タイトル:金色の月と銀色の悪魔マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/30 03:56

●オープニング本文


●スペイン・アルメリア

 群青色の空に、細く尖った月が出ていた。
 薄い薄い三日月の光は弱く、時折厚い雲に隠されては姿を消す。

 しかし、弱き月光では地上は照らせぬ。現に至る所に電灯が付けられ、闇を照らしている――はずだった。

 だが、人の手で作り出された灯は、地に伏しているものも鮮やかに映し出した。
 簡単にならされた砂利道の上。赤い液体がそこかしこにぶちまけられている。
 色水よりは濃く、ペンキよりは薄く、ニスのように光沢がある。
 折り重なるように倒れているUPCの軍人たち――‥‥そう、赤い液体は、彼らの流した血である。

「ゴファッ‥‥」
 言葉を発しようとして顎を割られた軍人は大きくよろめき、かすむ双眸で目の前の敵を見た。
 敵は二人だったはずだ。だが、今ここにいるのは女一人。もう一人はどこへ?
 周囲に視線を走らせようにも、そんな僅かな時間さえ彼には残されていない。
「これで、終わりよ‥‥!」
 死になさい、と、目の前にいる女の唇から洩れた言葉。ハッとすると同時に、女は此方へ向かって走っていた。

 透き通るような碧い刃が、男に深々と突き刺さる。肉にめり込む音が自身の体内から聞こえ、眼に見えるのは景色と敵である女の、ショートカットの青い髪。
 蒼い髪が綺麗だな、と思ったのが、彼の最期だった。

 剣を引き抜き、剣に付いた血を一振りで払うと、女は駐屯地の屋根を見上げた。
 そこには――槍を片手につまらなそうな顔で、遥か彼方を見つめているシルヴァリオの姿がある。
「‥‥シルヴァリオ様?」
 どうか、されたのですか――? そう暗に訊ねる女へ、顔も向けずに『殺したのか』と問う。
「はい。生かしておいては、貴方様の邪魔に‥‥」
「俺には、こいつらは殺す価値がない‥‥『蹴散らせ』って言い方が良くなかったのか」
 一人納得して、シルヴァリオは屋根から飛び降りて着地する。
「この駐屯地は陥落させた‥‥俺が指揮官を、お前がこいつらを殺しちまったから‥‥部隊は全滅、ってヤツか」
 むせ返るような血の匂いが、あたり一面に立ちこめていた。
「‥‥つまらない。あっちに行ってりゃ、もうちょっとは楽しめただろうにな‥‥」
 ふんと鼻を鳴らし、シルヴァリオが空を仰ぐ。つられて強化人間の女‥‥ルエラもその方向を見やる。
 あっち、とは。方角と、口ぶりから察するに南米のほうだろう。
 だが、すぐにシルヴァリオは口角を上げて笑みの形を取った。
「ま、いいさ。この駐屯地ごと燃やせば、誰かが――そうだな、傭兵あたりが消火やら救助に駆けつけるんじゃないか?」
「燃やす‥‥のですか? まだ利用価値がありそうですけれど‥‥」
「爺さんからは基地に関してとやかく言われてないぜ? それに、KV以外は目ぼしいものも無かった。要らないものは焼き払ったって問題ないだろ」
 自身が仕えているシルヴァリオがそう言うのだから、ルエラには逆らおう等という意思は微塵もない。
 承知しましたと告げ、基地の内部へ入っていった。指令室の装置を壊しがてら、彼の意志を実行しようとでもいうのだろう。
 事実、暫くすると基地の内部で爆発が起こったらしい音と、振動が伝わる。
「――そういや、多少は強くなったらしいな、傭兵。どんなふうに変わったのか、この手で確かめてやるよ」

●特殊部隊・赤枝

「‥‥シルヴァリオ、が?」
 シアンの問いに『そうらしい』と答えて外套を着こむベルフォード少佐。
「今回は女連れだと。羨ましいこった」
 少佐の軽口に、もの言いたげな視線を送るミネルヴァ曹長。
「ですけれど。狙われたアルメリア駐屯地‥‥以前の場所ですね。警戒をと言っているはずなのに、どうして‥‥」
「警戒をしていても‥‥実力差という物はある。俺も嫌というほど味わった」
 シアンは苦い顔をしつつ、斬られた脇腹のあたりに触れる。既に傷は塞がったが、あの悔しさは忘れない。
 基地の情報も満足に入っていないのだが、襲撃されているという通信が本部にあったのが最後。通信は働かないので、最悪壊滅‥‥僅かな希望として、生存者がいるかも気になるところだ。
「俺達は‥‥別任務の為動けん。スペインULT支部に協力を要請しよう」
「私、ULTに要請してきます」
 ああ、と提案に頷く少佐。すぐに曹長は駆けだしていった。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
白藤(gb7879
21歳・♀・JG
緑(gc0562
22歳・♂・AA
サキエル・ヴァンハイム(gc1082
18歳・♀・HG

