タイトル:続・学園緊急事態マスター:冬野泉水

シナリオ形態: イベント
難易度: 不明
参加人数: 64 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/10 12:19

●オープニング本文


●船木くんの事情
 船木くんこと主犯Aは今日も通常運転である。紹介する順番が逆だとか、兵器のクオリティーがだんだん下がってやしないかとか、そういうツッコミは一切なしである。全部船木くんが悪いのだ。
 それはさておき、船木くんには今回、めでたいこととめでたくないことが一つずつあった。
 めでたい事は、船木くんに春が来たことである。勿論、三日で振られるというお約束つきではあるが。ゆえに彼は、更に嫉妬と非リア充の道を驀進することになった。
 めでたくない事は、船木くんがこの度、お酒の飲める歳になったことである。
 なぜそれがめでたくないというのか。
 答えは簡単、船木くん、お酒が飲めないのである。
 なので、リア充撲滅に一層励む船木くんは、皆に成人のお裾分けをしようと思った。


●続・まつりの災難
 のどかな日である。こんな日は家に帰って、のんびりと過ごすのが良い。
 今日最後の訓練を終えた三枝 まつり(gz0334)は、AU-KVを脱いでバイクを格納庫まで押しながら歩いていた。
「お。いたいた、じゃじゃ馬ー。ちょっとこっち来い」
 遠くから見慣れた赤毛の教官が手を振っているのが見える。内心ものすごく嫌な予感しかしなかったが、呼ばれては仕方がない。まつりは溜息をついて担当教官であるヘンリー・ベルナドット(gz0360)の方へ向かった。
 出向先から帰ったばかりなのか、ヘンリーは黒の軍服姿である。正規の軍服は学園内でしか着ないという妙な信条を持つ彼を、まつりは無言で見つめた。
「悪いんだけどよ、こいつを文化部棟まで運んどいてくれ」
「‥‥別に良いですけど、自分で行けば良いじゃないですか?」
 三つの段ボールを渡されたまつりが言うと、ヘンリーは笑いながらあっさり言ったものである。
「無理。俺、今からナン――じゃねぇわ、有給使って遊びに行くからよ。今日はもう仕事しねぇの」
「‥‥」
「それじゃ、よろしくなー?」
 今すぐセクハラで懲戒免職になれ、とまつりはこの時、人生で最も真剣に人を呪った。


 文化部棟は授業時間が終わった頃だからか、割合人が多くて賑やかである。談笑したり、走り回ったりと、実に生徒たちは活発だ。
 入口にバイクを止めて、文化部棟の管理人室に向かったまつりだったが、部屋に入る直前で室内からの悲鳴に思わず手を止めた。
「ど、どうしたんですかっ!?」
 慌てて中に入ったまつりは、それこそ文字通り顔をひきつらせたものである。
 詰めていた教員達が仰向けに倒れていたのだ。一部の人々は頭を押さえ、またある人は青ざめ、ある人は顔が赤い。
 異常としか言いようのない状況である。
「大丈夫ですかっ!? 先生っ、しっかりして下さいっ!」
 箱を床に置いて教員に駆け寄ったまつりの行動は、至極当たり前のものだったはずだ。
 だが、それが悪かった。
 機械音が背後から聞こえる。咄嗟に武器を手に振り返ったまつりだったが、目に飛び込んできたのは、あのすごく‥‥ものすごく見覚えのある猿だった。
 瞬間的に青筋が浮かんだが、猿の方が一歩早かった。手に持っていたホースのようなものから、透明な液体が一気に噴射されたのである。
「き――――」
 悲鳴を上げる前に液体を食らったまつりは、一瞬でその場に倒れこんだ。


●続・阿鼻叫喚
 騒ぎを聞いて、文化部棟に入ったジャック・ゴルディ(gz0333)は我が目を疑った。
 どこかで見たような猿型のロボットが廊下の生徒達を襲撃しているのである。ただし、今回はスカートをめくったりしているだけではない。
 何か怪しい液体を彼らにかけまくっている。
「というより、何だこの匂いは‥‥」
 思わず口と鼻を手で覆ったジャックである。文化部棟の一階全体に強烈な酒の匂いが充満している。おそらく、猿ロボの放っているものが酒なのだろう。種類が混じって最悪の香りである。
 未成年者が多い学園内で飲酒とは流石に見逃せない。能力者ではないが、ロボットを可能な限り阻止しようとジャックが決意した瞬間だった。
「――先生の馬鹿ぁっ!!」
 突然、一つの部屋のドアが開いたかと思うと、出てきたまつりが凄まじい勢いでジャックを突き飛ばしたのである。力で押し負けて廊下に転んだジャックは、何となく心が傷ついた。
 一方のまつりは、仰向けになったジャックの上にのしかかって彼の顔を見下ろしている。よく分からないが、目が据わってやしないか。
「三枝‥‥その歳で、大人を押し倒すのはいかなものか‥‥」
「おしたおしてなんか‥‥ない、もんっ」
 酔っている、だと‥‥。
 人生最大の(あらゆる)危機を感じたジャックは急いでまつりを押しのけて起き上がろうとした。
 まさに、その瞬間だった。
「‥‥おい、ジャック。ひでぇ冗談だぞ。俺より先に懲戒免職か?」
「ば――っ、助けろ!」
 呆れたようにジャックを見下ろしていたのは、報告を受けて急いで戻ってきたヘンリーである。真っ赤になって助けを求める同僚に溜息をついて、彼はまつりの頭をがっしと掴んだ。
「ほれ、じゃじゃ馬。それは既婚者で二十九歳のリア充だぞ、離れろ」
「やだぁ‥‥そんなとこさわっちゃらめぇ‥‥っ!」
「‥‥ジャック。生徒への暴力は懲戒免職の理由になるよな?」
「い、今は非常事態だ! 俺が責任を取るっ!」
「オーライ」
 べしっとまつりの額をぶっ叩いてひっくり返したヘンリーは、今更だが片手で顔を覆った。
「まさかこいつから『らめぇ』とか聞けるとは思わなかったぜ‥‥色気の欠片もねぇな‥‥ぺったんこだし」
「それは関係ないだろうがっ‥‥というよりも、だ。他にこんな状態になっている生徒がいたら俺は止められんぞ」
「‥‥何だそれ、面倒くせぇな」
 うんざりしたヘンリーだったが、二人の前に猿ロボがわらわら湧いて出てくると自然と表情を硬くした。ぐったりしているまつりを後ろに追いやって、ヘンリーは担いでいた刀を抜く。ジャックも携帯している小銃を手に構えて立ち上がった。
 久しぶりに共闘の体勢になった二人の教官は互いに顔を見合わせた後、猿ロぼを睨みつけて不敵に微笑んだ。
「やれ‥‥可愛い生徒をべろんべろんにした奴は五寸刻みにしてやんぜ。‥‥マジ俺って格好よくね?」
「今ので全て台無しだ。行くぞ、俺も久しぶりに暴れる。途中で酔い潰れたら捨てていくからな」
「良いねぇ、そういうの。俺は結構好きだぜ」
 大人二人は生徒達に召集をかけると共に、猛然とロボットの排除に乗り出した。

