タイトル:【初夢】藤城神社へ参拝マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 23 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/13 00:18

●オープニング本文


※このシナリオは初夢シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。


●あけましておめでとうございます

 初春のお喜び云々という堅苦しい挨拶はさておき、年が明ける前から明けた後までどこの国でも大騒ぎ。
 
 LHのどっかにあるらしい『藤城神社』も、明ける前から明けた後まで大変です。
 神社に鐘は無いので、寺院に寄ってから御神籤でも引きに来たのだろう。朱色の大鳥居をくぐる前から長蛇の列ができていた。
「こんな賽銭箱と籤しかねえような神社に何の用なんだか‥‥」
 無論参拝と御神籤だろうに。
 シルヴァリオは衣冠姿で片膝をつき、机に頬杖をついて大分長い列を見つめている。
 彼の前には硬貨が山のように積まれ、それを無造作に腕で除けては金銭を支払った人物を見て『‥‥凶』だとか呟いていた。
 しかしどうにも胡散臭い。が、割とよく当たるのだというが、気にしない事が一番である。
 隣のシアンは真面目に破魔矢やらお守りやらを販売していた。
 結果が納得いかない場合は自力で籤を引く事も出来る。御神籤箱(御神籤棒の入った箱)を受け取って振る姿があちこちで見受けられる。
「はぁーい、おみくじ100cですよー?」
 何をどう間違えたのか、バニーガール姿のティリスがプラカードを持って御神籤箱を持っている。
 近くの茶屋では、ユキタケと和風メイド(要するに着物姿)のユーディーが甘酒や熱い茶を皆に出していた。

 さて、どうやらあなたの番が回ってきたようだ。

●参加者一覧

/ メアリー・エッセンバル(ga0194) / 西島 百白(ga2123) / 夏 炎西(ga4178) / ラルス・フェルセン(ga5133) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / フォル=アヴィン(ga6258) / Letia Bar(ga6313) / 番 朝(ga7743) / 御崎 緋音(ga8646) / 白虎(ga9191) / 神撫(gb0167) / 鳳覚羅(gb3095) / 橘川 海(gb4179) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / アルジェ(gb4812) / 宵藍(gb4961) / 東青 龍牙(gb5019) / 樹・籐子(gc0214) / ソウマ(gc0505) / 春夏秋冬 立花(gc3009) / マリンチェ・ピアソラ(gc6303) / 武士道の逆襲(gc6497) / 亜蛇刃(gc6502

●リプレイ本文

●神社。

 LHのどこかに、ひっそりと佇む『藤城神社』という場所がありました。
 狛狗ではなく狛鳩だったり、鳥居もどれかといえば八幡様に似たような造りではありますが一切の関係もございません。

 そんな歴史もない神社に――あれ。なんか建ててあるぞ。何々。『現人神「ないむねりっか」』
 あらひとがみ、と読むが、これは『人間の姿でこの世に現れし神』である。
 ちなみにその神とやらのご利益は‥‥『ツッコミが上手くなる』『胸が大きくなる』らしい。
 全ての女性のないむねを肩代わりするから、彼女からツッコミが入ったらご利益があります、とのことだ。
「へんな置物ですねぇ。私、胸大きいから関係ないですぅ」
「ちょっと待てコラァ!」
 撤収させようとしていたティリスに春夏秋冬 立花(gc3009)からいきなりツッコミが入った。
「だってぇ、あっちこっち邪魔ァ」
「え」
 聞けば、売店、御籤処、本殿、茶店‥‥みんなある。
「じゃあこうして立っている私、なに!?」
 立花自体が混乱しているが、あ、五人目になった。なにこれこわい。捨て置こう。

 まあ、こうして立花が分身している間にも参拝客は増える。
「アシタ〜! 明けましておめでとうっ!」
 洒落柿色の着物に、長い髪を結い上げ大人のしっとりとした雰囲気を醸し出すLetia Bar(ga6313)。
 数色の緑を使用し白く淡い点々が散りばめられた着物姿の番 朝(ga7743)に、Letiaが小さく『きゃぁ〜♪』とこらえきれず歓声をあげた。
「うん、やっぱり着物も似合うと思ったんだよねぇ♪ 可愛い!」
 Letiaも似合っているぞ? と朝も正直に述べたが、Letiaのキラキラと輝く瞳でまじまじ見つめられ、視線を所在なさ気に彷徨わせる。

「ん? 願望成就?」
 御神籤所では、ソウマ(gc0505)が、シルヴァリオへと籤の依頼をしていた。
「今年は色んな事にチャレンジしていきたいと思っているんですよ。引き出しは多いに越した事はないですからね」
「器用貧乏。一芸に秀でよ」
「まだ占ってないじゃないですか!?」
 軽いショックを受けるソウマだが‥‥シルヴァリオ、こうして人の顔を見て浮かんで見える何かを占っているようである。
「ま、半分冗談として。運勢自体は中吉ってとこか。悪くねぇが、手放しってほどには良くは無ぇか」
 気を落とさずにやりな、と慰めのようなアドバイスを送る。ソウマも納得したのかしないのか、はぁ、ととりあえずの返事をしてその場を去る。


