を知らなかった。あの時、バグア討伐に反対しなかった事からね。もし計画を知っていたら、理由を付けてバグアへの攻撃を止めるか私達をハメようとした筈よ」
 あの時の様子は知らなかった、そして、結果がバグアを討伐して『計画』が発覚したと説明する。
「私はエリミーちゃんを助けれれば、親バグア派を懐柔させやすくなるかも知れない。もし、子供を世話していた少女を処罰した、なんて親バグア派が知ったら、彼らの軍に対する不信感は確実に増大する可能性もあるわ」
「そう――助けることによって、親バグア派の人心掌握をし易くする事が出来るかも知れない」
「なるほど。孤月さんと同じで悪評を拭うために必要だと」
 風代の説明を聞いていた査問官が口を挟む。
「それだけじゃないわ。今の混乱は憎しみの連鎖が起こしている物。彼女を助ける事はその連鎖を止める一歩になるかもしれない。そうなる事への利は大きいと私は思うわ」
「そして、強化人間が自分の意志で戦っているとは限らない事も前回の子供達を見た私は知っている。彼女の処遇はその辺りも考慮した方が良いと私は思うわね」
 以前の依頼の説明をする風代――すべての強化人間が自分の意志で戦ってない事を説明して、風代の証言がおわる。
 
 入れ替わりに証言台に立ったのは御守。
「御守 剣清です。オレもエリミーの時にいました」
「バグア側から接触、子供を楯にとられた場合、エリミーの優しさ故にバグア側に帰る可能性がある――だが、その時に強化人間でなければ、バグアは興味を失せるかもしれない」
 もし、基地が襲撃を受けて子供が連れ去られたとしたら――そんな、最悪の事態を想定して話す御守。
「再び教育係、また再強化を受けるにしても、即戦力にはならないだろうと思う――そもそもあちらに渡る前の『処理』も容易でしょう」
「子供達は――『牧場』時代にバグアとの接触があるので、軽度の洗脳を受けている可能性が有り――また、先の強化人間の子供との接触から――」
 強化人間の子供との戦闘の依頼について説明し、抑止力足りえると淡々と説明した。
 幾つか査問官とのやり取りを終え――。
「理屈をこねましたが、ここからが本心です」
 御守は今までの淡々とした喋りから打って変わって語りだす――。
「この戦場で敵を恨むな、なんては言えません。恨み憎しみ怒り、あって当然だ。ただ、その方向をもっと先‥‥こんな状況を作り出してる元凶に向けてはもらえませんか?」
 査問官を――傍聴席を見渡して語りかける。
「おそらく連中は、この状況を楽しんでほくそ笑んでます。そんな下衆の思い通りになるの、胸糞悪ィじゃないですか。何より、大人として、人間として‥‥」
「こんな子供が犠牲になるなんて状況、誰も望んじゃいないハズ‥‥オレは、そう信じたい‥‥以上です」
 エリミーを見て一瞥すると証言台から降りる御守だった。
 次に立ったのはクラフト。
「クラフト・J・アルビスだよー」
 第三者的な立場なクラフトが証言を始める。
「強化人間全てが全て、地球側に対して悪意を持ってたわけじゃなかったし、決め付けはアレなんじゃないかな」
 強化人間=悪という図式を取っ払ってもらいたいとクラフト。
「あって、見た感じ、子供達はお互いの再会を喜んでいたし、きちんと子供を叱ることもできていた」
 再会の時の様子を語るクラフト。
「心から世話をしてなかったらあんなに懐いたりしないんじゃないかな?」
 それが、子供達とエリミーに対する結論だった。
「処刑、なんて言うことになれば子供たちに恨まれてしまうかもー。実際にそういう例を見たことがあるからねー」
 実例を語るクラフト。負の連鎖作らないほうがいいと説明する。
「あんまり、処刑ってのはあれかな、とりあえず。かと言って現状維持もねー」
「それに、強化人間から治しておけば心情的に協力しやすくなるかもねー」
 そう、人をもどすことを条件にすればエリミーに対して協力を取り付けることも可能かもしれないと言う。
「そのままだと、バグア側に一時でもいたってこと思い出しやすいんじゃないかなー」
 そのままでは苦悩が残るかもしれないとクラフトは語る。
 クラフトは第三者なりに考え、答えを導き出し証言をした。
「俺もオーストラリアの人間だからさ。わかんなくはないけど、固くなるのはだめだかんねー」
 証言台を降りる際に傍聴席に向けて一言。
 次に登ったのは終夜・無月(ga3084)。
「終夜・無月です。取り合えず思う所を‥‥」
 終夜が語りだす――。
「強化人間=敵と言う概念は本当に正しいのか? 敵とは何か?」
 周りを見渡し――問う。
「思うに敵意を持って様々な意味で立ちはだかるモノを総称して敵と呼ぶのではないか? ならば敵意も持たず実際の害的行動も無い其の者の立場のみで敵と決する事に正当性は在るのか」
 敵意・害意なくして、なぜ敵と呼べるのか?
「其処に個人的又は立場的な感情が無いと言い切れるのか? 危険な力を持つからと言うなら私達、能力者の存在はどうなる」
 そう――傭兵の力もまた強大だ。 特に終夜のようなベテランの傭兵であれば。
「例えば私は覚醒を行わずとも既に人の力を凌駕する域に居る。する気は皆無だがこの力を人類へ向ける事も出来よう――」
「其れをしないのは私が守りたいと想うのが人類だから――」
 もてる者の責務、そして、終夜の想い。
「力はただの力であり其れを理由には出来ない――もし立場を理由にするにしてもバグアの力を奪う為に身を投じ成った強化人間や逆にバグアの意図で潜り込み成った能力者等、私は多くを見て来たが其れ等を指針にする事は不可能」
「指針とすべきは、当人自身が思う立ち位置と其れを証明する実証――其れは初見の私よりも他の皆が示す事だろう」
 力に罪はない、それをどういう立場で使うのか――それを問う終夜。
「措置で得る軍の利は今後、仲間内で強化人間に成った者を戻す事がし易くなる事――今回の事が前例と成る事で」
 意図せず強化人間に成った人間を救い、バグアから離反させることが出来ると力説する。
「良き洗選択を――願う」
 そうして、証言台を降りソーニャ(gb5824)と入れ替わる。
 
