タイトル:【DD】ドゥルガー起動マスター:後醍醐

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/01 05:54

●オープニング本文



 デリー近郊
 46センチの主砲を持つ巨大な戦車に近い形の移動攻撃要塞「ドゥルガー」。
 其の巨体と突進力を生かしてデリーのメトロニウム城壁を攻撃しようとしてた。
 
 そして、UPC軍は――ドゥルガーを攻略しようとしていた。
 
 デリー近郊上空
 UPC軍のKV機の大隊がドゥルガーに向かって巡航していた。
「敵主砲を破壊するだけの簡単な作戦だな!」
「相手は鈍亀だ。そうそう当たりゃしないさ」
「サクっと終わらせて帰って酒飲もーや」
「この作戦が終わったら。故郷で挙式するんだ」
「おい、やめろ」
「馬鹿、やめろよ。縁起ワリーな」
 軽口を叩きながら――何時もの様に終わると楽観していた一団だったが‥‥。
 地面を揺るがすほどの轟音が辺りを轟かせる!
 その轟音は――ドゥルガーの主砲から上がる白煙から確認できた。
「なんだ?」
「あんなの当たりっこねーって」
 そう、「普通」の砲弾であれば。
「!?」
 KVの全面で炸裂する三発の46センチ「対空榴弾」。
 其の幅広い散布界と三発ということで濃厚な弾幕が彼らを襲う。
 刹那――
 運が悪い機体はコクピット直撃し、そうでなかった機体も次々と其のほとんどが撃墜していった。
 
 この事態はUPC軍を焦らせた。
 少なくとも投入した戦力の質としては一般的なULTの傭兵と同じ質だったからだ。
 二次攻撃は中堅レベルの兵士を集めて攻撃がなされた。
 
 第二次攻撃隊
「奴さん、まだ隠してるのがあるかもしれないから気をつけて行くぞ」
「ああ、盾も持ってきたから盾役と攻撃役と別れて攻撃すれば何とかなるだろう」
「ま、このミサイルの弾幕で何とかなるじゃね?」
 命からがら生き残った機体に残された映像を元に作戦を練って攻略当たる第二次攻撃隊。
 まずは――
「それ来たぞ!」
 盾役が盾を展開して其の内側に退避する攻撃隊。
「クソッ!」
 相当、盾も損耗し後、二撃で使い物になりなさそうだった。
「反撃開始だ!」
 攻撃隊のKVから放たれる各種ミサイルの弾幕、其の濃さは相当のものだった。
 が――
 ウィーーーン
 パルスレーザーの音に続いてミサイルが迎撃される事による轟音が轟く!
 わんさかと設置されている「全自動パルスレーザー」の砲台が其のミサイル弾幕を「全て」なぎ払ってしまった。
 次の瞬間!
 攻撃隊の一機が大型プロトン砲の十字砲火を喰らい錐揉みになりながら墜落していった。
「!?」
 慌てて後退する一団。
 時既に遅し、超長距離用狙撃ポジトロン砲がKV二機のコクピットを貫く。
 爆散して撃墜されるKV。
 爆炎が晴れて現れたドゥルガーの姿。
 46センチ砲を三連装一基を搭載し、大型プロトン砲を三基、プロトン砲を五基、超長距離用狙撃ポジトロン砲を二基‥‥そして全自動パルスレーザーが二十基という物々しい装備だった。
「て、っ撤退!」
 隊長機らしき機体が撤退を促し、撤退していく。
 殿に大損害を受けながら撤退していった。
 こうして二次攻撃隊の攻撃は頓挫した。
 
「どうするんだね! この事態を!」
「一度とならず二度までも!」
 相次ぐ失敗に会議室は紛糾していた。
「彼ら中堅でやっとと言う相手。 ベテランパイロットで相当の機体でなくては攻略は難しいでしょう」
「軍のベテラン勢は他に取られてるぞ」
「そこは、彼らに依頼すればいいかと思います」
「ま、こういう時のULTだな」
「ところで、弱点らしきものはあるのか?」
「知覚系と砲弾系の実弾はダメージを与えれそうな感じですね」
 KVから発射した砲弾と知覚攻撃がダメージを与えている動画が流れる。
「ミサイルを迎撃している砲台を潰しさえすれば、後はましそう‥‥と言っても弾幕が当たるぐらいですが」
「兎にも角にもだ! 相当数動員して攻撃しなければ無理だ!」

