タイトル:【BD】EvacuationOrdersマスター:藤山なないろ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/28 22:06

●オープニング本文


●地獄の牙の残した痕は
 コロンビアを源流とするネグロ川の上流。
 ネブリナ山から南のブラジル領内に、敵の発電用ダムが存在していた。
 『ホラディラ』‥‥地獄の牙を意味する名を与えられた巨大ダムは、先の大規模な攻略作戦により爆撃を受け、ついに沈黙。
 ひとまず成功と言える戦果をあげ、それと同時に撤退命令が現地の傭兵達に通達される。
 上手く運んだ作戦に胸を張り帰還する者たちの中‥‥未だ、姿の見えない傭兵も、いた。

「‥‥撤収するはずの部隊に、連絡が取れていません」
 UPCのオペレーターが張り詰めた顔で傭兵達に告げる。
 連絡を取り合っていたある部隊が、撤退を開始して間もなくの事。
 彼らは、大型のタートルワームやゴーレムを含む敵勢に囲まれた別の部隊を発見したようで、「その部隊の撤退を支援する」と連絡を受けたのが最後。
 以降、連絡が取れなくなっているとのことだ。
 彼らから支援を受けたという部隊は現在撤退を完了しているものの、戦地で受けた傷は大きく、輸送艦で治療を受けている最中であるらしい。
 件の部隊の支援こそが、帰還した部隊の全員の命を救ったともいえるが‥‥。
「まさか連中、まだ敵と戦っているんじゃないだろうな」
 報告を求められ呼び出しを受けた部隊の長が、治療も半ばにオペレーションルームに現れ、苦しげな表情で呟く。
 その長自身も、彼が率いていた隊員達も、皆酷い傷を負っていたが、彼らが苦しく思うのは自らが受けた傷の事では無い。
「俺達が彼らの部隊に救われたのは、確かこの辺りだ」
 受けた支援を自分達で今すぐ返す事はできない。ならば、目の前の傭兵達にそれを託すのみ。
 話を受け、スクリーンに映し出されたネグロ川周辺のデジタルマップの一点が赤い光を放つ。
「もしあのまま戦いを続けているようであれば‥‥彼らはまだここに居るはずだ」
 どうか、彼らを救ってやってほしい。
 ギプスに覆われた肘から先、堅い感触が傭兵達の手を握り、その背を送りだした。

●Evacuation Orders!
「隊長! すんません、囲まれましたっ」
「‥‥見ればわかる」
 隊長と呼ばれた男は、その言葉に振り返らず。
 さして慌てる様子も無く、たった今活動を停止したタートルワームから、突き刺していた刀身をすらりと引き抜いた。
「隊長! 流石にしんどくなってきましたね!」
「‥‥問題ない」
 盛大な溜息が零れる。
 これも、全方位を敵勢に囲まれたという絶望感を打ち消すための隊員達の気遣いなのかもしれないが、それはさておき。
 密林のど真ん中、一つの部隊が完全に孤立していた。
 斬っても、刺しても、撃っても、叩き潰しても。
 次々姿を現すキメラやワーム達のお蔭で、底なし沼に捕らわれたような感覚に陥っていた。
 熱帯の密林。流れる汗が額から顎へと伝う。
 飛び交う虫達の羽音のノイズは、もはや気にもとまらなくなっていた。
 孤立した部隊を囲うキメラ達の勢いは衰えず、そして彼らに新たな絶望を与えるべく新たに地に落ちた影に隊員が眉を寄せる。
「「隊長!」」
「‥‥今度は何だ」
「前方からゴーレムが」
「こっちはタートルワーム‥‥ッ」
 隊長と呼ばれた男の眼光が鋭さを増す。
「援軍、来ますかね」
 へへっと、何処か笑いを含んだ隊員の問いかけに、長は応える事をしなかった。
 否、応えることが、出来なかった。
「‥‥それまで、がんばりましょうね」
 隊員も「応えが無い」ことの意味を知っていた。
 けれど、それは知らないままでいい。わからないふりをして、ただ隊長の後背でガトリング銃を構え直す重い金属音がした。
 その音はやけに鼓膜にリアルに響き、隊長格の男はただただ小さく息を吐く。
 まるで、それを返答の代わりとするかのように。
「陣は崩すな。‥‥それから」
 ───この撤退命令は、絶対に守るぞ。
 隊員らは皆、先程までの空気を捨てるかのように腹の底から声をあげる。
「「「 ラジャー! 」」」
 隊長格の男から出現した剣の紋章が、吸い込まれるように彼の持つ刀へとその輝きを重ねた。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
夜刀(gb9204
17歳・♂・AA
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA

