タイトル:【GR】雷鳴遠く響きてマスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/21 07:03

●オープニング本文


●GR鉄道計画
 その計画は、カンパネラ学園の関係者を集め、チューレ基地跡を利用する形で、行われる事になった。
 残骸と化した基地は、言い換えれば資材の宝庫でもある。そして、上手い具合に空いた土地を放って置くのも勿体無いだろうと言う事で、話はまとまっていた。
 しかし、かの地にはまだ、敵も多い。
 莫大な資金のかかる事業に、極北と言う観点から工事を請け負ったのは、かつてシベリアに鉄道を通したプチロフ。
 その代表マルスコイ・ボーブルは、作業員達の安全確保を、その条件に求めた。
 さもありなんと頷いた学園側の総責任者は、ウォルター・マクスウェル卿。
 加えて、会長でもある龍堂院聖那、技術部門の責任者はキャスター・プロイセン准将と、それぞれの関係者が、それぞれの役目を持って、再び極北の地へと赴く事になる。

 グリーンランドに鉄道を。

 基地を作り、街を作り、それを結ぶ。絆と‥‥共に。

●同期のあいつ
【GR】と銘打たれたグリーンランド鉄道敷設計画において、最も重要な任務は、あの凍る土地に残る残党勢力の一掃である。倒すべき大きな敵こそ欠いているものの、非能力者の人間だけでは到底成し得ない事なのである。
「では、准将。行って参ります」
「うむ。せいぜい、彼女を扱き使ってやることだ」
「は‥‥」
 ウォルター卿の私室を出たシャルロット・エーリクは、その先でとても珍しい人間と再会した。とは言え、ここはカンパネラ学園なのだから至極当然な状況なのだが。
 歩いてきた金髪の大きな男と赤髪の中くらいの男は、シャルロットを見つけると目を丸くした。
「准将の副官ってお前かぁ」
「それ以上近寄るな、ヘンリー・ベルナドット。切り刻むぞ」
 露骨に嫌そうな顔になったシャルロットは腰に下げていた剣を引き抜いた。
 何事かと思って周りの生徒達がぎょっとしている中でも、赤髪のヘンリーはへらへらと相好を崩している。
「何だよ、久しぶりに再会した同期にそれはねぇわー」
「黙れ。それが上官に対する態度か」
 シャルロットは大尉である。同期とはいえ、年齢は彼女の方がいくつか下ということを鑑みれば、有能であるのは頷ける。
 むしろ、一向に昇進しない男二人は自分達の分まで昇進しようとする彼女に肩を竦めるしかない。昔からこんな気性なので、今更どうとも思わないが。
 今にも斬りかかりそうな彼女と受けてたとうとする彼を制したのは、三人の中で最も精神的に大人であるジャックだった。
「二人とも、そこまでにしないか。ヘンリー‥‥お前もいい加減、シャルロットの男嫌いを理解してやれ」
「普通、こういうのって同期の俺らは含まれないもんじゃねぇの? 男は嫌いだけど同期のお前達は嫌いじゃない、とかデレる場面だろ?」
「そういう夢見がちなことをぬかすから嫌いなんだ、お前はっ!」
 頬を膨らませたヘンリーにシャルロットが剣を振り下ろした。流石に身の危険を感じたのか、ヘンリーも刀を抜いて応戦する。
 学園の廊下のど真ん中で大立ち回りを始めてしまった二人に、ジャックは本気で頭を抱えた。能力者二人の戦闘など、止めようとすればこちらが死ぬ。
「ちっせぇくせに暴れるのだけは上手いよなー、シャルー」
「黙れ! 私を愛称で呼ぶな!」
「そうつれなくすんなって。可愛い顔が台無しだぜ?」
「お前‥‥き、貴様はまたそういうことをっ!」
 怒髪天を突いたシャルロットが大きく剣を振り上げた瞬間だった。

