タイトル:【RR】トルコ東部偵察マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/29 03:10

●オープニング本文


●特殊部隊【赤枝】内

 隊長であるベルフォード少佐に遠征概要を聞かされたシアンは、眉を寄せて『ロシアか』と呟いた。

「バグア残党を狩り出す仕事だ。いろいろ物騒な噂が上がってんだが‥‥
 まずは、ルートの様子と道中の施設を偵察しなくちゃいけねえ」
 咥え煙草のまま、ベルフォード少佐は無造作につかんだ書類をシアンに手渡す。

「‥‥陸上戦艦か‥‥。本当にキメラプラントもあるとすれば、なおさら捨て置けん」
 強化人間もいたりするだろうから、油断はできないぞと念を押されたシアンは無言で首肯する。
 
 数年前に、UPC将校がバグアに寝返ったという話は聞いた。
 依然としてロシアや中東近辺は人類とバグアが争う競合地域。
「宇宙ほどには手を焼かないかもしれんが‥‥我々にとって、真の解放と呼べるのは、そこを取り戻してからだな」
「おうよ。だから、UPCは欧州もアジアも問わず、連合としてそこを叩くわけだ」
「‥‥出発はいつだ? KVは」
「ンなもん使わねえよ。偵察行動だ」
 偵察、とシアンは復唱し、では身を守るためにもなおさら必要ではないかと使用を勧めた。
「ぎりぎり競合地域付近で高速艇から降りたら車か徒歩だ。ジャミングが酷いところで、仲間同士散り散りになりたくはない」
「‥‥あくまで偵察というわけか」
「ロシア方面は既に、他部隊が手掛けている。俺らは陸路だ。補給部隊も安全なところを通らないといけねえからな」
 それは――そうなのだろうが。
 まだ釈然としなそうな顔のまま資料を睨んでいるシアンに、情報収集が第一歩だと言い含める。
「分かった‥‥。あくまで噂が本当か確認するというレベルだな」
 資料を置き、どういう進路で行くのかと尋ねると、少佐はトルコ方面から侵入するという方法を示した。
「トルコ東部は既にバグアとの競合地域だ。カスピ海方面に戦力が流れて行っているらしいが、それが本当かを確かめる」
「ふむ‥‥」
 その程度であればさほど難しくない。経験の浅い者がいたとしても大丈夫だろう。
「では、共に行動してくれる傭兵を数人ULTに頼んでおくとしよう」
「ああ、それがいい。その辺にキメラがいないとも限らんぜ。万が一を考え、戦力は多いほうがいいからな」


●トルコ・競合エリア

「‥‥そろそろ、です」
「おう」
 レイジ少尉の運転で、少佐と能力者一行は、雪が少々ちらついた平原‥‥ただ長く続く道を車内から見つめる。
 岩山だらけのここも、冬の間は雪化粧の装いだ。
「私的なことを言えば‥‥トルコは、スイスの次に来たいところだったな」
「今度来りゃぁいいじゃねぇか」
 どこか悲しい顔をするシアンに、呆れたように少佐が答えた。
「‥‥少佐たち。くつろいでる場合じゃないですよ」
 双眼鏡を覗き込んでいた男性能力者が、緊張した声で告げ、2人は彼に視線を送ってから同じようにその方向を見つめる。

 体長は3メートル程度か。鱗でその体を覆われた、動物型キメラ。
 しかしその耳は兎のように長い。
 その聴覚感度は不幸にも‥‥大変良いようだ。
 歩行をやめ、二本足立ちになると周囲を監視するように窺い、傭兵たちの車があるほうをじっと見つめている。

「‥‥感づかれたのか?」
「かもしれん‥‥いや、こっちに走ってきた。数は3匹。可愛くねえクマみてえなモデルだ」
 兎じゃないのか、と驚くシアン。いや、兎にしたらデカいだろ。と言いながら銃や剣を掴む少佐。

「面倒だが、あいつを討伐してから偵察だな! 放置して競合ラインを越えて攻め込まれちゃ困る!」
「了解!」

 傭兵たちも同じように車から降りると、武器を握りしめて覚醒したのだった。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
マリンチェ・ピアソラ(gc6303
15歳・♀・EP
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●ウロコグマ退治