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 弓亜 石榴(ga0468) / 新条 拓那(ga1294) / 須佐 武流(ga1461) / 終夜・無月(ga3084) / 夕風 悠(ga3948) / UNKNOWN(ga4276) / Letia Bar(ga6313) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 龍深城・我斬(ga8283) / 御崎 緋音(ga8646) / 三枝 雄二(ga9107) / 白虎(ga9191) / 最上 憐 (gb0002) / 神撫(gb0167) / 椎野 ひかり(gb2026) / ジェームス・ハーグマン(gb2077) / シン・ブラウ・シュッツ(gb2155) / 常 雲雁(gb3000) / クラリア・レスタント(gb4258) / 舞 冥華(gb4521) / フローネ・バルクホルン(gb4744) / ウラキ(gb4922) / ヤナギ・エリューナク(gb5107) / 諌山美雲(gb5758) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275) / レイード・ブラウニング(gb8965) / 夜刀(gb9204) / 綾河 零音(gb9784) / 樹・籐子(gc0214) / ソウマ(gc0505) / リュティア・アマリリス(gc0778) / 吹雪 蒼牙(gc0781) / 守剣 京助(gc0920) / 神棟星嵐(gc1022) / ガル・ゼーガイア(gc1478) / 過月 夕菜(gc1671) / 南 十星(gc1722) / 有村隼人(gc1736) / 和泉譜琶(gc1967) / 秋月 愁矢(gc1971) / レインウォーカー(gc2524) / ネオ・グランデ(gc2626) / ユウ・ターナー(gc2715) / 功刀 元(gc2818) / 御剣 薙(gc2904) / 悠夜(gc2930) / 張 天莉(gc3344) / Taichiro(gc3464) / 夏子(gc3500) / ノエル・クエミレート(gc3573) / 巳沢 涼(gc3648) / 秦本 新(gc3832) / 和泉 恭也(gc3978) / イレイズ・バークライド(gc4038) / 南 星華(gc4044) / ヘイル(gc4085) / ティナ・アブソリュート(gc4189) / 龍乃 陽一(gc4336) / ニコラス・福山(gc4423) / 國盛(gc4513) / リズレット・B・九道(gc4816) / 雨守 時雨(gc4868) / 皇 夜空(gc5223

●リプレイ本文

 今日も今日とて、学園の一部では死闘が始まろうとしていた。
「この学園は‥‥常に何かをやってるのか‥‥それとも、私が来るときだけ騒ぎが起こるのか‥‥」
 フローネ・バルクホルン(gb4744)は小さく溜息をついた。
「姉さんに逆らうと後が怖いので、素直に言うことを聞いていましょう」
 そそくさとつまみの用意を始めた南 十星(gc1722)に、南 星華(gc4044)は肩を竦める。
「愛飲家としては、まずいお酒は許せないわ」
 腕まくりをした星華である。いや‥‥お姉さん。まずは鎮圧して下さいね。
「仕事しろよあんたらっ」
 仲間の後を追って校舎へ入っていこうとするウラキ(gb4922)だが、その前に脇で酒の強奪を企む大人達を冷たく指差した。
 そこへ、一台の車両がグランドを突っ切って文化部棟入口に横付けされた。中からは男性が二人、何とも言えない顔で姿を見せる。
「なんだか、凄い事になってるなぁ‥‥」
 スーパーの袋を後部座席に放り込んだ常 雲雁(gb3000)は苦い顔になった。何やら騒ぎの気配がするからと来てみればこれだ。
 運転席から出た神撫(gb0167)は、手近の道路標識を問答無用で引っこ抜いた。
「さて行こうか、ユンさん」
 武器に突っ込むべきか、何も言わずについていくべきか、雲雁は一瞬本気で悩んだ。

 ◆

 報告官は照れ屋なので、先に桃色をいくつか報告しようと思う。
 早くも猿と交戦していたのは石動 小夜子(ga0121)と新条 拓那(ga1294)の二人であった。
「子供じゃあるまいし、スカートめくりなんかで興奮なんて‥‥いや、うん、しないよしない! ‥‥多分」
 うんうん唸りながら拓那は猿を投げ飛ばす。弱いのは分かっているので、酒を浴びるわけにはいかないのだ。牛乳も飲んで事前対策は完璧である‥‥恐らく。
 二人で力を合わせて猿を順調に撃退していた、そんな時だった。
「あ――っ! ごめんね、石動さん、足が滑ったぁっ!」
 わざわざ宣言をして猿の背中を小夜子目がけて蹴り飛ばしたのは弓亜 石榴(ga0468)だ。
 当然、不意を突かれた小夜子も拓那も防御が間に合わず、防衛本能を発揮した猿は勢い良く高濃度の酒を小夜子に向けて噴射したのだ。
「きゃ‥‥っ!」
 悲鳴を上げる前に小夜子がその場に尻餅をつく。
「あはっ、ごめんごめん」
 軽く謝った石榴は踵を返して走り去って行った。まだ彼女には仕事が残っているのだ。
 ぽかんとしていた拓那だったが、本番はここからだった。
「えっと‥‥小夜ちゃん、立て――うおぁっ!?」
 手を差し出した拓那の腕を掴んだ小夜子が、彼に飛びついたのだ。勢いに負けて拓那が廊下に転がる。図らずも組み敷かれたような体勢になったせいで、彼は瞬間的に酔ってもいないのに真っ赤になった。
 一方、彼を見下ろす小夜子は、完全に酔っている。
「拓那さん‥‥大好き、です‥‥」
「ええええええっ!?」
 いや、嬉しいけども!
 大混乱の拓那の顔を見つめた小夜子は、絶妙な角度に首を傾げ、少し潤んだ瞳で彼の顔を覗き込んでトドメの一言を囁いた。
「‥‥私では、お嫌‥‥ですか?」
「‥‥‥‥うああああもうっ、どうにでもしてっ!!」
 叫んだ拓那は、場所が場所であることも構わず小夜子を強く抱きしめた。
 何かあったら、全部酒のせいにしてしまおう。


