タイトル:【LP】BEAT DOWN!マスター:藤山なないろ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/15 23:27

●オープニング本文


 中国は広い。この広大な土地の一箇所で大きく勝利したとしても、残る場所でも勝たなければ大勢は動かない。戦争の勝利だけではなく、補給拠点の維持や市民の不安の解消と、UPCの為すべき事は多岐に渡っている。
「‥‥で、手が足りない、‥‥と言う事ですか」
 状況を確認した孫少尉がため息をつく。穴埋めや何でも屋として使われる孫少尉の隊を当ててもなお、数自体が不足する事も多々あった。
「ラストホープへ連絡してください。手は早いうちに打たないといけない」
 今は、攻めるべき時。力の出し惜しみをする余裕は、無い。

●BEAT DOWN!
「今回の戦場は、ここ‥‥中国だ。国内はどの区域も、軒並み競合地域となっている。つまり‥‥」
「キメラがうぞうぞいるって事っすよねぇ」
「そう言うことだ」
 ある小会議室のデジタルなスクリーンに映し出されたのは中国国内の勢力図や多数の重要拠点。
 そして‥‥、
「なんすか? このライン」
 地図上の東のポイントから西のポイントへと、白光がスッと流れるように描かれた。
「あ、俺知ってる! これ、シルクローd」
 すぱんといい感じの音がすれば、言いかけた男の頭が目の前の長机に沈黙する。
「‥‥絹の道じゃない。これは、物資の道だ」
 描かれた白光ラインの東西の先端が一際赤く大きく光ると、拠点である事を示す様にその場所の名前が映し出される。
「ほんで、なんすか? 今回物資を輸送するだけの簡単なお仕事って聞いてたはずなんすけど」
 頭の後ろで手を組み、背もたれに体重を預けながら、隊員は隊長の答えを待った───。

 彼らは前回の大規模作戦時、友軍の部隊を救う為に自らの部隊が囮となった。
 戦場では、とっさの判断を求められる事も多い。
 それは彼らにとって、その時、その瞬間、最善と思い下した決断だったのだろう。
 だが‥‥結果、彼らは敵地のど真ん中に取り残され、孤立。
 幸運なことに救出の命を受けた傭兵達によって助け出されたものの、その後の活動は決して精神的に楽なものでは無かった。
 ───ジョエル率いる小隊は、無謀の代償に信頼を支払ったのだ。
 決してあの日の決断だけは後悔しなかった。
 しかしながら、傭兵として今までこなしてきたような重要な任務を請け負うことが出来ず、自らを持て余す日々を過ごしていた。
 今日、大規模作戦で傭兵の手が足りなくなるまでは。

