●リプレイ本文
「今回は5人も集まっていただいて、ありがとうございます」
副部長がペコリと頭を下げる、参加した傭兵達は準備をしながら耳を傾ける。
「順番としては、部長組、米本さんと最上さん、最後に旭さんと絶斗さんの組ですね‥‥とはいうものの、すでに戦闘したくてうずうずしてる人がいますから、早速開始しましょうか」
□見切るは刹那の間
「藤村だ、今回はよろしく頼む」
「うむ! 手加減等は無用だ!」
藤村 瑠亥(
ga3862)と部長がリングの外で対峙する。藤村は敵の武器――とはいえ、AUKVの拳であったが――を見て、確信する。
「(全て‥‥回避してみせる)」
「では、開始っ!」
女子生徒がゴングを鳴らすと同時に部長は真っ直ぐに藤村へと突進を開始する。対する藤村は‥‥動かなかった。
部長がAUKVのローラーを駆使し、正拳突きをダッシュしながら繰り出すが。身をよじっただけで軽く回避する。
お互いに体制は崩れていない、逆の手でフック・ジャブと出すものの、紙一重といえる距離でのスウェーにて回避される。
「(相手の行動が小さければ小さく反応、大きければ大きく‥‥)」
「ぬぅ、受け止めはしないか、ならば!」
部長は、体が前に進むような攻撃、ストレートの後には左足のハイキックなど、どんどんと前に進んでいく。
藤村は難なく避けていく‥‥が、傍目からみると、どんどん追い詰められているように見える。
「(まだだ‥‥もっと引き付けろ)」
集中、回避、集中、回避、発行する赤い目が敵の行動を的確に、次第にゆっくりと捕捉していく。
眼前には部長の拳。
「(10cm‥‥)」
相手の腕の長さまで読み、目の前でピタリと止まる。その腕を引くようにして部長の重心が落ちていく。
「(アッパー‥‥)」
読み通りの下から突き上げるような攻撃、さらにそこから右足の後ろ回し蹴りが来るが藤村にはその行動は全て見えている。
「(9cm‥‥6cm‥‥)」
眼前を通り過ぎる足の後ろから小太刀を浴びせ、相手の行動を崩すと同時に攻撃をする。
「ぬぐぅ、当たりそうであたらんのう!」
「まだだ‥‥まだ足りない‥‥」
藤村は自分の心の中にいる『奴』を思い出しつぶやくが、部長にはそうは聞こえなかった。
「ならば、ここからは全力じゃい!」
部長が構えると、全身よりスパークが出始める。そのまま跳躍すると、藤村へ向かってのとび蹴りを繰り出す。
無論危なげなくバックステップで回避する藤村だが、そこから着地と同時に大きく振りかぶる右ストレートが出される。
「(4cm‥‥次は髪に触れさせ‥‥!)」
藤村の視界には部長のモーションは無かったが、それは『予想以上に視界に大きく写る部長の姿』を知覚するのが精一杯だった。
右ストレートは囮で、そのままの体勢でローラーダッシュによる体当たり、それが部長の本命だった。
次の攻撃を見切ろうと集中していた藤村だが、見えない密着距離での攻撃は避けれなかった。
さらに、藤村は相手のスキルには注意をしていなかった、『竜の咆哮』によりただの体当たりは藤村が吹き飛ぶほどの威力を与える。
「(くっ‥‥油断したか!)」
10mもの距離を吹き飛ばされたが、幸いにして途中に障害物はなく、受身を取り相手を見る。
「ようやく当たったのう‥‥だが、俺の負けだのう」
藤村が何事かと思い部長を見ると、AUKVの動きが明らかに遅い、そのまま装着を解除するところを見ると、錬力切れのようだ。
「スキル全開でやらんと勝てんと踏んだが、まさか最後の最後まで当たらんとはなぁ」
「確かに、パワーはある。だが‥‥ある友人の方が、もっと酷いぞ‥‥!」
「ぬぐぅ、まだまだパワーが足りんか‥‥よし、明日からはさらに筋トレじゃのう!」
それよりも命中率をなんとかしたほうがいいんじゃないか、と思う副部長はため息しかでなかった。
□昨日の友は、今日の敵