●リプレイ本文

●序

 炎に赤く照らされている、主の整った横顔を眺めていたルエラ。
 この基地を壊滅させる時は楽しそうではなかったのに、彼らを待つシルヴァリオの表情は、先程とは違っている。
(能力者が待ち遠しいのですか、シルヴァリオ様‥‥?)
 確かにここで転がっている兵士たちよりも、ずっと腕が立つだろう。しかし、強いというだけで彼を引き付ける何かがあるとは思えなかった。
「なあ。人間はどういうときに泣くんだ?」
 主から投げられた言葉なのに、ルエラはすぐ反応できなかったほど――あまりに質問は唐突だった。
「え‥‥」
 そして質問の意味を考えたが、どういうとき、と一概に言えないのを説明するにはどう答えればいいのかを考える。
「いい。気にするな」
 長考に気分を害して遮ったわけではないようだったが、シルヴァリオに申し訳ない気持ちでルエラは一礼する。
「――泣きそうにない奴らを、泣かせてみたいって思うのは別に良いだろ?」
 喉の奥で笑いながら、シルヴァリオは此方にやってきた車両を見つめてゆっくり立ち上がった。

●El cielo que quema

 能力者達が車から降りた瞬間。感じたのはむせ返るような血の匂いと熱。
「生き残り‥‥おるもんやろかな?」
 周囲の凄惨な様子を見た白藤(gb7879)と鳳覚羅(gb3095)の声は深憂に満ちている。
「警戒していたにも関わらず、こうもあっさり陥落するとは‥‥」
 煉条トヲイ(ga0236)が延焼する基地を見つめつつ、つい先日の事を思い出す。シルヴァリオもとうとうやる気になったということだろうか。
 車両を運転してきた軍人に救護用ヘリの要請と、地図を出してもらいながらその離着陸に一番適したところを確認して側を離れる。
「派手に燃やしやがって‥‥」
 杠葉 凛生(gb6638)は轟々と燃え盛る炎を睨みながら吐き捨てるように呟くと、近くに倒れている兵に視線を移す。
 心臓を一突き。既に事切れているのを確認すると、チッと舌打ちして150メートルほど先にまで迫ってきたシルヴァリオの姿を捉える。
「うすら笑いしてられるのも、最初だけだぜ‥‥」
 自身の感情のまま行動するのは容易いことだ。すぐにでもあのバグアに銃弾をぶち込んでやりたいというのが本音だったが、まだ生存者がいるという可能性も大いにあり、処置が遅れればその命の灯は消えてしまう。
 凛生とてバグアが憎く、すぐにでも戦闘したいと望んでいるが、自分にはこの昏い憎悪を押し留めて行動できる自制心がある。
 仲間にそっちは任せたと低い声で短く告げ、生存者の気配を鋭敏に感じ取るため探査の眼を使って、生存者の救援へと向かった。

