タイトル:【GR】副会長、罷通マスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/21 20:38

●オープニング本文


●GR鉄道計画
 その計画は、カンパネラ学園の関係者を集め、チューレ基地跡を利用する形で、行われる事になった。
 残骸と化した基地は、言い換えれば資材の宝庫でもある。そして、上手い具合に空いた土地を放って置くのも勿体無いだろうと言う事で、話はまとまっていた。
 しかし、かの地にはまだ、敵も多い。
 莫大な資金のかかる事業に、極北と言う観点から工事を請け負ったのは、かつてシベリアに鉄道を通したプチロフ。
 その代表マルスコイ・ボーブルは、作業員達の安全確保を、その条件に求めた。
 さもありなんと頷いた学園側の総責任者は、ウォルター・マクスウェル卿。
 加えて、会長でもある龍堂院聖那、技術部門の責任者はキャスター・プロイセン准将と、それぞれの関係者が、それぞれの役目を持って、再び極北の地へと赴く事になる。

 グリーンランドに鉄道を。

 基地を作り、街を作り、それを結ぶ。絆と‥‥共に。


●スクウェア・プラン
 先の大規模作戦で窪地になっているチューレ基地跡に目を付けない人はいない。ここを鉄道の終着点とし、広大な土地に宇宙に関する研究所を設置すること異論など出るはずもなかった。
 強いて言えば、あまりにも寒すぎるという点であろうか。だが、土地を選んでいるほど、人類に余裕があるかと問われれば、それもまた否である。
 さて、プチロフ社や地元企業らの出資を受けて研究所の建設に着手しようとしたが、ここで問題が発生した。
 大規模作戦で制圧したとはいえ、その後は殆ど手付かずであったため、キメラ達の溜まり場には格好の場所となっていたのである。
 再び大規模な戦闘により殲滅するという案もあったが、それでは鉄道敷設中の作業員の命が危機にさらされる可能性もある。あくまで速度重視を要求しているウォルター卿の理念にも反するのだ。
 そこで、ウォルター卿は誰でも想像がつきそうな作戦をもったいつけた名前で飾って実行することにした。
 その名を、『スクウェア・プラン』と言う。
 説明するのも面倒だが、と前置きした卿の長々しい説明は敢えて省くとして、要約すると、まず四方の敵を残党は中央に逃げるよう撃破し、最後に中央部で残党勢力をまとめて叩くというものであった。
「なお、この作戦は計三回に分けて行うものとしよう。三回なのは‥‥まあ、それについて諸君らは気にせずとも良いか。上手くすれば二回で済むかもしれん」
 教えたいのか隠したいのかはっきりしろと言いたかったが、階級が階級なので口を出せないでいた教師達の前で、卿は膝に掛けていた黒いコートを肩に羽織って立ち上がった。
「さて、私はそろそろティータイムなのでね。後は任せる」
 グリーンランドより紅茶なのかと教師たちは内心盛大にツッコミを入れ、後ろをついていく若き副官の人生に心から同情した。


●副会長、上陸
 スクウェア・プランの指揮を任されたのは、カンパネラ学園副会長であるティグレス・カーレッジ(gz0098)である。
 彼は非常に生真面目であるので、ふざけた名前の作戦を見せられても、これが自分の使命であると二つ返事に了承したのだった。
「俺達の動きにチューレの未来がかかっている。敵は弱いとはいえ、気を抜くな」
 ぶっきらぼうに言ったティグレスは、彼の指揮する学生部隊員を見渡した。何せ極寒のグリーンランドである。流石に寒いのは隠せないのか、隊員たちの顔色も幾分青白い。
 グリーンランド自体は白夜であり、真夜中にもかかわらず明るく視界もはっきりしている。逆を言えば、これほどの好条件を逃せば作戦は困難になる。
 ‥‥と、ティグレスは半ば本気で考えていた。
「副会長! ウォルター卿から指示が来ました。私達は北から東にかけての戦域を担当しろとの事です」
「西と南はどうする?」
「UPC軍が担当するようです。傭兵の派遣も要請したので、彼らと合流して任務に当たれとのことでした」
「分かった。では、俺は敵に突っ込む。後に続け」
「‥‥は?」
 ぽかんとした生徒に、ティグレスは持っていた斧槍を回し、AU-KVのヘルメットを被った。
「ふ、副会長‥‥? 指揮官が前線へ突っ込んでどうするんですかっ」
 もっともなことを言った生徒に、ティグレスはくぐもった声で一言答えた。
「大丈夫だ」
 何がだ! と誰かつっこむ前に、実はやる気満々であるティグレスは、冷静さを欠かない目でもって、前方に溜まるキメラ軍をじっと見た。
「ティグレス・カーレッジ、罷り通る」
 言うやいなやティグレスは走りだした。
 呆然としている生徒の肩を叩いたのは、ティグレスの同級生で、溜息をついて彼は呟いた。
「あんな燃えてるティグレス、初めて見たわー。よっぽど何か、ストレス溜まってたんだろうなぁ」
 副会長も楽ではないということだ。

