タイトル:ミラージュファクトマスター:藤山なないろ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2011/11/08 01:47

●オープニング本文


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「‥‥現場に居た男の人、かぁ」
 先の事件において、現場に反応があったとされる「ジルではない別の人型」の存在。
 背格好から男性ではないかという推測もあるが、あれは一体何であったのだろう?
 逃げ遅れた一般人の可能性と、それ以外の可能性。どちらも考えられる。
 正直、怪しむだけ時間の無駄なのかもしれないと、そう思う心も否定しない。
 あの事件の際、傭兵が避難した街の人々へ情報提供を呼びかけたのだが、
 平穏な街に突如として齎されたキメラ襲来の報せは、現場を混乱させるには十分だった。
 「我先に」と、皆、逃げるのに必死だったのだ。これと言った手掛かりが得られなくても、仕方のないことだろう。

 ただ、双頭の大鷲が現れた時期などの情報。
 最初の事件の妙から、ジルは自分の挙動と何かしら因果があるのではないかと悟り始めていた。
 傭兵達から問われた質問は、暗にそれを示していたから。
(皆、優しいから‥‥あたしに気を遣って言わないだけなのかも)
 いくら鈍くても流石に薄々感づき始めるけどね、と小さく笑って少女は本部を後にした。


 翌朝。
 ホテルの一室で、寝起きのままベッドに寝転びながらジル・ソーヤは古びた布切れを眺めていた。
「‥‥なんだろう、この数字」
 布切れに殴り書きされた数字を眺めてもさっぱりわけがわからず、少女は枕に顔を埋める。
 リアンは「ジルの忘れ物」だと勘違いしていたようだが、実際のところ、これはジルのものではなかった。
(リアンが寝てる時に、お見舞いに来てくれた誰かが‥‥)
 置いていったもの? 忘れていったもの?
 そもそもこんな古びて薄汚れた布切れを持ち歩く人間が居ることに疑問を抱いてしまう。
 そして、意図したか否かはさておき“誰がこれをリアンの病室に残していったのか”、それが最大の謎だった。
「病院のカメラって、見せてもらえないよねー‥‥」
 もしもこの布切れに事件性があって、何らかの手掛かりだと証明できれば開示要請も可能だろうが‥‥
(今は無理だ。病院は患者さんの情報、守らなきゃだもん。‥‥それがわかってて、残されたのかな。でも‥‥)
 謎は深まるばかり。
 布切れを眺めて過ごしても、ただ太陽が昇り、沈んでゆくだけだった。
 ただ、あの日。仲間の提案もあって病室に向かったことは正解だった気がしてならない。
「‥‥いいや、これは一端置いとこう」
 考えても仕方がないと割り切ってしまえば、存外気は楽になるもので。
 ジルは身支度をすると、そのままある場所へと向かった。


 ジルが向かったのは、傭兵達には馴染の場所。
 未来科学研究所(ジルの脳内別称:くず鉄製造所)だった。
 数ヶ月前、自身の錬力金属4個積みのLv2クロスイヤリングで更に金属2個積み強化に挑んだ挙句大失敗させたジルは
 無残なくず鉄を見下ろして『二度とこんなとこ来ないもん!』と涙目で啖呵を切っていただけに。
「‥‥やっぱり、直せない‥‥?」
 仲の良い職員に申し訳なさそうにこう言った。
「そりゃ、無理だって。欠けたから研いでくれとか、そんなレベルじゃないじゃん。そもそも、ここは研・究・所! 鍛冶屋じゃないんだから、ったく‥‥」
「そ、そうだよねー‥‥わかってはいるんだけど‥‥」
「今でこそ中々手に入りにくいかもしれないけど、リベルタリアより良い剣なんて今ならいくらでもあるでしょ」
「‥‥うん」
 ジルにとって、この剣は他の剣と比べるべくもない、大切なもの。
 唯一の父親の形見だったのだ。
「あたしが傭兵になる時に、お父さんがくれたもので‥‥だから、どうしてもこれじゃなきゃ、だめだったの」
 いつもの様子と一転して、気落ちした様子で職員に背を向ける。
「でも、全部あたしのせいだし、仕方が無いね‥‥わがまま言ってごめん」
 そう言って踵を返す少女の小さな背中に、職員は思わず声をかける。
「‥‥センセイの紹介状」
「ん?」
「持ってきたら、できることをやってやる」
「‥‥! ありがとう!」