「にゃー! リュウナ! イン! 藤城神社ー! 明けましておめでとうにゃー!」
 どこぞのレポーターさんみたいに場所まで伝えてくれるリュウナ・セルフィン(gb4746)。
「今日は茶店に来てお仕事ですー!」
 と、つられて東青 龍牙(gb5019)も笑顔で続けた。
 今日の龍ちゃんは、和服メイド。山鳩色の紬は袖と裾に柔らかなレースがあしらわれ、えんじ色の帯には蝶を模した飾りが付けられている。
 白いフリフリエプロンをつけてしまうので飾りは隠れてしまうのだが、女性らしくて可愛い。
「伍長‥‥お茶の出し方‥‥どうするの?」
 同じ衣装のユーディーが、若旦那風のユキタケへと尋ねた。気張ることはないので落ち着いてくださいとアドバイスをしたユキタケだが、
「お茶を出すーお店と聞いて、黙っている訳にはー、参りません〜」
 そこへひょっこり顔を出すラルス・フェルセン(ga5133)。やり甲斐此処に極まれりといった表情である。
「おいしいー、お茶の提供と有らば〜私もー、お手伝いさせてー頂きますよ〜?」
 あ、衣装お借りしますねー、と、薄鼠色の着物と朽葉色の帯を手に奥へと消える。
「フニャ‥‥注文呼ばれたのだ!」
「リュウナ様はお茶をお運び下さいね♪ それ以外は私がやりますので‥‥はーい! 伺いますー!」
 ぱたぱたと軽快なフットワークで注文取りに向かう龍牙。
 どうやら、茶店も人手は問題ないようだ。

●細けぇことはイインダヨ

(‥‥神社に初詣ってのは、確か日本の習慣だったか)
 何故俺はここにいるのだろう――そう納得の行かない様子である宵藍(gb4961)だが、すぐに細かいことは気にしないというポジティブ思考に切り替える。
 とりあえず神社に来たら御神籤だということで、御神籤処へと足を運んでみる。
「あ。宵藍さんー」
「ティリスか‥‥なんつう格好を‥‥この神社は、胡散臭いのばっかりだな」
 バニーガールがプラカードを持っているというのもかなり変なものだ。
「今日の宵藍さん、なんか雰囲気がいつもと違いますね〜」
 私より背が高いです、等と言って不思議そうにするティリス。なんと宵藍を見上げていた。
 『正月くらいこうあってもいいだろ』と胸を張った宵藍。
 しかし、今言ったことはすぐに忘れる。べ、別に身長のことが願望だったなんて思わないんだからね。
 誤魔化すようにティリスから御神籤を貰う宵藍。仕事運はどうかなと言いながら開くと――
『末吉。目標を立て、野心持たず努力せよ』
「んー、慎ましく頑張れってことですかねぇ〜」
 言われなくてもわかってるぞ、と言いながら宵藍は御神籤をたたむ。
「大丈夫ですよ、きっとうまくお仕事運びます。ティリスが応援してます」
 ねっ、とか言いつつVサインをするティリス。少しばかり宵藍は笑顔になって、ありがとうな、と言いながらティリスのプラカードを持って一緒に手伝ってやることにした。


「着付けとか‥‥わかるけど、どうして俺なの‥‥?」
「晴れ着で行きたいのに、どんな風にすればいいのか分からないので‥‥教えてもらいたいなと‥‥」
 鳳覚羅(gb3095)がこめかみを押さえながらリゼット・ランドルフ(ga5171)らの話を聞いているが、
 
 桐竹鳳凰柄の晴れ着、長い髪は結い上げて髪飾りまでつけていて、どこをどう見ても女性と思しき姿である。
 これで男と言い張れば、容赦なくツッコミが入るところだ。
 はー、とため息を吐いてから、神社に頼んで一室をお借りする彼ら。
「‥‥あ。俺は関係無いですよね? ならその辺を散歩でもしてき――」
「フォルさんも一緒に着物着ましょう?」
 フォル=アヴィン(ga6258)が出ていこうとするのをリゼットが引き止める。ちなみに神撫(gb0167)はここに入る前に行動を別にしている。
 着物ならまあ、と思ったがフォルの最後である。
「アルちゃん、着物と飾り出してあげて」
 覚羅がアルジェ(gb4812)にそう伝えると、アルジェは『ん』と了承してマントをゴソゴソとさせた。
「リゼットのは‥‥これ‥‥海は、これ‥‥」
 と、どこからともなく現れる着物や飾り。すごい、と言いながら橘川 海(gb4179)や御崎 緋音(ga8646)が感嘆の声を上げる。
「え、ちょ、着物って」
「はい。フォルさん女装しちゃえばいいと思います。お肌綺麗ですし、大丈夫です」
 リゼットはにこりと笑うのだが、フォル的には大丈夫ではないと思う。
 え、とか、う、だとか苦しい言葉がフォルの口をついたが、最早今更どうにもならないようだ。
「はぁ、今回だけですからね? ほんと‥‥」
 がくり、と肩を下げてフォルは陥落し、アルジェの出した着物を受け取る。
「じゃあ、着付けなんだけど――」
 ちょっと待ってほしい。女性たちが着替えるというのに男性がいて大丈夫なのか。
「どうやら自分が最近、男性と思われていないということが判明したから‥‥」
 覚羅はそうかもしれないが、フォル君は、緋音さんたちは大丈夫か?
「はぁ‥‥」
 どっちつかずの返答だが、いいらしい。
 そのとき、だ。

