タイトル:とある軍人の憂鬱マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/17 01:36

●オープニング本文


『だからね、頼むよシアン。隣のマーサさんも向かいのコリンさんも付き合いが長いんだ』
 耳に押しあてている受話器からは、聞きなれている男の声がする。
 が、シアンと呼ばれた青年は見るからに嫌そうな顔のまま、ペンでメモをこつこつと叩いた。
『犬がビビってギャンギャン吠えるし、カボチャは変に穴があいて出荷できない。ダブリン周辺じゃ、市場がこれからだってのにカボチャが足りなくて困ってるらしいぜ‥‥不満そうに相槌打つなよ。そう嫌わないでいいだろ〜?』
「俺は依頼自体の事は何も言っていない。だが、少し違うのではないかと――」『違わないって! だって、ホラ‥‥えー、あの未知なんたらってのも、軍と似たようなものだろ』
 シアンの言葉を遮りながら、電話越しの男は勝手に納得をした様子である。それに対してなおも訂正しようとするシアンだったが、それもまた叶わぬ事だった。
『っつーわけで、早速パンプキン野郎をブッ飛ばしてくれ。頼んだぞ。家に帰ったら新製品の黒ビール飲もうぜ』
 と、一方的に喋り終えると切られてしまった。
 ツー、ツーという規則正しい電子音を鳴らす受話器を乱暴に本体へ戻し、シアンは額に手をやりながら『そうじゃない』と首を横へ振る。白い手袋をはめた手の甲に、黒い前髪がさらりと触れた。

「なんで一般回線から、ロクにチェックもせずここへ通されているのかという話だ‥‥!!」

 どこのオペレーターが通しているのかは知らないが、一日に何度もこうしてかかってくるのはおかしいだろう。関係ないが何度も『cian』だと言っているのに書類に『cyan』と名前の文字も間違って書かれるし、最悪だ。
 重い溜息をついたのち、再び受話器を握ると内線を鳴らす。
 電話に出たオペレーターへ、『あの暇な酒屋から電話を通すなら、きちんと内容まで確認してからにしてくれ』と伝えると通話を終え、今度はULTへと電話をする。

「UPC欧州軍、シアン・マクニールだ。
 アイルランドのキメラ討伐に、傭兵を数人頼みたい。

 夕暮れ時から朝方にかけて、出荷前のカボチャばかりを狙うらしい。現地住人が犯人を捕まえようと張り込んでいたところ、どうやら頭はカボチャの人型キメラだというのが判った。
 ‥‥ああ、そうだ。この時期各地に良く出現するあのキメラだ。5匹ほど出没したそうだから、よろしく頼――ん、報酬? そうだったな‥‥」
 シアンはしばらく蒼い瞳を細めて考えていたが、
「報酬はこちらから出す。なに、いつも‥‥頭を悩まされているからな。それくらいしても足らんくらいだ」
 構わない、と電話を切った彼は、依頼書類作成に取り掛かる。
 最後の一文に『報酬額は多め。支払はマクニール社のキーツへ』と記してファクシミリで送信した。

●参加者一覧

水無月・翠(gb0838
16歳・♀・SF
東雲 凪(gb5917
19歳・♀・DG
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
天城・アリス(gb6830
10歳・♀・DF
音無蒼真(gb8787
18歳・♂・FC
オペレッタ(gb9001
12歳・♀・SN
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
Dat(gb9035
12歳・♂・SN

