タイトル:【JT】教官を撃て!マスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/16 16:41

●オープニング本文


 ここはカンパネラ学園、グランウンド。今日も生徒達の訓練を指導し終えたジャック・ゴルディ(gz0333)は棒針を膝に置いた。気温が上昇の一途を辿るこの季節に編み物をしている男など、珍しいことこの上ないのだが、今回の訓練は生徒の自主性に任せていたので、教員である彼は暇だったのだ。
 バイク好きで知られる彼は、編み物が趣味という謎の一面があった。毛糸からレースまで、とりあえず何でも編む。編んでいる最中に声をかけようものなら鉄拳が飛ぶくらいの編み物好きである。
 特に何を作るでもなく、ガーター編みをしていたジャックの耳に、ある生徒の声が聞こえてきた。
「あー‥‥KVに乗りたいなー」
「だなー‥‥地上戦ばっかりで飽きるぜ」
 平静を装いながら、今にも棒針を二つに割りそうになったジャックである。ぷるぷると震えている彼は、傍目から見れば怒っているようにしか見えない。
 だが、彼は燃えに燃えていたのである。
「KV、な‥‥やってやろうじゃねえか‥‥っ!」


 翌日、急遽訓練メニューを変更したジャックは、広場の一角に生徒達を集めた。生徒、といってもそこら辺を歩いていた人を手っ取り早くかき集めただけなのだが。
「よしっ! 今日の訓練はKVだ。乗れば分かるから乗ってみろ! とりあえず、グリーンランド近くの海上まで行くぞ」
 行くぞ、と言われても困る。駆け足! と促されて地下の格納庫まで走る間、最後尾を行くジャックは大声で訓練内容を言った。
「今回は空中戦だ。えーと、そうだな、腕の立つ奴、ちょっと手を貸せ!」
 今考えてないか、訓練内容……。KVの操縦経験のある生徒達はげんなりした。まあ、いつものことだけども。
「で、だ。腕に自信がない、あるいは初搭乗のやつらは、俺と先輩達を撃ち落とせ」
 えええ、と走る彼らは声を上げた。撃墜したら死ぬんじゃないかと誰もが思ったが、走っているのでそこまで舌が回らない。
 彼らの言わんとするところを悟ったのか、ジャックは更に声を大きくして叫んだ。
「大丈夫だ! 訓練にはペイント弾を使う。それなりにダメージは食らうが、墜落の心配は無いとだけ言っておくぞ!」
 地下の格納庫へ入る。
 そこには、空での彼らの相棒が静かに出番を待って佇んでいた。

●参加者一覧

伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
武林虎太郎(ga4791
13歳・♂・GP
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
三枝 雄二(ga9107
25歳・♂・JG
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
秋津玲司(gb5395
19歳・♂・HD
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC
白咲 澪(gc3075
13歳・♀・SF
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

 グリーンランド付近の海上。風も無く、快晴で視界はいつになく開けている。よくもここまで天候の良い日を選んだなと思いながら、生徒達はそれぞれの愛機に乗って上空で待機していた。
「おーし、訓練を始めるぞ。はい、今からな!」
 適当この上ないジャック・ゴルディ(gz0333)の号令と共に訓練は事実上開始した。


「ドラゴン1より各機、敵は熟練者ぞろいだ、敵はKVではなくバグア軍のエース級だと思え、その心構えで五分だ」
 味方側――つまりジャック機を狙い撃つ側の通信に伊藤 毅(ga2610)の声が流れる。不利をひっくり返してこそ、真のKV乗りであると力強く言う。
「ドラゴン1、先輩、怖がらせても仕方ないっすよ? 2より各機幸い命の危険は少ないっす、胸を借りるつもりで突っ込んでいくといいっす」
 聞いていた三枝 雄二(ga9107)は肩を竦めて言った。そう、全ての装備が模擬戦仕様になっているのなら、突撃することを躊躇う必要は無い。そうでなければ、実弾真剣で戦う実戦において臆することなく行動することなど不可能なのだ。
 頷いた彼らは素早く陣形を組んだ。伊藤と三枝を前衛に配置し、遊撃手として武林虎太郎(ga4791)と白咲 澪(gc3075)、援護に秋津玲司(gb5395)、更に遠距離攻撃を主体とする最後尾にはハーモニー(gc3384)がついた。
「私が何とかして穴を開けます。突撃機は突破口が開け次第、教官機を強襲して下さい」
 操縦桿を握った白咲が言うなり長距離バルカンを乱射した。左に逸れて機体を傾けながら、更にホーミングミサイルもばらまく。壁のように並んでいた敵軍の機体がばらばらになり迎撃を始める。一拍置いて、海上に轟音が木霊した。
 敵機が動き出したところで、武林も動き出した。敵軍である吹雪 蒼牙(gc0781)の斉天大聖が見えたからだ。
「さて、がっつりやるぜ」
 翼の一角を担うように、武林は右に機体の頭を向けて、友軍から距離を置いた。
 ハーモニーは現状維持を示し、しっかりとレーダーに映るジャックの機体の動向を睨んでいる。その前に位置していた秋津のロングボウIIは左にやや位置を変え、真正面に位置するAnbar(ga9009)機をじっと見つめている。
 全員の位置が確定した段階で、伊藤は操縦席に腰を据えながら頷いた。
「ドラゴン1、エンゲイジ」
「了解、フォローは任せてください!」
 応じた三枝と殆ど同時に、伊藤はブーストを使用し一気に加速した。敵陣の中へ、一気に突っ込んでいく。遅れて三枝も加速し、彼の後を追うように突撃を始めた。


