タイトル:【VU】Version-OGREマスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/21 20:43

●オープニング本文


 カプロイア社で検討されているOGRE――オウガのヴァージョンアップ案に、担当者は頭を抱えていた。
 というのも、どれもしっくり来ないのである。
 オウガについて、この担当者は多くを知らない。とはいえ、書類上の事は把握しているので、この機体に乗ったことのない傭兵程度の知識はあるつもりである。
「むー‥‥むー‥‥課題は燃費、か‥‥いや、しかし‥‥」
 頭を掻きむしる担当者は、何度もオウガの写真とそこに付記された文章を読み返した。燃費の悪さは確かに見受けられるが、圧練装甲のことを加味すれば多少はマシになるか。
 一方で、搭乗者の負担を考えれば、あまり大掛かりなことは出来そうにはない。
「いや、やはりこういうのは、現場の声を聞かねばならない!」
「おー。頑張ってるかー」
 担当者が拳を握りしめた時だった。頼れる上司が仕事場に戻って来たのである。担当者は目を輝かせ、捨てられそうな子犬のような目でその上司に飛びついた。
「先輩っ! 手っ取り早くKV乗りの集まる場所ってどこっすか!?」
「えー、あー‥‥どこだろ。今だとアフリカ‥‥いや、一定数が確保できるという意味ではカンパネラ学園か」
「学園っすか! マジっすか!」
 この担当者、すかすかうるさいのが気になるが、頭と性根はまともである。
「でも、学園って若者しかいないんじゃないっすか? 大人の意見も取れるんですかね?」
「あそこは聴講生とかいるから、二十代以上も普通にいるだろうよ」
「なら、招集をかけてうちに来てもらえば良いのでは‥‥」
「アホか、お前」
 上司は担当者の額を指で弾いた。痛いっと悲鳴を上げながら、担当者は額を押さえて上司を見上げた。
「何するんすか!」
「学園の良し悪しは置いといて、上司命令だ。学園に言って、今すぐ仕事してこい!」
 学園なのは大人の事情だ、とは口が裂けても言えない上司であった。



「‥‥そのお鉢が、何故私に回ってくるのですか、准将」
「無論、私が働きたくない‥‥もとい、他の仕事が山積しているからだ」
 執務室で優雅にティータイムを楽しんでいるウォルター卿はさらっと言った。
 件の担当者は、学園に来たは良いが何が何だかよく分からないらしく、通りかかった卿に助けを求めたのである。よりにもよって卿に助けを求めるとは、運の悪い担当者だ。
 ひと通り書類に目を通したシャルロット・エーリク大尉は上司の顔を見つめた。
「准将。私はカプロイア社の機体には詳しくありませんが‥‥」
「だが、じゃじゃ馬のような機体は、大尉としても気になるところであろう? 単純に性能だけ見れば、大尉好みの機体なのは自明だ」
「それは、そうですが‥‥いえ、そういう話では無いと思います」
「なに、大尉が改造する訳ではないのだ。傭兵達の話を聞いて、それをまとめて私に報告すれば良い。難しい仕事ではないだろう」
 いっそ好き勝手改造させてくれた方が良いのだが、と内心思った大尉である。だが、それを卿に言っても仕方あるまい。
 溜息をついた大尉は、机に散らばった書類をまとめて立ち上がった。
「了解しました。意見聴取ということであるならば、引き受けましょう」
「期待している」
 何気なくプレッシャーをかけた卿に大尉は頭を下げて、部屋を出た。
 そのままドアに持たれたエーリク大尉は、何とも言えない顔で書類を見下ろした。
 優秀なドッグファイター。じゃじゃ馬。ピーキー。
 空戦での機動力と、陸戦での打撃力。
 加えて、劣悪な燃費の悪さ。
(どうしよう‥‥すごく、好みだ‥‥)
 傍目には無理難題を押し付けられてぷるぷる震えているようにしか見えない大尉だが、当の本人は広がる浪漫に胸を震わせていたのである。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
ストレガ(gb4457
20歳・♀・DF
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
フェイル・イクス(gc7628
22歳・♀・DF