「‥‥よく、無事でいられたもんだ」
 呆れ顔でジルの話を聞きながら、神経質そうな指でモノクルの位置を正して男は言う。
「うん。皆のおかげで、もう全然平気だよ!」
「‥‥そんな傷跡をつけておいて良く言う」
 ハッと気まずそうな表情で首元を隠したジル。
 そこは、傭兵達が駆け付ける直前、剣が折れた隙に負った怪我が傷跡となってうっすら残っていた。
 他の傷は概ね綺麗に塞がったものの、ここはどうしても痕になってしまったのだ。
「わかる?」
「ご両親が見たらどんな顔をするか‥‥」
 自身も娘を早くに亡くした為か、男はジルの傷を見て酷く苦しげな表情を浮かべた。
「‥‥ごめんなさい」
 ジルは謝りながらも「明日から手を抜かないでちゃんと隠さなきゃなぁ」と、小さく溜息をついた。
 肌に合うコンシーラーをなじませ、その上からファンデーションとルースパウダーで隠せば、まず気付かれることはないはずだ。

「で、紹介状を用意すればいいのか?」
「うん!」
 簡単な書面を手渡しながら、男は手のかかる娘を見守るようにして柔らかく笑んだ。
「‥‥父の形見、か」
 少女は、真摯な表情で静かに首を縦に振る。
「直ると、いいな」
「‥‥はい」
 珍しく敬語で応えて部屋を辞する少女を、男は静かに見送った。


「‥‥護衛?」
「ええ、丁度この間事件のあったウィーンの国立歌劇場で仮面舞踏会が開かれるそうなの」
 本部の受付で、ジルはオペレーターのバニラから話を聞かされていた。
「先日のキメラの襲撃があったばかりでしょう? 念のため、現場に傭兵が居た方がいいんじゃないかって話になったみたいなの」
 少し前まで同型キメラの襲撃が相次いでいたとはいえ、ジルはふと疑問に思ったことを口にする。
「仮面舞踏会? オーストリアの人が、そういうの定期的に開催するのは知ってるけど‥‥国立歌劇場でなんて、考えられない」
 バニラはしばし思案した後、こそっと少女に耳打ちをした。
「ある政治家が定例で開催しているらしいんだけど‥‥上流階級の人たちや政府関係者が多数出席しているみたいなの。それと‥‥」
 苦笑いを浮かべるバニラは、ジルにこう耳打ちする。
「護衛依頼が出された後、匿名で通報があったわ。この舞踏会に親バグア派の組織が潜り込もうとしているようだ、って」
「‥‥? でも、そんな証拠ないんでしょ? 潜り込んで何をしでかす予定なのかもわからないんでしょ?」
「ええ。ただね、1つ言えるのは‥‥この仮面舞踏会が催されること自体、出席者、並びに開催者側しか知りえない情報なの」
「‥‥親バグア派の組織について通報した人が、出席者か開催者である可能性?」
「私からは以上だわ。これはチャンスかもしれないということ」
 ジルはしばし沈黙した後、「‥‥わかった」と首を縦に振った。

●参加者一覧

ベールクト(ga0040
20歳・♂・GP
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
ユーリー・カワカミ(gb8612
24歳・♂・EL
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
黒羽 風香(gc7712
17歳・♀・JG

