タイトル:【AA】滲む毒マスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/28 10:20

●オープニング本文


 バグアの土地であるアフリカ戦線では、絶え間なく人類とバグアの戦闘が展開されている。毎日人が死に、敵が撃退される。人々はそれぞれの掲げた目的の為に銃を、剣を、拳を振るっていた。
 そんなアフリカ某所で抵抗を続けるゲリラからの援軍要請が飛び込んできたのは、真夏のように暑い日のことだった。滲む汗をぬぐって転がり込んできたゲリラの少年は半泣きになりながらその場の人間に縋り付いた。
 話は想像以上に深刻であった。
 某所、隆起が比較的多い地帯でキメラとの死闘を繰り広げていたゲリラ隊は、あと少しでキメラの集団を追い返せる局面を迎えていた。このまま押し切ってしまえ、と思われたその時、わずか一晩で壊滅状態にまで陥ったのだという。既に救出班が出動しており、ゲリラ隊の殆どが救助されたが、まだ取り残されて僅かな体力でキメラと戦っている仲間がいるらしい。
「その、壊滅の原因は分かっているのか?」
 尋ねられた少年は青ざめたまま頷いた。そして、弱々しくぽつりと呟いたのである。
「‥‥毒です」
「毒?」
「はい。蠍の大群が夜に奇襲を仕掛けてきたんです。やつらの猛毒は、すぐに効果が出ず、痛みも殆ど感じなくて‥‥」
 刺されたことに気づかず応戦していた仲間達が突然、見計らったようにばたばたと倒れていく様は、少年の様子を見ればどれほどの恐怖か自明のことだった。
 蠍の大群は襲撃するだけしてさっと退いた。すぐに救援を呼んだが、救助作業中に別のキメラの大群が襲撃してきたため、満足に救助活動を終えることが出来なかった。
「お願いしますっ!」
 ゲリラ兵の少年は床に手をついて頭を下げた。
「取り残された仲間を助けてください。もし死んでいるなら死体の確認だけでも‥‥お願いします‥‥!」
そのただならぬ懇願振りに、聞いていた一人が尋ねた。何か深い理由でもあるのか、と。
少年は顔を上げて、涙で滲んだ目を擦って言った。
「‥‥取り残された仲間の中には、俺の兄さんもいるんです」


 援軍として派遣される部隊は直ちに組まれた。その数分後、先に出動していた偵察部隊が重要な情報を持って帰還した。
 ヘルメットを脱いだ偵察部隊の隊長は上がった息を落ち着けながら言った。
「キメラを多数確認しました。生存者の存在も確認しましたが距離があることとキメラの集団に対応できる武器を持ち合わせていなかったために救出は断念。なお、死亡者は現時点ではいませんでした」
 救助できなかった、という言葉に少年が噛みつこうとする。軍人の太い腕に阻まれてそれは叶わなかったが、舌打ちして偵察隊に背を向けた。
 緊張の面持ちで偵察隊は更に続ける。
「援軍を派遣されるのでしたら今が最適のタイミングです。蠍の行方を追った部下が言うには、周辺で待機しているそうです。おそらく時機を見て再度襲撃するものと思われます」
「迅速かつ確実に救助し、更にキメラの殲滅か。なに、派遣する奴らは一級の腕だ。必ず任務を遂行してくれるだろう」
 そう言って、軍人は少年の頭を撫でた。
「兄ちゃんは無事だそうだ。待ってろ、すぐに助けてやるからな」
 袖で目を擦った少年は、確かに強く頷いた。

●参加者一覧

井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
刻環 久遠(gb4307
14歳・♀・FC
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
正木・らいむ(gb6252
12歳・♀・FC
楊江(gb6949
24歳・♂・EP
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

