タイトル:【WF】sweet nightマスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/02 10:12

●オープニング本文


 それはパーティが始まる一ヶ月以上前の事だった。
 いつものように仕事を丸投げし、ティータイムを優雅に堪能していたウォルター卿(gz0139)は、思わず口をあんぐりと開けて聞き返した。
「‥‥すまないが、大尉。もう一度頼めるかな?」
「クリスマス前後の三日程、有給休暇を頂きたくお願いに参りました」
 一字一句違わず真顔で言い放ったシャルロット・エーリク大尉(gz0447)が冗談を言う人間でないことを卿は勿論心得ている。そして、誰よりも仕事を文句も言わずに抱え込み、未消化の有給休暇が大量にあることもだ。
 今まで大尉が有給休暇を使ったのは、去年の暮れに外せない弔辞があった時だけだ。しかもクリスマスなど大尉に縁のなさそうなイベントの前後など、目的は聞くまでもない。
 卿は親心のような何かを感じつつ、眉間を指で押さえて穏やかな息を吐いた。
「遂にこの日が来てしまったか‥‥」
「は‥‥? 准将、何のことでしょうか?」
「いや、構わん。大尉も年頃であろう。楽しんでくると良い」
「お言葉ですが、准将。微塵も楽しむ気はありません。それから、お客様がいらっしゃる時間です」
 またまた照れてしまって、と思わず言いかけた卿だったが、この時は予定も詰まっていたので何も言わずに終わったのであった。
 
 ◆
 
 クリスマスと時同じくして、LHでちょっとしたクリスマスパーティが開かれるのだという。
 カンパネラ学園の生徒達も参加するであろうし、監督と冷やかしとサボりを兼ねて、卿も会場に足を運んでいた。仕事など知ったことか。そもそも大尉がいないので事務仕事の効率は殆どゼロに等しいのだ。サボったところで地獄に変わりはない。
「なかなかに良いパーティではないか。昨今の情勢を鑑みるに、このような催しはあってしかるべきだろうな」
 などと、どうでも良い事を呟いている卿だったが、その目はしっかりと学園生達――特に未成年――を見つめている。失礼にならない程度に流しながらだが、飲酒をしていないか、または強要されていないか確認をするなど、一応教育者としての義務は必要最低限こなしている。
 その卿が、会場から誰かを連れて出ていく大尉を見つけたのはそんな時だった。翡翠色のドレスを着て、化粧をしているので一瞬気づかなかったが、間違いなくそうだ。あの姿勢の良さは大尉である。
「ふむ‥‥」
 教育者の義務はいずこへやら。
 野次馬根性を丸出しに、卿は副官の後を追って会場の柱の影に隠れた。
 大尉が連れ出したのは、彼女より遙かに背の高い男性のようだった。金髪で色白、服装は背中しか見えないが上等なもののようだが、いかんせん色彩センスが少し悪い。
 というよりも、彼女の腰に手を回したり、腕を引っ張って顔を近づけさせたり、何というか、チャラい。
「ふむ‥‥もっと堅実な者を選ぶと思っていたが」
 ちょっと予想が外れた卿は更に耳を澄ませてみた。
 どうやら、会場内で不用意に近づくなと大尉が怒っているようだ。
「えー? 別に良いじゃん、減るもんじゃねーし」
「お前のそういうところが嫌いなんだ! 勘違いされたらどうしてくれる!」
「ん‥‥何だい、シャル。勘違いされたくてそんな服装してるんじゃないのかな? 化粧までして‥‥可愛いよ、ハニー」
 耳栓を売っている場所はないか、と卿は一瞬辺りを見回した。もはやそのレベルのチャラさであった。
 大尉の右ストレートが飛んだが、それを軽々と受け流した男性は逆に彼女の顎を指先で持ち上げる。仕草のいちいちがチャラい。彼女の同期の赤毛中尉を遙かに凌ぐチャラさである。
「良いね、気丈な女性は好みだよ。ねえ‥‥そろそろ、返事を聞きたいな」
「ノーだと何度言えば分かる! 家にもそのように伝えたはずだ!」
「つれないな。そういうのを見ると、余計燃えちゃうんだよね」
「良いからこっちに来るな! そして帰れ!」
「そうはいかないよ。俺の為に三日も休みをとってくれたシャルを置いて帰るなんて、男が廃るね。それに、こんな可愛いプリンセスを一人にしたくないな。狼に攫われかねない」
「貴様が今まさにその狼だと自覚しろ! この虚け者がっ!」
 あそこまで罵られて嬉しそうにしているとは、まさか相手はマゾヒストなのか‥‥。
 卿が大尉の好みを心配しているなど露知らず、二人は会場の外の庭園に出ていこうとした。当然、卿も後を追うつもりだったのだが、ここで思わぬ邪魔が入ったのである。
「あらぁ。マクスウェル‥‥センセ♪ お一人ですの?」
「珍しい人がいたものだな。お付きの女性は流石に留守ですか?」
「これは‥‥ラングリス女史に、ラナン女史」
 ピンと来ない人の為に補記すると、ラングリスとはケイト・ラングリス、カンパネラ学園の保険医である。今日は豊満な胸を大胆に見せていた。
 もう一人はジュリア・ラナン、同じく学園の教師だ。こちらは何故かスーツである。
 そんな男性の目を釘付けにする職員室の華が、二人揃ってこちらに近づいてきたのだ。
 これはいかん、と身構えた卿が振り返ると、二人はもう出口付近まで歩いてしまっていた。これでは間に合わない。
 咄嗟に無駄な機転利かせた卿は、近くを歩いていたパーティ参加者の肩をひっつかんだ。
「君‥‥すまないが、あの金と銀のカップルを尾行して詳細を後で私に伝えてくれたまえ。可及的速やかに実行するように」
 頼まれた人は堪ったものではなかっただろう。

