タイトル:悪魔が奏でる唄マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/19 23:36

●オープニング本文


●欧州某所:競合地域

「そうか‥‥死んだか」
 部下からルエラの訃報を聞いたシルヴァリオは、頬杖をついたまま小さく頷く。
 出撃を許可した時から、そうなるのではないかという気はしていた。それが現実になっただけである。
 少しの間だけであったが、ルエラは彼の手駒としてよく働いたほうだろう。
(小言は多かったな)
 右腕とも言えた彼女が居なくなったところで、シルヴァリオの感情にひどく悲しいだとか、意趣返しをしてやろうなどという気にはならない。
 彼自身も傭兵の実力や、人間が持つ『情』の力が時には実力を凌ぐほどの能力を引き出すというのも認めている。
 ヨリシロは人間だというのに、それを引き出すことが出来ないという点においては残念な気持ちである。

「‥‥‥‥」
 モニタに流れる情報を眺めながら、シルヴァリオは考える。
 今の段階においては自分が出向く必要も、潰すべき場所も特にはない。
 他は他で色々と大変なようだが、自分はブライトンの命令に沿って行動しているだけだ。
(他の奴らは真面目だからな)
 確かに、同じバグアでも同じ『ゼオン・ジハイド』のメンバーの事をある程度気にしているくらいだが、
 助太刀に行くだとか手を貸すといったこともない。そういう馴れ合いの関係でもないし、行ったところで獲物を横取りしに来た程度にしか思われないだろう。


 基地を襲撃して、前線の押し上げを図るのも仕事といえば仕事なのだが――気が乗らない。目的よりも興味本位で動く彼なので、はっきり言えば暇なのである。

 そうだな――傭兵と遊ぶのも悪くない。
 次の出撃までにはだいぶ時間もあるだろう。それまでにカンが鈍っては意味が無い。
 いつもこっちから出向いているので、たまには出張ってきてもらおう。
 近くの研究員に声をかけると、ギリシャへキメラを数匹出す、と告げる。
 場所は、と聞かれた彼は――‥‥手頃な場所でいいと答えた。


●ギリシャ:某島

 今日もあたたかな日差しが降り注ぐ。
 この競合地域も、厳重な警戒態勢だが――最近は少し落ち着いてきたようにも思える。
 常にピリピリしていた警護隊の顔も、少しは柔和になってきた。
 過ぎ去りし危機は偽りの平和の前では薄れるものなのだろう。
「気を付けろよ。こんな時にバグアなんか来られちゃたまんねえぜ」
 警護隊長であるジーニは、部下を叱咤しつつ、以前の襲撃を思い出す。

 前隊長であった年若き青年は、武に秀でており、人望もあった。
 バグアがとある島に攻め込んだ時にも、混乱する皆をよく取りまとめて善戦したらしい。
 とはいえ、一般人である彼らにはワームなどの前には赤子同然。戦況はすぐに絶望的なものになったのだ。
 UPCの応援が来る前に、隊は壊滅するだろう――そう呟いた青年は、殿は引き受けると言って仲間を撤退させるための作戦を提案した。
 無論、死ぬときは皆一緒なのだと隊員も反発したが、彼は首を縦には振らなかった。
 生きていれば人類を上げた猛反撃の機会もあるだろう、それまで君らに生きて欲しいと。
 
『生きていたら、また一緒に戦おう』

 そうして青年は一人、基地の中に残ったのだった。
 元いた島は撤退を余儀なくされた際に占領されたようだったが――30いたうち撤退命令を出された10隊員が全て生存できたのだから、彼は出来うる限りの攻撃を駆使して仲間を守っただろう。


 確か、名前は――‥‥と、ジーニが過去のことに思いを巡らす間に、警報が鳴った。
「バグアか!? UPC及びULTに緊急要請! 住民へ避難勧告を!」
 現実に引き戻されたジーニはすぐさま仲間に命令を飛ばし、ずしりとした銃器を手に取る。