●参加者一覧

/ 白鐘剣一郎(ga0184) / 榊 兵衛(ga0388) / 鳴神 伊織(ga0421) / 須佐 武流(ga1461) / キョーコ・クルック(ga4770) / アルヴァイム(ga5051) / L3・ヴァサーゴ(ga7281) / 菱美 雫(ga7479) / 伊万里 冬無(ga8209) / 乾 幸香(ga8460) / 狭間 久志(ga9021) / エリアノーラ・カーゾン(ga9802) / 大鳥居・麗華(gb0839) / ヨグ=ニグラス(gb1949) / 赤崎羽矢子(gb2140) / 狐月 銀子(gb2552) / 鹿島 綾(gb4549) / 番場論子(gb4628) / ソーニャ(gb5824) / 佐賀 剛鉄(gb6897) / 佐賀重吾郎(gb7331) / 館山 西土朗(gb8573) / ジャック・ジェリア(gc0672) / D‐58(gc7846) / 吉本 (gc8648

●リプレイ本文

●デリー近郊
 ドゥルガーを攻める傭兵達。
 ベテランも含めた25名という大部隊でドゥルガーの主砲塔の攻略に当たろうとしていた。
 そのドゥルガーは巨体を生かしてデリーの街の蹂躙を狙い、主砲塔で破壊を狙っていた。

 接敵を感知したドゥルガーは早速、その46cm三連装が火を吹いた!
 地を揺らす轟音があたりに響く。
 そして花開く榴弾の弾幕。
 事前に知っていた傭兵達は距離もあったこともあり、危なげなく回避した。
 その攻撃を合図に傭兵達も攻勢に入った!
 が――。
 敵もさる者、針鼠とも言える兵装の火力は絶大で、且つ連携も取るという状態だった。
 故に、傭兵達は全機でドゥルガーに対して当たるという作戦を取らざるを得なかった。
 敵の左右に分かれる事により、砲撃による的を絞らせない様にする為に大きく部隊を二隊に分けて当たることとした。
 そして、左右からの攻勢以外に高高度からの奇襲という初手を選択した傭兵達がいた。

 主砲塔の仰角が限られている、と言う点を突いて乾坤一擲の奇襲爆撃への参加はアルヴァイム(ga5051
「行くよ久志っ、フォーメーションラブアタック!」
 気合十分なキョーコ・クルック(ga4770)。
「フォーメ‥‥あぁ『つがい飛行』って事ね。いつも通りじゃない」
 そんなキョーコに笑う狭間 久志(ga9021)。
「どんなのだってさっ。避けきるわよ、Silver Fox!!」
 幸せな二人の友人に、「フラグ」なんて言うのがたっているとは信じたくない狐月 銀子(gb2552)。
 この四機だった。
 銀子は煙幕をばら撒いて視界の阻害を狙い、アルヴァイムと狭間が援護に入り、キョーコ自身もラージフレアをばら撒き回避に気を使った。
 万全の準備を整え、体制を立てたが、最大の武装の弱点に対しては相手も無策ではない。
 主砲塔の周りには、パルスレーザーやプロトン砲塔などが密に配置されていた。
 4機という機数で挑むには濃密すぎる迎撃が彼らを出迎えることとなった。
 そう――当たれば一般の機体であれば落ちるほどの攻撃力がある火砲に寄る迎撃だ。
 幾条の閃光が彼らに向かい、そして、伸びていきその装甲を焦がし吹き飛ばす。
 特に――Gプラズマ弾を投擲しようとするキョーコを執拗に狙った。
 殺到する敵の攻撃。
 伸びるパルスレーザーとプロトン砲の光の筋。
 被弾や攻撃の接近に警告音がけたたましく鳴り響くキョーコのコックピット。
 そして、高高度からの降下による効果で加速するキョーコの機体。
 「全弾もってけっ!」
 揺れるコックピットで投擲のボタンを押し、ドゥルガーの甲板スレスレで機首を引き上げ離脱した。
 通常の機体なら撃墜、あるいは操作不能になって衝突するダメージのレベルではあったが、かろうじて飛行はしている。
 それでも8割近いダメージを受けて戦線から離脱することとなった。
 一方、突入している三機も濃密な火砲によって迎撃を受け、殺到する攻撃を全て回避できるわけで無かった。
 故に、相応のダメージを受けることとなった。
 確かに、煙幕やラージフレアは有用だった。
 だが、敵の迎撃が其れ以上に苛烈だったのだった。
 精鋭4機による奇襲が無意味であった、というわけではない。むしろ逆だった。
 四機の高高度からの突入によって、多くの火砲が上に向いた間に、接近した残りの各機が守りの薄くなったルートを選び、突入した。
 残るプロトン砲塔が火を噴き、各機被弾はするものの、侵入ルートの指示が適切だったために追い込まれる事はない。
 ダメージを受けることは有っても、もっとも危険なアプローチタイミングで撃墜された機体は無かった。