「ソーニャです。すでに当査問会は個人の問題ではなく、別の意味を持つと考え頂きたい」
 雄弁に語るソーニャ。
「特筆すべき罪もなく、強化人間であることの判定が公式に残されるからです――今まで強化人間が公式の査問、裁判に上がった例は少ない」
「ここで出される結論は後世の歴史家に度々審議され、現国家、軍の在り様として永遠に残り、後々まで関心を集める――と、私は思います」
 一端、一区切りをつけ、周りを見渡すソーニャ。
「ではまず。強化人間の多くは洗脳、人質等。無理やりにされており、これは周知の事実です。バグアを追い払えば多くの強化人間が地球に取り残される」
「いずれ強化人間の保守設備も手に入る。バグアの指揮系統が混乱すれば保守設備ごと離脱する強化人間達もでる」
「強化人間の自然消滅は無い、さらに家族、友人、彼らに近い立場のものも多く強化人間である事を罪とすれば、大量虐殺と暴動、秩序の崩壊がおきる」
「最後はどうなるか、歴史が証明しています。英雄は悪鬼とされ、軍は恐怖と嫌悪の対象となる」
「過去において勝利した私兵や民兵が多く略奪虐殺を引き起こし、どうなったか? 正義も感情に溺れれば悪に変わる」
 過去の戦争に於いてどうなったのか――それを説明するソーニャ。
「強化人間は敵ではなく保護、治療する対象でると宣言する時期に来ている――思う」
「今が格好の機会です、今、ルクソールには強化人間の自治区が出来ました。そこには保守設備もある」
 ルクソールにある設備の説明をする。
「そこに託せば貴重なエミタを使用することもなく、一般市民から隔離する事も出来ます」
「強化人間を憎む者に収容場と納得させる事も出来る。人類の未来を見据えた賢明な判断が成されると信じます」
「拝聴――ありがとうございました」
 そうして証言台を降りるソーニャ。
 
 最後に、エカテリーナが証言台に立ち証言をし、終わる。
 
 ●裁定
 証言を請けて裁定が行われる。
 司令の妻は断然、治療派であった。だが、他の軍幹部や何よりも兵士たちの納得がいかない。
「現状では士気を落とすリスクを背負ってまでの利が少ない――だが、これからも彼らの協力も必要」
 かといって、無碍にすれば傭兵たちの反発も必須だ。
「利が示せるようなことがあれば、それと引換に――だが、今は、こうするしか、無い」
 
 
 出された裁定は――
 
 『罪は問わない。だが、戦場で早急に治療するまでは至らない。処分決定まで保留にする』
 
 エリミーと子供達は安全な西オーストラリアへ後送されることになった。
 そこでエリミーは抑留の緩和、監視つきではあるがある程度の行動が許される事となった。
 将来、治癒するに相応しい利を提供できるのであれば――治療を行える可能性があるというものだった。
 それは――エリミーの身の潔白を証明できた故でもあった。