タイトル:猛牛を誘導せよ!マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/10 17:18

●オープニング本文


 スペイン、パンプローナ。
 このフランスとの国境近い町では、近々行われる『牛追い祭』というものを控えているためだろう。
 勇敢な祭りとして名高いこの行事を目当てに訪れる人々は多く、そして街全体が熱を帯びていた。
 まだ牛追い祭の開催までは数日ある。それでも、この高揚感に酔いしれる人々は――冷静な部分をもうどこか麻痺させてしまっていたかもしれない。

●敵として、今回会いたくはない存在。
「た、大変だーーー!!」
 署へ大慌てで駆け込んできた若い警察官は、顔面蒼白のまま受話器を手にとって、どこかへかけようとボタンを押す。が、その震える指先と荒ぶる感情は、番号を正確に押すことも思い出すことも出来なかった。
「おいおい、なんだそんなツラして。どうしたってんだ」
 彼の上司にあたる中年の男が、彼へ近づき肩へ手を置いた。
 ただ事ではないその表情を見つめながら受話器を奪って元に戻そうとしたが‥‥力の限り握られているそれを取り上げる事ができず、仕方なくフックを指で押した。
「う、牛が、街に向かってます」
「ほぉ?  祭りの準備でもしてるんじゃないのかね。近くに管理人がいるだろうさ」
 薄いあごひげをさすりながら上司が何事も無いように答えると、若い男はそれが、と付け加えた。
「誰も居ませんでした。‥‥いえ、いたかもしれませんが、いるはずないです」
「お前の言っている意味がまず解らん。ハッキリ言え」
 苛立ちを含む口調で尋ねると、遅すぎる結論がやってきた。

「ウシ型のキメラが3頭、街に向かってきます‥‥」
『早く言えーーーーッ!!』
 そこで話を聞いていた全員から総ツッコミを受けながらも、ようやく思い出したULTの電話番号を押すのだった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ヴィンセント・ライザス(gb2625
20歳・♂・ER
ソリス(gb6908
15歳・♀・PN

●リプレイ本文

●いざ行かん
 パンプローナへと急ぐ高速艇内。
 通信機の前で皐月・B・マイア(ga5514)、白鐘剣一郎(ga0184)とホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、状況、経路等地図を見つめ現地の警察官と連絡を取っていた。
 情報で解った事は、牛はタコネラ公園を通り、川沿いに北西のルートでやってきていること。
「いっそ街に入る前に倒せれば被害を抑えられるのだが、少々厳しいかな?」
 剣一郎が相手へ尋ねてみるが、相手は済まなそうに言う。
『そうしてもらえたら助かったんだろうが‥‥』
 一刻も早い交通整理や避難要請を求めたためか。警察の車がひしめき合い立ち回れるほどの広さがない。
「ふむ‥‥それは、何と言って良いやら‥‥」
 街の入り口を駐車場状態にしているとは。眉根を寄せながら剣一郎は口を閉ざす。
「‥‥牛追いのコースは使えないか?」
 彼が地図を指し示した。
 警官は自分の地図を見ているのか答えない。無線の僅かなノイズだけが聞こえた数秒後。
『わかった、説明をしてこよう。状況は追って連絡する!』
「これが依頼じゃなければ、いい里帰りなんだけどな‥‥」 
 そう言って苦笑したマイア。僅かな間、故郷・バレンシアへ思いを馳せていた。
 ホアキンへ牛追いのルートを聞いて確かめつつ、街中の地図を真剣な面持ちで見つめるヴィンセント・ライザス(gb2625)。
 数分も経たぬうち再度通信が入った。
『総出で柵の移動をさせてる! コースも使えそうだ!』
「了解。すまないが、くれぐれもそのコース上へ立ち入る人を少なくしてほしい」
 ホアキンはそう注意を添えると、剣一郎と他の皆にルートを伝えるため通信機の側を離れた。