「またお前らか。良く会うな」
 肩をすくめ、幾度か手合わせした数人に声をかけてきたシルヴァリオ。その彼を庇うように、無言で前へ進み出るルエラ。
「同感だが、今回も相手してくれるよな?」
 勿論嫌だとは言わせないであろう神撫(gb0167)が、前に出てきたルエラを見て、白藤と顔を見合わせた後、シルヴァリオにもう一度向き直る。
――誰? とで言いたそうな二人の表情に、シルヴァリオは『この間拾った地球人。俺の部下だ』と答えた。微妙に空気は読めるのだろうか。
「‥‥へーェ、戦場に女連れか。余裕なモンだな」
 サキエル・ヴァンハイム(gc1082)が蒼い髪と、やや露出が多いレザー製のボディスーツの女を見ながら棘のある口調で告げる。
「そんな事なんざどうでもいいぜ‥‥やるんだろ?」
 ベーオウルフ(ga3640)がルエラの持っている剣――透き通る刀身を見つめながら仲間に訊う。
 視線を受け、ルエラはその剣を構えて能力者達を睨むように見つめている。
「貴女も強いのかしら?」
「命が要らないなら、試してみれば?」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)の問いに、ルエラは視線をケイに投げて答えた。
 結構言うわね、と笑いながらケイは覚醒し、アラスカを構えて真紅の瞳はルエラを射抜く。
「強化人間でしょ‥‥? 貴女はお呼びじゃないのよ‥‥」
 消えてくれる? という言葉と同時に放たれたケイの初弾をひらりと躱し、ちらとシルヴァリオの表情を伺うルエラ。
「好きにやれ」
 手は抜くな、と命令された彼女は、了承の返事をすると自分に向かって駆けてくるベーオウルフを次の目標に定める。
 そのシルヴァリオにも、サキエルの矢が静かに迫っていた。
 振り向きざまに槍を振って矢を数本叩き落としつつ、小さく横に移動するシルヴァリオ。両翼からトヲイと神撫が挟撃に入っていた。
「今度は槍か? 次から次へいろいろと使う奴だな」
 神撫が彼の武器を見て、そう言いながらトヲイとの軸とタイミングをずらす。
「中々にこのヨリシロは多才だった」
 シルヴァリオはそう言いつつ石突でトヲイを突き離し、瞬時に槍を回して神撫に斧で受け止めさせる。
 トヲイと神撫が同軸に並ばないようにと攻め立てて、白藤と緑(gc0562)が狙撃と援護射撃でその僅かな隙を埋める。
 綻びの薄い連携であったが、シルヴァリオの反応は速かった。体勢を整えた神撫の、厚みがある巨大な斧を避け、トヲイの爪を槍の柄で受け止め、懐に潜り込ませぬように身を捻って同じ位置にいない。
 そして、シルヴァリオは攻め立てられているにもかかわらず周囲の様子を見ている。いつ、此方に攻撃が来てもおかしくない。
(気は、抜けない。隙を見せたら此方が危険だ‥‥)
 射撃する緑も、更に神経を集中させて撃っていた。

●虚空に消える刃

 ルエラの動きを止める、それは簡単な事でもなかった。
 彼女は素早く、光の攻撃を躱し、ベーオウルフの攻撃を前後左右にステップして避ける。
 最低限の動きと、彼女の持てる最速で剣を振った。
 シルヴァリオが手を抜くなと言った。だが、その必要があるのだろうか、とも思いながら。
 そして、彼女は知ることになる。
(速い‥‥!?)
 高速機動も使用しているにしろ、麻宮 光(ga9696)が幾度も彼女の剣を回避する。一瞬動揺が彼女の心中に走った。
 その隙を見抜いたのか、光は瞬天速で近づいては間合いを乱す。それを左へ飛んで避けると、ケイの狙い澄ました射撃が連続で迫っていた。
 ルエラの剣と弾丸が奏でる甲高い音が耳に響く。
「あら。見た目より丈夫な武器ね」
 砕くつもりで放ったのだが、視認しづらいその武器はいまだ健在のようだ。
「あの人達の傷口の状態を見たところ君の仕業のようだね‥‥」
 ルエラの足止めをしたそこへ、覚羅が竜斬斧を振りかぶる。
 だが、ルエラが素早く動くのを予感した彼はスキルを使用せず、斧の重みを利用して振るだけだった。
 ルエラの移動する先を予測し、足元を狙うケイへ、サキエルが自分を呼ぶ声が聞こえた。
 シルヴァリオが、彼女の手元を狙って妨害の為に光線銃を数発撃ったのだ。
 射撃の体勢だったケイ。手と肩に激しい痛みを感じたが、武器を取り落とすこともせず、素早く距離をとる。
 大勢を立て直したルエラは、ベーオウルフに斬りかかっていた。
 真正面からやってきた事に対して意外だと思いつつ、対処に動く。
 幾度か彼女に斬られたが、彼女の剣ではなく――手や胴体の動きで大まかな剣の形状や長さを予測し、刀を左右で持ち変えつつリーチを変化させるベーオウルフ。
 光も緩急をつけてベーオウルフと同様に攻め、攻撃を受けさせて僅かな間でも足止めを狙うそこへ、覚羅の攻撃へと繋げる。
 僅かにできた隙を賭けに近いような心持で斬りつけ、素早く身を翻すところに、ケイの射撃は的確に待っている。
(‥‥成程。シルヴァリオ様が言ったのは、彼らの連携‥‥確かに隙もない)
 皮肉な事に、彼女の剣は‥‥傭兵の血に混じり、自身の血液にも彩られてその形状を緩やかに示していた。
「奇しくも似た様な得物か‥‥」
 ベーオウルフがそう呟き、自身の刀を左に構え再び地を蹴った。