●リプレイ本文

●同情するなら金よこせ

 高速艇内。
 UPC欧州軍の中尉シアン・マクニール(gz0296)はキメラ討伐を快諾してくれた面々を見つめる。
「よく来てくれた。感謝する」
――まぁ、カボチャキメラなんだが。
 年齢や外見だけで判断するわけではないが、自分よりかなり年下の少年少女が戦地へ赴くようになっているという事実に、複雑そうな表情を浮かべる。
 そんな彼の心情を汲み取ったわけではないのだろうが、東雲 凪(gb5917)が平気、と言いながらクスリと笑った。
「キメラは雑魚でそんなに苦労しないし」
「キメラ退治って大義名分でトリガーハッピー出来るなんて、傭兵も悪くないよネ♪」
 オペレッタ(gb9001)がニヤリとした笑みを浮かべた‥‥ようにシアンには見えた。
「それに、報酬多めらしいしね?」
 凪とオペレッタの会話に、その通りだ、と大きく同意するウェイケル・クスペリア(gb9006)と水無月・翠(gb0838)。
「そいつらって弱いんだろ? 楽な仕事で高い給金。たまんねーよな!」
「多めの報酬を出してくださる方にはとても感謝しています」
――最近の子は金にしっかりしてるな。
 先ほどとは違う意味で表情を曇らせたが、心配せずとも大丈夫そうだ。
 依頼料を支払うことになる自分の兄。心の中で詫びると、現場周辺を把握できるよう簡易図を広げて見せる。
「なぁ中尉、出荷できない形落ちカボチャとかあんのか?」
 その図をまじまじと見つめていたウェイケルは、赤い瞳をシアンへと向けて聞いてくる。
 ふむ、と小さく言ってからシアンの青い瞳は彼女から一旦逸れ、再び彼女に向けられた。
「あるにはあるが‥‥」
「そんじゃさ、ソレ使わせてもらうわ」
 何か思いついた彼女の口から、作戦案が語られることになったのだ。

●思い思いの想い

 現場に着くや周辺を確認・記憶しつつ、囮用のカボチャを手にした能力者たちは、倉庫前の畑へ配置するため動く。
「大切な食料に悪戯するキメラには、報いを受けてもらわないとねえ」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)がぷぅと頬を膨らませて『食べ物大事よー』と言っていた。
 そんな彼女の言葉に心の底から同意する翠。
(「依頼は完遂しなければなりません」)
 これもすべてはごはんを食べるため。カボチャを真剣な面持ちで畑の上へ置きながら次のカボチャを取りに、のっしのっしと歩く。
「君らも‥‥やはり生活のため、なのか」
 傭兵の懐事情はそれほどまでに深刻なのか? その疑問を同じく作業していた天城・アリス(gb6830)、音無蒼真(gb8787)、Dat(gb9035)へ向けた。
 アリスはただ笑顔を返し、Datは初依頼の緊張のためか返答もしどろもどろになっている。
「失恋の悲しみをカボチャにぶつけられると聞いて来た」
 思いもよらぬ事を蒼真がさらりと口にするや、近くで作業をしていたシアンの手が一瞬止まる。
「それは‥‥辛いだろうな」
 聞いた本人がすまなかったと謝るが、蒼真はしれっと『嘘だけど』と言う。
「え」
「‥‥いや半分ホントか?」
 どっちなんだと言いたくなったが、蒼真が『吹っ切れているし、笑いを狙ったものだから笑ってくれたらよかったんだが』と苦笑する。
「失恋はそういうものか?」
「はあ。そうみたいです」
 凪が呆れたような声で同意してくれたが、どちらの態度に呆れたのかは聞かないでおこう。
「いーじゃん、そんなコト。キメラと一緒に遠くへオサラバで♪」
 楽しくなきゃ嫌ー、とオペレッタが口を尖らせた。
「そ、そうですよね。辛い事より楽しい事が多いほうが、い、いいです」
 Datはカボチャを見つめながら何度もこくこくと頷いて、ずり下がった帽子をかぶりなおす。
「じゃあ、カボチャも配置完了したし、後はキメラが来るまで待ちましょ?」
 フローラが微笑み、倉庫を指して隠れようと示す。
 蒼真を呼びとめ、『もし愚痴をこぼしたいなら今度時間があるときに聞くぞ』と言ってから、やや遠くに見える民家のほうへシアンは注意を促しにいった。
「‥‥変わった人だな」
 去ってゆくシアンを見ながら小さく呟いた後、蒼真は倉庫へと向かった。