 近くの平地に着陸したHWより、人とキメラが降りてきたというではないか。
(まずいな‥‥もしかして名のあるバグアか?)
 仲間にも不安と緊張が走る。全員が配備について、一分でも一秒でも長く足止めするため、持ちうる火力をすべて使い切るよう指示。
 総攻撃の命令を出す前に、一人の隊員が『撃てない』と言い出したではないか‥‥!
「何言ってる! 敵‥‥バグアだぞ!?」
『あれは‥‥あれは‥‥! 前隊長だ!』
 動揺が隊員に走る。ジーニがスコープでキメラの近くにいるバグアらしき人物を見ると―― 一気に汗が噴き出てきた。

「‥‥ウソだろ‥‥?」
 入隊して日も浅かったジーニは、前隊長の顔もよく覚えていない。

 だが。手配書で回ってきたバグアの名前や顔は知っている。

「あれは‥‥シルヴァリオじゃないか‥‥!!」

 前隊長だのシルヴァリオだの、情報が錯綜して隊全体が混乱した。
 撃っていいのか、ダメなのか。その葛藤が命取りになったのだろう。

「‥‥何だ?」
 妙に警護隊であるらしい人間が自分を見てざわついている。
 シルヴァリオという名前もそこそこ知られているのも知っていたが、彼らの向ける表情は恐怖だけではない。
「隊長‥‥! ユリウス隊長ですよね!?」
 一人の男がシルヴァリオに向かって大声で訊いてくる。
「‥‥?」
 誰かと勘違いしているのかと思ったが、その名前には覚えがある。
――ああ。成程。
「そうだ――」
 彼はその事実を肯定する。途端、ジーニ以外の面々に安堵の様子が伺えた。
 薄く笑ったシルヴァリオは、彼らに向けて左手を向ける。その様子を確認したキメラ。
「――そう呼ばれていた時期も、ヨリシロの記憶にあるな」
 シルヴァリオは無情にも、獣型のキメラを向かわせたのだ。
「オレの名はシルヴァリオ――‥‥お前らの知っている男はこの世に居ないぜ」
 悲鳴と、銃声と、ヨリシロの名前だったモノを呼ぶ声が入り混じる。

 ヨリシロの記憶と一致する、見知った顔も中にはある。
 ヨリシロが流した涙も、意味は知らねど事実は知っている。

「―― 一緒に戦おう、か。図らずも目的は果たしてやったぜ?」
 無残にもキメラに殺されていく隊員たちを見つめ、シルヴァリオはそう呟いた。
 人間の情というものが理解できるのであれば、シルヴァリオの心中に残る『何か』はどういうものか理解できたのだろう。
 
――だが、収穫はひとつだけあった。

 自分が拾った強化人間、ルエラが味わった世界が反転する程の絶望というものが――『裏切り』だったのだろう、と。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
サキエル・ヴァンハイム(gc1082
18歳・♀・HG
ジェーン・ジェリア(gc6575
14歳・♀・AA

●リプレイ本文



「大きな情報はないのね‥‥」
 高速艇の中で葵 宙華(ga4067)は僅かな資料に目を通していた。
 警護隊は名簿程度、UPCのほうにも報告状況しかないからだ。
 ただ――『ヨリシロ』の可能性が濃厚な人物として、警護隊長であった『ユリウス』という男の書類も送られてきた。
 行方不明とあるが、まぁ良しとしましょう――と、宙華は無線をUPCのチャンネルに合わせておく。
「ゼオン・ジハイド‥‥地球に降下したバグア内では最高戦力の一人‥‥」
 そこから流れてくる情報を聞き、クラリア・レスタント(gb4258)はせり上がってくるような寒気を覚えた。
 彼らの力は強大だ。激戦も覚悟しなくてはいけない。
(でも、負け――いえ、死ぬ訳には。あの人よりも先に逝く事は赦されない)
 無意識に、ネックレスについた石を握り締める。