 一方、救助に当たっていた凛生は、三名の生存者を発見することに成功した。それ以上は、生存者の気配がなかった、或いは死亡していると分かったからだ。
 生存者のうち二人は腹部からの出血が酷く、もう一人は一刻も早い処置が必要なほど衰弱している。
 どのみち、病院に行かなければ処置できぬ傷である。もう一度最後に周囲を注意深く見渡し、やるせない気持ちで救護ヘリに先に行けと命じた。
 朱い空へ飛び立つヘリを見送り、駐屯地の炎よりも激しい炎が、凛生の胸に宿る。
(戯れで人の命を奪った落とし前‥‥きっちり払ってもらうぜ)
 
●何故、は、お互い

 先程のように、よそ見をする隙を与えぬよう‥‥彼らの攻撃は苛烈になる。
 一合、二合‥‥幾度も合わせ、斬り合うために離れては近づきを繰り返し、互いの武器、視線が交差する。
「シルヴァリオ。貴様は何の為に戦う? 何故、殺す?――答えろ」
 トヲイの重々しい口調に、シルヴァリオは片眉を上げうすら笑う。
「戦いは――オレ達にとっては奪うためだ。それが己の糧になるなら尚更だろ?」
 殺すのはいくらでもできるが‥‥興味のない奴を殺して回るのは趣味じゃない、と更に続けながら背面から槍を振り、トヲイと神撫から間合いを離す。
「お前らこそ、何故戦う? まさか地球人を守るため、なんて言わないよな? ――戦うのが好きだからこうしているんだろ?」
 シルヴァリオは槍を地に突き刺し、放たれる銃弾を避けながら懐から光線銃を取り出す。緑と白藤目がけて数回撃った。
「っぅ‥‥!」
 緑が弾道から逃れようと上半身を捻る。距離があったお陰で回避行動も間に合い、直撃だけは免れたが腕に痺れに似た痛みが走った。
 白藤も腕で顔を守りながら再び銃を握り直し、再び前衛の援護に回った。
「シルはどうしてここへ来たん? 退屈で、構って欲しいん?」
 遠目から撃ってくるサキエルへ気を向けないよう、シルヴァリオに自身を目立たせるよう動く白藤。
 彼女は、こうして戦っている時間が嫌いではないようだ。
「地域一つでも減ればお前らの前線は押し下がる。前回仕損じたからな‥‥」
 あと一歩というところで傭兵の介入にあい、彼は撤退を余儀なくされたのが腹立たしかったからである。
「ふぅん‥‥寂しがりみたいなや」
 くすりと悪戯っぽく笑う白藤。その女へ一撃当ててやろうと、神撫にフェイントをかけてその横をすり抜け――る前に、緑がシルヴァリオの腕を狙う。
 そして、隠密潜行中の凛生が部位狙いでシルヴァリオの眼を狙っていた。
「‥‥捉えたぜ、シルヴァリオ。逃がすかよッ!」
 身を低くした白藤の背後より、サキエルが両手に銃を持ち換え躍り出る。無論、トヲイと神撫もこの隙は逃すつもりもない。
 避けようもない包囲だ、と誰もが思ったに相違ない。だが、シルヴァリオは槍を縦に構え、吼えた。