「お上から通達で、今回中国国内で物資輸送の仕事を請け負うはずだったが‥‥予定変更だ。急な案件が入った」
 そう告げたジョエルが、手元のパネルを操作するとスクリーンに新たな画像が映し出される。
「今回の目標は、これだ」
 しばしの沈黙が訪れた後、一人の隊員が絞り出す様に口を開いた。
「これ‥‥なんすか」
 スクリーンには4枚の画像。
 それぞれの画像に1体ずつ、禍々しいというよりも神々しいとすら思える龍の姿が映し出されていた。
「ああ。龍の形をしているが、キメラだ」
 淡々と答えた後に、手元の資料を持ちあげて再度目を通しながら隊長はこう続けた。
「先程入った情報によると、件の物資輸送ラインの中央‥‥丁度この辺りの地点で輸送車数台が大破し、全員が死亡したようだ」
 先程から笑みの一つも浮かべず、粛々と説明を続けていたジョエルも、死亡という言葉に表情を曇らせる。
「これ‥‥結構デカくないすか。KVで戦う、とか?」
「生身だ。元々人手が足りていない上に、物資の輸送が本来の内容だったはずだからな。すぐ出撃可能なKVも今は現場付近にない」
 資料から目を離すと、俄に固まった様子の隊員らが見えた。
 どの隊員も「え、まじで生身?」と言った面持ち。長い付き合いだ、それくらい口に出さなくてもジョエルには解かる。
 それを一瞥した後、小さく息を吐いた。
「‥‥確かに、生身での戦闘は厳しいかもしれない。『当然』、上もそれを見通して、我々が『任務の遂行に失敗した場合を想定』し、該当地域の空爆作戦が先程準備段階に入られたそうだ」
 瞬間、隊員達の眉が寄った。
「‥‥あれ? 俺ら、失敗する前提っすか」
「ま、そうっすよね。前回の大規模作戦で、密林のど真ん中に取り残されましたし」
 こめかみに筋が浮かびそうな良い『笑顔』で、彼らはその手に次々と愛用の武器を握っていく。
 気付けば、隊員たちはいつでも戦場に出られると言った面持ちで、ジョエルに視線を向けていた。
 どうやら、彼らの導火線に火をつける事が出来たらしい。
「後続の車両が事件の様子を捉え、すぐ引き返したようだが‥‥どうやらそれを追って,西の拠点に龍が接近しているらしい」
「それって、このままだとKVが来る前に拠点が潰されちゃうんじゃないすか」
「その可能性は大いにある」
「じゃあ、いそがなきゃじゃないすか!」
 どんなに無鉄砲で、単純で、それ故に時折軽率な行動を起こしてしまっても‥‥ジョエルにとっては愛すべき仲間たちだ。
 どんな作戦に当っても、彼らの命は必ず守る。
 そして‥‥叶うことならば、この真っ直ぐな部下たちの名誉を、少しでも守りたい。
「‥‥空爆までの準備時間を稼げなんて小さいことは言わない。俺達の手で、殲滅するぞ」
「「「ラジャー!」」」

 ───現場へ向かう高速艇の中。
 ジョエルと隊員達に加えて、そこには数名の傭兵達がいた。
 彼らはいずれも中国付近に訪れており、今回の緊急討伐作戦に名乗りを上げてくれた者たちばかり。
 ジョエルは、彼らに所持していた資料を手渡す。
「中国では龍は水や天候の支配者とされているらしい。バグアの連中が模して作ったんだろう。それぞれ面白い特徴を持っている」
 手渡された資料に添付された写真に写る龍たち。
 あるものは雷を、またある者は氷を口から吐き出していることが見て取れた。
 皆が資料に目を通し終わった頃、タイミング良く現場へ到着した事を知らせる放送が入り、隊員達も緊張した面持ちで起立する。
 ジョエルはその場の傭兵達に目礼すると、傍に建てかけていた鬼蛍を手に声を張った。
「いくぞ! ‥‥連中を、ここから先に進ませてはならない」

●参加者一覧

ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
アリス・レクシュア(gc3163
16歳・♀・FC
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
藤宮 エリシェ(gc4004
16歳・♀・FC
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

 脳筋【Noukin】
 「脳みそが筋肉」の略語。
 とても単純な行動しかしない者や、「全軍前進! 前進! 前進!」な者、また、体育会系を揶揄する言葉として使われることもある。
 生まれてくる際に、本来栄養が行くべき脳よりも、筋肉に栄養が偏った者の事を指す場合もある‥‥かもしれない。