●参加者一覧

リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
カズキ・S・玖珂(gc5095
23歳・♂・EL
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA
フィオナ・フォーリィ(gc8433
18歳・♀・FT

●リプレイ本文

「あの、自分は今、合コンに‥‥っ」

 せっかくの出会いの場で一発決め込もうと意気込んでいたカズキ・S・玖珂(gc5095)は何とも言えない顔でウォルター卿の依頼を受けた一人である。何が嬉しくて合コン会場を抜けだして男女の密会を監視せねばならんのか、虚しさと義務感の狭間で彼は今でも揺れ動いている。

「お兄様、不審に思われないようにカップルを装うのです♪」
「い、いや、しかし‥‥」
「ほら、お兄様。私とお兄様は、今から花も恥らう恋人同士です♪」
「‥‥!? セ、セラ‥‥ッ!」

 腕を絡めてきたセラ・ヘイムダル(gc6766)の柔らかな胸の感触を感じたリヴァル・クロウ(gb2337)は硬直した。今まで散々女性の胸を揉んだり触ったりしているにも関わらず、この反応はどうしたことか。その間にも、セラは下着を敢えて取っ払った胸をぐいぐいと彼の腕に押し付ける。

「‥‥あの大尉、あのようなチャラ男にくれてやるには惜しい」

 庭園を散歩する大尉とチャラ男に最も近い位置にいたフィオナ・フォーリィ(gc8433)は淡々と言った。濃い紅色の軍服を思わせるデザインのスーツを纏う金髪の麗人は、それだけで様になる。

「うわあああ、チャラ男とかねーわあ! しかもなんかビミョーに服ダサッ」

 全身に鳥肌を立てて様子を伺っているのは綾河 零音(gb9784)である。銀色のドレスに黒のローヒールパンプス、ハーフアップサイドテールに纏めた髪に、十代の少女とは思えない化粧を施すことで、今日の彼女は一段と艶っぽく見える。
 そんな様子で見守る皆には気づかず、二人は肩を並べて歩きながら、特に声を憚ることなく話し込んでいた。

「お前、何をしにきた」
「ん? 分かってるんだろ?」
「クロード。あまり茶化すとお前の右頬が砕けるぞ」
「ああ‥‥怒った顔も素敵だよ」

 気持ち悪い、と観察している全員が総毛立った。
 しかも会話が成り立っているようで成り立っていないのが怖い。

「なるほど、名前はクロードか。ふん、分不相応な名前だ。あのような者、チャラ男で十分だ」

 一刀両断にしたフィオナは鼻で笑った。
『騎士』として振る舞うよう教育された彼女にとって、チャラ男の言動は許しがたいものがあるのだろう。

「と‥‥鳥肌が止まんない‥‥!」
「同じ男として思うが、彼は何か間違っている‥‥ような気がする」

 腕をさすった零音は本気で青ざめている。カズキは冷静に分析しつつも、その眉が何度か不快感でぴくぴくと動いていた。
 とはいえ、このまま出ていくのはあまりにも不自然だ。大人数で出ていけば、大尉に尾行が気取られてしまう。 彼らは二人に介入できずに手をこまねいていたが、そこでただ一人、堂々と――しかもチャラ男の存在を頭から無視して大尉に近づいた人物がいたのである。

