●リプレイ本文
●だいすきなひと/藤堂 媛(
gc7261)&日下アオカ(
gc7294)
▼Side媛
今日はXmas。
大好きなアオちゃんのお誘いで、病院の子供たちのために開かれるXmasパーティに参加することになった。
アオちゃんは音楽のできる子だから、きっと子供たちに演奏を聞かせてあげるんだろう。優しい頑張り屋さん。ウチはアオちゃんが大好きだ。
「あ、おった。アオちゃんー!」
集合場所に既に到着していた彼女に手を振って近づくと、彼女は腕組みをしてそっぽを向く。いつから待っていたんだろう? 頬が寒さで赤くなってる。
ほんわか笑いかけると、アオちゃんは一瞬、ウチに何かを言おうとした。けど、慌てて荷物を持って航空機へ乗り込んでゆく。
「アオちゃん、さっきウチに何か言おうとしとった?」
ようやくシートに腰を下ろしたとき、何気なくそんなことを聞いてみると、アオちゃんはばつの悪い顔をしたけれど。
「何でもありませんわ。ただ‥‥来てくれて、助かりましたの」
‥‥不意に、お礼を言われた。まさかそんな、と驚くウチの様子が居心地悪かったのか、アオちゃんはまくし立てた。
「お礼とか、何もできませんけれど、ま、まぁアオの演奏で十分ですわね! その代わり、色々頼みましたわよ!?」
「‥‥うん、何でも頑張るんよ〜」
けどな、アオちゃん。頑張りすぎんとってね。
郊外の病院で、出迎えてくれたのは長い茶髪の女の子。
「日下アオカ、ですわ。それと、この方はただのお節介焼きの人ですわ。アオは音楽のことしかできませんので、連れてきましたの」
アオちゃんは自分の紹介ついでに(?)、ウチを紹介してくれた。
言葉は少しつんけんしているけど、本当は優しい子で、照れ隠しだって思うから、ウチは笑って挨拶する。
「こんにちはぁ、藤堂媛です〜」
「こんにちは! はじめまして、ジル・ソーヤだよ。今日はお手伝い、ありがとう!」
「これでも能力者さんやけん、重いもん運ぶんでも任せといてぇね!」
「うん。頼りにしちゃうね」
ジルさんと握手をしていると、アオちゃんは口元に手を当てながら思案気な顔をしていた。
「どしたん?」
「えぇ、ちょっと‥‥」
ウチの問いに少し悩んだあと、アオちゃんはジルさんにこう尋ねた。
「‥‥ジルさん、どこかでお会いしたことありまして?」
不思議なことを聞くなぁと思った。そういえば、“なんぱ”の常套句はこんな言葉だったかもしれない。まさか、アオちゃん‥‥などとウチがしようもない考えに耽りそうになったところを、ジルさんの声が覚醒させてくれる。
「会ったことあるような、無いような?」
けど、当のジルさんもしばし考え込んでそんな風に応えていたから、もしかしたら本当に“どこかで出会っていた”のかも、なんてウチは思った。
▼Sideアオカ
「ジルさん、歌がお得意なんですってね」
会の手伝いの合間に話をしていた傭兵さんたちから伺ったこと。それは、彼女が歌をたしなんでいるということ。
「得意っていうか、好き、かな」
照れくさそうに笑う彼女の手をとり、アオはこんな提案をしましたの。
「皆で楽しくXmasソングを唄うのもいいですけど。未来ある子ども達に「本物」を聴かせてあげませんか?」
「ほんもの??」
「ほしたら皆ー、アオちゃんたちが準備しとう間、お姉さんと遊ぼや〜」
音楽を奏でる間、藤堂さんが子供たちの相手をすると名乗り出て下さって、正直、ほっとしましたわ。子供の相手が、苦手だったから。
彼女は‥‥藤堂さんは、私にできない色んなことができるんですの。
『小さい子らの相手するんは得意なんやけん、お姉さんに任しとき!』
そういって、胸を張る彼女は、少し眩しく見えましたわ。
「何して遊ぼかー、双六とかみんなわかるー? あれ、知らん? ほら、これやよ」
「おねえさん、これスゴロクじゃないよー! モノポリーだよ!」
「知っとった? ほしたら一緒にこれやろかぁ」
だって、彼女は、子供たちと自然にうちとけ、笑顔を引き出せる魔法を持ってるんですの。
「じゃあ、最初はXmasキャロルから‥‥ん? アオカどうしたの?」
多分、アオだけ少し顔が曇っていたのかもしれませんわ。
見上げた彼女の瞳の向こうに、吸い込まれるように鮮やかな青空が見えて。その中に、羽ばたいている自分が見えて。
「ジルさん、アオの話‥‥少しだけ聞いてくださいます?」
アオは少しだけ、今だけ、素直に物を言うことにしましたの。
「ずっと音楽が目的でした。音楽であればなんでもできる、誰よりも上にと」
とつとつと語り始めた話に、うん、と控えめな相槌。
「‥‥でも最近は、違いますの。音楽は、アオに与えられた、本当に数少ない手段。数少ない‥‥けど、ゼロじゃない」
「うん」
「もし音楽だけだったら、この子たちや藤堂さんにもお会いすることはなかったでしょうね」