●麗しのパンプローナ
 パンプローナに着いてすぐ、彼らは現地警察と合流した。
 牛が来る方角は警官が言ったとおり北西。
 そちらの方角より脅えの混じった声を上がった。
「き、来ました! キメラです!!」
 逞しいながらも無駄のない身体。蹄が道路を打ち鳴らし、立派な角を見せつけるかのように進んでくる牛型キメラ。
「わざわざ祭りに合わせて送り込んできたのか、あれは‥‥」
 剣一郎が剣に手を添えつつ呟いた。
 皆に緊張が走ったが、八神零(ga7992)は向かってくるキメラを呆れたように見やる。
「牛祭りの日に猛牛キメラとはな‥‥バグアも空気を読んでるって事か‥‥」
 ぽつりと漏らした言葉に、ヴィンセントも肩をすくめた。
「いや、まったく。祭りだけあって、騒がしいキメラであるな」
 こうして談笑をしている間もない。
「私は傭兵のマイアだ。地理に明るい人、運転に自信のある人が付き、案内してくれ!!」
 マイアはその表情に決意を乗せて声を張り上げた。が、警官達の顔には困惑の色が浮かんでいる。
「伝統の祭りに、血で泥を塗りたくない。貴方達の力が必要なんだ。助けて欲しい」
 常に世界を駆け回る彼女だが、自分の愛した国を、人々を護りたい。その純粋な思いが人を動かすのに時間など必要なかった。
「おう、メイドさん、その心意気、気に入った!! 乗んな!!」
 口ひげを蓄えた警察官が、一番前のパトカーに乗り込みつつマイアを呼ぶ。
「Gracias!(ありがとう)」
 久々に国のものと話したからだろうか。マイアの言葉に南方の癖が出ていた。
 無線片手に乗り込み、一足先に行くマイア。パトカーはサイレンとクラクションを鳴らしながら街へと入っていく。
 牛追いのコースを到着前に確認した零もまた、赤い布を変わった結び方にして目印代わりとしていた。
「それでは、我々も行動に移ろうと思う。よろしく頼む」
 リヴァル・クロウ(gb2337)が先を行ったマイアへと伝えると、すぐに返事があった。
『任せてくれ。必ずやり遂げるから』
 頼りになる言葉。聖・真琴(ga1622)が無線を手にする。
『マイアちゃん、ナビ宜しく☆』
『うん、真琴殿も気をつけて。余り無理しないでね』
 くすりと笑うように聞こえたマイアの声は、すぐにいつもの調子に戻る。
『では参りましょう、若旦那様』
『うむ。――各班、これよりナビゲートを開始する。間に合わなかった場合は各自事前のルートに沿い判断を』
 が、その若旦那、ヴィンセントの姿が見えない。彼もまた素早く持ち場に就いたのだ。
「エンターテイメント性を求められる事案はあまり扱わないのだが、今回ばかりは仕方がない。では、皆。牛追い‥‥と行こうか」
 リヴァルは顔をゆっくりと街の中腹にある、まだ見ぬ闘技場へと向けた。

●El Encierro
「牛追い祭り‥‥ですか、とりあえず、私はうまく逃げ切るだけですね‥‥」
 真琴の隣でため息混じりに言ったソリス(gb6908)も第一の誘導が来るのを待つ。
 剣一郎とリヴァルのA班が街の中へ牛を引き入れ、零とホアキンのB班が一般人への注意を怠らないようにし――
(「‥‥逃げるのは結構、なれてますし‥‥というのも情けない話なんでしょうね」)
――ソリスと真琴のC班が、闘技場までの誘導を主に任されている。
『こちらA班! 牛3頭全て誘導に成功。只今より街に入る。我々はB班と共に補佐を続行、ナビ班へ誘導指示をお任せする』
 剣一郎の明快な弁に、それぞれが了承の言葉を返した。
「‥‥お、ボスたち!」
 真琴が思わず声を大きくした。
「少し遊んでやる。ついてこい!!」
 剣一郎と2人で牛を引き連れ、リヴァルが走りながらそれらに声を張り上げる。
「ご武運を!」
 警官が窓から顔を覗かせ、次々に細長く丸めたカポーテを彼らへ投げ渡す。
 受け取ったホアキン以外の皆は、カポーテの重さに驚いたようだ。
「確か牛は色よりも振られる旗の動きに反応すると聞いた事があるな」
 と、剣一郎も軽く動かしてみたが、捌きにもコツがいるようだ。
 ホアキンは懐かしみつつ苦笑いを浮かべる。
(「まさか傭兵としてここへ来ることになるとはな」)
「こんな時に何つぅ〜モンが乱入してンだよ‥‥」
 真琴がぼやきながら牛を睨んだ。乱入したのは残念ながら牛ばかりではない。
「どうなってる。徐々に人が増え始めたが? 警察が指導しているんじゃないのか」
 零が牛の姿が見えた途端、柵越しに身を乗り出し押し寄せる人々に気をやりながら早口で無線に投げかけると、ナビ班より返答があった。
『どうやら、キメラの牛追いと発覚してしまったようです』
 この機を逃せば拝見できないとばかりに、牛追いのコースへ人がやってくる。
 素早く地図を確認したヴィンセント。彼は街を見下ろせる建物の上からナビを行っていた。
『カスティーリョ広場、そちらから誘導を提案しよう。正規ルート上には人が既に張り付いている。牛にちょっかいを出されては危険だ』
 無線から聞こえる提案に、直ちにマイアは修正を加え。
『こちらナビ班のマイア! C班へ! ルートはメルカデレス10番通りからカスティーリョ広場へ抜けて。目印は――』
『アユタミエントからエスタフェタ通りに向かい、一本目を右に。カテドラルが見えるはずだ』
 警察から広場ルートからの修正に時間が2分ほどかかりそうだと連絡を受け、ソリスはきゅっと唇を結ぶ。
「‥‥時間稼ぎ、ですか‥‥やってみます」
「そうこなくっちゃ」
 くるん、とその場で回った真琴。
「へへっ♪ 狩ってやろぉじゃねぇの」
 瞬時に覚醒したらしく、振り向いたときには不敵な笑みを浮かべ、牛達の進路へと躍り出る。
 ばっ、と真紅のジャケットを片袖まで脱ぎ、牛どもを挑発した。
「さぁ来いや☆」