●リプレイ本文

●UPC軍拠点
「そいつら、こんな所に残されてんのか‥‥」
 ホラディラダム攻略隊の発進地でもあり、ボリビア防衛作戦におけるUPC軍拠点の前進基地。
 ここで、避難を終えた部隊長らから作戦の説明を受けた夜刀(gb9204)の表情が曇った。
 夜刀の瞳は、『連絡途絶地点』とされるデジタルマップに映し出された無機質な光を見つめている。
「救出作戦か、まだ生きてろよ‥‥」
 イレイズ・バークライド(gc4038)が祈るように呟くも、じっとしていられないと言った様子ですぐさま地図上のポイントや方角を確認する。
「予測しておけば体力配分にも役立つだろう」
 そう言って俄に笑むと、イレイズは上陸地点から大凡の距離と移動時間についてシミュレートを開始した。
 一同の前に居る部隊長は、件の輸送艦から治療も半ばに駆けつけていた為、ぼろぼろの体は包帯やギプスで覆われたままだった。
 そのギプスに保護された肘から先に、国谷 真彼(ga2331)がそっと超機械と手を添える。
 瞬間、施された回復に気付いた隊長は、あいた方の手で真彼の手を包んだ。
「後のことは、頼む」
「任されました。‥それと。あなたにも、頼みたい事があります」
 それは、撤退時の奥の手。
 合図と同時に、最も近い川岸までクノスペで回収を要請できないか、と真彼は言った。
 しかし、途端に隊長は申し訳なさそうに唇を噛む。
「‥‥救出撤退後の迎えを、川に停泊中の輸送船に指定したのはなぜだと思う」
 真彼もそれを聞いてすぐ、ピンと来たように腕組みをした。
「現状動かせるクノスペが1機しかない。‥‥そうですね?」
 クノスペの人員輸送コンテナに収容可能な兵員は、完全武装状態の傭兵であれば8人がせいぜいである。
「状況は理解しました。でしたら、1機でも、可能であれば回収を依頼したいのですよ」
 それでも、真彼は真摯に続けた。
 重体者が出ていた場合、その者だけでも回収を願いたい、と。
 そうすれば、体力のある者達も戦いに専念でき、かつ重体者に合わせて撤退速度を落とさずに済むなど、その差は歴然なのだ。
「わかった、手配しよう」
「極力、そのような事態にならないよう、尽力しますが」
 隊長と真彼の間で話がつくと、やりとりを聞いていた御鑑 藍(gc1485)がおずおずと口を開く。
「あの、合図を出す場所の近くまで輸送艦に来て頂く事は‥‥?」
 藍も出来ることであればと案を提示するが、それにはオペレーターが首を振った。
「ごめんなさい、それはできないわ」
 現在はホラディラダムで任務に当っていた全傭兵が撤収を開始している。
 少なくともこの周辺の傭兵達は全て、既定ポイントに停泊している輸送艦を目指して必死に撤退している最中だ。
 つまり、輸送艦を動かせば、同様に撤退を続けている周辺の全傭兵に支障が出る。
「そう‥‥ですか。わかりました」
 藍は静かに頷くと、改めて皆に向き直った。
「絶対に皆で‥‥帰りましょう」

●Evacuation Orders!
「きっと無事ですよね」
 鏑木 硯(ga0280)はこんな密林のど真ん中に取り残された隊員らを想う。
(「行くべき場所も助ける人たちも判ってる。‥‥ならば、そこへ最速で向かうだけ」)
 小さく息を吐いた硯。据えられた覚悟が、彼を突き動かした。
 空言 凛(gc4106)も軽快に走りだすが、現地の様子に思わず口を開く。
「‥‥なんか、敵さん少なくねぇか?」
 凛の言う通り、降りたってから連絡途絶地点へ向かう道中、敵数は予想を遥かに下回っていた。
「嵐の前の、静けさ‥‥?」
 周辺警戒を怠ることのなかった藍も、思わず心に過った言葉を吐き出さずにはいられなかった。