「そうだね。それにアオカには、エミタの力もあるだろうし‥‥他にも、いっぱいあるんじゃないかな。探してなかっただけ、見つけて無かっただけ、で」
そういって、ジルさんは笑った。今日出会ったばかりの人にこんな話をするなんて思ってもいなかったんですけれど‥‥
「本当に。ジルさんには、どこかで会ったかも知れません、ね」
「そうかもしれないね」
◇
「そういえば、能力者になれて良かったわぁ」
「‥‥なぜですの?」
「大変な事とか辛い事もあったけど、色んな人らと出会えたし色んなとこにも行けたし」
そう言って藤堂さんは一呼吸置くと、柔らかい、優しい笑顔を浮かべました。
「そうやなかったら、アオちゃんにも出会えてなかったんやしねぇ」
「そっ‥‥それはそうですけど」
何をどう応えればいいのか正直解かりません。けれど、悪い心地は致しませんでした。だから、
「アオちゃん、これからも仲良うしてやねぇ〜♪」
ハグのために伸びてきた腕を、わかっていながら払うことをせず、彼女の好きなようにさせたのでした。
●聖夜の贈り物/時枝・悠(
ga8810)
「今年も来てくれてありがとー!!」
先日、唐突に私に手紙を押し付けてきた送り主・ジルが、嬉しそうに手を振りながら駆けてくる。
「‥‥今年も、か。というか、特に礼を言われることもないんだが」
「あたしはねぇ、悠と会えて嬉しいから、それだけでもありがとうなんだよ」
この娘は平気でこういうことを言う。瞳が嬉しそうで、きらきらして、何か期待してるのかと疑いそうになる。
まさか、私もそんなこそばゆいことを言う必要があるのか? むしろ答えは「言わせんな恥ずかしい」なんだが。
「ともかく‥‥明日、余ってたらサンタ服貸してくれ。何か手伝う。給仕に限らず、手は要るんだろうし」
ぶっきらぼうにそう答えれば、ジルは「うん、あたしとお揃いのやつだから!」とだけ言うと、スタッフらしき人間に呼ばれて、足早に去っていった。
(本当は、Xmasプレゼントでも持ってくればよかったんだろうけれど)
少女の背を見ながら、そんな詮無いことを考えていた。
だが、手紙を受け取った日から今日までずっと仕事で予定が詰まってたんだ。結局用意できたのは、この付け鼻くらい。(赤いトナカイのやつな)
そもそも、Xmasの日に会の運営なんて、普段なら積極的に手伝おうなどと思わなかっただろう。
更に強いて言えば、別段他人の楽しみの為に自分のソレを捨てる気は無いんだが、今、現実に私はここに居る。‥‥理由? そうだな。
「悠ー、ここにテーブル運びたいんだってー。一緒に運ぼー?」
「はいはい、すぐ行くからそんなデカイ声出さないでいいって」
久し振りに会った友人が前より良い顔をしていたから。
‥‥だからもう、だいたい満足してしまっているのだ。まぁ、後はアレだ、歌を聴ければ十全かな。
ほら、またあの笑顔が見える。思いがけず小さく笑いを漏らして、ジルの元にテーブル運びに向かおうとしたその時。
「悠、俺が行こう」
私の肩を、でかい手が叩いた。ジョエルだ。去年トナカイの格好をさせられそうになっていた、お馬鹿小隊隊長の男だ。
しばし考えた後、私は唯一用意できたとっておきの付け鼻を握り締めた。(赤いトナカイのやつな)
「‥‥おーい、ジョエルー」
「なんだ、悠」
「ほら、これ」
「‥‥これがどうした」
「付け鼻。赤いトナカイのやつな」
「‥‥ああ、見れば解かる」
「ちなみに、暗闇で光るらしいぞ」
「‥‥不本意だが、それも知っている」
そうして私は、しかと男の手にそれを握らせることに成功した。
◇
「悠ー! しばらくは大丈夫だから、休憩してて!」
給仕を終えた私に、ケーキの乗った皿とグラスを差し出したジル。
休憩ついでに、傍にあったグラスをジルにも手渡すと、私は思い出したようにこんな話を切り出した。
「そうだ、ジル。近況報告なんだが」
「ん?」
「友達と店を開く事にしたんだ。喫茶店」
「えっ! 本当に!?」
他人事ながら大層嬉しそうな顔をする彼女に、思わず頬が緩む。
「良かったら来てくれ。地球の裏側とかにはならない筈だから」
「絶対いく! お店、できたら教えてね」
「あぁ。‥‥面倒臭い手続きも多いけど、剣振ってる時より充実してるよ、最近」
「戦う悠はかっこよくて、あたしの憧れだったよ。でも‥‥」
ジルは言うべきか迷った様子だったけど、ややあって、幸せそうにこう言った。
「あたしね、今のお話をしてた悠の顔が、今までで一番好きだな」
重ね重ね、他人事で幸せそうになれるなんて、全く仕方の無い娘だ。
●雪の日に交わす約束/アレックス(
gb3735)&トリシア・トールズソン(
gb4346)
▼Sideアレックス
「私ね。紅い星が浮かんでいないXmasって、初めてなんだ」
隣のシートに座っていたトリシアが、俺に笑いかける。それは嬉しそうに、年相応のきらきらした笑顔で。
「‥‥アレックスもそうだっけ?」
「俺は‥‥どうだった、かな」