『A班。右のキメラが広場から出て行きそうだ。引き戻して欲しい』
 ヴィンセントの指示に、剣一郎がS−01を牛に向かって発砲する。
 鋭い痛みを与えられ、興奮し始める牛は剣一郎を充血した眼で見据えた。
「さぁこっちだ。ついて来い!」
 カポーテを掴んだままの腕を軽く振り上げ、牛を挑発する剣一郎。
「‥‥トレオを舞う、か」
 ホアキンが牛を誘導しながらも重いカポーテを容易く操り、真琴も迫り来る牛の突撃をひらりとかわせばその都度、人々より喝采を受けていた。
 そして‥‥
(「捕まらないように注意しなきゃいけませんね‥‥」)
 牛の角が背に触れそうになれば、ぐんと離れる。ソリスの韋駄天の如き走りにも感嘆の声が漏れた。
「さすがに直線では速いな」
「それって牛? それとも私ら?」
 剣一郎の驚きに乗るように、カポーテをホアキンから拝借した真琴が尋ねてきた。
「両方いい走りをしているということかな‥‥」
 やや離れたソリスと牛の背を見つめて、零は呟く。
 
 自分たちの頭上を人が通っているとも気付かずに牛追いを楽しむ一般人たち。
「懐かしい‥‥昔はこうやって暗殺目標に近づいた物だ」
 ヴィンセントは素晴らしい身のこなしで屋根伝いに走る。
 的確に補佐をしていた彼の眼に、円形の大きな白い建築物が見えた。
『見えてきた。闘牛場だ』

●討伐。
 闘牛場内は、今か今かとこの一大決戦を楽しみにしている観光客も市民もごちゃ混ぜになって溢れ返っていた。
 期待と熱は感染し過熱していく。そして誰かが叫んだ。
「始まるぞ!!」
 その声と同じくして、赤い扉の向こうからなだれ込んでくる傭兵にして主役たち。
 場内に割れんばかりの歓声や拍手が上がり、牛が一瞬たじろいだ。
「流石にこの轟音ならば、少しはビビるであろうな‥‥」
 ヴィンセントもそう言いながら、予想以上の観衆に驚いている。
「観客は満員、パーティの舞台としては最高の条件だ」
 零も場内を見渡し、数多の人々を眼を細め‥‥武器を握りなおした。
「ここまで誘導すれば問題ないだろう」
――次は我々が追う立場だ。
 小銃で牛を撃ち、ここからが本番だとリヴァルは剣一郎と頷きあう。
「闘牛士の心得はないので‥‥天都神影流にてお相手しよう」
 月詠を握り、黄金色に輝く剣一郎は厳かに告げた。
「こっちもやろっか? いい加減逃げてばっかも飽きたぞ」
 クローを装備した手首を軽く握って横のソリスに声をかければ‥‥彼女は無言のまま頷いた。
 口数が多いほうではないのだろうが、牛と会ってから喋っていない。
 怪訝そうにしている真琴へ、ソリスは武器を構え、嫌そうな顔のまま答える。
「‥‥覚醒時の声、嫌いなので‥‥」
「あ〜成程‥‥っと、そら、行くゾー☆」
 慌てて真琴は一頭の牛に向かっていった。
 
「では、我々は好機が来るまで支援、ということになるかな」
 火器を手にし、ヴィンセントがマイアに声をかければ。彼女もそのつもりだったらしくEガンを構える。
「はい。彼らの支援に回ります」

