タイトル:モテない男と失恋男マスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/11 08:29

●オープニング本文


●若き船木の悩み
 船木龍太郎は、いわゆるモテるという人生におけるスパイスを知らない男である。
 それは本人が自覚していないわけではなく、本当にモテない。
 原因と前科が多々あるので、あまり同情はできない。
 
 
 船木龍太郎は、いわゆるメカニックオタクである。
 創るのも改造するのも解体するのも眺めるのも語るのも大好きという、クラスでも浮く極めて重度のオタクである。外見は普通の男子生徒だが、口を開けば女子は離れ、スイッチが入ればリア充に害が出る。
 そんな、物凄く面倒くさい男である。
 

●若きユリウスの哀愁
 ユリウス・ヴィノクロフは、失恋を経験した男である。
 相手には既に恋人がいるという、初めから負けが確定しているかのようなお約束の恋愛を経験した男である。
 しかも告白したは良いが、玉砕はおろか、まともに返事が貰える状況ではなかった。
 彼の場合、そこで完全に諦めてしまったので、もしかしたら失恋以前の問題かもしれない。
 
 
 ユリウス・ヴィノクロフは頭の良い生徒である。
 加えて、生来の楽観主義が幸いしてか、溌剌とした好青年でクラスでも人望が厚い。
 就職に向けて猛勉強の日々であり、その姿勢は教師陣からも評価が高い。
 そんな、ごくごく普通の、少し優秀な男である。


●若人の再会
 二人は初対面ではない。
 一度だけ、同じ授業を受講したことがあり、それなりに会話をしたこともある。
「あ‥‥久しぶり。ええと、船木くん、だっけ?」
「お、おう」
 いきなり話しかけられた船木はビクッとして妙な声で返した。特に気にすることもなく、ユリウスは彼の隣に座る。
「二年ぶり‥‥くらい、かな?」
「おう‥‥」
 何故、こいつは俺に話しかけているのだろう。
 挙動不審の権化となった船木はろくに会話を繋げることもできないでいた。そういえば、前回もこんな感じだった気がする。
 というか、何故こんなリア充のような男に話しかけられなければならないのか。
 きょどきょどしている船木を他所に、ユリウスは教科書を広げて船木の方を向いた。
「君のレポート、読んだことがあるんだ。すごく良かった。なんていうか、メカが好きなんだね」
「‥‥」
「メカの開発に熱心になった理由も斬新で、俺、ああいうのは好きだな」
「‥‥そんな、学園生活を謳歌しているような君に言われたくない」
「そんなことないよ。俺は、そんなに充実してないからさ」
 リア充の『そんなことないよ』は男女問わず信用してはならない。船木は本能で知っていた。
 リア充の『自分は◯◯じゃないから』は、男女問わず『そんなことないよー』という言葉の誘い待ちだということを、船木は経験で知っていた。
 だから、彼はその言葉を鼻で笑った。
「可愛い彼女とか作って、楽しく毎日過ごしてるんだろう?」
「‥‥彼女、は‥‥まあ、あれだよ」
 急に歯切れの悪くなったユリウスに船木は首を傾げた。なんだ、照れ隠しか。焦らしプレイか。それともノロケ話のMAXチャージを待っているのか。
 身構えた船木に待っていたのは、ユリウスの意外な一言だった。
「‥‥失恋しちゃったから、さ。しばらく恋愛事は、良いかな」
「――っ!?」
 ガタッと立ち上がった船木は、驚いたユリウスを無視して彼の手をがっしり握った。
 こんなイケメン(船木比)で失恋するのか。こんな性格イケメン(船木比)の男をフッた罰当たりの女――まさか我が妹ではなかろうな‥‥――がいるのか。
 一人で勝手に憤慨して不憫になった船木は、震える声で友人認定したユリウスに言った。
「気持ち‥‥すげぇ、分かる‥‥」


