タイトル:プロパガンダマスター:後醍醐

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/14 21:35

●オープニング本文


 ●
 とある街で、ケビン=ルーデル(gz0471)は休暇を兼ねて買い物に出ていた。
 そう――あの壮絶なKV戦から帰還ということで休みを取る様に勧められていたのだった。
「あの、もし」
「はい?」
 そんな、ケビンに声を掛ける一人の男性。 よく見ると紳士そうにも見えた。
「傭兵をされている方ですか?」
「え、あ、はい」
「いえ、他の方と雰囲気が違いましたので‥‥」
「はぁ」
 男性いわく、近くで孤児院を運営しているとの事だった。
「つきましては――」
 どうやら、現場で戦いっている傭兵にバグアやキメラ、強化人間というのがどういうものかというのを伝えて欲しいとの事だった。
「でしたら――」
 ケビンは男性に一度、孤児院がどんなものであるのか見学することにした。
 連れて来られたのは郊外にある孤児院、対キメラなのか塀が高く作られていて、物々しさを感じていた。
 前庭でケビンが目にしたものは――まるで、軍事施設の様に教練を行っている様子だった――その大半が子供であったが。
「これは‥‥?」
「彼らには『適性』があります。それにこの時代、自分の身を守ることも必要ですので」
 それだけなのだろうか? それだけには思えない。
「ここを出たら、あの子たちは?」
「ええまぁ、色々と‥‥まぁ、評価はいいですね‥‥おっと」
 思わず本音が出たなと、ケビンはその男をよく観察する。
 見た目には人の良さそうな雰囲気をしているが、それ故に胡散臭い。
 そうしながらも、二人は建物へ入っていく。
「こちらが『教室』ですね」
 男に案内され、「教室」を覗くと――。
 「教室」ではナニカの動画‥‥それはキメラが村を、人を襲っている様子を写したものだった。
「この様にバグアはキメラなるものを作り出し、残酷に殺そうとしているのです」
 場面が変わる。
「強化人間――かつては人であったものを、バグアは拉致し、洗脳して創り上げた存在」
「強化人間に仕立てあげ、親しい人を襲わせたという話もあります」
 動画は未だ続く、子供達は食い入る様にその動画を疑いのない目で見続けている。
「これは‥‥」
 そう、これはプロパガンダを使って子供達に憎しみを植えつけているのではないのだろうか。
「私もですね‥‥妻だったモノが、連れ去られて強化人間となって私たちの住んでいる所を襲ったのですよ?」
 そう話す、男の目を見ると憎悪に狂った濁りが写っている様に見えた。
「ですので、是非とも彼らに教えてやってほしいのですよ‥‥」
 如何に彼らが悪虐非道なのかを――。
 
 ケビンは思う――本当にそうなのだろうかと?

●参加者一覧

錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
ジャック・クレメンツ(gb8922
42歳・♂・SN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
ティームドラ(gc4522
95歳・♂・DF
モココ・J・アルビス(gc7076
18歳・♀・PN
李・雪蘭(gc7876
37歳・♀・CA

●リプレイ本文


 孤児院前へ集まる傭兵達。
 
「ケビンさん、よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
 ラナ・ヴェクサー(gc1748)はケビン=ルーデル(gz0471)へ挨拶をすると、出迎えていた依頼者と教員へ挨拶へ向かった。
「‥‥参考に、今までどのような信念を持ち、教育をしてきたのか。‥‥お聞きしたく、ありますので」
 挨拶を終えた、ラナは引率を除く『教員』達と依頼主と共に教室の方へ向かっていった。
 
 講義は――晴天の運動場で青空教室と言う形で行われる事となった。
「バグア憎し、それも別にいい。引鉄を引きやすくしてくれりゃ、むしろいい事だ」
 先ず、彼らの前に出たのは迷彩服に身み、タバコを咥えているジャック・クレメンツ(gb8922)だ。
 ジャックは自身の過去を彼らに重ねて見ていた子供達に無駄死にしてほしくないと考えていた。
「敵を絶対に見くびるんじゃねぇ」
 ジャックが子供達の前で発した第一声。それは強靭な肉体をもつと言われた傭兵の言葉とは思えない雰囲気が子供達にあった。
「必ず相応以上の装備、作戦で挑むように」
 敵は自分よりも強いと、弱い敵など滅多にいないと説明する。
「慢心は手痛い結果を生むだろう。ましてバグア相手ではなおのこと」
 そのせいで何人が犠牲になり、何人が傭兵をやめたのかを語っていく。その手痛い話に少年少女達は真剣にジャックが伝えようとしている内容に耳をかたむけている。
「自分の武器はよく知っておけ」
 ジャックは自身が持っている『拳銃「CL−06A」』を掲げて子供達に見せると子供の視線が一気に掲げた銃に集まる。
「バグアは強大である。だが我々の武器を使いこなせば倒せない相手ではない」
 もちろん、武器だけではなく知恵という武器や連携も重要だと実例を交えて伝えていく。引き込まれるようにその話を聞く子供達。矢張り実体験というのは説得力がある。
「だから自分の得物は徹底的に把握すること」
 獲物は武器だけでなく、自分の強みを把握しろと具体例を出しながら説明を加えていく。
「殺すために殺すな、生きるために殺せ」
 生きていればこそ、臆病であっても生きて次の戦闘に参加することが重要――本末転倒にならないように子供達に諭すように話す。
「生きろ、以上だ」
 願わくは、生き残ることを祈って
 
