タイトル:黒煙を引いてマスター:眼一坊

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/03 15:55

●オープニング本文


「ちっくしょう! もってくれ!」
 彼の願いもむなしく彼の機体の片方の翼に搭載されたエンジンが爆発と共に黒煙を吹き上げる。
 それと同時に彼の機体は大きく姿勢を崩し進行方向を地表に向けた。
 姿勢の回復が不可能であると判断した彼は脱出用のレバーを引く。
 しかしレバーはかすれるような虚しい音を立てる。
 力強くもう一度引いてみる、しかし結果は変わらなかった。
「ウソだろ、おい! ふざけるな! なんなんだよ!」
 わずかな時間であったはずだがその短い時間の中で彼は怒り、泣き、叫ぶ。
 そして彼と彼の機体は一条の煙の線を中華の空に描き、大陸の大地に散った。

「―以下のことから偵察機の墜落地点はこのあたりと判断した」
 その下士官は壁のモニターに表示された地図上の複数エリアをを指し示す。その地点は敵の勢力圏に近いものも含んでいる。
「彼の持ち帰るはずだった情報、それが無価値なものであるははずがない。彼の心に、命に報いるためにもこの情報は回収しなければならない。気概あるものは是非参加してもらいたい」
勘の良い者たちは気づいた。力強く語る下士官の声に、ある種の感情が含まれいることに。
「当該地域それなりに広域でありA・B・Cの地区に区分けしている。各地点の情報は配布した資料で確認して欲しい。敵の活動は現段階では確認されていない。しかし状況はどう変化するかは一切わからない。気を引き締めて任務にあたって欲しい」
 ブリーフィングルームは静かな空気に満たされていた。もう部屋にいる者の多くが気づいているのだ、下士官が抑えている感情を。そう、悲しみをそして怒りを。
「しかし今回の任務は墜落機探索、ブラックボックスおよび偵察情報の回収である。そのため戦闘は極力回避し生存、帰還を最優先して任務の遂行を成功を期待する」
 最後に下士官は力強く語る。
「この任務へ多くのものが志願してくれることを期待する。志願するものは期日までに所定の所定の手続きを済ませて欲しい。以上!」

下士官がブリーフィングルームを退出した後、誰かがポツリとつぶやく
「たしか、墜落した偵察機のパイロットってあの人の‥‥」

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
デル・サル・ロウ(ga7097
26歳・♂・SN
ヴィー(ga7961
18歳・♀・ST
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD

●リプレイ本文

「これだけの者たちがこの任務に参加してくれたことに感謝する」
 下士官は静かに語った。ブリーフィング時に比べるとかなり落ち着いた感じを受ける。ただ自分の感情を抑え切れなかったことに自戒の念を抱いているようであった。
しかし下士官は冷静に続ける。
「先のブリーフィングで説明したとおり主任務は墜落機の捜索および回収である。決して楽な任務ではない。気を引き締めて任務に当たって欲しい」
 ひと呼吸おいてはっきりと告げた。
「任務の達成を、諸君の帰還と幸運を祈る」

●A地区
 彼女達は素早く俊敏に、そして周囲に注意を配りつつ移動していた。A地区の捜索を担当する石動 小夜子(ga0121)、御山・アキラ(ga0532)、瓜生 巴(ga5119)の3名は移動距離の都合上先行して出発していた。
「‥さて、見付かれば良いのだがな」
 ポツリとアキラが呟く。
 3人は他の者から目に付きづらいルートを通って無駄のない動きで目的地へ進んでいく。これも事前に地図や地形を入念に確認していた巴と小夜子の準備の賜物であった。
 そのかいもあって予定通りに目的の地点へ到着する。たどり着いたA地区は起伏もあり樹木もそれなりに生い茂っている。その地形を利用しながら素早い動きで3人は木陰から木陰へ、岩陰から岩陰へ移動する。
「やっぱり楽にはいきませんね」
 物陰に潜みながら小夜子がつぶやく。目の前をキメラが敵の兵隊達が通り過ぎていく、それなりの数はいるようだがどうやら奴らもまだ墜落機は発見できていないようだ。隠れては進み探しては隠れる、時間はかかるが中々思うように進まない。いらいらしてもしょうがない、こんなときほど冷静でいなければと自分に言い聞かせながら前へと進む。
「あれは‥」
 そんな時高所をから双眼鏡で捜索していた巴があるものに気付く、焼け焦げた樹木の間にある金属の塊に。周囲に警戒しつつ3人はその物体に近づくとそれは航空機のエンジン、それだけであった。エンジンは黒炭のように見えるほど焼け付き無残な姿をさらしていた。
『ということは、ここにはない』
 エンジンの状態や周囲を再度確認しこれ以外に機の残骸がないことを確認し皆が同じ意見に達する、ならば長居は無用である。
「ハズレでしたか、しかたりません」
 素早く帰還準備に移行する、もう一つの班の幸運を祈って。