「こんばんはぁ、シャルロット・エーリク」

 ダークスーツに身を包んだレインウォーカー(gc2524)は至って普段通り二人の前に現れた。大尉が無意識に身構えたのを見て、彼は肩を竦める。

「相変わらず嫌われてるねぇ、ボク。まあアレは避けられなかったボクが悪いししょうがない。一生ボクの事を嫌いなままでも構わない。けど、ボクはお前の事嫌いじゃない。多分、これからもねぇ。それだけは知っておいてくれぇ」
「‥‥過ぎたことだ、気にするな」

 決して嫌っているわけではない、と付け加えた大尉にレインウォーカーは唇の端を吊り上げる。男嫌いと言われている大尉だが、一つのことに拘る性格は男が相手でも有効らしい。

「フフ、いい女だな、お前はぁ。独り身だったら口説いてダンスに誘いたいぐらいだぁ。けど生憎とボクは愛する人のモノなんでねぇ。彼女を裏切るような真似はできない」
「それは幸いだ。お前の愛する者を大事にするが良い」
「勿論だぁ。それじゃ、ボクはこれで。いい夜を、シャルロット」

 終始チャラ男の存在を無視し続けた――実は二人が話している間、チャラ男は気づいてもらおうとレインウォーカーの周りをうろついたり、大尉の頭を撫でたりしていたのだが――彼は大尉に背を向けて軽く手を上げた。
 汚名返上は達成されたと見て良い。
 
「ラッキースケベはアイツ一人で十分だぁ」

 夜空を見上げたレインウォーカーは苦笑して呟いた。
 その『アイツ』が再び何とも言えない事をしでかしたのは、この少し後の事である。
 
 ●
 
「クロード! 歳相応の振る舞いをしろと何度言えば分かる!」

 レインウォーカーが去ると、大尉は突然大声で凄んだ。その気持ちはとてもよく分かる。
 尾行を続ける面々は大尉の背中しか見えないが、彼女の周囲の空気がどんどん凍り付いていくのが目に見えて分かった。
 
「やはりあの男‥‥只者ではないのだろうか」
「うーん。チャラくて空気が読めない奴にしか見えないんだけどなぁ‥‥」

 カズキと零音は首を傾げて二人の様子を見守っていたが、二人のやや前方で観察していたフィオナは既に堪忍袋の緒が物凄い勢いで引き千切れそうになっていた。
 
「‥‥もう我慢ならん。これ以上聞いていれば耳が腐る」

 すっくと立ち上がったフィオナは大股で大尉とチャラ男の間に割って入った。
 
「失礼。そちらのレディが声を荒らげておられたので」

 一言口にしたフィオナはチャラ男が何か言う前に大尉の方へ向き直って、お手本のような一礼をしてみせた。
 
「我はフィオナ・フォーリィ。以後お見知りおきを」
「シャルロット・エーリク大尉だ。その階級章‥‥傭兵伍長か。よろしく頼む」

 職業柄、軍服のようなものを見れば階級章を探してしまう大尉はフィオナに敬礼した。階級は下ではあるが、傭兵には一定の敬意を払うのが彼女流である。
 続いてフィオナが何か世間話でもしようと思った瞬間だった。
 
「ちょ‥‥超俺の好みなんだけど! ねぇねぇ、金髪のレディ。俺と夜が明けるまでゆっくり飲み直さないかい?」

 フィオナの柳眉がはっきりと歪んだ。見守っている他の傭兵達は、ある者は終わったと言わんばかりに空を見上げ、ある者は知らないぞと顔を手で覆った。
 
「フィオナちゃんだっけ? もう、ね‥‥名前から俺の好み。運命だよ、これ」

 ぶっちん、とフィオナの堪忍袋の緒が音を立てて切れた。途端に絶対零度の視線を彼に向けた彼女は嫌悪感を顕にして言い返したのである。
 
「‥‥この戯けが。女が嫌がっている様すら己の都合のいいように解釈するなど‥‥貴様、それでも男か」

 もともと冷めていた空気が一気に氷点下まで下がる。
 そんなこと言わずにさー、とチャラ男はフィオナの肩に触れようとしたが、それを払いのけた彼女は更に冷たく蔑んだ視線を彼に寄越す。
 