「じゃあ、これがはじめてってことにしよ」
トリシアは、かわいらしく頬を膨らませた後、俺の手を握った。
「そしたら、これから作っていく思い出は、全部初めてのものだよね」
「ああ」
「一緒に色んなところに行こう。色んな景色を見よう。それでね、誕生日にくれた、あのアルバムとフォトフレーム。思い出で一杯にしよう」
心の底を、じんわりと暖かくて柔らかい何かが満たしていく。
「そうだな、俺も‥‥トリシアに最高の思い出を、残したいから」
このとき、俺はある決意をしていた。
『‥‥なぁ、少年。私には、君の方が“贖いたい”顔をしているように見えるんだが』
あの日、ある男に自分の奥底を見透かされた。
正直、俺の腹の中では『贖いたいというより、贖わなければならない』と言う何か怨念めいた強い感情が渦巻いていた。
だからこそ、それに脅迫されるようにしてこんなことを考えていたんだ。
『俺はその贖罪の為に自身の幸せなど省みず余生を過ごさなければいけないのではないか』、と。
そんな終わりの見えない贖いという長い旅に彼女を付き合わせたく無いと、思っていた。
窓の外から視線を外せば、隣でトリシアがうとうとと凭れ掛かってきて居る。だから、風邪を引かないようにと自分のブランケットを彼女の身体にかけてやった。
「今の自分が出来ない事をどうにかしようとするな、犯した罪を決して忘れず、目を背けず、今出来る事を確実にこなして行け‥‥か」
思い出すのは、俺の強迫観念を打ち破った一言。
まさに、その通りだと思う。
だから俺は、今、こうしてここにいる。ただひとつだけ明確な気持ちを胸に、少女の手を引いて。
▼Sideトリシア
子供たちの笑顔や楽しげな話し声に満ちたこの部屋にいると、私はなぜか遠い未来のことを思わずにいられなかった。
バグアとの戦争は、一応の決着となって。まだまだやらなくちゃいけない事は沢山だけど‥‥でも、これからは。
(私たちの将来についても、考えていかないとな‥‥)
そんなことを考えるようになった。考えるようになった、っていうか、考えるゆとりができた、のかもしれない。
最後の戦いを思い出す。作戦第3フェイズ直前でアレックスが重態になったとき、私は本当に肝を冷やした。
(あの時に、戦闘のドサクサで言っちゃったけど‥‥)
思い出すのは、最後の戦いで口をついた思い。私の、心からの願い。
『絶対に生きて帰るんだ。そして、アレックスと一緒に暮らすんだ。素敵な奥さんに、お母さんになるんだ!』
思い出すと少し、顔が熱る。でも、全部本当の気持ち。だからこそ、こうして生きて帰ってきた今‥‥やっぱりちゃんと言いたい。
この聖なる夜、貴方に、私の想いを。
▼Sideアレックス
いつものようにトリシアに手を引かれ、病院の外に出た。
はらはら舞う雪が、白くて、儚くて、少し寒い。グリーンランドより、随分優しい気温だけれど。
「どうしたんだ?」
ここにつれてきたのは雪を見せたいため、ではないだろう。そう思って、手を引く少女の後ろ髪にそんな言葉をかける。
「ちょっと話があるんだ」
微笑むトリシアの頬は透き通る雪の白さ‥‥だけじゃない。パーティの余韻が残るのか、僅かに紅潮して赤みを帯びている。
「トリシア、俺からも‥‥話が、あるんだ」
「あ、じゃあ‥‥アレックスから、どうぞ」
妙な譲り合いの空気が可笑しくて、二人、小さく笑い合った後、俺は決心したように口を開いた。
「俺達『能力者』は、本来なら人間が持ち得なかった力を、エミタによって無理矢理引き出して戦っていた、よな」
「うん」
「‥‥恐らく、能力者で限界まで戦ってたヤツってのは、長くても、普通の人よりは長く生きられない気がしている」
トリシアは、何も応えなかった。ただ、じっと俺の目を見て、耳を傾けてくれていたから、続きを話すことにした。
「もしそうなら‥‥決して後悔しないように、トリシアを幸せにしたいと思う」
「‥‥本当?」
「あぁ。どうすれば、そう出来るのか。今、俺とトリシアが一歩を踏み出すには‥‥」
気付けば、トリシアはすごく真剣な顔をしていた。胸の前で小さく両手を重ね合わせて、祈るみたいにして俺の話を聞いてる。
その様子が可愛くて、愛おしくて、不思議なくらい暖かい気持ちに支配される。こんな支配なら‥‥悪くない。
「アレックス‥‥?」
小さな少女の身体を、力の限り抱きしめた。抱きしめることで、徐々に気持ちが丸くなっていく気がする。
俺の命がいつまで続くか、そんなことは誰にも解からない。けれど、生きている間、この幸せな時間がずっと続けばいいのに、と。そんな思いだけが今の俺の総てだったから。
「俺と、これからもずっと一緒に居て欲しい」
自然に、言えた。
俺の精一杯のプロポーズの言葉を。
これを、トリシアがどう受け止めるかはわからないけど、俺はいつまでもトリシアの返事を待ちたいと‥‥
「アレックス、結婚しよう」
‥‥なんだって?