 射程内に敵を捉えた傭兵達と、ドゥルガーの攻撃が錯綜している。
「なんと陸を進む戦闘艦とは‥‥平野でしか使えん代物だ」
 と、ロケット弾で攻撃をするB班、佐賀重吾郎(gb7331)。
「また随分と物々しい装備だ事で‥‥」
 同様に、ロケットをばらまく鳴神 伊織(ga0421
「対空として完璧な砲火が待ち受けてますが、これらを撃ち崩してこそ攻略の目処が立ちますね」
 番場論子(gb4628)はドゥオーモをパルスレーザーに放つ。
 ミサイルとロケットが放たれるも、多量のパルスレーザーによって迎撃され、薙ぎ払われてしまった。
 そこまでは予定通り。そちらの迎撃に割かれの密度が薄くなった所を、伊織が追い討ちの狙撃を行う。
「まずはパルスレーザーを破壊して対空弾幕に隙間を作る。PRM―P―Mモード、行けーっ!」
 ブーストで接近し、回り込んだ赤崎羽矢子(gb2140)が肉薄し、レーザー砲塔を叩く。
 打ち返してくるパルスレーザーや大小プロトン砲塔の火砲をスキル使用で防ぐ伊織、そして、羽矢子は回避を行った。
 何とか防ぎきる両機だが‥‥。
 スキルは大技、故に何度も、あるいは何十回も使えるものではなかった。長期戦になれば不利は否めない。
「ドゥルガーか‥‥我々からすれば、これ程の初見殺しは早々ないな。ならばこそ、ここまでの犠牲を無駄にはしない。必ず討ち取ろう」
 白鐘剣一郎(ga0184)は払われた犠牲に答えるように攻撃を仕掛ける。
「ドゥルガーを止める為にも何としても敵の砲台を沈黙させなくてはならないな」
 犠牲を厭わぬ姿勢で臨む榊 兵衛(ga0388)。
 この二機もまたパルスレーザー砲塔を狙い打つ。
 しかし、その数とパルスレーザー砲塔にもそれなりの耐久性があるようで、一撃、あるいは二撃で破壊に至ってない。
 まだまだ大多数が残っているパルスレーザー砲塔もKVの迎撃を試みる。
 そうしているうちに、爆撃を行なっていた銀子、狭間が合流をするもバグアの砲撃もまとまり始める。
「総員退避!」
 菱美 雫(ga7479)の警告で各機退避行動に入る。