「捉えたってのは、当ててから言うんだな!!」

 一瞬何が起きたのか、我が目を疑う能力者達。
 確かにシルヴァリオに当たるはずである軌道は、目に見えて軌道を逸らされて地に落ちたり、大きくずれたりと当たらない。
「な‥‥」
 衝撃的な光景を目の当たりにした彼らへ、シルヴァリオは容赦なく槍を振るう。
 サキエルに近づき、肩から腹部へと袈裟に斬りつけて光線銃で、狙撃者が潜んでいるであろう方角の物影に撃つ。
(あのバグア、適当な割に勘はいいのか‥‥)
 光線は凛生の頬を掠め、再び彼は隠密潜行で移動をする。
「この‥‥よぅやってくれたなぁ!」
 無駄とは分かっていても至近距離での射撃を試みる白藤。
 だが、軌道はあまり変わらない――‥‥!
「手段が乏しければ‥‥自分で活路を開くまで!」
 爪での攻撃と見せて、わざと斬られつつシルヴァリオの槍を掴んだトヲイ。槍を手放そうとしたシルヴァリオの腕へ手を伸ばして、動きを封じる。
「――肉を斬らせて骨を断つ‥‥今だ‥‥!!」
 光線銃をその身に受けても、トヲイは手など離さぬとばかりに力を込めて仲間に言い放つ。
 そこへ再び、仲間の攻撃が殺到する。
「チャンスは今しか‥‥エメラルドブラスト‥‥! いけっ!」
 スキルを併用し、シルヴァリオへと必殺の射撃を見舞う。凛生も頭部、腕、と狙いを定めた。
「この一撃が俺の全てだ!」
 神撫が持てる力の全てを用い、シルヴァリオへと斧を振り下ろす。
 その刹那に、シルヴァリオは己の身体の一部‥‥腕の力を最大限にまで高め、肉薄した神撫の胸を狙い片手で槍を突き出した。
 めぎ、と、骨が軋む音がどちらからともなく伝わって、神撫の唇から、呻きと共に一筋の血が流れる。
 幸い急所は外れていて、シルヴァリオの後方に向けて神撫は小さく微笑んだ。
 シルヴァリオも肩から胸、背から脇腹の傷が深い。ぐらつく頭をもたげて振り返れば、
「‥‥目をつぶっても当てられる距離で‥‥放っておくはず、ない‥‥」
 いつの間にか手を離していた満身創痍のトヲイが、シュナイザーを突き立てていたのだった。

 当然、ルエラの意識もそちらへと向いた。
「シルヴァリオ様‥‥!」
 割って入ろうと動いたルエラに、腹部を押さえたサキエルと、ケイの射撃が彼女の大腿部に当たる。
 がくりと膝をつきそうになる体をなんとか支え、憎らしいとばかりに睨みつけてくるルエラ。
「おっと‥‥邪魔は困るんだがなァ、お嬢ちゃん?」
「そうよ。わざわざ貴女の相手をしてあげてるんだから、失礼じゃなくて?」
 機動力の大半を失ったであろうルエラの肩を、素早く距離を詰めた光の爪が深々と切り裂く。
「くぅッ‥‥! 傭兵などに‥‥!」
 悔しそうに吐き捨てたルエラ。
「‥‥ねえ君。あまり俺達を侮らないで欲しいかな?」
 覚羅が黒き焔を揺らめかせ、彼の竜斬斧が側面からルエラに迫っていた。
「一応ね‥‥それなりの技量は持ち合わせているつもりだよ?」
 その声が聞こえたかどうかは彼に知る由もないが、その斧から生まれる過重と衝撃に、耐えきれず細身の彼女は数メートル飛ばされる。

 地に伏したまま、荒い息をつくルエラ。シルヴァリオもまだ彼女よりは動けるらしく、ルエラの側へと歩いて無理やり立ち上がらせると指を鳴らす。
 周りを囲む能力者に、シルヴァリオはやってきたHWを見つめて呟いた。
「――悔しいが、認めざるを得ないな。お前ら」
 ぐったりしているルエラをバグア兵に引き渡し、振り向いた彼の瞳は、愉しそうにぎらついていた。

「必ず殺してやる。オレの手で」

 そう言い放ち、彼を乗せたHWはいずこかへと消えていった。
 

「‥‥いい眼ね。ぞくぞくするわ‥‥」
 ケイが自身の肩を抱きながら言い、トヲイと神撫に肩を貸す覚羅と凛生。
 光は救急セットを持ち出し、サキエルに応急処置を施してくれている。
「フン‥‥」
 ベーオウルフは彼らに興味がないようで、特に何の感想を抱いたわけでもなかった。
「シルヴァリオもとうとう本気、と言う訳か‥‥」
 自身の傷を見ながら、トヲイはシルヴァリオの言葉を思い出す。

(お前らと俺は、同じじゃない‥‥!)
 思わず握った拳は、怒りに震えていた。