驚いて少し身体を話すと、間近にあった顔が俺を見つめて笑っている。それは徐々に俺の顔に近づいてきて‥‥トリシアが、俺にキスをくれた。
唇は瞬間的に触れただけだったけれど。少し熱っぽい頬のまま、トリシアは本当に愛らしい笑顔を浮かべた。
「私はアレックスのお嫁さんになりたい。幸せな奥さんに、お母さんになりたい。私の本気、伝わったかな」
「‥‥あぁ、結婚、しよう」
結局こうなるのか、と俺は思わず笑ってしまう。
かくして、始まりもそうだったように、プロポーズもまた少女主導のもと、行われたのだった。
●愛する人と、二人/夢姫(
gb5094)
「‥‥俺は、愛梨に嫌われている、わけではないだろうか」
「ふふ、大丈夫。いつもああいう子なの」
「そう、か」
妹を紹介して以降、妙な心配をするジョエルさんと二人。誰も居ないロビーのソファに並んで腰掛け、窓の外の雪を眺めていた。
「日本と英国のXmasは違うんだろうなぁ‥‥」
「日本ではどう過ごすんだ?」
「恋人と過ごす人が多いイメージ。欧州のバレンタイン、みたいな」
「それなら‥‥今日は、二人で過ごしたかったか?」
ジョエルさんは私の頬に触れた。去年、この病院の外の駐車場で抱きしめてくれた時と同じように、そっと、新雪に触れるように。
「んー‥‥英国ではどう?」
「そうだな。家族が集まって、子の成長を語らったりする場だ」
「そっか。じゃあ‥‥やっぱり今日は子供たちとパーティできてよかった、かな」
「あぁ。それに、お前の妹に会えたことが、すごく嬉しかった」
愛梨のことは別にしても、見ているとわかる。ジョエルさんは、子供が好きなんだと思う。
不器用で、どう接していいのかわからないくせに、楽しそうな子供の様子を目で追っては、幸せそうに口元を緩めるから。
そう思うと、尚の事愛おしくて。彼の肩に、そっと頭を凭れた。
触れた場所から感じられる体温が心地よくて、聞こえてくる心音が安らぎを与えてくれて、今ここにある時間が永遠に続けばいいのにと思ってしまう。
「家族は、血の繋がった家族‥‥ひとつだけって思っていたけど」
「ああ」
「‥‥他人だったふたりが、家族になることもできるんだね」
「そうだな。こうして今、夢姫と俺が共にあるように」
髪を撫でていた手が止まったかと思うと、それは私の身体を抱きしめてくれる。
「今年も一緒にXmasを祝って、雪を眺めていられるって、なんだか不思議だね」
「あれから1年‥‥か。長いようで、あっという間だった。けど、お前がここに居てくれて、本当に‥‥幸せだと、思う」
出会った頃とは見違えるような、ジョエルさんの表情。こんなに笑う人じゃなかった。こんなに穏やかな顔をする人じゃなかった。
それもすべて‥‥彼は「お前に出会ったからだ」と言ってくれる。変わることを恐れていた人が、変われたことを「ありがとう」と言う。
「うん。私も、幸せだよ」
嬉しくて、暖かくて、胸の奥が柔らかい何かに包まれているみたいになる。この感情をなんて呼ぶのか考えてみたら、やっぱりこれしかないんじゃないかと思った。
「‥‥ジョエルさん」
囁きは、思っていた以上に小さくなってしまったけれど。静かなロビーに、二人きり。聞こえていたよね、きっと。
見上げた顔はとても優しい穏やかな顔をしていたから、近づいてくる体温に従って、そっと瞳を閉じた。
唇に触れる唇は、柔らかくて心地が良くて一瞬が永遠に思えてしまう。
離れがたくて、離れていく温度を惜しむように目を開けると、少し困った様子のジョエルさんが居た。
「本当は、まだ片づけが残っているんだが‥‥」
「‥‥ん?」
「もう十分だろう。今日の残り時間は、すべてお前に使いたい」
落ち着いて見えて、この人はしばしば子供っぽい我侭を言う。
それに思わず笑いがこみ上げてきて、私はつい、「はい」と答えてしまった。
●シロとクロの間に/愛梨(
gb5765)
Xmas会は賑やかに始まった。あたしは、会場の端のテーブルについて、それをじっと眺めている。
ため息ひとつ、こぼしたところで誰の耳にも入りはしないし。
「‥‥リアン、何してるのよ」
シャンメリーをあおっていたあたしの肘を、白い手がつつく。リアンだ。ジルの弟で‥‥声を出すことができない、少年。
『楽しい?』
彼のスケッチブックには、一言だけ文字が綴られてた。
「さぁ‥‥どうかしらね」
あたしには、どんなに望んでも手に入れられなかったものがある。
‥‥父親の愛だ。愛ってなに? 父親ってどういう存在?