 同様にA班側では――
「すごいね、流星皇、忠勝、字、空飛ぶ剣山号、モーニング・スパロー、etc‥‥、有名機がいっぱいだぁ。ボクのしゃしゃりでる番はないね。がんばってバックアップするよ」
 ソーニャ(gb5824)は味方の機体に驚きつつも、バックアップすることで力になろうとしていた。
「ロケット弾攻撃で多少なれど撹乱出来るとええんやけど」
 佐賀 剛鉄(gb6897)は祈る気持ちで攻撃をする。少し下がると。
「酷い場所ですっ」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)が熾烈な戦闘につい本音を漏らす。
 この三機でミサイルとロケットが打ち込まれるが――B班のそれと同様、レーザーの矢衾に全弾撃ち落される。
 短射程とはいえパルスレーザーは人類側よりも射程が長く、そして一撃、一撃は弱いものの攻撃力があった。
 小口径のパルスレーザーとはいえ、ここまで数が有れば傭兵達のKVにとって脅威となりうる。近づきすぎるのも禁物だ。
「敵がバグアの兵器である以上、わたしと『バロール』も少しは貢献できるはず。皆さんを少しでも生き残らせる為全力を尽くします」
 ロックオンキャンセラーを発動し、敵の狙いを低下させる乾 幸香(ga8460)。
 ミサイルやロケットで迎撃を誘発し、その隙を狙うというのはA班同様。違ったのは、彼女の一声だった。
 1つの砲台を集中で狙うよう指示し、自身も率先してスナイパーライフルで攻撃をはじめる。
「巨大戦車ってか‥‥陸上戦艦よねアレ‥‥ドゥルガーだっけ? あのデカ針鼠。蜂の巣にされないように気をつけないと」
 彼女の護衛役のエリアノーラ・カーゾン(ga9802)もそれに同調して攻撃をはじめる。
「そう簡単には墜とさせませんですから♪」
 伊万里 冬無(ga8209)はそんな各員に対して近接ルートの指示を出す。
「さあ、私達の連携を見せる時ですわよ! 今回は伊万里には期待してますから頑張ってくださいな!」
 伊万里機からの指示でルートを見つけ、接近した大鳥居・麗華(gb0839)。
「‥‥行きます」
 遅れてD‐58(gc7846)も同一の砲塔へ攻撃を開始、乾とエリアノーラの攻撃に続いて二基目のパルスレーザー砲塔を破壊した。
「幸香のことは私が守るから」
 エリアノーラはまだ続くであろう戦いで幸香を守り切ろうと思っていた。
そんなことを思っていた矢先に――。
 しかし、大型プロトン砲塔が熾烈な応射を開始、攻撃の基点となった乾が執拗に狙われる。
「危ないッ!」
 エリアノーラがカバーに入るが、範囲攻撃の十字砲火を防ぐのは困難だ。
「ッ!」
「キャァ!」
 迫り来る大型プロトン砲塔から発せられた光帯が両機を挟み込み薙ぎ払われる。
 十字砲火によりRCキャンセラーを使える乾ともども大破してしまい、止む無く、戦場から離脱に追い込まれることとなった。
 KVの武装を切り詰めていた吉本 (gc8648)が誘導に入り、離脱した乾とエリアノーラはなんとか戦域外まで飛行し、不時着するに至った。
 爆撃後の退避機動から再び戻ったアルヴァイムが合流したのはその直後だった。

「蟲、城、島と来て今度は要塞か‥‥」
 もう一機のイビルアイズである館山 西土朗(gb8573)は自機の特殊能力の貴重さを把握しており、前へ出ようとはしなかった。
 ドゥルガーが狙おうとしても、距離を盾とし防御に専念した機体は容易にはつかまらない。そして、視野の広い後方からの誘導は、前進している仲間により適切なルートを指示する事に繋がる。
 迎撃がA班より甘いという訳ではないが、結果として受けた被害はB班の方が少ない。
 業を煮やしたのだろうか。再装填を終えた主砲塔は意外な旋回速度でB班を狙い砲撃を行った。
「主砲の攻撃を感知!」
 が――銀子に指示されていた西土朗がその動きに警告を発する。
「落とさせないわよ!」
 B班は初手でダメージを受けつつも中央をキープしていた銀子機が、ラージフレアをばら撒いた。
 広範囲を一掃する砲撃ゆえに、主砲の砲撃への効果は期待できないが、同時に退路を断とうと放たれたプロトン砲の狙いを僅かにそらす。
「緊急回避ッ!」
 羽矢子は急降下で退避し、回避した。
「ぬおっ!」
 中心から距離のあった重吾郎はシールドを使い、防御をした。
「無念、だけど‥‥ここまでだわね」
 回避指示を出した銀子自身は、先のダメージと重なって限界点を超え、無念な感情と共に後退を余儀なくされてしまった。
「クッ!」
 伊織も退避しダメージを減らしつつ、砲口を敵主砲へ向けるが、どうもタイミングが合わない。