●リプレイ本文

「いよいよOGREのVUだねぇ‥‥皆もっともっとイイ子に育ててあげよう♪」
 OGREの発案者である聖・真琴(ga1622)は言った。
 彼女がいなければ、OGREは世に出されることは決して無かっただろう。そういう意味では、真琴はまさしくOGREの母と言える。
「真琴さんはご無沙汰ぶりです。お元気でしたか?」
 にこやかに微笑んだストレガ(gb4457)は椅子に座る。そうして、配られた資料にひと通り目を通す。
「私はまだ実戦で扱ったことがありませんので、他の皆さんの意見の方がより具体的な意見が出ると思います。ですので、皆さん、よろしくお願いしますね」
「よろしく・・・・頑張る」
 やや不安げに言ったのは瑞姫・イェーガー(ga9347) である。ここで話し合われたことが全て実際に反映されるわけではないため、適切な意見を出すことができるか気にしているのだろう。
「乗り手を選ぶ機体の類に入るけれど、良い方向に持っていきたいわね」
 落ち着いた声で 狐月 銀子(gb2552) が言う。彼女の頭の中には、既に一定のプランがあるのか、その声ははきはきとしていた。
「わたくしにとっては、とっても思い出ぶかいきたいですの。とってもとっても、ありがとーですの☆」
 乗り換えてはしまったが、過去の頼れる相棒であることに変わりはない。そういう意味を込めて、まだ見ぬ新たな姿に変わろうとするOGREにノーマ・ビブリオ(gb4948) は礼を述べた。
「ZGFのVUか! うむ、胸が熱くなるな! ガッハッハッ!」
 Ogre――とTACネームを持つ孫六 兼元(gb5331)は豪快に笑う。奇しくもOGREと同じ名前をもつ彼もまた、このVUには熱い思いを抱いていた。
「ついにオウガがVUされる時が来たかぁ・・・・」
 感慨深げに言ったのは御剣 薙(gc2904)だ。孫六とタイプこそ違え、彼女もまたこの機会を有効に活かそうと決意に満ちているようだった。
「搭乗権を得た矢先にこのような場が設けられるとは。巡り合わせとはかくも恐ろしいものですね」
 参加者全員に紅茶を運んできたフェイル・イクス(gc7628) は金髪をなびかせて言った。空になったトレーを膝に乗せて、彼女も席に着く。
「さて、全員揃ったな。では、検討会を始めよう。良い結果になるよう、皆の意見に期待している」
 書類の束を机で打った大尉の言葉とともに、VUの検討会が始まった。