 一方、妻と合流したヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)は彼女の目の据わり具合に軽く戦いた。完全に酔っぱらっているではないか。自分と合流する前に一体何があったというのか。
「ていうかなんで学校内でその服!?」
「ぁー‥‥ヴァレスだー。やっほーぅっ!」
 明るい声と共に夫を押し倒した流叶・デュノフガリオ(gb6275)はヴァレスに馬乗りになったまま、自身のバニー服を見下ろした。勢いで着替えさせられたのだが、存外気に入っているのだ。
「‥‥ふーん、こんな格好でもダメなんだ」
「いや、可愛いけど‥‥な、何か当たってるって!」
 ヴァレスの胸の上で肘をついた流叶は谷間を見せつけるように彼を見つめている。
「折角だから‥‥堪能しないの?」
「‥‥っ」
 そんなことを可愛い若妻から言われて、無事な男がいたら見てみたい。というより、初めから我慢する気はあんまり無い。
 理性が吹っ飛んだヴァレスは、唇の端を歪めて起き上がり、流叶を軽々と抱きかかえた。
 据え膳食わねば何とやら、というやつだ。
 適当に猿をあしらって空き教室を確保したヴァレスは、流叶をそこへ放り込み、後ろ手に扉を閉めてしっかりと鍵をかけた。
「全く、悪い子だ。そんなカッコで色仕掛けなんて‥‥」
 男、ヴァレス・デュノフガリオ‥‥参る。


 所変わって、救護室から少し離れた所にも猿は出没していた。
「あー、薙さん、危ないですー」
 のんびりとした口調とは裏腹に、素早い動きで功刀 元(gc2818)は御剣 薙(gc2904)の前に飛び出して猿が噴射した酒を浴びた。
 が、格好良いことをしたのもここまでで、なぜかAU−KVを脱ぎ捨てた元は水着一丁のまま猿の集団へ飛び込んだのだ。
 誰よりも驚いたのは彼と交際中の薙に違いない。
「ちょっ、元君、しっかり!」
「あはー、何か、面白いですー」
 しっかり酒を浴びて帰ってきた元は何事もなかったかのようにAU−KVを再び装着した。と、思えばまた脱いで集団にダイヴし酒を浴びるという繰り返しである。
 流石に気が触れたとしか思えなかった薙である。だが、すぐに酒の匂いに負けてそんなことはどうでも良くなってきたのだ。良くなってはいけない気がするのだが、恐るべし酒の魔力。
「アスタロトを身に纏った薙さんも素敵ですー」
 などと言いつつ、元が今度は薙に抱きついてきた。
「わわわっ‥‥元君、大丈夫?」
「うーん。酔ってると言えば、酔ってるかもしれませんー」
 そんなことを言われても困る。
 だが、薙は伊達にこの男の彼女をやっているわけではない。水着一丁でAU−KVを着込む彼氏を受け入れる寛容さが、彼女にはあるのだ。
「そうだね、お酒‥‥浴びたら浴びた時だよね」
 素晴らしい包容力を発揮した薙が元をそっと抱きしめる。
 先程の奇っ怪な行動が全て帳消しにされるほど、絵になる二人となったのだ。


「ウーラーキさーんっ!!」
 遠距離からスコープを覗き込んで猿を狙撃していたウラキに横から飛びついた石榴は恐ろしいほど自然な流れで彼のズボンをずり降ろした。
「な‥‥石榴さん、君は何を考えて――」
「ウ、ウラキさんっ!?」
「い、いや‥‥クラリアさん、これは違うんだっ!」
 何が違うのかはさておき、恋人のクラリア・レスタント(gb4258)が手で顔を覆っている間に、彼はズボンを履き直した。
「すまない‥‥今のは、忘れてくれ」
 がっくりと項垂れたウラキである。
 気を取り直した彼は、すぐさまライフルを構えて向かってくる猿を撃ち抜いた。今は猿の鎮圧が先決だ。
「クラリアさん‥‥あまり前に立って酒喰らわないようにね‥‥」
「大丈夫ですっ、私、お酒には強――きゃぅっ」
 教室から飛び出してきた猿のホースから発射された酒を浴びたクラリアである。
「この‥‥っ!」
 瞬間的に激高したウラキは恋人を襲撃した猿を銃身で殴りつけた。仰向けに倒れた猿が最後の抵抗と言わんばかりに彼にも酒を放つ。
「く‥‥っ」
 強制的に食らったウラキは噎せて後退った。もう一度照準を合わせようとして、首を傾げる。
「あれ‥‥変、だな‥‥手元が狂っ‥‥」
「ウラキさんっ、後ろっ!」
 ふらつく彼の前に立って、猿の噴射した大量の酒を浴びたクラリアである。そのまま脇から酒を浴びせかけた猿は刹那で吹き飛ばした。
「目、目が回る‥‥‥‥ウ、ウラキさぁ〜ん」
 猫なで声で言いながら、クラリアはウラキの胸を思いっ切り突いた。
 酔っているのかあっさり倒れたウラキだが、頭を打ったおかげで一瞬意識がはっきりとして青ざめる。
「‥‥待て‥‥君は酔っている‥‥っ」
「ウラキさん‥‥‥さぁ、あの日の事、もう一度‥‥」
 彼女はまるで話を聞いていない。
 脳内に警報がガンガン鳴り響いたウラキは、なけなしの理性と根性でもって、クラリアを抱きかかえて立ち上がった。
「た‥‥耐えろ、僕‥‥っ」
 瓦解する理性を支えつつ、ウラキは戦域からの離脱を早くも始める羽目になったのである。