●【RR】の中で
 キルギス東部。
 【RR】作戦の一環である今回の任務は、新体制へ移行する中でカンパネラ学園によって行われる試験の一つでもあった。
 試験は、KVによって敵残党勢力の掃討にいかに貢献できるかという点に加え、戦闘前後の現地市民へのフォローや、戦線維持具合、友軍との連携の密度等々、細かな点まで評価対象となっている。
「KV操作なら任せろ! 俺の敵なんて、この極寒の地には存在しねぇ!」
 意気込んだ船木の後方をユリウスの機体が静かについてくる。
「ユリウス! お前も優秀な生徒なら、このくらい余裕だよな!?」
「まあ‥‥焦らず行こうか」
 KVに関しては若干のトラウマがあるユリウスである。それでも、試験も兼ねているのならば手をぬくことはできない。
「頑張ろうか、船木くん」
「おうともよ! リア充への恨みつらみ‥‥ここで果たしてやるわ!」
 などと、船木は謎の供述を繰り返しており――。
 無線からひたすら流れてくる船木のリア充に対する罵詈雑言を聞きながら、ユリウスは肩を竦めた。
「船木くんは面白いなぁ‥‥」
 そう思ってしまうユリウスも、実はかなり変人なのかもしれない。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN

●リプレイ本文


 まったく、カンパネラ学園の教師はいつも乱暴だ。戦争が終わったとはいえ、こんな戦場を試験場に選ぶとは。
「(男装してないと、胸が鬱陶しいなぁ)」
 普段は無用な胸元をさする夢守 ルキア(gb9436)はふぅ、と息を吐いた。コクピット内にいるとはいえ、外気は未だに氷点下だ。そう思うだけで何となく寒い気もする。
 前方を飛ぶリヴァティーの左翼を見つめながら、ルキアは搭乗者に通信回線を開いた。
「気分はどう、星嵐君」
「悪くはないですが、何とも言えないですね‥‥」
 出撃前から微妙な表情だった友人の嘆息混じりの声が聞こえてくる。きっとこめかみに指を押し当てているに違いない。
 操縦桿を握る神棟星嵐(gc1022) は危なげなく飛行するペインブラッドを見た。あの中では、さぞや船木が喚いているのだろう。一体何がそんなに彼を興奮させるのか、星嵐にはいまいち分からない。
「船木、騒ぐと手元が狂うぞぉ」
 くつくつと笑うレインウォーカー(gc2524) の声に、騒いでない!と船木の焦った声が返って来る。
 同じペインブラッド――性能も操縦者の腕も遥かに違うが――として、船木が失敗するところをレインウォーカーは見たくない。
 否、失敗されては困る。
「レイン、星嵐君。無理しちゃダメだよ?」
 先行する二機の背中をルキアの愛らしい声が押す。全く友人としての感情しかないが、きっと面白そうだと思って、わざわざ投げキッスまでつけてみた。
 案の定、馬鹿が一匹釣り上がる。
「ぼぼぼぼぼ僕にもくれ!!」
 馬鹿――船木の機体が今にも急旋回してルキア機に突っ込まんとしている。
 なんて面白い男なのか。
 適当に投げキッスをしてやると「うっひょ――!」と叫びながら船木機がブーストをかけた。
「‥‥遊んでるわねぇ」
 ルキア機の後方で百地・悠季(ga8270) が呟いた。船木の心情など、百戦錬磨の傭兵達にはすぐに分かる。
 面白そうなので、彼女もちゃっかり乗っかってみた。
「はーい、リア充でその結果も手元に居る百地悠季よ、今回は後ろで応援してるから頑張ってね」
 にこっと笑みを浮かべて、船木に通信を入れる。断末魔の叫びのような声が返ってきた。
 なるほど、これは確かに面白い。
「大丈夫なのかよ、あいつ‥‥」
 頭の病気じゃないのか、と須佐 武流(ga1461)が眉を顰める頃には、船木は全力で前進した後だった。
「危なくなったら、俺が援護しますから」
 後方、丁度一団の真ん中に位置するユリウス機から通信が入る。
 久しぶりに再会した船木の変貌ぶりに引くことなく、それでも声が硬いのは、相手が誰なのかユリウスには分かるからだ。
「‥‥後でな」
 それだけで、今のユリウスには十分だろう。
 武流機も加速して、あっという間に彼を引き離した。
 