「来たな、行くぞ」
 中衛の位置で待機していたリュイン・カミーユ(ga3871)とAnbarは同時に動いた。さっと左右に散開し、白咲の放ったバルカンを片っ端から相殺する。
「僕も行こうかな。それじゃあ、教官。よろしくお願いします」
 第一撃となる弾幕が晴れたところで、軽く敬礼して教官機を振り返った吹雪が動いた。左に逸れて20mmバルカンを斉射した。迎え撃つ武林機を追い回すように撃ち続けて、今度は踵を返して後方に下がる。
 そこへ、最後まで様子を見つめていた最上 憐 (gb0002)がライフルで照準を微調整した。
 丁度前方にあった友軍機が全て無くなり、一見ジャックの機体が孤立したように見える。そこへ強襲してきた伊藤、三枝両機に向けて、ライフルを発射したのである。
 一直線に伸びた砲撃の跡が生々しく残る間に、敵機が散開して遠ざかるのが見えた。すぐさま機体を横にずらして第二撃を撃ち込む。この間に無駄な動きは一切ない。
「‥‥ん。流石。新型機。殆ど。手を入れてないのに。良い動きをする」
 息を吐いた最上は、そっと操縦桿を撫でた。
 序盤から戦闘は苛烈を極めた。お互い全く出し惜しみしない状況である。あらゆる手法を用いて、全力で敵を倒しに来ている。
「ほう。なかなかだな‥‥だが、我にも意地がある」
 ロッテ戦法を試みているリュインは、Anbarの取り逃がした敵機に照準を合わせ、D−02で狙撃した。長距離射程の攻撃だ。一機が避けても後ろまで届く。
「わっ!」
 慌てて避けたハーモニーの隣を砲撃が掠める。不自然に右に避けたハーモニーは、咄嗟に機転を利かせ、ピアッシングキャノンを乱射した。これが功を奏したのか、敵機はそれ以上近づいてこない。
「大丈夫か?」
 一度後退した秋津から通信が入る。大丈夫です、と返してハーモニーは体勢を立て直した。
 そこへ、味方陣営に食い込んだAnbar機が突撃をかけてきた。試作型G放電を使用して一気に畳みかける。
「さ〜て、どうする。怒濤の攻撃を防ぐには数が足りないぜ?」
「ちっ」
 舌打ちして機関砲ツングースカを投射した秋津の攻撃を躱して、Anbarはスラスターライフルで秋津の機体を狙撃した。砲撃は左翼を掠めていく。
 一方の電磁場は、秋津ではなく、その更に後方のハーモニーの周辺に発生していた。これでは間に合わない。
「援護を‥‥!」
 ブーストを使用しようとして叫んだ白咲の進路を阻むように、リュインの試作型スラライが幕を張る。舌打ちした白咲は仕返しにホーミングミサイルを放った。これらを撃ち落としたリュインは、追ってくる白咲の機体に笑いかけた。
「そうそう。簡単に援護に行かれても困るからな」
 上手く友軍を狙いのハーモニー機から引き離したリュインだったが、刹那、機首を返したのである。彼女の愛機の翼を掠めて、砲撃が直進した。翼に真っ赤なペイント弾が付着する。
「俺が居ること、忘れてもらっちゃ困るぜ!」
 弾幕で発生した煙の中から現れた武林がリュインに奇襲したのである。攻撃を逆手に取った彼は、その中から彼女に長距離バルカンを放ったのだ。リュインが応戦しようにも、すぐに射程外まで逃げてしまう。
 武林はそのままハーモニーの側まで行き、電磁場を発生させようとしていたAnbar機に牽制のようにバルカン砲を乱射した。体勢を崩しかけていた秋津も息を吹き返し、同時に彼を強襲する。
 流石に攻撃を捌ききれなかったAnbar機の機足にもペイント弾が被弾する。
「一度下がるぞ、Anbar」
「了解」
 リュインの張った弾幕を合図に、Anbarは一旦戦線を離脱した。
 ほっと息を吐いた秋津は、レーダー上で徐々に動くハーモニーの機体を確認して頷いた。
「まだハーモニーさんを墜とさせるわけにはいかないもんな」
 そう言った武林に、彼は口角を上げた。
「あとは彼女次第だ。私達はこのまま、あの二機の相手をするぞ」


