●リプレイ本文
●プロローグ
「さぁて、そろそろ準備するかな」
「ついに突撃しますか?」
「なに言ってんの、帰り支度だよ」
「帰りってまだ援軍は来てないんですよ」
「準備しといたほうがスタコラサッサとしやすくなるだろ」
「スタコラってせめて撤退と言ってくださいよ」
「細かいねぇ」
「あんたがいい加減なんですよ!」
戦場に今も2人の掛け合いがこだまする。
●陽動班
彼女達は静かにまるで影のように行動する。
ラン 桐生(
ga0382)、リュイン・カミーユ(
ga3871)、アズメリア・カンス(
ga8233)の3名は陽動班を担当し戦場の北西から侵入していた。
「やりすぎなほどの多数の部隊に囲まれてる様だけど、なんとしても救出したいわね」
「我らは陽動だ。派手にかましてやろうではないか」
「了解、一丁やってみますか」
皆が意気込むその時すでにランはスコープに敵部隊の隊長らしき姿を捉えていた。
―――パアン
ランが引き金を引くと軽やかに戦場に銃声が響く。隊長らしき男は肩口受けた銃撃によって崩れ落ちると敵部隊がざわめきたつ。
それと同時に信号弾が大空に打ち上げられる。
「雑魚なぞとっとと蹴散らし、救援に向かうぞ!」
敵陣に聞こえようかというくらいのリュインの声が高らかに響く。それに呼応するように敵部隊に動揺が広がる。
奇襲に動揺している敵部隊に対しランとリュイン、アズメリアの銃弾が注ぎ込まれバタバタと敵兵士が倒れていく。
しかしやはり訓練を受けた兵士たちである、徐々に混乱から回復し反撃体勢のを整え3人に迫りくる。
「行動は迅速かつ確実に、ね」
進んで留まり下がって留まる、そしてまた前へ進む。3人は敵との距離を適度に取りつつ華麗なヒットアンドウェイを繰り返す。
絶妙な攻勢に手を焼いていた敵兵士たちも徐々に気が付きだした。敵は自分達よりはるかに少人数だと、自分達のほうが数において有利であると。
精神的な優位を取り戻した敵部隊は攻勢に出るために積極的に行動する、目の前の敵を殲滅するために。
だが彼らは気が付かなかった。自分達が徐々に徐々に移動させられていることに、戦場から離されつつあるということに。
●救出班
西の空に信号弾が上がる。陽動班が作戦を開始した合図のはずである。
「陽動班、作戦を開始しました! 僕達も行きましょう!」
双眼鏡で陽動班の動きを確認した旭(
ga6764)が皆に告げる。
「さてと‥どこが手薄かねぇ?」
飄々と話す佐竹 優理(
ga4607)だがその視線は敵陣を見渡していた
「む、向こうは大丈夫でしょうか? ハデにやってるみたいですが」
「ああ、そうだな」
陽動班を心配する柊 理(
ga8731)と夜十字・信人(
ga8235)だが微妙に会話が成立していない、妙な空気だ。
「‥救出任務が初仕事か‥傭兵冥利に尽きる」
初めての実戦とは思えないほどにロジャー・ハイマン(
ga7073)はしみじみと語った。
敵部隊が陽動班に徐々に徐々に引っ張られて西の方角に移動していく。
それを確認して救出班を担当する5人は敵陣が手薄になった北東方面から突入する。
速やかにそして正確に敵部隊に一撃を加え、即座に方向を変えると味方の部隊へ向かい疾走する。
意表を突かれた敵部隊はその鮮やかさに彼らが通り過ぎるまでなにが起きたかわからず立ち尽くしていた。
●脱出
「や〜あ、絶対来てくれると思ってたよ! あ〜りがと〜う!」
「なんですかそれは! しっかり返礼してください!」
「だめかなぁ、感謝の気持ちは伝わると思うけど」
「作法ってものがあるでしょ、それに礼儀とか」
「相変わらずお堅いねえ」
「あんたが緩すぎるんです!」
出迎えは2人の掛け合いであった。
この空気に戸惑うものと戸惑わぬもの。だが目指す道は一つ。
「今一番手薄なのは‥‥」
「北、ですね」
「そのようだな」
「そこは、場数踏んでる皆さんにお任せします」
