タイトル:Xmasコンチェルトマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/05 03:56

●オープニング本文


●12月25日

 様々な人の協力を得て完成したクリスマスのパーティー会場。そこで、とあるメンバーがむさい顔を突き合わせていた。
「来ましたよ25日ですよ、ユキタケさん」
「ええ‥‥来てしまいましたねリーダーさん」
 ご存じ‥‥でない方も多いと思うこの嫉妬集団「チームエンヴィー」
 事あるごとにカップルでイチャつくのを妨害してきたモテない集団である。あれよ、非モテってヤツ。
 そこに最近ではネタキャラ扱いしかされていないユキタケ伍長も加わり、事態は「またいつものアレか」になってきているのである。
「僕なんて、どうせ誕生日も覚えてもらえないし、書道の特技があっても海外じゃあまりもてはやされないんですよぅ!」
「いーじゃねーか、字が綺麗だと人生変わるって通信教育で体験者が言ってたぞ」
「変わってません!!」
 イメージには個人差がありますからね。もしかするとユキタケ伍長には『変わらぬ! 効かぬ! モテぬ!』‥‥だったわけでしょう。
「だから、ここに来たカップルは‥‥このユキタケ、容赦せん!」 
 奴はやる気だ。やる気イコール嫉妬である。
「おお、心なしか真中に飾られたKVリヴァイアサンも目を輝かせておるわ!」
 気のせいである。光の反射でそのように見えただけだ。
 そう思いつつケーキを食べたり微笑ましく会話する人々を陰から見つめる。
 それでも、ユキタケ伍長やTEの彼らだって頑張った。これでも日陰者として生きる事を自覚しているらしい彼らはこの会場にだってモテない人々を集めようとしたのだ‥‥。
 だが、やってくるのはどう見てもカップルっぽい人が多いです本当に(略)な人々ではないか!?
 しかし良く聞けば友人です、きょうだいです、っていう人も結構いるのに、哀しいかな彼らの嫉妬に曇った目と鼻には嗅ぎわける力が無かったのだ。
 TEとユキタケは不敵な笑いを浮かべて、呟いた。

「フフ、精々キャッキャウフフしあうがいいリア充ども。あと少しで、お前らの地獄がやってくるのさ‥‥!」


●同時刻、高層ビル屋上より

 スコープで、階下の建物を覗く銀髪の女。
 中では、楽しそうにパーティーが繰り広げられている‥‥ように、思える。
 そこで悪魔たちは鋭い爪を隠し、獲物を刻むのを待ち構えているのだ。
(‥‥どこに、いるのかしら‥‥)
 探している人はない。
 白いドレスに身を包んだユーディーは、スコープから視線を外して白い息を吐いた。
 ストールは汚したくないのでバッグに入っている。
 薄着では寒いし、何よりそろそろ雪が降るらしいではないか。早くこんな事を終わらせて、中に入りたい。
 せっかく、御洒落をしてきたのだ。自分にとっては結構――張りきったのに、こんなことになっている。

「大丈夫か?」
 ふと声をかけられ、意識を引きもどしたユーディーは隣を見つめる。黒いパイロットスーツ姿の男は彼女のライフルを借りると、窓を覗きこんだ。
 黒い髪と同色のパイロットスーツは、夜間の行動によく溶け込んでいる。
 内部の会話でも傍受しているのだろうか。『地獄はお前に見せてやる』などと男は一人毒づいていた。
「すまんな、ユーディット。愉しみを邪魔してしまって謝りきれん」
「‥‥早く終われば、問題ないわ」
 多分、貸し一つ。と付け加えて、ユーディーは隣の男の恰好をしげしげ眺める。
「あなたこそ‥‥そんな恰好で良いの?」
「飛んで来たばかりで着替える暇はなかった。が、まぁ問題ないだろう。キーツがいるからな‥‥」
 部隊が一時帰投した事は上官以外誰にも告げていない。だからここで良からぬ事をたくらんでいるユキタケ達に姿を見られたはずもないのだ。
『――こちら赤枝のサンタクロース。配置についた。これよりロック解除に移る』
 黒髪の男、シアンの耳に無線が届く。この声はレイジ少尉だろう。
『Roger。奴らにプレゼントを頼もうか』
 毎度毎度騒がせおって。今年を振り返っただけでも結構ある。
 抑えきれぬ怒りで覚醒するシアン。金の髪は風に煽られてスーパーなんとか人みたいになっている。
「開始みたいね」
 スコープを覗きこんでいたユーディーは、TEが振り上げたタバスコ入り水風船を容赦なく狙い撃つ。
 あちらこちらで悲鳴が上がるが、中に押し入っていったサンタ‥‥少尉が素早くTEの主犯格を捉えた。
『ユキタケっ、逃げるんだ! お前だけでも‥‥お前だけが最後の望みだ!』
『うう、リーダーさんっ‥‥すまない!!』
 脱兎のごとき速さで逃走し、裏口より出ていくユキタケ。進路はクリア!!

「そんなに急いで何処へ行く、伍長」
 しかし、頭上から声がかかった!
「誰だっ!」
 声のした方は――高くそびえる高層ビル。そこに、人影があった。
「毎回毎回爆破爆破と一般人に迷惑をかけ続ける所業、もう見逃せん。今は忙しい、そんな事をしている場合じゃないだろう」
 シアンとて本来こんなところに来ている場合じゃないのだ。
 とうッ! という掛け声とともにビルから飛び降りるシアン。時折スピードを緩めつつビルの壁を蹴り、着実に近づいてくる。
 まずい、と思ったがこうなればヤケだ。ユキタケはギリッと歯を食いしばる。
「くっ‥‥リア充に、僕らの気持ちが分かるかぁぁぁッ!!」
「よかろう! たまには爆破される側に回るがいい!!」
 この書道で培った素早い手さばきで、シアンの顔に恥ずかしい落書きをしてやる――!!
 ユキタケの思惑がどうあれ、着地と同時、シアンは瞬天速で駆け抜ける。
――あ、だめだ。大尉能力者だもんな。
 そう理解した次の瞬間。ユキタケの身体は、無数に付けられた爆竹により(見た目は)爆破されていた。