わからない。だからこそ‥‥手に入らないからこそ、灼けつくような飢えと憧れを抱く。
「ねぇ、リアン。メイナードには、会ったの?」
少し意地の悪い質問だったかもしれない。だってあたしは「まだ彼がこの会場に来ていないことを知っている」から。
リアンの表情は、案の定曇った。それでも、あたしは知りたかったのだ。彼が、父親への感情の折り合いをどうつけるのかを。
少年は、しばし逡巡した後、こんな文字を書いた。
『これから会うと思う』
「なんで?」
『僕が、会いたいから』
少し驚いた。
この間、彼が父親を見たときの感情は、生きていたという喜びよりも裏切られていたというショックの方が大きかったはずだ。
実際それに間違いはないし、事実再会した父親からは、謝罪や説明、言い訳の言葉すらなかったと聞く。
捨てられた、という思いがあって当然じゃない?
‥‥あたしが南米で関わった山羊座と、その子供のリアム。山羊座は我が子のために自ら命を絶ち、リアムはそれを受け入れた。
リアムを思うと、少し、胸が苦しくなる。だから、って訳じゃないけど。
「なんで会いたいの? だって、あの人リアンを‥‥」
感情的にならないように、つとめたつもりだった。ただ、そんな言葉を遮る様に、少年はスケッチブックを見せたのだ。
『今日はXmasでしょ。僕の願いは“父さんを殴ること”なんだ』
リアンの父親は‥‥やり直すことを選んだ。どんなにあさましくても、家族を諦めきれなかった。罪を償いながら生きていくと、彼は、そう言った。
どちらが正しくて、どちらが間違ってるかなんて、正解はわからない。
そもそも、世の中が勧善懲悪でできているのなら成も否もあるのだろうけれど、人の思いに正しいとか間違いとか、そういった類の「答え」があるのかもあたしは知らない。
ただ、あたしの中に確かに灯る真実は「親には親の、子には子の、人それぞれの思いがある」ってことだけ主張してくれてる。
「人は死ぬときは死ぬ。死ぬのに理由はなく、突然死ぬ」
バグアとの戦いで、どれだけの命が散ったか‥‥目の前で何度となく見てきた。
「‥‥Xmasに、神が与えた命。それをどうするかは、多分、当人次第だよ」
先ほどから笑顔の無いリアンは黙って首肯して、じっとあたしの顔を見ていた。
「だって、去年のXmasは、望んでも得られなかったはずの、家族との時間が‥‥ここに、叶えられそうなわけでしょ」
歳の割りに大人びた表情で、眉を寄せて笑うリアンは、多分わかっているんだろう。
「ま、人の心はその人のものだから、あたしにはどうもできないけど」
『愛梨、ありがとう』
●友と過ごす聖夜に/黒羽 風香(
gc7712)
「お久しぶりですね。元気そうでよかったです」
そう告げた相手は、元気なサンタクロース姿をしていて。
「うん! 風香も元気だった?」
なんて言いながら、気持ちのよい笑顔を浮かべるので、ついつられて私も笑顔になってしまう。
「そうですね、私も‥‥色々、ありましたけど。元気だったと、思います」
「あはは、そっか。風香はいつも、変わった言い回しをするね」
多分、私が兄やそれに類することを言うとき、少し言葉を選んだり、省いたりすることを指していたんだと思う。
それに少し、困ったような笑みを浮かべながら、私は差し入れに焼いてきたケーキを手渡した。
「これ、よかったら皆さんで召し上がって下さい」
差し出したのは数種類のケーキ。
ここに来る前に焼いてきたもので、シフォンケーキ、フォン・ダン・ショコラ、フルーツ入りのパウンドケーキなどなど。
子供たちは普段ケーキとか食べられないだろうから、子供たちが「もう食べられないよ!」って笑ってしまうくらいに、満たされればいいと、願って。
「ありがとう! きっとみんな喜ぶよ。あ、リアン!!」
そう言って、子供たち以上に嬉しそうな顔をしていたジルさんが、ある少年を呼び止めた。
「風香が焼いてきてくれたんだよ。今食べちゃったら?」
やってきたのは、リアン君。ジルさんの、弟さんだ。
少年は、しばし迷ってフルーツ入りのパウンドケーキを1つつまむと、大層美味しそうな顔でそれを頬張ってくれた。
「‥‥美味しい、ですか?」
少し戸惑いがちな聞き方だったかもしれないけれど。少年は、言葉で伝えられない代わりに、一生懸命首を縦に振ってくれた。
この仕草は‥‥ジルさんに、よく似ている。言葉にならないとき、懸命に相手の問いに答えるときの仕草に。