 ◆

 報告官はもう逃げ出したいのだが、皆は如何だろうか。
 場所は文化部棟の丁度中央部に移る。
「くそっ‥‥リア充どもめ‥‥非リアの俺がどんな気持かわかるか!? ‥‥ウィック。猿には、俺の気持はわかるまい!! 刹那!! ‥‥何だと‥‥わかるだと!?」
 もう何が何だか分からないが、秋月 愁矢(gc1971)が既に酔っている事だけは周りも分かる。
「ヒック‥‥うぉおい、危ないぞ、三枝ぁ‥‥!」
 酔っぱらった愁矢は猿に襲われそうになっているまつりを突き飛ばして、刀で猿の持っていたホースを斬り飛ばした。
 一方、庇われたまつりは完全に酩酊していた。ゆえに、愁矢を猿と間違えて引き倒したのである。
 転んで頭を打った愁矢は完全に酒が回って叫んだ。
「太陽のばかやろうぅぅうう!!」
「赤毛のお猿さんのばかあああああっ!!」
「うわ、変なとこ触るな――こ、このままじゃ魔法使いになっちゃうらめぇええっ!」
 誰か、彼らを止めて下さい。
「にゃーん! また面白そうな事になってるね〜♪」
 平然とこの惨状を影から見つめつつ手元の手帳に素早く書き込んでいるのは過月 夕菜(gc1671)だ。
「うにゃん〜♪皆の普段だと見れない姿が見れて面白いね〜♪」
 むしろ二度と見せたくないであろう姿のオンパレードである。かく言う彼女は酒の匂いが届かない場所に逃れているので、全くの素面である。
「あっ、足がお酒で滑った!」
 再び宣言をしてまつりに突撃したのは石榴だった。
 当然足など滑っても何でもいないのだが、まつりのスカートを引っ掴んだ石榴は何の躊躇いも無くそれを剥ぎ取る。
「め‥‥めくっちゃらめええっ!」
 酔っているのか恥じらっているのか分からないが、赤くなったまつりはスカートを押さえて近くに立っていた人に抱きついた。
 抱きついたが、人が悪い。
「にゃああああああああああっ!!」
 様子を見に来ただけだったはずの白虎(ga9191)が逆に悲鳴を上げた。
「こんなところを誰かに‥‥しっと団の連中に見られたら粛清されるにゃ‥‥!」
「しっかり見ましたよ、総帥。報告しておきますね」
 教室のドアから顔を覗かせた和泉 恭也(gc3978)は、遂に押し倒された白虎に向かって可愛らしく微笑んで頷いた。
 ぶわっと白虎の目から滂沱の涙が溢れる。
「嫌にゃあああああああ! 僕にはもやしお姉ちゃんがああああああっ!!」
 逃げられなくなって本気で号泣している白虎だが、救いの手はあった。 
 押し倒して彼に抱きついていたまつりの背中に何かが引っかかったのである。そのまま、彼女はぷらーんと釣り上げられた。
「‥‥まったく、未成年に飲ますなよ。つうか、こいつ酒ぐせわりぃなぁ‥‥将来が心配だわ‥‥」
 長身の彼女を、足が廊下につかないほどまで釣り上げた神撫は溜息と共にそんなことを呟いてみる。
「まあまあ、そろそろ下ろし――‥‥ぶっ!?」
 肩を竦めて宥めようとした雲雁だったが、その背後と左右から猿に酒を噴射されて事情が変わった。
 頭の上から爪先までびしょぬれになった彼は突然目が据わり、側面の猿を巻き込んで後ろの猿を蹴り飛ばしたのだ。ブーツに取り付けた砂錐の爪で猿の胴体を踏みつけて、冷たい視線で射抜いてやる。
「俺に刃向かうっていうんだな? あ? ロボットの分際でナマイキだ‥‥」
 鞭とか持っていたら最高なのに、とその場の誰もが同時に思った。
 誰もが唖然として猿を踏みにじる女王様の背中を見つめている中、ようやくトマレの魔手から逃れていたまつりは、近場の人に抱きついていた。
「あれ‥‥雄二さんだぁ‥‥」
 いきなり抱きつかれた三枝 雄二(ga9107)は硬直した。この子をどうしてくれよう。
「‥‥こういうときは‥‥あれは‥‥武流さん、後よろしく!」
 この状態でぶん投げられても困る。
 ようやく集団に追いついたばかりの須佐 武流(ga1461)は、いきなりまつりを丸投げされたわけだ。誰でも良いのか、それとも分かってやっているのかまつりは盛大に武流を押し倒した。
「武流さんだぁ‥‥わーいっ、白衣白衣ー!」
 むしろ今のまつりに白衣姿を見せることは色々な意味で危険だ。押し倒される覚悟くらいはあったのだが、やはり硬直せざるをえなかった武流である。
「待て、まつり。いや‥‥待たなくても良いが落ち着け‥‥」
「待たなくて良いなら待たないもん‥‥っ」
 変なところだけ思考が生きているまつりは、いそいそと武流の白衣を脱がし始めた。
 流石に心底びびった武流である。
「ま、待てっ! まずは場所を選べっ!!」
「場所なんてどうでも良いですー。ふにゅ‥‥脱げーっ! 俺のものだって言えーっ!」
「ここではよせえええええええええっ!!」
 叫んだ武流は無理矢理まつりを抱き上げて立ち上がった。おお、襲われなかったぞ、と周りは安堵する。
 だが、色々な意味で精神的にダメージを負った武流は、遂に耐えきれずに叫んだものだ。
「まつりは‥‥まつりは‥‥俺のものだぁ〜!! 誰にも渡さねぇ〜〜!!」
 絶叫しながら彼女を抱えて、武流はその場から走り去った。本当は窓をぶち破って逃げたかったのだろうが、それをしなかっただけまだ理性は無事ということだ。
 それにしても、リア充すら退場させるとは‥‥恐るべし、お酒の力。

