タイトル:【MN】絶対に笑ってはマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 22 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/30 01:47

●オープニング本文


※このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません

●いけないアレ。

「‥‥急に何、ユキタケさん。こんなところに呼び出して‥‥」
 薄暗い会議室のような場所。ユーディー(gz0328)はいつもの様に無表情のまま、ブラインドの前に立ち、太陽を背にして此方を向いているユキタケ(gz0340)を見つめた。
 ユキタケの表情は逆光のため伺えないが、ニタリと笑っているような気がする。
「‥‥ユーディーさん。よく来てくださいましたね。フフ‥‥この機会をどれほど待ったことか‥‥」
 なんかすごく気持ち悪いのだが、若干お人好しの感があるユーディーは、訝しんでもそこまで思っていないようだ。
「要件は何」
「ユーディーさん! 僕と付き合ってくださ、」
――シュピ。
 ユキタケの頬をナイフが掠めて、割とマジな顔のユーディーが『要件は何』ともう一度聞いた。
 ちなみに、全く知ることはないのだがユーディーのセリフにルビを付けるとすれば『きこえない』である。ハイ関係ない。

「――そう、笑ってはいけないんです。笑ったら罰があるんです」
 頬に絆創膏を貼りながら、一般人のユキタケは神妙な顔でこう言った。

 数日前のことだ。
 UPC軍の仲間(日本人)と、昔こういう番組があった、とか懐かしい話に花を咲かせていた。
 そこで、趣向を凝らしたり一発ギャグでわざと笑わせようとするのだが、ウッカリ笑うと罰ゲームがあるという番組があり、それが好きだった――と彼らは話している。
 懐かしいそれを、どうやら傭兵たちでやってみようという話になったらしい。いい迷惑である。
「‥‥で、何があっても笑ってはいけない、というゲームなわけね」
「そうです、そうです。笑うと罰ゲームです。罰ゲームはですね‥‥僕が抱きつきます」
「‥‥絶対に笑えないわね」
 真顔で言われると正直ユキタケさんだって傷つく。だが、顔で笑って心で泣いて。メガネをかけ直すと乾いた声で笑った。
「あと、銀髪の怖い人が暴言を吐いてくれたりハリセンで叩いたりして‥‥銀髪の人も割といたずらっこさんなので、気が向けば抱きついてくれるそうです」
「そっちなら喜ばれそうね」
「どうしてですか!? 同じ男ですよ!? ユーディーさんは男なら誰でもいいんですか!?」
「ユキタケさんと一緒にしないで」
 あ、ユーディーさん怒ってる。
 それでですね、と慌ててユキタケは話題を元に戻した。
「ゲームに協力してください。お礼に猫屋敷ツアーにご招待です」
 猫屋敷。何かしらそれ。すごく楽しそう。
 いつの間にか猫好きになっていたユーディー。抱きつかれるのは嫌だけれど、ユキタケの提案に抗えなかった。
(笑わなければ、いいだけだし‥‥)
「わかった。頑張る」
 そうして、悪夢の誘いに乗った――が。
「夜は絶対に怖がってはいけないルールに変更です」
「‥‥え‥‥?」

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 煉条トヲイ(ga0236) / 鯨井昼寝(ga0488) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / 新条 拓那(ga1294) / 須佐 武流(ga1461) / 西島 百白(ga2123) / 夏 炎西(ga4178) / ラルス・フェルセン(ga5133) / カルマ・シュタット(ga6302) / 白虎(ga9191) / リヴァル・クロウ(gb2337) / 鳳覚羅(gb3095) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / 宵藍(gb4961) / 東青 龍牙(gb5019) / 諌山美雲(gb5758) / 樹・籐子(gc0214) / サキエル・ヴァンハイム(gc1082) / 輪島 貞夫(gc3137) / セラ・ヘイムダル(gc6766) / 高坂 永斗(gc7801

●リプレイ本文

●AM10:00 某所

 その日の気温は30度。割と暑い日であった。
 招待されたホテルに着いた一行。ロケーションは海の側、非常に景色も良い。
 気温は高いが通る風は涼しく、体感温度をわずかばかり下げてくれていた。
「あー‥‥何だかのんびり出来そうでいいわね。素敵な所‥‥大規模以来、こんなにゆっくり出来なかったし」
 羽を伸ばすのもいいかな、とケイ・リヒャルト(ga0598)が思った矢先のことである。
「皆さん、遠路はるばるお越しいただきありがとうございます‥‥!」
 ひょっこりと、アロハシャツ姿のユキタケが登場した。ロハス的な雰囲気の中、唐突に――
「笑ってはいけないアレを開催したいと思います!!」
 ドーン、とか言いながら変なフリップを出すユキタケ。ある程度ルールを説明し始める。
「オッケーですか? オッケーですね! ていうか勝手に始めますねヨーイドン!!」
 始まりの合図は、ぱーん、と上空に掲げた競技用鉄砲から旗が出てきた‥‥かなり投げやりかつ有無を言わさないスタートである。