●まあ、今回は成敗。

「任務完了」
『おーご苦労さん』
 無線より間延びする少佐の声。その後、明朝までゆっくり遊んで来いというお達しが下る。
『着替えは心配ないぜ。そこに停車しているリムジンの男が用意してくれているはずだ』
 見覚えのある車に、見覚えのある人物。シアンはやれやれと火薬臭い手袋を外す。
「パーティーか‥‥数年ぶりだな」
 下にやってきたユーディーは少尉にユキタケを引き渡し、ふんじばられたユキタケを一瞥して『お大事に』と言って会場内に去っていく。
 会場内部では少佐が今のは余興だとか何とか言ってごまかしてくれているのだろう。それで参加してくれた人がほっと胸をなでおろしているのならそれでいい。

 しかし、事態はそう甘くない。
『リア充は爆破されろォォォーー!!』
 彼らの悲痛な叫びは非モテ仲間にまで伝染したらしい。

「そうだ、リア充は許しちゃおけない!」
「粛清だ!」
 そんな声が上がり始める。
 同様に、リア充たちにも防衛本能が働きはじめた。

 今宵のクリスマスも、結局はこうなるようだ。

●参加者一覧

/ 西島 百白(ga2123) / 終夜・無月(ga3084) / ラルス・フェルセン(ga5133) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / 白虎(ga9191) / 最上 憐 (gb0002) / 神撫(gb0167) / シャーリィ・アッシュ(gb1884) / 佐渡川 歩(gb4026) / クラリア・レスタント(gb4258) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / ウラキ(gb4922) / 宵藍(gb4961) / 東青 龍牙(gb5019) / 周太郎(gb5584) / 諌山美雲(gb5758) / 樹・籐子(gc0214) / ソウマ(gc0505) / 緑(gc0562) / 天原 慎吾(gc1445) / ガル・ゼーガイア(gc1478) / ラナ・ヴェクサー(gc1748) / 秋月 愁矢(gc1971) / 市川良一(gc3644) / ララ・フォン・ランケ(gc4166

●リプレイ本文

●シングルでもジングル。

 ユキタケとチームエンヴィー(以下TE)のリーダーが拘束され、パーティもいい雰囲気にと思いきや――
「クリスマスはリア充だけのものじゃねえっ!」
 リーダー格が拘束、連行されたのにあちこちで男女ペアになっているのが気に入らなくなったのだろう。非モテが刺激されて騒ぎだした。
『ユキタケの解放を要求するにゃー!』
 白虎(ga9191)もシアンに交渉を持ちかけたのだが頑として聞き入れられず、業を煮やした白虎は『あとでひどいぞ!』と言い放つと通話を切った。
「お子様がここまで言うのに大人の対応は無しですか‥‥絶望した! 絶望したぞリア充!」
 シアンとの交渉もうまくいかず、都合のいい時だけ子供と強調する白虎。だが――念が溜まる場所には念を持つ者が集まるらしい。
 怒りのあまり涙を浮かべつつ『ド畜生!』と叫びながら会場に向かって走ってくるガル・ゼーガイア(gc1478
 聞けば、仲間だと思っていた先輩に彼女ができた、ということだ。
 ガルの怒りと悲しみは沸々と湧き上がっており、最早抑えも限界だ。
 その活力、なんとしても欲しい。白虎は同様に会場前で調味料をわざと間違えたケーキを配っているララ・フォン・ランケ(gc4166)と諌山美雲(gb5758)を発見し、
 仲間を集え『ユキタケ救出作戦』に誘うのだった。

「ふぅ‥‥危ない。眼鏡が無ければ即死だった‥‥ん? あれはしっととは名ばかりの桃色しっと団総帥!?」
 先程ユーディーが撃って破裂させた水風船(唐辛子入りの水)を近距離で浴びた佐渡川 歩(gb4026)。眼鏡を拭きながら外へ出てきたのだろう。
 そこに白虎らの姿を発見し、物陰に隠れて盗み見ている。
(ユキタケさんを助けるつもりの様ですが‥‥。まあ、支援くらいはしてあげましょうか)
 大方の事情は把握できた。不敵な笑みを浮かべたが――、またメガネをかけたのでその表情の大半は分厚いレンズで覆われる。
「SはスーパーのS。SはしっとのS。Sは佐渡川のS‥‥聖夜が生んだ奇跡の戦士SSS(SUPER‐SITTO‐SADOGAWA)が、世の桃色を根絶してみせましょう!」
 唐辛子で赤く染まった彼のやる気は、通常の三倍くらい沸々と湧き上がってきた気がする。原因はカプサイシンパワーだというのは告げずにおいてあげよう。
 
●救出作戦

(このままいけば順調かな‥‥)
 終夜・無月(ga3084)が自分のバイクで会場へと向かっている最中、一台のパトカーとすれ違う。

「‥‥ん! リア充爆破されろー!」
 
 すれ違いざま、先日聞いたような大声がパトカーの中から聞こえたようにも思うが、一度バックミラーでチラ見した後に頭に疑問符を浮かべていると――
「LH出張所より通路逆算するとー、この辺でいいはずにゃー」
 ララのAU‐KV後部座席に乗せてもらった白虎らとすれ違った。
 無線を片手に、ララの肩越しで前を見据えつつ夜の街を急ぐ白虎。
「もう俺にとってクリスマスは悪魔の生誕祭だぜド畜生!!!」
 ガルが嫉妬に身を焦がしつつララを追い抜く。人妻はノーカンだよな、と意気揚揚後方に納まっている美雲を思うのだが、何言ってんだ君。異性が抱きついてるなんて2カウントだ。都合は聞かぬ。
「‥‥?」
 再びバックミラーで確認して‥‥首を傾げた無月。何人か見た顔があったのだが‥‥
「‥‥まぁ‥‥良いか‥‥」
 気にせず、会場へと向かって行く無月だった。

