●リプレイ本文
「こんにちは、今日はよろしくお願いします」
キング(
gb1561)は始めに報道陣に挨拶をした。緊張の滲む顔であった報道陣の人々は、彼の言葉におずおずと頷く。
雲南省で報道チームに合流した彼らは早速車に乗り込み、達州市付近まで移動を開始した。車の窓から外を警戒している麻宮 光(
ga9696)は周辺の安全を確認する。今の所ところ、何も無さそうだ。
「達州市まで無事に着けそうですね」
「ああ。だが、本番はここからだ」
エネルギーガンを脇に抱えているカララク(
gb1394)は言った。
報道陣の向かいに座っているナンナ・オンスロート(
gb5838)は努めて冷静に彼らに向かって口を開いた。
「これから激戦区に入ることと思います。私達は全力で護衛に当たりますが、報道を優先するあまりこちらの指示を無視した行動には責任を持ちません。私達と違い、あなた方は些細なことで命を落としてしまいます。そのことを、どうか忘れないで下さい」
微笑して容赦なく事実を言い放ったナンナに、報道陣は一様に生唾を呑み込んでしっかりと頷いた。
車からは達州市近郊で降りることにした。市からは既に嫌な空気が流れてきていたが、彼らは慌てることなく各々準備を済まし、手順を確認してから任務を開始した。
まずは、先行するカララクとキングが揃って隠密潜行を使用して気配を殺した。後方の仲間に軽く手を挙げて、素早く市内に潜入する。
五分待って、異変が感じられなかった彼らは麻宮と弧磁魔(
gb5248)が報道陣の前に立ち、ナンナと世史元 兄(
gc0520)が後ろに立つ陣形で市内に入った。
「これは‥‥嫌な光景ですね」
ナンナが眉を顰めた。まさに映像に残すに値する破壊っぷりだ。入口付近でこれなのだ、中心部は更に激戦となっているだろう。
「よし、この道は大丈夫そうですね」
双眼鏡でカララクの手信号を確認した弧磁魔が仲間に合図する。このまま直進して大丈夫なようだ。
一行はよろよろと歩く報道陣を庇いながら市内をゆっくりと直進した。
そうして数分歩いた頃だろうか、戦闘の麻宮がふと足を止めた。
「いますね」
彼の言葉を誰かが確かめる前に、家の壁をよじ登るビッグスパイダーが姿を見せた。咄嗟にナンナと世史元が報道陣を庇う。
「先に行きます」
疾風脚を使用した麻宮が地面を蹴った。手に月詠をしっかりと握り、大蜘蛛に肉薄する。
「援護しますっ」
弧磁魔が大きな声で言った。練成強化が施されるのを待ってから、麻宮は淡く光を放つ月詠で蜘蛛の体を切りつけた。八本もある足を斬り落とす。ぼとり、と蜘蛛が地面に落ちた。
「ひぃ‥‥!」
物陰に隠れていたカメラマンが悲鳴を上げようとして世史元に口を塞がれる。それでもしっかりとシャッターを切っているのは、おそらく報道者としての本能だろう。
蜘蛛の体に刀を突き立てた麻宮は息を吐いた。
「早速ですか‥‥あまり物音を立てたくないのですが」
辺りを警戒して、彼らはそっと物陰から出た。空は晴れて、ヘルメットワームの姿は見当たらない。
「少し急ぎましょうか」
緊張の走る表情でナンナが言った。
出来るだけ早く中心部に行きたかったが、そうもいかないようだ。まもなく、カララクの手信号を確認した弧磁魔が声を低めて言った。
「キメラアントの集団と遭遇したようです。こちらに‥‥流れてきます」
間もなく、かさかさと地面を撫でる虫の足音が聞こえてきた。
先行するカララクとキングもキメラアントとビードルの襲撃に遭っていた。とはいえ、二人は隠密潜行のおかげで比較的早い段階で敵に気づき、物陰に隠れていた。遠距離からの戦闘ならスナイパーの本領発揮である。
前に立つキングに援護射撃で手を貸したキングは、エネルギーガンを連射して脇に逸れたビードルを一撃で仕留めていた。
どこかに巣窟でもあるのかと言わんばかりに、これでもかというほどキメラアントが湧いて出てくる。
「ちっ‥‥まるで中心部から逃げてきたみたいだな‥‥!」
S−01を斉射してキメラアントの集団を蹴散らすキングが吐き捨てた。リロードの時間すらも満足に取れない。物陰に隠れていなければ間違いなく虫の群れに呑み込まれていただろう。
エネルギーガンを一度上げたカララクは、刹那、はっとしたように顔を上げた。その視界の端に、見間違えようもない物が映る。
「キングッ! 隠れろ、ヘルメットワームだ!」
屋外に出ようとしていたキングは踵を返して家の中に入って扉を閉めた。扉を叩くビードル達の音が不気味に聞こえる。
一度解いていた隠密潜行を再び発動させて、二人は息を殺して巡回するヘルメットワームの様子を窺っていた。どうやら、二体並んで哨戒しているらしい。
カララクはこちらを見ている弧磁魔に手信号で事態を知らせた。軽く敬礼した彼は仲間を連れて手近な家に入る。これで全員がヘルメットワームに見つかることはないだろう。