●参加者一覧

麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
鈴木 一成(gb3878
23歳・♂・GD
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
ネロ・ドゥーエ(gc5303
19歳・♂・DF
ティム・ルーバス(gc7593
10歳・♂・DG

●リプレイ本文

「さて、副会長もいることだし、情けない所は見せられないな」
 チューレに感慨深いものを感じる麻宮 光(ga9696)は言った。場所は勿論、戦線に出ている人物にも当然興味はあるのだ。
 ティグレスの名を知るものは殆どだったが、その姿を実際に今日まで見ることのなかった傭兵も多い。キメラ退治は勿論のことだが、副会長と同じ戦線に並べることなどそうあるわけでもない。共闘できることを楽しみにしている者もいたはずだ。
「初めての依頼‥‥初めての仲間‥‥わくわくする‥‥!」
 ヘキサグラムのペンダントをぎゅっと握りしめたティム・ルーバス(gc7593)は、やや寒そうにかじかみそうになる手に息を吹き掛けた。
「でも真剣に取り組まなきゃ‥‥! 頑張るから、皆、宜しくお願いしますなの」
 新米傭兵として、できることはしなければ、と意気込む彼に、歴戦の傭兵達は自身の新米時代を思い出しつつゆっくりと頷いた。
「‥‥白衣じゃないからどうもしっくりこないな」
 この気温では仕方がないが、いつも違う装いに肩を竦めたのはレベッカ・マーエン(gb4204) だ。今日は白衣の代わりに、暖かそうなダウンジャケットである。
 レベッカだけではなく、傭兵達は事前に知らされていた為、各々防寒具を着込んでいた。極北の地で依頼を完遂させるためには、ある意味当然ともいえる。
 だが、一人だけ、とんでもなく寒そうな格好の少年がいた。
「‥‥大丈夫なのか、そんな格好で」
 相棒の服装を一瞥したアレックス(gb3735)は怪訝そうに尋ねた。
 彼の銀髪の相棒は、盗賊風の布面積が少ない、非常にこの極寒の地にはそぐわないものだった。へそが出ていないか、へそが。
 寒さごときでどうこうなる相棒でないことは知っているが、何だろう、傍目に寒すぎる。
「平気、だよ‥‥それに‥‥」
 存外余裕な様子で言った霧島 和哉(gb1893)は群れるキメラをちらりと見やり、さらっと言い放った。
「この、数で‥‥一匹一匹が、それなりに強力だったら‥‥とか、ね。今日よりずっと、寒いと思う‥‥よ?」
 そう――もし、この場にいるキメラが全てジハイド級の強さだったら‥‥。
 思わず考えてしまった傭兵達の背筋がぞっと凍りついた。
 だがしかし、その考えで果たしてこの寒さを凌ぎきれるのだろうか、とも同時に思ったものである。