 ●

「皆さん。カンパネラ学園生は宇宙のバグア本星を退けるのに貢献した者たちもおります。皆さんをお守りする為に、全力を尽くします。安心して、避難を行なってください」
 接敵するまでの僅かな時間に傭兵達が行うこと――その最も迅速に行い、確実にこなさなければならないものの一つは住民達の避難であった。
 粗方の避難は完了しているが、残った者がゼロだとは言い切れない。星嵐は機体の拡声器を使って、逃げ遅れた人々に呼びかけていた。
「手伝うよ、星嵐くん」
「助かります」
「構わないよ、何があるか分からないし。――此処から数km先で、殲滅戦を開始するから誰も来ないように、気を付けて」
 駆けつけたルキアも加わり、彼らは残った住民の避難を完了させた。
 
 ●

 船木ある所に、この少年――もとい『総帥』は現れる。
「船木くんだー久しぶりなのだー元気してーたー?」
「あ、あんたは‥‥!」
 驚愕に目を見張る船木の視界を縦横無尽に飛び回るのは白虎(ga9191)である。毎度味方のようなそうでないような、そんな存在の登場に今更驚く必要もないかもしれないが、とりあえず恒例として船木は驚いただけでもある。
「今回の僕は、あれだぞ! 真面目だからな!」
 どの口が真面目などとほざくのかはさておき、むふふと笑った白虎は船木機の横に並んだ。
「僕が突出して引き付けるから、後方から撃って欲しいのだ」
「分かった、任せろ!」
「それと‥‥言っておきたいことがある」
 一拍置いた白虎は本気の目になった。
「僕が避ける前に撃つなよ、いいか‥‥絶対に撃つなよ!」

 
 二人を除く学園生を編隊した星嵐は、機体を陸戦仕様のまま加速し、敵集団まで一気に接近した。
「キメラは一匹たりとも撃ち漏らす事は許されません。ここで殲滅しますよ」
 曲がりなりにも、それぞれの場面で戦争を生き抜いた生徒達だ。言うまでも無いことだろうが、士気向上のために星嵐は声を上げた。
 ラバグルートの照準を合わせた星嵐本人は、何とも言えない息を吐いた。
「それにしても‥‥ユリウスはともかく、船木とも肩を並べて戦う日が来るとは‥‥」
 これが終戦の効果だとしたら、その威力は恐ろしいものだ。
 放った光線がHWを貫く脇を、レインウォーカー機が走り抜ける。
「しっかり監視を頼むぜぇ、ずっとお守りは無理だからなぁ」
「分かっているよ。任せて」
 空からルキアの笑いを噛み殺した声が伝わる。彼女がそんな声を出したのは、先で展開する空戦を見ればすぐに分かる。
「世話のかかる奴だぁ。おい、そこのガンスリンガー」
 ユリウス機を呼び止めたレインウォーカーは非常に面倒臭そうに言った。
「あのペインブラッドは僚機だろぉ。援護してやりなぁ」
「‥‥」
 自分一人では面倒を見切れないかもしれない、と言わんばかりの気配がユリウスの機体から滲み出て、思わずレインウォーカーはくく、と笑いを漏らした。
「心配するなぁ。この辺を片付けたら、すぐに船木を蹴り飛ばしてに行くよぉ」
「了解」