●合言葉は『皆で脳筋』
 それは、高速艇が4体の龍を捉える以前。
「こんなに大勢の大きな男の人達とご一緒するのは初めてです」
 藤宮 エリシェ(gc4004)が、主にジョエル率いる隊の面々に視線をやり、ほわっと両手を胸の前で合わせる。
「エリシェが小さいこともあるが、俺も‥‥こんなに背の高い傭兵と仕事をしたことはない」
 生真面目に応えるジョエルは、微妙にエリシェの言葉とはあらぬ方向に思考の糸を伸ばし、ムーグ・リード(gc0402)を見つめていた。
「‥‥ジョエルサン? どう、しまシタ?」
 頭の先が見えない。
 などとは言わない。というか、言えなかった。
「いや、なんでもない」
 ジョエルが落ち着きを取り戻した頃、シクル・ハーツ(gc1986)がその腕を軽く叩く。
「聞いた話では色々と大変なようだが‥‥よろしく頼む」
 シクルはもちろん、周囲の皆がジョエル率いる小隊の面々の事情を知ってくれているようだった。
「補給路の確保のためにも、部隊の皆さんのためにもできるだけ早く倒してしまいたいですね」
 シクルの言葉に重ねるように、アリス・レクシュア(gc3163)が微笑みかけた。
 他の皆も同様に、自分達の事を気にかけてくれている。
「‥‥なんか、俺ら幸せもんっすね」
 ELのトールが涙ぐんで見せれば、はしゃいだ様子でHGのヴェルナスが銃器を放り出して身を乗り出す。
「そうそう、女の子がいるなんt」
 隣でDFのマルスがその頭を無言ではたく。
 とにかく、うるさいので連中の話はカットする。
「気ノ、イイ、人、達、デス‥‥」
 ムーグは、そんなやりとりを見て小さく呟く。
 恐らく、彼らは思っているより連携の取れた集団(ただし脳筋)であると推測している。
 ただ1つ、気になることがあるとすれば‥‥長のジョエルについて、なにか「それだけではなさそうな」感があったが。
「‥‥できるなら、力になりたいですね」
 そのためにも、この討伐任務は重要であると認識していた秦本 新(gc3832)は、手にしていた資料を机に載せると武器を手に取った。
 高速艇のスピーカーから聞こえてくる音が作戦遂行地点への到着を告げる。
 着陸の合図。同時に、それは戦いの始まりをも表わす。
「再会を祝いたいが、まずはこれを終わらせるか」
 イレイズ・バークライド(gc4038)は立ち上がって周囲に呼びかけると、隊員らも口を閉じ、気持ちを引き締める。
 着陸の振動。戦いのBEATが、聞こえてくる。
「いくぞ! ‥‥連中を、ここから先に進ませてはならない」
 ジョエルの言葉に、一同が呼応‥‥する前に。
「合言葉は『皆で脳筋』ですね♪」
 それは鈴を転がすような声だった。
 皆が視線を向けた先には、ほくほくと楽しげにしているエリシェの姿。
「さすがエリシェちゃん! その合言葉すっげえいいとおm」
 反応したヴェルナスを、イレイズが即座に黙らせた。
「いくぞ、脳筋」

●ここからは多少シリアスでお届けします
 降り立ったその地は、乾いた風だけが吹きつけていた。
 山といっても、その色は緑ではない。
 葉の無い枯れた木々がかろうじて山肌を守り、人が歩くたびに地表を覆う砂が巻き上げられ小さな砂煙を起こす。
 それを潤しに来たのかはわからないが、一同の前方にうねる4体の龍が姿を現していた。
「面白い、我々傭兵の底力‥‥上に見せてやりましょう」
 人々の畏怖はやがて口伝し、伝説となる。
 しかし、龍の姿に怯えるどころか、逆に取って食わんとする気迫を心の内に隠すように、新がAU−KVを身に纏った。
「ああ。‥‥頼りにしている」
 新の気持ちを嬉しく思うと告げ、直後、ジョエルは携帯していた眼帯をその右目を覆った。そして同時に、覚醒。
「ジョエル殿? それは‥‥」
 隣で見ていたシクルは、その行動を一瞬不思議に思った。
「戒めだ」
 ジョエルは、より言葉少なになっていた。
「一体、何が‥‥」
「皆さん、来ますよ!」
 アリスの声にシクルがハッとすれば、ほど近い距離に龍達の姿。
 思ったより‥‥早い。
「‥‥狩り、ノ、時間、DEATH」
 がしゃりと重厚な金属音がする。
 それは、ムーグの手に収まった地獄の番犬が、龍を喰らい尽くさんとする遠吠えのようでもあった。

