タイトル:【東京】静かの陸を往けマスター:藤山なないろ

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/08 15:31

●オープニング本文


 箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川。

 ──遥かに遠き昔。
 静岡が箱根は東海道最大の難所と呼ばれた時代があった。
 「箱根八里」とは、実際距離の事を指す訳では無く、一般に三島から箱根山辺りの険峻な山道を謳った言葉。先の詩は有名な歌人がこの難所に対し贈ったものなのだ。
 ここを越えるにひとかたならぬ苦労があったとはいえど、実はこの箱根八里、馬に荷を乗せても越えることが出来るほどのもので、『東海道最大の難所』は別の場所にあったと言う。

 場所は移り。
 丁度、静岡市〜浜松市の中間に当る平野に大きな一級河川が流れていた。
 名を「大井川」と言うこの川は、古くから氾濫が多く、「暴れ川」として随分名を馳せたそうだ。
 江戸時代、軍事的要害となる川には橋を架けさせなかったという話があるが、この大井川はその典型例とされている。
 ‥‥つまり、これほどの大きな河川にもかかわらず、橋がなかったのだ。
 今日に渡る歴史的資料も、バグアの手にさえ落ちていなければ見る事は出来るのだろうが、この大井川を越えずしてはここより以西にも以東にも進むことが出来ない。
 要するに、旅人達はこの暴れ川を『人の足』で越えたのだ。これが、東海道最大の難所と謳われる所以。
 季節により流量も異なり、大雨の後や梅雨時期以外にも「川留め」となり渡河禁止となることは決して珍しくは無い。
 裕に一月は足止めをされることもあり、この大井川を望む町「島田」は大層栄えた名のある宿場町となった。

 そして、時は移ろう。
 歴史ある宿場町は、いつしか川に架かった1つの橋によって、その経済効果が薄らぎ、静かに密やかに衰退していく。
 残るのは良質な茶畑と、世界最長の木造建設大橋のみ。
 そんな広がる牧の原台地を望む静かな田舎町に、ある時、激震が走ることとなった。
「静岡国際空港建設」
 候補地はいつしか予定地となり、周辺の土地の買収も着実に進んでゆく。
 様々な思いを乗せた空港開港計画が、動き出した矢先のことだった。
 ‥‥そこに訪れた強襲。
 バグアと言う絶対の恐怖が、関東の広域を支配し始めたのだ。
 空港の建設は、いつしか、バグアのための基地としてその趣旨を変えて行った──。



「‥‥は? 今何と‥‥」
 ジョエル・S・ハーゲン(gz0380)は、無愛想な表情に加え眉間にしわを寄せて問い返す。
「何度も言わせるな。東京解放作戦に当り、その手前に構える静岡国際空港予定地を利用したバグア基地について攻略を開始する」
 一之瀬・遙(gz0338)大尉の言葉から、僅かな間があり。
「それで、基地の制圧を我々に‥‥」
「もちろん軍部の指揮官も同行するが、何か不服でも?」
 先の極冬大規模作戦の終了から間髪入れずに走りだした東京解放作戦。
 まだその傷の癒えない者、後始末に手の塞がっている者が多いのは事実。
 ジョエル率いる小隊Chariotは大規模作戦等を中心に、軍部の要請にこたえる形で様々な依頼をこなしていた精鋭集団。
 話が来るのはおかしな話ではない。だが、現在は小隊の人員が万全でないのだ。
 出動を俄に躊躇う気持ちがあったが、そのジョエルの足を動かす決定的な出来事が待ち受けていた。

