●リプレイ本文
●邂逅――
東オーストラリア 急造されたバグアの駐屯地。
「誰?」
強化人間の少女――「高畑 直美」と遭遇した傭兵達。
「ん? 俺たち? ただの見学者。って言っても信じてくれんよね」
「私は、高畑 直美――怪しいの――」
クラフト・J・アルビス(
gc7360)は答えるが――律儀にも名前を答え警戒の眼差しを向けている高畑。
「えーと、その、怪しいものでは‥‥あー、やっぱり怪しいものです。どう見ても怪しいよね、うん」
「‥‥」
旭(
ga6764)はそんな空気を払拭しようと戯けて答えるが、無言で傭兵達の挙動を覗う高畑。
「まぁ、お察しの通り人類側の能力者なわけです。あ、僕は旭っていうんだけど。とりあえずよろしくね?」
刺激しないようににこやかに挨拶をする旭。
「敵じゃない‥‥てのも通じないんだろーしね。悪いけど少し静かにしていて?」
そんなやり取りを茶番と言わんばかりに、軽く銃を構えて警戒する狐月 銀子(
gb2552)。
それに対して高畑も即座に杖を構える――KVをも撃墜できる「大型収束レーザー」では傭兵達といっても無事では済まない。
一触即発の緊張が――両者に走る――が。
「美空でありますよ」
明るい女性の声――高畑の誰何に答えたのは――。
幾多と戦ってきたものの強化人間と接した経験は実はあまりない美空(
gb1906)。
美空の応答と興味の眼差しによって一触即発の危機が去る――が、互いに警戒したままだ。
「自分勝手なのは承知だが見逃してくれないか? こちらも手出しはしないから」
セージ(
ga3997)は穏便にこの場を済まそうとする――。
高畑は思巡する――明らかに眼前の存在は――傭兵だ。
彼我の兵力差を鑑み――そして、何より対峙するにはふさわしい場所が有るはずだと考え――。
「なぜ、こんな事をするの? 答えて。そうしたら‥‥見なかった事‥‥ううん、次、きちんと戦おうなの」
両者、武器をおろしてやや緊張感が緩和されるが――警戒は互いに怠らない。
「皆が幸せに過ごせる世界を作る為よ。そして、貴女の様に戦う事を強いられている子を助ける為でもあるわ」
その問いに対し直ぐに、躊躇いもなく答えたのは風代 律子(
ga7966)。
「助ける為‥‥」
高畑は何かを考えながら風代の言葉を小さく呟く、
「戦争を終わらるため。先に手を出した方が確かに悪いが、本当はどっちが先かなんてのはもう誰にも分からないのであります」
次に答えたのは美空。長きに渡る戦争に終止符を打つためと答える。
「汝が言う『こんなこと』が何を指しているか我は知らんので教えてはくれないか?」
漸 王零(
ga2930)は高畑に高畑の発した言葉に説明を求める。
「俺も知りたい、『こんな事』とは何だ? よければ教えてくれないか」
セージ(
ga3997)は問う――高畑の側から何が起こっているのか。
「こんなことってどれを指してんのかな?」
クラフトは祖国もオーストラリアで彼等の立場で何が起こっているのか聞く。
「オーストラリアは、バグアの運営でうまく行ってた――なのに、今更、酷いことをするの?」
それは高畑の純粋な――危険な程に純粋な想いとULTやUPCに対する怒りと疑問。
「一個人として言うね。今のオーストラリアは俺の好きだったオーストラリアじゃない」
バグアにとってはそうだろうが――クラフトや元いた人間にしてみれば違う。
「どっちが勝つにしても、ここから戦いを消したいんだよね」
そう――もう、こんなことは懲り懲りだと言わんばかりに。
「でも、子供達を攫い――あまつさえ倒し、自爆させる。そして、自らを解放者と僭称しているの」
高畑は語る――オーストラリアで行われている事を――バグア側の視点で。
「私は、例え敵であろうと命を奪わず、共に生きる道を模索して来たわ。そう、それが例えキメラであっても。キメラだって元はごく普通の生き物だったわ」
高畑の答えに対して風代は自身の行なってきた事を高畑に語る――全ての人類が悪意に満ちた存在ではないという証明のために。
「自然の摂理に従って生きていただけの彼らを無理やり戦いに巻き込んだのは誰なのかしら? そして、何故貴女は戦っているの?」「キメラは人類側が作り出した存在だってきいたの! 戦う理由は――『こんな事』が起こさない為に――平和のために戦うの!」
最近、起こった倉庫での出来事――子供達が自爆した話を伝聞ながらもする。
「子供の自爆でしょ。バグア側が仕掛けた」
アルビスは高畑の語った言葉氏に対して「事実」を答える。
「嘘なの!」
事実を強く否定する高畑。
「勘違いを否定しあっても意味はないだろうから、俺がこれについて言うのはこれだけ。自爆は人を爆弾とするのは外道中の外道だし、最悪の方法」