●C地区
 デル・サル・ロウ(ga7097)ヴィー(ga7961)アズメリア・カンス(ga8233)柊 理(ga8731)の5人は後発組としてB、C両地区という2地区の広範囲の捜索についていた。多人数の利を生かしてローラー作戦をしかける。はじめに捜索についたC地区は平坦で砂漠に近い障害物の少ない地形で、幸いなことに敵のいる気配もほぼなかった。
 だが砂漠という地形のため、墜落機が砂に埋もれる可能性が無いわけではない。柊が周囲を警戒しつつ、デル、ヴィー、アズメリアの3人は捜索に専念する。
 しかし、見渡す限りの砂と砂と砂のこの地域では墜落機を発見することはできなかった。
「となるとB地区、ということですね」
「そうなるな」
「時間が惜しい、すぐに向かうぞ」
「はい、急ぎましょう」
「そ、そうしましょう」
 意見が一致し彼らは足早に移動を開始する、最後の地区に希望を求めて。

●B地区
 B地区にたどり着いた彼らを待ったいたのは見渡す限りに生い茂る樹木、樹木であった。
「こいつは厄介だな」
「慎重になりすぎて移動が遅くなると問題だけど、やっぱり慎重にいかないとならないわよね」
 密林とまではいかないが視野はかなり悪く高所といえば樹木しかない、デルやアズメリアは高めの木を探しては登り双眼鏡などを使い捜索に専念する。柊は警戒を怠らない、いつ現れるかわからない敵を警戒していた。
「ん? もしかして」 
 柊が何かに気付く。敵? いや違う何かの物体だ。
 柊の感じた方向を2人は急ぎ確認する。たしかに多少木々の茂り方が不自然になっているのが確認できたが今の場所からでははっきりわからない。5人は素早くその地点へ向けて移動を開始する。見つかったものがなんにせよ確認しなければ始まらないのだから。
 そしてそれは彼らの目の前に現れた。
 生い茂る樹木を引き裂き、焼いてできた小さな森の中の広場。そこに偵察機は無残にも折れ、砕け、炭のように黒い体となって静かに留っていた。その姿が墜落時の衝撃のすごさを物語っている。
「なんでこんな‥でも貴方の残した心、ボク達が確実に届けて見せる!」
 惨状を目にして柊は普段からは想像できない大声をあげる。柊のそんな心に答えるように他の者たちも素早く回収作業に取り掛かる。手際よくブラックボックスやフライトレコーダーを取り外す。かなりの損傷はあるが大半の情報はおそらく大丈夫であろう。
 そんな中、ヴィーはコックピットを覗き込む。状況から見ても生存の可能性はないだろう、しかしわずかな希望残して。だがそこにはかつて人間であったであろう物体が、遺体が横たわっていた。
「‥‥‥‥」
 今までと違う静寂がチームをおおう。あるものは手を合わせ、またあるものは祈りをささげる。
 ヴィーはかろうじて残っていた認識票を遺体から外そうとしたとき、遺体が何かを握り締めているのに気付いた。確認するとそれは変形した金属片、形状から想像するにナイフのようなものではないか。表面にかすかに残った文字のようなものはほとんど読むことはできなかった。ヴィーは迷わずそれを回収して他にも遺品になりそうなものがないかとコックピット内を探してみる、しかしそれ以外は見つからなかった。
「なんとか弔ってやりたいが‥」
 デルが提案しかけた時であった。柊がある気配に気付いた、そう敵の気配である。まだこちらには気付いていないようだがこちらに向かってくるのは時間の問題のようであった。
「しかたあるまい。少々乱暴だが、目くらましにもなるだろうからな」
 目標の回収を再度確認してから墜落機の焼却処理とばかりにわずかに残った燃料に火をつける。そして速やかに撤収を開始する、各々がこの地に散った命に魂に別れを告げて。
 墜落機から上がる煙は再び中華の空に一筋の線を引いた‥‥。

●エンディング
「諸君、任務の達成そして全員無事の帰還ご苦労でした」
 君達をねぎらうように下士官は告げる。
「諸君が回収したブラックボックスとフライトレコーダーは解析班に送られて処理されることになる。情報の詳細は解析してみないことにはわからないが諸君は十分に任務を達成した、代表して感謝する。諸君は所定の手続きを取り報告の後、今回の報酬を受け取るように。私からは以上だ」
「待ってください」
 退出しようとする下士官をヴィーが代表して呼び止める。そして彼の遺品を、認識票と変形いした金属片を下士官に差し出した。それを見て下士官の表情が険しくなった。そして‥‥
「君達は任務を何だと思っているのだ! 今回の任務は情報の回収だ、それ以外の何者でもない」
 彼の口から出たのは叱責の言葉であった。一同は黙り込む、叱責されたからではない下士官の吹き出した感情のためであった。
「もしこんな物の回収のために時間が取られたら、仲間が危険にさらされたらどうするつもりだったのだ! この行為は君達の自己満足に過ぎない、それを忘れないように」
 下士官必死に感情を押さえ込んでいる。軍人である自分を、父親であるより上官である自分であるために。この場で下士官ある自分にあるのは公であり私は無いと言い聞かせるために。誰も言葉を発することができない。自分達の行動が間違っていたとは思わない、しかし下士官の叱責も事実だからである。
「今回は大目にみるが以後気を付ける様に! 以上だ」
 そしてブリーフィングルームを出て行こうとする、重い空気を残して。
 だが出口で一瞬足を止め下士官はポツリと呟いた
「だがありがとう、感謝する」
 咳払いして付け加えた
「これは独り言だ、聞き流してくれ。忘れてくれてかまわん」
 そして彼は部屋を出て行った。