 本件の舞台となる基地において、一之瀬大尉と敵の無線通信を聞いたジョエルは、ある事に気付かされた。
 敵エース部隊を率いるのは、元南部和人一佐。
 大尉とのやり取りから察するに、恐らく一佐はその家族や、自身が率いる多くの部下の命を人質に取られているのだろう。
 そして彼はその身体を強化されている。もしかするとそれは、彼の部下や家族を守る為に迫られた事だったのかもしれない。
「‥‥如何しますか。人質について、自分は可能なら救出すべきと‥‥」
 咄嗟に、ジョエルはそう進言していた。だが‥‥。
「止めておけ。手を抜いて勝てる相手ではない」
 一之瀬大尉は、ジョエルに同調しようとした傭兵ごと、まとめて牽制するように言い放った。
「作戦は始まったばかりだ。
 ‥‥情に流されて、ここでつまづくわけにはいかない。それは、南部一佐自身もわかってのことだ」
 重みのある言葉。
 南部一佐を良く知る大尉、その彼女が言うのだ。
 彼女の表情からそれを読みとる事は出来ずとも、目の前のこの人が不器用な人であることくらいは分かる。
 それ以上、ジョエルは何も言う事は出来ず敬礼の後に退室した。

 胸の痛む思いがした。
 一之瀬大尉も、南部一佐も、そして‥‥ジョエル自身も。
 皆、触れるのもためらわれる程に不器用で、真っ直ぐだった。


「東京に向けて侵攻し始めた、だと」
 切り揃えられた清潔感のある白髪交じりの黒髪が、椅子の背から僅かに見える。
 椅子に座した男は、ただ壁面となっている強化ガラスの向こうの空と、山を覆う緑を見ていた。
「ここァ要ですよ、連中の名古屋基地から東京へ攻め上がるこた厳しい‥‥近い将来、必ずここは攻められますねェ?」
 続く報告に、革張りの椅子が半回転して室内に向き直った。
 現れた司令官・荒浪 昇の苛立った表情を目の当たりにしても、その部下たる報告官は顔色一つ変えずに話を続けた。
「初手から南部の部隊をぶつけるのが宜しいかと」
 顎に触りながら、どこか余裕そうな笑みを浮かべた報告官アヴァリスに荒浪は眉を顰める。
「南部と奴らを接触させても、問題はないのか。人間を目の前にして、ヤツは‥‥」
「いやァ、それは無いでしょう。ヤツの『心臓』は手の中だ」
 報告官がもったいぶる様に、殊更ゆっくり、ねぶるように指先を動かす。
 ややあってついたモニターには人間の女性と、子供の姿が映った。
 突如、そこへ落ちてきたミサイルの雨。基地内の全アラートがけたたましく強襲を告げる。
「想定より、早いか」
 荒浪は深く座ったまま、慌てる様子もなく机の上で手を組み合わせる。
「‥‥任せて頂けませんかね」
 強かな笑みの奥、何を考えているのか掴みどころのない男の本音がちらりとのぞいた。
 しばしの沈黙に、ミサイルの砲撃が間を持つように次々爆音を鳴らす。
「南北からミサイルによる射撃‥‥恐らく、基地を相当数が囲っている。この1度の襲撃で、攻め落とす気だ」
 荒浪から慎重に言葉が紡がれる。伝える内容を、じっくり選び取るように。
「ここに何人も近づける事は許さん。奴らを追い返せ」

 アヴァリスの退室した部屋。
「‥‥消えて久しい割に、存外正義感の強い身体だな」
 荒浪は嘲る様に笑う。ヨリシロの脳裏に浮かんだのは関東に攻め入った時の記憶。
 この体が知事で在った頃、守ろうとした人間達の姿が次々と浮かんでくる。守りたいと強く願う想いが胸中に芽生えては消える。
「足掻くな。弱者は奪われ、虐げられる。もはやお前に『持つ』権利はない」
 くつくつと、こらえる様な笑い声が響いた。
 それは、静岡国際空港予定地跡に建設された基地の中で。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 どうか、人類があらゆるものを『越える』ものであって欲しいと願う。
 過去を越え、危機を越え、数多の屍を越え。
 そして今、眼前に流れる『試練』を、越えるように。