「エーリク大尉。言い忘れたことがあるのだが」

 私室から物音を聞きつけてウォルター卿が姿を見せた。
 刹那、剣を収めたシャルロットはヘンリーの顔面を殴り飛ばして、卿に向かって敬礼したのである。
「も、申し訳ありません、准将。すぐに任務に向かいます」
「いや、構わんよ。それと、ここは学園だ。旧友や男を見ても、あまり暴れ過ぎないように」
「は、肝に銘じます――‥‥というわけだ。私は忙しいので、失礼する」
 二人の間をすり抜けて、シャルロットは踵を鳴らしながら廊下を闊歩していった。
 その背中を見ていた男二人は互いに顔を見合わせた。
「何で准将にだけ態度が違うんだ? ――恋か? できてんのか?」
「ヘンリー‥‥寿命を縮めたくなければ、それは絶対シャルには言うな。頼むから‥‥」


●グリーンランド海上にて
 グリーンランドの氷にまみれた海に浮かぶ艦に乗船した龍堂院 聖那は慌ただしく指示を飛ばしていた。演習の一環として艦内の指揮実習を行う上に、海上戦も経験が少ない彼女にとって、やるべきことは山積していたのだろう。
「失礼。生徒会長に挨拶に来た。龍堂院はいるか?」
 メインブリッジに姿を見せたパイロットスーツ姿の女性に、振り返った聖那は敬礼をした。相手の女性も返礼をし、軽く頭を下げた。
「当該空域の戦闘補佐を拝命した、シャルロット・エーリク大尉だ。主に本艦の護衛を担当する」
「よろしくお願い致します」
 丁寧に頭を下げた聖那の耳に、遠くから雷鳴の音が聞こえてきた。この時期、グリーンランドは白夜であることが多いのだが、生憎の荒れ模様のせいか、視界は暗闇に包まれていた。
「荒れますかしら‥‥」
 呟いた聖那にシャルロットは難しい顔で言った。
「まだ幾分遠いが‥‥交戦中にこちらに来る可能性はあるだろう」
 悪天候の中での戦闘の経験は勿論あるが、集中しなくてはならないことが多くある聖那は表情を厳しくして頷いた。
「ティグレスも頑張っていると聞きます。わたくしも、気を引き締めていきませんと」
「その心意気は大いに評価したい。というわけで、本艦には敵に対する的になって頂きたい」
「的‥‥ですか?」
 きょとんとした聖那にシャルロットは笑みを浮かべ頷いた。
「本艦がありったけの照明を空に放つことで、敵の攻撃をここに集める。我々の他に傭兵達の支援も望めることを考えれば、決して愚策では無いはずだ」
「なるほど‥‥では、わたくしは全力で防衛に努めさせて頂きます」
「結構。貴女の采配に期待する」
 くるりと背を向けて立ち去ろうとしたシャルロットだったが、ふと足を止めて聖那の方を振り返った。
「少尉。照明と同時に、交戦中はこれをかけてくれないか。耳障りなら消しても構わんが」
 渡されたディスク――このご時世にCDである――のパッケージを見た聖那は、ちょっと意味が分からないと言わんばかりに首を傾げたものである。
「あの、大尉‥‥これは‥‥?」
「分からん。うちの隊員が持ってきたものだ。テンションが上がるとか何とか‥‥よろしく頼む」
「テ、テンション‥‥?」
 おろおろしている聖那を尻目に、シャルロットは大股でブリッジを後にした。
 残された聖那はパッケージについていた帯を見て、更に首を傾げて呆然と謳い文句を復唱した。
「ハード・ロックを極めたベストアルバム‥‥ハード‥‥ロック‥‥」
 呟いた聖那の背後で、レーザーが敵襲のサイレンを響かせた。

●参加者一覧

榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
セツナ・オオトリ(gb9539
10歳・♂・SF
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
ネロ・ドゥーエ(gc5303
19歳・♂・DF
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