●Dragon Killer
 傭兵達の姿を射程に捉えたかと思うと、真っ先に萌葱色の龍が飛び出した。
「ジョエル隊長、ルナ、マルスはこいつの対応に出てくれ!」
 叫ぶイレイズの右手には弾ける瞬間を待つ閃光手榴弾。
「爆ぜろ!!」
 近づく風龍に対し、イレイズは手筈通りにそれを投げつけるが、しかし、同時に強烈な嵐が発生したのだ。
 視界を覆い尽くすように砂塵が起こり、強力な気流の乱れで手榴弾の軌跡が歪む。
 閃光手榴弾は爆ぜたが、思った位置での効果が得られなかった‥‥と、思いきや。
 叫び声をあげて落下したのは、風龍が視界を奪った隙に雷を放つ予定で距離を詰めていた雷龍だった。
「ちっ‥‥面倒だな」
 イレイズは雷龍に視線を向けるが、既にその頃シクルが飛び出していた。
「こちらは任せておいてくれ。オーディ殿、トール殿、出るぞ!」
 予め綿密に打ち合わせてきた一同にとって、そんな誤差は大したことでは無かった。
 一体の龍が地に落ちた。ならば、それをチャンスに変えるまで。
「背中は預けた!」
 シクルが、地に落ち、のたうちまわる雷龍へと急接近。
「シクルさんには絶対怪我させないっす!」
 CAのオーディも飛び出し、シクルにスキルを発動させ彼女の能力を底上げする。
 彼女が構えた風鳥は彼女の髪に良く映える濃青のラインを描き、黄金色の龍の顔面を切り付けた。
 狙いは、とある部位にあった。
「龍の力を司るもの‥‥髭か?」
 呟く言葉とは裏腹に、迷いのない一閃は確かに雷龍の片髭を斬り落とすと、龍はより大地をのたうつ。
 先ほどよりもうねりが強い。‥‥髭は平衡感覚を司っていた可能性がある。
 直後にトールが後方より追撃をかけるも、シクルに声をかける。
「そいつ、シクルさん狙ってます!」
 態勢を直しつつある雷龍に対し、シクルは一度距離をとると桜姫を構える。
「二人とも、一瞬でいい! 龍の注意を引いてくれ!」
 瞬間、弾かれたように飛び出したオーディとトールが龍の顔を挟撃すると意識が確実に逸れた。
 そこへ複数の弾頭矢がシクルから放たれ、続け様に再度迅雷で駆け上がると、シクルはそのまま残る片髭を切断した。

 その隙にも接近するのは残りの3龍。しかしその時、エリシェが飛び出した。
 構えた照明銃を接近する雨龍の目に向け、躊躇なく発射。
 視界を奪われた事により、雨龍は天地左右の感覚を失い、空中でぐるりと反転しながら混乱した様相を見せる。
「貴方の相手は私達ですよ」
 エリシェは闇色に染まった髪をなびかせ、柔らかく笑んだ。浮かぶ月下美人がどこか先程までの雰囲気と異なるエリシェに、文字通り華を添える。
 落下とまではならなかったが、天地の感覚を麻痺させたのか、極端に低空へ降りてきた雨龍。
 そこへ接敵した新が竜の爪を発動し、待ち構えたように鬼火を構えた。
 槍の末端を握り限りなく射程を延ばして繰り出す一撃に竜の咆哮を乗せると、紺鼠色の龍は勢いよく後方へと弾き飛ばされる。
 龍が体勢を整え直した時、その龍の瞳にはエリシェと新の二名がしかと捉えられていた。
「こちらは大丈夫ですから、まずはそっち、お願いしますよ」
 新は「そちら」を振り向かず、声だけでそう告げると怒りに狂う雨龍に対し、エリシェと共に立ち向かった。