「帰って来た、のか‥‥」
 エピメーテウスから、鈍名レイジ(ga8428)は言葉少なに地上を見ていた。
 降り注ぐミサイルの雨が地上に渇きと炎を産み付け、静岡空港に変わり建設された基地の東西からKV隊が襲撃を仕掛けている。
 けれど、瞳に映る空は青いままだった。記憶が当時の空とリンクするから、余計、違和感と怒りが胸中を満たしてゆく。
(長閑で暮らしやすいだけがウリだってのに)
 くすぶっていた炎は懐郷と追慕の念により静かに燃え上がり、レイジは久々の帰郷にあってもゆっくり感懐を抱く事はできず、拳を握りしめた。
「‥‥こんな物騒に、しちまってよ」

 輸送機がいよいよ最高速度到達。鈍色の雨を潜り抜けながら、目標地点へ真直ぐ突き進んだ。
 敵機の出迎えがないのは、南北の奇襲、西の強襲、東の追撃による挟撃が成功を収めた賜物。
 基地入口と思しき場所へ無事着陸した輸送機から、能力者達が一斉に降り立つ。
 地に足をつけ、空気を吸い込むと、懐かしい匂いが感じられた。
「故郷をとりもどす‥‥! ぜったいとりもどす!!」
 相澤真夜(gb8203)は、まだ見えぬ先の故郷に想いを馳せる。
 基地は真夜の帰郷を阻む壁のように、そこにある。
 東京まで近いようで、まだ遠い。
 真夜は、その手首に輝く腕輪と蠅弓を抱きしめ、一度だけ深く呼吸した。
「これがあれば、私、絶対勝てる気がするの‥!」
 身近に大切な存在を感じていれば、強くなれる気がする。想いを胸に秘め、真夜は再び前を向いた。
 そんな彼女の背を見つめながら、粛々と準備を終えた蒼河拓人(gb2873)は想念を浮かべる。
(‥‥東京を取り戻す、か)
 拓人自身には、東京について、まして本件について因果は無い。
 けれど、義理の姉と慕う真夜の故郷であることは、記憶に留められていた。だからこそ。
「それなら自分が全力を出す理由には十分だな」
 とんとんと足をならし、首を回して体と気持ちを整える。全ては、これから始っていく。

 傭兵達は2人1組で別れ、現在地を起点として捜査の為に散開しようとしていた。
 その時、重厚な駆動音が響く。その音は、ミルヒ(gc7084)の駆るバイクから放たれるものだった。
 それにUNKNOWN(ga4276)が跨る。2人は人質救出班として名乗りを上げていた。
「私達が生き残るために利用できるものは利用しましょう」
 ミルヒの周囲に白い燐光が舞う。それは、覚醒の印。
 彼女らは、他の傭兵達より遥かに高い機動力を持つバイクで突入を予定している。
 全ては自らを囮とし、敵を引き寄せる為。そして、一縷でも可能性があるのならば、その人質を利用する為に。
「ここで失敗‥する訳には、いかないですよね」
 御鑑藍(gc1485)が、先の見えない暗き箱を臨み、息をのむ。
 本作戦の最重要課題を、沢山の人々に託されたこと。その大きな重圧を抱え、それでも藍は先へと踏み出す。
 藍を見守っていたジョエルも、小さく息を吐いた。‥そこへ。
「よっ!」
 ジョエルの背を豪快に叩く少女の手。
「そんな顔して、まーたなんか小難しい事考えてたんだろ?」
 驚いて振り返れば、けろっとした顔で明るく笑む空言凛(gc4106)の姿があった。
「あんま自分のペース乱すなよ? フッフッフ‥‥敵の基地に殴り込み! いいねぇ、燃えるぜ」
 凛はさりげない優しさを贈ると、なんでもないように基地へと入っていく。
 ジョエルには、この重責にも決して変わることのない彼女の芯の強さが、羨ましく思えた。


 ミルヒ達を視界の端に認めながら、緋沼京夜(ga6138)は紫煙を吐き出すと、咥えていた煙草を捨て、足で火を揉み消した。
 京夜の胸中に過る想いは何であっただろう。
 間‥‥ややあって、京夜は奥へと歩を進め、その背を追うように他の傭兵達も基地へと進入する。
 彼らは京夜の指針に基づき、司令官捜索及び討伐を最優先事項として掲げ、手探りで進んでいった。
 これは非常に慎重でありながら、大変的確な作戦だった。
 2人1組という少数に別れながらも、距離を極端にあけないことを前提とした為、奇襲にも速やかに他班が駆け付けた。
 合流地点にはERが構え、傷を癒し、そしてまた先へ進んでいく。基地は、順調に暴かれていったのだ。

