●オープニング本文

●年の瀬を控えて

　瓦礫撤去の作業を終え、帰宅したユーディー。
　温かい紅茶を飲みながら、膝の上に乗って丸くなる愛猫を撫でて‥‥この温かい生活に感謝を抱く。
　しかし、まだ世界には【修復】がたくさん残っている。
　それはモノだけではなく、ヒトもそうだ。

「‥‥メアも、捨てられてた？」
　雨の日に出会ったこの猫も、親とはぐれたのか、引き離されて捨てられたのか？
　それを分かる術などなかったが‥‥どちらにしても、こうして家族と生き別れ・死に別れたものも大勢いる。
（わたしも、そう‥‥親とは死に別れてしまった）
　会いたくても会えない。温もりを求めようとも伝わらない。
　自分の場合はある程度の分別がついていて、働くに苦労しない境遇だったが‥‥恩恵を受けられない幼い子供もたくさんいるだろう。

「‥‥あ‥‥」
　ユーディーはノートＰＣを取り出すと、調べ物のついでに一つの記事を発見した。

『優しさを贈ろう』

　どうやら、孤児院にてプレゼントを渡さないかという有志の企画であった。
　有志とはいえ、誰かに協力してほしいと呼びかけているわけではない。
　自分の出せる範囲で、子供たちへのプレゼントを贈ろうという企画のようだ。
　それが、ユーディーの心に何か温かいものを植え付ける。

「‥‥何か‥‥私にも贈れるものがあれば‥‥」
　食べ物がいいか、着るものがいいか。玩具がいいのか。
　色々悩みつつも、彼女の心はこの企画に是非参加したいと思っている。
（ラストホープの同業者にも‥‥相談、してみよう、かな‥‥）
　変な顔をされるかもしれないが、もしかしたら――笑顔で応えてくれる者もいるかもしれない。

　ユーディーは誰にともなく一つ頷き、明日はどのように喋ってみれば伝わりやすいのか練習するため、席を立った。

●参加者一覧

●リプレイ本文

●子供たちの為に

　ユーディーの意見に、関心と協力を快諾してくれたものは八人。
　その中でも、ラルス・フェルセン（ga5133）は彼女の行動を大変嬉しく感じてくれているようだ。
（最初の頃のー、人との関わりをー避けていた、ユーディー君とはー、随分変わりましたね〜。
　子供達に、優しさをー贈りたいーなどとー、とても、ステキなー事だと、思います〜）
　隣を歩く彼女に不思議そうな顔をされつつ、満面の笑みでユーディーの頭を撫でてやるラルス。
「その気持ちがー、大事ですよ〜。わたしもー、頑張ります〜」
「‥‥ありがとう」
　ユーディーの手を握っているのはリュウナ・セルフィン（gb4746）。
「にゃ！　ユーディーっち〜久しぶりなり！　いつ帰ってきたなりか！」
「この間、12月頃‥‥急に帰国することになって‥‥家とか、いろいろ大変だったの‥‥」
　そう答えてから、そういえば、と宵藍（gb4961）へ視線を送った。
「写真、撮っておくように言われたんだけど‥‥」
「えぇっ！？　だ、誰に！？」
　ユーディーがぽそりと名前を挙げれば、宵藍は少し照れたように笑った。
「あいつめ‥‥、別に撮らなくていいよ‥‥トナカイだし‥‥」
「撮らないと、怒るから‥‥」
「そ、そうなのか‥‥わかった、心の復興を目指しているアイドルの、特別良い所を撮ってくれ」
　どこか遠い目をしつつ、ユーディーを不憫に感じたらしい宵藍は快諾してくれた。
「にゃ？　そういえば‥‥ひゃくにぃがいないのら。
　龍ちゃん、ひゃくにぃ――ニャ！？　龍ちゃん、鼻血が出ているのら！　大丈夫なりか！？」
　リュウナが驚くのも無理はない。後方で東青 龍牙（gb5019）が鼻血を垂らしながら笑顔で歩いているのだ。拭かずに垂れ流しである。
「え、私鼻血出ていましたか！？　ごめんなさいリュウナ様のサンタコスが可愛すぎて‥‥つい」
　少し、クラクラするだけですと明るく答えて、ティッシュで鼻を拭う龍牙。
「さぁ、リュウナ様！　共に参りましょう！」
「おー！」