 前線では既にティグレスが全力でキメラを薙飛ばしていた。元より、それなりに腕はある傭兵だ、ばったばったと片っ端から倒しているが、どう見てもストレスを発散しているようにしか見えない。
「ま、まさか副会長が吶喊しますとはっ」
 AU−KVに跨り、外周からキメラ群を追い込むように走るヨグ=ニグラス(gb1949) は遠目に見える副会長の背中を見て言った。こんな副会長は見たことがない――いや、そもそも表舞台で見たことが殆ど無いのだが――ため、是非ともあとで学園に広めておこう、と心に決めながら。
「副会長さんと生徒さん、それに仲間達の努力を、無駄にはできませんね‥‥」
 外周から追い込もうとする傭兵を見やった鈴木 一成(gb3878)は小さく言った。きょどきょどと周りを見回し、手薄な場所へと小走りに走っていく。
 だが、自分も頑張らねばと前を向き、覚醒した瞬間に彼は激変した。
「イヤーーァッハハハハァーー!」
 一成の豹変に、彼を知らない傭兵以下生徒たちがぎょっとするが、彼は一向に気にしない様子で槍斧を一回転、豪快に回して見せた。
「ひゃははははひーっひっひっひ! 制圧前進あるのみよ!」
 開き直りというレベルはあっさり超えてしまっている気がするが、ともあれ先ほどの大人しさが完全に吹き飛んだ一成は、我先にとキメラを突き飛ばしていった。
「鼓舞の意味でもない限り指揮官が前線に出るべきじゃないと思うんだけどね」
 面倒くさそうにぼやいたネロ・ドゥーエ(gc5303)の後ろを獣が吹き飛んでいく。武器を振るうスペースは十分なのだが、いかんせん、中央部の戦力は敵を飛ばしたがるようだ。
「キメラの攻撃より吹っ飛んだキメラにぶつからないかの方が心配だよ」
 もっともな事を言った彼もまた、覚醒すれば性格が大きく変わるのだ。
 緑がかった深い黒の髪色に変わったネロは、正面に生えていた植物をまとめて大剣で薙ぎ払う。地面ごとえぐられる形になったキメラが高々と宙を舞った。
「速度がねぇからなぁ。好き勝手させてもらう!」
 そんな物騒な両手武器で傍若無人の戦い方をされると、キメラも逃げ出したくなるに違いない。
 だが、反対側に走れば一成がハイテンションで迎撃するのだ。
「オラァ! 走れ走れ〜ぃ! さもなきゃブチ割りますよぉぉぉ!!」
「殲滅か、分かりやすくていいねぇ!」
「イェエエアーーーーーーー!!」
 戦闘狂というわけでは決してないのだが、あの二人は放っておいても勝手に暴れそうである。