 雷鳴の音が遠くに鳴り響いている。やや近くなってきただろうか。
「五機も墜とせばエースパイロット、なんてのはもう昔の話か」
 想像以上の敵の多さに溜息をついた時枝・悠(ga8810)はぼそりと呟いた。
 当初の予定通り、聖那の艦は暗闇の中で爛々と明かりを灯し、常識外れの爆音でハードロックのイントロをかけ始めた。
「ハードロックとはワイルドな部隊ですね‥‥」 
 当たり障りの無い言葉を漏らしたのはヨハン・クルーゲ(gc3635)である。
「なんか五月蝿いけど‥‥射撃手もいないし。ま、いいか」
 そう言ったネロ・ドゥーエ(gc5303)は溜息をついた。今からこの大音量の中で戦わねばならないのかと思うと気が重い。
「音ごときで精度が狂うなど三流以下だ、そのような者を作戦に使うはずがないだろう」
 傭兵達の後ろでふんぞり返っていた大尉は堂々と言い放ち、横一列に並んで形式上の敬礼をした傭兵達に大きく溜息をついた。
「何故こうも男が多いのか‥‥花が二輪とは、嘆かわしいな」
「花って‥‥私のこと、よね?」
「‥‥私はそんな柄ではないんだがな」
 野郎の中に咲く可憐な花扱いをされたフローラ・シュトリエ(gb6204)と悠は仲間を見回しながら言った。どうやら、大尉の男嫌いという噂は白の線が濃厚である。
「‥‥そうそう、本題だけどね。突撃するから六機ほど同行してほしいんだけど」
 話をぶった切ったネロだったが、大尉は怒らず視線を動かさないまま「構わん」即答した。
「さあ、作戦開始だ。歴戦傭兵の力、見せてもらうぞ」
 話を切り、手を叩いた大尉である。敵影はもうすぐそこまで迫ってきているのだ。
「母艦に敵の攻撃を許すわけにはいきませんからね。敵を一歩も通さぬつもりで、迎撃に当たらせて頂きましょう」
 頷いた榊 刑部(ga7524)を先頭に、傭兵達が続々とブリッジを後にする。
「特攻隊とはまたロックな軍人だな。きちんと全員生還しろよ、ってのは余計な御世話か?」
 足を止めたアレックス(gb3735)のもっともな言葉に、大尉は口角を歪めて言った。
「勇敢と無謀は紙一重だが決定的に違うものだ。我が隊は、皆それを心得ている」
 断言した大尉は、アレックスとその奥で彼女の姿を見ていたクローカ・ルイシコフ(gc7747)に敬礼をした。
「クローカ・ルイシコフ。お前は空戦において初陣と聞いた。新人とはいえ、諸先輩に劣らぬ活躍を期待する」
 突然そう言われたクローカは内心驚き、世話になった教育飛行隊教官の姿を幻視し、思わず敬礼の姿勢を取ったのだった。