●孤児院にて

　能力者たちを迎え入れてくれたのは、北欧の某所にある孤児院。
　前もって訪れても良いかという許可を取ってあるため、物置の一室を借りて荷物を置くと仮装する。
　宵藍とラルスはトナカイ。
　角のヘアバンドや鈴付の首輪、トナカイっぽい服やコスチュームを持参して着用する。
「ダンディーなトナカイさんを演出ですよ♪」
　サンタコスチュームのセラ・ヘイムダル（gc6766）は、二人に蝶ネクタイを付け始めている。
「ちょっと待って、お笑い芸人みたいなんだけど‥‥」
　焦る宵藍の写真を、何故かユーディーはカメラに収めた。
「‥‥ヘンな気は回さなくていいんだぜユーディーちゃん」
　ぽむ、と村雨　紫狼（gc7632）は首を振りながらユーディーの肩に手を置いた。
「‥‥確かに、俺たち傭兵は‥‥エミタ適合者は人間であって人間扱いされないこともあるかもしれない。
　けどな、心まで捨ててる訳じゃない！　同じ人間なんだ！
　例えトナカイの蝶ネクタイが浮きまくっていても！　耐えないといけない！
　写真を誰かに見せて晒し者にされてもだ！」
「こら！　フォローになってないぞっ！　晒しとか浮きまくってるとか悲しい事言うな！」
　宵藍の突っ込みも紫狼は聞いていない。何故か目頭を押さえつつサンタの帽子をかぶる。
「俺の他にもお人よしのおせっかいが集まったみたいだしな‥‥
　絆の厚さに感激して泣けてくるが、涙は見せずスマイルで行こうぜ！」
　何故かドヤ顔で歯を光らせつつ、サムズアップをしている紫狼。ユーディーも無表情でサムズアップを送った。
「人の話聞け‥‥ていうかサンタ何人いるんだよ！？
　サンタをソリに乗せて――と考えたのに、無理じゃないかっ！」
　思わず解説までしてしまう宵藍。
　この中で、突っ込みを入れられるのは君しかいないぞ宵藍。頑張れ宵藍。
　見渡す限り赤い服なので、思わず頭を押さえる宵藍を、同じトナカイコスのラルスが宥めている。
「まぁまぁー。落ち着いてー、ください〜。そろそろ、皆さんー、準備できたようですし〜参りましょうー」
　荷物をソリに乗せ、トナカイ二名と若すぎるサンタ一行は、孤児院入口に回り込み、扉を二度ノックするのだった。

●メリークリスマス！

　孤児院の扉が開き、子供たちの視線が一気に集まった。
「悪い子はいねぇーが‥‥は別の国でしたねぇ。えーと、メリークリスマスーです〜」
　まさかのラルスに出落ち感はあったが、
「トーウ！　メリークリスマス！　にゃー！」
「良い子にしてた子達には、美味しいケーキをプレゼントしちゃいますよー！」
　すぐに飛び出していたリュウナやカップケーキを持っているセラに『サンタだ！』と少女が目を見開いた。
「メリークリスマス！　良い子にプレゼント持って来たぜ！」
　宵藍の引っ張ってきたソリに、山と積まれたプレゼントを見た子供たちが大歓声を上げる。
「じゃぁ、僕はご馳走を作っちゃおうかな。やっぱりクリスマスにはごちそう食べたいよね。僕もそう思う」
　つい素の一人称を出しながら結城　桜乃（gc4675）は、手作りのエプロンとバンダナのいくつかを子供たちに配っている。
　こういったイベントは、どうやら桜乃、好きなようである。
　表情には柔らかなものを乗せているし。
　彼の胸の奥には、温かくてふわふわしたようなものがこみ上げていた。
　貰ったプレゼントを身に着けた子供たちが『手伝う』というので、ピーラーでの皮むきなどをお願いしようかと思った桜乃は、孤児院の先生に訊ね許可を貰うと数人の子供と共に調理場へ向かっていった。

「俺は本をプレゼントだー！　ハッピーでうれピーだろ〜？　智慧こそ人間の尊厳の源だぜっ！」
　紫狼は笑顔で本を配り、同じく笑顔を返して受け取ってくれる子供たちを見て熱いものがこみ上げてくる。
（‥‥殺し、奪い、全てを無にするのが戦争。
　命もそうだが、それ以上に『生きる為の意欲』が失われていく事などあっちゃいけねぇ。
　まだ戦禍も癒えちゃいないが、子供を大事にしてこそ未来があるんだ！）
　本を期待の眼差しで開く子供や、誰かが読んでいるものを横から覗き込む子もいた。
「ありがとう、サンタのお兄ちゃん」
「いいってことよ。　その笑顔、それだけで俺は救われるぜ？」
　生きたいと願う魂を守る、それが己の使命だと信じる紫狼。
　笑顔とありがとうは、何よりの返礼であった。