「あれが、ユッキーの乗っているパトカーですよっ!」
「了解、それじゃあ作戦実行だっ!」
 誘導してくれるララと無線を交わし、ガルはパトカーを追いぬきあろうことかターンして前で停まる。
『そこのバイク、道路中央で止まらない!!』
 クラクションを鳴らされてもお叱りを受けても退く気配などなかったため、目の前でパトカーも止むなく停まって警官が怒りながら降りてくる。
 お叱りはごもっともなのだが、ガルはパトカーに乗っているユキタケを指差して『悪いのはリア充だ、無実の仲間を連れ戻しに来た』と言うではないか。
 よくわからぬ彼らもとりあえず連行、と警官が口にしたところで慌てて美雲は警官の前に可愛らしい笑顔を見せながら箱を差し出した。
「そうおっしゃらず。お勤めごくろうさまです。クリスマスなのに頑張ってお仕事しているお巡りさんたちに、私からのクリスマスプレゼントですよっ♪」
 何かと顔を見合わせた警官は、その箱を受け取ろうとして――止めた。
 なにか裏があるに違いない!
「‥‥な、中身は怪しくないですよ!? ほらっ、この通りガスしか入っていません!」
「ガス!?」
 バカッとプレゼントの蓋を開き、警官に見せた。ブシューという音と共に白い煙が舞う‥‥んだが、ちょうど風が逆向きに吹いて美雲にぶわさ、とガスがかかる。
「あ‥‥れ!? ねむ‥‥」
 策士策に溺れる――効き目は抜群だったらしくすぐに眠ってしまう美雲。
「ユキタケ君もだが、なんで勝手に突っ込んで自滅してるにゃー!!」
「助けに行くよ!」
 ヴオン、とアクセルを捻るララ。それに おう、と返事をして白虎も援護態勢になる。
 ララのお手製煙幕とペイント弾を警官の間に撃ち、急いで美雲を回収しながら声をかける。
「ユッキー! 無事!?」
「あ、あ‥‥みなさん! 来てくれたんですね!?」
 感涙にむせぶユキタケだが、警官もこの騒動を鎮静すべく駆けてくる。
「僕のことはいいから、早く皆さん逃げて!」
 がっし、とパトカーのドアロックをして叫ぶユキタケ。しばらく時間は稼げるだろうが、おかげでパトカーに近づけなくなった。
「うん。わかった! ‥‥ユッキー、君の犠牲はムダにしないからね!! がんばれ☆」
 救出に来たのにパトカーには近づけないのだから、最早撤退するしかないのである。バカ。ユキタケ。
 え、ちょっと、と呆然とする彼を残し、白虎を後部に無理やり乗せてララとガルは去っていく。

 ガンガンと叩かれるドアの音を聞きながら、これでいいんだとユキタケはロックを外した。

●ちょうどその頃

「フフ、今頃しっと団‥‥おっと、桃色団は大騒ぎでしょうね!」
 何故か毛筆を持ちつつ歩はドヤもドヤ、スーパードヤァ顔でポケットの携帯電話を握る。
 先ほど『パトカーを襲おうとしている不審者がいます』と電話をかけたのは彼自身だ。
 そして彼は『主の名を借りて贈り物を求め、あまつさえキャッキャウフフにあはーんうふーんまでする輩』達の顔に落書きをする罰を与えている最中。
 主に女性ではなく男性へ行っているのだが、悲しい叫びと悲鳴が聞こえるたびに、天罰です、とか言いながらピッと格好つける歩。
 思い知るがいい、と犯行を続けようとした彼の肩がとんとんと軽く叩かれた。
 振り返ると、そこには怖い顔をした――警察官が二人いたではないか。
「え? パトカー襲撃を計画してる不審者? 違いますよ、僕は通報した側で‥‥って話は署で聞くとかお決まりの台詞で僕を連行しないでって‥‥あ〜〜!」
 グレイ型宇宙人の写真よろしく、両脇から腕を掴まれ連行される歩。強いて彼の敗因を挙げるとすれば‥‥場所はどこかという質問に、パーティ会場の住所を答えてしまったことだろうか。


「‥‥?」
 あー、という歩の悲しい声を、ユーディーはそれを猫の声と勘違いしたようだ。
「んー。いわゆるーピンチですね〜」
 会場にユーディーの姿を見つけて合流したリュウナ・セルフィン(gb4746)が間延びした声で何か言う。
「リュウナ様?」
「や、言ってみたかっただけなり、深い意味は全く無いのら」
 東青 龍牙(gb5019)が首を傾げ、微笑んでリュウナは他意のないことを告げる。
「リュウナ、服‥‥可愛い」
「これ、龍ちゃんが選んでくれたなり! 似合うなりか?」
 似合うわ、とユーディーが頷くと花のような笑みを向けたリュウナ。青いチャイナドレス姿の龍牙もまた素敵な装い。
「あ‥‥西島君は?」
 あそこですよ、と龍牙が視線を向ける。トラ柄の背広に身を包んだ西島 百白(ga2123)が、不機嫌そうな顔をしていた。
「パーティーの時ぐらい‥‥静かに出来ないのか‥‥貴様ら」
 その百白はタバスコを飲み物の中に入れようとする輩を見つけ、迅速に近づき背負い投げで倒している。
 不届き者と一緒にいたラナは、素早く退散。ヒットアウェイ。
「おー、百白、強いなり!」
 ぱちぱちと拍手を贈るリュウナに気づいたのだろう。こちらをちらと見た後、百白は顔をついと背けてまた会場内を彷徨っている。

「よかった‥‥盛況みたいだね」
 丁度会場へと入ってきた無月は、近くにいたユーディーに挨拶と言葉を交わし、彼女もまた『そうね』と軽く応じる。
 戦闘用の服を着ている彼に、服は借りずに大丈夫なのかと尋ねれば、無月はこの後すぐに依頼があるから問題ない。お気遣いありがとうと返した。
「熱心なのね」
「仕事だからだよ」
 そうして、会場内の料理を見渡す。彼が渡したレシピは忠実に再現されているようだが、とりあえずコックを労っておきたい。