●リプレイ本文

●真実への道
「病室で布を見た時の様子‥‥おかしかった。あれ、ジルさんのじゃない、よね?」
 高速艇の作戦室に集った一同の中、夢姫(gb5094)は真っ直ぐな瞳でこんな問いを投げかけていた。
「本当は、誰のものだ?」
 同じ疑問を抱いていたイレイズ・バークライド(gc4038)も、夢姫の問いに触発されるようにジル・ソーヤへ向き直る。
「あの時のお前の行動は、自分の忘れ物を指摘され気付いた奴の反応じゃない。お前は‥‥顔に出やすいからな」
 青年の言葉に後押しされると、少女は静かに首を縦に振った。
「‥‥うん。二人の言う通りで、あれはあたしのじゃない」
 あそこで「知らない」と答えたら、弟が気味悪がるのではないかと少女なりに気を遣った結果だったのだ。
 ジルは気になって持ち歩いていたそれをポケットから取り出し、広げて見せる。
 そこには、幾つかの数字が書き殴られていた。
「ここ、端が切れていませんか」
 白く細い指が、古びた布の隅を突く。夢姫が指摘した箇所、数字の左端に“欠け”が見受けられた。
 というよりむしろ、本来の形から布が断裁されていると捉えるのが自然なように思える。
「他にも、切れ端は?」
「ううん、コレだけ‥‥」
 首を振る少女の様子から、これ以上の情報は無いと判断したイレイズは「わかった」と穏やかに少女の肩に手を置いた。
「それはともかく‥‥本当に潜り込んでいるのかどうかも分からん敵を探しだせ、か」
 並んだ情報を前に腕を組んだまま、ベールクト(ga0040)が深いため息をついた。
 だが、目的は「敵を探し出す」事ではない。ベールクトもそれを認識しているからこそ、口ではそう言いながらも思案を重ねる。
「仮面舞踏会‥‥密会するとしたら、都合が良さそうな状況ですね。ただ‥‥」
 黒羽 風香(gc7712)が行き詰ったように首を傾げる。少女には、先ほどから気になることがあったのだ。
「通報した方はどうやって舞踏会の情報を得たんでしょう?」
 通報内容には懸念すべき箇所が複数あった。
 「この舞踏会が公の情報でない」以上、「どうしてこの舞踏会に」「親バグア派の組織が紛れ込むという情報」が得られたのか?
 まず現実的に最も推測しやすいであろう「親バグア派の人間が、この場に紛れ込む方法」について秦本 新(gc3832)が口を開く。
「例えば招待状が偽造されるか、もしくは既存の招待状を用いた成済まし等があったとしたら、紛れ込むことは容易でしょうね」
 幾つかの可能性が考えられるが、うち1つは『招待状を偽造し、故意に会場へ潜入する可能性』。
 これはさらに、招待状を偽造する者が主催者側の人間であるか、否かに分かれる。
 そんな中、新の推察に添えるように夢姫がとつとつと話し出す。
「親バグア派を潜入させるなら、開催者が招待状を偽造すれば‥‥確実、ですよね?」
「それはそうだけど、開催者が偽造って‥‥」
 ジルが混乱した様子で夢姫に問おうとする所を、新が「なるほど」と呟いて首肯し、言葉を続けた。
「つまり、偽造というよりは、『親バグア派の人間を招待』している可能性、ですね」
「でも、もしそうだとしたら通報しないんじゃないか」
 難しい顔をしたベールクトが皆の意を代表するように切り返す。確かにその通りかもしれない。
 だが、夢姫は先ほどから自身の中でゆっくりと滞留していた疑問と解決の糸口を組み合わせるように、確認の意をこめて話し始めた。
「要素を切り分けて1つずつ考えましょう。まず、本部に通報するということは、つまり傭兵が派遣されることと同義といっても過言ではないはずですよね」
 夢姫の言わんとすることを察した新が、少女に同意を示すように一同へ向き直る。
「つまり、“通報者は親バグア派組織のことを見つけてもらいたい”のでは? そして、“通報者は組織の情報を得ている人物”。この人物の背景は大きく2パターンに分類できる」
「『親バグア派組織の人間である場合』と『そうでない場合』‥‥か」
 しばし黙って話を聞いていたイレイズが、要点を理解したように新に相槌を打つ。
「ええ。組織の人間であれば、これは内部告発。そして組織の人間でない場合は、何らかの事情でこの情報を知ってしまい、何らかの意図から通報したということになるでしょう。後者であれば通報者の身元が危険かもしれない」
「ということは、この“通報”は匿名という点も加味すると“何者かの思惑とそぐわないものである”可能性が高い、と言う事か」
 新の説明にようやく合点がいった様子で唸るユーリー・カワカミ(gb8612)へと夢姫が深く頷く。
「可能性は全部、捨てられません。招待状偽造の可能性が有る以上、開催者を調べさせて下さい」
「もちろん。漸くの手掛かり‥‥逃す訳には、いきませんね」
 夢姫の申し出に、新をはじめとした皆が肯定の意を示すと少女は密やかに息をついた。
「とにかく、尻尾だけでも捕らえておかないとな」
 いずれ、ソーヤと黒羽をキズモノにした報いをくれてやる。
 敢えてその言葉は飲み込んだけれども、胸の奥に静かに炎を揺らめかせながらベールクトは拳を握り締めた。

