●リプレイ本文
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「依頼人と楽しく遊びに行く‥‥平和的な依頼でゲスな♪」
夏子(
gc3500)が依頼の内容を読み上げる。
これって依頼なのか? と頭に疑問符を浮かべた九道 麻姫(
gc4661)であったが、思い切り遊ぼう、と既にやる気満々の様子である。
「はじめまして‥‥安原小鳥と言います‥‥」
嬢様、といった風格を持つ安原 小鳥(
gc4826)がよろしくお願いしますと頭を下げて挨拶をするも、
「私、ティリス。よろしく」
お行儀どころか礼儀の欠片も感じられぬティリスの返答。
「あ。ティリスさん‥‥お久しぶり‥‥」
キメラの退治ではないから楽しくやろうね、と幡多野 克(
ga0444)が言えば、
先程の返答は何だったのかと疑いたくなるような笑顔で愛想を振りまくティリス。
行動を見ていればこんな依頼の理由が分かるだろうか? 彼女の横顔を見つめながら蓮樹風詠(
gc4585)はふと思う。
「まだ輪島さんが来ていないようだけど‥‥」
だが、その思考は途中で和泉 恭也(
gc3978)の声に中断させられた。
時間にはまだ余裕があるが――
「皆様ーー!!」
と、皆の前方から声がする。
ピッチピチの全身タイツに、着ぐるみのウサギ頭。長い耳をなびかせつつ、此方へ向かって全力疾走‥‥してくるガッチリムチムチな、男。
「わー!? 遊園地のマスコット!?」
セラ(
gc2672)が謎の変た‥‥いや、形容しがたいものを指で示すが、ジョシュア・キルストン(
gc4215)が『しっ、見ちゃだめだ』とセラをそっと後ろに隠す。
「キャァァア!? なんか、あのウサギこっち来ますよ!? キメラですか!?」
「知らな‥‥つーかティリス、首絞め‥‥っ!」
恐怖に慄いたティリスは、宵藍(
gb4961)(の首)にしっかりとしがみ付きながら後ずさる。
締めあげられている宵藍は奇妙なウサギを睨みつつ、ティリスの手をばしばしと叩いた。
目の前で立ち止まった(便宜上)ウサギ。麻姫が『なんだよ、あんた!』とぶっきらぼうに訊ねると、ウサギは『おお』と両手を肩まで上げて妙にノリのよいリアクションで返す。
「申し遅れました。私、輪島 貞夫(
gc3137)です。ティリス様と以前お会いした時、怖いといわれたのでかわいい着ぐるみにしたつもりだったのですが」
と、自身の頭と体を指してみる貞夫。
全体的にマズいんじゃないかな。とジョシュアは思ったが、この気まずい空間を切りあげるため、時計を見て告げた。
「よし、皆集まったし、行くとしましょうか!」
「あ、はい。そうしましょう」
空気を感じ取った恭也もそう後に続き、皆は揃って入場するのだった。
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中へ入ると、大小様々なアトラクションが目につく。
「さぁさ、お嬢様方。今日は楽しんでいってくださいねぇ〜♪」
両手を広げた後、恭しく一礼するジョシュア。
小鳥は『どこへ‥‥参りましょうか?』とティリスに希望を訊ねた。
「ジェットコースターが大好き」
聞いた瞬間、小鳥の顔色がさぁっと青く変わったような気がした。が、笑顔の令嬢はその乗りモノは苦手だと言わず、健気にもこくりと頷いた。
その後方では、夏子がソワソワしながら色々な方向を見ていた。
(何気に夏子、遊園地に行くのは初めてでゲスな‥‥)
なんと、遊園地デビュー! 記念すべき日!