 同じく、会場内を縦横無尽にさまよう娘子が一人。
「‥‥ん。食べ放題に。来た。思う。存分。食べさせて。貰う」
 無表情ながらもその目には食べ物に対する喜びの輝きが溢れている最上 憐 (gb0002)である。
 リア充やら非モテやら、そんな話はどうでもいい。ただ食べて食べて食べまくるために彼女はここに足を運んだのだ。
 食べることは愛。食べることは祝福――と思っているかはさておき、オレンジソースのチキンをもっきゅもっきゅと食べている。
 食べ終えると、すぐまた別の料理に手を出していた。

(来るまでは戦争だー! とか思っていたんだがなぁ‥‥)
 かちゃ、と皿の上のローストビーフをフォークで突付きながら秋月 愁矢(gc1971)が会場内で仲良く寄り添っているカップルを横目で見る。
「今はもう、ゆっくりご飯食べるカー、的な気分だ‥‥」
 いつかは俺もああなりたい。いや、なるはずだと思いながら。
 クリスマスに鬱鬱とした気分でいるのもなんだし、少しお酒を戴きつつも気分だけは陽気になろうかな?
 愁矢はワインを受け取ると軽く傾け、突付いていたローストビーフを口に入れた。

 同じく。食べ物にかけては負けていない娘子がもう一人。

「あなたも物好きですね‥‥私でなくても他にいるでしょうに」
 ドレス姿のシャーリィ・アッシュ(gb1884)が、パーティへと誘った張本人、周太郎(gb5584)の顔を見上げて呆れたような声をあげた。
「すまんな、誘いを受けて貰って‥‥でも、一緒にクリスマスを過ごして貰う約束だったろ?」
 おかげで一人寂しく過ごさなくてよかった、なんて微笑まれれば、シャーリィもそれ以上続ける気が失せたらしく肩をすくめた後、手を周太郎へと差し出す。
「今日はエスコート‥‥お願いしますね?」
 白いタキシード姿の周太郎は、目を細めて恭しく礼をした後、その手を取る。
「では、エスコートはお任せを‥‥お姫様」
 ドレス姿、よく似合っているよと褒めた周太郎。何を言ってるんですかと頬を赤らめたシャーリィは、軽く視線を逸らして――美味しそうな食べ物を発見する。
 適当な量を皿に取ると、会話の切れ目や邪魔にならない間を縫って目にも留まらぬ速さで口に放り込んでいく。
 見慣れている周太郎は『相変わらず良く食べるな』と、かえって食欲をそそられたらしい。
「周太郎さんもいかがですか?」
「ん? じゃ、俺も貰おうかな、それ」
 ついでにお酒も勧められて、弱いんだよなと零しつつも結構楽しんでいるご様子。


「ふふ‥‥なんだか面白そうなことが起きる気がしているんですよ」
 ソウマ(gc0505)は会場内を見渡しながら、彼の表情‥‥頬は微かに緩んでいた。
 漆黒のタキシードに黒猫の猫耳と尻尾を着用したソウマ。正装のはずなのに尻尾と猫耳がその雰囲気を崩しているが、本人も周りも気にしていない。
 料理を嗜み、その味を評論家のように褒めちぎる。
「‥‥口にあうなら良かった」
 近くで聞いていたようだ。料理を褒められて微笑を返す無月。手にはなんかぐったりした非モテが掴まれていた。
「ごゆっくり‥‥」
 会釈し、ずるずると非モテを引きずって去っていく無月を見ながら、大変そうだなあとケーキを口にしたソウマ。
 食べていると知り合いの姿を発見したのでそちらのほうへと向かっていった。


 シアンは一体どの辺に居るのだろう。
 パール系ピンクのドレスの裾が揺れ、リゼット・ランドルフ(ga5171)がそわそわしながら探してみるが、ざっと見た限りではよく分からない。
(帰ってきているなら連絡くらいくれても‥‥いいじゃないですか‥‥)
 事情を知らされていないリゼットの心に影がさす。
 が、リゼットが寂しそうにしているのに気がついた神撫(gb0167)がケーキを取ってから歩み寄ろうとした時の事である。
 リゼットの後ろで、変な‥‥男二人がひそひそ話を行っていた。
「ま、奥さん聞きました? シアン大尉、彼女さんが他の男と来てるから落ち込んでますのよ」
「んま!」
 どう見ても彼女の後ろで噂話をしているのはTE。『奥さん井戸端会議作戦』で精神的ダメージを与える算段のようだ。ちなみに、シアンは彼女が来ていることを知らない。
 その攻撃の的はリゼットにも向けられていた。
 しかし予想以上の効果を与えてしまったらしい。リゼットは大いにショックを受けたようで、ごめんなさいと泣きながら入口に向かって走っていってしまう。
 もっとびっくりしたのは言い出した本人たちである。わたわたとリゼットを追おうとしたのだが、神撫にギロリと一瞥を加えられ、色を失う。
 前もロクに見ず走っていた彼女は思い切り誰かにぶつかって、ごめんなさいと謝罪しつつ見上げると――
「どうした‥‥? 何故泣いている?」
「‥‥シアンさん‥‥!」
 ごめんなさいといきなり謝られてもっと泣かれてしまうと、シアンとて事情が分からずリゼットを見つめるばかりである。
 リゼットを追いかけてきてくれた神撫は、合流した二人に良かったと言って。
 うちの姫様を苛めたんだよ、と、先程の二人を肩越しに顎で指す。途端、シアンの眼が冷たく細められた。
 リゼットにハンカチを渡すと、ユーディーを呼んで『落ち着くまで頼む』と彼女の側についていて貰い、シアンと神撫はポキポキ指を鳴らしながら駆除に向かう。
「‥‥さて。君らは全面か半面か選ぶといい」
「えと。なん、ですか、それ」
「決まっている。殺し方だ」
 怖い事を言いながら近づくドS軍人としっ闘神。己の所業を心底反省し震えあがるTEの二人。