「トナカイしゃん、どうして人の形なの？」
　年端もいかぬ少女に訊ねられた宵藍は、魔法の力だよ、と人差し指を自身の口に当てた。
「図鑑で見るより、ちっさいねぇ」
「‥‥‥‥ここに入ってこられるように、小さくしたのさ‥‥」
　宵藍はぎこちない笑顔を向けるが、子供は残酷である。
「じゃ、何が出るかはお楽しみってことで」
　気を取り直し、ぬいぐるみや運動靴、女の子には優先的に髪飾りがいくような配分でプレゼントを配る宵藍。
「ねぇ、サンタのおじいさんはどこ？」
　すごく楽しみにしているらしい数人の少年が、リュウナに訊ねてきた。
「サンタさんは忙しいから、リュウナ達が代わりに届けに来たのら！　多分、偵察中のＫＶに捕捉されてるなり！　‥‥たぶん」
　どうなりか？　と、リュウナが助けを乞うように龍牙を上目遣いで見つめる。
「‥‥安心して下さいリュウナ様！　子供たちも可愛いですが、リュウナ様の方が数十倍可愛いですから！」
　鼻血を垂らしながら、全く斜め上の返答を返す龍牙。もう溺愛甚だしい。

　普段の服装に戻っている宵藍が目と耳で楽しめる曲芸弾きを行っている傍ら、輪に入らず一人でいる少女を発見したセラ。
「‥‥どうかしましたか？」
　子供の視線程度に屈み込み、顔を覗き込む。
「おととい‥‥ここに来たばかりで、話せる人、いない‥‥」
　どうやら、まだ馴染みきれない子のようだ。
「ではセラと一緒に、トナカイさんの演奏を聴きに行きませんか？
　みんなで同じものを共有すると、楽しくなりマス♪」
　にこりと微笑み、少女の手を引いて輪の中に入っていくセラ。
　そこへ、子供たちと楽しそうに談笑しながら料理を携え戻ってきた桜乃。
　ワゴンの上には、子供たちが一生懸命下準備を手伝ってくれたであろうシチューやムニエル、子供たちが飾ったイチゴの並びが不揃いなクリスマスケーキがあった。
「はい、お待たせ〜！　冷めないうちに、みんなで食べよう！」
　キャンドルランタンを配置し、手早く皿によそう桜乃。
　入れ違いに、プレゼントを配り終えたラルスが調理場へと向かっていった。
　セラも少女を促して隣に座り、近くにいた子供たちに話しかけては会話を繋いでいる。
　聞けば、ここにいる子供たちは、戦争で親を亡くした孤児が多いのだという。
（セラもこの戦いで天涯孤独になった身、彼らの気持ちが判る‥‥気がします）
「そうだったんですか‥‥セラも数年前にバグアとの戦いで両親を亡くしたんです。
　とっても辛くて、たくさん泣きました。でも‥‥うまくは言えませんけれど、生きてさえいれば‥‥きっと、いい事は訪れます。
　セラもたくさん悲しみましたが、たくさん嬉しいことをいただきましたヨ？」
　料理の乗った皿を手渡していきながら、セラは力強く頷いた。
　同情ではない励ましを、同じ境遇の彼らの心に、届くようにと。

「じゃ、料理を食べる前に、クリスマスだから歌でも」
　宵藍が二胡を手に取り奏で始めたところで‥‥男の『あ〜‥‥』という棒読みが聞こえた。
　ドサーっという何かが落ちる音と共に『‥‥熱い』と、暖炉から転がり出てくる何か。
　思わず子供たちを庇おうとする桜乃や宵藍が見たものは‥‥サンタ服の男。
「‥‥火が、ついているとは‥‥予測していなかった‥‥」
　西島　百白（ga2123）が煙突から降りて‥‥いや、落ちてきたのだ。
「先生！　サンタさん来た！」
　煤が髭のように鼻下についているので、そのように見えるらしい子供は大喜びだ。
「フニャッ！　ひゃくにぃもサンタなりか？
　リュウナはてっきり『面倒だからヤダみょ〜ん！』って言うと思ってたなり！」
　リュウナの笑顔に答えず、何事もなかったかのように、
　子供たち一人一人にプレゼントを配り始めた百白。
「‥‥メリークリスマス」
　そんな彼らをよそに、宵藍とセラは、子供でも歌えるクリスマスの歌を一緒に歌うのだった。