それに対しクラフトは言葉を紡ぐ。
「そうなの! ULTもUPCの外道中の外道なの!」
「あんた達がやったことでしょ! 武力制圧なら解るけど、勝手にこっちの人間囲ってみたり、子供を武器にしたり‥‥戦いにもルールって物があるわ」
そんな高畑の語り――明らかに人類側が悪の様な話に激昂した狐月は、事実をもって反論するが――。
「私たちはやってない! 嘘なの! 貴方達が来なければ! オーストラリアは平和だったなの! 『シェルター』は平和に暮らすために必要なものなの!」
狐月の言葉を否定し、バグア側の視点――『シェルター』は身を守る為のものだったと力説する高畑。
「ふむ‥‥それは、バグアによる情報操作であり扇動手段の上等手段だね。我が知っている限りそんな事実はないな‥‥汝の情報源はバグアであり噂だろう?そこにどんな証拠があるというんだ?あるのなら見せてほしい」
「‥‥君はそれを誰に聞いて、どう確かめたの」
「これなの!」
漸が問う、狐月も問う、その言葉に肌身離さず持っていた思われる紙束を差し出す高畑。
傭兵達はその紙束――バグアによって作られたと思しきビラを受取り、目を通す――。
古くは【千葉】において東京の情勢を伝えるビラからここ最近までのビラだ。
【MO】以前の『シェルター』が地上の楽園のように喧伝され、各地での出来事を巧妙に捏造された写真と捻じ曲げられ、捏造された言葉がが並んでいた。
【MO】以降は――もっと苛烈な内容が並び、ULTやUPCを非難していた。
「本当なら、あたしは君の味方になるわね」
無論、狐月が見てきた事実にそれは無い――。
「人類側がそう指示しているところを見たのかい? 人類側を襲い返り討ちにあっていただけではないのかい? その子供らは普通の体だったのかい? 我は何度かバグアが強化した子供を倒してきているからバグアがそうさせた可能性を提示できるが‥‥汝はどうだい?」
ビラの束を見た漸は高畑に更に問う。
「病のために強化人間になった子もいるの。守りたいと思ってなった子も。守り、戦ったの」
あくまでも人類は敵であり、それから守るために自分達が戦ったと主張する高畑。
「それが事実でも真実とは限らない。同じ事象でも受け取る人間の立場で意味が変わるしな。伝聞ならなおさらだ」
高畑の言葉に、ビラに対してセージは答える。
「バグアは本来なら守られるべき存在である子供達を、何故躊躇なく戦いに駆り出すの? 本来なら、戦うのは未来ある子供達の為に捨石となるべき大人達の筈なのに」
風代は高畑の話とビラにに対して矛盾を指摘し問う。
「それは‥‥人類との戦争で親を失った子が、私も‥‥だけど、これ以上、悲しみを広げない為に志願したの」
子供が戦争に出てくる一つの理由としてあくまでも志願したことを上げる高畑。
「双方お互いに愛する人たちを殺されて憎くて憎くて仕方ないのだと思うのですよ。でもその中で戦っていない人たちがいるでありますよね?」
「‥‥」
守る為、仇を討つために志願をするのはよくある話ではあるが――。
「オーストラリアで死ぬのは人類も強化人間ももとは同じ人間なのであります。ではバグアさん達は如何しているのか?なんでバグアさん達は命を賭して人類の為に戦わないのか? なんで死ぬのは高畑さんのような人たちばかりなのか?」
なぜ、バグアが戦わないのか――なぜ、人であった強化人間ばかりが斃れる事になるのかを美空は問う。
風代の、美空の問に考えこむ高畑。
「今、貴女に私達の事を信じろ、とは言わないわ。唯、一歩引いて物事を見て欲しいと思っている。私達がどんな存在なのか、バグアが何を考えているのか」
相容れない立場かもしれないが、一歩引いて物事は見れるはずだと語る風代。
「なら――何が起こったの? 教えて欲しいの」
否定はしていたが――漸、セージ、風代、美空等の傭兵達の言葉に疑問を覚え、また、人類側がどのように捉えているかも気になった。
「では――」
静かに遣り取りを聞いていた旭がここ最近のオーストラリアで起こった事を詳しく説明をはじめる。
それを静かに聞く高畑。
「助けられなくてごめんなさい」
自爆した子供の強化人間の話になった時、美空が謝る。そう、助けれなかった話を身内から聞いていたのだ。
「‥‥私達は――皆の為、正義の為に戦ってきたなの――なのに、話してくれた話はまるで悪の様‥‥でも!」
話を聞いた高畑は悩む素振りを見せたが――吹っ切れた素振りを見せ――。
「私は、『私の正義』――散っていた友の為、守るべき物の為に戦うの!」
バグアに正義有るはずだと信じてはいるが――自身の正義の為に戦うと宣言した高畑。