「笑うと駄目か‥‥なんだか面白そうなルールだね」
 鳳覚羅(gb3095)が微笑を浮かべ‥‥早速『デデーン』という謎の効果音。安心してくれ、自動でつきます。不思議だが気にしないでいい。
「ちょっ‥‥早すぎンだろォ!?」
 始まって10秒も経たない速攻ぶりに、思わずサキエル・ヴァンハイム(gc1082) が吹き出した。デデーン。
「罰ゲームですねっ! 先生お願いします!」
 バッ、と待合席に向かって両手を掲げる。嬉しそうだなユキタケ。
 そこから姿を表したのは‥‥シルヴァリオである。いつも暑そうな格好をしているが、流石にコートは脱いだらしい。
「悪く思うなよ。罰ゲームなんだそうだ」
 と、手にハリセンを持っていた。パーン、と小気味よい動作で覚羅の頭にヒット。
「‥‥あれはマジで避けたい。バグアのハリセンってどんだけの威力だよ‥‥」
 宵藍(gb4961)から表情が消えた。だが安心したまえ。手加減されているので痛くはない。
「え、ちょっと! あたしには!?」
「女はこいつの役目らしいぜ」
 去っていくシルヴァリオを引き止めたサキエルだが、彼の代わり‥‥はユキタケ。
「では、いただきま‥‥じゃない、女の子には僕が罰ゲームさせて頂きます!!」
 にじり寄るユキタケをギロリと睨みつけ、甘んじてそれを受けるサキエル。かなり嫌そうである。
「いや別に笑ったわけじゃないんだけど‥‥」
 頭をさすりながら覚羅が苦笑し――アウト。ハリセン。
「‥‥くっ‥‥地味に恐ろしいルールだね‥‥これは‥‥」
 アウト。
 そう。覚羅は微笑みながら喋る癖があるので、面白いとかつまらないとかでなく、つい笑っているように見えるのだ。
 なにか言う度、効果音とハリセンが鳴り響く。
「‥‥お前さ。ルール解ってるか? もう20回連続。まさか抱きついて欲しいのか?」
「違う! 好きでやってるわけじゃ‥‥痛!」
 スパーン。
「うーん‥‥ホント、普通ならゆっくりするにはいいところだね。‥‥笑わないようにってのも案外大変だなぁ」
 その様子を見ていた新条 拓那(ga1294)。隣の石動 小夜子(ga0121)は流石に笑ってしまったが、ユキタケの抱きつきを拓那が全力で阻止した為、事無きを得ている。
――事無きと言っても、ルールは執行する。しょうがないので変わりとして拓那へ水風船をぶち当てたのだが。
「‥‥でも、猫屋敷を見るためですから。何としてもこの試練を乗り越えねば、ですね」
 しみじみと云いながら、拓那の手をそっと握って励ます。そうだねと同意する拓那の顔は、辛うじて笑顔ではない。
 どうやら、ユーディーが『これが終わったら猫屋敷に連れていってもらえるから』とでも言ったのだろう。小夜子と拓那の目的はそちらになっているようだ。
「では、取り敢えず荷物を部屋に置いて来ましょうか。持ったままだと邪魔ですし」
 ユキタケの先導で、ホテルに案内される一行。
――そこには!!

 取り敢えず作りました的な台の上。薔薇を周囲に飾り付け、鎖を半裸の体中に巻きつけたまま寝そべり、片足を高く上げて悩まし気な顔で此方を見つめている輪島 貞夫(gc3137)の姿があった‥‥
 硬直する数人。そこへ、貞夫は『気にしないでください、オブジェの一部です』などと事もなげに言うのだが‥‥
「気にするなと言いながら何故こっちを見るんだ‥‥」
 須佐 武流(ga1461)が無表情のまま貞夫を見やる。しかし嫌悪を乗せた声音は隠し切れないようだ。
 それだけならいいのだが、面白く無いと思ったのか貞夫も『はぁぁ‥‥ん』と更にセクシーな声を出して身をよじり――拓那、カルマ・シュタット(ga6302)がついに顔を背けて肩を震わせた。
『はい、アウットー!』デデーン。
 カルマと拓那に、ハリセンが唸る。
 パーン。と、ロビーに木霊するハリセンの音。そして、頭を抱える二人の姿。気がつけば、貞夫は居なくなっていた。