 どーん。

 何かがぶつかる音がした。何事かと顔を見合わせた彼らだったが、特に気にせず話をしながら着替えをしていると――

 スパーン、と障子が開いた。
「正装で詣でるのがしきたりと教えて頂きましたが、何か間違ってます?」
 メアリー・エッセンバル(ga0194)がゼーハー息をしながら彼らを見つめていた。無論、彼らもメアリーを見つめる。
「あ、あの。だいぶ‥‥」
「ええっ!?」
 おずおずと日本人女性の海や緋音が口に出せば、メアリーは呆然とする。
「参拝に気合を入れるのは素晴らしい? ですけど‥‥ドレスは、着なくていいですし‥‥」
「裸足じゃ、参拝というか‥‥歩くのでさえ大変でしょう、メアリーさん?」
 いちいちごもっともな指摘である。
 メアリー的に『いざ神社に詣でようとして一足踏み出した途端、ハイヒールの踵が砂利にずっぽり嵌って抜けなくなったので潔く脱ぎ捨ててきた』らしい。
 ここまで来るのも大変だったようだが、ちなみに彼女が乗ってきたのは鮪の馬車。どうやって鮪が地面を進むのかとかそのへんはご都合として忘れてほしい。
 赤いハイヒールを誰かが拾ってくれるかとか、メアリーのシンデレラストーリーはさておき。彼女もまた、女子力UP講座へと参加。
 ちなみに、アルジェが出したのは――鮪柄だったとか。

「にゅふふ、しっと神社も増設しちゃうのにゃー!」
 虎巫女白虎(ga9191)がこっそりとないむねの隣に賽銭箱と神棚を設置。しっと神社と命名した。
「特に桃色カップルを本殿から誘導し!! しっと神社に参拝させる! お賽銭でバレンタインの活動資金を稼ぐのにゃー♪」
 恐ろしい計画である。つーか、ある意味賽銭泥棒である。
「やだー、あの巫女さん干支間違ってない?」
「あれだろ、コスプレイヤー」
「うっさい! 粛清してやるぞ!」
 カップルにくすくす笑われるとは屈辱の極み。ちなみに年中白虎は虎モノなので干支とか関係ない。
 まぁいい、と言いながらユキタケを誘いに茶店に向かう白虎。
 初詣の旨を告げると、ユキタケは少し考えてから『はい、じゃあ聞いてきます』と奥へ引っ込む。
(にゃ、ユキタケ君たちが切り盛りしてるんじゃなかったのか?)
 そう思う白虎の耳に、ラルスの声が入ってくる。
「とろとろ運んで冷めた茶を出されるよりはいいですね。店を大事に考えてないようですし、いいんじゃないですか?」
 うわ、ラルスが覚醒していないのに辛辣かつ早く喋っている。
「ラルス。このお茶はどこ‥‥」
 ユーディーの声。すると、ラルスの声の調子は一変した。
「これは、2番テーブルさんですね〜。丹精込めてー、淹れましたお茶‥‥お願いしますねー? しかしユーディー君ー、そういう衣装もー、よくお似合いーですよ〜」
 なんか桃色的な匂いがしなくもない。突入を考えうずうずしている所へ、追い出される形のユキタケが登場した。
「お待たせしました。じゃあ、参りましょう」
 と、白虎とユキタケ(とそのへんにいたチームエンヴィー)がぞろぞろと本殿まで参拝に訪れる。
「今年一年も桃色リア充を徹底粛正だぁー!」
 と声高に言った白虎。が、ユキタケやTEの目は冷たい。
「桃色ェ‥‥」
 去年も全くいいところがなかったリーダーが呟く。
「違うのです、僕はまだリア充ではないのですー!?」
「何が『まだ』だ! なる気アリアリじゃねえかよ! お前を先に粛清してやる!」
 ぎにゃー、と叫ぶ白虎を担ぎ上げ、しっと神社の隣に置いてある磔台に打ちつけてパイを投げまくる。
『裏切り者。ご自由にやっつけてください』と張り紙までしている徹底ぶり。
「男はないむねでいい!」
「えっ?! でも、これも神社ですよね?!」
「しっと神社と私は別!」
 立花にキレられつつも参拝に来た夏 炎西(ga4178)が困惑している。たしかにはたから見ればどの神社もそうだろう。

 だんだんカオスな状況に陥ってきたが、そこを打開すべく、神主の格好をして登場したソウマ。
「神聖な境内で何をやっているんですか! 神罰が下りますよ!」
 騒ぎを見つけ、破魔矢を携えて小走りでやってくる。
「破邪顕正!」
 と、鎮圧しつつもやはり騒ぎを大きくしている気がしなくもないが、運営のお手伝いは心強い。

 しかしまだまだ神社には長蛇の列。
 進みつつも西島 百白(ga2123)は人の多さを苦々しく感じていた。
「面倒だな‥‥これは‥‥」
 神様など胡散臭い、と愚痴りながらも本殿へ続く階段を登っている彼だが、神はそれを聞き逃さなかったようだ。
 何かに足を取られたのか、百白は階段を踏み外してバランスを崩す。
「‥‥あ」
 やばい、と思ったときには真っ逆様。ゴロゴロと階段を一番下まで転がり落ちて、鳥居に激突した。
 ゴフ、という悲鳴やら咳き込みにも似た百白の声。
 星が目元に舞い散りながらも頭を振りながら視線を定めると――