「気安く触るな。貴様には己に対する美意識というものも無かろう。だからそのような女の態度を無視した振る舞いが出来るのだ」
「うんうん、凛々しいところも超好み」
「‥‥は?」

 思わず聞き返したフィオナである。この男、頭がおかしいのか?
 このままではチャラ男の命が危ない、と他の傭兵達が合流したのはそんな時だった。

「‥‥君は今、致命的な間違いを犯している」

 ずかずかと間に割って入ったリヴァルはチャラ男の両肩に手を置き、目を丸くしている彼を見据えて静かに言った。ついでに彼に紅茶を渡し、懇々と――それはもう、過去自分に起こったことを頭に浮かべながらリヴァルは続ける。
 
「確かに君が目にしている女性は美しく見えるかもしれないが、君はもっと本質に目を向けるべきである」
「な、何だと? 貴様、人にセクハラしただけでは飽きたらず私を見掛け倒しと言うのか!」

 息を吹き返した大尉がリヴァルに食いつこうとしたが、すかさずそこにセラが滑りこんだ。

「こんばんはです♪」
「‥‥お前は?」
「セラ・ヘイムダルです。リヴァルお兄様とは、私の上に乗って胸を掴んだりする仲です」
「何故今それを言うのだ‥‥いや、違う、待ってくれ!」

 恥ずかしそうに頬を染めて言うセラを見た大尉はリヴァルに凍てついた視線を寄越した。一瞬でチャラ男から話題を奪い取る男――恐るべし、リヴァル・クロウ。
 場が和んだのか修羅場と化したのか分からない状況だが、咳払いをしたリヴァルは再びチャラ男に向き直った。

「‥‥君の目にしている相手は重度の脳筋属性だ。もし交際などしてみろ、顔の原型どころか人間としての骨格も保てるかどうか‥‥」
「き、貴様っ。人を猪突猛進のように言うな!」

 凄まじい勢いで大尉の右ストレートが飛んだ。しかし、そこは歴戦の傭兵である、そう簡単に当たるわけにはいかない。
 大尉の拳を躱したリヴァルの代わりに、チャラ男の持っていた紅茶缶がベキッと音を立てて凹んだ。中身が吹き出して、チャラ男とリヴァルのコートにかかる。顔面が粉砕するより被害は随分軽微である。
 だが、一度攻撃を躱された大尉も意地になる。リヴァルに向けて吶喊した大尉の左拳が炸裂した。その場にいたフィオナは冷たい視線を彼とチャラ男に向けるも止めなかったが、逆にセラは嬉々としてリヴァルの背中を力いっぱい押したのである。
 
「お兄様、危ない!」
「セ、セラッ! 何故押し――!」
 
 大尉の左拳を流し、彼女の頭を抑えようとしていたリヴァルはセラの突進で大きくバランスを崩す。必然的に、やや下向きに伸ばした手が更に下へ向いた。

「く‥‥!」

 このままでは、以前の二の舞である。
 渾身の力を足に込めてその場に踏みとどまったリヴァルである。大尉の胸の谷間に腕が吸い込まれるまで、あと三十センチ。
 だが、自分はラッキースケベを回避したのである。そう内心思って安堵したリヴァルだったが、ツメが甘かった。
 ここで今まで姿を潜めていた零音が飛び出してきたのである。
 
「シャル大尉ー! そこのチャラ男とっつかまえて! 金髪のやつ!」
「‥‥っ!? あ、綾河ぁぁぁっ!!」

 突撃ついでにリヴァルの背中を突き飛ばした零音は「あ、ごめんなさーい」とわざとらしく謝りながら即座に安全圏まで走り去る。
 残されたリヴァルは体勢を崩し、大尉を巻き込んで地面に倒れこんだ。

「‥‥破廉恥な」
「きゃっ♪」

 侮蔑の視線を向けたフィオナとは対照的に、何故か嬉しそうな悲鳴を上げたセラである。しかもその手にはカメラがあった。
 一方で、倒れたリヴァルは既に今までの人生が走馬灯のように頭を過ぎっていた。ほぼ真下に突き出された自分の両腕は問答無用で大尉の豊満な両胸を鷲掴みにしている。感触が思った以上に柔らかい。力を入れれば埋もれそうだ。