「なにやら騒がしいですけど、気にせず楽しみましょうか」
 ギャーとかワーとか悲鳴が聞こえる中、緑(gc0562)とラナ・ヴェクサー(gc1748)が仲良く会場へと入ってきた。
 こうして二人で共に過ごす‥‥記念のクリスマスだ。
「パーティーという事なので‥‥」
 ラナは緑の手をそっと離し、彼の前へと進みでてくるりと回ってみる。
「こういうドレスは初めて着ましたが‥‥どうでしょうかね?」
 どれどれ、よく見せてもらおうかという方のために解説すると、ラナのドレスは明るめの黄色を基調としており、左胸には白いユリの花の装飾がある。
 荒事にも対応できるようにという考慮から選ばれたドレスには深くスリットが開いており、つまりは太ももがチラチラする。グッド。
「おぉ‥‥!! すごく似合ってると思います、素敵ですよ!」
 ちょっと顔を赤らめて熱っぽく褒める。言葉と一緒に緑の頭も縦に動いている。
 この会場のセットは手作りらしいと聞いて、そういえば、あたたかい雰囲気もある。すごいですねと素直に感嘆する二人。
 ウェイターが運んでいるシャンパンを受け取り、ラナにも勧める緑。
「ラナも飲みませんか? ほら、せっかくのパーティですし」
「えっ、でも私‥‥」
 たまにはどうです、と勧められてはラナも断りきれない。あまり飲まないようにしようと思いながらもそっとグラスを傾けた。
「‥‥これ、甘くて飲みやすいですね」
「ええ。良いシャンパンなんでしょうかね〜」
 ラナ、飲みやすいシャンパンは危ないぞ。さて、この二人の様子はあとで見てみるとして‥‥

(‥‥総帥はどこだろう)
 市川良一(gc3644)は会場をそれとなく探してみたが、総帥の姿が見えない。
 それならそれで、自分はおとなしく料理を食していられるというものだ。
 男一人ではあまりこういう豪華かつ可愛らしい料理やデザートは食べない。故にどんな味がするのかという興味があった。
 新しく運ばれる料理に目をつけ、良一はそれを取りに向かおうと豪華な絵が書かれたアクリル板の向こうへと一歩進んだ時だった。

 べちゃ。

 良一の顔めがけ、水風船が飛んできて破裂した。
「ぬおっ!?」
 染みる。悶絶する良一を見ながら『リア充爆破ー!』という間違った声。
 その瞬間、ぶつんと切れる良一の何か。
「うぅおお!! テメエるぁぁあ!!」
 野獣のような雄叫びを上げて、おもちゃの矢を装備するとTEに向って撃ち始める。
 そのうちの一本が、座っていた美雲の胸部にぺたんと吸盤で貼りつく。
「‥‥あ。もうあげなくちゃいけない時間です?」
 まだ眠いせいか? 何かと勘違いしたらしい美雲がするりと脱ぎだそうとするところへ、ガルが慌てて駆けつける。
「待て待て! どうせ脱ぐなら俺にも見せ――」
「どさくさ厳禁!」
 ズビシ、とララのチョップを食らって昏倒するガル。上着を美雲に被せて、安堵の息をつく。
 ありがとうララ。平和は守られた。 


(二人で‥‥楽しむ、筈だったんだが‥‥)
 カコッ、と松葉杖が床を叩く。
「大丈夫ですかウラキさん? 今日は私が全部面倒みますからっ」
 頭に包帯を巻いたウラキ(gb4922)がクラリア・レスタント(gb4258)にそっと支えられつつ会場へとやってきた。
 クラリアの天使のような微笑。綺麗なその笑顔に、ちくりとウラキの胸は痛む。
(こういう時に限って怪我とは‥‥彼女には悪い事をした‥‥)
 だが、闘うわけではないのだ。怪我もすぐに良くなる。
 クラリアに悪いねと謝罪して近くの‥‥妙に座席同士が離れているソファに腰を下ろす。
 傷に障らぬよう酒ではなくソフトドリンクと料理を手に戻ってきた彼女はちょこんと肘掛けの部分に座った。愛、無敵。
 ウラキはありがとうと言ってからまっすぐに彼女を見る。
「ん。お世辞じゃなく本当に‥‥綺麗、だ」
「ありがとうございます‥‥そう言ってもらえて‥‥すごく嬉しいです」
 赤くなった彼女は、照れながらもウラキへ『あーん』をしてあげる。
「て、手は動くから自分で食べ‥‥食べられるぞ‥‥?」
 ワタワタと慌てるウラキ。だが、クラリアからは『甘えてもいいって言ったじゃないですか』と返される。
 恥ずかしがりながらも甘んじて『あーん』された食べ物を口にし――黙っていられなくなった非モテが甘い雰囲気をぶち壊しにやってきた!
「イチャラブしやがって! ケーキより俺の鉄拳でも食らうがええわ!!」
 号泣しながらも拳を握る非モテズ。
「くっ、妙なのに絡まれたが‥‥僕とて傭兵。負けはしな――」
 勢い良く立ち上がったところで、ぐき。という鈍い音。思わず包帯を巻いている方の足を勢い良く床についてしまったらしい。
「‥‥二人の時間の、邪魔をするな!!」
 紅に染まるクラリアの瞳。覚醒し、非モテに一切の容赦ないグーパンを浴びせた。
「ふう‥‥能力者じゃなけりゃ、即死だったぜ」
 殴られた非モテも能力者だった。だが、格好付けても仲間を巻き添えにして吹き飛ぶ。
「だ、大丈夫ですか? ウラキさん‥‥」
 一昨日来やがれとばかりに睨みつけてから、クラリアは再びウラキの介抱をしはじめた。