 その攻撃を、あえて観測に回っていた傭兵もいた。
「さて、無理が通れば犠牲も消耗も減るが、通せるかどうかは腕次第ってとこか」
 主砲の動きを、西土朗から伝送されていたジャック・ジェリア(gc0672)。
 今回の砲撃から装填速度の確認を行い、発射までの熱量変化などからタイミングを計るつもりだった。
「帰ってくる約束なんでね。それに、お前らごときにやられてる場合じゃねぇ」
 そう嘯く須佐 武流(ga1461)へ情報を伝達し、2人のスナイパーは主砲の次の射撃機会を狙って、戦場を大きく移動する。

「やらせないッ!」
 圧倒的な回避力をもつ狭間は、片翼と引き離された怒りをぶつけるように、単機にて戦艦に肉薄する。
 ソードウィングでもって一撃離脱を繰り返し、方々にダメージを積み重ねていく。
 もちろんドゥルガーの近接防御火器であるパルスレーザー砲塔の攻撃も苛烈で、無傷とは言わない。
「‥‥こんな物を造って悦ぶのね、貴方達は!」
 同じく単機で戦果をあげていたのは鹿島 綾(gb4549)だった。
 敵艦に近づくまではA班と同行していた綾は、仲間が低空へ降りる中、戦場を俯瞰すべく高空へとどまった。
 頭上からの砲撃で、ミサイルの自動迎撃と狭間の迎撃に忙殺されたパルスレーザー砲塔を狙い打っていく。
 パルスレーザー砲塔に着弾し爆発する砲撃。
 高空からの狙撃ゆえ、さすがに全弾命中とはいかないが、相手は置物だ。いずれは当たる。
「敵、攻撃が来ますですわよ!」
 しかし――うるさく感じたらしい幾つかのプロトン砲塔が彼女を向いた。伊万里が警告を出す。
 刹那――。
 太い光線が伸びた。狙いの甘い方角を咄嗟に見切れたのは警告ゆえだろう。しかし、単独機へ仕掛ける罠は、二重だった。
「危険ですっ!」
 遅れて気がついたアルヴァイムが警告の声を上げたときには遅く、長距離狙撃用ポジトロン砲が火を噴く。
「キャア!」
 綾は激しく揺れるコックピットで短い声を上げると錐揉みになりながら墜落していった。
 だが、彼女を撃墜に追い込むまでに使われた砲塔が多いほど、それ以外のKVがその間自由を得る道理だ。
 対空攻撃が甘くなった隙に、パルスレーザー砲塔がまたもや沈黙し傭兵側は撃破カウントを更新した。
 それだけでは、ない。

「‥‥この攻撃は無駄にならなかったのですわ」
 綾の撃墜の際に狙撃砲の位置を確認したのは、A班の伊万里のピュアホワイトだった。
「斯様なるもの、放置はできない‥‥確実に、撃破する‥‥」
 伝達されたL3・ヴァサーゴ(ga7281)は、鋭角な軌道で攻略すべく狙撃砲へ向かっていった。

 伊万里、麗香からの援護を受けるヴァサーゴ。
 しかし、電子戦機であり、また特殊能力の発動中は性能が落ちるため、やや下がり気味の位置を志向した伊万里とその護衛の麗香はヴァサーゴからわずかに離れていた。
「‥‥え、まだ前に出ますの? まだパルスレーザーは健在、危険ですわ」
 言われる間も狙撃砲を見据え、進むヴァサーゴ。
 彼女はその砲台の排除が後回しになった際の危険を認識していた。
 それが戦場にあれば、電子戦機がまず狙われたやもしれない。
「確実な撃破の為に‥‥距離を詰める。‥‥必要なこと」
 距離の分伊万里と麗香がわずかに遅れてしまい、側面の砲塔への対応が間に合わなかった。
 数は減りつつ有るも、まだまだ大量の火砲がヴァサーゴを狙う。
 側面のプロトン・パルスレーザー砲塔から撃ち出される光帯。
 被弾の影響を最小にとどめつつ、狙撃砲のみを見据えて、ヴァサーゴは攻撃をする。
 彼女の砲撃と同時に放たれた狙撃ポジトロンの攻撃を、回避することに成功した。
 しかし、周囲からの攻撃が収束してくる。
「‥‥ック!」
 その攻撃に対して回避を試みるが、回避しきれず撃破され墜落してしまった。
 だが、撃墜と引換――ではないが、ヴァサーゴが攻撃した狙撃ポジトロン砲台一基は撃破されて沈黙した。
 ポジトロン砲の仇討ち、などという感情がバグア砲台にあるのかは定かではない。
 どちらかといえば目立つ赤と白のカラーリングのせいか、伊万里と麗香のところまで光線は飛んでくるようになった。
 二機に収束しつつある敵の砲塔による光線。
「一時、後退しますですわ!」
 継続しての損傷が重なっている。後退を想定していたダメージラインを、既に超えていた。
 自らによる攻撃の機会は諦めて、麗香のエスコートにて後退する伊万里。
 二人の唇は、きつくかみ締められていた。