●trick or

 夜の帳が下り、肌寒くなってきた頃。
「まだ〜? カボチャのくせに人間様を待たせるなンて、いー度胸だよネ」
 待ちくたびれたと欠伸をしながら、オペレッタが囮カボチャを倉庫の陰から見つめている。
 倉庫の陰に潜んでキメラが来るのを待っているのだが、その中にシアンの姿はない。
 凪が無線を使ってみれば、すぐ戻るという短い返答があって、がさがさという紙を擦るような音が小さく聞こえた。
「ち、中尉さん、何してるんでしょうか」
「さてね。さみーから新聞紙に包まってんじゃねーの?」
 Datが心配そうに言ったそばから、ウェイケルが笑い飛ばす。
「すぐ戻ると仰ったし、大丈夫ですよ」
 アリスが安心させるようにやんわり言って、再び前を向いた時。再び凪の無線からシアンの声が聞こえてきた。
『‥‥今、目標であるキメラの一団を発見した。俺の前を畑に向かって走っていったので、そちらからでも肉眼で捕捉できると思われる』
 そっと倉庫の陰から様子を窺うと‥‥頭部がカボチャの人型キメラがこちらに向かってくる。
「あれが食べられないっていうカボチャキメラね!」
 フローラがそう断言すると皆の顔に緊張が走り、次々覚醒しながら武器を握る手に力を籠める。
「は、初の実戦‥‥緊張しますです」
「大丈夫です、みんなで力を合わせて頑張りましょう」
 そう翠がDatに淡々と応えた。

●カボ割りスペシャル

「カッボーウ!!」
 謎のカボ語を叫びながら、畑にやってきたカボキメラ達。弾む甲高い声が能力者たちに不快感を与える。
「カボ?」
 畑に打ち捨てられたかのように見えるが、意外にキッチリ並べられたカボチャに不思議そうな声を出したキメラ達だったが、
 もとより知能が低いので、目の前に獲物があるなら過程はどうでもよくなったらしい。
「カーボ!」
「カカカカー! ボッ!」
 5匹のキメラは、手始めに一番大きなカボチャに目を付けたらしく、そこへ集まってくると‥‥一斉に拳を振り上げた。
『カボーーーッ!!』
 キメラの言語は理解できないが、恐らく『全部ぶっ壊しちまえーーー!!』的なテンションだろう。
 いたいけなカボチャへ破壊という暴挙が及ぶ前に―― 後方から銃声が一度。
「カボッ!?」
 キメラたちが驚いて振り返ると、20メートルほど後方より片手で紙袋を抱え、こちらに拳銃を向けているシアンの姿があった。
「中尉―― そうか、今だ!」
 蒼真が仲間に合図を送り、自身も素早く身を翻した。
「オーケー、出るよっ!」
 AU−KVを身に纏った凪が火花を散らしながら駆け抜け、間髪入れずにフローラが飛び出し、アリスが弓をつがえながら走り出す。
「カボカボゥ! なーんて、通じるワケないよね。つまんないのー」
 オペレッタも走りながら、フォーリングスターでキメラの足元の土を狙ってけん制がてらにお見舞いしてやる。
「相手はカボチャだけど‥‥で、でも油断はできないなぁ」
 すぅ、と息を大きく吸いながら、Datは突然の襲撃に当惑しているカボチャへ狙いをつけ、引き金を引いた。
 ぱすっ。
 軽い音とともに、銃弾はキメラの頭部を貫通し風穴を開けた。血らしきものは出てこないが、転げまわって痛そうな声をあげている。
「カボーォ!?」
 どちらが前でどちらが後ろかわからない。奇襲に挟み打ち、罠にまで見事に嵌ったカボキメラ達は、既に考える事が出来なくなっていた。
 能力者に向かっていくものや、倉庫に向かっていくもの。既に判断など――いや、もともとなかった。彼らは気の赴くまま行動する。