思わず笑いがこみ上げた私をみて、不思議そうな顔をするジルさん。彼女に「なんでもないですよ」と告げると、私は彼女の腕を引いた。
「お手伝い、足りてますか? 私も手伝いますよ」
「ほんと? ありがと! じゃあ、一緒にお料理運んでもらっていい?」
最近彼女は人に頼ったり、人に甘えたりすることを覚えたのかな、と思うのです。
もともと、長女気質か人に頼ることを知らなくて、それが放って置けないお姉さんという感じだったけれど‥‥
「‥‥はい。一緒に、やりましょう」
彼女が、幸せでありますように。
●優しい天邪鬼/黒木 敬介(
gc5024)
「腕時計、似合ってるぜ。‥‥それともネクタイのほうが良かった?」
「これは君の入れ知恵だったか」
「どうだか。ジルが自分で選んだもんだろ」
軽いジャブを当てにいった相手は、メイナード・ソーヤという男。久しぶりの対面だったけど、彼は随分印象が変わったと思う。
「その後、調子はどうなんだ? “人”に、戻ったんだろう」
「ああ。本当に、世話になった。おかげさまで、前よりずっと自分の命について考えるようになった」
だから、か。
前に見たこの男の目は完全に死んでた。希望とか未来とか、何も持ってない人間の目だった。絶望とかそう言ったものしか詰まってない人間に似てた。
「もうちょっと生きてみようって?」
「ま、そんなところだ」
不器用なのは、見ていて歯がゆい。
それは多分、自分も同じで‥‥叔父貴も、親父もだ。生きにくい血筋だよ、全く。
「そういえば、うちの親父とお袋もさ、この前ようやく家に帰ってきてさ」
「‥‥良かったじゃないか」
「あぁ。日本駐留の軍人2人はようやく軍務に切れ目が出来たらしくて」
「軍人だったか。さぞ、長い不在だったろう」
「まぁ、ね。堅物の妹は帰った時はなんともなかったのに、夕食の卓囲んでたら気が緩んで、わんわん泣いてさ」
「‥‥そうか」
「‥‥大変だったよ」
思い出して、少し表情に苦味が混じる。あの時の妹の涙は、くるものがあったから。
どんなに自立していても、どんなに俺が妹の面倒をみていても‥‥親って、親なんだよ。ホント。
大事っていうか、何も代わりにはならないんだよな。そう思うと、本当に‥‥良かったと、思う。だからこそ。
「敬介君も、しばらく実家でのんびりするのか?」
ちらっとメイナードを見る。
お前、俺の話を聞いて思うことはなかったのか?
言うほど遠まわしでもないし、わかりきった話だったろう。俺が言いたいのは、つまり‥‥
(あの2人とずっと一緒にいてあげてほしい)
そういうこと、なんだが。
「敬介君? ボーっとしているようだが‥‥」
「ああもう、だから、違うって。前も言ったけど、俺の話はいいの!」
「いや、いま君の家の話をしていただろう?」
「違うって、俺が言いたかったのは‥‥!」
「いいたかったのは?」
出た、この目だ。オトナのずるさとは違う。相手に逃げることを許さない真っ直ぐで強い目。ジルに良く似てる。
「‥‥別に、いい。直接言うことでもないし」
結局俺は、顔を背けた。
これは逃げたんじゃない。直球でなんて恥ずかしくて言えるか、という全力の抗議だ。
「そうか」
そういって、メイナードは可笑しそうにくつくつと笑う。
それがまた居心地が悪くて、「おっさんも、元気でやれよ」なんて言い残して背を向けたとき。
「たまには“うち”に遊びに来い!」
メイナードはそう言った。解かってて俺をからかったのなら、やっぱりあの男はしようもない男だ。
●家族のカタチ/メイナード・ソーヤ
少しふてくされたような顔をした敬介君が去るのと同時に、先ほどから様子を伺っていたらしき和哉君が現れる。
「身体‥‥“元”に、戻った?」
「ああ、おかげさまで。本当に、ありがとう」
私の返答に、小さく「そう」と応えると、余り表情には出ないものの安心したような様子で彼は私を見上げる。
「リアンさんには?」
「‥‥まだだ」
この少年は、心に闇を抱える故に、人の闇に気付きやすい。というより、闇に溶け込みやすい性質なのだろう。
それが少し心配でもあり、彼が優しい所以でもあると思うのだが。
しばし、互いの間に流れていた沈黙。それを破ったのは、意外にも和哉君だった。
「子供って、どんな経緯を踏まえても‥‥それ以上に親に『愛して』欲しいものだよ。なんて」
「‥‥つまりはあれか。『子供』を甘く見なるな、と?」