「おじいさんは、斧を振り回し『ヤーハー！！　子供は護るぞ、フォッフォォー！』と‥‥」
　紫狼は自ら与えた絵本を、字が読めない幼児たちに感情こめて読み聞かせている。
　どんな絵本かは各自楽しく想像してほしい。

「アーモンド入りに当たった子は〜、願い事が叶うとー、言われているのですよ〜。
　さてー、誰が、当たりますかね〜？」
　ラルスはクリスマスポリッジの中にアーモンドを一粒、一皿だけ入れて配ると、子供たちの反応に目を細めていた。

　宵藍が子供たちのリクエストに応えて一緒に歌っているのをユーディーは数枚撮る。

　桜乃にすっかり懐いた子供たちは、彼の後をついて回って後片付けも率先して手伝おうとしてくれている。
「お兄さん、あーんして！」
　ケーキのイチゴを差し出され、笑顔でそれを頬張る桜乃。
「一緒に作ったものは、一緒に食べると美味しいよね〜」
　イチゴをくれた子供にありがとうと礼を述べ、洗い物を一緒に下げ始めた。


　あらかた出し物やプレゼントを配り終えると、最後に来たにも関わらず、
　仕事は終えたとばかりにひっそりと百白は孤児院を出た。
　普段とあまり変わらないが、やや感慨深そうに少し離れた場所から孤児院を眺めている百白。
「‥‥西島さん」
　走り寄り、彼に声をかけたのは龍牙。
　彼女を無言のまま見つめる百白。ややあってから、『終わったんだな』と口を開いた。
「え‥‥？」
「戦争‥‥本当に‥‥終わったんだな‥‥」
　孤児院から楽しそうな声が微かに漏れてきて、二人の心の中に言い知れぬものが漂う。
「そうですね‥‥戦争‥‥終わりましたね。長かったですよね‥‥」
「‥‥夢では‥‥ないよな‥‥」
　現実であってほしい。それは、龍牙も同じなのだ。
「‥‥はい。夢じゃありません。私たちは、守ってこれたんです。だから、今日あの笑顔があった。
　そう信じたいです」
「‥‥ああ」
　そして、龍牙は――。
「に、西島さん」
　幸い暗くて見えなかったが、少々顔を赤く染めて百白へと思い切って告げた。
「西島さん、あの‥‥‥‥私の大切な物を‥‥私と一緒に守って‥‥くださいませんか？」
　龍牙の真剣な眼差しを受けて、百白はポケットをゴソゴソと漁ると、彼女の前に差し出した。
　それは、ピンク色のリングケース。龍牙が開いてみると――中に入っていたのは、ダイヤモンドの指輪。
「――西島さん、これ‥‥」
「『プレゼントはそれが良い』って‥‥本に書いてあった‥‥から」
　百白はそう言って、微かに笑った。
　感極まった龍牙が百白へ半歩踏み出す。
「にゃー、いた〜‥‥ひゃくにぃー！　龍ちゃん！　探したのら〜‥‥」
　二人を探していたリュウナが、眠い目をこすりながらフラフラとやってくると、百白へ手を伸ばす。
「もう、眠くなってきたのら〜ひゃくにぃ〜オンブ〜」
　そうして、おぶってもらうリュウナ。そっと、百白は鈴の髪飾りをポケットに忍ばせてやった。


「おやー、覗き見は〜、いけませんよー。ユーディー君」
　それを遠くから見ていたユーディーの後ろからそっと、ラルスが声をかけた。
「‥‥帰るみたいだったから、声を‥‥かけようか迷ってて‥‥でも出ていけなくなって‥‥ごめんなさい」
「いえいえ〜、僕もー、ユーディー君がー、何をしているか〜見ていましたから〜分かりますよー」
　声はかけ辛かったですねぇと微笑むラルスは、去っていく三人を見て『ああして、新しい家庭は出来ていくんですね〜』とのんびりした口調で呟くと、優しい笑みをユーディーへ向けた。
「そしてー、ユーディー君〜僕らも、家族―ですよね〜？」
「‥‥うん」
　こくりと素直に頷くユーディーだったが照れているのか、いつもより言葉は少ない。
「ではー、今後は『ユーディット』とー、お呼びして宜しいですか〜？」
　本名を呼ばれて、思わずじっとラルスを注視するユーディー。
「‥‥おや。駄目、でしたか〜？」
「ダメじゃ、ないけど‥‥急、だから驚いた‥‥」
　なんだかそわそわする様子を見せたユーディーは、咳払いした後『わかった』と頷く。
　人のつながりというものに、温かいものを感じた彼女は‥‥少し楽しそうに笑っていた。