――まだ、着かない。
 胸に焦燥を抱え、サキエル・ヴァンハイム(gc1082)は時計と島までの距離を気にしていた。




 シルヴァリオは周囲を見渡す。
 そこにはキメラの作り上げた死者の列。
「‥‥」 
 何故だろう。シルヴァリオは額に手を置く。
 自我は自分にある。既に死んだ奴の自我など残るはずはない。
 なのに――
 傷も付いていない胸が、『何か』が痛かった。
(ヨリシロは‥‥この胸の痛みに泣いたのか?)
 だが、シルヴァリオは――今現在、そのヨリシロと同じ表情をしていることに気がつかない。
 違うところは、その頬に涙が無かったということだろうか。

 不明瞭な感情と感覚に捉えられていたシルヴァリオは、低く唸るキメラの声に漸く現実に引き戻された。
 いつの間にか高速艇は到着しており、こちらに向かって一部隊がやって来る。
「――‥‥」
 傭兵か。
 そうして彼は大剣を手に取り、不機嫌そうな顔をしたまま対峙する。
「よう。またあったな」
 神撫(gb0167)が話しかけてくるが、シルヴァリオは一瞥をくれただけでキメラを狙おうとした能力者を注視した。
「サイおっきーい! 黒豹カッコイイ! ハリネズミ可愛い!」
 そう言って目をキラキラさせているジェーン・ジェリア(gc6575)は、シルヴァリオを見ると不満そうに指差す。
「‥‥でも、あの白い人変。あの人だけへーんー」
「ご挨拶だな。人に指差したら駄目だと教育しとけよ」
 妙に人間臭いことを言いながらシルヴァリオはキメラへと合図をする。するとハリネズミが、階下の能力者目がけて無数の針を射出。
 左右に散開し、鳳覚羅(gb3095)と夢姫(gb5094)が迅速に目的のキメラへと向かおうとする――が、シルヴァリオは覚羅に豹二匹を向かわせ、夢姫にはサイを送り込む。
「‥‥サイをやり過ごしたら、相手をスイッチします!」
「了解」
 お互い頷き、夢姫はサイの突進をひらりと躱してサキエルの方へと向かい、それを援護するようにジェーンが『サイの相手をするんだよー』と刀を振り上げる。
「チィ‥‥! さっさとオカタヅケしに行きますかァ‥‥ッ!?」
 サキエルが覚羅に加勢しようとしたところで、足をシルヴァリオに狙撃され、顔を痛みに歪めた。
「ゆっくりしてろよ。急いでもいいこと無いぜ?」
「――あんたを倒すために、コイツらをぶっ倒すんだよっ!」
 そう言い放つと、シルヴァリオは目を細め、視線は再び覚羅に向けられる。
 気配を感じ取った覚羅は一瞬身構えたが、煉条トヲイ(ga0236)、ケイ・リヒャルト(ga0598)、神撫が立ちふさがる。
 フン、と軽蔑するような視線を三人に投げかけ、シルヴァリオは双剣を抜き放つ。
「――シルヴァリオ。お前に聞きたい事がある」
 トヲイの怒気を孕む声に、銀の男は何かと尋ねる。
「‥‥ルエラはお前のヨリシロの妹か?」
「――生きてる間に本人から聞いておけよ」
「答えろ!」
 ケイの射撃を剣で受けながら、やれやれと呟いたシルヴァリオ。
「ヨリシロの妹じゃない」
 彼らの疑問は呆気無く解決したのだろうが、質問は続く。
「貴方の大切なモノは‥‥何?」
「あった時から結構経ったが、他に興味が有ることは見つかったか?」
 ケイが訊いた後を神撫が繋ぐ。
「無いこともないが‥‥教える必要はない」
 キメラ班に歩を進めようとしたシルヴァリオを神撫が銃で制し、三人で囲むような位置取りになる。
 剣を収め、懐より通常の銃を取り出したシルヴァリオ。撃たせぬとケイが手元を狙って弾くが――