それなのに、ティリスが楽しむために来たのだから、自分がそれ以上に楽しんでは――! と、いじらしくもある心境で夏子はこみ上げるワクワク感を密かに押し隠している。
加えて自分で操作できない乗りモノは苦手な様子。
風詠は施設MAPを見、『ジェットコースターの乗り場はこちらですね』と先導してくれるようだ。
聞くなら今かもしれないと風詠は、やんわり訊ねる。
「‥‥そういえばティリスさん。なぜこの依頼を?」
歩速を落とし、彼女に聞こえる程度の声で問いかけた。
「親しい人がいないので‥‥」
遊びたかっと漏らすティリス。口を開いた風詠だが、セラがにっこりとしながら二人の側にやってきた。
「ジェットコースター‥‥セラ、のれるといいな!」
向日葵みたいな笑顔を浮かべたセラは跳ねるような軽い足取りで並んだが、乗り場についてみると‥‥身長制限注意の看板があった。
「えっ!? セラのれないの?」
「セラさんは、夏子と一緒に待つでゲスねー。元気な子たち、いってらっしゃいでゲスー!」
目に見えて残念そうなセラ。どこかホッとしたような雰囲気がある夏子が、皆を送り出す。風詠はその間、皆の荷物を預かって一か所にまとめる。
一番前に座りたいと所望するティリスの隣に震える小鳥が座り、意気揚々とその後ろでは麻姫が出発を待っている。
「ははは! ジェットコースターなんて久しぶりだ‥‥ぜ?!」
隣に貞夫がやってきたのだが、席に座らず仁王立ちで胸筋をアピールするかのようなマッチョポーズをしたままだ。
「この輪島の鍛え抜いた筋肉、豪速などには負けませぬ!」
と言っていたのだが、安全措置のため無理やり座らされる事となった。
ゆっくりと恐怖の坂を上り、急降下と同時に加速をつけて走るコースター。
「‥‥ッーーー!!」
ぎゅっと目をつぶって恐怖に耐える小鳥。その横と後ろはなんだかキャッキャと盛り上がっていた。
「お〜い、お嬢さん楽しんでるか〜?」
という麻姫の問いに『私コースター大好きー!』と返したティリス。実に楽しそうだ。
ジョシュアも一緒になって騒いでくれている。
(普段からKVに乗ってる傭兵向けの乗り物ではなさそうですね‥‥)
面白くないわけではないが、実に冷静な顔で恭也は思う。
一度乗り終わってもティリスは『また乗りたい!』と克と宵藍の腕をとり、ずんずんと順番に並びに行く。
克、どうやらコレが嫌いではないらしい。『あのスピード‥‥楽しいよね』なんて珍しく楽しそうな表情をして言っている。
しかし、ティリスはそれに輪をかけてコースター好きだった。
3回目。宵藍の表情はだんだん変らなくなってきた。
「宵藍さん? あの。楽しくない‥‥?」
顔を覗きこむように見つめてくるティリス。
「‥‥タノシイ、ぞ」
無表情かつ抑揚のない‥‥つまり棒読みのまま宵藍は答え、それでも付き合ってくれている。なんという涙ぐましい話だろうか。
それから2回乗った後。ようやく克と宵藍は解放され、ティリスは満足げに帰って来たのだった。
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「次は遊園地の定番、お化け屋敷‥‥あえて意表をつかれ、不慮の事態を楽しむ空間‥‥でゲスな? それは楽しみでゲスー♪」
「ま、まぁ‥‥良いんじゃねぇか? そういうのもな‥‥」
夏子の調子とは裏腹に、お化け屋敷が苦手な麻姫。若干ぎこちない。
いざ入ろうという段階。克や麻姫が意を決して――というときに。鎌を持った黒ずくめの人? がヌッと現れた。
ティリス達を振り返るその貌は‥‥髑髏!!