 5度目の散開の時の事。
 2人の強化人間を屠ってもなお、平然としていた京夜達の前に突然隔壁が現れ、進路を遮断した。
 壁がその先に隠したものを想像すれば、ここは進むべきと判断して間違いないだろう。
 後方支援を呼ぶまでもないと、京夜が構えたのはパイルバンカー。
「止められるとでも思ったか」
 隔壁に突き立て、同一個所への高速連続攻撃を繰り出す。
 元より高い貫通力を誇っていたが、豪力発現を纏った京夜によってそれは比類なき突破力となり、障害を難なく取り去った。
「‥‥封じても、無駄だ」
 京夜達の前に現れたのは、情報を取り扱う主要設備の1つだった。

 一方。
 バイクで派手に走行し、敵誘引を狙っていたミルヒ達。
 敵の注意を引く事が目的ならば、規則的に並ぶ1つ1つの部屋を開ける為に都度バイクを乗り降りして中を確かめる事は得策では無い。
 予定通り、ミルヒは速度を高め運転に専念した。
(‥最悪な展開は、沢山考えられる)
 けれど、ミルヒは救出行動そのものに意味があると判断し、真直ぐに進んでいく。
 派手に侵攻する両名は駆動音や機動力の高さも相まって、見事に敵の注意を引いた。
 ここまでは狙い通り。しかし、ある長い直線通路に差し掛かった時。
「前方に強化人間‥!」
「いや、後方にもね、いるのだよ」
 通路前方と、自分達の後方から挟撃を受ける。囲まれたのだ。
 それまではUNKNOWNのエネルギーガンで全ての障害を難なく屠ってきたが、敵にも学習能力はある。
 2人を止めるにはUNKNOWNの射程外から一斉射撃で潰すのが適切と判断し、敵は光線銃を構えた。
「少し、面倒だね」
 前方2体、後方2体の敵から繰り出される銃撃。
 後方からの攻撃は、後部座席のUNKNOWNがその背で完全に受け切った。
 驚くべき事に、ダメージは然程ない。
 しかし、前方からの弾4発の内、3発がミルヒに命中。
「‥‥っ!」
 致死に近いダメージを負い、意識を失ったミルヒ。2人を乗せたバイクは派手に横転した。
 それでも即座に体勢を立て直したUNKNOWNはミルヒに接近。練成治療を5連打叩き込むと、ようやく少女が目を開ける。
 しかしその間も攻撃が止む事はない。再び致命傷を負ったミルヒにまたも5連打の練成治療。
 UNKNOWN自身は大した傷でなくとも、治療に手が塞がり、攻撃に転じる事が出来ないのだ。
 減らぬ敵数、止まぬ銃撃。そして、身動きが取れなくなった。
 なんとかミルヒの身体をバイクの影に寝かし、それを盾に利用しながらUNKNOWN自身の身体へその後の攻撃全てを引き受ける事で、ミルヒの息は絶えずに済んだ。
 銃撃の嵐の中、小さく息をついたUNKNOWNは全神経を集中させた───。

「ミルヒさんが重体。それを守る為に、UNKNOWNさんも動けないようで、救援信号が届いてます」
 手元のPDAを確認したER。そこには2度目の情報伝達が届いていた。
「どうやら、このポイントにいるようですね」
 それを見た藍は、先程京夜達が発見し入手した基地情報を元に、座標を照らし合わせていく。
「彼らの通ったルートなら、敵も蹴散らされた後だろう。短い時間で合流できるかもしれない」
 拓人は2人の状況を思い、小さく溜息をついた。
「でも、あの人なら自分で癒しながらそれなりの時間耐えられそうだけど」
「っし! ともかく、行こうぜ!」
 パシッと拳と手のひらを重ね合わせる音が響く。凛の合図に、一同は重く首肯した。


