●リプレイ本文
発電施設の敷地内を多くの人間が謎の敵を探して走り回る。その中に数名の傭兵も含まれていた。この施設の機能が停止したらどれだけの被害が出るか想像もつかない。走り回る人々の顔にその危機感がありありと出ていた。
「いたぞ! こっちだ」
数箇所で声が上がる、そして救援や作戦発動の信号が施設内を飛び交う。その情報を受け取り分析して傭兵達は数人のグループになって発見地点に散らばっていった。
●A班
一番初めに現地に到着した三人の前に現れたモノは幻妙な光を放っていた。
「あれが‥‥敵!」
赤宮 リア(
ga9958)がつぶやく。
キメラ、と思われるモノは巨大な傘と数本の触手に酷似した手足を持っていた。そいつはただユラユラと風になびく凧のように揺れているだけだった。
「不可解なモノ程恐ろしいものですね‥獰猛なキメラよりずっと『アレ』が怖く見える気がします‥」
音影 一葉(
ga9077)がこぼすが無理もない。そいつは敵意、いや戦意すら感じ取ることができなかった。
「よし、1体づつ確実に潰していこうっす。無理はしないよう頑張りやしょう!」
現状で一固体しか確認できていないが櫛名 タケル(
ga7642)は冷静に現状を判断する。
彼らは距離を取りつつ銃撃を浴びせる。無数の弾が矢が電磁波がそいつの体に降り注ぐ。その攻撃を受けそいつの体は石を投げた水面のようにゆがみそしてはじけ飛ぶ。銃撃は数十秒におよんだ。
だがそいつはまだ動いていた。不気味に光るちぎれた体をうねらせ異臭を放ちながらにじり寄るようにウネウネと動く。
「効いてないの?」
その臭いに鼻をつまみながら怪訝そうに一葉は観察する。
「わからないなら悩んでも無駄っす。やれる限りやってみやしょう」
「はい!」
一葉とリアが意を決して渾身の一撃を叩き込む。強烈な一撃がそいつの体を貫く。
だが、まだ動く。今度はにじりにじりと少しずつ近づいてくる、何かに引かれるように。
「これで終わりっす!」
とどめの一撃をタケルが放つ、その強烈な一撃がそいつの中枢を貫いた。
その直後そいつは弾けとんだ、耐え難いような強烈な異臭を放つ物質を大量に撒き散らして。避けるひまもなく彼らの全身にその物質は降りそそぐ。
「まさか、これって『ワタ』?」
「ひどい、これ‥‥。初任務がこれ‥‥」
女性二人はその例え難い強烈な臭いに顔をしかめる。
「と、とにかく他の人たちにも教えないとヤバイっすよ。同じことが繰り返されるんじゃ‥‥」
そう気付いた瞬間急いで他への救援に走りだしていた、異臭を放ちながら。
●B班
「名付けるなら、スカイジェリーフィッシュ?」
宙に浮き風に揺らめくキメラらしき物体に勝手にドクター・ウェスト(
ga0241)が名前をつけようかと思案していた。
「クラゲの本領は空を泳ぐことではないでしょう‥‥速やかに、お引取り願います」
それを無視するかのように遠倉 雨音(
gb0338)釘を刺す。
「はいはい、じゃあさっさとやっちゃおうかな〜」
ドクター・ウェストの目がうっすらと光るとやつの周りに不可思議な空間が発生する。その空間に包まれやつは落下傘のようにペチャっと地面に落ちる。
「これこそ超機械空手! くらえ!!」
その隙を見逃さずに猫瞳(
ga8888)が電磁の拳をやつに叩き込む。
――プニョン
「な、にゃっ!」
それが攻撃の感触だった。続けて拳を繰り出す、しかし結果は変わらない。
「う〜ん、あの手の攻撃はあまり効果がないような気がするね」
そう判断しドクター・ウェストはエネルギーガンを手に取る。それを見て猫瞳は距離をとろうとバックステップする。するとそれに合わせるかのようにやつが動く、引き寄せられるように。一歩下がると一歩、二歩下がると二歩、といった感じで思うように距離が取れない。
「もしかして電磁波に引かれてるのかな?」
「そうかもしれないですね」
冷静に分析するふたり。
「ちょうどいい、君囮になってくれ」
さらっと言ってのけるドクター・ウェスト。
「な、なんだと!?」
「発電所には近づかないように逃げてくださいね」
それにあわせるかのように雨音もライフルをかまえる。
「ちょ、ちょっと待って」
「さーあ、いくよ〜」
2人の銃口から発せられたエネルギーー弾が、銃弾がやつに降り注ぐ。だが思ったより効果が出ているように思えない。
「おや?」
「なにやってんだよ! うおっ、‥‥こぉぉぉ〜‥‥っっっ!! 回し受け!!」
にじり寄ってくる触手をさばきながら猫瞳が悲鳴をあげる。
「おかしいなぁ、出力が上がらんよ君」
いきなりその場で出力調整をはじめるドクター・ウェスト。
「ちくしょう、こうなったら!」
猫瞳の瞳が光る!