「面白そうなイベントですネ♪ 何も考えず楽しみたいと思います♪ 何があっても、お兄様の側なら怖くないですー♪」
 セラ・ヘイムダル(gc6766)がじゃれつくようにリヴァル・クロウ(gb2337)の服の裾を掴んで引き止めると、素早く、かつ自然に腕を絡めた。
(‥‥という建前で、本当はリヴァルお兄様との距離を縮めるのが目的なのです♪)
 本音と立前を使い分け、胸をぐいっとリヴァルの腕に押し当てる。そう、あててんのよ。
 当のリヴァルは気づかぬはずはないと思うのだが‥‥気づかないフリをしているのだろうか?
 嗚呼、なんという恐ろしくも羨ましい策略だろうか。
 彼のすぐ前で、部屋のキーと荷物を手にしながら諌山美雲(gb5758) がユキタケに気づいて話しかけた。
「あ、ユキタケさん。こんにちわ♪ 今日は楽しくなりそうですね!」
 よろしくお願いします、とつい笑顔になった美雲。デデーン。
「はいっ、美雲さん、アウトですねエエエ!!! 決まりは決まりデース!!」
 効果音と共にユキタケのメガネと煩悩が、光って唸る。じりじりと美雲に迫る。
「え、ユキ‥‥タケさん‥‥?」
「覚悟デース! 罪は罪デース!」
 ユキタケ、なんか口調違ってるぞお前。そう突っ込む人も居ないのだが。
(挨拶の会釈程度でアウトだと‥‥!?)
 それを見て驚くリヴァル。当の美雲はたじろぐだけだ。このままユキタケに罰という名のセクハラを受けるのだろう。
「待て‥‥社交辞令ですら抵触というのはあまりにも‥‥いかん‥‥!」
「あっ、お兄様ァ!?」
 セラの手を振りほどき(その時にうっかりタッチしているのも報告官は見逃さない)美雲とユキタケの間に割って入るリヴァル。
 だが、カットインの勢いが強すぎたのだろう。リヴァルはよろめいて美雲にドシンと当たる。
 きゃあ、という美雲の短い悲鳴の後、もつれ込むように床へ倒れた二人。
 セラが駆け寄ろうとして、思わず立ち止まると口元に手をやった。
「‥‥怪我はないか、美く‥‥ふむ?」
 もにゅ。
 今のモニュという柔らかい擬音語が適切っぽい感触は何か。そして、この手のひらに感じるマシマロっぽくもモチのような弾力。
 もにゅもにゅ。
「リ‥‥、リヴァルさん‥‥っ!!」
 顔を赤らめて、美雲がリヴァルの事を呼ぶ。彼女の視線を辿り、リヴァルは硬直した。
 掌は美雲の胸をがっちりキャッチ。あまつさえ、手は二度ほど開閉していたのだ。
「‥‥!! ち、ちが、こ、これはここ、故意ではなく偶発的なものであり、け、けっして‥‥も、申し訳ない」
 慌てて飛び退くと、酷く吃りながら謝るリヴァル。
 美雲も胸を隠すようにして立ち上がると、髪をかきあげながら『ワザとじゃないみたいですから‥‥』と視線を逸らす。
 気にしていません、と言いながらも顔は紅潮し、俯き加減のまま散らばった荷物を広い集めて逃げるようにその場を去っていく。
(ふむ‥‥リヴァルさんは中々笑いそうにないけど、困らせることくらいなら‥‥)
 近くの柱の影から一部始終を見ていたカルマ。手にした黄色い麺(ホテルの厨房よりお借りした)を頭に被り、カツラ代わりにし――これは何処から借りたのだろう。口紅を塗る。
「あ、あー‥‥よし、ちょっと裏声で。これで完成‥‥ふふふ、リヴァルさんが驚き笑う顔が目に浮か――へぶ!!」
 ニヤリと笑ったカルマの眼前には、豪速のハリセン。ばちんと横っ面を叩かれた。
 ちょうどその頃。
「お兄様‥‥」
 悔恨の念を抱くリヴァルにそっと近づくとその手を取り、セラは自身の胸にぎゅっと押し当てる。ふっくら柔らかい。
 驚くリヴァルをうるうると上目遣いで見つめるセラ。
「言って下さればセラも‥‥」
 セラも何だ。
 突き飛ばされたユキタケや、周りからの視線が刺すように痛い。慌ててその手を引き剥がすと、同じくリヴァルも文字通り一目散にロビーを離れていった。
「あれが噂のラッキーシュ、シュケベ‥‥ってやつか‥‥」
 深刻そうな顔をした武流が呟く。ネタじゃないけど噛んだ。羨ましいようなそうでないような。
 罰ゲームのハリセンも嫌だが、抱きつかれるのは悪くない‥‥
 しかし、『お前にじゃない』という意思を載せユキタケをキッと睨むと、その場を立ち去る。
 たまたま通りかかったユキタケは、困ったような顔をしていた。

(笑ってはいけないって、ちょっと困るなー。ぶりっ子もあんまりできないし‥‥)
 こんなところでそうする必要があるのか。ティリスはため息をついてホテル内を歩いていた。
「さーて、ティリスちゃん弄って遊ぶわよー!」
 彼女が通り過ぎた後すぐ。樹・籐子(gc0214)がティリスに飛び掛る‥‥じゃなくて飛びつく!
「きゃぁー!? トッ、トーコさん!?」
「せいかーい♪ 嬉しいわぁ、当ててくれて」
「こーゆーコトすんの、トーコさんくらいでしょっ!? ひゃぅ!」
 素頓狂な声と共に身をよじるティリス。籐子のくすぐりとお触りがダブルで全開である。
 くすぐられて笑ってしまったの‥‥と、満面の笑みで悪戯する籐子の二人にアウトが下った。
「うふふ‥‥二兎を追うものは二兎ともご馳走。罰ゲームです!」
 両手を広げてユキタケは走ってくる。身構えるティリスをそっとお姉ちゃんは抱き込む。
「しょうがないわね。いいわよ、ユキタケさん?」
 ぱっちん、とウィンクしながら豊満なボディをユキタケへとズイッと向ける籐子。途端、ユキタケの目が胸部に釘付け。
――これが、オッパ‥‥い、いや、そうじゃなくて罰ゲーム。でもこれは見事なオッ‥‥スイカ‥‥
 流石海外。ボリュームが凄い。と訳の解らん思考に陥りながらも生唾を飲み込んで固まるユキタケ。
「ユキタケェー! 助けに来たー!」
「総帥!!」
 飛び込んできたのはしっと団・総帥である白虎(ga9191)今日も今日とて女装癖。
 ユキタケは嬉しそうな顔をし――‥‥ああ、罰ゲーム要員なのでニヤついても大丈夫‥‥いいだろ、それくらいさせてあげてよ!!
「さっき女性に抱きついてたから粛正っ!」
 スパーン!
「ごわぁッ!」
 顔面にハリセンを食らうユキタケ。ハリセン執行に満足気な笑みを漏らす白虎もアウト。酷いと文句を言っている間に、籐子はティリスと何処かに行ってしまったようだ。
 絶好の抱擁チャンスを失ったユキタケは致し方なしに白虎に抱きつき、抱きつかれた白虎の断末魔がホテル内に響くのだった。