「この長い通路奥、曲がった先の通路にミルヒさん達が‥‥」
 藍の声は、数発の銃声によってかき消された。
 前衛として前方を走っていたChariotのPNの全身複数個所から多量の血液が噴き出し、通路脇へと転がった。
 後方のERが駆けより治療を開始するのを横目に、拓人が鋭い視線を送る。
「‥‥随分、お早いお出ましだ」
「相当派手な者が居たからね、思わず出てきてしまった」
 通路の奥、傭兵達の遥か前方からスーツ姿の男が此方を見ていた。
 男は、両手に1丁ずつ拳銃を構えながら、器用に武器をカチカチ鳴らす様にして拍手を送っている。
「うちの報告官を乗せたティターンは大破。南部を含めたエース部隊も、先程自らその命を散らしたよ」
 くつくつと笑い声をあげてはいるが、男の目は笑ってはいない。
「人間は、我々の予測より遥か急速に力をつけたな。面白い‥‥いや、素晴らしい」
「‥‥黙れ」
 男の言動をまるで無視するように、京夜は無言でサタンを構え、そして駆ける。
 レイジは眼前の男に見覚えがある様な気がしていた。それは、長年地元の県知事を務めていた荒浪という男に酷似していて。
「君達を、この地を治める立場として、歓迎しよう」
 そして、悟った。知事の末路を想えば、拳に更なる力が籠る。
「今はただ、倒すことしかできないが‥‥」
 響く発砲音。荒浪の構えた二丁の拳銃が弾を吐き出すと、同時にレイジのコンユンクシオが大上段から一度振り下ろされた。
 それは真空の刃を放ち、京夜めがけて射出された銃撃を弾き飛ばす。しかしもう1発がレイジの脇腹を貫き、血飛沫をあげた。
 距離、50m。まだ射程には届かない。けれど、体が悲鳴をあげても走り続けた。
「その無念を、晴らせるのなら」
「‥‥何のことだ?」
 ただ、一心に、ヨリシロの『体』に伝えるように。
 怯まず接近する前衛へと焦ることなく荒浪は銃撃を続ける。しかし、そこへ。
「ほらほら、あぶないよっ!」
「‥‥!」
 京夜の後方、夜色の弓から放たれる矢が傭兵たちの頭上を通り越えた。
 放物線を描いた軌跡は、そのまま敵の目元と狙いをすまして空を裂くも、荒浪はそれを回避。
 しかし、例えそれが回避されたとしても、回避行動をとり、隙を生ませる事は非常に大きい。
 荒浪が行動力を消耗する中、その間も京夜達は駆けた。距離、残り20m。
 だが、それでも余裕の表情を崩さない様子に、凛が表情を曇らせる。
「なんか企んでそうだな‥‥ん?」
 疑念に満ちた心が五感を研ぎ澄ませたのかもしれない。戦闘音にまぎれ、後方から何らかの音が、聞こえた。
 別戦域からの引き上げ部隊を留意し、奇襲を警戒していた拓人も、凛同様にそれに気付いた。
「どうやら、挟撃を狙われているな」
 ならば、と。虹の様に七色に煌めく瞳が一際強く輝く。
「手伝いを頼めるか。後ろは自分達が処理する」
 同行するDFとCAに前衛を依頼し、拓人がアラスカ454を構える。
「ッチ、しゃーねぇ、テメーらの相手は私がしてやるよ!」
 凛はヨリシロに背を向けると、即座に瞬天速で後方に現れた強化人間の懐へと潜り込む。
 乱打という言葉に相応しい様で、凛は拳を何度も顎や腹へと叩き込んだ。
 その隙に、迅雷で接近した藍が強化人間の側面に回り込み、翠閃を抜刀。
 煌めくような一撃が、太刀筋を残して敵の腕を斬り落とす。
 主から離れた『腕』であった肉片はごとりと重い音を立て床に衝突。肩口から噴き出す赤に身を染める藍。
 それでも少女達は手を休めない。手の届きそうな未来に、沢山の人々の想いを届ける為に。
 そして残る強化人間の体へと向けて、拓人がトリガーを引く。
「さあ、やろうか。喰らいつくすよ」
 回転式拳銃から、重く、銃声が響いた。