「――っ…ぃ、いやああ!!!」
青ざめた麻姫と悲鳴を発した小鳥に抱きつかれるジョシュア。
麻姫にサバ折られ、うっかり抱きついてしまった事に驚いてグーパンでジョシュアを殴る小鳥。
なんだか分からない声を上げながらも彼は真上に吹っ飛び、ドシャッと頭から地に落ちた。彼も能力者。大丈夫だ、問題ない。
「あっ‥‥ジョシュ様!! も、申し訳ございません‥‥!」
慌てて駆け寄る小鳥。入る前だというのに、ジョシュアも災難である。
「あれは作り物です‥‥もしや輪島さんじゃないでしょうか?」
ヒシッと胸にすがりついていたティリスへ、おっとりとした口調で説明する風詠。
そう、この死神、貞夫である。理由を聞いてみれば『迷える魂を、先手を打って狩りつくせば大丈夫』だそうだ。
「驚かせやがって‥‥」
ち、違う。怖かったんじゃないんだからね。とは言ってくれなかったが、ちょっとそんな感じの態度が出ていた麻姫。
真っ暗に近い施設の中では箱の中から急に物体が飛び出てくる演出だとか、
雷の効果音やお馴染みヒュードロドロ、も聞こえてくる。ミイラが襲い掛かってくる演出もある。
「おおー、これは良くできてるでゲスなー!」
「夏子さん、それ従業員さんだと思うよ。あ、こういうの、実家にもこんなのがいたような‥‥」
ミイラの顔をペタペタと撫でる夏子。恭也は妖怪らしきオブジェの前で立ち止まって微笑む。
「きゃああーーー! 宵藍さん、なんかいた!!」
「それ‥‥お前と俺の、顔‥‥! 首絞めるなァ!」
ドアを開けたら青ざめた男女が――! それに驚いたティリスは、隣の宵藍に抱きつく。
が、それは良く見れば鏡が張ってあるだけ。
「とりあえずここ‥‥走り抜けよう‥‥?」
恐ろしさで表情も無くしたのだろうか。克がティリスと宵藍に提案する。
「いいな‥‥賛成だ」
キメラのほうがまだいい、と克は心から思うのだが‥‥後ろの方で悲鳴を上げた小鳥(麻姫は悲鳴だけは耐えていた)も同じ心境だったろう。
その一端には、『迷える魂、この輪島が狩りつくして差し上げます!』と鎌を振りながら叫ぶ貞夫のせいもあったかもしれないが。
出口に満身創痍で現れたジョシュア。『当分、お化け屋敷はいいかな‥‥』と言って、同じくティリスのせいで死ぬ思いだった宵藍も休憩を所望したのだった。
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待ちに待ったお弁当。
芝生の上にシートを広げ、それぞれ持ち寄ったものを置く。
「ジョシュア! 俺の弁当っ!」
「‥‥はい麻姫ちゃん、リクエスト通り」
バッと手を差し出す麻姫に、ジョシュアはから揚げと卵焼きがビッシリ詰められた箱を2個渡した。
歓声を上げて早速口に運ぶ麻姫。全部食べるのだろうか。
「えへへ、セラがんばって作ってきたんだから! たべて、たべて♪」
「私のお弁当もどうぞ」
風詠も手作りの焼きソバや唐揚げを出し、セラはチーズオムレツやポテサラなどを振舞う。
「皆さん凄いでゲス〜♪ 夏子、稲荷以外の料理は勉強中でゲスが‥‥」
褒められて実に嬉しそうなセラ。
「皆様のお飲みになりたいものがございましたら‥‥」
貞夫が皆の為に飲み物を出す。淹れるお茶は上手だが、まだ全身タイツか。
ティリスもミートボールにウィンナー巻卵やらを出しつつ、風詠のところに貞夫が淹れたお茶を持ってきた。
礼をいってからさっきの話の続きですが――と風詠が口にし、ティリスは首を傾げた。
「勿体ない、と。見ていると相手によって態度を変えているようで‥‥だからこそそう思うんです」
「‥‥」
ああ、私を観察していたからよく目があったのか。と、今更にティリスは思う。
「ティリスさんは可愛い。しかし、時として女性に好かれる女性の方が、魅力的に感じたりするんです‥‥こうして様々な価値観、考え方を知るのも悪くないと思いますよ?」
向こう側では麻姫が克の持ってきたデザートを強襲している。便乗して、セラも美味しそうと歓声を上げた。
確かに、彼女たちは――ティリスが知ってた子たちよりもすごく優しくて、飾らなくて‥‥憧れる。