 作戦会議が終わった後、高速艇から窓の外を眺めながらイレイズはあの日のことを思い返していた。
(現場に居た男、あれは一体‥‥)
 前回の事件のこと。住民が避難を終えたはずの街中に、ジル以外の人型の反応があったという妙。
 あの時、ジルがその場で戦った時間は決して短くはなかった。
 もし住民なら、ジルが戦っている間に逃げることも十分出来たはず。
 イレイズが引っかかりを覚えたのは“ジルが男の存在に気付いていなかった”と言う事。
 つまり、身を隠しながら、それでも少女の近くにいたのだろう。
(目的はなんだ? 影からジルが戦うところを観察していた、のか?)
 ちらりと少女を見やれば、ジルは風香や夢姫らと先ほど手渡したチョコレートをつまんでいる所。
「まさか‥‥な」
 謎は未だ暗雲の中にあったが、しかし、その歩みを止めない限り、前に進んでいる事だけは確かだった。

●ミラージュ/造られた幻想
 会場に着いた一同は散開し、それぞれ開場までの下準備に取り掛かる。
 そんな中、夢姫はある相手に向かって無邪気な笑みを浮かべ、普段より丁重に挨拶を交わしていた。
「本件で護衛を務めさせて頂く夢姫と申します」
 その相手とは、彼女が接触を希望していた本舞踏会の主催者に他ならない。
「どうせキメラなど来ないだろうが、自分の身が何より惜しい上流階級のミナサマだ。余り気負いすぎず、適当に存在を主張してくれればいい。私は不要だと言ったんだが、秘書が護衛をつけろと煩くてね」
 大変顔立ちの整った30半ば頃に見える男は、落ち着いた笑顔を貼り付けてそんな台詞を吐いた。
 その言葉の毒気に少々面食らいながらも、夢姫は素知らぬ振りで握手を求める。
「畏まりました。改めて、宜しくお願い致します。ええと‥‥」
「ああ、申し遅れた。私はこの国の国民議会議員を務めているユリウス=ロートリンゲンだ」
 ユリウスと名乗る政治家は、笑顔を崩すことなく求められた握手に応じた。
 棘のある言葉と笑顔の向こうにある信じられない程の自信が気にかかった夢姫は、男の威圧にも一歩も引かずに食らいつく。
「あの‥‥実は依頼を受ける時に、注意事項があって」
 これは、ブラフだ。
 少女は無邪気を装い政治家へ攻めの一手を投じる。だが、男も何かに気がついたのかもしれない。
「私から特に何か指定した覚えはないが? ぜひ、依頼者として聞いておきたい」
 存外頭の回る男だと、少女は舌を巻く。
「大きい武器は避けるように、と‥‥」
「それは確かに気をつけてもらわなければ、な。私の指定ミスだ、失礼した」
 少女の答えに満足げな表情を浮かべると、男は礼もなくさっさと背を向ける。
 去り行く男はまるで“キメラが来ないことを知っているような”驕りに満ちた態度であった。