「第一回かな? 笑ってはいけない! イン! 海ー!」
「リュウナ様、多分最初で最後です」
 そう身も蓋もない事を言っては悲しいが、敢えて否定はするまい。リュウナ・セルフィン(gb4746)と東青 龍牙(gb5019) がビーチに出て誰にともなく大きな声で言う。
 知り合いが居ないかとあたりを窺えば、西島 百白(ga2123)が ねこみみふーどを装備して準備体操を始め、同じくけもみみパーカー(ぬこ)の宵藍がティリスが聞きたいといったので二胡でバラードを演奏していた。
 潮風に楽器はどうなのとかいう苦情は受け付けない。妙に男二人のヌコ姿はシュール。しかし、リュウナは気にしない!
「ひゃくしろー! リュウナはひゃくしろと龍ちゃんを笑わせるのだ! 覚悟するのだ!」
 準備体操をしながら、百白はそうか、と返答。後ろに反り返りながら『‥‥さて、笑わせて‥‥もらおうか‥‥』と挑戦を受ける。
 スイカ割りの準備をしながら、密かに百白より泳ぎを教えてもらいたかった龍牙は残念さを押し隠し、明るく言う。
「何でも笑った回数が多い方が負けらしいので、私はリュウナ様のサポートを致しますね!」
 何ということだろう。自分も標的にされているというのに、龍牙の献身的な態度には全米が泣く! ‥‥かもしれない。
「全米を泣かす者は私が仕置に参ります!!」
 BGMを流しながら、水中よりザバーン!! と現れる貞夫。
 ちなみにテーマは海神ポセイドン、らしい。ビキニパンツ一丁‥‥なはずだが、水中から現れたため頭や体中に海藻が付着して、イメージとはかけ離れた『海の妖怪』に成り下がっている。
 しかも間が悪いことに‥‥宵藍の演奏は熱を帯び、熱血戦隊ソングになっている。貞夫の神々しい、かつRPGのボス戦のようなBGMと何故かマッチし、宵藍の『イエー!』だの『Lets Go!』だの掛け声が丁度良く入っている。
 突然現れた貞夫の姿(と掛け声)。相乗効果の産み出す境地が大変ツボにハマった百白は腹を抱えてその場に崩れ落ち、リュウナと龍牙は互いに抱き合って悲鳴を上げ‥‥たのだが、事情が飲み込めると爆笑。
「ぶはっ‥‥!」
 海辺に来ていた煉条トヲイ(ga0236)と鯨井昼寝(ga0488)にもそのダメージを与えていた。同じ『ぶはっ』だが、トヲイと昼寝で意味はそれぞれ異なる。
(実際貞夫の出現に笑ったのは昼寝だが、トヲイは昼寝の水着姿に大量の鼻血を出して倒れただけである)
 男の頭を叩いて回るシルヴァリオ。トヲイの前に来ると、首を傾げ屈んで『アウトか?』と尋ねる。無表情で頷くトヲイの額に、ハリセンを落として立ち上がると貞夫に声をかけた。
「一片に叩く手間が省けてよかったぜ。相当いけるな、お前」
「はっはっは。筋肉を褒められるとは、恐悦至極に存じます」
「一度も褒めてねーし」
 ついでに、笑ってしまった貞夫にもハリセンは振られた。
 哀れユキタケは、女性に抱きつこうとしてリュウナと龍牙からビーチボールアタックと、トヲイが昼寝に抱きつくのを阻止するためのピコハンで叩き回され、一度も抱きつけなかった。

 少し離れた場所に、ユーディーがラルス・フェルセン(ga5133)の姿を見かけた。
 だが、彼はけもみみうしゃぎパーカー、けもしっぽ風アクセ(うしゃぎ)姿のまま、真顔でうさぎ跳びをしていたのだ。真顔でうしゃぎコスでうさぎ跳び。
「ラル‥‥」「うしゃぎたーん!! 可愛い〜!!」
 と言う声にかき消された。
「‥‥わぁっ!?」
 先ほどの海藻を振り乱しながら、可愛い物好きの貞夫が此方に向けて走ってくる。驚いて思わず腰が引けたラルスだが――うしゃぎさーん、といって止まらぬ貞夫の両手はラルスを抱きしめようとしているのではないだろうか。
 モフモフして、満ち足りた表情で帰っていく貞夫(当然ハリセンは落ちる)。
 服についた海藻をちまちま取るラルスに、ようやく声をかけた。
「ラルス‥‥その‥‥元気出して‥‥」
「あ、ユーディー君、こんにちは〜」
 微笑んで会釈するラルス。当然デデーン。しまったという顔をしたが、突如現れたシルヴァリオとすれ違いざま、軽めにスパンとハリセンが落ちた。
「‥‥ラルス、大丈夫‥‥?」
「ええ‥‥実際〜笑わなければー良いと、いうことですがー、基本的に私、にこにこしてる事が多いのでー」
 中々厳しいルールだと思うと言いつつ頭をさする彼だが、ユーディーはじっとラルスを見つめていた。
「ええと、ユーディー君? どうかー、しましたか〜?」
「‥‥ラルス、可愛い。お耳と、ポンポンついてる‥‥」
 頭のうしゃぎ耳を指すユーディー。ポンポンとは、けもしっぽ風アクセ(うしゃぎ)であろう。
「これで〜、誰かが笑ってくれるかとー、狙っています」
「そういえば、そうね‥‥」
 人を笑わせるのは苦手だけど頑張るといったユーディーに微笑みながら、次の作戦もありますから、一緒に頑張りましょうと誘い――再びハリセンの餌食になったラルスだった。