 彼の眼前に、巨大な鮪があった。しかも二体。

「‥‥鮪‥‥?」
 しかも、どうやら馬車‥‥ならぬ鮪車のようだ。誰が乗ってきたというのだろう。
 恥ずかしさも忘れ、じろじろ見ながらも百白は立ち上がり、人が引くまで茶店でも、と移動を開始。
「お、ひゃくしろー! ゆっくりしていくにゃ!」
 そこでは見知った顔が数人切り盛りしており、リュウナが大きく手を振る。
(‥‥転げ落ちたのも‥‥神の仕業‥‥か?)
 温かいおしぼりを受け取り、ぼうっと考える百白。が、それすら許さないのか。
 緑茶を運んできたユーディーが、手を滑らせて百白の頭へと落とす。
「‥‥熱!?」
「‥‥!!」
 思わず立ち上がってじたばたとする百白。ユーディーは思わぬアクシデントに固まって動けない。
「きゃああ、百白さん、ユーディーさん、大丈夫ですか!? い、今すぐタオルと冷えたおしぼり持ってきますから!」
 見つけた龍牙のほうが青ざめて走っていく。ようやく立ち直ったユーディーが『ごめ‥‥もうしわけ、御座いません御主人様』と謝罪した。
「ユーディー君〜、ここはー、そういうお店では〜、ありません。ですがー、ちょっと僕にも〜言ってみて下さいますかー?」
 新しいお茶を運んできたラルスが苦笑すると、ユーディーは『はい‥‥お館様』と呟いた。
「にゃっ、ラルスもユーディーっちも楽しそうなのら! リュウナもやった方がいいなりね!」
「リュウナ様はいけませんっ!」

 と、賑やかな茶店はさておき。

「はぁい♪ ティリスちゃんがバニー姿で参拝客相手してると聞いて、お姉ちゃんは思わず来た訳よねー」
 黒地に碧の唐草模様の留袖姿で登場した樹・籐子(gc0214)がにまっと笑う。
「その姿の本当に可愛らしくて思わず‥‥」
「おっ、思わず何よっ!?」
 ぞわりと鳥肌を立てたティリスは、プラカードを持った宵藍の背後にびたっと盾にするように隠れた。
「な、ティリス、ちょっと‥‥」
 胸がだな、とも言えずにじわじわ赤面していく宵藍。誤魔化すために『御神籤一回100cー』と呼びこみをしている。
「お姉ちゃん、今年一年も頑張れそうだわぁ。ティリスちゃんお仕事みたいだし、先に余禄の参拝でも行ってこようかしら。デートは後でね?」
 うふ、と楽しそうに笑いながら籐子は本殿へと向かっていく。
 それをじーっと猫のように見つめながら、ティリスは口を尖らせた。
(悪い人じゃないんだけど、女の子相手ってのは苦手なのよね‥‥)

「それじゃ、『総合』で家族運でも見てもらおうかしらねー?
 実際スイスの寄宿生活を営む妹に対しては、こちらからは無事を祈るしか成す術がないしさー。他の事はお姉ちゃんの個人の努力でどうにかなるものなのよ」
「聞いても居ない要らねえ事ベラベラ喋るんじゃねえよ。集中できねえだろ」
 そつなくこなすシルヴァリオもそういう事があるらしい。あら怖いとか文句を言われながらも占いを開始する。
「凶。騒ぐな」
「ちょっと! 適当なこと言ってんじゃないわよ!」
「だーまーれー! 見えないだろ‥‥知慮は禍福の門戸也。あれこれと思慮すれば、そこから要らない気も紛れ込む。無暗に騒ぎ立てず、今年一年は耐えよ。そのうち運気が動く」
 掴みかからんばかりの籐子へそこまで説明すると、意外にもすんなり納得してもらったようだ。まあ、夢だから気にするな。

「二礼二拍手一礼! ガイドブックで調査済みよっ!」
 Letiaが朝にそう教えつつも拍手を打つ。
(ほー。皆がやってるようにすればいいのかな?)
 マリンチェ・ピアソラ(gc6303)は、隣の人がやっているのを見様見真似で倣った。
 賽銭を入れ、鈴緒を揺らし、神に祈る。
(行方不明の兄さんが元気でいますように。みんなに楽しい事がたくさん起きますように‥‥そして無事に帰ってきますように)
 Letiaの清浄な願いは神に届いただろうか。神意は分からないが、きっと清廉な願いは聞き届けてもらえることだろう。
 朝も何か願っているようだが、報告官ですらわからない。
(今年も楽しい一年になりますように♪)
 漠然としつつも可愛らしいお願いをするマリンチェ。その足で御神籤処へと行ったようだ。
「‥‥アシタはどんなお願い事した? あ、聞いちゃいけないんだっけ? ‥‥アシタの願いも、叶うといいね♪」
「ああ。Letiaの願いも叶ってほしいぞ」
 可愛らしいなあ、とLetiaは暖かく感じながらも、彼女の手を引いて御神籤処へと向かっていく。