 戦況は――。
 危険度の高い狙撃砲やレーザー砲台の幾つかと引き換えとはいえ、この時点でA班側の戦力は半数以上が撤退や後退、あるいは墜落・撃墜により前線から消えたこととなり戦力が半減していた。
「危険な兆候を感知」
 皆の戦闘中、砲塔を観測していたソーニャは大型プロトン砲塔がパルスレーザーと連携して右翼へ向くのを察知して発報した。
「定数減の為、一旦、後退を進言します」
 数が減ったところを追い込まれる危険を避けるべく、伊万里らに続いての一時後退を指示する。
 パルスレーザー砲塔の射程から逃れれば、注意すべき敵砲は大きく減り、つまり生き延びる可能性は大きく上がる。
 A班が、というよりは右翼側のKVが一機でも多く生き残ることが、残る味方への火力集中を妨げる、と彼女は把握していた。
「当たりさえしなければ、どうってことはありません」
 損傷を受けつつも機動は衰えないアルヴァイムが派手なシザース機動でパルスレーザー砲塔をひきつけている。
 その隙にソーニャ、佐賀 剛鉄、D‐58の順で後退していく。
 が――。
 後退している機体に、もう一門の狙撃砲が狙いをすまして飛んでくる。
 撃ち出される狙撃ポジトロン砲塔の光を回避する三機。
 二機は回避できたものの‥‥剛鉄に攻撃があたってしまうが、可動盾でかろうじて耐えた。
 そんな状況で後退する部隊に対して今度は主砲が向くが、その動きを待ち構えていた須佐とジャックが急行する。
「させはしない!」
「させるかっ!」
 西士郎が位置を予測し、データを送る。そのデータで榴弾の一発を横から狙撃しようというのだ。
 榴弾を狙撃――そうそう当たるようなものではない。だが、二人のどちらが当てたのかは判らないが、奇跡的に破壊に成功する。
 視界に広がる爆発。
「――やった、か?」
「砲撃来る! 対衝撃!」
 瞬間、ソーニャが警告を発報する。
「クッ!」
「おっ!」
 榴弾の狙撃に全力を集中していた二機が、榴弾の爆発の爆風に叩かれ、機体が激しく揺れる。
『Warning! Warning! PULL UP! PULL UP!』
 武流機のコックピット内ではけたたましく警告音が警告を発し、高度計が急激にその数字を減らしていく。
 ドゥルガーの主砲口は三門、その全てが同じ弾道でくる、とは限らない。ドゥルガーは彼ら二機の位置も把握していた。
 まとめて狙わない理由などない。耐久力のあるジャックは撃墜まではいかずとも武流機は手痛い損傷を受けた。
 武流機は、攻撃を受けて大破に陥り、榴弾の衝撃で気絶したまま、コクピットブロックが射出される。機体は墜落した。
 しかし、彼らの援護の間に危険な状態を抜けたソーニャらは、距離をとりなおすことに成功する。
 後退した彼女の位置からは、冷静に大局的な状況が確認できていた。防御の主たるパルスレーザー砲塔を優先に据えた攻撃は、戦果を挙げている。
 更に飽和攻撃をかけるだけのミサイルが、あるいはミサイルを撃てる機体が残っていれば、プロトン砲塔や狙撃ポジトロン砲塔を圧倒できたかもしれないが、今の状況では難しかった。