 ――シルヴァリオは隠し持っていたもう一つの銃でケイを狙う。
 お互いの銃口が向きあったが、どちらもトリガーは引かれなかった。
「――なんでも、出てくるわね」
「お互い様だろ‥‥しかし三人でオレを止めようってのか?」
 実際彼らとて、キメラを速攻撃破するために人数を割いたのだ。三人で十分だとは思っていない。
 豹キメラがくるりと方向転換し、主のところへ戻ろうと――
「主人も主人なら、躾のなってねェペットだなァオイ‥‥テメェの相手は俺だぜ」
 サキエルが素早く強撃弾を撃ちこみ、再び注意を向ける。同じように各担当が敵の注意を向けているようだ。
 だが針鼠は遠距離から針を飛ばして、覚羅やケイを狙い撃つ。
「今だっ! 謳え、ハミングバード!!」
 狙いを定めたクラリアは針鼠に斬りかかる。が、無数の針は硬く、クラリアの剣といえども易々と突き通せない。
(時間をかけるわけには、いかないっ‥‥!)
 
 そのころ、宙華は警護隊の生き残りを探していた。
 だが、ここに到着するのが遅すぎたのだろう。誰ひとりとして生きては居ない。
(‥‥情報も何も、それどころではないわね‥‥)
 宙華は僅かに死者たちへの黙祷を捧げ、迅雷を使用して全速力で戦場へと戻っていった。

「わー、サイがまた向かってきたよっ!」
 ジェーンはサイの突進を流し斬りで避けつつ斬る。サイの進路の先は竜斬斧を握り、立ちふさがる覚羅。
「獣風情が俺の攻撃を止めれると思ったのかい?」
 猛撃の他、そのまま斧の重量を加えた一撃を頭蓋へ見舞う。
 サイの皮膚は分厚く、断ち切るには至らなかったが大いに効果はあったようだ。
 覚羅のほうも突進を食らったが、痛手にはならない。
 死んでちょーだい、と、ジェーンは覚羅の付けた傷口を狙って剣を突き立てる。
 その場にくずおれたサイの角を切り取り『とったどー!』とドヤ顔をするジェーンだった。

 夢姫とサキエルは敏捷な豹を相手取る。
 迅雷で突っ込むとフェイントをかけ、爪を側面に回りこんで避け、腹部を抉る。
 後ろからサキエルが強弾撃で穿ち、フリーになったもう一匹がサキエルに踊りかかる。
「くッ‥‥」
 銃を交差して牙を避け、胴を蹴って後方へ飛び退くサキエルへ、追いすがってくる豹。
 即射で間合いを広げて夢姫と背中合わせに合流。
「一匹ずつ、迅速かつ確実に倒していきましょう‥‥!」
「オーケー。忙しいなァ、今回はよ」
 だが、ジェーンたちがこちらに向かってきている。すぐにこの状況も打開できるだろう。

「――その間合い、見切ったっ!」
 針鼠はどうやら、射出できる角度は広範囲に見えて割と狭い。モーションが見えてからでも側面に回りこんでの対処が可能だ。
 クラリアは針に注意しながら近距離で銃を撃ちこみ、徐々に弱らせていく。
 手足を縮め、クラリアに向いた針鼠。噛み付こうと短い首を懸命に伸ばす。
「たぁぁッ!!」
 気合一閃、オセで喉元を狙い、蹴り上げる。血飛沫が上がり、数度もがいてから針鼠は絶命した。
 