「にゃ? しっとだん? にゅ? りあじゅう? なんなり?」
 ケーキを食べつつ、リュウナが会場を賑わせている不埒な輩の事を龍牙へ尋ねる。
 その横を雄叫びをあげつつ良一が駆け抜けていった。
「ええと‥‥寂しくなっちゃった人々の合言葉‥‥みたいなもの、でしょうか‥‥」
 嘘は吐いていないが本当のことでもない。適当にはぐらかしつつ、安全そうなところまで移動する。
 ソウマが覚えた大道芸を披露し、拍手を送るユーディーを見つけて手を振り、気づいた彼女もこちらへとやってきた。
「ユーディーさん、楽しんでますか♪」
 龍牙がにっこりと微笑んで尋ねるのだが、ユーディーは先程からシアンのせいで楽しめていない。
「もう用事は終わったのでしたら、一緒に過ごしましょう♪」
 ありがとうと受け取ったところで、『こちらに〜いたのですねー』と穏やかな声がかかる。
「先ほどお取り込み中だったようなのでー、声をかけそびれました〜」
 タキシードをビシッとキメたラルス・フェルセン(ga5133)が、いつものほわんとした雰囲気でユーディー、リュウナ、龍牙に挨拶する。
「メリークリスマスです〜。ドレス、よくお似合いーですよ〜」
「ラルスも。よく似合ってる」
 おや、と大仰に驚いてから『お褒めいただきー、ありがとうー、ございます〜。しかしこういう格好はー、妹の結婚式、以来でしょうかね〜』と視線を自分の体に落とす。
「ひゃくしろ帰ってこないから龍ちゃん、あーん、なり」
「はい♪」
 と、仲良くケーキを食べている二人の話題にあがる百白は、ぴこハンを持ってまだ狩りをしている最中だ。

「もぐもぐ‥‥なんだか凄い事になっちゃいました」
 容器を抱えるようにしながらドレッシングたっぷりのサラダを食している天原 慎吾(gc1445)は、会場のあちこちで起こっている『何か』にちょっと不安を覚える。
 嫉妬という黒いものをよく知らない清い男子、慎吾。そのまま大きく育って欲しいと願うところだが、サラダばっかりじゃなくて肉も食べなさい。
 しかし、割とよく食べ続けていたようだ。お腹が満足したらしく、眠くなりそうな目を擦っている。


(‥‥とりあえず皆が楽しく過ごせければそれで良いっちゃ良いんだけど――)
 黒く艶のある髪を後頭部でシニョンで纏め上げ、デコルテ部分は煽情的に開けてあるライトブルーのパーティドレス姿の樹・籐子(gc0214)の細い跳ね眉が、ぴんと上にあがる。
 視線の先には、紅を基調としたゴスロリドレスのティリス。一人でいるのだろうか。その装いも、ちょっと浮いている。
(――ついでに可愛い子を侍らせたら、最高の時をすごせるのよねー♪)
 にま、と柔らかそうな口元を上げてから、ティリスに近づいていく籐子。
「なのでー、そこの彼女ーぅ。お姉ちゃんと一緒に遊ばない?」
 どーして私が女の子と遊ぶの? と、女性には冷たいと定評のあるティリスがじろりと警戒の色も示して籐子を見つめる。
「あははー。顔見知りも適当に居るのだけれど、どうやらしっととか色々ドンちゃん騒ぎをしたいみたいなのよねー」
 だが、籐子もそれには動じず自分から名乗って話題を振ったり、反応を窺っていた。
「私が可愛いのはわかってるコトだけどっ」
 他の子と遊べばいいじゃない――と言うティリス。男性と話すときの調子の良さはどこへやら。ツンもいいところである。
「あらぁ、だったらティリスちゃんがもうちょっと愛想良くしてくれたら、お姉ちゃんとしてはすっごい嬉しいんだけど。その辺はどうかしらね?」
「‥‥人の話、聞いてる?」
 ニコニコと応じてくれる優しい美女籐子だが、ティリス的に何か‥‥言いようのない身の危険を感じる。
「ちょっと用事っ。また今度っ!」
 と、籐子の返事も聞かずに脱兎の如く逃げる。
「あらあら‥‥ま。後で捕まえればイイか♪」
 とか考えている籐子の事も露知らず、撒いたと思って会場の片隅でゼーハー息を切らせるティリス。

「あ。やっぱり居たな。‥‥よ、ティリス。メリークリスマス」
 宵藍(gb4961)が中華テイストのスーツでキメてきた。格好はいいが、じっとティリスは見つめている。
「‥‥学芸会みたいだと思ったな?」
 あ、いえ、滅相もない‥‥と苦笑いするティリス。
 ティリスは今日幸いにもハイヒールではないので、さほど身長に大きな差は‥‥ない。
「えーと、メ、メリークリスマスです。あれ、誰かとご一緒なんですかぁ?」
「一緒に楽しむ相手がいるわけじゃないけどな。何となく来た、ってとこ」
 苦笑しつつ宵藍は、こうしてティリスがちやほやされそうなところに居たのは予想通りだと告げれば、
「むー、意地悪。私に会いに来てくれたわけじゃ、ないんですねぇ」
 ぽかぽかっ、と本当に軽く宵藍の腕を叩き、彼女は小さく頬を膨らませた。
「ま、じゃあそういう事にしとくか。お互い同伴者が居ないなら、一緒に楽しもう」
「はいっ」
 宵藍の誘いに喜んで応じるティリス。
 そんな彼女の喜ぶ顔を見たあと、レディへのサービスとして飲み物や料理を取ってやったりと気を配ってくれる宵藍。
――ただ、そうしなければティリスは動かないような気がしたからである。
 しかし、やはり気づかないティリスは『お優しいですねぇ』と言ってくれるのだが。

「‥‥ん。何やら。周りが。騒がしいけど。気にしない。ソレと。コレ。おかわりを。要求する」
「まだ食べるんですか!?」
 料理を運んできたそばからほとんど無くなるという珍事にコックさんが仰天するのも無理は無いのだが、憐には当たり前のことである。
「‥‥ん。とりあえず。食べる。だから。その前から。おかわりを。要求する。直ぐ。無くなると。思うかな」
 言いながらもひょいパクと口に運んでいく憐。しかし、その彼女の前に吹き飛ばされてきた非モテが突っ込んできた。