「あぁ‥‥そうそう、我らが悪かどうかとたずねてるのなら、我はこう答えるよ「我は悪だ。そして汝も悪だ」とね。だってそうだろう? 汝から見れば人類側は悪。だが、同時に我らから見れば汝らバグア側が悪。それならば、答えは「どちらも悪」という一つだろう?」
漸はその言葉に返答する。
「違うの!」
悲鳴のような叫びで否定する高畑。
「そもそも‥‥正義とは正しい行いをさす言葉だ。人によってさまざまな正しさがあるのだから真の正義、絶対の正義なんてものは幻想でしかない‥‥それを他人にふりかざすのは汝の“悪”だよ。だから‥‥我は己を正義だとは偽らない。堂々と悪であると宣言しよう」
高畑に立ちふさがるように言う漸。そして、自分を『悪』といった漸を睨みつける高畑。
「俺達のやってきた事が全て善とは言わん。だが、俺達は俺達の正義を貫いてきた。だからこそここにいる」
そんな高畑に声を掛けるセージ。
「私だって!」
自分だって貫いてきたはずだと声を上げる。
「俺は俺の正義を貫く。誰に理解されなくてもな。俺は信じたモノを護るために行動する。その為なら悪にだってなってやる。それが俺の『正義』だ」
セージは続ける。そう、思いを告げる。
「俺は俺の正義を貫くために、バグアも強化人間もキメラも躊躇わずに斬ってきた。それが俺の覚悟だ。お互いの正義がぶつかる時、争いは起きる。それは哀しい事だが、生きるとは己の正義を貫く事だ」
「『生きるとは己の正義を貫く事』‥‥」
思うところがあるのだろう、セージの言葉を反芻させる高畑。
「人でもバグアでもない、あたしは、あたしの正義に従って戦うもの」
狐月もまた言葉を紡ぐ。
「君自身の目と心で、敵ってのを見つけた時。あたしらがそれってんなら、ぶつかりましょ」
「自身で‥‥」
そう、『自分』で、他の人による判断ではなく――。
「あたしが戦うのは相容れない正義を持つ敵と、外道だけ」
それは仕方なの無いことだ――互いの主義がぶつかることは否めない。
「美空達にも死んでしまった姉妹がいるのであります」
美空は沈痛な面持ちで、そして大切なモノを思い出し、大事に、そしてゆっくり告げる。
「高畑さんに亡くなった仲間がいるように美空にも戦死した妹がいるのです。憎くないわけではないです。でももっと大事なことがあるのであります。それは‥‥」
在りし日の記憶を思い出し、溢れんばかりの涙目で思いを語る。
そして、涙声の掠れた声で最後に「人間同士で憎み合う事を止める事」と。
「‥‥エリミーちゃんを知っているかしら?」
「知らないの‥‥」
東オーストラリアで保護された強化人間の少女の話をする。強化人間故に家族同然の子供達と離れしてしまった少女の話。
「今、彼女は西オーストラリアで過ごしているわ」
査問会の結果により西へと移送された少女。まだ、僅かながら人に戻れる希望のある少女。
「確かに今、私と貴女は敵として対峙してるわ。だけど、私達が全員、貴女達を殺めようと思っている訳ではない事だけは知って欲しいの」
殺さずに済めばそれがいい。それが風代の想い。
「そして、これも言っておくわ。私は、貴女達の未来の為なら、いつでも捨石になるわ」
嘘偽りのない真剣な想いの言葉は、どんな美辞麗句や甘言よりも心に響く――それは――戦う為に洗脳された少女であっても。
「そこから出ていくといいの‥‥今度は、戦場でなの」
高畑が指すのは非常口。セキュリティも何時の間にか解除されているようだ。
「僕は君に会えたことを誇りに思う。その想い、その勇気に敬意を表する。願わくは、君の行く末に光あらんことを」
(この子の正義は本物じゃないか。どういう行動であれ、見えてる範囲内で最善を目指している。子供の純粋な思いを捻じ曲げやがって、くそったれめ)
足早にかつ静かに退出していく傭兵達。残されるのは高畑一人。
「嘘だったらどんなに良かったか。思い込めば躊躇えずにいれたのに‥‥」
そう呟き、持っていた紙束を側にあったゴミ箱へ捨てる。
「ダメね。再調整が必要だわ‥‥傭兵達は――あの子に免じて逃させてあげましょう」
死角で影になった所から高畑とは違う少女の呟き。彼女は見ていた――全ての顛末を。
●
帰路
様々な想いをのせて闇夜を切り裂くヘリの内部。
外から見える空を見ながら狐月は想う。
(主義が違えば避けられぬ敵もいる‥‥ただ、何故戦うのか。考えずに奮う力に正義は無い‥‥)
夜が明けていく――空が白み始める。
(ハーモニウムの少女を殺めた日、それは唯の暴力だとあたしは気づいた。今日、対峙したあの子が己の正義の為と語るなら、同じ道は歩まないで欲しい)
夜が明ける――陽光が闇を払うかのように。
(等しく自分の正義を掲げ合えた時にだけ、互いを敵として見よう、と)
Fin