 戦線は苛烈を極めていた。
 最前線で戦う青年は、助けを呼びに行った弟の安否を心配しながらも、弱音を吐く仲間を奮い立たせていた。
「諦めるな! こんなところで諦めたら、必死に走って行った弟に顔向けできないだろっ!」
 例え差し違えてもこいつらはここで止める。
 その決意の元にトリガーを引こうとした瞬間である。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 大地が震えた。怯んだ青年達の脇を何かが走り去る。その手には淡く光を放つ斧がある。
 裂帛の気迫と共に蜂集団に突っ込んだ絶斗(ga9337)を合図に、車から降りた援軍がどっと加勢した。
 続いて蜂集団に切り込んだのは正木・らいむ(gb6252)だった。ハミングバードを握り、一気に降り抜く。斬撃に巻き込まれた蜂がぼとぼとと落ちた。
 二人の開いた血路を抜け、小銃を放ちながら石動 小夜子(ga0121)と楊江(gb6949)が左右に散開し陽動を開始した。
 即座に敵勢力も動き始めた。獅子が一声鳴くと、守るように鷲のような鳥が大きな翼を広げて降下したのである。
「鳥はわしに任せろ」
 愛銃を構えた佐賀十蔵(gb5442)が一発で羽根を撃ち抜く。六芒星の浮かぶ瞳を眇めて、彼は反対側の翼も撃ち落とした。
 折を見て桂木穣治(gb5595)が仲間の兵装を強化する。全員の相棒が輝くことで、砂漠地帯が一瞬眩しくなった。
 唖然とするゲリラ兵を守るように立った井筒 珠美(ga0090)はスナイパーライフルを構えたまま後ろを見やった。情報通り重傷者が一人、残りのゲリラ兵は軽傷のようだ。
「奏歌」
「はい。‥‥救出に来ました‥‥重体の方から‥‥状態を診せて下さい」
 跪いた奏歌 アルブレヒト(gb9003)が負傷兵の足を診る。歩けない、というだけあって壮絶な傷だ。ひとまず練成治療で傷は塞いだが、それだけで事態は収まらなかった。
「‥‥Atziluth」
 突然覚醒した刻環 久遠(gb4307)の髪が銀色に変じた。
 赤黒の燐光を纏う少女は無言で銃を構え、こちらに接近していた鳥を撃ち落とした。陽動班の目を盗んでここまで来たのか、それともどこかに隠れていたのか、蜂と鳥の一部がこちらに流れてきているのだ。
「むこうで引きつけてるのになおこの数か。たっまんないね!」
 舌打ちした新条 拓那(ga1294)が超機械を構えた。発生させた電磁波を集団にぶつけて数匹叩き落とす。
 壁役は二人に任せ、ライフルを置いた井筒はゲリラ兵の治療に手を貸した。比較的軽傷の兵士に応急処置を施す。
「‥‥何だ、これは?」
 兵士の腫れ上がった腕を診た井筒は眉を顰めた。骨折でもなさそうなのに、こんな外傷があるのか。
 いや、違う。紫色に変色した患部の中央には、小さな刺し傷が見えた。
「君達‥‥っ」
 後は言葉にならなかった。
 糸が切れた人形のように、仲間の治療を見守っていた青年以外のゲリラ兵達が次々と倒れ始めたのである。これには救出班の全員が目を剥いた。
 背後の物音に新条が声を上げた。
「何だっ!?」
「‥‥いけない、中毒症状よ」
 振り返った刻環が攻撃の手を止めて救援に加わった。予め奏歌から受け取っていた空の注射器でゲリラ兵の血を吸い出す。これで気休め程度の処置にはなるだろう。
 重傷者の血を抜くと同時に、輸液セットで輸血を開始した奏歌は刻環に頷いた。これ以上の治療は効果が薄い。さっさと運んでしまった方が良いだろう。
「珠美、拓那‥‥負傷兵を運びます」
「了解。こっちも一段落だよ」
 武器を収めた新条が重傷兵を肩に担いだ。敵集団の後退を確認した井筒も負傷兵を背負う。
「車は私が運転した方が良いか」
「そう‥‥ですね」
 井筒の言葉に頷いた奏歌だったが、ここで刻環の手を借りていたゲリラ兵の青年がゆっくりと頭を上げた。
「‥‥手を煩わせるわけには、いきません。俺が全員、連れて行きます」
「馬鹿を言うな。毒こそ無かれ、君だって負傷しているんだ」
 途中で意識を失われては困る、と返した井筒に青年は苦笑して首を横に振った。
「運転くらいなら‥‥何とか出来るはずです。それに、戦力は一人でも多い方が良い。足手まといになる前に俺達はここを離脱します」
「‥‥」
 溜息をついた井筒は、愛車のドアを開けて負傷兵を寝かせた。数名乗せて、ドアを閉める。
 運転席に行こうとする青年を捕まえて、彼女は言った。
「そこまで言うのなら運転は任せるが‥‥大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
 力強く言った青年は足を引きずりながら運転席に入った。最後に青年に奏歌が練成治療を施して、車両はゆっくりと走り出した。車は砂の上を真っ直ぐに進んでいく。あの様子なら大丈夫だろう。
 砂塵を巻き上げて進む車が見えなくなるのを確認してから、肩を鳴らした新条が言った。
「さて、俺達も加勢しようか。この暑さだ、手早く片付けないと干上がってしまうぜ」
「そうだな。とっとと殲滅して帰還した方が良い」
 ライフルを担いで、井筒は表情を引き締めた。
「‥‥久遠」
 まだ車の去った方角を眺めている刻環の背に奏歌が声をかける。はっとしたように前に向き直った彼女は首を振った。
「‥‥今、行くわ」
 どうか、無事でありますように。
 そう心の中で祈って、刻環は前に向き直った。