 ◆

「お久しぶりです、先生。‥‥これ、噂に聞くアイツの仕業ですかね?」
「あ、ああ‥‥そうらしい」
 挨拶をしながら猿のホース口を引っつかみ、噴射を押さえてから胴を殴り続けているのはレイード・ブラウニング(gb8965)である。
「教官も大変ですね‥‥」
「だが、段々慣れてきた自分もいる‥‥」
 小さく苦笑した終夜・無月(ga3084)は、酒を噴射した猿の口へ炎舞を突き立てた。覚醒の瞬間に立ち上った炎が酒に引火し、猿を内から焼き尽くす。
「男に‥‥抱きつかれる趣味は‥‥ありませんね」
 酔っぱらって飛び出してきた男子生徒を当て身で倒した無月は廊下の端に転がした。ついでに、物は試しでキュアもかけてみる。これで酔いが冷めれば良いのだが。
「は‥‥っ、ジャック先生、危ないのっ!」
 一方、前回に続き、ジャックを襲撃せんとするしっと団気配を察知したユウ・ターナー(gc2715)が彼の前に立ってヴァルハラを構えた。
 その次の瞬間である。
「ジャック先公‥‥、奥さんいんのに浮気なんかしやがって!! 見損なったぜ!!」
 角から飛び出してきたガル・ゼーガイア(gc1478)が自作のロボットをジャックに向けて投げつけて来たのである。
「むぅ‥‥ジャック先生に手は出させないんだカラッ!」
 ロボガルを撃ち落としたユウはガルに銃口を向けたが、あっという間に彼は竜の翼で戦線を離脱していた。
 代わりに、脇から飛び出した猿がユウのスカートを盛大に捲ったのである。
「ひゃ‥‥っ、見たな〜! そんなヤツはこうしてこうしてこうしてやるンだカラ‥‥っ!」
 覚醒して瞳孔が猫のようになったユウは場所も構わず銃の乱射した。
 穴だらけになった猿を踏みつけて、呼吸を落ち着けたユウはようやくそこで酒の匂いに当てられたようだった。くるりと振り返って、唖然としているジャックに抱きついてみる。
「えへへ〜〜vジャック先生〜っ」
「お、おお‥‥っ、どうした、匂いにやられたか?」
 頭をそっと撫でているジャックの今の姿こそ、しっと団は襲撃すべきだ。

 ◆

 屋上は静かで平和だ。
 下の事態をようやく察したニコラス・福山(gc4423)だが、彼自身は降りていく気はない。
 代わりに、皆に届けば良いと願いながらヴァイオリンを取り出して肩に乗せた。
「交響曲第7番、第一楽章‥‥戦争‥‥開始だ‥‥」
 確かに、色々な意味で校内は戦争状態だった。


「ともかく、酒の為ならどんだけでも働いてやンぜー!」
 気合いの声を上げて、直刀で猿の背負っていた酒のタンクを斬り落としたヤナギ・エリューナク(gb5107)は、好みの曲の一節を口ずさみながら円閃で猿の集団を薙ぎ倒していった。
「酒だ酒だ! 酒は全部確保して行こうぜー!」
 その傍らでは、酒の匂いに辟易しつつもソウマ(gc0505)が猿を超機械で痺れさせていた。
「まったく‥‥キリがありませんね、猿ばかり――」
 言った傍から思いっ切り転んだソウマである。酒でぬめった廊下は最悪の足場なのだ。
 そしてここでも、彼の持ち前の強運が発揮されることになった。
「‥‥きゃっ!? や、やだ、服が透けちゃ‥‥っ」
 倒れた生徒を助けようと駆け寄った御崎 緋音(ga8646)が猿の酒噴射の犠牲になったのである。ちょっとやそっとでは酔わない彼女だが、それよりも先に服がアウトだ。
 更に、猿は緋音のスカートを捲りにかかる。
「‥‥っ!? そうはさせませんっ!」
 叫んでスカートの後ろだけを押さえた緋音である。なぜ、前を押さえないのか。
 案の定、猿は前に回り込んでスカートを豪快に捲ったのだ。
「し、しま‥‥っ!? きゃーっ!」
「‥‥っと。おおっ?」
 思わず目を逸らしたソウマである。何という良い角度だ。
「‥‥ったく、無粋な猿だぜっ!」
 わずか一拍後にはしっかり堪能したヤナギが猿を潰している。二人して、良いものを見てしまったか。
「ベオる‥‥ベオりますよっ!!」
 着物姿の龍乃 陽一(gc4336)はベオウルフを猿に向かって投げつけた。
「お酒とおつまみはどこですか‥‥ふふふ、あっはっはっはっ!」
 良い声で高笑いを響かせながら、陽一は誰かを巻き込みつつ猿を倒して廊下を闊歩している。
「えーい、学園内にお酒を持ち込むとは、成人した先輩といえど、やっていいことといけないことがありますよ!」
 怒って良いのか呆れて良いのか分からないが、とにかく猿だけは倒さなくては、とガトリング砲を連射するのはジェームス・ハーグマン(gb2077)である。
「ジェームス君酒の匂いには気をつけて‥‥うーむ覚醒しても軽くくらっときますねこれは下戸にはつらい空間です」
 いつもの文言で覚醒した雄二はハンドガンで猿を撃ち抜きつつも眉を顰めている。
「Aの野郎‥‥二度ならず三度までぇ‥‥」
 わなわなと拳を握りしめて、巳沢 涼(gc3648)はその場の猿を蹴散らすと、二階へ通じる階段の前に陣取った。これで猿が二階部分に侵入することは無いだろう。
「はい、邪魔だよ‥‥ここは宴会場となるのだからね」
 そうした掃討班の傍ら、来るべき宴会の為に家庭科室の奪還に向かっていたUNKNOWN(ga4276)は、薄く笑って猿の首に手刀を落とした。
「猿はどうでも良いね‥‥酒を頂こう」
 瞬天速で間合いを詰めて、一瞬で猿を壊し、タンクを奪い取る。酒だけ無事なら何でも良いのか。
「まったく、懲りない奴らだ‥‥、邪魔邪魔っ!」
 同じく家庭科室の奪還に向かった秦本 新(gc3832)は和槍で猿を薙ぎ払った。酒のタンクを傷つけては後の宴会に響くので、あくまで胴体だけを攻撃していく。
「その程度で僕を酔わせようとは、笑わせますね」
 家庭科室の入口付近では、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が淡々と猿を捕獲していた。脅威の分解酵素を持つ彼にとって、酒など水以下の存在に等しい。
「全く酔いませんね。それはそれで、困りものですが」
 越えられない壁は越えられないから良いのであって、これからも越えることはないのだろう。