「いやはや‥‥少々楽しみと言えばちょっと子供っぽいですかね?」
「‥‥ん。タケシとは。一度。戦って。みたかった」
軽く笑みがこぼれてしまう米本 剛(
gb0843)と、無表情ながらも最上 憐 (
gb0002)楽しそうだ。
元同じ小隊に所属し、肩を並べたこともある仲間であれば、お互いどちらが強いか、手合わせを行いたくなるものだ。
女性との戦闘はあまり好きではない米本も、今回は訓練ということで全力であたる。
「全身全霊を以て‥‥参ります!」
「‥‥ん。お腹。空いて来た。私が。負けなかったら。カレー。奢ってね?」
それは、最上が覚醒を始めた事を表し、その直後には試合開始のゴングが鳴り響いた。
赤いマントとウサミミを翻す兎と、コートと硬い『甲羅』を纏う亀の、長い戦いが始まった。
「‥‥ん。先手必勝。突撃。突貫。突入」
先手を取ったのはやはり速度に自信がある最上だ、自分の身長よりもはるかに大きい大鎌を短く持ち、瞬天速を駆使してすれ違い様に切りかかる。
あまりの速さに攻撃は見えず、まるでカマイタチのようだ。米本も装備の固い部分――主に強化したガントレットや装甲――にて攻撃を受け止める。
冷静に、攻撃の瞬間を見切り、攻撃をしようと考えているものの、攻撃の瞬間にはもう目の前から消える、そんな錯覚すら覚えてしまう。
「‥‥ん。タケシの。鉄壁の。防御。私の。俊敏さで。崩す」
足元には装甲が比較的少ない、そう判断し最上は足元ばかり狙う。米本も大太刀を下げ防御に専念するが、そこから反撃には持ち込むことができずにいた。
「‥‥ん。この。身長差だと。足下は。意外と。守り難い」
「‥‥このままではまずいですね」
相手に動き回らせてはいけないと、少しずつコーナーへと移動をする米本、ようやく視界の中からしか攻撃が来なくはなるものの、まだまだ相手の速度は尋常ではない。タイミングを見計らい、全力の攻撃を繰り出す。
「吹き荒べ‥‥剛双刃『嵐』!」
大太刀2本を軽々と振り回す、まさにその様は嵐の如し、全身和風の鎧や武装にそろえられた米本が暴風を巻き起こす。
カマイタチの発生源を吹き飛ばすように繰り出される暴風だが、数発は避けられたものの、相手に受け止めさせることはできた。
ただの数度、受け止めるだけでも腕が痺れ、全身が鈍くなっていくような感覚に陥る。
叩きつけられるようにして振り回されるような刀の嵐に、最上は突っ込んでいくのは無謀と判断、相手との距離をとる。
「‥‥ん。私は。コッチ。鬼さん。手のなる方に」
距離を取り、そう言い放つ最上だが、それ以外に手が無いという現状を示してもいる。
――米本がここで銃器を持っていれば流れは変わったかもしれない。
コーナーを背にしているものの、相手もこちらも武器は接近戦の武器のみ。
相手はコーナーに近寄る気が無いとなれば、決着をつけるために前にでるのは必至。
意を決し最上へと走る米本、コーナーから離れると見るやまたも俊足を生かして機動戦を開始する最上。
しかし米本は冷静に、冷静に相手の行動を観測、次に攻撃にくるタイミングを予測した。
「我流‥‥剛速刃!」
隠し持っていた機械刀を抜刀術の要領で抜き放す米本、タイミングは完璧だった。そう、タイミングは。
「‥‥ん。突撃と。見せ掛けて。急停止‥‥隙あり」
今までの動きから、相手の急停止までを読むことはできなかった。大きく抜刀してしまい、かつ片手に機械刀をもっている現状。
最上の攻撃を受けるものは硬い装甲のみだったが、それも次第に削られていく。
体勢を立て直すために再度持ち替えた米本だったが、この後もカマイタチに装甲を削られてしまい、勝負には負けてしまった。
□過去の憎しみを超えて
「たまにはこういうのもいいよね」
装備の点検を終えた旭(
ga6764)は一人つぶやきながら、対戦相手の絶斗(
ga9337) をみる。
「この時を俺は待っていた‥‥あんたに復讐するこの時を‥‥!」