 降下した鷲を蝉時雨の唾で叩き落とした石動は額に浮かんだ汗の玉を拭った。予想以上に暑いせいで体力の消耗が激しい。
 一度刀を下ろした所で、ようやく通信機が動いていることに気がついた。
「ゲリラ兵の救出は成功。今からそっちへ向かうよ」
 新条の声に石動はほっと息を吐く。すぐさま、近くにいた仲間に伝えて陽動班の全員に情報を行き渡らせる。
「ゲリラ兵は無事か。よかったの。これでわらわたちも、ぞんぶんに動けるというものじゃ」
 蜂型キメラを叩き落とした正木が言った。隣で水分補給をした桂木が息を吐いた。
「そうだな‥‥こう暑いと、力が思うように出なくてね」
 言いながら近づいてきた鷲に電磁波を直撃させる。翼を失ったキメラが砂の上に落ちた。
 陽動班はその役割を存分に果たしていたが、敵を攻めあぐねていたのも事実だった。数を減らすことは出来ているが、獅子まで届いていないのだ。
 だが、救出班が加わったことで戦線は元の勢いを取り戻しつつあった。
 最初に獅子まで到達した絶斗と佐賀は左右に散り、固まっていた獅子を一匹ずつ引き剥がしにかかった。集団最奥に位置するライオン五頭は、敵を視認すると誘われるように動き始めた。そして、そのまま砂を蹴ってこちらに突進してきたのである。
「さあ‥‥本気で行くぜ!」
 斧を振り下ろした絶斗は両拳を突き合わせた。その身が白銀に輝き始める。
 飛び掛かってきた獅子の牙を躱して、死角に逃れた絶斗はキメラの横っ面に渾身の一撃を叩き込んだ。ぎゃん、と悲鳴を上げて一度離れた獅子には、瞬天速で間合いを詰めた石動が刀を抜いて懐に飛び込んでいる。
「やっ!」
 声を張り上げて石動が蝉時雨を横に薙いだ。そのまま勢いに任せて上空へ獅子を斬り上げる。堪らず獅子は仰向けになって空を舞った。
「良いフォローだったぜ」
 にっと笑った絶斗が砂を蹴って跳躍した。剥き出しになった獅子の腹を組んだ拳で殴りつけて地面に叩きつける。砂塵が巻き起こり、獅子の体が砂に沈んだ。
「わしらも負けてられんでよ」
 別の獅子の足を撃ち抜いて体勢を崩した佐賀が言った。その脇を仄かな光を纏った正木が駆け抜けた。
 迅雷で獅子までの距離を一息で無くした正木は細身の剣を目にも留まらぬ速さで十字を刻んだ。振り返り際に獅子の顔を蹴りつける。
「ほう。ライオンの顔はぞんがい、やわらかいのう」
「なら、肉はあまり無さそうだな」
 冗談交じりに呟いて、佐賀は貫通弾を小銃に装填した。腕を上げ、照準を獅子の脳天に合わせて引き金を引く。勢い良く飛び出した弾は寸分の狂い無くキメラの額を撃ち抜いた。ぐらりと獅子の立派な体躯が傾き、眠るように砂上に倒れた。
「少し時間がかかってしまいましたね。一気に決めたいところです」
 錫杖に持ち替えた楊が汗を拭いながら言った。その彼の杖に虹色の光を飛ばして強化を施した桂木は息を吐いた。
「そうだな、早く片付けてしまおう」
 彼らの向かいには飢えた獅子がこちらの様子を窺っていたが、一声吼えるや否や楊に向かって牙を剥いて飛び掛かってきた。
 鋭い爪を杖で受け止めて、楊は力任せに獅子を押し返した。相手が怯んだ隙に、杖の先で砂を掻き上げてキメラの目に投げつける。一瞬ではあったが、視界を奪われた獅子に、楊は素早く走り寄った。
「桂木さんっ!」
 本を掲げた桂木である。刹那、獅子の周りに電磁波が発生した。足止めを食らった獅子は唸りながら後退する。
 その動きを狙っていた楊は、脇を走り獅子の死角に回り込んで背後から錫杖で強襲したのである。地面に叩きつけるように杖を振り下ろし、獅子の頭蓋を砕く勢いで殴りつける。獅子の体がバウンドするように一度宙に浮いて落ちた。
 息を吐いた楊は、そこで遠くに何か黒い物が見えることに気づいた。事前に探査の眼を発動させていた彼だからこそ気づいたのかもしれない。
 それが何であるか、察しのついた楊は後方に回っている井筒達に無線機で連絡を取った。比較的近距離のせいか、声がよく聞こえる。
「楊江です。黒い集団がこちらに向かっています」
「了解した。こちらも今確認したところだ。後ろは私達に任せて、君達は獅子と、蠍を頼む」
 通信を切った楊の視界の先で、黒い塊がゆっくりと蠢いた。