――そんな状況の中、シルヴァリオ相手の三人は徐々に疲弊している。
 盾になっている神撫も、シルヴァリオの攻撃はいつもよりも重く感じた。
「待ってると、お前がヘバるぜ?」
「そう簡単にゃ死なねぇぞ‥‥ほら、もっと来いよ!」
 よく言った、とシルヴァリオは満足そうに頷き、片方の銃を剣に持ち替えて鋭い攻撃を浴びせかける。
 トヲイもガトリングで狙い撃っていたが、シルヴァリオは瞬時にトヲイの側にやってきて攻撃を繰り出す。
「トヲイ、離れて!!」
 ケイが上空に向かって弓を引き、頭上を狙う。
 狙いを変更したバグアの足元へ弾頭矢を打ち込んで牽制した。
 そこに、救護に当たっていた宙華が戻り加勢。
「あら‥‥あなたがシルヴァリオ? 魚座さんによろしくね? 『葵 宙華が待ってます』って」
「バカか。自分で行けよ。そのへん探せば居るだろ」
 確かにゾディアックとは親しくないようではあるが、こうも冷たく返されると宙華も不満そうだ。
 トヲイに生存者はと尋ねられたが、宙華は首を横に振る。意味するところに、トヲイは怒りを感じた。
「貴様は‥‥! ヨリシロが大切にしていた物を蹂躙しているのか?!」
 ぴくり、とシルヴァリオの顔が歪んだ。彼の不快感が増したらしい。
「オレには生きるも学ぶも奪うが全て。何度も云わせるな‥‥!」
 吐き捨てるように言うとシルヴァリオの闘気が増し、神撫に剣を振り下ろす。
「――しるばらんばらん、見つけっ!」
 突然のソニックブームを剣で受け、その方向を見ると‥‥キメラ対応に追われていた傭兵たちが駆けつけている。

 漸く全員が合流する形となった。



「踏み躙られたヨリシロの尊厳は‥‥俺達が取り戻す‥‥!」
 トヲイと同じ意見か、夢姫も頷いた。
 ケイは死点射でシルヴァリオを狙い、宙華は仲間と仲間の連携を綻ばせぬよう狙う。
 壁際までやって来ると逃がすまいと包囲網を狭める傭兵たち。
 先程まで饒舌だったが、機嫌でも損ねたのか今は殆ど口を開かないシルヴァリオは、大剣を手にして腰を落とす。
 攻撃に移行する僅かな隙を攻め――‥‥ようとしても、攻撃時の隙はない。
 弧を描くように、重量もあるはずの大剣を素早く両手で振り抜く。
「なんて力だ‥‥!」
 咄嗟に受けたトヲイと神撫ですらガードを弾かれ、覚羅は斧を盾替わりにしても数歩押された。
「攻撃する前は駄目でも、振り切った後はどうなのかしら!?」
 両サイドに出来た隙を見逃さず、回りこむとシルヴァリオの懐に素早く潜り込んできた者が居る――!!
「あなたと遊ぶのも楽しいけれど‥‥いい加減そろそろ決着を付けたいわ!!」
 零距離の射撃を見舞うケイ。だが、シルヴァリオは冷徹な笑みを浮かべるとケイに手を伸ばし、彼女の細い首を捉えて思い切り地に押し付けた。
「リヒャルト? その願い、叶えてやってもいいぜ!!」
 抗うケイを強く踏みつけ、腹部に銃を押し付けると数度打ち込む。
「ケイさん――!」
「そら、受け取れ!!」
 割って入ろうとした神撫へ向け、ぐったりとしたケイの身体を蹴り飛ばす。
 ケイの身体を抱き留めるが、青ざめ苦悶の表情を浮かべるケイは、力なく神無を押し『シルヴァリオを‥‥』と呟いた。
 それを見つめていた覚羅は、怒りに目を細める。
「‥‥本気で行かせてもらうよ」
「――見せてみろ」
 正面からそれを受けるとでもいうのか。人差し指で手招きし、構えた。
 一息で接近した覚羅は、猛激と剣戟を使用してシルヴァリオへと斬りかかる。
 重量のある斧から繰り出される一つ一つを巨大な剣で弾き、幾つめかで反撃と見たシルヴァリオ。
 流し斬りの要領で半回転し、巨大な剣に遠心力をかけて振る。
「‥‥なろッ!!」
 少しでも行動を遅らせるためにと撃ったサキエルの銃弾は彼の残像を穿ち、握りを変えて下段から上段へと振りかぶる。
 覚羅の黒鎧でさえも、威力を殺すことは出来なかった。
「覚羅さん!」
 白銀の焔が蒼の大剣に断ち切られたかのように揺らめき、次に覚羅の身体が崩れ落ちた。
 次に夢姫に狙いを定めるが、行動は彼女のほうが速かった。
「人は、自分以外の誰かを想うことで強くなれる‥‥!」
 夢姫は悲しげに倒れた仲間を見た後に迅雷で接近し、攻撃が自身に当たった瞬間――回転舞と残像斬を使用した。
「あなたにはそれが‥‥きっと、わからない‥‥!」
 受けた傷は痛かったが、銃を空中に『突き刺して』シルヴァリオの頭上を飛び越えると背後に回り込み、彼の首筋に必中の攻撃を叩き込む。
 そこにジェーンが両断剣で手元を狙う。FFが強く煌めき、ジェーンの攻撃を和らげた。
「食らえっ! ――これが対お前用に覚えてきた新技だ!」
 神撫が天地撃をシルヴァリオに見舞う。同時スキルで強化した剣劇で胴を捉えた。
 重い音と共に数メートル吹き飛ばされる。
 しかし、シルヴァリオもすぐさま受身をとって体勢を整えると神撫に突撃。シルヴァリオの瞳に、もう余裕の色はない。
「なかなかだったぜ。オレもお返しが必要だな」
 大剣で袈裟に斬りつけ、返す刃は通常のと同じように速い。
(これが、こいつの本気か‥‥!?)
 剣劇のように攻撃を繰り出してくるが、今までひたすら攻撃を耐えてきた神撫の体力も、もはや限界だった。
 シルヴァリオが胴を薙ぐ。がくりと片膝をついた神撫を守るように、クラリアらが立ちふさがった。
「‥‥どうする、煉条。オレが見ても仲間は満身創痍だ。これ以上続けると死ぬかもしれないぜ?」
 撤退しろとでも言うのだろうか。シルヴァリオに神撫が返す。
「お前も同じ‥‥いや、一人の分だけ不利だろ?」
 言った神撫も立ち上がれぬほどに傷めつけられ、武器を杖替わりにして呻いた。
 好機と見て取った宙華とクラリア。宙華の援護にクラリアが高速機動で仕掛ける。
 剣と剣が合わさり、冷たい翠の瞳が彼女を捉えた瞬間‥‥ぞっとする寒気が彼女を襲う。
 大剣は、もう振られていたからだ。激痛が彼女から一瞬の思考を奪う。
(次、受けたら、死ぬっ――!?)
 無我夢中で使用した迅雷でその場を切り抜けたが、壁を背につけて肩で息をする。