 少し離れた場所でも猿の掃討が行われていた。
「はっ、ちょっと酔ってるが‥‥近接格闘師、ネオ・グランデ、推して参る」
 猿に瞬天速で詰め寄ったネオ・グランデ(gc2626)は、酔いでぐらつく視界を無理矢理宥めて胴に強烈な一撃を入れた。
「来い! シルバームーンブレイドが相手だ!」
 構えたTaichiro(gc3464)は槍を大きく振るって猿を薙ぎ飛ばす。
「まったくもって騒々しい上、酒くせえんだよ‥‥!!」
 猿の背中に強弾撃を叩き込んだ皇 夜空(gc5223)はぼそっと呟いた。その銃撃で開いた間を狙って、雨守 時雨(gc4868)が竜の翼で飛び込んでいく。
「そこ、油断大敵ですよ」
 密集して動けない猿など、ただの的に等しいのだ。
「あうぅ‥‥」
 スカートを必死になって押さえているリズレット・ベイヤール(gc4816)は涙を溜めながら猿に抵抗していた。
「何をしている‥‥この変態が」
 リズレットのスカートを引っ張っていた猿を槍の石突きでどついたヘイル(gc4085)はそれを廊下の端に蹴り飛ばす。
「――大丈夫か? お嬢さん」
「‥‥は、はい。ごめんなさい‥‥」
 男性に助けられてしまったことで、真っ赤になったリズレットは顔を隠して縮こまる。
 彼女を安全圏にやったヘイルは、改めて周りを見渡した。酷い酒の匂いに、向こうでは大暴れしている仲間達が見える。
 彼らの姿を見ていると、言わざるを得ない一言が彼の口から漏れた。
「‥‥これ、収拾つくのか?」
 はっきり言おう。
 事態の収拾なんて、最初から諦めている。

 ◆

 廊下に倒れている生徒にウサ耳がつけられる、という奇っ怪な事件の犯人は、瞬天速で校内を走り回っていた最上 憐 (gb0002)である。
「‥‥ん。ウサ耳が。最強にして。至高である事を。知らしめる」
 猿退治はどうでも良いらしく、ひたすらウサ耳をつけて回っている。
 何でこんな目に!と言われると、彼女は顔色一つ変えずにこう切り返すのだ。
「‥‥ん。全ての。元凶。黒幕は。ヘンリー。私は。脅されただけ。傀儡」


「ベルナドット先生っ。大人ですから、酔わないですよね? ね?」
「俺は酔いや――‥‥ぐあっ!?」
 未成年ゆえにヘンリーを盾にした和泉譜琶(gc1967)は、彼の後ろから弓で猿を射抜いた。
 今度はジャックに駆け寄り、彼の後ろに隠れた譜琶は袖をくいくいと引っ張った。
「ジャック先生、頼りにしてます! このカオスを止められるのは先生しかいません」
「いや、俺には‥‥ハードルが高すぎるぞ」
 危険を察知したジャックはそそくさと譜琶を連れてその場から離脱する。その判断は大正解だ。
 直後、ヘンリーを色々なものが襲った。
「どうもぉ、先生ぇ! 張 天莉の姉です〜いつも弟がお世話になってます」
「え?挨拶とかそんな、恥ずかしいですよぉ‥‥」
 酒が回って判断力の鈍っているヘンリーに近づいて来たのは、Letia Bar(ga6313)と張 天莉(gc3344)である。
「ああ‥‥えーと、よろしくなぁ‥‥」
「うふふ‥‥さぁ、天ちゃんっ、あっちでいちゃつくわよー?」
 挨拶を済ませてにこりと微笑んだ彼女は天莉を廊下の隅へ連行した。禁断の姉弟愛モードなるものが即座に発動される。
「もう、この王子様はぁ、私のぉ、弟なのぉ〜♪かぁわぁいいぃ〜っ」
「ふぁ‥‥ね、ねーさん‥‥っ」
 襟から胸に手を差し入れて頬ずりをする義姉に赤面しつつも、天莉も満更ではない様子だ。
「ヘンリーせんせーっ!! どこですかぁぁ」
 見せつけられている彼の元へ、もの凄い速度で突っ込んできたのは綾河 零音(gb9784)だった。
「せんせーが守ってくれるのだー! いやふー☆」
 言った傍から猿の酒噴射に向かってヘンリーを突き飛ばした零音である。まともに酒を正面から食らった教官の赤毛が盛大に濡れる。
 同時に、それがヘンリーの限界点でもあった。
 無駄に顔は良いので、水も滴る何とやら状態のヘンリーは片目を閉じて零音の顔を覗き込んだのだ。
「なぁ‥‥肩、貸してくれねぇ‥‥?」
「ええええっ!? せ、先生っ!?」
 やだ、どうしよう。格好良い。
 リア充はげろー!と言いたかったのに自分がはげそうになった零音である。
「どうした、顔が赤いぜ‥‥?」
 零音の額に手をそっと当てたヘンリーである。あんまりのことに彼女は硬直して直立不動の体勢を取った。
 同時に、この状況を逃すはずがないのがしっと団である。
「あの桃色リア充を粛清タイムだ!」
 光の速さで駆けつけた白虎は手近な猿から酒入りのタンクをふんだくり、ヘンリーに向かって噴射したのである。
「続けー!!」
 白虎の掛け声で恭也が動いた。
「御生還おめでとう御座います!」
 恭也の噴射した高濃度の酒がヘンリーに襲いかかる。
「可愛いちゃん達に協力するのは、お姉ちゃんとして当然よね」
 駆けつけた樹・籐子(gc0214)も、あまり状況が分かっていないが、とにかくあの赤毛に酒をかければ良いのだと理解して、猿からホースをふんだくった。酔っているので手元が狂い、なぜか白虎を巻き込む範囲に酒を噴射したのだ。
「にゃあああああ――――っ!?」
 酒に溺れた白虎の悲鳴が響いているうちに、今度はヘンリーの背後からガルが駆けつけた。
 その手には、ロボガルがちゃっかりとある。
「重傷負った俺には何もなかったのに‥‥先公はこれか!! 納得いかねぇ!!」
 確かに報告官も納得できないぞ、少年。
 それを見ていた夏子(gc3500)も動かざるを得なかった。絡んでくる男子生徒をダブルラリアットで昏倒させていたのだが、そこに大物があればやりたくなる。
「ヘンリー教官‥‥すまんでゲス」
 言いながら下段蹴りで体勢を崩し、シャイニングウィザードを引っかけ、ジャーマンスープレックスホールドを決めた夏子である。
 ロボガルを後頭部にぶつけられ、夏子の攻撃を食らったヘンリーは今度こそ意識が吹っ飛んだ。よろよろと零音を押し倒してぶっ倒れる。
「何で俺はモテねぇんだよ! 誰か教えろ畜生!!」
 酔っているのか、ヘンリーを倒した後も叫いていたガルだったが、前回の悪夢は今回もやはり起こった。
「んー。ぱんちゅはいいけど、えちぃのはだめー」
「‥‥げっ」
 勢い余って、ガルはロボガルで舞 冥華(gb4521)のスカートを捲ってしまったのである。だが、今日の冥華はAU−KVを装着していない。
 安堵したガルだったが、現実はそんなに甘くない。冥華はドラグーンではなく、ハイドラグーンなのだ。
 ベオウルフを振り上げた冥華は平然と言ってのけた。
「んー。べおうるふあるし、竜の咆哮でふきとばすー」
「ちょ‥‥ま‥‥何で俺だけこんな目に遭うんだあああああああああっ!!」
 ガルのトラウマが、また一つ増えた瞬間であった。
「おっと、良い構図頂きっ」
 すかさずシャッターを切ったのは龍深城・我斬(ga8283)である。イケメン教官が少女を押し倒す図に、少年が幼女のスカートを捲る図‥‥実に危険。実に愉快。
「さて、この超特ダネタは後で特大パネルにしてお披露目と行こうかね?」
 後日、色々問題が起こりそうなので勘弁してあげて下さい。
「うふふ‥‥白虎くん、可愛いわよ」
 一方、ぶっ倒れている白虎を抱きしめた星華は遠慮無く彼を堪能している。
 酒まみれの廊下に座り込んでいるせいで着物が徐々に濡れているのだが、全く気にしない星華は倒れているヘンリーの襟を引っつかんで立ち上がった。
「弟の十星にお酒やつまみを用意するように言っといたから皆で飲み直しましょう」
 まだ飲むのか、という反対意見は全く、これっぽっちも出なかった。