「‥‥貴様は確か、リヴァル・クロウと言ったな?」

 大尉の、地獄の底から響くような声が聞こえる。

「ち‥‥違うのだっ。これは巧妙に仕組まれたわ――」
「問答無用だ!!」
「――――――○×△◎□▽◇※!!」

 気づいた時には、リヴァルが言葉にならない悲鳴を上げて、非常に大事な場所を押さえて蹲っていた。うわぁ‥‥と場の面々が蒼白になる。覚醒しなかったとはいえ、能力者の膝が直撃だ。
 能力者としての一生を終えるより先に、男としての一生を終えそうになったリヴァルであった。
 その後、呆然と一部始終見守っていたカズキが我に返り、元の流れに戻そうと会心の一言を口にするまで、場は凍ったままだった。
  
「‥‥ULT所属、カズキ・スミス・クガ傭兵伍長。貴方がたを調査していた。無礼を働き、申し訳ない」
「無礼はそこの男だ。それで、調査とは?」

 全てを洗いざらい話し終えたカズキに、立ち上がって肩で息をしていた大尉はきょとんとして言ったものである。
 
「変だな‥‥お前、マクスウェル准将に挨拶していないのか?」
「あー‥‥挨拶する前に、シャルを見つけたから」

 けろっと言ったチャラ男である。ぽかんとした大尉の脇をしっかりとガードしていたフィオナは、薄々感じていた違和感を確かめるべくに彼女に向かって言った。

「失礼だが、大尉殿。この好色男とどのような関係なのかな?」
「‥‥アニだ」
「‥‥‥‥は?」

 全員の声が重なった。
 唖然としている面々を見回していたチャラ男は、ここぞとばかりにピースサインを目にバチッと当ててご機嫌に超特大の爆弾を投下したのである。
 
「どーも、シャルロットの異母兄にあたる、クロード・フレデリク・ベルナドット男爵です。よろしくー♪」

 ●

「ほう‥‥ほう、そういえば、そのような家族がいたと、聞いたことがあるような」

 カズキの報告を聞き、適当なことを言ったウォルター卿に傭兵達は軽い殺意を覚えたが、敢えて口には出さなかった。
 
「報酬は要らないよぉ。尾行しろっていう命令を、僕は拒否したからねぇ」

 そうレインウォーカーは言ったが、そう言わずに受け取りたまえという卿の粘り強さに負けて、渋々報酬を受け取っていた。
 
「ヘンリー先生は、マジモンのイケメンだしっ。チャラ男じゃないし!」
「落ち着け。我もあのような不埒な者が、大尉殿と兄妹とは信じがたい」

 悶々としている零音の肩にフィオナは手を置いて慰める。
 大尉の話によると、クロードは大尉の異母兄妹であり、ヘンリーの異父兄弟でもあるらしい。クロードの母親が再婚した際に彼もついていったため、現在の姓はベルナドットなのだ。
 もう一つ、三十前後と思われていたクロードの年齢は三十八、つまり卿と同い年であった。髪は染め、瞳はカラーコンタクトらしく、本当はヘンリーと同じく赤毛に紫の瞳らしい。

「‥‥事情があって、今は義兄がベルナドットの家督を継いでいる。以上だ」
 
 何か複雑な事情があるらしく、大尉は多くを語らなかったが、それでも十分驚愕に値する事実だ。

「まったく、とんだ目にあったぞ‥‥それはそうと、大尉殿。口直しに我と一席いかがかな?」
「是非、同席したい。これは飲まねばやってられん」

 彼氏だと勘違いされ、胸を掴まれた大尉は憤然と言い放った。
 ちなみに、リヴァルは現在救護室で応急手当を受けている。

「だが、私で良いのか? こういう場では男の方が良いと思うが」
「英雄、色を好むという‥‥美少年は良い、美少女、美女はもっと良い‥‥他に理由は必要あるまい」
「ふむ‥‥」

 意外と意気投合して、大尉はフィオナと会場へ戻っていった。
 一方、意を決したカズキは卿の傍にいたジュリアに近づき、恐る恐る口を開いたのである。

「ミズ・ラナン。少し、よろしいだろうか」

 正面から見つめる好みのど真ん中であるジュリアにカズキは僅かに視線を外しながら続けた。ジュリアはこざっぱりとした感じで、腰に手を当てて彼が何か言うのを待っている。
 
「これから少し、呑み直そうと思うのだが‥‥一緒に、どうだろうか。いや、話だけでも良い‥‥貴女と過ごしたい」
「‥‥私はかなり飲むよ。飲み代はそっち持ちなら付きあおうかしらね」
「り、了解しました!」

 思わず敬礼したカズキが、上手くジュリアの連絡先を聞き出せたかどうか。
 答えはクリスマスの、この綺麗な星空だけが知っているのだろう。

了