 続いては天野 天魔(gc4365)がジャックに変わって少年少女達の前に立つ。
 天野は事前に孤児院を調べていたが、未来研究所を通して傭兵や軍に『志願』しているようだった。
 現実の一つを突きつける。
「バグアは残虐非道で人を楽しんで殺す悪だから滅ぼすであっているかな?」
 疑うことなく、首肯する子供達。
「結構。ではこれを見てくれ」
 天野は用意していた動画‥‥兵士による民間人や捕虜の虐殺等人が人を殺す映像を子供達に見せる。
「彼等は操られていない。正気だ。先の論理で言うと人は残虐非道で人を楽しんで殺す悪だから滅ぼさねばならないがどう思う?」
「人には敵もいると思います。でもバグアは敵しか無いと思います」
 15歳程のだろうか、まだあどけなさが残る少年が天野の問いに答える。
「そう教えられた?」
「はい」
 天野は、首を振って否定する。
「考えるんだ。何が悪で、何が善なのか。救うことが善なのか」
 子供達に諭すように言う天野。
「基本的に人は見返り無しに他者を助けない。例えば俺がここで講義しているのは報酬の為で、院長が君達を引き取ったのは兵士として高く売れるからだ」
 ざわめく子供達、そして、静かに傭兵によって静止させられる引率の教師。
「だから疑え。だから考えろ。簡単に人を信じるな。考えるのを止め他者を妄信した時、人は先の映像にいた淡々と人を殺した兵士と同じ人形になる」
 動画に写っている人間を指さし、そして子供達に指を指して言う天野。
「最後に戦後の事を考えておけ。もうすぐバグアとの戦争は終わる。その時に戦いしかできないと困るぞ」
 そう――戦後のことも考えなくてはならない時期になっていた。今からでも考えても遅くないだろう。

 次に子供達の前に出てきたのは椅子を持参してきたモココ(gc7076)だ。
「前の依頼で‥‥重傷なので座って話します」
 そう子供達に言う、モモコの動きは負傷のせいかどこかぎこちない。
「イーノは極悪非道なバグア。浚った人間をキメラにして元いた町を襲わせるような奴。人の苦しみが好物。最近、衛星海神を操り虐殺を繰り返した末、死亡」
 モモコが拡大された写真を持って語るのは、かつて対峙していたキメラの話。
「彼が作った強化人間集団。元々狂った者に力を持たせ彼と同じく虐殺を繰り返す。その中の一人、天使聖」
「元傭兵でありながら味方を皆殺しにし服役中に脱獄。そして改造され狂気を振りまいた」
 そう言って、モモコは先日、彼女に刺された脇腹の傷を見せる。
「でもそれは私を守るためにした事‥‥彼女は自分が助かれば私が法に問われると知っていた」
 敵を助けると言うことに子供達に動揺が走る。
「そこで質問。そんな行動をした私は正義? 悪? 私を守るために私を刺した彼女は正義?悪?」
 黙りこんでしまう子供達――だが、ひとりの少女が立つ。
「バグアを――助けるのは良くないと思います」
「悪い私を憎しみ殺せば‥‥殺したあなたは正義? 悪?」
 そこで黙ってしまう、少女はパラドックスに陥ってしましい思考が混乱する。
「憎しみは大きな力や向かう勇気をも与えてくれる。戦う上では必須の物。でもそれは両刃の剣」
 立ったままの少女に――その後ろいる子供達にも話しかける。
「使い方を誤れば自らだけでなく周りの人も傷つける。時には憎しみを鞘に納める事も大切」
「憎しみを否定はしない。だが、どうか勝つ為に戦うのではなく守る為に戦って欲しい」 
 ただ勝つ為でなく――大事な人を守るような、そんな戦いをして欲しいと語り話の最後を締めくくった。
 