 前線では吹雪と最上が必死に敵を食い止めていた。相手は伊藤と三枝という強力な二人だ。だが、ここで食い止めなければ後ろはジャックの機体だけなのである。
「うーん、ちょっとピンチだけど‥‥簡単には行かせないよ?」
 20mmバルカンを乱射して伊藤機を攪乱していた吹雪は、最上の接近と同時に機首を返してジャックの直衛に戻る。
「‥‥ん。良く。ここまで。来たね。とりあえず。弾幕の。プレゼントを。あげる」
 入れ替わった最上がファランクス・アテナイとファランクス・ソウルを併用した弾幕を張った。想像以上の弾数に突っ込んできた伊藤の機体が数発喰らう。機内に非常事態を告げるアラーム音が響いた。
 だが、経験上焦ってはならないと知っていた伊藤は、努めて冷静に背後の仲間に告げた。
「ドラゴン1、被弾。ドラゴン2、挟撃体制に移行する」
「了解。伊藤先輩、大丈夫っすか?」
「戦場に比べれば微々たる負傷だ。それよりも、今は作戦の成功を考えろ」
 後退した伊藤と入れ替わって飛び出した三枝は、弾幕の届かない距離までオーバーブーストで一気に飛んだ。伊藤は反対側へ移動して挟撃の体勢を取る。
「‥‥ん。蒼牙は。負傷機を」
「了解。教官、あれってまだ生きてる扱いですよね?」
久しぶりに通信が入ったのか、暇そうなジャックの声が返ってくる。
「そうだな。元気そうだし」
「良かった。なら、墜としてきます」
 微笑した吹雪はブーストを使用して最上と入れ替わるように横一線に飛んだ。
 迎え撃つフェニックスは、負傷してもなお力強い姿を見せている。ほう、と息を吐いた吹雪は通信の通じない相手に頭を下げた。
「格好良い機体だなあ。それじゃ、よろしくお願いします」
 伊藤と向かい合った吹雪は、早速20mmバルカンを斉射する。ひらりとこれを躱した伊藤は十六式螺旋弾頭ミサイルを放って、マシンガンで撃ち抜いた。防護壁代わりの弾幕だ。
 もくもくと広がる煙の向こうで、斉天大聖の機影が映る。刹那、煙を割って飛んできたミサイルを避けて、伊藤は一度距離を取った。
 その背を、ハーモニーの機体がさっと通り過ぎていく。機内で敬礼した伊藤に、彼女も敬礼を返す。
「頼むぞ」
「大事な役目ですが、きっと楽しいはすです。楽しくないことに意味はありませんから」
 弾幕が晴れる頃には、ハーモニー機は斉天大聖の視界からは消えていた。
 反対方向では、最上と三枝が強烈な攻撃合戦を繰り広げていた。最上がファランクス・アテナイを斉射すれば、三枝はAAMを叩き込む。この状況下でどちらも一発ずつしか被弾していないのだから大したものだ。
「なかなかやるっすね。でも――」
 マシンガンを乱射した三枝は同時に機首を傾けて高度をぐっと下げた。追った最上の腹を狙って、ミサイルを放つ。
「‥‥ん。予測済み」
 躱した最上は水平に機体を保ち、フォトニック・クラスターを起動させた。強烈な光波が三枝のフェニックスを強襲する。相手が怯んだ隙に同じ高度まで落ちた最上がスナイパーライフルで狙撃した。
 僅かに翼を掠った三枝の機内に警報アラームが鳴り響く。それを無理矢理切った三枝は不敵に笑ったものである。
「流石はペインブラッドってところっすね。でも、これだけ離せば充分っす」
 吹雪は伊藤が、最上は三枝が引きつけることは、目当てであるジャック機の直衛が剥がれたことを意味する。距離から考えてリュインやAnbarが護衛に戻ることは難しいだろうし、何より彼らの迎撃をするのは武林と秋津、そして白咲の三機である。
 これで良い。
「行け、ディアブロッ!」
 AAMの残弾を残らず発射した三枝は叫んだ。