「そんな感じ、かな」
「君も‥‥飢えていたんだろう」
少年は否定も肯定もしなかった。だからという訳ではないが、娘にするのと同じように、彼の頭に手を置いて何度か髪を撫ぜた。
途端、彼はたいそう居心地の悪そうな顔で視線を落とす。思わずそれに笑うと、少年は黙って私の手を払った。
「ほら‥‥痛みを知る人間ほど優しくなれる、って。あなたが僕に言ってくれた事だ」
誤魔化すように告げられた言葉だったが、彼が一番言いたいことはこれだろう。
「けどそれは、あなたにだって当てはまるはず、だよね?」
「‥‥そうきたか」
自分の言葉を否定する訳にも行くまいと、困り顔で頬をかいている私の元に二人の少女が顔を出した。
「私も、そう思いますよ」
一人は、柔らかく笑みかけてくる少女、夢姫君。もう一人は、少し表情が薄いながらも皆の言葉に黙って頷く風香君。
「いつか、絶対的な存在の父親の心にも、弱く脆い部分があるのだと気づく日はくる。時間はたくさんあるから‥‥」
「夢姫さんが仰る通り、です。それに、率直に言えば」
「風香君は、いつも率直だと思うが」
「お節介でしょうけど、メイナードさんは直球に言わなければ伝わらないタイプだと思って。ともかく‥‥顔を合わせづらいのは分かりますけど、ただいまぐらいは言ってあげた方がいいですよ」
「はは、君たちの言う通りだ」
そう。ただ、顔を合わせづらいだけだ。理由は多々あるけど、結局はそれに尽きた。私は思わず声を上げて笑う。
タイミングよく、トレイに人数分のグラスを載せてきた青年が、皆にシャンメリーを薦めた。そうして彼は‥‥新は、こう言う。
「まずは、人として帰ってきたことを‥‥メリーXmas、メイナードさん。ようこそ」
「新、お前はいつもおいしいところだけ持っていくな」
何を言うでもなく、青年は心地よい笑いを浮かべ、私に近づいて小さく耳打ちする。
「父親の意地、見せて下さい」
「‥‥仕方が無い」
全く、お節介な子供たちだ。皆、それぞれに愛に飢えたり、愛を求めたり、愛を知り尊さを学んだりしたのだろう。
彼らに言われたら、やらざるを得ないさ。なぜなら、彼らは私や私たち家族だけでなく、この国のメシアだからだ。
「お節介な騎士が場を整えてくれたようだ。息子のところに‥‥行ってくるとしよう」
───結果は、期待するなよ。
●贖罪のうた/霧島 和哉(
gb1893)
Xmas気分で浮かれて鍵でもかけ忘れたのか、偶然侵入できた病院の屋上で、僕は何もささず、ただ雪に包まれていた。
先ほどから降り出した雪は、本当に優しい。僕はグリーンランドの冷たく強い雪をよく知っていたから、これには少し驚いた。
「‥‥‥‥♪」
そんな中、僕は最近癖になった鼻歌を歌い始めた。これは、弱々しいけど、この特別な日を歌ったXmasソングとか言うやつ、で。
なぜこんな曲を知ってたのか? 別に覚えようとしたわけじゃない。街で何度も繰り返し流れるから、嫌でも覚えてしまっただけ。
「♪〜‥‥‥」
“本来であれば”、僕はきっと今日この場にいることなどなかったと思う。
それは、そもそも今日まで命があったことが奇跡であろうこととか。
それは、そもそもXmasなんてイベントに顔を出すなど有り得なかっただろうこととか。
いくつもの要因があったけれど、それらの奇跡がこうして“今の僕”と言う像を得て具現化したのは、僕が沢山の命を踏み越えてきたからだ。バグアの命も、能力者の命も、軍人の命も、そして‥‥一般人の命も。
「‥‥‥‥」
雪に包まれていると、あの街を思い出す。グリーンランドのあの街を。
でも、何もできなかったなどと言いたくはないし、後ろを向こうとは思わない。
僕は、ある少年と約束を交わしたからだ。歪だけれど、確かな約束。彼の分まで、抱えて生きると決めたのだ。
生きるとは、前を向かざるを得ないこと。だから‥‥
「‥‥〜〜♪」
この歌は、Xmasソングの皮を被ったレクイエムだ。
エゴだろうが何だろうが、この歌を、これまで僕が踏み躙ってきた命へ捧げられればいいと思う。
『和哉はサンタさんに何をお願いするの?』
『僕は‥‥いいよ。これ以上、なんて欲しくない、し』
『本当に?』
『そもそも。僕みたいなやつが、願い事を口にする、なんて‥‥』
『ストップ!!』
『‥‥?』
『和哉は、あたしやリアンやお父さんを助けてくれた。それだけじゃない。この国に住むすべての民を救ってくれたんだよ』