 ◆

 猿退治は、どこへ行ったのだろう。
「酒飲み放題〜♪‥‥ちっ、安物の酒かよ」
 猿を吹っ飛ばした吹雪 蒼牙(gc0781)は隣で猿を斬りつける守剣 京助(gc0920)の襟をいきなり掴んだ。
「はっはー! おおっ、どうした蒼牙――ぬああああっ!?」
 蒼牙に盾代わりに使われた京助は真正面から猿の酒を浴びた。平然としている蒼牙は彼を離すと、けろっとして言ったものである。
「ごめん、形見のマフラーを汚す訳にはいかないんだ‥‥」
 清々しい蒼牙の笑顔を酔った京助がまともに見たとは思えないが、更にテンションの上がった彼は大剣を友人に向けて言った。
「はっは、猿に紛れて狐も出たな! 少しは楽しめそうだぜ」
「あ‥‥狐っぽいけど狐じゃないよ? ガチでやるから勘弁してねっ」
 猿の掃討はそっちのけで、蒼牙と京助は本気で命を賭けた死闘を始めたのだった。


「残念だったな、お待ちかねのスパッツ下ろしはお預けだっ!」
 男のはずなのに女装している夜刀(gb9204)はツインテールを揺らしながら猿を刀で斬りつけた。倒れた猿から酒のタンクを強奪し、同行する悠夜(gc2930)に投げる。
 タンクを受け取った悠夜はすかさず周りを見回し、女子がスカートを捲られていないかチェックしていた。
「ホォー、お前の下着はそんな感じか♪眼福、眼福♪」
 青少年の反応としては自然なのだろうが‥‥良いのか、それで。
 悠夜の視線の先では、ノエル・クエミレート(gc3573)がスカートを捲られているが、その直後だった。
「ボクに‥‥襲ってきちゃメー!」
 華奢な少女が突然、猿に向かってフランケンシュタイナーをかけたのである。
 嫌な音を立てて猿が頭から廊下に叩きつけられた。
「ノエル、ボクからあんまり離れるなよぉ」
 傍で平然としているレインウォーカー(gc2524)は二刀小太刀で猿持っているホースを斬り取った。ごとん、と廊下にタンクが落ちる。ノエルの鮮やかな技を見てもけろっとしている。
「ん‥‥? どうしたの、悠夜君」
「いや‥‥何でもねぇ」
 見てはいけないものを見てしまったと後悔した悠夜に夜刀は首を傾げた。女子のフランケンシュタイナーは、ちょっと見たくなかった。
 そんなことは露知らず、猿を倒し続けるノエルの援護に回ったレインウォーカーはぼそりと呟いたものである。
「‥‥カオスが広がっていくなぁ。これ、収拾つくのかなぁ?」
 収拾‥‥なにそれ、美味しいですか?

 ◆

 ティナ・アブソリュート(gc4189)とイレイズ・バークライド(gc4038) は残存勢力の掃討に向かっていた。
「また貴様かあぁぁぁーーーー!!!」
 と、声にならない声で叫んだイレイズは直刀で猿のタンクをぶった切った。
 隣にいるティナも両手に機械剣と炎剣を構えて、近づいてくる猿を切り倒している。
 ただ、イレイズと違うのは、敢えて酒を被ってみるという点だろうか。
 突然背後で酔っぱらったティナに驚いたイレイズだが、それ以上に振り返った瞬間に彼女に押し倒された方が驚いたはずだ。
「ティナ‥‥お前、何を‥‥!」
「わーんっ、あの日の返事がまだですよ、どうするんですかっ」
 馬乗りになったティナは彼の頬を手で挟んだ。本気で身の危険を感じたイレイズである。
「‥‥お前、酔ってるだろ。今すぐ降りて救護室に行け。背負ってってやるから」
「‥‥‥‥私とするの‥‥嫌‥‥?」
 涙目で訴えてくるティナにイレイズの我慢――と言って良いのか分からないが――がぶっつりと切れた。
「‥‥っ、ティナ、すまん‥‥っ!」
 一言謝って、イレイズは軽くティナの胴に当て身を打ち込んだ。酔っぱらっていたいた彼女はいとも簡単に意識を失って彼の胸の上に崩れ落ちる。
「‥‥あーっ」
 何とも言えない表情になったイレイズは、しばらく天井を見つめたまま動こうとはしなかったものである。