●ファクト/掠めた真実
 仮面をつけた男女の楽隊がフロアへ配備され、華やかな音楽が宴の開催を告げる。
 開場に集った人々は一様に着飾り、そして仮面を身に着けた。
 ここでは、誰しも“本当の自分”を隠している。過去も、何もかも忘れて、ひとときの享楽を得る為に‥‥。

「そちらの班は頼んだよ。恐らく捜索の要になるだろう」
 作戦開始前、最終確認に集った傭兵達の中でユーリーがジルにそう告げた。
 真摯に受け止めた様子でジルが確かに頷くと、それを見届けて青年は柔らかい笑みを浮かべる。
 それは、ほんの少し口角を上げただけの、彼らしいごく小さな笑みだった。
「だが無理はしないようにな。何か不審に思った事は遠慮なく言ってくれると、こちらも助かる」
「ありがとう。ユーリーも、無茶はしないで。困ったら、皆を呼んでね」
 互いに硬く握手を交わすと、各担当に分かれて広い会場内へと一同は散ってゆく。
『劇場内、休憩室や廊下の見回りを完了。こちらはいずれも異常なし』
 夢姫と行動を共にするユーリーから、一斉メールによる定時連絡が入る。
 それは無線という手段を使わず、イレイズが手配した携帯電話のメール機能を用いて行われた。
 一方、ベールクトは休憩時間を盾に、姿が見えなくなったのを主催者側から不審に思われない頃合を見計らって、来場者に紛れ込むことに成功していた。
 強制されていたIDと自発的に身につけたカツラを外し、タキシードを纏い直すと仮面を装着。
 他の来場者が目を見張るような美しい佇まいでフロアへ足を踏み入れた。
 「一人でうろうろする不審さを回避すべく、男女ペアで行動をするのが良いのでは」というジルの提案から、ベールクトの傍には同様に変装しドレスに身を包んだ風香の姿があった。
「適当な参加者に声を掛け‥‥」
「いや、見当はつけるべきだ。場に浮いている者から優先的に話を聞くぞ」
 密やかに交わされる会話は、親密な男女のやり取りにしか見えないだろう。
 場内に溶け込んだ2人は、ベールクトの提案に沿い情報収集を開始した。
「ごきげんよう。賑やかな舞踏会ですね」
 愛らしくドレスの裾を摘んで膝を軽く曲げる風香へと、来場者は同様に挨拶を交わす。
 日常会話から自然と距離を縮め、徐々にキメラ襲撃や軍についてなど話題を変えていったものの、それには“興味がない”といった様子が多かった。
 話題といえば「あの人がどんな事業でどれ位の収益を上げた」だとか、そういった類の詰らない事ばかり。そんな中‥‥。
「そういえば、4月頃から何か様子が変わった方はいらっしゃいませんか?」
「どうして?」
「え、と。少し、人探しを‥‥」
 突然の質問に、来場者が困惑の色を浮かべた。
「それなら、秘書などに申し付けては?」
 扇で口元を隠し、余所余所しい態度でこう言い残すと、相手は風香達のもとを去っていった。