 倉庫に向かったキメラの前には、二人の勇敢な少女が立ちふさがる。
「重装歩兵、水無月翠‥‥お相手致します」
 ずしゃっ、とブーツで土を踏みしめ、ゴーグルを装着した翠。
 もう一人は両手に扇を一つずつ持ったウェイケルだった。
「カボッ、カボカボ! ボチャチャー!! (ここから先へ行きてーなら、この依頼の報酬より上の通行料でも払うこった!)」
 あたふたとあたりを見回すカボチャに言ってのけたが、カボ語イントネーションがまだまだだったのだろうか。キメラは一瞬考え込んだように黙る。
「カボー?」
「あーわかったわかった」
 間の抜けたキメラの声に、煩わしいと片手の扇を振ったウェイケル。が、すぐに小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「お前らがバカってのが、だ」
 言葉は通じないにしろ、侮辱されているのは解るらしい。キメラは爪で引き裂こうと走ってくる!
「来るぞ!」
「お任せあれ!」
 と翠は盾を構えてキメラを受け止めた。ギギッと嫌な音を立ててシールドと爪が擦れる。
(「力で押そうというのなら、こちらも参ります!」)
 翠は力強く一歩踏み出し、盾ごと体当たりを喰らわせる。受け身も取れずにごろりと転がったキメラ。
「ウェイケルさん!」
 すかさずウェイケルが側面から追撃に躍り出る。
「まかせときな! ‥‥おい、カボ野郎。trick or――」
 風を切りながら鉄扇をキメラの頭部に振りおろして『くたばれ』と吐き捨てた。
 
「はっ!」
 着物の袖をはためかせ、壱式の二刀を振るい死の舞踏をキメラに贈るアリス。
 幾度か斬りつけたものの、キメラもまた小柄で素早かったせいか致命傷にまでは至っていない。
「天城さん、離れて!」
 凪の声に反応し素早く後方へ飛び退いた数秒にも満たない間に、キメラが凪の斧で真っ二つにされていた。
 頭からは血が出なかったが、胴体からは赤い液体が噴出して血だまりを作る。
(「‥‥あー、コレ意外と爽快、かも」)
 なかなか斧でカボチャを叩き割る機会もない。
「夏はスイカ、秋はカボチャ。うん、季節の移ろいが感じられていいね」
 かなり満足だったのだろう。ちょっと返り血のついた斧を握ったままアリスへ笑みを浮かべた凪。
 ホラー映画ばりのシュールさを見せている。
「えっ、そういうのも、ある‥‥かもしれませんね」
 ちらと残ったキメラに視線を向けて、ちょっと楽しそうかもしれないと一瞬だけでも思ったアリスだった。

 Datは自分を奮い立たせながらM1ガーランドを構え、
(「役に立てるように頑張らないと‥‥」)
 同じキメラを相手にする蒼真の動きを見ながらよく狙い澄まし‥‥射撃可能な瞬間を待つ。
 蒼真はキメラの大振りな攻撃を誘発させながら、避けては刀を振るう。
「そんなものなど当たらんさ!」
「カァッボォーゥ!!」
 当たらない攻撃に腹を立てたらしいキメラ。蒼真へ向かって長い手を大きく横へ薙ぐ。蒼真はガードでそれを受け、キメラの動きをわずかの間止めた。
(「‥‥これは」)
 影撃ちを使い引き金を引きながら、Datは思わず口に出していた。
「外せないです!!」
 それは確実に『当てる』ということだ。素早く射出されたそれは言葉通りキメラの胸部に深々と突き刺さった。
「カボッ!?」
 かなりの痛手を受けたのだが、カボ語のおかげで痛がっているのかよくわからない。
「Trick or TreatならぬDead or AliveだなMr,パンプキン」
 蒼真は目を細め、つぅ、と刃でキメラのカボチャ頭を撫で上げた。
「お菓子の代わりに御首級貰うぞ!」
 刹那を使うと蛍火の輝きが一層強くなったかのように見え、光の軌跡を残しながらカボチャの頭と胴を断ち切る。
「よっしゃ!」
 ころころと落ちるカボチャ頭を見つめながら、後ろでDatがガッツポーズをとった。