 母艦周辺にソナーブイを撒いた悠は操縦席で息を吐いた。
「こういう手間が無けりゃ、此方でも音楽の1つも流すのにな」
 水中戦は何かと準備に忙しいような印象がある。
「空の敵も多いですが、水中の敵も放ってはおけませんからね」
 ヨハンの言葉ももっともだ。敵が水に潜ってこちらに来るのであれば、戦う前の段階から気は抜けないのだ。
「天気も荒れているし、音楽も派手に鳴っているし、早いところ片付けたいところだな」
「同感ですね。私も早くこのブラオを整備したいです」
 母艦に近いところでそんな会話があってから数分後のこと、傭兵達はいよいよ敵群と対峙した。
 前方から来るCWの群れを確認したセツナ・オオトリ(gb9539)は操縦桿を握って声を上げた。
「微力ですが頑張ります! いくよ、オージェ!」
 前線に出たセツナは、じわりじわりと迫ってくるCWに砲口を向けて叫んだ。
「兄さんと姉様が用意してくれたこの武装を役立てる時がきました! ターゲットロック‥‥K−02いっけぇえええ!」
 漆黒のグロームを駆る少年は言うやいなや、前方のCW群へK−02を連続で斉射した。一発の弾数が途方も無く多いホーミングミサイルだ、群れで動いていたCWにとっては厄介な攻撃だろう。
「兄さん仕込みのKV操縦技術はまだまだこんなものじゃないですよ?」
 ミサイルポッドをばらまいて弾幕を形成したセツナは自身もその中に入り、すれ違いざまに敵機をソードウィングで切り落とす。
「――っ、ジャミングですか‥‥!」
 直後、セツナの頭に金属のようなものを掻き毟る音が響き、微痛を併発した。個の性能は低いだろうが、大群で襲ってくるジャミングは人体にも十分影響を与えるものだった。
「数が多いわねー。これは気が抜けないわ」
 同じくジャミング効果により、疼痛に変わりつつある頭部の痛みをこらえながら、フローラはCWに照準を合わせる。
「早めに数を減らしてしまいたい所ね。速攻で行かせてもらうわよー」
 フィロソフィーで群れから外れたCWを撃ち落としたフローラは、続けざまに群れの外側にあぶれた敵へと突っ込んでいった。
 HWの砲撃を躱して、彼女は逆にHWへプラズマライフルを放つ。避けようとした敵機に横から、ネロのアンジェリカがレーザーライフルを撃ちこんだ。
「助かったわ。私もそうそう簡単に捉えられる訳にはいかないのよねー」
 白桜舞で敵を突きながら距離をとったフローラは、EBシステムを起動し、プラズマライフルを乱射した。群れでいるCWと小型HWが爆炎を上げて次々と沈んでいく。
「こちらクローカ、敵編隊を確認。エンゲージ!」
 別方向に展開しつつあるCWとHWを少し高い位置から滑腔砲で迎撃したクローカにも、敵のジャミング効果は当然出ている。片手でこめかみを押さえながら、クローカは一度距離をとった。
「ひどい嵐だね、シベリアの代わりにはピッタリだ」
 機体すら揺らぎそうな強風に彼は苦笑した。
 呟いたクローカは、接近してきたCWにシャベルを上から叩きつける。こういう武器でも、ある程度は有効なのだ。
「До свидания! ご主人様があの世で待ってるよ」
 直後、友軍と共にクローカは滑腔砲で小型HWを沈める。黒煙を上げてHWが粉々に爆発した。
 クローカの近くでは、ネロがHWとCWの相手をしていた。
「戦闘音よりロックのほうが五月蝿いってどういうことだ‥‥!」
 母艦に近ければ近いほど、当然音楽の音量は大きくなる。自分たちよりも後ろにいる仲間たちの戦闘条件は決して良いとは言えない。
『その方が目立つだろうが。的として認識してもらうには最適だろ?』
 背後の母艦を守るように陣取っている大尉からからかうような声が聞こえる。どうやら彼女自身、うるさいのは承知の上らしい。
「聞こえてたんならさっさと消せぇぇ!」
 くわっと吼えたネロは、ストレスの全てをぶつけるように敵集団に向かって短距離用AAMを撃ちこんだ。
「いただきだ!」
 AAMの直撃した敵が何機か墜落していくのを見て、ネロは危機と叫んだ。
その時だ。
『傭兵殿各位、六機、突撃を開始します!』
『撃墜されようが爆撃されようが、私達のことはお気になさらず!』
『何より大尉のためにっ! いざっ!』
 等々、各々の宣言が傭兵達に届いたかと思うと、母艦から近い位置で戦闘をしていた傭兵達の開いた路を、エーリク隊の六機が突っ込んでいったのである。
「‥‥確かに特攻、ですね」
 タイミングや位置どりは良いのだが、その突撃一択、猪突猛進に尽きる六機を見送ったセツナはしばらく固まっていた。しかし、すぐに気を撮り直して、急いでフォローに回る。 
「ハッ、伊達に自称特攻隊ってわけでもないみてぇだな」
 皮肉っぽくネロが言う。
 とはいえ、勇敢と無謀は違うと自信たっぷりに断言した大尉の言葉に、盛大な疑問符を頭の上に浮かべたくなった傭兵達であった。