 蠍の集団は意外に俊敏な動きで彼らを挟撃しようとしていた。二手に分かれた蠍と対峙した刻環は、残っていた蜂を銃で撃ち落とす手を止めた。もうここからでも集団は確認できる。
「‥‥貴方達が来るのね。虫は嫌いよ、何を考えているか表情が判らないもの」
「一度‥‥高いところに行きましょう。上から撃ち込めば‥‥毒を回避できるはずです」
「そうだね。左右に分かれてこっちも挟撃しよう」
 奏歌の提案に頷いた新条は彼女と共に右の隆起に登った。刻環は左の隆起に、井筒はやや陽動班に近い後方に陣取った。
 間もなく、ぞろぞろと不気味な音を立てて蠍が彼らに奇襲をかけてきた。その数、二十は軽く超えるだろう。ちょっとした黒い塊が向かってくるのが見える。
 先手を打ったのは井筒だった。奏歌が強化を施した銃を構え、遠方から集団に弾幕をぶつけたのである。それを合図に、左右に散った仲間達は追撃を始めた。
 新条は強力な電磁波を集団の中央部に発生させた。ど真ん中の蠍がいきなり上空に叩き上げられる。砂塵が巻き起こって、派手な爆発が起こった様に見えたことだろう。
 一時的に動きの鈍った蠍を奏歌が強襲した。超機械の出力を限界まで高め、凝縮された波動を中央に向けて一気に放出したのである。
 ぽっかりと穴の空いたような陣形に崩れた蠍の後方に、刻環が素早く移動し、片っ端から刀で切り飛ばた。毒を受けないように最小限の動きで大量の蠍を倒していく。
 前後、上からの怒濤の攻撃に耐えられる防御力を蠍が持つはずがなく、予想よりも早く後方の集団は壊滅状態に陥ったのである。


