タイトル:轟音と風物詩マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/30 06:06

●オープニング本文


――東北地方、秋田某所。

 夏のお祭りも終え、残暑厳しい今日この頃。
 秋に向けての準備やら、出かけるには暑いのでちょっと陽が落ちてから‥‥なんてのを考えるのもこの時期の事。

 しかし、この村では。そうもいかなかったのである。

「あいー、うるせしてだめだ」
「んだよ。あっちゃある(あそこにいる)セミな、まずでっけくて。しったけ(すごく)怖ぇ」

 東北弁でお送りしているが、まんずコムズカシ事。訳さつけるども報告官サ忘れっどこれ。

 とまあ、ぼやきつつある村人さん達。会話の片隅に『セミ』とある。
 そこが今回の重要項目なのだが、とりあえず正解をULT秋田支部にて聞いてみようではないか。

●なおさら暑い日本の夏。

――ULT秋田支部。
 関東地方と比べて湿気は少ないものの、うだるような暑さはやはりここでも発揮されていた。
 エアコンの温度も低めの設定。どこぞのマスコットに『電気を大事にね』と叱られんばかりである。

「暑いですね‥‥」

 やや暑い部屋で、一傭兵である神成寧々がそう呟いた。彼女、『かんなり ねね』と読むのだが、どうも『カミナリさん』と間違われる。
 最初は訂正していたが、もう面倒になったので正式事項以外はカンナリでもカミナリでもいい事にした。
 そうして、モニタに映し出されている‥‥とある村に現れたというキメラの詳細依頼を見つめる。

『3日ほど前。村の中央、神社の境内にある御神木に3mほどの巨大なセミが現れました。
 そのセミは昼夜問わず鳴き続けています。時折何かに驚くのかあの『ジジジッ、ジビビビビッ』という耳障りな声を出すのです。
 窓ガラスや家が揺れるため、小さい子供は怖がっています。
 御神木は樹齢数百年という巨木ですが、セミキメラに樹液を吸われている様子で、このままでは御神木も住民も健康状態が危うくなります。
 セミの命はせいぜい一週間ほどと聞きましたが、それまで待っていられません。お願いです、どうか、セミキメラをどうにかしてください』

――どうにかしたいけど。
「これって、境内だから火器とか使ったら危なくない?」
 神聖なる神社にて火器を使うとは、なんて言われかねない。むしろキメラが出たのがよりによって神社とは。
「誘きよせるのも難しいのなら、どうしろっつーの‥‥」
 火器厳禁で仕留めるしかないのだろうか。あ、超機械というテもある。
「ねねちゃん。悪いけどそれ頼める? おじさん水道管破裂したらしいから、水道局の人と行ってくるよ」
「了解しました。でも、水道管の破裂は水道局に任せておけばいいと思います」
 支部のおじさん達には『ねねちゃん』と言われて親しまれているらしい、支部常連の神成さん。
 ミネラルウォーターと、剣を持って立ち上がる。
「では神成、依頼に参加させていただきます」
「はーい。気を付けてねー! じゃ!」
 軽く手を振って支部のおじさんはどこかに電話をかけている恐らく水道局だろう。
 受付で書類整理をしている女性に声をかけた寧々。
「すみません。この番号の依頼を受けたいんですけど。そうです、蝉キメラ。昆虫採集で」
 大きな虫網はありませんけど。寧々はそう冗談を交えつつ、受理された依頼の約束時間と集合場所を記載された紙を受け取ったのであった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
蜂巣 麗奈(gc0008
13歳・♀・FC
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP
蜷(gc4571
25歳・♀・CA

●リプレイ本文

●そのセミ、騒音につき

 秋田某所。
 さほど大きくない神社の境内へとやってくる傭兵たち。
 その姿を見て、彼らに近づいてくる女性の姿があった。現地で待ち合わせ指定をした、神成寧々その一人である。
「あの。もしかすると‥‥蝉の依頼で一緒になった人、ですか?」
 そうだと答えると、微笑みかけながら、簡単な自己紹介の後に手を差し出した寧々。
「よろしくお願いしますわね、神成さん。なかなか面白い名前ですわね」
 悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、自身も珍しい名字である蜂巣 麗奈(gc0008)は丁寧に自己紹介をし、差し出された手を握る。
「支部の人から聞きましたが、貴女が神成さんですね?」
 ソウマ(gc0505)がニコリと微笑を浮かべつつ『お手並み拝見させてもらいますよ』というものだから、寧々は慌てて否認した。
「私はそこそこ頑張ってるつもりだけどっ‥‥、私より全然みんなのほうがこなしてそうだし、お手並み拝見は此方が言う台詞っていうか!」
 だからそういうんじゃなくて、協力重視で頑張ろうね〜? などと言った寧々にソウマは快諾しつつ、改めて握手に応じる。
「神社や神木への被害も心配だし、早速だが色々と打ち合わせをしようと思うんだが」
 宵藍(gb4961)が周囲を確認しながら仲間にハンドサインなどをどうするか、と簡単に話を詰めていく。というのも、数人が蝉の鳴き声対策にと耳栓を購入しているのだ。
「本殿も蔵も、神木よりちょっと離れているからよかったかな。一応そちらには背を向ける形で、配置に着こうと思う」
 自身の家も神社だったため、場所や勝手は違えど大体の物や場所、納めておくもの等を把握している依神 隼瀬(gb2747)も加わって為す事や注意すべき事を挙げる。