「あっちは燃えてんなぁ‥‥まぁ、あのくらいの熱気が今の副会長には丁度良さそうだぜ」
 制圧班とティグレスの暴れっぷりを見つつ苦笑したアレックスは、AU−KVで凍る大地を走っていた。機動力に大きく優れる彼らには外周からの追い込みを掛けているのだ。
「さて‥‥ベルガ十八英雄が一、【炎帝】アレックス‥‥行くぜッ!」
 燃え盛る派手なファイヤーパターンのAU−KVが北の大地を駆け巡る。獣の死角に回りこんだ彼は、担いでいた大剣で殴りつけた。
「――ハァッ!」
 気合の声と共に、アレックスが飛びかかってきた獣を竜の咆哮で弾き飛ばした。吹き飛んだ獣は動きの鈍い植物型にぶつかるようにして氷の大地に落ちる。
「スキルで支援する、出来る限り数を減らすぞ」
 エネルギーガンで援護射撃に出るレベッカの声が響く。剣を持つものはその切っ先が鋭さを増し、銃で戦うものはその銃身が淡く輝く――練成強化の効果だ。
「陸より空の方が厄介だな。早めに数を減らす」
 更に電波増幅で威力を底上げしたレベッカは、前線で戦う仲間の上空を哨戒する鳥を次々と撃ち落とした。無残に散るキメラの亡骸が、地上の攻撃に巻き込まれて辺りに投げ出されていく。
 彼女達の攻撃が功を奏したのか、足の早いキメラは外周部分から中央部へと自発的に移動を始めていた。
「逃げるか‥‥まぁ良いか。深追いは禁物なのダー」
 獣が方向を変えるのを見たレベッカは、息を吐きつつも次の標的に銃口を向けた。
「だったら、鳥を撃つのみダー」
 金色に輝く右目がしっかりと空を飛び回るキメラを射止める。銃声と同時に、羽根を散らして鳥が地面へと落ちていった。
 銃を回して腕を下ろしたレベッカは、近くで同じようにして鳥を撃っている和哉の方を見た。ゴシック・ロリータ調のワンピースを着ている自分が言うのも何だが、寒そうだ。
 彼が少し疲れているように見えたので、おもむろに彼に練成治療をかけてみたレベッカは口を開いた。
「大丈夫か? 寒そうだな‥‥」
 声をかけられた和哉はレベッカの方を振り返り、無表情のまま小首を傾げて見せた。
「寒い‥‥けど、まぁ‥‥気にしない、かな‥‥」
 是非とも気にしてほしいところだが、この状況下で戦えているのは流石だろう。だが、気温の低下は明らかに彼に影響を与えているようで、いつもより体力の消費が激しく感じるのも事実である。
「‥‥でも、お腹は‥‥寒い、かな‥‥」
 剥き出しの腹を一度撫でた和哉である。右脇腹の傷が痛々しいが、本人はそんなことは気になっていないようだ。
 いや――その前に、だ。他人事ながら腹を壊さないか心配である。
 周りの心配を他所に、竜の瞳で精度を上げた和哉は視界の端にいた植物型キメラに銃弾を放った。そのまま近づいてきていた獣を薄青色の刃で斬り伏せる。
「ストレスの溜まった‥‥背中、だね‥‥」
 彼の目には絶命するキメラよりも、その先で暴れている副会長の方が優先的に映るようだ。その、苦労が耐えない、と言わんばかりの背中を見つつ、和哉はぽつりと呟いたものである。
「やっぱり、副会長は大変なお仕事なんですねっ」
 その和哉の脇を、明るい声で言ったヨグのAU−KVが駆け抜けた。
「ああ、もうっ。空からって嫌なんですけどっ」
 どうやら鳥に追い回されているらしい。とはいえ、いつでも迎撃できるので敢えて回避している、という方が正しいのだろうし、彼が逃げ回っている間に銃を持った仲間が鳥を次々と撃ち落としてくれるのだ。
 そんな彼の目の前には、氷から生えているとしか思えない植物が群れていた。
「うわぁ、何か植物がうようよしてる‥‥」
 AU−KVを急停止させたヨグに、獲物が来たと言わんばかりに植物型キメラが触手を伸ばしてくる。出来る限り近づきたくないのか、彼は既にAU−KVのハンドルを握って方向を変えようとしていた。
「ツタ伸ばしてくるか、なんか吐いてくるんでしょっ!」
 体から伸びる触手がうねうねしていて実に気持ち悪い。
 露骨に嫌そうな顔になったヨグは、横から突撃してきた獣を槍で一突きにした。事切れた獣を振り投げて、じわじわと近づいてくる植物から距離を取る。
「この戦場にそぐわない気持ち悪さだな‥‥」
 援護に来た光がげんなりして言いながら、その手に持った銃で片っ端から討ち取っていく。そうして持ち替えた爪で、今度は直近の獣の胸を引き裂いた。
「それにしても、うまくいくもんだなぁ」
 彼が言っているのは、ここまでこの戦域から逃げ切ったキメラがいないということに対してである。どれだけの腕利きであろうとも、これだけの戦域だ、一匹くらい逃げ出しそうなものではある。
 それだけ、作戦は自然と上手くいっているのだろう。どう見ても暴れているだけの連中――特にどこかの副会長――もいないわけではないが。
「こちらは一段落、かな」
 見える限り、最後の獣を仕留めた光はふぅ、と息を一つ吐いて周りの状況を見回した。どう転んでも、傭兵達の優位は変わりそうにない。
「大分追い込めてきているんだろうが、中央で戦っている奴らの負担を少しでも減らさないとな」
「はいっ。お手伝いできるように、頑張りますっ」
 最も外側でキメラを追い込んでいるティムが光の言葉に頷いた。初めての戦闘だというが、緊張感もそこそこに手馴れた様子で彼はキメラを処理している。
「後ろ、来ているぞ!」
「はいっ――近距離だって甘く見ないでよねっ」
 仲間からの声に、ティムはAU−KVを反転させる。手にするクロスロッドで獣の頭を力いっぱい殴りつけた。
「やった――っとと」
 思わず地面でバランスを崩しそうになったティムである。まだ初々しさの残る少年は、小さな体を精一杯伸ばしてバイクを立て直す。
 そして、僅かに頬を赤く染めながらも、彼は明るい声で言った。
「さぁ、もう少しですよねっ。頑張りましょう!」