●人ごみとかは気にしない。

「着物では、すり足‥‥剣道と同じ足を上げず、滑らす‥‥こうやって」
 アルジェが手本を見せると、女子たちから『おー』という声と拍手が起こった。
「着付けもそうですけど、お二人とも手馴れてるんですねぇ‥‥」
 緋音がちょっと複雑な心境でそれを眺める。
 覚羅の歩き方も凛としていて、それでどこか女性を感じさせていた。
「‥‥と、このようにおしとやかに、かつ自然に立ち振舞うように行動してね?」
「はぁ」
 女装して、すっかり綺麗になったフォルも苦い顔をしてその後に続く。
 しっかり女子力向上講座の一員になってしまったのは言うまでもない。
「2人とも、美人さんです‥‥眩しい」
 リゼットが切ないようなため息を吐いたところに、フォルが『そう‥‥ですか?』と、何気に満更じゃない顔をする。
「あれ、今の声は‥‥フォル?」
 丁度すれ違ったLetiaが一団に声をかける。条件反射で振り向いたフォル。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

「フォル、久しぶりだねぇ〜? ‥‥新年おめでとさんだっ!」
「ちょ、Letia!!」
 おめでとさんだっ、の『だっ』の部分からLetiaは少し離れていた。そのまま御神籤処に向かうようだったが、フォルの何となく悲しそうな顔は言うまでもない。
 そのフォルを慰め、神撫と合流した一行。
「旧年中は大変お世話になりました。本年もよろしくお願い致します」
 黒い羽織袴姿で折り目正しくご挨拶を行う神撫に倣って『こちらこそよろしくお願いします』と互いに挨拶していく皆。
「神撫さん‥‥どうして俺を見ないんです?」
「いや、まぁ‥‥気になさらず」
 サッと視線を逸らし、フォルと目を合わせない。嫌いなのではなくて、同情のあまり、である。
 そのまま皆は本殿へと参拝をしに行った。


「そういや、ティリスはお参り行ったのか?」
「いえ? お仕事ですからぁ。わざわざお参りしなくてもいいかなって」
「色々と心配だから、ティリスもちゃんとお参りしとけよ?」
 んー、と頬に手を当ててから、にこっと微笑んで宵藍を見上げるティリス。
「それじゃ、一緒に参拝しましょうか! 大丈夫です、すぐにお仕事再開すればいいですもんっ」
「っと‥‥あとで一緒に行こうと思ったんだが――わかった。行こう」
 宵藍を連れ立って拍手を合わせるティリス。
「もっと大人っぽく、男らしくなれますように!」
 宵藍。口に出さなくてもいいぞ。
 が、横で色々神様にお願いしているティリスの横顔を見て、
「‥‥ティリスが怪我しませんように」
 小声で、最近頑張ってきはじめた彼女の無事を祈ってあげていた。
 
●スーパー占いタイム

「願望成就をお願いっ!」
 笑顔でシルヴァリオへ声をかけたのに、あいよとダルそうに告げた後占いを開始され――Letiaは引きつった笑みを向ける。
「‥‥えっと、もうちょっとにこやかに占って貰えないかなぁ。なんか怖いんだけど」
「なんで占うのに愛想が必要なんだよ? 結果が変わるわけじゃないぜ?」
「そ、そうだけどさぁ‥‥気持ちの問題でしょ!」
「っせーな‥‥出たぞ。大吉。だが徒に人を動かすなかれ。和を乱さず、現状の幸せに感謝すれば事円満に動く」
 後ろで見ていた朝も『よかったな』と自分のことのように喜んでいる。
 そして朝の番になったが、特に占いたい項目がなかったのだろう。『総合運』と告げられた。
「総合運は中吉。遠方に幸あり」
 遠方。と呟いてから、朝は押し黙る。どこら辺かと考えたのかもしれない。
「うん。わかった」
 Letiaに手を引かれるようにしてその場を離れる。

 次に並んでいたのは緊張した面持ちの炎西だった。

「ええと、あの、恋愛うn‥‥」
 恋愛運と言おうとしたところ、丁度メアリーたちの姿が目に入る。
「うーーん! せ、世界人類の平和と繁栄をですね! あのその、」「あ? 聞こえねえ。恋愛運? 子宝繁栄?」
「わぁああ、違います!! 願望成就ですっ! 願望成就!」
 そのやりとりが可笑しかったらしく周りからくすくすと声も聞こえ、ますます赤面してしまう炎西。
 仲間たちに聞こえていないことを祈りつつも、炎西はお願いしますと軽く頭を下げた。
 じっと相手の顔を見るシルヴァリオ。どうやらこれが占いの体勢のようだ。
「末吉。急いては事を仕損じる。心穏やかに何事も程よく進めるべし」
「ですよね‥‥」
 聞きたいことと違ったせいもあってか、がっくりと肩を落としている。
 なんだ、そんな悪かないだろといったシルヴァリオに会釈をし、売店へと炎西はその足を運ぶ。
 恋愛成就の御守を交通安全の御守りの下に重ねるようにしてシアンに差し出すが、会計時に間違いないか一品づつ確認した彼。
 一瞬慌てた炎西に怪訝な顔をしたが、その行動の意味にハッと気づいて慌てて袋に入れる。が、双方に漂うこのぎこちなさ。まるでうっふんな本を買いに行ったがレジが異性だった時のあれに似ている。