「日頃戦で落ち着かない俺たちに与えられた、僅かな安息‥‥それを、共に過ごせるのは喜び‥‥ッ!?」
 ようやく鼻血から復帰したトヲイ。一緒に歩いているはずの昼寝に話しかけながら振り返って――言葉を無くし、その眼を見開く。
 あの見目麗しい昼寝ではない。いや、間違いなくそこにいるのは昼寝なのだが――‥‥何処から用意したのか、アメン=ラーのマスクに酷似したものを被って歩いていたのだ。
 トヲイの視線に気づいた昼寝が、普段と変わらぬ動作や声音で問いかける。
「ん? どうかしたか?」
「それなりに‥‥」
 笑わせるためとはいえ、何故チョイスがこれだったのだろうというトヲイの疑問は、すぐに明かされることとなる。
「ジープ‥‥!!」
 駐車場に置かれたジープを指さし、昼寝が大きな声を出す。海岸に行くため、側を歩いていた夏 炎西(ga4178)も驚いて立ちすくんだ。
 ジープに駆け寄り、ええジープだと褒め称える昼寝。そして、仰々しく『おう!』と驚きを手で表す。
「ええジープと思ったらやっぱりエジプトのかー!」
 エエジープト、エジプトを掛けたのだ。通りがかりとはいえ聞いてしまった炎西は堪えきれず噴き出し、言った昼寝でさえ自分で自爆してうふうふ笑っている。
 なおかつ、『ナイルに行かないる』だとか『カイロへの迂回路は近いろ?』と、謎のエジプト関連ネタで攻め立てまくる。
「あ、ちょ‥‥面白いので、やめ‥‥」
 そんな炎西と肩(と仮面)を震わせる昼寝を見つめ、ふっと微笑を浮かべるトヲイ‥‥に、判定が下る。三人揃って、アウトとなったのだ。
 シルヴァリオに叩かれる前に、トヲイは『どうしてオレの称号はアニメグッズショップみたいな名前なんだ!』と彼に詰め寄る。
 そこは報告官のせいな気がするので誤魔化しておくが、萌えキャラグッズに囲まれて赤面しつつ働くトヲイを想像‥‥した何人かも、いた。

 海が展望できるレストラン(昼間はカフェである)のテラスにて、本から顔を上げた男は目を細めて声のする方を見た。
「賑やかだな‥‥さて、どうしたものか」
 むぅ、と時間の遣い方と作戦に悩む高坂 永斗(gc7801)だが、先刻思いついたものは――『本でも読もう』だった。
 確かに落ち着けていたのだが――
「でしょー? お姉ちゃん、そう思うの」
「んー‥‥一理あるかもしれないわね」
「でも、男の人ってそういうところ、ありますから‥‥」
 ケイや美雲を交え、お茶会を開いている。笑顔にならないようにしているので、冷めた光景に見えなくもない。
 安心させたところで弱点を聞き出そうとする策士なお姉ちゃん。だが、ケイはそう簡単に口を割らないようだ。
「隙ありっ!!」
 ティリスが突如現れ、先ほどのお返しとばかりにくすぐり返すのだが‥‥
「やーねー、ティリスちゃんにくすぐられたってお姉ちゃんを喜ばせるだけよ〜? なに遊んで欲しいの?」
「いやああ違うぅぅ!」
 笑わせることは出来たが逆効果。籐子に捕まり、ぎゅっと抱きしめられるティリス。
 ユキタケの代わりにシルヴァリオが来たが、首を傾げ、どうしたものかと悩んだが――
「リア充の匂いがするっ!」
 とやってきた白虎を掴み、籐子へ押し当てる。
「あらん、白虎ちゃんも混ざりに来たの? うふふ、いいわよ」
「あばばば、違うっ」
 むぎゅむぎゅと胸に押し付けられ、目を白黒させる白虎であった。