「喰らえっ! 電磁波物理攻撃拳『猫瞳コレダ〜!!』」
強烈な一撃がやつの動きをとめる。今度の手ごたえは今までとは違う手ごたえのある一撃だった。これならいける、猫瞳がそう思った瞬間だった。
「あ、直った」
エネルギー弾の強烈な攻撃がやつに浴びせられる。強烈な熱エネルギーがやつの体を焼いていく。そのためにやつの動きが止まる。
「よし! これでとどめ! 『猫瞳コレダ〜!!』」
この一撃がやつの体を中枢から粉みじんに打ち砕く。そう、中枢から。
例に漏れず中枢から大量の強烈な臭いの物質を撒き散らす。当然のごとく一番近くにいたものが一番被害を受けたのは言うまでもない。
「ん〜、ひどい臭いだねこりゃ。たまらんな‥‥」
「これじゃ、サンプルの回収とかも難しそうですね」
比較的被害にあわなかった2人は冷静に現状を分析する。そして一言付け加えた、猫瞳に。
「臭いから、君あまり近づかないでね」
「あのなぁ、お前らぁ‥‥」
「他の人たちの救援に向かいましょう、このことを教えてあげないと」
「お前ら名ぁ‥‥」
「じゃあ行くよ〜」
「ちょっとは俺を労われ〜!」
猫瞳の叫びが施設内にこだましていた。
●C班
「どうも物理攻撃には耐性が強いみたいですね‥ちょっと不利ですが、無茶にならない程度にやってみますか!」
とは言ったもののやはり狭間 久志(
ga9021)と暇 狼(
gb0404)は苦戦していた。こちらの攻撃はほぼ命中している、宙から地面に落とすことにも成功した。しかし決定的な一撃は与えられない。幸いなことに相手からの攻撃はほとんどなく、あったとしても緩慢な触手の攻撃がある程度である。久志は持ち前の俊敏な動きでそれを回避する。
「僕らだけでどうにもならないなら、他の人たちが来るまでなんとかもたせるしかない!」
久志が意を固めたそのときであった。強烈な風が発電所内に吹き荒れ、その風を傘に受けてキメラはもう一度空に舞い上がる。そしてこともあろうか発電所の方角に向かって動き出したのだ。
「!?」
言葉には出さないが暇 狼の表情が険しくなる。
「まずい、この距離じゃ刀が届かない!」
久志は動揺を抑えられない、しかしキメラは風に乗ってゆらゆらと移動していく。
そのときだった、他の班のメンバーが合流したのは。
「まだ未確定情報だけどやってみるしかないよね、いくよ猫さん!」
「おう! 超機械空手を見せてやるぜ!」
一葉と猫瞳が風が弱まった時を見計らってキメラに向かって電磁波を放つ。その電磁波に引かれてか、ゆるゆるとキメラは向きを変えこちらに向かってくる。そして発電所が射角から外れた瞬間に他のメンバーの攻撃が浴びせられる。ダメージは多少受けていた上、さすがに6人分のには耐えられずキメラの体は宙で揺らめき降下をはじめる。
「この間合いなら届く! 今だ行くよ」
「!?」
距離を測り久志と暇 狼はとどめの一撃を加えるために宙に舞った。
その瞬間他のメンバーが叫ぶ。
「だめだ! とどめは銃でないと!」
「またあれが!」
「こっちにまかせろ!」
しかしもう遅かった。2人の一撃はキメラの中枢を砕いていた。
そして言うまでもなく3度目の悲劇が起きた‥‥。
●エンディング
「今回の作戦で収集されたデータから解析してみたところ、やはり皆さんの予想どうりあのキメラは電磁波に引き寄せられる性質があるようですね」
作戦修了のブリーフィングで科学班の担当者はそう報告した。
「他にわかったことは風に乗って移動するのが主な移動手段のようですね。自力では自重でほとんど動けないのでは、とみています。浮遊する原理は不明ですが何らかのガスのようなもので浮遊しているのではないかと推測します。こちらからの報告は以上です、貴重な情報をありがとうございました」
最後に担当の下士官が最後をしめる。
「今回の任務ご苦労様でした、報酬は所定の手続きを済ませて受け取ってください」
そして、鼻こそつままないが顔をしかめ堪えるように言った。
「ゆっくり休養をとってください、まあまず風呂にでも入ってくださいね」