「俺だって‥‥! 自分の好きなことをしたい時だって、ある‥‥!!」
 毎日、会長に金魚の糞のように付き添っているだけが仕事じゃない! 別に嫌いではないけどな! とぶつぶつ呟きながらキメラを槍斧で叩き斬ったティグレスは、最早覚醒しているという事にしておいた方が良い具合の暴れっぷりだった。
 だが、突撃した傭兵達も負けてはいない。
「逃げるンじゃねぇ!」
 よろよろと後退しようとする獣を追いかけるネロは短く声をあげると、ソニックブームで無情にも周りのキメラを巻き込んで吹き飛ばした。
 刹那、脇から植物の蔦が彼の腕に絡まった。ぎろり、とそちらを睨んだネロの大剣が唸る。
「邪魔すンじゃねぇ! ぶった斬るぞ!」
 言っている傍から植物の体をまっぷたつにしたネロである。流れを殺さずに、傍で固まっていた別の植物を一気に斬り倒した。
「さぁ、さっさと楽になっちまえ!」
 大剣を振り回してキメラを薙ぎ倒していくネロは、敵からすれば悪魔そのものだったに違いない。
 一方で、対角線上で大立ち回りを演じる一成は、植物型キメラを槍斧で寸断していた。
「イヤーーァッハハハハァーー!」
 雄叫びを上げた一成の体が僅かに輝いている。毒に対抗するためにレジストを発動させたのだ。
「これぞホントのGooDLuckモォォード! ってすでに何人かやってるでしょうけども!」
 だが、そこまで豪快なGooDLuckを併用したレジストも少ないのではないだろうか。
 毒対策を万全にした一成は、更に勢いを増して獣や植物問わず端から薙ぎ倒していった。
「ヒャハーー! ここは絶対に通さんんんん!」
 紅蓮の炎を纏う一成が、槍斧を振るう。衝撃波で吹き飛んで獣には構わず、彼は反対側から噛み付こうとした獣に斧の刃を突き立てた。
「イェアーーーーハッハァッ!! もういないのか、いないのかぁっ!!」
 彼の咆哮が示す通り、いつの間にか中央部分にもキメラの死骸しか転がっているだけになっていた。
 覚醒状態を解いたネロと一成は、ようやくそこで一息ついたのである。
「あ、終わった‥‥みたいですね。あ、攻撃が当たったりしていたらスイマセン‥‥」
「とりあえず一息つけたのかね‥‥何か疲れたよ」
 そりゃああれだけ暴れれば疲れるだろうなぁ、とその場に居合わせた仲間たちは内心思ったものである。



「協力感謝する。その、何だ‥‥見苦しいところを見せたかもしれない。謝罪する」
 ぐったりとしているティグレスの肩を和哉がぽん、と叩いた。
「この地方では・・・娯楽、て呼べるものが・・・無いから。気を晴らしたいなら、歌うと・・・いいらしい、よ?」
 無駄に良い笑顔で言った和哉にティグレスはぽかんとした。調子はずれな歌を口ずさみながら、銀髪の少年は寒そうな格好で高速艇へと向かっていく。
「まぁお疲れ様だな。適度な息抜きは必要だと思う」
 さらりとアドバイスした光に、ティグレスは頭を振った。
「違うんだ。別に会長に不満があるわけでは‥‥会長は素晴らしい人だ。俺が保証する」
 何故か太鼓判を捺すティグレスである。
「それよりも、副会長。今後はどんな感じで進むんだ?」
 もっともなことを言ったアレックスに、ティグレスはやや難しい顔で頷いた。
「他の地域でも制圧が進んでいると聞いた。ここももう制圧寸前だろう。そうなれば、後は周辺地域への慰安や、施設への要人の護送‥‥だろうな」
「そうか。幻龍の試験とかもこっちでやるらしいって聞いたぜ。まだまだやる事が山積みだよなぁ」
「ああ。だが、戦い詰めはもうすぐ終わりのはずだ」
 副会長の言葉に頷いたアレックスは、ふと何かに呼ばれている気がしてチューレ基地跡の何もない窪地を見やった。
(また‥‥何かが起きる気がする。この極北の地で)
 それは安寧をもたらすか、再び混乱を招くか。
 様々な思い出が胸に去来したが、彼はひとまず、それらを胸の奥へとしまいこんだ。

――グリーンランドの新しい夜明けが、もうまもなく訪れようとしていた。