 みゅーみゅー可愛い声で鳴きながら、雪を掻き散らし突撃してくるウロコグマ(以下、熊)3体。
「こちらに感づいたのは‥‥偶然? それとも‥‥もうバグア達が感づいて向かわせたか?」
 訝しむ鳳覚羅(gb3095)だったが、眼前の敵は排除しなくてはなるまい。
「ちょっと、何よあれー! 全然可愛くない!」
 心底嫌そうな顔をしたのはマリンチェ・ピアソラ(gc6303)だった。

「うむ。鳴き声は一応可愛いのだがな‥‥如何せん鱗が」
 それに同意するリュイン・カミーユ(ga3871)も声のトーンは低い。
 鱗がなくとも出っ歯である。出っ歯の熊は可愛くない。
「まあ、どうだろうと‥‥手加減などする気はないのだが」
「ええ。任務は偵察。出来る限り隠密に事を済ませたいですわね」
 ロジー・ビィ(ga1031)が一番自分に近い熊に狙いを定め、二刀小太刀を握りしめる。
 リュインは練成強化をロジーと自分に付与し、マリンチェと共に走った。
 熊キメラは体格から想像もつかない高い跳躍力を発揮し、ロジーの頭上から鋭い爪を振るう。
 が、彼女も経験豊富な傭兵。
 いとも容易くその爪を小太刀の一刀で受け、もう一刀に剣劇などで渾身の一撃を食らわせた。
 倒れた所に、マリンチェとリュインが鱗の少ない部分や首などの急所を狙って深々と剣を突き刺し、早期の殲滅を図る。

「前衛は俺が対応する。セラは援護を頼む」
「リヴァルお兄様と組ですね。頑張ります♪」
 リヴァル・クロウ(gb2337)はセラ・ヘイムダル(gc6766)と熊の間に立ち、相手の出方を見た。
 キメラであろうとも、どのような行動をとるか油断はできない。
 セラを庇いつつ、刀をゆっくり抜き放ったのをどう見たのか、それに合わせて突進してきた熊の攻撃に合わせて四肢挫きを行う。
 爪はリヴァルの上着の一部を裂いたが、怪我には至らない。
『みゅーっ!』
 長い耳をなびかせる熊。可愛い声で鳴こうが、こいつはキメラ熊。
 セラが一瞬鳴き声だけに反応したが、声だけである。
 どざ、と倒れた熊目がけて月詠を振るって足の腱を切断し、一気にとどめを刺しにかかった。
 リヴァルの脇から、セラも刀で加勢にかかる。
 鱗に覆われている体は、多少防御効果もあったのだろう。しかし、彼らの攻撃を防いではくれなかった。
 止めの突きを入れられ、みゅう、と一声鳴くと力尽きる。

「‥‥安らかに逝かせてやるぜ」
 一瞬で覚醒し、燃える炎に包まれたかと思うと村雨 紫狼(gc7632)が真紅の仮面騎士姿で炎を破るように現れた。
 口上もなく、今回は隠密ということで素早く殲滅することを決めたようだ。
 一瞬動きを止めた熊の頭部に斬りかかる!
 間髪入れず、リゼット・ランドルフ(ga5171)も迅雷で懐に入り込み、切り上げるようにして刹那の光り輝く一撃を加えた。
 僅かに地面から浮いた熊に、声を上げる隙を与えず紫狼の容赦ない突きが喉元を抉る。
 そのまま体重をかけ、剣で刺したまま地面に繋ぎ止めるようにしながら着地し、素早く剣を引き抜く。
「時間をかけていられないからね。一気に行くよ‥‥」
 入れ替わりに覚羅がベオウルフの重量を猛撃で生かし、切断するように重い攻撃が熊を押しつぶす。
 この間まで集中治療室にいたとは思えぬ戦いぶりである。

「‥‥片付いたか」
「そのようですわね」
 リヴァルとロジーが目配せする。傷は大丈夫かとセラが心配そうにリヴァルを見たが、
 それには大事ないと首を振った。

「ふむ‥‥今の戦闘で、他に感づかれはしなかったようだ」
 リュインは増援などがないか周囲を警戒しながら素早く見渡し、
 それらしき影が無いことを味方に伝えながら武器をしまう。
「そうならいいけれど、油断は禁物だ。面倒なことにならない内に早めに移動しよう」
 覚羅の言葉に、皆が頷く。