 B班は、A班よりも戦況はましだった。
 攻勢により後退したのは2機で、いまだ多くが健在している。とはいえ、武装が厚い戦艦に張り付いて攻撃し続ける、などという離れ業ができるのは狭間程度だ。
 その狭間も、攻撃に入るたびに各砲塔による回避しきれぬ攻撃が少しづつダメージを与えていき、蓄積していく。
 レーザー、プロトン、大型プロトン、狙撃、といった砲座をある程度破壊してから、主砲を攻撃し撃破する。
 それが作戦であり、犠牲と奮闘の甲斐あって、敵艦へダメージも蓄積はしていた。
 後退した友軍の戦力と、無力化した砲台の数を思えば、わずかだが勝っているかもしれない。
「このまま、やれるわよ!」
 麗香が発したのは、景気付けではなく事実だった。このままの作戦を進めれば、数分を経ずしてドゥルガーを無力化できる。
 それはドゥルガーを指揮するバグア、ナラシンハにも見える未来だった。
 ドゥルガーはデリー攻略の為の兵器だ。そして、交戦開始時点で、主砲の射程は既にデリーを捉えている。
 そのことは――出撃前に解っていたはずだった。

 主砲塔が、再度、その重厚さの見た目に反して素早く動き出した。目標はA班、でもなくB班でもなかった。
「!?」
 気づいたのは前線管制の雫、あるいはソーニャよりも羽矢子がはやかった。砲塔が向いているのは、彼らではなくデリーだ。
 増援を気にしているばかりにデリーという単語は、管制機やドゥルガーの弾道計測に当たる各機から抜けていた。
「しまっ‥‥」
 気づいた羽矢子も、間に合わない事に歯噛みする。
「うぉおおおおおおお!!」
 止めようとジャックが動くが、間に合わない。
 ズン、と、轟音が響き、その後、連続した一斉斉射によりデリーへと砲弾が飛ぶ。
 飛行中のKVから、その着弾までの様子が目視できるのはある意味、辛い事だった。
 雫が、重吾郎が、ソーニャが、彼らが観測、いや見たデリーの様子は阿鼻叫喚だった。
 46cmという巨大な砲弾がデリー城壁に炸裂し、強靭を誇っていた城壁が崩壊する。
 バグア包囲下において、市民が心のよりどころとしていた難攻不落の壁が、あっさりと崩れ落ちる光景は衝撃だった。
「おぉ、壁が壁が‥‥」
「お母さーん!」
 其れは老いも若き女性も子供も差別することなく彼らに怪我を負わせ、または死へと追いやる。
「か、壁が! あ、あり得ないっ!」
「ここは安全地帯じゃなかったのか!」
「UPC軍は!MahaKaraは! ULTの傭兵は何をしているんだ!」
 特に信頼していたMahaKaraに対する罵声が酷かった。
「人殺し!」
 ドゥルガーの攻撃に不安になっていた住民がパニックに陥り、混乱し、それによってケガをするものも出ていた。
 攻撃を許してしまったが故に――主砲を排除して守るべきものだったデリーに甚大な被害がもたらせてしまった。
「これ以上、砲撃されると焼け野原になってしまう」
 論子は攻撃から予想されるシミュレーションから最悪の事態が起こり得る事を皆に伝えた。
「敵艦、進路を変更‥‥。壁の隙間へ突っ込むつもりか?」
 西士郎がうめく。生き残りのプロトン砲塔をハリネズミのように振り立ててKVを威嚇しながら、戦艦はその巨体を以ってデリーを破壊せんとするため速度をあげた。