だが、この家を襲撃していた虫達が、弧磁魔達の方へ流れてしまったのである。
「しまった‥‥!」
舌打ちしたカララクは手を振って敵襲を告げた。見えていたかは分からないが、ヘルメットワームが視界から消えたのを確認した二人は、急いで家から飛び出した。
外へ出ようにも、扉を開ければキメラアントが流れ込んでくる。報道陣の人々を部屋の奥に寄せて、ナンナと麻宮、そして世史元は窓から外へ出た。
屋外では、既にカララクとキングが殲滅に当たっていた。半数ほど減っているだろうか、このまま押し切れば問題なさそうだ。
「手伝います」
機械剣に持ち替えたナンナは手近なビードルを一刀両断する。一方で、世史元は壱式を構えてキメラアントを牽制していた。
「僕に纏え蛍火!敵を呼び寄せろ、その妖美な灯りで!」
覚醒した世史元の攻撃に、キメラアント達が標的を変える。集団で襲いかかってきたキメラ達の攻撃を躱して、彼は上手く麻宮の攻撃範囲まで誘導した。
「お願いします、麻宮さん」
頷いた麻宮が月詠を振るう。宙を舞ったキメラを、狙いを定めたナンナが順に撃ち抜いた。背後を狙おうとしていたビードル達は、カララクが二連射で殲滅する。
最後に、部屋に入ろうと扉にかじりついていたキメラアントをキングが撃ち落として、一通りの敵は撃退することが出来たようだ。
「行きましょう」
扉を内から開けた弧磁魔が報道陣を先に出す。
再び、カララクとキングが先行し、彼らは隊列を組み直して中心街へと足早に移動を開始した。
中心街の様子を報道陣が撮影している最中のことだった。突然、目の前の家の扉が破られたかと思うと、巨大なヒドラが襲いかかってきたのである。
「うわああっ!!」
悲鳴を上げたカメラマンを突き飛ばして、ヒドラの攻撃をナンナがヴァルキリアで防いだ。すかさず力を脇に流してやりすごす。その場から退いて、急いで報道陣を物陰に隠した。
「でかぶつか‥‥攻撃が当てやすくて助かるな」
不敵に笑ったカララクは貫通弾をラグエルに装填した。その横を、瞬天速を発動させた麻宮が駆け抜けた。音もなく地を走り、ヒドラの正面に詰め寄る。
「まずは一撃をっ!」
月詠を大きく振るう。ヒドラは体を捻って麻宮の攻撃を躱した。
だが、それを予測していた彼は振り切ろうとする腕を止めて、ヒドラの頭を刀の柄で殴りつけたのである。急所突きを併用した一撃だ。しばらく脳天に強烈な痛みが走ることだろう。
「奥技! 紅蓮衝撃!」
炎のような赤いオーラを纏った世史元が地面を蹴った。ヒドラの足元を、地面を抉るように壱式で斬り上げる。そのまま流れに任せて横一線に薙いだ。
声を上げたヒドラが長い触手を振り下ろす。彼の前に割り込んだナンナが、ヴァルキリアでそれを防いだ。力を込めて触手を斬り落とす。
「大丈夫ですか?」
「助かりますっ」
一度退いた二人を追って、ヒドラの触手が迫る。
「俺を忘れていないか、化け物め」
ヒドラの首を貫通弾が直撃した。一発で首に命中させたキングが両手の銃を器用に回す。
「カララクさん、頼みます」
「了解」
報道陣を守るように立つ弧磁魔が練成強化を発動させる。淡く光るラグエルを構えたカララクは、貫通弾を放った。
強烈な一撃がヒドラの急所を襲撃する。敵を追いかけることに必死で防御の体勢を取れなかったヒドラは、攻撃をまともに食らって地面に倒れたのだった。
ヘルメットワームを避けるようにして、彼は市外へと出て再び車に乗り込んだ。
戦闘に慣れている彼らは別として、報道陣の人々は顔面蒼白の体だった。何度も取材しているはずだが、やはりヒドラを間近で見たのが悪かったのだろう。
「良いものは撮れましたか?」
麻宮の問いに、新米記者のリンはがくがくと頷きながら言った。
「と‥‥撮れたと思います。市の光景も、化け物の姿も‥‥」
それ以上は言葉にならなかった。緊張の糸が途切れたのか、リンはわぁっと泣き出して先輩カメラマンにしがみついてしまった。
やれやれと頭を掻いたカメラマンは、改めて彼らに頭を下げた。
「ありがとうございました。こいつの言うとおり、良いものが撮れたと思います。悲惨な光景はもちろんですが、勇敢に戦う皆さんの姿もしっかりと。きっと、バグアの脅威に脅えることしか出来ない人々の勇気の糧となることと思います」
良かった、と頷いた弧磁魔は、そこでずいと身を乗り出した。
「ところで、能力者の密着取材とかやってみませんか? ほら、どんな仕事をしているのかとか。私なら何時でもOKですからね! タイトルはそうですね…『イケてる能力者弧磁魔の一日』なんてどうでしょう!?」
「弧磁魔さん‥‥」
呆れたようにナンナが苦笑した。
「ああ、僕もいつでも良いですよ」
「世史元さん!?」
「冗談です」
笑った世史元である。
まあ、たまになら取材とか受けても良いかもしれない、などと口々に自分の希望を言いながら、彼らは遠ざかっていく達州市の外観をじっと眺めていた。
END
(代筆:冬野泉水)