(リヴァルさんもだけど、総帥まで‥‥! なんなのあの人達!)
 ユキタケは激怒した。必ず、かの偶然接触(ラッキースケベ)の戦士を排除せねばならぬと決意した。ユキタケには女性との付き合いがわからぬ。ユキタケは、非モテの軍人である。
 と、何らかの名作を彷彿とさせるくだりでお送りしたが、実際罰ゲームだといったはずなのに執行できないことが多い。手持ちの水風船だけが減っていく。
「きゃっ、お兄様っー!」
「うわっと」
 リヴァルと一緒にいて、隙あらばラッキースケベを仕掛けようとするセラ。笑ったところをアウトだと叫びながらすかさず抱きしめに行ったが、事故に見せかけた肘鉄が鳩尾に入ってとても痛い。
 だが、ユキタケも事故だと処理したので彼女の確信的な犯行は気づかれないままだ。
 武流も含め、ユキタケに『自分や連れを触れられるくらいならKOROSU!』位の気概の持ち主ばっかりである。
「ユキタケ君、お困りのようだにゃ」
「あ、総帥。女の子に抱きつけなくて困っています」
「理由が けしからんのだが、ユキタケ君も仕事だからねー。ここは僕が何とかしてあげよう。でも桃色禁止」
 恋人居るくせにお前が言うなよ。という目で白虎を睨むユキタケ。敏感に反応した総帥だったが、動揺しながら『ユーディーさんはどこかな』と探し始めた。
 よく見れば、白虎の後ろには沢山の猫が列を成している。これはスゴイ。
「彼女に、猫を見せてあげようと‥‥コラ、暴れるなー!」
 手に持ったエサに飛び掛る猫や、じゃれつく猫を踏まぬようにと連れて行く白虎だったが――
「拓那さん‥‥! 猫があんなに!!」
「かっ‥‥わいいなぁ〜! ちょっと触らせてもらおう!」
 小夜子が拓那の袖を引っ張り、猫の集団を指す。二人共顔が破顔し、どう見てもアウト。
「まぁ‥‥猫をどうやってこんなに集めたのかしら? ふふ、可愛らしい子達ね」
 猫好きは意外と多いようだ。可愛らしい鳴き声につられてやってきたケイもまた、柔らかに笑う。
 肝心のユーディーはといえば、自信満々なドヤ顔ラルスの画伯絵に――お腹を抱えて震えていた。
「ユーディー君はー、こういうものに弱かったんですね〜」
「ラルスが普段、絵を描いているのは知っていたから‥‥まさか、こんな‥‥のとは‥‥」
 恐らくわざと画伯級に描いているのだろうが、ユーディーはなにか勘違いしているようだ。
 ユキタケがユーディーに抱きつく&猫のことを報告している間、ケイの前に立ちふさがるシルヴァリオ。
「ど、どうして貴方がここに居るのよっ! まだ地獄じゃないでしょっ?」
「あいつが他に行ってるからだろ。罰ゲーム」
 ユキタケはこう見えても人間。分裂しないので、罰ゲームの執行代理である。
「どこ行くん? ラシードに向かうらしいど」
 と、仮面をつけた昼寝が再び自爆しても、ユキタケは来ない。
 痛くないしすぐ済むから、と近づくシルヴァリオに、身構えつつも逃げないケイ。いや、なんか‥‥どことなく嬉しそうな気さえするのだが。
「ほら、アンタの大好きなトヲイはあっちよ! って、ちょっ‥‥」
「トヲイもお前達も‥‥オレが殺そうと思った奴は認めている。同列に置いて悪いのか?」
「‥‥わ、悪く、無いけど‥‥」
 耳元で聞こえるシルヴァリオの声と、肩に置かれた手の感触。‥‥ケイ、あんまり抵抗しないのか。
 偶然は続く。そこへ居合わせたサキエルは、モノ言いたげな顔だ。
「‥‥怒ったりしてねーけど、別に。なんかスッキリしないっつーか」
 ユキタケの落とした水風船をシルヴァリオに投げつけ、そのシルヴァリオはリヴァルに『自然にヤラシイ』とハリセンを食らう。
 お前には何故か言われたくない、とやり返したシルヴァリオとハリセンバトルを繰り広げ、戦い好きのサキエルも結局その中に参戦したのだった。



●驚いてはいけない!

 夕方で一旦笑いの時間は終え、自由に夕食を楽しんだ一行。まぁ夕食くらいはね、笑顔で。
 とっぷりと暮れた夜。
「はーい。これよりー‥‥」「第ホニャニャラ回! 怖がったらいけないルール! 開催ですよー!」
 ユキタケのマイクを優雅に奪い、龍牙が高らかに開催を表明。
 ルールのご説明まで行ってくれた。
 その後、ガタガタと席を立って散り散りになるメンバー達。一体、夜は何が待ち受けているのだろうか‥‥

「ぃぃぃいやああああ!!」
「ひぃっ!?」
 突如悲鳴が聞こえ、その声に拓那が驚いた。手を握った小夜子のフォローもちょっとだけ間に合わなかった。
 ハリセンを受けつつ、後ろを振り返れば‥‥必死に形相で逃げ惑うユキタケを剣呑な目を向けた覚羅が覚醒し、竜斬斧を携えて追いかけていた。
「‥‥人が大人しくしていればいい気になるもんじゃないよ?」
「ルール読んだでしょ!? それが今回の法デスッ」
 ぶおん、と問答無用に振られる斧を、見かねてシルヴァリオが止めてくれた。
「寸止めだと思うが――流石に死んじまうだろ」
「全く‥‥苛々が止まらないよ‥‥!」
 否応なしに覚羅のストレス発散に付き合うハメになったシルヴァリオ達はさておき、

「――幽霊? そんなもの出ない、というより信じていない」
 リヴァルの口から出た『幽霊』という単語に、振り返る永斗と炎西。美雲は『私見えますもん』と苦笑交じりに答えた。あ、夜は笑って平気よ。
「セラは怖いですぅ‥‥守ってくださいお兄様ァ」
 これを利用しない手はない。セラはヒシとリヴァルにしがみつく。
 途中、リヴァルは美雲とまた偶然的な接触があったようだが、ストレスを発散した覚羅に『ついに人妻にまで手を出すとは‥‥見下げ果てたよりったん?』と軽蔑の言葉と眼差しを浴びせられていた。
 否定するリヴァルの脇には、顔を覆ったままの美雲と、『セラに言ってくださればもっと凄く‥‥』とか言っているセラ。
 反省しているとか偶然だとかは兎も角、覚羅が抱いた印象は変えられまい。