 陽動班にも蠍の集団が襲いかかっていた。獅子の相手は正木に任せ、銃を持つ佐賀は、楊と桂木と共に蠍の迎撃に向かった。獅子の脇をすり抜け、その後方から迫ってきた黒い集団を片っ端から撃ち抜いていく。背中に隙ができるが、獅子と残った蜂や鷲は仲間が片づけてくれるはずだ。
「あんたも援護に向かってくれ。こいつは俺一人で十分だ」
 腕を振り下ろした獅子の顔を蹴りつけた絶斗は背後の石動に言った。流れで獅子の鼻っ柱に拳を叩き込んだ彼は上空を飛ぶ鷲を親指で指す。
「あの鳥野郎が邪魔だから、潰してくれると助かる」
「分かりました。鳥と蜂は任せて下さい」
 微笑んだ石動は銃に持ち替えて、遠距離から鷲と蜂の残党勢力を撃ち抜いた。
 彼女が遠ざかると同時に、絶斗は獅子に向き直った。口から血を吐くキメラに、彼は一足で距離を詰める。懐に潜り込まれた獅子が慌てて飛び退こうとしたが、既に遅い。
「一発‥‥それがお前の破壊へ至るまでの回数だ‥‥」
 そう言って、獅子の腹を抉るように強烈な拳を叩き込んだ。飛ばされた獅子は、隆起した岩肌に叩きつけられる。
 反対方向では、楊が錫杖で獅子の攻撃を受け止めていた。
「く‥‥っ」
 大きく開いた口に杖を食い込ませて、そのまま蹴り飛ばす。後退したキメラの額に持ち替えた銃口を構えた。
 獅子が錫杖を噛み切ってしまう前に、楊は小銃を斉射した。銃弾を一身に受けて、獅子の体がよろける。口から落とした杖を取り、彼は獅子の首にそれを振り下ろして留めを刺した。
「獅子の殲滅は完了しました。そちらに援護に行きます」
「助かるのう。こやつら、面倒じゃ」
 蠍を一匹ずつ丁寧に斬りつけている正木が言った。隣では、佐賀が弾幕を張って進行を食い止めている。桂木は皆に練成強化をかけ、自身は一歩下がった位置から電磁波をぶつけていた。
 やがて、佐賀の攻撃によって蠍の集団が左右に分かれ始めた。それを見た彼は声を張り上げた。
「一気に突っ込むでよ!」
 動いたのは残党を片付けていた石動だった。刀を握ったまま、蠍の集団へ瞬天速で詰め寄る。大きく得物を薙ぐことで、数匹の蠍を斬り飛ばしたのである。
 もう一方では、桂木が電磁波で集団をまとめ、正木が剣を振るって集団ごと斬りつけた。小さな蠍が何体も宙を舞う。
 左右からの激しい攻撃で、厚い砂煙が巻き上がった。まるで嵐のように立ちこめた砂塵が止む頃には、蠍の集団は散り散りになり、地面に潜って逃げたもの以外は殲滅されたのである。


 無事帰還できたゲリラ兵達は、彼らが帰ってくるのを見ると諸手を挙げて喜び、深い感謝を示した。
 奏歌が開いた注射器で採取した蠍の体液は、早速解析に回され、近い内にワクチンの開発が進められるとのことだった。
「お兄さん‥‥無事で、良かったね」
 兄の世話を甲斐甲斐しくする少年に刻環は微笑んだ。こうして血縁者が傍にいることは、戦場においては何よりも心強いはずだ。
「ふー‥‥それにしても、暑かったね」 
 幸い兵士の詰所は比較的涼しい。汗を拭った新条はほっと息を吐いた。兵士から受け取った水を差しだした石動も苦笑している。
「外が外だけに、余計に涼しく感じますね」
「じゃが、気が抜けて水すらのどを通らんわ」
 溜息をついた正木はコップを置いた。
 彼女の言う通り、皆、喉は渇いているのだが今は安心感の方が勝っていたのだ。
 ここを出ると、またバグアとの戦いが待っている。
 だからこそ、この安堵感に浸っていたい気もするのだろう。
 後もう少しだけ――そう思いながら、彼らはそっと目を閉じた。
 まだ、アフリカ戦線の激闘は続くのである。

END.