「居住区に逃げると厄介だし、円形に散らばって中央へ進軍するのはどう?」
「そうね。そっちの方が、効率的ではあるわね」
 最後方、ルキアと悠季がそう言った直後、「制裁にゃー」という鬨の声と共に白虎機が突撃するのが見えた。
「‥‥まあ、あれは放っとこうかしらね」
「レインに任せておけば良いよ。でも、頑張る男性って格好良いよね」
 などと言いながらルキアは居住地付近を浮遊していたキメラをライフルで撃ち抜いた。続けざまに何体か仕留めて、照準から目を逸らしてフッと微笑む。
(‥‥まあ、一番格好良いのは私なんだケド)
「あまり突出すると、後方から撃たれるわよ」
 白虎がかき集める敵集団を船木機と共にライフルで撃ち抜く悠季が暴れる友軍に言った。
 その時、集団から弾かれるようにHWが飛び出した。見つけた悠季はブーストをかけ、その懐に飛び込むようにそれに盾で体当たりをする。
 至近距離からライフルでトドメを刺して、機首を返した悠季は思わず「あ」と声を出してしまった。
「これが僕の必勝パターンなのだっ!」
 嬉々としてバルカンを連射する白虎機の周りには、HWやキメラが身を寄せ合うように集められていた。レーヴァンテインを構え、地上を爆走する赤の機体の後方には、船木のペインブラッドが構えている。
 上空からだととても良く分かるが、明らかに船木の射線がおかしい。
「うおおおお、喰らえ! 総帥のために―――――――!!」
 フォトニック・クラスターを起動させた船木のどや顔が目に浮かぶかのような声が響く。そして、案の定、白虎を巻き込む形で敵集団に砲撃したのである。
「にゃああああああああああああああ!!」
「そ、総帥―――――――――!!」
 しっかりフラグを回収されたしっと団総帥は、お星様になった。
 
 ●

「酷い茶番を見た気がするが‥‥まあ、俺には関係ないしな」
 前方の悲劇を見つめていた武流は重い溜息をついた。酷い戦域は何度か見たことがあるが、船木が絡むと右斜め上方向に酷くなる。
「メカのせいかと思ったが、どうやら存在自体がアレなようだな」
 さらっと鬼畜の発言を残して、武流は加速した。
 先の爆発で玉になっていた量産型HWに接近すると、プロトディメントレーザーを放った。マルチロックの音を耳に残しながら、量産型が次々と爆散していく。
「とっとと済ませるぞ。こっちはやることが山程あるんだからな‥‥!」
 剣翼を閃かせて量産型を切り裂く。爆発して墜落していく敵機を確認した武流の眼下で、ユリウス機もまたキメラを仕留めたところだった。
「‥‥やればできるじゃねえか」
 思わず口の端が綻んでいたことは、きっと本人も気づかなかっただろう。
 
 
 一方、友軍を撃ってしまった船木のペインブラッドはレインウォーカーのペインブラッドに蹴り飛ばされていた。
「ぎゃあぎゃあ喧しいんだよ、ド阿呆。ここは戦場、命を賭ける場所。妬み嫉みは余所でやれぇ」
「痛い! け、蹴ることないだろ!」
「同じペインブラッド乗りの無様な所を見るのは嫌なんでねぇ。その様じゃ愛機が泣くぞぉ」
「だからって蹴ることないだろ! 傷がついたら直すのも大変なんだぞ!」
 知ったことか、と船木機を刀の柄で殴って、レインウォーカー機は前進を始めた。
「見せてやるよぉ。ペインブラッドという機体をなぁ」
 ブーストで低飛空するHWに肉薄したレインウォーカーは地表に向けてスラスターを起動させた。一瞬だけ、ふわりと機体が宙に浮く。
 敵を撹乱するかのような動きで、機体の脇を次々とHWの砲撃がすり抜けた。
「甘いなぁ」
 ブラックハーツを起動させたレインウォーカーはニヤリと笑った。道化そのものの表情で、敵機をロックオンする。
「嗤え」
 刹那、辺りに強力な電磁力をもって蒼い電流が拡散した。徐々に幅を広げる電流の束が、HWやキメラを巻き込んで輝きを増す。
 ブーストを逆噴射して後方に退いたレインウォーカーは炎に焼かれる敵機を一瞥して、船木機の方へ向き直った。
「お前にも出来るだろ、船木」
 同じペインブラッドを愛する人間ならば――。
 物言いたげなその機体は、炎を背負った道化師のように見えた。
 