 潜入されたと気づかれぬため、雪をかけて死体を隠匿した後、車両に再び乗り込むと、慎重に発進させた。
 車両を使用している点で怪しまれるかもしれないとも考えたが、既に使用している道路にはいくつかの轍があったのだ。
 それは2、3時間前程度前に通過したことを示す新しいもの。
 しかも、タイヤの形状から察するに大型車両である。
(‥‥結構大きなものを運び込んでいるのでしょうか?)
 その轍の上を通っていく車両の中で、思案しつつもマッピングは忘れない。
 道中の施設情報や点在間隔など、方眼紙上に書き記していく面々。
「‥‥キメラも点在しているな」
 車を止めて、駆除しに行ったほうがいいだろうか?
 そう仲間に尋ねようとすると、紫狼がやめたほうがいいと口にした。
「今回はあくまで偵察、不要なドンパチは避けていく方向だろ」
 双眼鏡で確認したのは数キロ先である。紫狼ももう一度確認するも、キメラはこちらに気付いていないようだし、駆除するために移動して武装したバグアに出会うなど違う事態を引き起こす可能性もある。
 それに、駆除してまわる時間はないと告げた。

 セラが最新版である調査区域周辺の地図を広げ、照らし合わせるようにして、1年前の地図とも比較してみる。
「‥‥新しく出来上がっている建物もありますね」
 先に古地図との比較は済ませたものの、この1年足らずにできた建物というものも存在していた。
「‥‥ふぅむ。それじゃぁ、今通っている進路がここだとすると‥‥」
「道中に見えるとすると、この一か所‥‥ってことか」
 現在の進路を地図上でなぞる覚羅の言葉を紫狼が引き継いだ。

 一か所だけ、赤く丸を付けられた施設。周辺で唯一、新設されたものである。
「‥‥一体、何の建物なのでしょうね‥‥」
 ロジーの柳眉が寄せられ、リゼットが『陸上戦艦も未だ健在と聞きました』と相槌を入れた。
「‥‥おうよ。デケェのと小せぇのがあるんだよ」
 ロビン少佐が助手席のシアンを肘で突き、資料を傭兵たちへと言うので、機密でない資料を手渡す。
 その陸上を疾る戦艦は、それなりの武装を整えており、キメラを生み出しながら走るという。
 当然そんなものは野放しにしておけず、
 UPCにおいても、見つけた場合は即座に軍本部へ連絡を入れて報告しなくてはならないものだ。
「‥‥しかし陸上戦艦の件については、既に他軍が動いている」
 その話によると、ここにはいないはずだ――と言ったシアンだったが、その表情は晴れない。
「本当に居ないかの確認も出来たら良いですネ?」
 努めて明るい口調で答えたセラに、そうだなとシアンも頷いた。


●雪上の工場


 いよいよ、地図上に建設されている不審な施設の場所が近づいてきた時の事。
「‥‥あの施設ではないのか」
 リュインが双眼鏡で覗き込んだ先には、件の施設がある。
 この雪景色に溶け込むように白く、窓も極端に少ない。
 ただ、ここは荒野。冬でなければ、白い建物が高くそびえ立っているのは異様であろう。

 地図に映っているものと形状や色はほぼ酷似していると言っていい。
 車両を隠すのに手頃な大岩がある場所を探し、車を待機させると白いシートを被せる。
「見つかるときは見つかるのだが、多少なりとも隠しておけるならそうしておきたい」
 ウチは貧乏だからなあ、と少佐が笑い飛ばすが、実際車一台だって特殊な改良を施しているのだから高価なものだ。
 車をシートで覆うと、徒歩での移動を開始する一行。
 降雪によって道はまっさらな状態で敷き詰められ、点々と残るのは彼らの足跡のみだ。
「なるべく道の近くは歩かないようにしましょうか‥‥」
 人影はないが、もしかするとキメラ以外‥‥強化人間や、上空から偵察機などに見つかる可能性もある。
 分かりやすいところを通り、発見されやすくなるのは避けたい。
 一同それに従い道から離れると、方位磁石と道のあった場所を確認して振り返りつつ進んでいった。
 とはいえ、施設は眼鼻の先である。目的地にだんだん近づくにつれ、緊張感も高まっていく。
「ですけれど‥‥本当に周囲に何もないところ‥‥」
 ロジーがそう呟いて、ごつごつした巨岩に触れる。
 至る所にこのような大岩が点在しているが、赤外線システムでも設置されていれば、容易に感知されてしまう。
 しかし、そういったものもなく――、遠くでキメラがのんびり歩いている程度だ。
 施設に気づかれまいと思っているのか、それとも、そういう感知や迎撃に気を回す時間もないのだろうか。