 突撃した傭兵達の働きは大きく、思ったよりもこちらに漏れてきた敵が少ないので、中型HWを相手にする余裕は十分である。
「私も格闘戦を得意とする方ですけど、あそこまで極端には成れませんね。まあ、あそこまで行けば感心するしかないでしょうけれどね」
 当然二人にもエーリク隊の突撃は見えていたはずだ。刑部は抑え切れない溜息を漏らし、スナイパーライフルで射程上にいるCWを撃ち落とした。
「こう天気が荒れているのも珍しいですね」
 刑部が言った通り、戦域は風雨で荒れに荒れているのだ。早いところ片付けなければ、遠方に響く雷鳴がこちらに来てしまう。
 中型HWが惜しみなく放つミサイルやバルカンの弾幕をかいくぐり、アレックスは旋回しながら中型の攻撃を上手く母艦から逸らしていた。
 彼のコクピットからは、かつて彼が守ってきた街の姿がほんの少しだが見ることができた。彼はその方角を一度見やり、超電導アクチュエーターを起動させる。
「一気に撃ち落とすぜ。喰らいなっ!」
 威勢よく叫んだアレックスは中型HWに電磁加速砲を放った。一直線に輝く砲撃を動力炉に受け、中型は脇から黒煙を上げながら高度を落としていく。
「突撃班。無理するなよ、あぶれたのは俺たちに任せろ」
 前方の仲間たちの疲弊と共に、当然敵はこちらに多く回ってくる。だが、それは彼らがCWの殲滅を最優先にしているからであって、決して作戦の失敗ではない。
「大尉、援護をお願いしますよ」
「了解した」
 小隊員や大尉の援護を受けた刑部は、向かってくるHWをスナイパーライフルで退ける。
 脇では隊の支援を受けながら、アレックスが十式バルカンを連射しHWを撃ち落としていた。
「敵さんに悪いが、俺たちもこの地は譲れないんでね」
 崩れ落ちていく敵を見下ろしながら、アレックスは言った。この土地を、大切な人々を、彼はもう傷つけさせないと決めたのだ。そう思わせてくれた極北の友の姿が胸をよぎる。
 他方、刑部は中型HWへと単機向かっていた。
「逃がしません」
 前線に踊り出て弾幕を張った中型HWへ、アサルトフォーミュラAを起動させた刑部のスカイセイバー――隼鷹は、ガトリング砲を放ちながら敵機に肉薄した。
 直後、空を裂くような爆音と共に、隼鷹がソードウィングを閃かせる。脇腹を裂かれた中型HWに爆撃性能は最早残っておらず、無残に海に散っていくだけだ。
 だが、残された弾幕の煙の向こうから一気にHWが溢れでたのである。突撃班が遠くから追ってくるということは、一度に多く集めすぎたか。
「会長! 団体様ご案内、ってな。主砲頼むぜ」
 母艦に向けてアレックスが言う。同時に、傭兵達は一時的にその場から離れた。
『分かりました。主砲、発射します』
 聖那の静かな声と共に、強大な光の束がHWを巻き込んで嵐天を貫いた。光の収束と共に、瀕死状態だったHWが次々と墜ちていく。
 決死の思いで艦へ突っ込んできた敵機には、アレックスが加速して接近した。ファイヤーマークの唸るカストルの翼が、鋭い光を放つ。
「ソードウィング、アクティブ! いっけぇ!」
 傷を抉るように中型HWを切り裂いたアレックスは、更に後方で海に潜る仲間を一度見やって、再び戦闘に集中した。