 これ以上、進ませるわけにはいかない。
 管制を通してデリーの惨状を目にした傭兵達は覚悟を決めてドゥルガーに攻撃に当たる。
「これ以上は、これ以上はさせてはならないッ!」
 兵衛は是が非でも主砲を止めなければと決意した。まだパルスレーザーもプロトン砲も残ってはいるが――。
「ここが勝負所だ。行くぞ!」
 剣一郎はドゥルガーの主砲を撃破できるのが先か自機が落ちるのが先か賭けて挑む。
「ぶっ壊れろー!」
 ヨグは憤った。罪のない人々が犠牲になることが。
 三機が攻撃体制に入る。
 決死の覚悟で彼らは攻撃を、吶喊をあげて敢行する。
 それに対して生き残りの砲塔がうなりをあげて要撃する。しかし、その相手を務める者は他にいた。
「犠牲を、これ以上犠牲をださせないよっ!」
 これ以上の悲劇を食い止めるべく羽矢子は攻勢をかける。
 羽矢子の狙いは、幾度か攻撃を加えた大型プロトン砲座だった。雫たち観測機が収拾した情報は後方、西士郎と伊万里が集約している。
 その情報を確認、傷口をえぐるように、プラズマライフルで攻撃を加える。
 数発、射撃を受けたプロトン砲座は爆散した。
 硬いとはいえ、蓄積したダメージで撃破できる。どこに、どれだけのダメージが加えられているかさえわかっていれば、効果的な攻撃が可能だ。
 一進一退の激戦が繰り広げられている。内部突入班の活動も、本格化しているはずだがまだ敵艦の動きは止まらない。
 いや、指揮官を討ち取り動力を止めたとしても、あの砲台が機能停止するという保証はないのだ。
「‥‥私たちで、あの砲台を、何とかしないと‥‥!」
 が――。
「!?」
 一条の光が雫の機体に吸い寄せられるように届き、そして、貫いた。
 瞬く間に炎上、爆発して撃墜する雫機。
 前線での情報の基点と見抜いたのだろう、それを狙っての攻撃だった。
「おぉおおおおおおおおおおお! 菱美殿!」
 雫機の撃墜を確認すると、重吾郎が観測を即座に引き継ぐ。
 感傷に浸っている場合ではない、今はそれが先決だった。
「二度とデリーに被害を出させない」
 管制そのものは、後方の西士郎のままで混乱は無い。伊万里も機体の演算力を活用している。
「アレさえなければっ!」
 ポジトロン狙撃砲塔を側面から論子が潰しにかかった。
 論子の行く手を阻むパルスレーザー砲塔を伊織が潰しにかかる。
「僕がハヤブサだ‥‥!!」
 狭間が、何度目かの近接アプローチに入った。これまで幾度も戦艦へ切り込んだ彼の機体の損傷は少なくない。
 これ以上ダメージを受ければ危険な状況だが、彼には今いくべき道が見えている。
 主砲周辺の対空砲の配置は覚えていた。キョーコの放った爆弾が焼き払った場所も。
「これでどうだっ!」
 兵衛が残余のレーザーを掃射しつつ、螺旋弾頭ミサイルを放った。
「南無三!」
 剣一郎がGプラズマ弾を低空から叩きつけるように放り込む。
 生き残りの大小プロトン砲塔の反撃は熾烈だが、あえてやや下がり気味に位置していた二機は、これまで受けた損傷が少ない。
 二人の攻撃力を危険とみたのだろう。目標を絞ろうとする砲台へ、とって返したA班が攻撃を再開した。
「この経路でいけば迎撃が薄いです」
 進入経路をソーニャが選定し。
「ダメージが効いているのを選定しますです」
 攻撃目標を後方で観測する伊万里が指示。
「これで、どないやっ!」」
 剛鉄が残り少ないパルスレーザー砲塔へロケット弾を撃ち込んで目くらましにした。
「ラージフレア展開。目標攻撃」
 温存していたラージフレアをかく乱使用して接近したD‐58が、傷ついていたプロトン砲塔を残骸に変える。
「焼かれろ!」
 兵衛がフレア弾を投下した。
 あたりに広がる高温な紅蓮の炎に焼かれる主砲。
「セイヤァー」
 剣一郎が垂直降下、そのまま変形して切付けた。
「いっけー!」
 一旦低空へ下がったヨグは真正面にならないように位置取りした。スキルを使用し、ソードウィングを展開する。そのまま全速で主砲を、そしてその先の上空までを切り裂いた。
 二方向から切りつけられた主砲が炎を上げて沈黙する。
 それでも残るプロトン砲塔でKVを撃とうとしていた陸上戦艦が、突然速度を落とした。
 内部の潜入部隊が役目を果たしたのだろう。

 最終的に、主砲の破壊には、成功した。
 しかし、デリーへ撃ち込まれた砲弾は、その外壁を損なった。
 死者も、相応に出ている。
 デリーを襲った巨体が息絶えた事に、デリー市民は喜びの声をあげるだろう。
 悲しみがいえた頃には。