「この雰囲気がなァ‥‥」
 周囲を見ながらサキエルは頭をかいた。怖いわけではないのだが、好んで一人にはなりたくない。しかもホテルも雰囲気を大事にしているのか、微妙に照明が薄暗い。
 風が外の樹木を揺らし、ガサガサと音を立てる音にも若干反応する。すまんが、デデーン。
「ちょ‥‥アンタなのかよ!?」
 ユキタケが来るかと思ったが、シルヴァリオであった。妙に動揺するサキエルだったが、シルヴァリオはニヤリと笑って『なんだ、怖がってんのか』と問いかける。
「嫌だなと思ってるところに音がしたら誰だって過敏に反応するだろォがよ‥‥!」
「オレは怖いことがないからな‥‥あったとしてもどうせノーカウントだし」
 ズリィ。と思っても、運営がそういう判断なのであれば仕方があるまい。フーン、と相槌を打ってサキエルは近づいてくるシルヴァリオを軽く蹴る。
「‥‥おい、まさか本気で言ってンじゃねェよな? 近寄んなッ」
「だったらビビらなけりゃ良いだけだろ‥‥じっとしろ」
 ふわ、と包み込まれると、シルヴァリオはサキエルの頭を軽く撫でた。
「ホラ、怖くない」
「‥‥‥‥怖がってねェ。部屋に戻ろうと思っただけだ‥‥」
 その声は弱かったが、嫌がっては居ないようだ。スッと離れると、シルヴァリオは『じゃあな』を言って、再びハリセンを携えて次の罰を執行しに行く。
(アイツもだけどよ‥‥あたしも、なんなんだか‥‥)
 撫でられた頭に手を置き、サキエルは――恥ずかしいような嬉しいような、顔をした。

 カラオケルームの一室を借りて、数人が蝋燭に火を灯し怖い話を行っていた。カラオケには火災報知機入ってんだろとかそういうのは気にしない。
 ただ、光の加減だと思うのだが――黒いものが走った気がする。虫‥‥特に黒いアレがいないかと足元を気にする永斗。
「――‥‥山仕事に村の犬がついてきたんです。で、いよいよ下山の時に竹の子が入った背負籠をかじるんですよ。『こらっ』て後ろ手に叩いたら逃げていったんですけど‥‥」
 炎西はそこで一旦言葉を切った。それに呼応するように、炎がゆらぐ。その先を急かすように、永斗が恐る恐る『‥‥けど?』と半ば期待し、半ば嫌がりつつ促した。
「振り返って見たら、なんと熊でした。考えてみたら犬の大きさから言って籠に届く筈ないんですよね。あ、犬は隠れてたようで無事でした」
「っかー! 安心した! てっきりお化けかと!」
 安堵する永斗とカルマ。そして、逃げられないようにと何故かユキタケに捕まえられている白虎。
「しかし炎西さん。怖がらせなくちゃいけないのにウッカリ話じゃないですか」
「何を仰います! 熊ですよ! 間違ったら大怪我だったんですから‥‥怖いじゃないですか」
「はぁ、まあ‥‥」
 確かに怖いんだが、と言いたそうなユキタケだが、じゃあ次俺な、と永斗が言葉を選びつつ話し始める。
「スイカの種まで食ってみろ。体の穴という穴からスイカのツタが伸びてくる‥‥らしいぞ‥‥」
 あとフジツボもな。怪我したところからびっしり生えるらしいぞ。と相手を震え上がらせる。この怪談、まだ続きそうだ。

「宵藍さん、どこですかぁ‥‥」
 ティリスがキョロキョロとしながら、背を丸めて辺りを窺う。一緒に居たはずの宵藍の姿が見えないのだ。
 それもそのはず、宵藍はこっそりと隠れ、わざと怖い音を二胡で奏でていたからだ。
 音はすれども姿は見えず。ホテルの中庭あたりはとても暗く、懐中電灯でもなければよく分からない。
「わ〜がなは〜、ラァ〜ルスゥゥ〜!」
(ひッ‥‥)
 闇夜‥‥のどこかからは、二胡の音に乗せて妙に朗々と歌い上げる男の声。歌い主はラルスなのだが、急に聞こえ始めたら確かに怖い。
「だぁ〜れか‥‥」
 いませんか、と続けようとした所。ガサガサと草をかき分ける何かが!!
「ひぃやぁぁぁあ! 何か出たっ!?」
 これには驚くティリスだが。その声はティリスか、と落ち着いた声音で問いかけられ、返事をする。
「ユキタケが近づいたのかと思って殴ろうとしたんだが‥‥危なかった」
「須佐さん‥‥本当に危なかったです」
 ルール無用という武流のマジ殴りや蹴りを食らうところだった。
 しかし、実際アウト判定をくだされたティリスの側へユキタケがやってきたのだが自分のそばに来たと思った武流が追っ払う。ある意味不幸中の幸い。
 何しているのかと問われ、宵藍とはぐれたと素直に答える。取り敢えず明るめの場所まで連れていくことにした。いや、武流の後を勝手についていく。
「須佐さん!! 何か動きました! こわぁい!」
「やかましい! 葉だ!」
「きゃー!?」
「騒ぐな! ‥‥ほらアウトだ!」
 少し歩くと何かと驚いてヒシとしがみつくティリス。宵藍とはぐれたのも、もしかすると面倒だったせいじゃないかと思った武流だったが――
「あ、ティリス! ようやく見つけた!」
 二胡を手に持ち、後ろから手を振る宵藍。薄暗いが、何かが動く姿と声は認識できる。
「宵藍さん! 何処隠れたんですかぁ! 怖かったっ!」
「あまり怖そうじゃなかったが‥‥」
 武流がそう指摘すると、怖かったですと頬を膨らませてそっぽを向く。宵藍はあまり事情が飲み込めず、二人を見ていたがティリスに隠れて悪かったと謝る。
 ティリスはにこりと笑うと『喉乾いた』とおねだりし‥‥別段宵藍は悪くないのだが、お詫びとしてジュースを奢るハメになる宵藍だった。