『‥‥』
『そもそも、そこから否定したりしないよね?』
『‥‥』
『サンタさんは来るよ、和哉のところにも。衣装のタグにオーストリアのマークついてるかもしれないけどね』
あの少女は、笑ってそう言った。
もし、こんなにも身勝手に生きてきた僕でも、たった一つだけ、願えるなら。許されるなら。
「‥‥今、僕にある繋がりが‥‥なくなりませんように」
燦然と輝く太陽のような、焼け付く光が、胸にある。
そして、その光に寄り添う金色の少女の姿もここにあって。
だからこそ、僕はただ、ひたすらに、それだけを願うんだ。
この、真っ白な雪に。
●あなたと、ともに/秦本 新(
gc3832)&ジル・ソーヤ
▼Side新
パーティは、沢山の子供たちと、そして私たち能力者の満開の笑顔を残して無事に終了した。
そんななか、私は誰も居なくなった病院のロビーで“彼女”を待っていた。
「待っててくれたんだ、ありがとう。リアン、ようやく寝付いたよ」
やってきたのは、いつもの私服に着替えたジルさん。
「お疲れさま。メイナードさんは‥‥」
「うん、今日はね、特別にリアンの部屋に泊まらせてもらうんだって」
「そうですか」
彼女は、とても幸せそうに笑った。憂いなど微塵も見せず。それが、私にとってこの上なく嬉しいことだった。
この笑顔を守ることができたのだと。そう思うと、これまでの苦境も戦いもなんてことないように感じられるから不思議だ。
「‥‥よかった」
言葉少なだけれど、安堵に満たされた思いで一言だけ告げる。
彼女は、何度も首を縦に振っていた。言葉にならない思いは‥‥多分、同じなのだろう。
伝えきれない思い。言葉を選ぶことももどかしくて、用意してきたプレゼントを彼女に手渡す。
「受け取って、もらえますか」
それは、赤薔薇のミニブーケと、銀細工で縁取られたカメオ・ブローチ。
「ありがとう‥‥ブローチのこれ、桜? 綺麗だね」
「ええ。『散らない桜』、です」
バラのブーケを抱えながら、ジルさんは片手でブローチをつけようとする。それが少し危なっかしくて、私は彼女の手から引き取って襟元にブローチをつける。
「散る事の無い桜。ジルさんのこれからが、ずっと春のように、幸せに包まれたものでありますように」
「‥‥うん」
見上げてくる瞳が余りにも真っ直ぐで。父親に似て、口以上に物を言う瞳で。
自分の心の底を見透かされたような気がした。
これまで、言葉にする事を避けて来た想いがあった。
もし。もしも、叶うなら‥‥未来を、共に。そんな想いが、溢れた。
「ジルさん‥‥貴女の事が、好きです」
▼Sideジル
こんな日を、夢にまで見ていた。
叶わないと思ってた瞬間が訪れたことに、あたしの心は大きく跳ねた。
顔が熱い。心臓が破裂して今すぐ死んでしまいそうだ。
「新‥‥あたしもね、あのね‥‥」
なのに、言葉が出ない。なぜだか解からないけど、喉が掠れてしまう。
ようやく「口にしてもいいんだ」って許された、溢れる寸前の気持ち。全て隠さず伝えてしまいたいのに、声にならなくて苦しい。
けど、やっぱり新は、あたしのことを何でもお見通しだった。
───優しい香りが、鼻を掠める。
ゆっくりとした動きであたしを抱きしめてくる腕は、いつもあたしを支えてくれていた腕。
細身だけど、逞しくて力強い腕。まるで、「焦らなくても大丈夫」って言われてるみたい。
新の温度に包まれて、彼の胸に顔を埋めていたら、不思議と涙が溢れてきた。
「‥‥叶うなら、共に未来を生きたい」
あたしの耳元に落ちてきた囁きの深さに、心が締め付けられる。
「‥‥き」
やっぱり声は掠れた。
それでも新は、何も言わないで回した腕の力を強めてくれる。安心する。ずっとこうしていたい。
埋めていた顔をあげると、間近に大好きな人の顔がある。新の優しい茶の瞳には、あたしの姿しか、見えない。
「‥‥すき。すき、新が大好き。もっと、ずっと、一緒にいたい」
ようやく、ずっと前から抱えてた大きな想いを伝えられた。
新の笑顔を見ているだけで、胸がいっぱいになる。胸に詰まってるのは、幸せとか、愛しさとか、嬉しさとか、色んな暖かい気持ち。
だから。間近い距離にある誠実な唇に、自分のそれをそっと重ねてみた。
もっとずっと沢山の想いが、新に伝わりますように、って。
24時。
Xmasの魔法が、解ける。
結ばれたさまざまな想いを、白雪の中に残して───。