 その隣、御神籤処へつかつかと歩み寄ってくる女性があった。

「昔から男らしいと言われ続けて23年、ようやく出来た彼氏とは実質半年も付き合わないうちにダメ男と分る始末。
 私の将来、ぶっちゃけ恋愛すっとばして素敵な旦那と結婚できるかを占って頂きたいのですが!」
 シルヴァリオに詰め寄り、一息で言い切ったメアリー。しばらく彼女を見つめていたシルヴァリオだが、やがて自身の長い前髪を手のひらでかきあげる。
「お前の運命‥‥この片目で、見定めてやるよ」
 髪に隠れていた右眼が妖しく光る――! うおお、これが邪眼!? (本編ではそんな効果はありません)
「‥‥結婚運、小吉。永くある強風に耐え、十分に根を張る。漁業関係者との見合い良好」
「永く!? ‥‥晩婚ってこと!?」
 漁業って! ちょっと! と言いつつ身を乗り出すメアリーに、髪を手ぐしで戻しながら『良縁お守りは隣で』と売店を指す。何気に商才があるやもしれん。

「お。見たことがある。お前の名前、オレ覚えてねーんだよな」
「顔を覚えてれば問題ないけど。知りたいってわけじゃないなら今度な。ひとつ恋愛運を占ってくれ」
 真面目な様子に茶化して口笛を一つ吹くと、シルヴァリオも占い始める。
「大吉。が、一線を越えるべからず」
「んなっ!? ど、どこまでのラインだ!?」
 さて。とシルヴァリオは言って、手で食い下がる神撫を追い返した。何気に流れ作業と化している。

「こんにちは、シルヴァリオさん‥‥どう‥‥ですか?」
 新年柄で水玉を基調にした晴れ着姿の海。先程までは軽装で、化粧っ気もなかったのだが、着替えたときに少し載せたようだ。
 元々の素材もいいのに自信なさ気な声でシルヴァリオに感想を求めている。
「いいんじゃねぇの? それで笑ってりゃ尚」
 そんなにシケたツラしてると正月から運気が逃げるぞと言って、口角を上げる。
「ありがとうございます。今まで戦争で‥‥」
 自分の晴れ着を見つめて海は言葉を続ける。
「能力者になる前は、とても着飾るなんて余裕も機会もなかったですし。たとえ夢でも嬉しいですっ」
 にっこりと笑った海に、シルヴァリオは気のない返事をしたが、笑ってるほうがお前は似合うよな、と付け加えた。
「で? オレと遊びたいわけじゃねーだろ? 用件は?」
 なんともお話し甲斐のない男である。
 恋愛運をお願いします、と真っ赤になってお願いする海。
「わかった。しかし今日来る奴は恋愛運多いな。仕事運とかないのかね」
 大きな世話である。
 そうして占う結果が『深入りするな』とあって、一瞬悲しそうな顔をした海。
 さすがに空気を読んだらしいシルヴァリオは一度黙ってから『‥‥こいつらの事だ』とシアンを示す。
 言われたシアンは一瞬顔を曇らせて首を傾げると再び売店の業務に戻る。
「――言い方を変えりゃ、焦らず、己と相手の気持を大事に、だ。相手に知ってもらわねぇと始まらないからな」
 偉そうに言いながら小銭を箱の中に収めると、海にじゃぁなと言い次の人を呼ぶ。
「そこの格好良いおにーさん、仕事運占ってくーださい♪」
 マリンチェがにっこりとしながら小銭を差し出す。
 格好いいと言われたことではなく、仕事運にと言われたことが嬉しかったらしいシルヴァリオは『任せておけ!』と体勢を整える。
「吉。素早い行動力と決断力を養うべし‥‥ま、オマケで大吉にしといてやる」
 どういうことだ、シルヴァリオ‥‥!? オマケができるのか‥‥!?
 周囲に漂うズルイぞオーラ。それをスルーしながらてきばきと客をさばいていた。