「さっきも歩いてましたけど‥‥結構キメラの足跡もありますね‥‥」
 リゼットは雪にくっきりと残されているキメラの足跡を発見し、大まかに測る。
「獣型みたいです‥‥。もしかすると、番犬のように施設内に放されているものかも‥‥」
 敵の強さではなく、数匹放たれているかと思うと、気づかれるのも早くぞっとしない。
「突入は‥‥するのかい?」
 覚羅が軍人2名に尋ねると、少佐はしないと答えた。
 それを聞いて、マリンチェらは雪上の調査に取り掛かる。
 真新しい轍の跡はないか、キメラの足跡はないか。
 その時だった。
「‥‥! 何か施設から出てくるよ。伏せて!」
 探査の眼とGooDLuckを併用していたマリンチェは、素早く皆に注意喚起する。
 手頃な岩場や雪上に、伏せたり隠れたりする面々。
 幸運にも皆白を基調とする衣服を着用しているため――発見されることはなかった。
「‥‥あれは‥‥キメラ‥‥ということは、まさかここはキメラ作成工場‥‥!」
 岩影より顔を覗かせたロジーは、施設から出てきたもの‥‥車両を確認し、フラッシュをオフにしてデジカメで写真を数枚撮っていく。
 そう。入口からは様々なキメラが車両に積まれて搬出されていくのが見えた。
「‥‥兵器工場では無かったのは、良いと言っていいのか分かりませんけど‥‥」
 雪の冷たさに鼻を赤くしつつ、セラは体をぴったりとリヴァルにくっつけて耳打ちした。
「うむ‥‥キメラも兵器であることには変わりない。それを製造しているわけだから潰さなくてはいかん」
 やはり、まだ終わってはいないのかと苦く呟き、リヴァルは建物を睨みつける。

「防犯カメラ、3基。攻撃・防衛系は‥‥ここからは見えないな」
 覚羅は多機能ゴーグルで視認出来る範囲の施設周辺を隅々まで調べ、ついでに今出て行った車両の車種やナンバーも書き留めておく。
 防犯カメラの類は、入口をチェックするために内側についていた。
 恐らく、防御設備もついているのだろうが――どういう類のものかまでは調べられない。
「ここで作ったキメラを、ロシアへ移送しているというのか‥‥?」
 リュインが走り去っていく輸送車両を睨みつつ、方角‥‥ロシアへと想いを馳せる。
「カスピ海のほうに、ビッグフィッシュなどがあると聞いた。そのあたりが激戦地になるのではと軍では予想している」
 シアンの情報に、リュインが小さく頷いた。
「ふん。各種工場で作成した兵力を集中させているというわけか」
 無論、本格化する前にここも叩くのだろう。
 施設までの偵察は完了した。後は速やかに撤退するのみだ。
 紫狼が殿を申し出たのでそちらを任せ、マリンチェやリヴァルに周辺の警戒を依頼するシアン。
「キメラ輸送車と鉢合わせる可能性がないとも言い切れんな」
「その時は、殲滅するまでじゃないかな」
 なるようにしかならないさと覚羅は言うのだが、見つかりたくない気持ちと、野放しにしておけないというシアンの義務感を見透かして苦笑する。

 車両に戻り、移動がてら皆は作成した地図を突き合わせた。
 互いの正確性や部分を補足し、書き加えていき――完成したものをシアンへと手渡した。
「ふむ‥‥かなり詳細に作成してくれて礼を言う。非常に参考になる」
 と、自分も地図を作成していたのだろう。それを見ながら書き写したりしているので、
「ここで足跡を発見しました」
「大尉、ここにもキメラが出現していたよ。道から随分離れていたけどね」
 リゼットと覚羅が横合いから指示してくれる。
「しかし、本当に『作るだけ』の施設ですのね‥‥」
 もっと大がかりな施設かと思っていたのだろう。ロジーの言葉にリュインも頷く。
「今回は、たまたまそうだったというだけに過ぎん。
 もっとも、キメラプラントは各国各所にあるかもしれない。
 激戦区を想定している部分は、警備もシステムも厳重になっていることだろう」
 リヴァルは目を閉じて、小さく息を吐く。

「さすがに、佐渡を倒せば終わり‥‥とは考えなかったさ。
 けれどまだ、こうしてイザコザが収まらないのは嫌なもんだな」
 紫狼が窓の外を眺めて、憂いを込めた目を細める。
「‥‥ま、早く傭兵が時代遅れの不要職になるように頑張るとすっか」
 傭兵たちが不要になるような世の中を作るためにも、能力者としての戦いは、まだもう少しばかり続くようだ。