「情報によると連絡が取れなくなったのは確かこのへんだったよな?」
 凛達が辿りついた場所は、密林のど真ん中であるにも関わらずぽっかりと空の見える空間だった。
「随分派手にやらかした様だな」
 イレイズが見渡すそこは元々樹木が生えていなかったのではなく、木々が何らかの衝撃でへし折られた様に綺麗に薙ぎ倒されていたのだ。
 ‥‥ある一点を中心として、十字を描くように。
 その中心地点には、深い足跡と突き刺したような刀の痕がはっきりと残されており、それに夜刀が思考を巡らせる。
「人の仕業、か? 確か、この隊の長は‥‥」
 思考が結びつく直前、何かに気づいた夜刀がハッと顔をあげた。
「皆、静かにっ‥‥こっちから音が聞こえたような‥‥」
 夜刀の声を合図に皆が一様に口を閉ざす。
 密林の中、耳慣れない鳥の鳴声や虫達の羽音が邪魔をする。けれど、捉えたのは紛れもない戦闘音。
 金属がぶつかり合う音や、激しい銃声が北方から聞こえてくるのだ。
「急ぎましょう。今ならまだ、間に合います」
 俊敏性に長けた硯が先陣を切り、追うように一同が続く。

 音を辿り始めれば、途端に先程までの静けさは消え失せ、多数のキメラが姿を現した。
 進むほど、敵勢力が厚みを増すのがわかる。
「なるほど! これは強敵の予感だぜ!」
 キメラの群れに嬉々として凛が発すると、彼女は両の拳を叩き合わせてぐるりと肩を回す。
「おりゃ!」
 牙を剥くワニ型キメラへと一瞬の内に距離を詰めた凛は、その口元へ向けて風を切るように豪速の拳を繰り出す。
 同時に敵の夥しい牙を持つ口が強烈な勢いで閉ざされるも、はじめからフェイントであった拳。凛は悠々と引っ込めて、にやりと笑った。
「ワニは口を開く力は弱いらしい‥‥なっ!」
 纏うアリエルが、凛の体重と共に落下の速度を加えて脳天に渾身の一撃を叩き込む。
 その余りの衝撃に意識を飛ばした敵を尻目に、他の者達も極力戦闘を避けながら先を目指したが、しかし。
「‥‥キリがないな」
 駆け抜けざまに現れた密林の使者を、手中の蛍火で撫でる様に斬り付けるイレイズ。
 進路の確保に徹するだけでも、その数に思わずため息が零れた。
「ですが‥‥音は、近いです」
 藍が走行速度を乗せたまま飛び膝蹴りで前衛の討ち漏らした敵を吹き飛ばし、道を拓き進む。
 最低限戦闘は避けたつもりであったものの、彼らの通った道のあと、敵影は確実に数を減らして行った。