「もー! チョコマカ動くな! 当たらないじゃないかー!」
 ばら撒かれる弾雨から逃げるのは大したものだが、面白くない当人――オペレッタが怒りを乗せた声をあげた。
 5匹のうち1匹だけ他のものより素早いキメラが居たのである。
 能力者の包囲網から逃れるべく、開いた隙間を目指し全力で駆けだした。
「団体行動を乱してはいけません」
 あと少しというところで隙間を塞ぐため駆け付けたアリスが、渾身の力を込めた壱式でオペレッタのほうへキメラを打ち返す。
「ナーイスショーット!」
 歓喜の声をあげたオペレッタ。だが、すぐに冷たい声で宣告する。
「そろそろ飽きてきちゃった。トドメ刺すけどいいよネ? 返事は聞かない♪」
 ジャキッと銃を向けて銃弾を浴びせると、ウェイケルがキメラを指しながら、
「喋ってねーで穴開けんなら黙ってやりな」
「何さ、怒るよ? いいの? いいんだ!?」
「あのー。口論は後にしてくださいますかー」
 二人のいがみ合いを、凪は呆れながら一応止めに入った。

「逃がしはしないわよっ!」
 同じ時、フローラは、残り1匹のキメラとガチっている真っ最中。
 キメラが方向を変えれば、すぐに彼女が動いて逃亡を阻止する。
「カ、カボゥ‥‥」
 どうすればいいのか、まごまごしているキメラに好機を読み取ったフローラ。
「覚悟しなさい! 食べられない上に他に被害出すカボチャなんて、こうよ!」
 食べ物の恨みは恐ろしいのだ。超機械を装着し、キメラに怒りを乗せた一撃を叩き込んだ。
 残念ながら、キメラにはフローラの言葉を最後まで聞いている事は出来なかったが――‥‥最後の一匹がくずおれた。

●中尉の紙袋と食糧

「任務完了か。ご苦労だった」
 キメラの死骸を数えながら、ようやく近づいてくるシアン。
「ど、どこ行ってたんですか? 皆心配してたです」
 それはないと数人が答えたが、シアンもそうだろうと思っていたので適当に流す。
「この辺はちょっと顔見知りでね。注意を促しに行ったんだが傭兵さんに、と沢山差し入れを持たされた」
 言いながら紙袋から取り出したのはまだかすかに温かいカボチャパイ。眼と鼻、口が甘く煮たリンゴでくっつけられていた。
 おいしそうと歓声が上がり、フローラが思い出したように言った。
「そうだ、農家の人が顔見知りなら、出荷できないカボチャを譲ってもらえるか聞いてもらえない?」
 見てくれが悪くても味がいいなら関係ない、その意見は他にもいた。
「それは‥‥捨てるかタダで近所に配っていたりするものだから、こちらから言えば問題ないはずだが」
 ちら、と傭兵たちの顔を見て、シアンは眉をひそめる。
「食料をもらったのにまだ持って帰るのか?」
 どうでもいいがシアンは質問ばかりである。
「そりゃ、貰えるモンは貰っていくに決まってるだろーが」
 何言ってんだ、とウェイケルが不思議そうに言う。

 ハロウィン用だとか、食事用だとかカボチャを持って帰っていった能力者たち。
 一つ気にかかって、再び現場に戻ったシアン。
 キメラの頭が一つ足りない上に、現場の囮カボチャは1個もない。
 確信を得て『やっぱり』と目を伏せた。
(「頼むから‥‥食うなよ」)
 と、スプラッタなロシアンカボチャの行方が気がかりなシアンだった。