●売店。

「ん。リゼットか。あけましておめでとう」
 着てきた振袖姿も見せに来たのだろう。シアンも似合うと言ってくれたし、上々の様子なリゼット。
「はふぅ‥‥やっぱり似合わないことはするものじゃないや‥‥ん?」
 緋音は覚羅やアルジェに言われた通りのことを実践してみるも、頭では理解してもなかなか思い通りにいかずに大きなため息を吐いていた。
 売店でお守りを買いながらシアンと会話をしているリゼットの様子からそういう仲なのだなと見抜き、久しぶりのご対面ですもんねと冷やかしながら近づいた。
「リゼットさんのお友達で御崎 緋音といいます。よろしくお願いしますね?」
「こちらこそ。シアン・マクニールです。ご存じと思うがリゼットの恋人だ‥‥」
 いつも彼女が世話になって、と言いかけたが、きっとそれは失礼だろうと思ったか‥‥特に気の利いた言葉が出ないので黙る。
「‥‥隣で占いを?」
「あ、いえ、皆と見せ合いたいので、まだ」
 ふむ、とシアンは御籤箱を取り出して彼女らの目の前に置く。
「じゃあ、お守り数個と‥‥コレを1回」
「いい結果が出るといい‥‥?」
 リゼットから手渡されたお守りを見ている中に、何故か一個『安産』がある。
 その他リゼットが『大漁祈願のお守りはありますか?』と聞いているのだが、シアンが曲解してしまったような気がする。
「リゼット」
「はい?」
「欲しくともいろいろやることも山積みだし‥‥何より大量には要らないんじゃないか?」
「でも(メアリーさんが)喜ぶと思って‥‥」
 シアンが口をはさむ前に、隣の邪眼持ちのシルヴァリオが『魚。魚のほうだ。意味ちげーぞ』と訂正してくれた。まあ良い子には分かんなくていい。
「まあ、そうだ。リゼット、このまま帰るのか?」
 御神籤の結果を渡しながら聞いたシアン。
「はい。一度着替えて‥‥シアンさん終わるのは何時ですか?」
「もう2時間くらいしてからか」
 じゃあそれくらいにまたと言い残して売店の前から去っていく女性たち。
 引いた御神籤はフォルが中吉、リゼットは吉、緋音は小吉。それぞれ彼女‥‥じゃない者もいるが、皆でそこで買ったお守りを皆にあげたり貰ったり籤の結果を見せ合っていた。
 アルジェはシアンに御神籤を頼み、仕事運と言いつつこっそり恋愛運も、と言う。年頃故に気になるところなのだろう。
「大吉だ。仕事は恙無く運び、恋愛も誠実な対応を心がければ更に良し」
「いつも、そこは平気」
 SPといえども仕事は完璧にこなしてこその成功、と言うアルジェ。と、境内を見回して警護が薄いねと言う。
「ああ。人手がどこも足りなくてな‥‥」
「‥‥アルは‥‥SPだから請われればいつでも、護る」
 と、周囲に向かって眼を光らせ始めるではないか。
「アルジェ‥‥何も、君は友人たちと来ているのだろう?」
 とはいえ、ソウマは見返りに甘味食べ放題で境内を守護している。
「身軽で、ちっこくても力持ち‥‥アルにお任せ」
 と、横入りした人の腕を掴んで『列を守る』と誘導までしていた。
 後で何か礼をしなくては、とシアンは思いつつ、売店の仕事に戻った。

●オレに関わると火傷するぜ

 占いの相手を数えなくなってどれくらい経ったものか。
「‥‥お前から最後の奴まで今年は大吉。願い努力すれば叶う」
 シルヴァリオは柱にかけてある時計を見、列の切れ目を見抜いてから『準備中』の札を卓上に置いて席を立つ。
(あれは‥‥シルヴァリオさん? まさかサボる気ですねっ)
 どこかに行こうとしているのを目ざとく見つけた立花。ぴょんと台の上から降りるとシルヴァリオ目がけて走る。
 待てと言っても気づいていないのか止まらない。丁度良く自分の分身を発見した立花は、止めろといってシルヴァリオを引き止めさせた。
「そこを退け」
 面倒くさそうな顔のシルヴァリオ。だが、立花も『なんで私が退けなくちゃいけないんですか!』と逆に問う。や、引き止めるから怒られてるんだろう。
「オレの邪魔するな」
「酷いです! 邪魔とか言わないでっ!」
 言いながらシルヴァリオの脇腹にパンチを入れ‥‥たが、赤く光った。そうだ、FF働くんだった。
 が、立花もそれで終わらない。これで怯まないなら彼の袖をぎゅっと掴み、潤んだ瞳で見上げた。
「通して欲しいなら‥‥私ごと連れて行けばいいじゃない‥‥!」
 シルヴァリオが怪訝な顔をし、自分の分身のドラマ(?)一部始終を見ていた立花(本体)は鳥肌を立たせる。
「うおぉぉぉ! 私の分身だが言わせてもらう! キモい!」
「うっさい! キモいとか言うなし!!」
 自分で自分にツッコミを入れる不思議な光景。そこでシルヴァリオは『じゃあ、どうなってもいいんだな?』と聞いてくる。
「ん‥‥シルヴァリオさんが、望むなら‥‥」
 キモイとか、ぎゃあシルヴァリオさんどうして私じゃないんですかとか喚く本体立花を放置して、シルヴァリオは立花を猫掴みで連れて行く。
 が、連れてこられたのは――熱された石炭が敷き詰められた場所。その上へ、シルヴァリオは無造作に立花を放り投げた。
「熱ー‥‥さは余り無いですけど、なに、どういう――」
「オレの代わりにそこ渡っとけ。おい、止まってんじゃねえ。行けと言ったら早くしろ」
 自身の腕を組んだまま立花の背を蹴りつけるシルヴァリオ。まさに外道。
「鬼! 悪魔! 俺様!」
「何とでも言え。おいゼッペキ。減らず口を叩くとこのまま石炭に押し付けるぞ」
「ゼッペキって! まさかそんな理由でないむね神社とかの現人神に‥‥!?」
「知るかよ」
 うるさい、と言ってさらに足に力を込めるシルヴァリオ。
「アレ、参拝客でもやらせてくれないかなぁ‥‥」
 アーとか非道いとか言いながらも渡っていく立花を見ながら、茶店でくつろぐメアリーは冷えた足を暖房にペタシとくっつけて温めていた。
「アレは本来ああいうものじゃないですけどね‥‥」
 同じく茶店で甘酒を飲みながら、神撫は火渡りの光景を眺めていた。