 味方側の彼らは初めから、ハーモニーに奇襲を任せていた。KVに乗って初めての戦闘である彼女を最後の一手として用意したのである。敵機を友軍でマークすることで彼女への注意を逸らし、安全にジャック機の背後まで彼女を送る。弾幕を何度も張ったのは、彼女の行き先を相手に気取られないようにするためだ。
「行きます。精一杯、楽しんできます」
 そう言って、ハーモニーは牽制としてスナイパーライフルを放った。砲撃はジャックのすぐ下を通っていく。
 突如ジャック機の背中を強襲したハーモニーに敵軍は我が目を疑った。いきなり本丸を奇襲されたのだ、驚くなと言う方が無理だ。
 即座に距離の近かった吹雪がハーモニーの迎撃に向かおうと機首を返したが、追ってきた伊藤がミサイルを放って足止めをする。
 一方で、中距離にいたリュインとAnbarにも戦慄が走った。すぐさま防衛体勢に入ろうと行動を開始する。だが、
「行かせるか」
 操縦桿を倒した秋津がミサイル誘導システムを作動させて、遠ざかるリュインの機体へミサイルを放つ。これを躱したリュインが応戦しようと向きを変えたところへ、背後から武林がレーザー砲を放った。
「くっ‥‥」
 舌打ちしたリュインを庇うようにAnbarが機体を割り込ませる。しかし、そこへ挟み込むように白咲の機体が突撃をかけたのである。
「ここから先には行かせませんっ」
 長距離バルカンを乱射した白咲の攻撃を捌くので手一杯で、Anbarも教官機の護衛に向かうことが出来ない。
 友軍は、完全に封殺されたのである。
 一撃目を外したハーモニーは即座に照準を定め直し、ピアッシングキャノンを斉射した。それほど命中率が良くない武器だが、充分に近づいたこの距離からなら当たるはずだ。
 ジャック機は素早く機首を返したが、やや対応が遅れた。砲撃が僅かに翼を掠める。ぐらりと機体が傾き、バランスを崩した。
 そこへ、とどめと言わんばかりにハーモニーのライフルが強襲したのである。流石に捌き切れなかったジャックの機体に、ライフルは命中してペイントが機体の頭に広がった。
「おー、当たっちまった」
 実戦ではおそらく聞けないであろう、教官の間延びした声が全員に伝わった。
 それを聞いていた三枝は座席に深く座って、ゆっくりと息を吐いた。
「教官機への命中弾確認。俺達の勝ちっす」


 模擬戦後、敵軍に回った人々はジャックのカレー作りに駆り出され、残った人々は食堂でカレーを待ちながら伊藤と三枝が中心となってデブリーフィングを行っていた。
「えーと、ここで対応しきれなかったのが、後に響いてるっすね、ただ、ここのフォローで持ち直しているっす」
 色々と三枝が解説しているのが見える。途中で秋津が口を挟んだり、武林がカレー調理班を見やったりしている。
 一方、カレー作りを手伝わされている彼らは、野菜を刻んでいた。
「うむ、負けはやはり悔しいな」
 リュインは皆が刻んだ玉葱を鍋に入れながら呟いた。空いた左手でカレーのルーを砕く。
「教官教官、この位で良いですか?」
 煮だった人参を串で刺して言った吹雪である。隣の最上は早くも白米を食べようとしてAnbarに止められていた。
 出来上がったカレーはかなりの量だったが、腹を空かせた彼らにとっては足りなかったようで、急遽ジャックが追加を作る羽目になったほどだった。
「ごはん、美味しいです」
 黙々と食べる白咲は何杯目かのおかわりを頼んでいる。激辛が良いと言ったリュインは、ブート・ジョロキアを練り込んだカレー粉で作ったカレーを平気で平らげていた。功労賞を貰ったハーモニーや、他の仲間にあげては反応を見ている。
 かくして、今日もジャック・ゴルディの訓練は美味料理で締めくくられたのであった。

END.