「復讐? 一体何の事だか分からないけれど‥‥本気のようだね」
さすがに命まで取ろうとはしていないだろうとは考えるものの、訓練という雰囲気ではないとみる旭。
『Awaking』
目の色が金になり、旭が覚醒、それと同時に絶斗はゴングを待たずに突進してきた。
「アサヒイイイイイイイイイイイイイ!!」
絶斗を知る旭はこの時点で異常に気づいていた、いつもよりも黒いオーラが多い事に加え、無口な絶斗が叫びなら来るのであるから。
絶斗の斧剣に対しガラティーンを押し当て、鍔迫り合いの状態となる。
「絶斗さん‥‥どうしたんですかっ!」
旭が話しかけるものの返答はない、まさに暴走という言葉がピタリとはまる状態のようだ。
力で押されると思い、旭が剣を弾くが、絶斗はさらに力任せに蹴りを繰り出す。
全力の蹴りをうけ、体が吹き飛ぶ旭だが、体勢をすぐに整える。
直後、二人は同時に銃を取りだし構える、躊躇や戸惑いも無く引き金を引く。
絶斗は射撃を避け、旭は手にもっていた巨大な盾に隠れる。そんなことはお構いなしと絶斗はまた斧剣をかかげ突進する。
「暴走しているようだから‥‥」
旭は盾の後ろで剣にまた持ち替え。
「とりあえず止めさせてもらうよっ!」
突進と同時にくる斧剣の縦斬りを盾で弾き、空いた胴に流れるように剣を滑らせる。
普通なら致命傷だが、武器が弱まっているおかげでなんとか立つことができる絶斗が、つぶやくように独り言をはじめる。
「本当は気づいてたんだ。あんたがやったんじゃないって‥‥だけど認められなかった。認めたら自分が負けた気がしたから。でも違うんだな。認めた時こそ、俺は本当に強くなれるんだ‥‥だから、認める。俺の過ちを」
「何か一人で納得したようだけど、問題解決ってことでいいのかな?」
背中より油断なく、剣と盾を構えながら旭は問いかける。絶斗の体からは黒いオーラが消えていた。
「さあ、ここからが本当の戦いだ!」
「‥これで僕も本気でやれる」
相手の暴走が止んだと見て、旭もさらに覚醒段階を上げ、体より青白いオーラが飛び散る。
『Speed Up』
斧剣を捨てた絶斗、再度構えた旭が、同時に消える。激しい衝撃波がそこかしこで巻き起こる、それはお互いがぶつかりあっている証拠であり、同時にどちらも1歩も引いていない状態を表す。
「旭先輩!」
「これで決着だ!」
――二人は『同時に武器を捨てた』。
絶斗は助走を付け空中に跳躍、最頂点でクルリと一回転すると足の周りに竜の顔のオーラが纏わり付く。
『Muximam Charge』
旭のOCTAVESが最大限にスキルによるパワーが溜まったことを告げる。
「技名をつけるなら‥‥そうだな‥‥」
飛んだ絶斗に背を向けると、全力のハイキックを繰り出す、対する絶斗は、そのままの勢いでとび蹴りを繰り出す。
『Smash Kick!!』
「サンダードラゴンキィィィック!!」
ぶつかり合う二人の蹴りが合わさった部分には、激しく閃光が飛び散り、その状態が一瞬続く。
吹き飛んだのは絶斗のほうだった。
□戦闘後
「コツは掴んだ、礼を言う‥‥」
藤村は部長と握手をしながら今回の戦いが有意義であったことを伝えた。
「‥‥ん。戦闘で。足は。要。だから。チクチクと。崩す」
「なるほど‥‥両の手は装甲にあるものの、足元は確かに装甲がすくなかったですな」
戦友である二人は、今後についても語りあっていた。‥‥目の前の最上は山より高いカレーにより隠れていたが
「‥‥ん。カレーはいいもの。飲み物。原動力。」
吹き飛んだ絶斗を起こすように手を握る旭は、絶斗に疑問があったようだ。
「後半から妙に手ごわかったけれど、何かあった?」
「俺を強くしたのは憎しみなんかじゃない‥‥友情だ」
何事なのかよくわからない旭であったが、いい笑顔を浮かべながら握るその手に感じるものがあった。
友情という名の、最大のパワーを。