「させない‥‥!」
 真夜の矢は、目元から足元へと転じ、そして放った1本が荒浪の右足甲を穿ち、基地の床をも刺し貫いた。
 痛みに顔を歪めるも、蹴り飛ばすように右足を振り抜き、ヨリシロが、咆哮する。
「ごめんね‥‥すぐ楽にするから。‥‥ごめんね」
 その光景に、真夜は心を揺さぶられていた。沸き起こる良心の呵責。
 けれど、それでも次の矢を番える。これ以上の苦痛を長引かせない為に。
 距離、0。完全に捉えた。
 レイジの大剣が、紅蓮のオーラを纏う。
 赤胴色に輝く左眼、ひび割れた瞼の赤から迸る火花が烈火のごとくに勢いを増す。
「悪いな。この静かの陸で、眠ってくれ」
 インパクト時の強い衝撃で叩き潰すように振るわれた長大な剣が、荒浪の腕を砕き、その勢いのまま胴部へめり込んで吹き飛ばす。
「ッ‥‥! 貴様っ!」
 そして大きく体制を崩したそこへ、魔剣がその手を伸ばした。
「俺には俺の守るべきものが‥‥。そして‥‥復讐があるんでね」
 京夜の握る烏羽色の剣が、瞬間地獄の業火の如き禍々しい気を立ち昇らせる。
 サタンが発する憤怒の炎は、京夜自身から立ち昇るオーラに飲み込まれ、更に赤く、強く、輝いた。
「実に惜しい。お前は我らの欲する器に相応しい」
「‥‥一足先に、逝け」
 誰に怨まれても構わなかった。ただ、京夜の行動理念は彼自身の復讐への道程。
 崩れた体勢からも尚、荒浪は京夜へ銃口を向け、放つ。しかし、強い感情は痛みを凌駕していた。
 炸裂する天地撃。強制的に切り上げられた荒浪は言葉を失う。
「レイジ、来るぞ」
「返してもらうぜ、俺達の町を」
 赤を纏う2名の傭兵が放つ、渾身の斬撃。
 壁に叩きつけられた荒浪が床に崩れ落ちるのと同時に、アラートが鳴り響いた。
 今までとは異質の音。明らかに高レベルの警告を示しているのが解る。
「おいおい、大丈夫か?」
 後方の強化人間を討伐した凛達も、少しずつアラートの間隔が狭まっている事に気付く。
 そこへ、ミルヒを背負ったUNKNOWNが現れた。
「強化人間達が、血相を変えて散開したよ。基地の自爆が、始まるようだ」
「!!」
 だがここで改めて、捜索中に凛と藍が発見したという労働を強制されていた人々の存在が示唆される。
 基地全てを探索し終えていないが、この状況で成せる事は極少ない。
「ミルヒのバイクがね、その先に残っている。頼めるかな」
 UNKNOWNの声に、凛と藍は共に瞬天速で移動を開始。
 すぐ後に、脱出を開始する一同の脇をすり抜けて、凛達を乗せたバイクが労働者達の元へと駆けて行った。


 ERが情報伝達を飛ばし、エピメーテウスを基地入口につける。
 能力者達は全員脱出し、これに乗り込むも、凛達の姿はまだない。
 2人と縁の深いジョエルは拳を震わせながらもそれを待ち、離陸をぎりぎりまで引き延ばす。
 そして‥‥
「すみません、お待たせしました!」
 藍が、凛が、そして10余名の人々が崩れゆく基地から姿を現した。

 エピメーテウスが離陸した後、基地は猛火に包まれた。
 青い空は、地上の炎が天高く届くように複雑な色へと溶けて変わってゆく。
 高く舞い上がった輸送機の中、真夜はまだ見えぬ故郷を思った。
「東京は‥‥まだみえないね」