「ヴェルナスさん、いけます?」
 アリスが残る龍の内、月白色の龍へと迅雷で接近。
 S−01を構え準備は万全といった風に横を眺めると、ヴェルナスはアリスをじーっと見ていた。
「どうか、しました?」
「ううん。アリスちゃんかわいいねー」
 ‥‥非常に残念なことに突っ込み役が皆他の龍対応に出払っている。
 しかしアリスは何事もなかったかのように「いきます!」とトリガーを引き絞った。
 だが、氷龍もひるむことなく氷の礫を生みだすとそれを勢いよく上空から舞い降らせる。
 その礫は広い範囲に渡り、落下の速度と相まって強烈に大地を切りつけようとしていた。
「ごめんなさいっ!」
「んがっ!」
 突然アリスは叫んだかと思うと、隣で掃射を続けていたヴェルナスを、躊躇なく、それはもう思い切り蹴り飛ばした。
 彼女はヴェルナスが礫をよけきれない事を察し、射程範囲外へと逃がしてくれたのだ。
「大丈夫でした?」
 彼女は迅雷を使い、射程外まで難なく回避を終えて再びヴェルナスの隣に立っていた。
「‥‥あざっす」
 再びアリスの放つ鉛弾は氷龍の顔目掛けて乱射され、ヴェルナスも戦いとなれば存外真面目な働きを見せ、ガトリングガンをもって掃射に次ぐ掃射を繰返した。
 氷龍は銃撃に対し、直接受けたダメージはさほどではなかったように見えるが、うち数発が角へと直撃し、片角が折れ砕けた。
 その途端、強烈な雄たけびを上げながら大きく体をぐらつかせて、氷龍は大地へと落下。
「角を壊せば、いける‥‥?」

 一方。
 イレイズ、ムーグ、そしてジョエル隊の残る面々が相手にしていたのは風をあやつる萌葱色の龍。
 他の皆がこいつの討伐を優先するために、少数対応で身体を張ってくれている。
 だからこそ、一刻も早く決着をつける必要があった。
 当の風龍はと言えば、他龍との連携をとろうとしているが、他3龍が見事に他の傭兵達の行動により動きを阻害されており、しばし思案の後、「そうか! わかったぞ!」と言わんばかりにイレイズに向かって牙を剥いた。
 イレイズが最初の一手で閃光手榴弾をかまし、ダメージソースの雷龍が地に落ちた為にイレイズをターゲッティングしたのだろうが、まぁ、なんというか‥‥。
 こいつ(風龍)も、脳筋だったのだ。
 合言葉は「皆で脳筋」。間違いはない。
「竜が龍に挑むか‥‥」
 体躯に見合う巨大な龍の顔には、おびただしい牙の並んだ貪欲な口があり、それは真っ直ぐにイレイズへと向ける。
 まるで餌を焦らされた肉食獣の様に、獰猛に襲いかかろうと風龍が上空から降下してきた、まさにその時。
 ジョエルの横を一陣の風が通り抜けたかと思うと、それは大きく跳ね上がり、急降下を図っていた風龍の姿を完全に捉えた。
「‥‥Beat、em、down‥‥!」
 風の正体は、ムーグだった。
「!?」
 ジョエルの目の前でムーグは10数メートルもの龍の身体を、銃把による打ち下ろしのたった一撃で大地へと叩きつけた。
「そうか、天地撃‥‥っ!」
 しかし、そのスキルがあったとして、例え他の傭兵が同じ事をやろうとしても、ムーグのように接近するための術と、強靭な体力が無ければ誰にでも同じ様に出来る芸当ではない。
 衝撃的な一撃に思わずジョエルが呆気にとられるも、この好機を見逃してはならぬと飛び出したのはPNのマルス。
 地に落ちてなお、間近にいた傭兵目掛けて口を開けたそれに対し、迅雷で顔下に入り込み、脚爪を持って顔を蹴りあげ、強制的に口を噛み合せて閉ざす。
「イレイズさん!」
 その合図を無言で受け止めたイレイズは槍をすぐに構え直し、その場から跳ね上がると、閉ざされた口の上からまるで天上から注ぐ雷の如く、鳴神を一気に振り下ろす。
 渾身の力で突き刺したそれは、大地に龍を張り付けるロンギヌスのようでもあり、それを好機にムーグが、ジョエルが、武器を構える。
「‥‥囲まレタ、時点、デ、詰み」
 パンッと、思ったより軽い音が一発、空気と大地を同時に揺らした。