 同時刻。
 イレイズ、新、ジルの3名はIDカードと仮面を着け会場内の警備を担当していた。
 華やかなフロアを見渡していた新の慧眼が捉えたのは、ある男の姿。
『会場内、1件HIT‥‥』
 携帯電話に極力視線を落とさぬよう、それを片手で繰りながら新が各位に一斉メールを送信。
 気にかけていたのは、会場内にてそぐわぬ行動を取る者。これは他の面々と同様の捜査法だったが、しかし。
『‥‥ジルさんを見ている男がいます』
 特定の条件下でのみ現れる動作を捉えたのは、この班の面々だった。
 イレイズも、新から共有された情報に血の沸くような感覚を覚えたが、それを隠して平静を装い警備を続ける。
 新達がマークを開始した人物は、身長約185cm。
 体格が良く、首や手の皮膚の様子から恐らく中年といえる年代の男性であると見られる。
 明るい茶の髪に、品の良いスーツを着た男。それが、なぜ警備中のジルを見ているのか。
(何故、彼女を? これまでの事件は彼女に対して悪意や執着を感じるものが多い‥‥これでは、何か縁のある人物が関与しているという見解に辿り着かざるを‥‥)
 新の思案が結論に到達する直前、突如男が移動を開始。
 だが、同時に、緊張感の走る傭兵達の手元で携帯電話が一斉にバイブレーションする。
『場内で行動の不審人物を発見。主催者を追って廊下に出たぞ!』
 ベールクトからの連絡に、すぐさまユーリー達が動いた。けれど、新は目の前の男へ感じる懸念を捨てられない。
『此方は‥‥別の男を追います』
 新の下した決断は、“この男”の尾行だった。

●SideA
「様子がおかしかったとはいえ、問題が無ければ押さえられませんね‥‥」
 主催者を追って廊下へ出てきた不審人物を認めると、ユーリーが小さく呟く。
 政治家相手の話ともなれば、単純に密談である可能性も否定できないだろう。
「主催者は脇の控え室に入ると思われます」
 施設内を把握していた夢姫が、ユーリーに小声で情報を加える。
「2人が同じ部屋へ入ったら、振動感知を行う」
 だが、スキルでは音の原因を捉えることが出来ても会話の内容が解る訳ではない。
 主催者の男はその後不審人物との会話を終えたのか、何事も無かったように部屋を出て行った。

●SideB
「先程から彼女を見ていらしたようだが‥‥何か、用件でも?」
 会場の外。出口に向かっていた仮面の男を、イレイズが呼び止めた。
 振り返った男の表情は仮面に覆われ、わからない。だが、男は静かに首を横に振った。
 せめて何か男の口から語らせるには?
「まだ舞踏会は続きますが、もうお帰りですか? 途中まで、お送り‥‥」
 言いかけた新を、男は朗らかな笑い声で遮る。
「えっ‥‥?」
「結構だよ、ナイト君。会場の警備が仕事だろう?」
 突然息を呑んだジルをよそに、心地よく響く深いバリトンを3人の心に残して男は再び歩き出した。
 だが、その背を見つめていた新が、男のポケットからハンカチのようなものがするりと落ちたことに気付く。
「あの、何か落とされ‥‥」
 追いかけて拾ったその“布”に気をとられた一瞬の隙。
 男は迎えのリムジンに乗り込み、姿を消した。
 新の声は容易く届いたはずの距離なのに、一度も振り返ることもなく。

●リンク
 一方、アイゼンシュタットの病院。
 リアンが眠りに付いた頃、少年と共に半日を過ごしていた愛梨(gb5765)が、午後の回診に来た医者と看護婦にそっと話しかけた。
「この間からジル以外でリアンの見舞いに来た人はいる?」
「そういえばこの間からリアンくんには沢山見舞いが来ているね。ほら、お姉さんとお友達の方が一緒にいらした日だ」
「あぁ、傭兵のお知り合いの方も後からいらしたのでしたね」
「後から? どんな人か、覚えていますか」
「お知り合いではないの? 背が高くて、体格の良い男性だったわ。歳は40代半ば位かしら。朗らかな笑い声が感じの良い方だったけれど」
 そこまで耳にすると、愛梨はハッとした様子で口元に手を当てる。その強い瞳は、真実の欠片を捉えて離さない。
「‥‥詳しく教えて」