 いきなり各々好みの意見を言うと場が混乱するということもあり、順序立てて相談が行われることとなった。
 即座に改造案に向かいところではあったが、まず、ホワイトボードの前に立った孫六によって、OGREの長所や短所等が話し合われた。
「ZGFは空戦でホバーとスラスターを使い、普通のKVでは考えられん機動で敵機を翻弄できる、唯一の機体だ!」
「そう。行動と機動力、瞬間的な大火力による突撃と白兵戦が得意な子だよね♪」
 一息で言った孫六の言葉に真琴が深く頷く。確かに、OGREの機動力は新型機体が続々発売される中でも、ある一定の評価は得続けている。
 男らしい極太の字でぐりぐりと書き殴る孫六は更に続けた。
「欠点は『圧練装甲が空戦で使えない』事だな!」
 この言葉には、他の傭兵達も同感のようで、賛同の声が多く挙がった。
 現状として、空戦で特徴でもある圧練装甲が使用できないというのは、OGREの力を半減させているに等しいというのは明らかだ。
「装甲やらっていうのは気にはならないけれど、利を使う為に錬力喰いになるところは気になるわね」
 そう言葉を添えたのは銀子だった。利点を伸ばす、という考えのもとに発言する彼女らしい言葉でもある。
「TBか‥‥利点を伸ばしたいあたしとしては、ここも気になるわね」
「きもちは分かりますの。練力が気になるのは、わたくしも同じですの」
 ノーマがこくこくと頷く。
 圧練装甲を使おうにも、今の練力や耐久力では使う前に墜落するか、まともに練力回復へ向かわないのが事実だ。そこを改善しない限り、戦力として数えるにはお粗末すぎる。
 実戦ではまだ使ったことがありませんが、と予め言った上でストレガが口を開いた。
「圧練装甲の使いどころに少し困るというか‥‥もっとそのあたりの使い勝手が良くなればと思いましたね」
「ボクもそう思う。改造可能にしてくれると一番だけど、そうじゃないなら変換効率を上げられれば、と思うよ」
 薙も頷きながら言った。彼女自身、実戦で四回の使用が限界だと知っているのである。
「変換効率ですか‥‥欲を言えば、現在の50%から70%ぐらいまで引き上げられればいいのですが」
 流石に欲張り過ぎでしょうか、と苦笑したフェイルが言う。
「どちらにせよ圧練装甲の強化は行うべきだと思う」
 ここまで口を噤んでいた瑞姫が言った。彼女の言うことは尤もで、OGREのVUを考えるのであれば、この圧練装甲の問題は避けては通れまい。
「実装時に、防御面は諦めざるを得なかったんだけど‥‥今なら出来るのかな。ううん、できて欲しいかな」
 真琴はそう言うと、聞き役に徹していた大尉の方を一度見た。
 彼女の視線に気づいた大尉は持っていた携帯端末を机に置くと、一拍置いて口を開いた。
「圧練装甲そのものの改造は、技術的にやはり難しい‥‥いや、技術が追いついていないといった方が良いな。それだけ特殊な装備ということだろう」
 つまり、装甲そのものに防御力を持たせるのは難しいということだ。ある程度予想できる回答だったが、出鼻をくじかれる形になった傭兵達である。
 しばらく沈黙していたが、ふと孫六が顔を上げた。
「そのものの改造は‥‥ということは、変換効率の上昇は可能なのだな!」
「可能である、という回答を得てはいる。どのくらいの変換率になるかは不明だが、そう悪い案ではなさそうだな。使用回数自体はやや抑えめになるだろうが、変換率の上昇は考慮されるべきだと思う」
 その言葉に、傭兵達の顔が僅かに明るくなった。事実上の、圧練装甲の強化を約束されたようなものだったからだ。
「ということは、直撃吸収という形は変わらず、ですか? ダメージの蓄積を避けられないという欠点はありますが‥‥」
 瑞姫の質問に大尉は彼女の方を向いた。意見を求められている、と判断した瑞姫はそのまま言葉を続ける。
「直接攻撃を受けて吸収するのではなく、非・半接触吸収という方法も選択肢にあると思いますが‥‥難しいのでしょうか」
「その際の利点は何だ?」
「ダメージを受ける可能性が極めて低くなるのと‥‥空戦に適している、かと。練力変換効率はあまり良くなさそうだけど」
 ふむ、と頷いた大尉に、不安そうになった瑞姫は「やはり無理ですよね」と自信なさげに呟いた。
「そうだな‥‥発想は悪くないが、そこを変えるのは非常に難しいと判断する。だが、圧練装甲に関しては何らかの手を加えるよう私も推奨しよう」
 さて、次だ、と大尉が書類を叩く。
 まだまだ考えなければならない部分が、OGREには残っているのだ。