「うぉ!? こんなの生身で戦う相手じゃねぇだろ!?」
 突如、傭兵達の進行方向に出現したのは巨大なゴーレムだった。
 凛の言葉通り、まともにやり合うには骨の折れる相手だ。一同に緊張が走る。
 ──刹那。
 先頭を駆ける硯の結わえられた髪が一際揺れた。
 硯はゴーレムの足元へ急速に接近したかと思えば、手にした二刀で片足へ集中的に強靭な連撃を浴びせ掛けた。
「今の内です」
 その言葉と同時に、眼前の巨体はぐらりと大きく傾いた。
 真燕貫突による態勢崩しを狙った硯の作戦が功を奏する。
 派手な轟音を立てて倒れ込んだゴーレムの傍で、涼しい顔の硯が追撃に移ろうとしたその時。
「隊長ーッ! 〜〜〜ッ 〜〜!」
 人の声が、した。
 それは戦闘音の合間に途切れた微かな声。けれど、気付いた藍が咄嗟に口を開く。
「待って、皆さん一度引い‥‥」
 声が最後まで紡がれることはなく、飲み込む様に強力な衝撃波が大地を駆け抜けた。
 横倒しになったゴーレムが盾になる形でそれを受け止め、藍達に被害は無かったが、捲き起った衝撃波は辺り一面の木々をなぎ倒し、盛大な破壊音を轟かせた。
「やれやれ、とんでもない隊長さんですね」
 後方から見ていた真彼の瞳がそれを捉える。
 動かなくなったゴーレムの奥‥‥多数のキメラの屍の中心で、一人の男が大地に刀を刺したまま真彼達に気付き、此方を見ていたのだ。
 更に10数m離れた場所に5名の戦士達が身を寄せ合うように陣を固め、一人突出した男の背を護る様に敵の攻勢を堰き止めている。
 咄嗟に、飛び出したのは夜刀だった。
「安心しろ、援軍だ。すぐに此処から脱出するぞ!」
 彼の言葉を聞いた途端、男は張り詰めていた何かが切れたようにその場に膝をついた。
「隊長ーっ!」
 奥で戦闘を続ける傭兵達から叫び声が上がる。
 それをサインに、真彼は倒れた男へと。そして他の傭兵は奥の隊員達へと弾丸の様に飛び出した。
「‥‥無茶をしますね」
 練成治療が男の傷を塞いでゆく。
 生気を確認しようと顔を覗きこめば、その男の右目が眼帯に覆われていることに気づくも、逆の目がゆっくりと開き、思ったよりしぶとそうな表情をしているのが見えた。
「もう大丈夫です。既に、手は打ってあります」
 3度目の練成治療を終えると、男は立ち上がり、全力移動で彼を慕う者たちの元へと真彼を残して駆け出した。
 去り際に耳に届いたのは、低く囁くような声。
 礼は、全員で撤退を終えてから、必ず。
 人の事を言えた義理ではないかもしれないが、と自嘲しながら真彼は思わず噴き出した。
「全く、不器用そうな人だ」

 5人の隊員らが陣を組んで押さえこんでいたそれは、タートルワームを中心としたキメラの群れだった。
「おい! 隊長がッ!」
「待て、今は手を離すな!」
 隊員達に広がる動揺。しかし、隊長の元に駆けつけようと場を抜けようモノならば、陣形は崩壊し、敵に飲み込まれる事は明白。
 そこへ、風のように柔らかく、そして音も無く姿を現した硯がタートルへと真燕貫突を繰り出せば、初撃で長い首が衝撃で大きく揺れ、二撃目でそれは足元から崩れる様に体を大地へ沈めた。
「お待たせして、すみません。撤退支援に参りました」
 迅雷で駆け付けた藍も、まだ息のありそうな亀の顔へと強烈な回し蹴りを見舞い、隊員とワームの間に立ちはだかる。
「一人も欠けていないな?」
 紅蓮のオーラを宿した蛍火‥‥青年の黒い髪が軌跡をなぞるようになびく。
 ゆらりと燃える炎のように、熱い斬撃が真一文字を描いた。
 とどめの一撃を繰り出したイレイズが、巨大ワームの沈黙を確認し、隊員達に振り返ってそう尋ねた。
 ‥‥一瞬の、出来事だった。
「大丈夫か? って、敵さんすげぇ数だな」
 続く凛も瞬天速でやってきたかと思えば、声を残して隊員達の脇をあっという間にすり抜けてゆき。
「話はこいつらを片付けてからだ!」
 続く夜刀と共に、凛たちは温存していた力を開放し、周囲のキメラを相手に戦闘を開始する。
 撤退を開始するには、キメラとの距離があまりに近すぎたのだ。
 そこへ隊長格の男と真彼が合流する。
 疲弊した隊員を迅速に癒す真彼の手が、次々と威勢の良い戦力を生みだし‥‥気付けば、全戦力が戦いに復帰していた。
 予想外の展開ではあったが、派手に暴れた結果、傭兵達は周囲を囲っていたキメラをほぼ沈黙させることに成功する。
 ‥‥さながら、撤退どころか掃討戦の様相であった。
「あまりゆっくりとはしてられませんから、一息付いたらこんなとこさっさと逃げ出しましょう」
 硯の言葉に、一先ず息を吐いていた全員が再び武器を握りしめる。ここで足止めされていたとなれば、増援が必ず来るはずなのだ。
 木々の合間を縫って漏れ聞こえるのは何らかの音。ずっしりとした重みを感じさせるそれは、超大型が控えていることを連想させる。
「とりあえず、だ。ジョエル隊長。今は俺らの指示に従ってくれ」
 夜刀が、隊長であるジョエルに言葉をかけると、彼は静かに頷いた。