「お前には失う物が何も無いのか‥‥? だから、生きることも痛みも感じないのか‥‥!?」
 トヲイはそう叫び、シルヴァリオも剣に持ち替える。
 シュナイザーがシルヴァリオの身体を裂き、剣がトヲイの頬を切る。
 お互いの身体が切り裂かれても、その目の闘志は鈍らない。
「‥‥俺の血も、この痛みも‥‥! 全て熱いだろう? ――これが、生きているって事だ‥‥!!」
「云わせておけば‥‥! では死ね!!」
 お互い渾身の一撃を、相手に見舞う。
 剣はトヲイの鎧を貫通し、彼の腹部に突き刺さる。
 爪もシルヴァリオの肩から脇腹を深く抉っていた。
「‥‥お前らも、警護隊も‥‥オレの何を揺さぶる?」
 これだけ傷めつけたというのに、その顔つきは――諦めもない。
「チッ‥‥今回はオレに若干部のある引き分けってところか。もういい、興が覚めた」
 シルヴァリオは背を向け、腹部を抑えつつ違う方向‥‥浜辺の方に歩いて行ってしまった。
 
(‥‥ルエラ‥‥君の解‥‥少しは解けたかい‥‥?)
 覚羅は去っていくシルヴァリオの背を見ながら、同じ面影を残す女性に問いかけるように呟いた。
 勿論、答えはない。

 夢姫は犠牲となった警護隊を見て悲しげに顔を歪め、悼むために埋葬の準備を始める。
 憤りよりも哀しみが彼女を覆い、せめて涙を零さぬようにと努めるため、唇を強く噛み締めた。