 ◆

「にしても‥‥まさに死屍累々といった感じだな、これは。カオスと言うべきか‥‥」
 猿を粗方片付けて酔っ払いの介抱に向かったレイードは惨状に溜息をついた。これはひどい。
「ほら、しっかりして。寝てないでちゃんと起きる!」
 家庭科室の一角を借りて白湯を湧かしてきた新は、酔っ払いに片っ端から飲ませていた。ついでにシジミの味噌汁も作り、重症者に無理矢理飲ませる。
「少し‥‥頭を冷やしましょうか」
 そう言って、絡んでくる酔っ払いに遠慮無く振ったラムネを浴びせかけているのは有村隼人(gc1736)である。
「やれやれ‥‥」
 溜息をつきつつも、隼人はグロッキーな人からキュアをかけていく。
「おい、大丈夫か‥‥? 水を飲め、楽になるぞ」
 酔っ払いを抱き起こして水を飲ませた國盛(gc4513)は周りを見渡して深い溜息をついた。色々な意味で被害甚大である。
「船木とかいうやつ‥‥流石に、許しておけないな」
「はいはい、お水飲んでー。そこ、戯れないでおとなしくしてくださいねー」
 水を配り歩く夕風 悠(ga3948)は、足元に絡んで来た酔っ払いをハリセンで一撃の下に沈めた。こいつら、後で全員反省部屋に叩き込んでやる、とぼそりと呟くと、何事も無かったかのように水をまた渡していく。
 一方で、介抱というか何というかの行動に出ている人もいた。
「キャ〜、かわいい〜〜〜。こんなにかわいいと思わず抱きしめちゃうわ」
 酔っぱらって沈んでいる男子生徒に抱きついたフローネは相手が昏倒するまで頬ずりやら何やらをしている。酔っているのだから、仕方がない。
「大丈夫ですか? ご気分は悪くはありませんか?」
 廊下では、まだ倒れている生徒にリュティア・アマリリス(gc0778)が丁寧に声を掛けていた。メイド服のせいだろうか、絡んでくる男子生徒には当て身を入れて気絶させ、救護室に放り込んでいく。
「あらあら‥‥そろそろ、お掃除もしないといけませんね」
 モップを片手に呟き、気合いを入れたリュティアである。
 彼女の言う通り、ようやく猿ロボは全滅しようとしていたのだ。


「殴り潰されるのと蹴り潰されるのと踏み潰されるの、どれをご希望されますか‥‥?」
『どこを』潰すというのか。報告官は怖くて書けません。
 酔っぱらって抱きつこうと飛び掛かってきた男子生徒を蹴り飛ばした諌山美雲(gb5758)は乙女桜を縦に振って彼の喉元に突きつけた。
 彼女の傍らでは、別の少女が烈火の如く怒りながら男子生徒を迎撃していた。
「てっめー、気安く私の胸をもむんじゃねえ!!!」
 残った酔っ払いにビンタを食らわせた椎野 ひかり(gb2026)はノコギリアックスで近づいた猿を殴りつけた。そうする間にも絶え間なく、残存勢力の猿は彼女に酒を浴びせかける。
 当然、一定量を超えればひかりも酔ってくるので、呂律が回らなくなってくるのだ。
「てめーりゃー、まだかかってくるにゃー! 私があいてにゅなってやるにょー!」
 ぐでんぐでんになったひかりはノコギリアックスをぶん回して猿を吹っ飛ばした。
 ようやく彼女の周りから猿が消えると、彼女は続いて近くで猿を潰していた美雲に飛びついたのである。
「うわわわわっ」
「かわいいこにゃいるにゃ〜わたしのおんにゃになれにゃ〜」
 すてん、と後ろに転んだ美雲の胸に飛び込んだひかりは、頭を撫でられると、あっという間に眠りの中に落ちたのである。
 気がつけば、文化部棟からは阿鼻叫喚の悲鳴がすっかり消えていた。

 ◆

 何だかんだ言いつつ、全てが終われば宴会なのである。ただし、大っぴらにすると後々面倒くさいので、酒宴は家庭科室のみでかつ教官の監督の下、ということになった。
「よーし、皆、準備はいいか、ね?」
 家庭科室の猿を全て片付け、酒を確保していたUNKNOWNは既に飲み始めている。
「皆さん打ち上げです、あまりハメを外さないようにしましょう」
 つまみをしっかり用意していた十星の手料理が机に並ぶ。もう何というか、準備が良いとしか言いようがない。
「匂い、洗濯して落ちるでしょうかね」
 着替えて出てきた神棟星嵐(gc1022)はそう言うと、酒の飲めない参加者に飲み物を配り始めた。リンゴジュースやらミネラルウォーターやら、それだけでも充分飲めない人々は宴会を楽しめそうだ。
「おっしゃ、酒、もっと持って来ーーい!」
 ガンガンとギターを鳴らすヤナギは既に良い感じに酔っぱらっている。幸い、そこら中に転がした猿が大量にいるので、酒には困ることはないだろう。
「休日は潰れましたが‥‥、これはこれで楽しい、かな」
 少しずつ酒を飲んでいる新は小さく呟いた。何名か行方不明のままだが、多分きっと無事のはずだ。
「ゴルディ教官、何か作って下さい。京助さんが酔ってるんで」
 ぼろぼろの京助を抱えてジャックに料理を強請るのは蒼牙だ。毎度恒例になっているジャックの手料理は、今回も例外なく振る舞われることとなった。
 一方で、隼人はぐったりしているヘンリーに食材を買ってくるように言ってみた。
「ここで、カッコいいところを見せるとポイントが上がると思いますよ‥‥ミリ単位ですが」
「マジでっ!? じゃあ行くわ!」
 最後の件が聞こえていなかったヘンリーは俄然やる気である。もうこの男は放っておいて良い。
「酒があってつまみもあって、これはもう呑みまくるしかなかろう」
 どんどん酒を入れるネオは恭也の作った美味いつまみを食べながら呟いた。
「ぐぬぬ〜‥‥俺がここでは呑めないのを知りながら‥‥」
 飲める年齢なのに場所と立場が許してくれない‥‥!と真面目さを発揮して嘆いているのは涼である。隣では幼馴染みの陽一や國盛が陽気に酒をどんどん開けている。
 仕方がないので、その場を後にした涼は、何人かと手分けして校内を掃除しているTaichiroの元へ向かった。
「お。タイチロウ、ご苦労様だな」
「いえ、学園を守るためですから」
 生真面目に言った友人に苦笑して、涼は彼に缶ジュースを渡す。Taichiroはそれを受け取って、近くの階段に腰を下ろした。
 ふと視線を宴会場に向ければ、いい加減帰れ酔っ払い共めー!と怒鳴り込んだ人を、逆に酔っ払いが中に引き込んでいるのが見える。
 どうやらこの緊急事態、完全に収拾がつくのは明け方になりそうだ。

―了―