 水中を潜行していたMWを待ち構えていたのは悠とヨハンだった。
「さて、行くか。敵には悪いが力で押させてもらう」
 そう言った悠の紅く煌く機体は、どう見てもディアボロにしか見えないが、正真正銘立派なアンジェリカである。
 意外にも、氷山に視界を制限されるグリーンランドの海の中では、母艦の放つ強烈な音波――もとい、音楽はくぐもって聞こえるようだ。
 敵とはまだ距離がある。悠はガトリングをいつでも放てるようにした上で、視界にぎりぎり映るかどうかの位置から敵影に向かって長距離魚雷を撃ちこんだ。
 流石に水中での動きはMWの方が早いが、それでもかすっただけでも威力は十分である。
「追撃します」
 後方からヨハンのオウガがアサルトライフルを斉射する。氷の壁を砕いて形成された弾幕に、MWの群れも思うように動けない。
 だからこそ、向こうも遠距離攻撃に出るのだ。
「‥‥っ、魚雷、来ますっ!」
 ヨハンの鋭い声が海上の母艦にも飛ぶ。続けて、放たれた魚雷をアサルトライフルで撃ちぬいた。
 空戦をしている仲間にも分かったであろう、激しい水柱が何本も噴き上がる。
 海中では、氷の欠片と白い泡で一時的に視界が遮られた隙に、MWがこちらに急接近していた。
「ちっ」
 接近された悠はレーザークローでMWのヒレを斬り飛ばす。不意をつかれた敵がもう片方のヒレをばたつかせて後ろへ下がって行く。
「逃すかっ!」
 驚いて距離を取ろうとした敵に、更に大型ガトリングで追撃を加えた悠の赤いデアボリカが動いた。近距離からのガトリング連射で、MWの体は無残に砕け散っていく。
「こちらも通させませんよ」
 悠の脇を抜けたMWには、ヨハンのBlaue Visionがディフェンダーで接敵する。至近距離から薙いだ刃はMWのヒレを切断し、そのままその胴体に突き刺さった。
 長い尾を暴れさせてMWが必死にもがいたが、そんな力も徐々に失われていく。
 次第に動きを止めたMWはゆっくりと深い海の底へと沈んでいた。
 仲間が立て続けに破壊されたことに戦いたのか、それとも空戦の状況が芳しくないからなのか、母艦襲撃を諦めたMWの群れが少しずつひき始めた。
「撤退か。水中用の機体なら追いかけるんだが‥‥」
 悔しそうに呟いた悠である。彼女の言う通り、今の距離からではMWには追いつけない。よしんば追いつけたとして、二機で殲滅するのも骨だ。
「一度上がりましょう、悠様。MWが撤退を始めたなら、そろそろ空戦も片付く頃でしょうから」
「‥‥そうだな」
 追えないものを無理に追っても得られるものは少ない。
 二機はMWの群れが完全に視界から消えるのを待ってから、母艦の甲板上に浮上した。
「海中の敵は片がつきました。今からそちらの増援に向かいます」
「了解、ってとこだが、こっちもそろそろ片付きそうだな。というより、敵が撤退を始めてるぜ」
 甲板に戻ったヨハンに、中型HWを撃ち落としたアレックスが答える。彼の言葉通り、突撃班の攻撃に追われながらCWや小型HWが続々と退いていくのが見えた。
「では、可能な限り数を減らしますか」
 そう言ったヨハンはOGRE/Aを起動し、宙へ浮かび上がった。そのまま間髪入れず、間合いに入っていたCWの逃げ遅れにAAMを放つ。
「アレックス。中型も撤退を始めましたね」
 中型HWの背中をアサルトライフルで狙撃しながら刑部が言う。その追撃で、瀕死状態だったHWの何機かは撃ち落せたが、やはり全機を撃墜するのは不可能のようだ。
「終わった‥‥かな? ボクは少しはみんなの力になれたかな?」
 操縦席にもたれたセツナはようやく人心地ついたようだった。
「雷が止んだわねー。これで晴れると良いわね」
 額に浮かんだ汗を拭ってフローラが言う。雷鳴の停止と時同じくして、一巡したのか母艦から流れる音楽も途切れている。
 終戦の合図には、ちょうど良いだろう。
 
了