「邪魔だそこ! 立ち塞がんならぶった斬る!!」
 一同は、部隊を囲むように布陣し撤退を開始していた。
 配置を指揮する夜刀が表に立ち、温存された力を存分に発揮し刀を薙ぐ。その奮迅ぶりは、後ろに控える隊員らを存分に勇気づけた。
「隊長さん、部下達が無茶しないようにアンタも指示をだしてくれ」
「ああ、問題ない」
 夜刀と硯の脇を縫うように真空の波が走る。
 驚異的な精度を誇るソニックブームや、マシンガンによる鉛玉が後方から絶妙な援護を繰り出し、前を行くイレイズはそれに思わず口の端をあげて笑む。
「なんだ、思ったより余裕そうだな‥‥?」
「やだな、イレイズさん。んなことねえっすよ!」
 後ろから空元気ともつかぬ声が聞こえる。こうした会話も、気持ちの糸を張り続けるのには大切なことだった。
「国谷さんの治療もあって、深刻な怪我人が出なかったのは幸い、ですね」
 硯にとっては、信頼を寄せる真彼という存在が後方に控えている。それだけで安心して前だけを見続ける事が出来た。
 しかし、今は振り返らず、ただ前を見て二振りの小太刀を振り抜く。
 その姿、まさに疾風迅雷の如く。
「体力に余力のあるうちに距離を稼ぐぞ」
 イレイズの掛け声に呼応した隊員らの返事と共に、後方から藍の叫びが届く。
「増援のようです! 追いつかれそうっ」
 回避した藍の後方を焼いたプロトン砲‥‥それは、まぎれもないタートルワームの砲撃だ。
 密林を縄張りとする猿型を始め飛行能力を持つキメラ等もいると推測される。
「どうやら出番だな?」
 夜刀が声をかけると、予め打ち合わせていた凛がニッと笑って頷く。
 示し合わせたように、一斉に放たれたのは複数の閃光手榴弾。
「ほーら、餌だぜぇ? 取ってこーい!」
 無邪気な凛の声を皮切りに、弾は密林の奥地へと天高く弧を描き‥‥そして、僅かな沈黙の後に強烈な音と閃光を発した。
「あんだけ弾けりゃ、遠くでも派手だなぁ」
「上手くいってるといいけどな」
 凛が反応を楽しむように笑い、それに夜刀が頷く。
 強烈な光を背に受けながら、傭兵達は走り続けた。

●密林を抜けて
 敵の猛追を振りきり、熱帯林を抜けた先に見えたもの‥‥それは、光だった。
 鬱蒼とした緑が遮っていた陽光が直接肌をさす。
 広がるネグロ川の水面に反射した光が目に、心に、強く焼きつく。
 恐らくジョエルをはじめ、隊員らもこの光景を忘れる事は無いだろう。輝く川面と、光の中に浮かぶ仲間の船の姿を。
 隊員らは互いの拳をぶつけ合って生還の喜びを噛み締め、周囲の凛や夜刀を巻き込んで手を叩き合う。
「皆無事だな。よかったよかった!」
「ま、何はともあれ助かったんだ。良かった良かった♪」
 夜刀も無事を噛み締める様に笑顔を浮かべて、隊員とハイタッチを交す。
 そんな彼らの様子に、後方で一人胸を撫で下ろすジョエルへ、イレイズが静かに声をかけた。
「生還した感想は‥‥?」
 しばし思案の後、口を開こうとしたジョエルを遮る様に威勢の良い返事が隊員達から返ってくる。
「「最っ高!!」」
「‥‥だ、そうだ」
 此処へ来てようやく固かったジョエルの顔にも笑みが戻り、イレイズもそれを確認しながら隊員たちのゲンキンな様子に思わず笑いながら頷いた。
「改めて‥‥救援に、感謝する。全員無事に戻ることが出来たのは、君達の力に他ならない」
 綺麗に揃った最敬礼は、救援に訪れた傭兵たちの作戦とその見事な戦いぶりへ贈る感謝状。
 そこへ、陽を遮る様に1つの影が頭上を通り過ぎていった。
「さて、報告に行こうか。貴方達の撤退完了報告を待っている人がいるんだ」
 上空を飛行するクノスペに手を振る真彼。
 皆は互いの無事に浮き立ちながら、迎えの輸送船へと乗り込んでいった。