 風龍討伐が終わった頃、次点で優先された雨龍対応では新達が苦戦を強いられていた。
 小銃で龍の顔面を狙うようにしているが、しかし相手は広範囲へ渡り酸性の雨を降らせる能力を持つ龍。
 中々射程に捉えても、行動を阻害される事が多く、引き付けると言う点では完全に狙い通りではあったものの、討伐という面においては分の悪い状況が続いていた。
 しかし、その状況を打破したのはエリシェだった。
「あなたの敵は私です」
 恐ろしい程に美しい笑みを湛えたエリシェが、ブルーエルフィンの切先を、宙を舞う雨龍に向けている。
「酸の雨で溶かしたいのなら降りて来なさい‥‥!」
 完全な挑発である。
 防御行動をとる様子の無いエリシェをしばし見下ろしていたものの、やはり雨龍は狙いを彼女に絞って酸性雨を見舞うことに決めたらしい。
 こいつ(雨龍)も脳筋だった。
「エリシェさん!!」
 新が珍しく動揺するも、既に雨龍はターゲットを完全に固定し、広範囲から範囲をしぼって集中的に酸をエリシェへ注ごうとする。
 すぐさま龍の翼をもって彼女を連れ去ろうとする新。その直前、エリシェは不思議なほど穏やかに微笑んだ。
 彼女には迅雷がある。だから気にせずこの隙に攻撃を当ててほしいと。
 新もそれ以上は何も言わず、これを好機にと小銃を構え、想いを託して弾き出した。

 ──討伐を終えた傭兵は次々合流を果たし、4龍の討伐は完全勝利に終わった。

●2次会会場はこちら
「‥‥大成功だな」
 思わずジョエルが口にしてしまう程の見事な勝利。
 空爆部隊が来た頃、空爆の手前で倒せたら恩の字。信頼回復にも繋がるだろう。
 ‥‥などと思っていたのだが、空爆部隊到着前に全てが終わってしまったのだ。
 活躍の様子が見せられなかったのは残念だが、しかしそこには転がる4龍の死骸。
 これだけで、十分すぎる成果だった。

「ジョエルのおごりで飲みに行くか」
 大成功なら飲みに行く、と豪語していたイレイズ。もちろん、隊員らは「ごちになります!」などと、遠慮の欠片もない。
 仕方なくジョエルが財布を探し始めると、その手を掴んだのはムーグ。
 この底知れぬエースアサルトにジョエルはハッと息を呑むが、ムーグはジョエルに何かを差し出した。
 ‥‥日本酒の瓶だった。

「ムーグさん、マジパネェっす!」
「‥‥狩り、ノ、良き、相棒達、ニ、乾杯、DEATH」

「皆さんの凛々しい戦いぶりにドキドキしました」
「‥‥俺は、エリシェの無茶が心臓に悪かったが」
「ジョエルさん、見ていらしたんですか?」
「当たり前だ」

「やれやれ、良かったですね。ま、龍相手に負ける気はしませんが」
「流石ですっ。新さん、おつかれさまでした!」
「あ、アリスちゃん! 俺もう助けてもらって感激しty‥‥ふごっ」
「‥‥新さん、突っ込みありがとうございます」
「どういたしまして」

「信頼、戻るといいな」
「‥‥そうだな。シクルも、今回は助かった」
「そうか。‥‥また縁があればよろしく頼む」
「ああ、こちらこそ」

 ──傭兵達の夜は、賑やかに更けて行った。