 迫り来る牛。手にしたカポーテで一時的に判断と視界を狭めさせ――腰の剣を引き抜いた。
「力業というのは余り好みではないのだが‥‥」
 盾を構え受け止めようとするリヴァル。
 ガツンと一際高い音が場内に響き渡り、リヴァルが数歩押された。
「白鐘氏!」
「任せろ! その角、貰い受ける!! 天都神影流・斬鋼閃っ!」
 剣一郎の放った技は、見事に牛の角を根元から折った。
 放物線を描きながら場内の砂に突き刺さる大きな角。幾度目かの歓声が嵐のように巻き起こった。

 ソリスが疾風脚を使用し、反対側に回り込むと斬りつけ、死角から真琴が瞬時に重さを載せた蹴りを数発叩き込む。
「伝統を貶める賊がっ! 裁きを受けろ!」
 マイアが牛の頭部を狙って引き金を引く。
 進行方向を見極め、火器で動きを封じながら立ち回るヴィンセント。
 この駆け引きもまた悪くない。
 冷たい笑みを浮かべる彼を、角にかけて跳ね上げんとばかりに牛は突撃してくる。
 素早く身を翻しナイフを牛の肩口に突き立て、零距離射撃で応戦した。
「おっし、パッパと『仕上げ』っかネ!」
 真琴は空中で一回転した後、そのまま牛の上に着地して跨ると片手で巨大な角を握った。
 素早く離れるヴィンセント。ソリスが短く気合の声を発し、踏み込むと同時にシザーハンズを横から上に振り上げる。
「おぅらノロマ〜♪ 沈ンじまえ!」
 空を見上げ、真っ直ぐ伸びた牛の頚椎目がけて爪を突き入れた。
 一丁あがり、と言いながら満足そうに牛の背を蹴って着地した真琴。
 素晴らしいサポートをしてくれたソリスに、人懐こい笑みを向けた。
「‥‥倒せるだけの能力があるにせよ‥‥やはりキメラに追いかけられるのは心臓によくありませんね‥‥」
 まだ暴れる心臓の鼓動を身体で聞きながら、ソリスはほぅっとため息をついた。

 リヴァルは流し斬りで牛の足を深く傷つける。
 最後の抵抗とばかりに角を彼へと向ける牛。
 顔を覆うようにカポーテがかかり、角がカポーテの裾を縦に裂く。
 その裂け目より牛が見たのは、直線状に佇む剣一郎。 

「――決着を着けよう」

 すぅと上段に構えられた剣。一足一刀の間合いで剣一郎は動いた。
 交差した瞬間に緋色が爆ぜ――数瞬の後、どさりと血を撒きながら牛が倒れる。
「‥‥天都神影流『奥義』白怒火」
 牛へ背を向けたまま剣一郎は刀を振って血脂を飛ばし、陽に反照させて納刀した。
 お疲れと彼らに声をかけた真琴は、まだ手に持っていたカポーテに気付いてホアキンへと投げ返す。
「魅せてよね☆ マタドール♪」

 ぱしっとカポーテを受け取り、全てに意識を傾ける。
 満員の闘牛場。自分たちの活躍に心躍らせる観衆。
「このアリーナに立てるなんて、夢みたいだ」
「能力者が夢見てはいけない、なんて事ないさ」
 零が『夢のサポートはさせてもらう』と小さく笑みを見せた。
「さて、本職のお手並み拝見だな」
 剣一郎のそれに対して眼を細めると。
「来いよ、トーロ!」
 ホアキンはカポーテを両の手で持った。

 零がソニックブームを牛に放ち、体力と動きを徐々に弱めていく。
 そして向かってきた牛を体すれすれでカポーテにくぐらせ、腰の後ろで持ち替える。
 幾度目からか。観客から『オーレ!』と声が上がっていた。
(「キメラとはいえ、やはり牛か」)
 進もうとする逆へ誘導させ、
「この誘導まではシナリオ通り‥‥そろそろ締めにかかるか」
 待ち構えていた零がすかさず二段突きを繰り出せば、牛の前足ががくりと折れる。
 その瞬間を見逃さず、ホアキンは左手で剣を引き抜き、頭上に一度掲げた後、高らかに宣言した。

「ラ・オラ・デ・ラ・ベルダー!! (真実の瞬間)」

 牛の首後ろにある隆起部を正確に45度で貫く。
 びくりと牛の身体が跳ね、もんどりをうって、動かなくなった。
 
 一撃で倒すという神業に、場内は大変な騒ぎとなって――彼らに対して惜しみない拍手喝采が送られる。
 その声や音は、街に待機している警官たちにまで届き、彼らはしばしの間闘牛場へと勇気を称える感謝の敬礼を送っていた。