 一方――少し前に遡ると‥‥教室ではラナが教師と話していた。
「バグアが悪逆非道‥‥というのは、貴方の感情‥‥では、ないですか?」
 感情をその思想を子供達に押し付けているのではないかと教員達に問いかける。
「‥‥君に何がわかる! 行くぞ!」
 依頼者と教師たちが運動所の方へ向かっていった。丁度、モモコの話が終わった所でラナが話すことになった。
「皆さんは‥‥何の為に、生きています?」
 ラナの問いかけに子供達がざわめく。目的はあるものの、その様子から考えたことがなかったのだろう。
「敵を‥‥敵を倒すため‥‥」
 落ち着きを取り戻した子供達からは敵を、バグアを倒すという紋切り型な答えが次々と返ってくる。
「それ‥‥だけでは、息が詰まってしまいますよ」
 友人と遊び楽しむ事、恋愛をし、結婚する事、家族を作り穏やかに暮らす事。そんな話をつとつととするが、聞いている子供達はまるでお伽話を聞いているように見えた。それは、子供達は戦うことしか教育されていない事を示すものだった。
「‥‥少なくとも私は、それを守る為に戦っています」
そんな子供達にラナは語った幸せはお伽話ではなく、身近にあるものだと子供達に気づいてもらえるように語り、そしてそれを守るのが生きる目的だと言った。
「敵を倒す目的だと‥‥いつまでも続いてしまう。人間の戦争がそうでした。だから剣を取るなら、自分の幸せを護る為に‥‥すると、剣を振るう苦しみも多少、我慢できますから」
「だから‥‥皆さんも‥‥生きる意味を、目的を考えてみてください」
 そう語るラナに子供達は「何か」考える仕草でその言葉を聞いていた。そして、ラナによる講義は彼女による子供達に対する問いかけで終わりになった。
 
 離れたところでは――。
教員達は子供達に問いかけ、考えさせるラナの講義を辞めさせようと動き出すが――。
「皆さん 講義の最中です。どうやら此方の講義が其方の意図する事ではないと判断しての行動のようですが、ここは黙って聞くのが宜しいかと思います」
 教員達や依頼主の前にティームドラ(gc4522)が立ちはだかる。
「我々はあなた方のように限定主義な考えを持たないものですから、講義も自ずと多様性に富んだものになるのは当然の事です」
 やや、高圧的にティームドラは教員たちに言い放つ。
「あなた方は知っておりますかな。キメラには様々なモノがあり、時には我々の「食材」と成るものが居るということを――子供達に見せている動画には傭兵達がキメラを倒して美味しく食べている場面は無いようですが」
「何を一体!」
 信じられないと行った風にいう教員たち。
「それに強化人間にしても強化失敗としか思えない強化人間も居るのですが其れも動画には登場しないようですが」
 そう、強化人間もキメラも様々なのだとティームドラは何も知らない教員達へ実例を交えて講義する。
「結論から言えば、自分達にとって都合のよい古い情報で前途ある少年少女達を『洗脳』するとは言語道断ですな」
 グッと息をつまらせる教員達――図星のため、流石に言い返せない。
「どうやら貴方達を救わねば成らないようですな、其の澱み濁り狂気と闇に満ち堕ちた心を」
 憎悪では何も成し得ない、ただ其処にあるのは破滅だと語りかける。
「子の模範となるべき大人がこの体たらくとは御自身の子供にも同じ事をするのですかな」
 覚醒し、上からの目線で、相手に対して嫌らしい笑みを浮かべ問い詰めるのだった。教員の彼らは、何も言えなくなっていた。
 
 ティームドラが教員達を抑えている時――。
 ラナが終わり、錦織・長郎(ga8268)へと交代した。
 憎しみは破滅的な結果を生み、周りにも多大な影響を与え、一度、世界が平和になれば用をなさなくなることを――講義する前に、子供達が置かれていた状況を考えていた。
「くっくっくっ‥‥歪むのはまだ早いね」
気が付かれぬように、そうほくそ笑むと講義を始めた。 
「『約束』について――これは規則でも契約とでも言い換えて構わない」
「言うなれば自分と他者との間と一定の協力してやりたい事について考えを合わせてその考えを守り実行する事だね」
 錦織は約束について子供達に語り始めた。子供達は静かに聞いいている。
「これはあらゆる側面で応用が利き。結ぶ関係が平等もしくは上下でも有り得る事で日常において普遍的なものであるが‥‥」
「ただしだ、簡単なものならともかくして、特に感情を固定化するものに関しては考慮してからだろうか――『バクアを憎み打ち倒す』とかだね」
 約束をする事について慎重になるように子供達に話しける。子供達は何かを考えているような雰囲気だ。
「基本的に『約束』は破ってはいけないものだが、事項が状況に見合わなかったり、守る意思が失われたら等、無理ならば結ぶ価値が無くなったと見做して良いだろうね」
 結んだ約束は無理に履行することなく、状況にあわせて結びなおすかその履行を辞めてもいいと語りかける。『約束』は絶対だと思っていた子供達には衝撃的だったのだろう、ショックな表情をしている子供も見受けられた。
「つまりだ受け入れるものは吟味したまえという事さ‥‥あとは自己判断だね」
 自己の責任において、約束をするのも、守るのも、辞めるのも自由だと語りかけた。