その意見を総括し隊長が号令を発した。
「みんな〜用意はできてるな〜。それじゃぁスタコラッサッサといってみよ〜!」
「ですから撤退って言って下さい!」
その号令を受けて一斉に撤退行動を開始する。それと同時に大空に信号弾が打ち上げられた。だがその信号弾に気付いた敵の部隊も追い上げてくる。
「脱出を始めたみたいだね」
「となるとここに長居は無用じゃな」
「そうだな、うまく合流できるといいが‥‥」
陽動班の3名は陽動の任務が終了したと判断し現状離脱、脱出部隊との合流を図る。戦場の変化が彼女達にとって幸運であった。突如突入した救出班と突如撤退行動を開始した部隊に敵部隊は動揺していたのである。
その離脱のさなか彼女達はあることに気付いていた。以外に彼ら敵部隊の士気が低いことである、一体なにがあるのだろう‥‥。
脱出部隊もそれに気付いていた少々敵部隊の動きが緩慢なのである。一番数の多い南側の部隊が追撃をかけてきたが佐竹の気合を込めた一撃で足を止めてしまった。
「ん、んん‥、これだったらここまで気合入れなくてよかったかなぁ‥ちょっと
喉痛めちゃったよ‥保険おりるかなぁ」
冗談っぽく佐竹がつぶやくと
「いや〜いい声だ、気合が入るねぇ。よし! あとで僕が最高級ののど飴を勝ってあげよう!」
素早く隊長のゴマすりが入る。
「はいはい、わかりましたから静かにしててくださいよ!」
そして副長のツッコミも入る。
緩慢とはいえ多数の敵部隊である、決して統率されたものではないが攻撃は繰り返してくる。それらの攻撃からロジャーはシールドをはり部隊を守る。そして旭、夜十字、旭らが突出した敵部隊や密集している部分に向かって銃弾をあびせる。脱出は順調に進んでいるかに見えた。
だが突如側面から攻撃が浴びせられた。
「やらせはしない! ‥‥間に合え!!」
ロジャーの素早いカバーのおかげで思った以上の被害は出なかったが状況は好転していない。どうやら陽動部隊を追っていた北の敵部隊の一部が戻ってきたようである。こちらも大して指揮は高くないが、側面攻撃という利のためかそれなりの攻撃を仕掛けてきた。一時的に脱出部隊の足はとめた。だが、それも長くは続かなかった。
「助けに来てやったぞ(勘で!)」
リュインの声が高らかに響く。戦場を離脱していた陽動班がその後方から奇襲を仕掛けてきたのである。もともと士気の低かった部隊、この一撃で戦闘能力を失ったかのように沈黙する。まともに動いている敵兵士は数えるほどである。
「派手にスタコラサッサも‥‥粋だろう」
残った敵兵士に銃撃を与えながら夜十字がボソッと呟いく。敵の追撃はもうほとんど停止していた。
敵部隊の生き残りの兵士たちが撤退していく部隊を眺めながら口々にぼやいていた
「あいつらのおかげでまったく貧乏くじを引かされたよ」
「ああ、あの掛け合いを聞いたらろくなことがないって噂だもんな」
「実際その通りだったな」
「次にあったらすぐに退却を進言しようぜ」
「そうだな」
●エンディング
「いやぁ、助かった助かった。諸君ご苦労ご苦労!」
敵の追撃を振り切り安全な地域までの撤退を確認すると隊長は労いの言葉を振りまいていた。結果的に無傷で脱出できたものはいなかったが幸いなことに死者は1人も出なかった。
「お疲れ様でした。皆さんと帰ってこれて何よりです」
「いやいやホントに助かりました、感謝します」
柊の言葉に副長が返礼をする。その横では部隊のみんなが無事に脱出できたことに喜びの声を上げていた。
「よ〜し、それじゃあ基地まで帰ったらぶわぁ〜っと楽しもうか」
「帰ったら報告書の作成が先です」
「やだよ面倒くさい」
「やだよ、じゃありませんよ仕事ですよ仕事」
「じゃやっといて」
「ダメですよ」
「ケチ」
「ケチ、とかそういう問題じゃないでしょ!」
2人の掛け合いがまたもこだまする。
「初仕事で助けた人がこんな人ってのも‥‥微妙だな」
ロジャーはポツリと呟いた。