「んと、次に何か決めるとすればTBだね。これに関しては誰か案があると思うから、それを聞きたいかな♪」
 一つの収穫を得て、上機嫌に真琴が言う。
「とことん利点伸ばしたいのよね‥‥欠点補うのはあたし等で、この子には可能性を追って欲しいもの」
 銀子がしみじみと言う。彼女はその腕でOGREのピーキーさを抑えこむというスタンスの傭兵なので、そういった意見も当然出てくるのだろう。
「だから、TBの改良で元々高い回避を向上させられないかしら」
 例えば、と銀子が言う。
「機体制御系をAに、攻撃性能をBに集約させられれば、幅も広がると思うわ‥‥ただ、ピーキーさは増すでしょうけれど」
 OGREの特徴である火力の高さを活かしたい、と彼女は言うのだ。
 そこで、フェイルが口を開いた。
「瞬間火力の上昇も魅力的ですが、特に手を加えなくても三回ぐらいは使いたいところです」
 つまり、燃費向上を訴えたいということだ。
「追加消費する練力を現状の半分ぐらいにできないでしょうか?」
 半分はやや望み過ぎな面はあるが、練力消費の激しい構造に難点があるのは確かだ。
「通常のブーストとの併用が必須だから結構消費が莫迦にならないんだよねー」
 溜息をついたのは薙だ。そうした上で彼女は更にこう付け加えた。
「燃費改善もだけど、TB/B使用時の数値増加分の内、攻撃の部分を知覚との切替が可能に出来ないかな? 戦術の幅が広がると思うんだけど」
「できなくはないが、機体のコンセプトとして、それは難しいと思うな」
 ふと、大尉が口を挟んだ。
 OGREは物理攻撃重視の性能を誇っている。それゆえに、他の性能を犠牲にしてまで攻撃と命中に特化しているわけで、その姿勢を一時的とはいえ崩してしまうのは僅かに違和感がある、ということだった。
「まあ‥‥それを除いたとしても、練力消費はどうにかなると良いですね。 現在Lv6に強化してやっと90にまで押さえ込めたくらいで‥‥」
 苦笑したストレガの言葉には、強化に対する苦労が窺える。
「ワシは、ZGFの真価はTB/Aに有ると考える!」
 孫六が威勢よく言った。TB自体、OGREの心強いスキルであることを考慮すれば、ここを改良したいと強く願うのは不思議ではない。
「TB/Aをホバーモード、回避モードの二種類にすることで、多様性も広がるであろう! また、TB/Bを攻撃・命中のみにする事により、燃費を抑えられると判断する!」
「それで、TB/A、Bの利点でもある急加減速による機体制動と火力向上が望めれば最高ね」
 孫六の言葉に加えるようにして銀子が言う。
「機体各部のスラスターと三次元偏向推力の連動スキルですね。命中力と回避力も上がりそうですの」
 きゃっきゃとはしゃぐようにノーマが言う。
「その上で、私が更に強調したい点がある、かな」
 真琴がホワイトボードに何かをさらさらと書き込んでいく。
「TB/A−1――ホバーモードだね、その方向転換は『行動消費無し』と、TB/A全般の『空陸使用可』熱望したいな♪」
 さらっと凄いことを言った真琴である。
「高い機動力を活かしての翻弄や、援護急行‥‥そういう『動く』事が最重要になる場面に活きる機体だからこそ、そういうところは期待しちゃうかな?」
 そう言って、大尉の方を期待に満ちた目で見た真琴である。ここで明確な答えは出ないのはわかっているが、色よい返事は聞きたいものだ。
 考え込んでいた大尉は、しばらくしてからようやく顔を上げた。
「悪い案ではない‥‥だが、個人的な意見を言えば、強すぎるな、それは」
 決して強い機体が悪いわけではないし、OGREにその資格は十二分にある。
 けれども、と大尉は続けた。
「私にOGREの事をどれだけ把握しているか、諸君らは疑問を抱くだろうが、やはり強すぎると思うな。それだけの性能を有する機体になれば、まさしく人を選ぶ機体となるだろう」
「ピーキーさはOGREの特徴だけどねぇ……」
 銀子の言葉に大尉は一度頷いた。
「そうしたものは欲しいし、私も好みではある。だが、技術力の面、コストの面、そしてパイロットを選びすぎるという点から、推奨はしない。勿論、諸君らの意見はこのまま企業へ持ち込むつもりではある‥‥あくまで私個人の意見として、受け取って欲しい。燃費の改善については、私の方からも強く要請しておく」
「そう。‥‥それと、関連してだけれども‥‥」
 一度引き下がった銀子は、改めて身を乗り出した。
「巡航速度と最高速度の改良は出来ないものかしら。元々OGREが最も優れていた部分だし‥‥」
「私の口からは何とも言えんな‥‥そのように担当者に伝えておこう」
 書類に巡航・最高速度と書き込んだ大尉は頷いた。


「ところで、名前は良いのか?」
 会議も終盤になって、大尉は言った。ここまで性能の話のみで、名前の話は全くしていなかったのである。
「ストラダーレなんてどうでしょう? イタリア語で公道仕様という意味ですが、今回は野を行くという感じで‥‥まあ、長ければSt.でも良いかもしれませんね」
 やや肩の荷が降りた様子のフェイルが言う。
 今回、名前に関しては全員の意見を担当者に伝えるということで、傭兵たちは各々自分の考えた名前を口にしていった。
「ZGF、OGRE0(ゼロ)系、オウガR1系‥‥などが良いと思うぞ!」
 ぽんぽんと候補を上げた孫六は「これで良い方向に改造されれば御の字だ」と豪快に笑ってみせた。
「R1/オウガのRは標準機――Referenseの頭文字と言う部分から‥‥今度は、革新・改革のReformや、革命のRevolutionの頭文字を取りZGF−R1/R(0/R)が良いな♪」
 様々な想いを込めて、真琴がその案を出す。
「なるほどな。諸君らの意見や想いは受け取ったつもりだ。おそらく近いうちにOGREは新たな姿に変わるだろう。想いが少しでも反映されるよう、こちらも配慮しようと思う」
 それらすべての案を書類に書き込んだ上で、大尉は頷いて立ち上がった。
「更に良い機体になれば嬉しいですね」
 穏やかにストレガが言う。
 準備は整った。
 あとは、OGREの再誕を待つのみである。