 錦織のあとは李・雪蘭(gc7876)が子供達の前にたった。
「私はバグア政権下で暮らしてた。バグアは強く、私達はそれに従うと生き方すべきと息子と娘に教えた。バグアに子供連れていかれた時すらも、それに従った」
「だが今、私は能力者としてバグアと闘ってる。息子と娘にもし会えるなら、戦場が一番可能性高いから‥‥ただ、それだけ」
 李が語りだした言葉に子供達は衝撃を受けている。
「今此処に居る私は、君達にとって善かもしれない。だが『過去はバグア側に居て、バグアに我が子捧げた悪』とも見れるだろう?」
 黙って李の語りを聞く子供達。
「4年前の私は『子供を諦める』道選んだ。親バグア派の夫を殺し、子供と共に故郷を捨て逃げる道もあった。だが、半年前の私は『人類側になり、戦場に立って子供達捜す』道選んだ」
「能力者適性を手にスパイとなり、バグア側として生きる道もあった。善悪はその個体や組織を言うのではない。自分がその『思考』に対してどう思うか、だ。」
「私はバグアは悪だと思うし、憎い。友を殺され、子供を連れ去られ、生きる意味失った生活してた。だが同時にそんな環境で『バグアは唯一絶対の従うべきもの』と子供達を育てた私の行為も、また悪だろう」
 チラホラと混乱している子供も居るようだ――何が悪で何が善なのか――。
「思考の選択を奪う事は、心を奪う事。ただ一つの思考の為だけに行動する生き物を育てる事、バグアが作り出すキメラや強化人間と何が違う?」
 その言葉にショックを受ける子供達。そう――自分たちが敵と変わらないと、言われているような気がして。
「私は戦場で息子と娘に会えたなら、自分自身の意思で選択した人生を歩んでくれている事を切に願ってる。例え思考の違いから殺しあいになっても」

 李の講義が終わり――最後に立ったのは夢守 ルキア(gb9436
「私は、先生じゃない。皆と一緒に考え、感じる。いーい?‥‥じゃ、お話開始!」
 子供達の様子を見て語りだす夢守。
「私もバグアも、生きるタメに殺す。バグアはヒトを害する、じゃ、ヒトは?」
 左足のズボンをたくしあげ、ケロイド状の傷を見せる。
「昔、対人傭兵だったんだ、拷問でヒトにやられた。ヒトも、非道を行う。戦略か、趣味かはワカラナイ」
「でも、私は彼等を憎まない。彼等には彼等の、私には私の理由がある。バグアもヒトも、愛してる」
「個々の考え方があって、私はそれをセカイって呼んでる」
 用意した白板に地球等を書いて、ケビンがWorldと書く。
 子供達は白板を見て静かに聞いている。
「共有する『世界』と一人一人の感じ方、それが『セカイ』さ。きみ達は、きみ達のセカイを持ってる」
 夢守は大きな人を書き、ケビンはWorldと書く。
「バグアは極悪、人間が正しい。そんな『定説』に縛られないで。きみ達は自由に感じて。私、ルキアが許しちゃう」
「お話終わり。さ、遊ぼう!誰だって、生きているのは今なんだ」
 こうして、夢守と子供達、他の傭兵も混じって一緒に遊ぶことにした。
 大人によって思考に介入されたとしても、子供は子供、やはり遊ぶというのが好きなようだ。
「ビジネス内容は講義。バグアが非道な理由は『生きるタメ』と説明した」
「きみ『も』正しい、でも、きみ『が』正しいワケじゃない。痛みは、口にして共感して貰わなきゃ。押し付けじゃ孤独になるダケ」
苦い顔をしている依頼人達へルキアは言うとまた、子供達の所へ戻っていった。

何が悪で何が善なのか――それは子供達の判断に任せられることになるだろう。
少なくとも――大人たちがこの事に介入することは難しくなった。