●茶店で。

「ティリスちゃんはホント男の子好きなのねー」
「‥‥そこまでわかっててトーコさんは、どーして私を誘うんですか?」
 ほっといてよね、と憎まれ口を叩くティリスに、女の子がそんな顔しないの、と窘めてお茶を飲む籐子。
 だが、本当に嫌いなのであればわざわざ付き合ってはくれないこともわかっている。
「ウインドウショッピングしたり、買い食いしたり‥‥女性同士だから気兼ねなくできる事ってのが必ずあるのよ」
 男に対してある程度の緊張を持つより、そういうの気軽にできるっていいじゃない、とも彼女は語る。
 そこは大いに頷けるところだが、ティリスはその同意をあんみつを口に運ぶことでごまかした。
「ふふーん。異性だけでなく同性同士での交流を深めた方が良いわよ? 何か手助けしてあげるから」
「そんなの‥‥同性同士のことなんか、言われなくたってわかってるわよ‥‥」
 もじ、とそっぽを向くティリス。そこで、籐子はダメ押しの笑顔と言葉を持ち出した。
「お姉ちゃんはティリスちゃんの味方よ?」
「‥‥ありがと」
 どういたしましてと言い、くすくす笑いながら片手で自分の口元を隠している籐子。
(計画通り‥‥!!)
 非常に悪い顔をしている。皆には見せられない。

 そんな怖いお姉さんはさておき。
「お姉さん、おかわりを」
「‥‥はい」
 甘酒を飲みながらにこやかな笑顔を振りまくソウマ。本当に甘いモノが好きなんだなと運んできたユーディーは思う。
「次はこれを!」
「いいけど‥‥食べてからにしたら」
「お待たせなりー‥‥ニャ!?」
 しかし、そこへリュウナがオーダーを受けた商品を運んでくる。が、段差もないのに足がガクッとなる不思議な状況が何故か発生し、リュウナがソウマの眼の前で転びそうに――
「危ないっ」
 リュウナは転ばないようにとの思いしかなく、まだ着替えていなかったソウマの襟を思い切り引っ張ってしまう。
 襟を引っ張られ、合わせが崩れて肩まで露出するソウマ。ある意味ラッキースケベと言うやつである。逆だけど。
「だ、大丈夫ですか? これは僕のせいじゃないですよね?」
「いいから服をきちんと着てくださいますかっ!!」
 お前のせいだろ、と言わんばかりの龍牙のスクリューパンチがソウマにめり込んで、ドォーン、とかいう効果音がぴったりな感じに真上へ吹き飛ばされたソウマ。
「リュウナ様、ケガはないですか?」
「大丈夫なり‥‥ニャ、どうしてお客さん寝てるなりか」
「甘酒に酔ったんじゃないでしょうか♪ そういえば、お客さんもだいぶ減りましたねー」
 リュウナの服についた埃を軽くはたいた龍牙。百白が『まだ時間があれば‥‥その‥‥一緒に‥‥どうだ?』と聞いてきた。
「いいですねー。是非♪」
 龍牙達も乗り気である。そろそろ茶店も終わりですし、参拝にでも行きましょうかとラルスも言った。

 しかし不幸な百白。賽銭箱に賽銭を入れようとすれば賽銭箱を通りすぎてどこかに落ちたようだし、彼の後頭部にリュウナがエイヤッと投げた賽銭がぶち当たる。
(本当に‥‥叶うのか‥‥?)
 まだ疑っているらしい百白。まあ気の持ちようだと思うのだが、藤城神社に祀られている神は器が小さいのだろう。
 天罰とばかりに鈴緒が切れ、一緒に鈴も落下。その鈴尾を振っていた百白にガツンと当たる。
 そこで百白は神の悪口を言わないというのを学んだようだ。
(人付き合いがうまくなりますように)
 と百白は願いをかけ、
(え〜と、たくさんのモフモフをモフモフできます様に)
 などと羨ましいことをリュウナは願い、
(リュウナ様が一人前のスナイパーになりますように、と戦争が早く終わりますように‥‥)
 龍牙もリュウナの事を案じて願いをする。
 ユーディーもまた、仲間や友達にたくさんいいことがあるようにと漠然とした願いを思う。
「願い事はー、そうですねぇ‥‥」
 ラルスもしばし考えたが、良いものが浮かんだのだろう。
「ライラがー、元気にすくすくー育ちますように〜。あと、家族がー、幸せでありますーように〜」
 それと、と続けるラルス。まだあるのか。
「ユーディー君が、これからもー、仲良くしてー、下さいますように〜」
「!」
 思わず顔をあげたユーディーに、ご本人に直接お願いした方が宜しいでしょうか? と微笑んだラルス。
「こちらこそ‥‥喜んで」
 光栄です、と頭を恭しく下げたラルス。
 リュウナが売店にゃー、御神籤ー、と龍牙の手を引いて急ごうとする。
「いいですねー。お土産にー、買っていきましょうかー」
 そろそろ夕暮れ時。年明け初めての夕日は、綺麗に映った。


●そういえば。
 
「シルヴァリオさん、僕にも占いを」
「何を? つーか、顔拭けよ」
 よろよろとやってきた白虎、ずっとパイを投げつけられて真っ白である。
 何を占えばいいかというのを決めていなかったらしい白虎。お任せをと頼んだところ、
 シルヴァリオは『凶。今までの怨念が積もり積もってお前にのしかかる。今年は諦めろ』とさらりと答えた。
「ぐぬぬ、どうせロクな結果が出るはずがあるまい‥‥と考えていたのだが、やっぱりどうにもならなかったにゃぁぁぁ!!!」
 と涙を流して去っていく白虎だった。


 こうして、初詣は無事に終了したようである。