 憐が宙を舞う料理を『‥‥あ』と言いながら見る。
 落ちちゃう。
 が、瞬天速でやってきたソウマがそれをナイスにキャッチし、料理は無事にテーブルへと置かれた。
「ふう。ちょっと焦りましたが、料理も貴女も無事でよかったですね」
 にっこりと微笑んだソウマだが、憐の耳には入っていない。彼女の視線は突っ込んできた非モテに向けられているからだ。
「‥‥ん。食べ物を。粗末にしたね。‥‥私を。怒らせたね。全力で。お仕置きさせて。貰う」
 ソウマがキャッチしてくれたから良いものを、そうなっていなければ憐の怒りは天をも轟かせるほどであっただろう。
「お願いやめて! わー!」
「‥‥ん。私を。止めたければ。最低でも。超大盛りカレー。100人前は。必要だよ」
 胃袋的にムチャな要求である。またふたつ、悲鳴が会場内に響き渡る。
 僕のせいじゃないと思いたい、かな。と苦笑するソウマ。
「プロレスとかなのかなぁ‥‥」
 目の前の特設リングでは、殺意に目覚めた憐がお仕置きというか公開処刑というか、料理の恨みをはらさんとばかりに立ち回っているのだ。
 慎吾は微かな恐怖を感じながらも、デザートのケーキに手を伸ばした。

(余興としたわけじゃないんだけど‥‥ま、いいか)
 予想外の拍手に若干戸惑った愁矢だが、軽く会釈をして離れる。
 彼のヴァイオリンや宵藍の二胡での演奏が披露されたこともあり、会場内もまったりとした雰囲気に包まれる。
 先程のリングでの決戦も、どうやら憐の圧勝だったようだ。彼女は再び料理巡りに戻って行く。

「私は‥‥緑君のぉ、きゃのじょとしてちゃんとできているのでしょーかねぇ‥‥」
 先ほどお酒を勧められていたラナが、やっぱりというか計画通りというのか『出来上がって』いる。
 酔いのせいで眼がとろーんとしているラナの頭をそっと撫でてあげながら『出来ているに決まってますよ』と微笑む緑。
「俺はラナと付き合い初めてから毎日がとても充実してるんですよ?」
「緑君〜‥‥私もれすよぉ‥‥」
 と、見つめ合う二人。

 して――会場を離れ、同じように良い雰囲気になっているウラキとクラリアのカップルがある。

 あまりに煩いので会場から退散したのだろう。ようやく静かに会話ができる。
「少し慌ただしくもあったけど、とっても楽しかったです」
 こうして、貴方との思い出ももっと増やしていけたら――‥‥そう呟いたクラリア。
 お互いの視線が交差したところで――あ、というウラキの声。
「少し包帯が緩んだ気がする‥‥見て貰っても‥‥?」
 はい、と了承したクラリアがそっと背伸びして顔を寄せた所。そっとウラキの唇が、彼女のそれに重なった。
 若干驚いた顔のクラリアに、サプライズと感謝の気持ちを込めて、とはにかむ。
「今日は‥‥本当にありがとう。‥‥さ、家に帰ろうか」

 というカップルもいれば、こちらの男は、眉間に皺を寄せていた。

「‥‥リゼット」
「ふぁい」
 真っ赤な顔をして、シアンにしがみついたままのリゼット。落ち着いた直からドリンクと間違えてアルコールを口にしたらしい。
 そのせいで酔いが回ったのだろう、というのは彼の考察である。神撫はそっと席を外してくれたようで、側にいない。
「神撫君にこうしなかったのは良かったというか‥‥」
 やれやれとその身体を抱きしめて、シアンは気づいたことがある。もう一度、ぎゅっとしてみる。
(‥‥少し、痩せたか?)
 気のせいと言われればそれまでなのだが。
 傭兵という仕事も楽ではないのは承知している。
「シアンしゃん‥‥よかった、クリスマスにシアンしゃん、いてくれる‥‥」
 それ以外に‥‥彼女も年頃の女性だ。悩みがあったりしたのではないだろうか?
 淋しかった、とか。辛い、とか。一緒にいたい、とすら彼女は一度も――言わない。否、恐らくワガママだからと言えなかったのだ。
 ようやく言った事がそれ。切ない表情に、シアンはリゼットを愛おしく思いつつも強く抱きしめる。
「ああ。時間の許す限り、いる」
「うん。いっぱい、お話ししてくださいね」
 シアンはそれに優しく笑うと『Nollaig Shona』なんて言って彼女へ口づけを落とそうとするのだが――

「そこまでにゃー大尉! ユキタケ君を葬り去っておいて自分だけ桃色とは、このしっと団総帥が許さないのにゃー!」

 ブシャー! と仕掛けのスモークが突然噴射し、天井から吊られたゴンドラで白虎が降りてきた。
「たまには粛清を受け取れにゃー、このメリー苦しみますをー!」
 エノコロを構え、突撃してくる白虎‥‥と、TEの残党。
「ユキタケではなく、君を捕らえておくべきだったか‥‥!」
 軽く構えてシアンはリゼットを後ろに隠そうとしたのだが、その手は空を切る。
 ゆらり、とリゼットはシアンのやや前に立っていた。
「危な――」「私‥‥、‥‥ら」
 ぼそりと呟いた声は聞き取れなかったが、次にリゼットは大きな声で叫んだ。
「私とシアンしゃんの邪魔はダメっ! ぎゅーって、いっぱいしてもらってるんですからっ!」
 その乙女ムンムンなセリフに、TEが崩れ落ちた。
「やああっ! 甘いのらめえ!」
「む。探したぜ総帥‥‥とりあえずテメエらは拘束だ」
 弱点、甘い言葉。悶絶するTEを、白虎を探し回っていた良一と手伝いに来たソウマが素早く縛り上げる。
 危機を察知したらしい神撫も到着したが、床に転がるTEと、立ちすくむ白虎を見つめ困ったような顔をする。
「相変わらずか‥‥そろそろネタが切れてきたんじゃないか?」
「何を言う、しっとは次々と無限の可能性を秘めているのだ! 手を変え品を変え、お前らに牙を向くんだっ」
 TEの一人が言えば、神撫は彼らの前にしゃがみ込んで『ていうか総帥をどうにかしたらいいんじゃないのか? 内部離反筆頭だぞ』と吹き込んだ。
 なにっ、とTEのギラついた視線が白虎へと投げられる。そう、来る者は拒まないが去る者は決して許さない。それが彼らのジャスティス。
 矛先を向けられた白虎は、リゼットと神撫、シアンを見てたじろいだ。
「くっ、流石大尉とその仲間‥‥強敵っ‥‥」
 白虎はエノコロをぎゅっと握ったが、こうなっては彼もあとには引けない。
「大人しくしろ、白虎。今ならお咎め程度で事は終わる」
「いいや、責任者とは‥‥責任を取るために或るのだーー!!」
 では全ての騒動の責任を取るがいい! 大人げない軍人も迎え撃つ――が。
「‥‥他所でやれ」
 白虎とシアン目がけ、サンタ姿の百白が投げたナイフやフォークが襲いかかってくる!
 二人の間を通り、たん、たん。と壁に突き刺さる。
 場を一手で収束した百白は『衣装‥‥間違えた‥‥』と言いながら外へと出て行った。

●shall me Dance?