返答に困っていた彼女の近くへ、おずおずと小鳥がやってきた。
「ティリス様‥‥如何でしょう、か‥‥?」
そっと差し出したのは白いご飯の塊。ちょっと硬くてボロボロだ。
「‥‥なに、これ」
「おにぎり、頑張ってご用意を‥‥でも、自分で‥‥食べますね‥‥」
そっと去っていく小鳥。ティリスは唇を尖らせた後、小鳥の元へとずんずん歩く。
「‥‥いーわよ。作ったんでしょ? 少し食べる‥‥私のおかず、一緒に食べて」
「‥‥はい‥‥!」
ものっすごく可愛い様子ではにかんだ小鳥。
ちらと風詠を振り返ったティリス。彼は『話を聞いてくれて、ありがとう』と軽く頭を下げた。
デザートも豊富で、そのままティータイムと洒落こんだティリスと数人を除き‥‥
宵藍もティリスに連れ回される事もなく、ようやく伸び伸びとお土産を物色できるというものだ。
食べ足りなかっただろう克は限定のお菓子に心を奪われている。
ほのぼのした中、貞夫の暴走は続く。
「くーまーたぁぁーん、ぷゎーんださーん‥‥ああ、なんて可愛いんだ‥‥!」
全部連れて帰りたい位だー! と、興奮して身悶えしながらぬいぐるみを買いあさる貞夫。誰か、止めてやってくれ。
「ライオンさんあるかな〜?」
「ライオンさん! おお、探しましょう」
セラ、そんな全身タイツと一緒に行動しちゃいけない。誰か、保護者は居ないか‥‥おお、恭也、可愛くないマスコットキーホルダーを見ている場合じゃない。
「虎のぬいぐるみにしよう‥‥」
そっちじゃない、気付いてくれ。あの様子に!!
「ライオンさん発見! がおー!」
「ガオー!」
セラはいいが、貞夫! 全身タイツではしゃぐ、ダメ!
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夜が来ると、盛り上がりは最高潮に達した。
「あ、パレードが始まりそうですよ!」
その言葉通り、広場の方には人だかり。
数多の電飾をくくりつけた巨大な車に乗り、遊園地のキャラクターたちや煌びやかな衣装をつけたダンサーたちが広場を進んでいく。
「わー‥‥! 魔法みたいっ!」
セラの言葉に『そうですね、心を豊かにする魔法です』と付け加え、同じくそのパレードを鑑賞する恭也。
「一時だけど現実を忘れさせてくれるね‥‥。依頼出してくれて、ありがとう‥‥」
克の感謝の言葉に、ティリスが私の方こそ、と微笑んだ。
「今日は楽しめたでゲスか?」
夏子の笑顔に、つられて笑顔になったティリスは頷き、貞夫が真面目な顔で言う。
「ティリス様が思うより、皆様、貴女を気にかけておりますよ‥‥今日、こうして集まったように」
「輪島さん‥‥」
貞夫は頷き、続ける。
「皆様仕事だから来た‥‥というだけではないと思います」
そこはお解りになられませんか、と聞くとティリスはうつむく。
皆の優しさに、気付かないでもなかった。
ちらとジョシュアや風詠を伺えば、二人とも彼女を見て笑顔で頷く。
「貴女から受けた依頼はここまでです。‥‥さあ、ここからは金でも依頼でもなく、貴女自身が選ぶ物語ですよ。頑張って♪」
麻姫はまた遊ぼうと言ってくれた。
「‥‥」
常に女の子には冷たく接していたティリスだが、温かく触れる優しさを無下にできるはずもなかった。
「いいですね。次の休日は、ティリス様が私達にお付き合いしていただく‥‥いかがでしょう?」
「――‥‥」
貞夫の提案にティリスは、自分の胸に重ねていた手を、きゅっと握る。
「‥‥うん、また‥‥、遊ぼ‥‥うね」
ちょっと赤くなりながらも、しっかり頷いたティリス。
「そしたら連絡役が必要だろ。ティリス、携帯貸せ‥‥ったく、こんな依頼にしなくても、暇な時には付き合うから」
宵藍がティリスから携帯を受け取り、自分の番号を登録して返す。
「セラも! セラもまた遊ぶー!」
セラも小鳥も、微笑みながら麻姫と同じ内容の言葉を口にした。
「お‥‥お茶くらいなら、いつでもいい‥‥ですよ?」
と、照れ笑いを浮かべてティリスは自分から皆にそう告げ――パレードに合わせ、空には花火が上がっていた。