 ●
 
 戦闘が一段落すると、傭兵達は住民へのアフターケアに入った。休まる時間はないのである。
「被害のあった箇所は申し出てください。復旧のお手伝いを致します」
 資材置き場から大量の資材を担いで歩く星嵐機の足元には、住民が慌ただしく彼を誘導しようと走り回っていた。
 戦闘の爪痕は思ったより少なかったが、それでも被害を受けた建物が皆無というわけではない。傭兵達は損壊部分の修復を手伝うために日没近くまでこの場に留まることになった。
「はーい。暖かいスープはこっちよ。十分にあるから、遠慮せずに温まって頂戴」
 地元の女性達と食事を用意した悠季の声が広場に響く。家を失った者にとってはありがたい時間だろう。和気藹々と女性達と子育ての会話を交えつつ、悠季はすぐに中に溶け込んでいるようだった。
「っ、あー‥‥肩凝ったなぁ。船木のせいで散々なことになっているねぇ、リストレイン」
 敵の奇襲を警戒して、レインウォーカーは街の入り口でじっと薄空を見上げていた。隣に佇む愛機に触れて、敵の攻撃でついた傷までも船木のせいにしてみる。元を正せば船木のせいなのだから、別に悪くないだろう。
 その船木は、どこからともなく不死鳥のように復活を果たした白虎にメカを出すようにせがまれていた。
「ドラ‥‥じゃなかった船木くーん、メカを出してよーメカー」
「も、持ってないっすよ! 今日はちゃんと僕、まじめにやるつもりだったから!」
「えーっ。まあ、そんなことより、船木くん、しっと団に来ないか?」
 どやっと言い放った総帥に船木の目がぱちくりと瞬いて、そしてキラキラと輝いた。
「一生ついていきます、総帥!!」
「よし、付いて来るが良い! しっと団は永久に不滅にゃー!」
 戦闘現場でこんな宣言を高々と出来る傭兵は、後にも先にも白虎だけだろう。


「‥‥賑やかですね」
「ま、愛されたいって自己愛の変形だよね。ジブンの愛ダケじゃ足りないから、求める。後は生殖本能トカ」
 ユリウスの言葉に答えたのか、それとも独り言なのか、ルキアは肩を竦めた。
 船木の嫉妬心や常軌を逸した行動の数々を、彼女は利己愛の一種だと解釈しているのだろう。そしてその解釈は、おそらく間違っていない。
「愛自体が、利己的なモノだケドさ。ホントに好きなら、ジブンが相手を好きで、幸せでいてくれたら満足だよ」
「そうですね‥‥それが、一番幸せだと思います」
 そう言ったユリウスも、俯いたルキアも、二人共決して明るい顔ではなかった。
(‥‥だから、私は望めないんだケド)
 自己完結を続けるルキア本人も、そんなことは分かっているのだ。
 どんよりとした二人の雰囲気を何となく察しながら近づいてきたのは武流だった。
「そろそろ帰るらしいぞ。準備しておけよ」
「ああ、そうだね。それじゃ、私はこの辺で失礼するよ」
 けろっとして言ったルキアが早足にその場を立ち去る。残されたユリウスはそのまま、微妙な表情のまま武流を見据えた。
 逆にそのまっすぐな瞳に戸惑ったのは武流の方だ。
「なんか言いたいことが、色々あるだろ。今のうちにあるなら聞くぞ」
「‥‥」
 口を真一文字につぐんだままのユリウスはしばらく黙ったままだった。
 言えないか、と武流が息を吐いた時だ。
「俺‥‥今度は、後悔しないように頑張ります。だから、大丈夫です」
 選んだような言葉だったが、ユリウスの表情を見て武流は頷いた。
「それなら俺が言うことはもう――」
「ユリウス! 聞いてくれ、俺、しっと団に入ったぞ!!」
 武流の言葉に割って入った船木が間髪入れずに殴られたのは言う間でもない。
 
 
 End.