 争いも収まり、場は和みの空気。ダンスでもと言う話になり、シャーリィが周太郎の手をとって中央まで進む。
「リードは任せてください。こういう場での作法や踊り方などは幼い頃から仕込まれていますから」
 なんとも頼もしいシャーリィ。
「うん。本来はこちらがすることだけど、頼む‥‥で。だ」
 と、内緒で用意していたクリスマスの意を持つリングを彼女へと渡す周太郎。
「Nadolig Llawen、Pen−blwydd Hapus、シャーリィ‥‥誕生日は、少し遅れたが‥‥」
 誕生日おめでとうと言われて一瞬目を丸くしたシャーリィは、綺麗に微笑んだ後それを受け取る。
「Diolch yn fawr‥‥Ac Nadolig Llawen i chi」
 呼び捨てにされたことを咎めるわけでもなく、意地悪く微笑んでから同じくありがとう、メリークリスマスと返した。

 会場でもあちらこちらでダンスに参加する人々の姿が。

 ユーディーもラルスに誘われたので分からないながらもその手を取った。
 ダンスは久々と言うが、そのリードも上手である。
 お上手ですよと微笑みながら、彼女のショールに目を細めて。
「先程もー、思っていましたが‥‥やはりー紫が、映えますね〜。使って頂きー、ありがとうございます〜」
「こちらこそ。嬉しかった‥‥ありがとう」
 後で差し上げたいものがあります、というラルスに、ユーディーもこくりと頷いた。

 リュウナが一人になってしまうので諦めていたのだが、リュウナのほうが気を使ったのか単にお菓子が食べたいのか。
『龍ちゃんはダンスしてくるなり。リュウナは食べ物へ全力で進軍して来るにゃー!』
 憐が美味しそうに食べている姿に触発されたのか、リュウナは食べ物の山を切り崩しに行った。
「あまり遠くに行かないでくださいね!」
 と心配しつつ気持ちをありがたく受け取る。
(‥‥西島さん、どこ行ってしまったんでしょう)
 龍牙が会場内を探す。できれば、百白と一緒にダンスがしたかったのだ。
 いくら探しても見当たらないので外に出てみれば、サンタ服姿で厳しい顔をしていた百白の姿があった。
「西島さん‥‥具合悪いんですか?」
「‥‥なんでも、ない‥‥」
 旧い記憶が、彼を苛んでいたのだが、龍牙が来てくれたことによって、その痛みは緩和されたらしい。
 厳しかった顔も通常通りの無表情になり、どうしたと龍牙に聞いた。
「あの‥‥、私とダンスをして欲しいと思いまして‥‥!」
「ダンス‥‥」
 わかった、とも言わず無言で立ち上がる百白は、龍牙の脇をすり抜けて会場へと入っていく。
「‥‥西島、さん?」
 ちらと振り返った彼の顔。そこに了承をとった龍牙は、嬉しそうに彼のあとに着いて入る。

「踊らないのか?」
 シアンがそう尋ねれば、神撫はシャンパンを渡しながら『お姫様とダンスを踊るのは王子の仕事』と笑う。
 そのお姫様は、幸せそうな顔をしてシアンの腕の中にいた。
「リゼット。踊ろうか?」
「んー‥‥もうちょっと、このまま‥‥」
 だそうだ、とシアンと神撫は顔を見合わせ、シアンはありがとうと口にする。
「君にも任せっきりだったな。今日は借りを作ってばかりだ」
「仲良くやってもらいたいからさ。貸しとは思ってない」
 良い人だな、君は。そうシアンは呟いてから、俺と踊るか? と冗談ぽく聞く。
「勘弁してくれ。男の顔を見上げて踊る趣味はない」
 辟易した顔の神撫。それがおかしかったのか、シアンも『俺もだ』と笑った。

「ティリスちゃん見つけたっ♪ うちで飲み直しましょ?」
「い、ちょ、私、踊りたい人が――」
「ウチで踊らせてあげるわよっ!」
 なんというイケナイ雰囲気。籐子がしたり顔でティリスを連れ去って行く。
 まあ、その後は報告官も知るところではないのだが‥‥再び逃げ切れたかどうかは想像におまかせしよう。

 パーティの帰り道、普段着へと着替えた緑とラナ。
 抱きつこうと駆け寄るラナの前へ、緑がそっとプレゼントを差し出した。
「まあたいした物ではありませんが‥‥」
 プラチナのリングを受け取ったラナ。まあ、と嬉しさと驚きの声をあげて、先ほど騒がしくて渡しそびれた包装した小箱を渡す。
 緑が受け取った瞬間、ラナは嬉しそうに彼へ抱きついて、素早く彼にキスをすると離れる。
「‥‥今日の、お礼‥‥です」
「あ‥‥っと、参ったな。嬉しいけど照れますよ」
 平常心を保とうと試みた緑の顔はみるみるうちに赤く染まったが、暗かったため、顔色までははっきり分からなかっただろう。
 
 パーティはいろいろあったものの、楽しく賑やかだったという。

 余談だが。

「‥‥メリークリスマス、ユキタケさん」
「ああ。佐渡川さん。ここもいいところですよ‥‥嫉妬する相手いないし」
 すっかり穏やかになったユキタケは朗らかに笑う。
「この筆で、リア充に落書きしてやりました‥‥」
「いい筆じゃないですか‥‥リア充の涙が染み込んだ筆、きっといい書き味ですよ」
「要らないので差し上げます」
「そんな筆使いたくないので遠慮します」

 ユキタケと歩も、出張所の小さい部屋で二人仲良く過ごしたらしい。