 小夜子と拓那は寄り添って月を見ながら、微笑み合う。
「まだ終わってませんけれど、猫屋敷、どんな場所でしょうか‥‥きっと猫が沢山居る、素敵な場所ですよね」
「そうだね‥‥しばらくはハリセンが怖いかな‥‥。今日の昼間で一生分叩かれた気分」
 シルヴァリオのハリセンはさぞ速かっただろう。感情豊かで純粋なのは良いことなのだが、叩かれ過ぎも可哀想なことである。
「大丈夫です。怖くなったときは、私が手を握って励ましますから‥‥私が怖いときは励ましてくださいね」
「うん。勿論だよ。一緒に支えあっていこう」
 他人を貶めたりしている間に、素晴らしい美談である。だが、君らの近くにも蜘蛛の巣や蒟蒻、エノコロを持った白虎という魔の手が迫っている。気を付けられたし。


「トランプしたいなり‥‥」
「帰ったら、やりましょ‥‥」
「たまに〜、大きなー、声を出すと〜‥‥気持ち良いものですねー」
 歌っていたラルスをようやく見つけ、ユーディーやリュウナは散歩道を通りつつホテルへ進む。
 前を進むネコミミフードの百白は、落とし穴が開いていないか気にしながら進んでいく。昼間に海岸で何度も落ちたのだ。
「‥‥怖いのか」
「べ、別に怖くはありませんよ!? ユーディーさんやリュウナ様が怖がるといけないから私も――」
 腰が引けた状態で、百白の服を掴みながら歩く龍牙。十分怖がっているように見える。
(おのれ、夜のリア充! サックリと妨害してやるーっ!)
 そこを草葉の陰からチェックする白虎は、大量の蒟蒻を出し、袋のまま放り投げる。あ、ちゃんと美味しくいただくので大丈夫です。
 ボドボドといたる処より降り注ぐ蒟蒻。
「きゃぁあああ! せめてリュウナ様だけは守りますっ!」
「にゃーっ! 龍ちゃん、何が起きてるにゃ!? 身動き取れないのら!」
 先頭の百白もプチパニックを起こし、『なんか降ってきたわ』『虫ではーないみたいですね〜』とボーっとしているのはユーディーとラルス。
 当然、ここでもユキタケは‥‥語らなくてももうイイだろう。どうせ執行できなかったんだし。


 夜中‥‥皆が寝静まった頃。音もなくシルヴァリオの部屋の戸が開いた。
 ベッドに近づく気配に気づき、シルヴァリオは目を開けて身を起こす。
「誰だ‥‥?」
 そこには――黒い長髪で白装束の女が立っていた。
 ひた、と冷たい手をシルヴァリオの頬に当てるのだが――
「なんだお前。殺されに来たのか」
 その手を握られて、メリメリと力を込めると、白装束の女が喋る。
「痛っ! 力を込めるな! シルヴァリオ‥‥俺だ、トヲイだ」
「‥‥なに?」
 声は男だし、よく見れば確かにトヲイの顔。ただ、髪が長いので女かと思った。
 トヲイはどっかりとベッドの脇に腰を下ろす。
「あれが『ジャパニーズ・ホラー』というヤツだ。‥‥少しは涼しくなったか?」
「驚きはしない。ただ、髪が暑苦しいな」
 脅かし甲斐がないと苦笑するトヲイ。髪が長いせいか、メイクが上手なのかなんか艶がある。
「‥‥眠れなくてな。からかいにきた」
 というトヲイだが、実は昼寝から『眠れないの』と言われたから気になって彼のほうが眠れなくなったらしい。
 だからといって人を起こすなといったシルヴァリオだが、割と楽しそうだ。
「だったら深夜の映画でも観るか? この大雑把な感じがわかりやすい」
「通販の方も胡散臭い吹き替えで面白いと思う。ああ、日本語だったらの話だが」
 と、テレビのチャンネルを弄りだす二人だった。

 翌朝、寝不足そうな二人も含め、バスに乗り込む前にみんなで記念撮影をして。
「あ、ユキタケさん。肩に女性の――いえ、なんでも」
「あっ‥‥」
「ちょっと美雲さん!? 何で顔背け‥‥! っていうか石動さんまで!! 冗談でしょ!?」
 泣きそうになるユキタケ。――よほどこの事件のほうがみんなを驚かせましたとさ。