●蝉の寿命は短いけれど

「蝉キメラは大きい、って書いてあったけど‥‥」
――大きすぎだよ、これ。
 大きい虫を捕るのはロマン。とは言っていないが、その規格外の大きさに薄気味悪さを覚えたのだろう。隼瀬が僅かに表情を曇らせる。
「こんなに大きい虫が居たら皆さん不安だったでしょうに‥‥私、近隣の方々へ暫くの間は近寄らないように‥‥と注意を促してきます」
 蜷(gc4571)がそう皆に告げてから駆けだしていく。
「蝉とは夏らしい。こう見えても一時期日本で暮らしていたことがあるので懐かしいのぉ」
 御神木にしがみつくように留まっている蝉。眼を細めながら眺めるネイ・ジュピター(gc4209)が、柔らかな口調で言った。
「鳴くとは聞いたが、どんなものかね〜?」
 先程からドクター・ウェスト(ga0241)の双眸は蝉に向けられている。彼の培った経験や知識、対象となるキメラの体長や種類などのデータから、攻撃方法や予想される行動を導いている途中だ。
 つられて寧々も高いところにいる巨大な蝉を見上げると――茶色の翅に、黒鳶色の斑点。黒っぽい体。なるほど、特徴は日本に生息するアブラゼミとほぼ同じようである。というか、毎日見ているアレの親玉。
 彼らが自分を見ている事に気づいているのだろうか? 蝉キメラは鳴きもせずにじっとしていた。
 逃げないのかな、と呟けば、
「通常のキメラであれば『地球生命の捕食』の本能でエサを前にして逃げることはないだろう〜。特殊な目的を持っているなら逃走もありえるがね〜」
 私設研究グループの所長を務めているドクターが教えてくれた。エサというのは無論、こうしてしがみついている木であろう。
「よりにも選ってご神木に‥‥罰当たりですわね」
 柳眉を寄せ、ロジー・ビィ(ga1031)は憂いのある表情を見せる。
「しかも文化財の近くに放つというのは、ある意味悪質な嫌がらせですよね」
 ソウマもバグアは何を考えているのやら、とぼやきつつ、幸いにも人々の命にかかわるような事件が未だないという事だけには安堵する。
「‥‥まぁ、そこはツッコムだけ無駄ですわね。様々な物を気にせず破壊しまくってる連中ですし」
 何せ相手は異星人である。此方の文化遺産などの価値が分かるはずもない。少々の皮肉を乗せつつ、麗奈は夏扇子で自身や隣のロジーを扇ぎつつ、今日も暑いですわ、と漏らす。

「皆の用意が済んでるなら、そろそろ始めましょーか?」
 細かい打ち合わせを終えた寧々が皆に聞いてくる。
 おおよその作戦は皆に伝えてあるが、まずは超機械で翅を焼き切り、地に落としてから叩くというものだ。
 耳栓を着用した者もいるので大きな声で問い、彼らも経験上、態度や何を自分に訊いているのかなど、大体分かるのでOKのサインを示した。
「それじゃ、よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げた後、神木の元へ。
 いまだにじっとしている蝉へ向かって、超機械を掲げる傭兵たち。一斉に蝉に向かって攻撃を開始した。
「その翅‥‥戴きますわ‥‥!」
「けひゃひゃ〜!! 集中的にやりたまえ〜」
 ロジーがビスクドールで翅を狙い、ドクターが仲間に練成強化を飛ばして支援する。
「早急に破壊させてもらいますよ!」
 同じく神木に当てぬようにと気遣いながら、ミルトスを掲げて、蝉の翅へと当てていくソウマ。
「御神木も、皆さんも。護る‥‥!」
 蜷が防御陣形を取って、後方に控える。
 今まで平穏に樹液を吸っていた蝉も突然の攻撃に驚いたのだろう。翅をばたつかせて特有の耳障りな鳴き声を発した。しかも大音量である。
 耳栓を着用していてもキツイというのに、着用していない隼瀬の耳への負担はいかほどのものか。しかし、彼女は片手で耳を軽く押さえて、なんとか根性で耐えている。
「高いとこからうっさいですわね。何様のつもりですの!?」
 悔しそうにリューココリネとゲイルナイフを握りしめ、頭上で鳴く蝉へ不満をぶつける麗奈。
 確かにやかましいのぅ、と同意しつつもネイは穏やかな姿勢は崩さない。

 ある程度当てて行ったところで、ぱっと翅が散った。

(――今だ!)
 宵藍がハンドサインを咄嗟に麗奈へと送り‥‥それに頷いた麗奈と二人で迅雷を使用し、神木を駆けのぼる。
「罰当たりなセミは‥‥落ちろ!!」
 タイミングを見計らい、刹那を使用して蝉の肢を斬りつけた。
 ほぼ同時に、反対側より駆け上って来た麗奈のリューココリネが蝉の胴を打つ。
 ジジッ、と反抗的な声をあげながらも落下していく蝉。口から黄色の毒液を放ったが、悲しいかな麗奈には届かなかった。
 神木を軽く蹴って空中へ身を投げ出し、宙返り後に着地した宵藍。一寸遅れて、麗奈も綺麗に着地する。
 しかし。蝉もなかなか諦めようとはしない。細い肢を必死に神木へと伸ばし、届いた二本の肢で落下速度を緩めると、バッと木へしがみついた。
 翅がないため飛び立てず、蝉としてはそれくらいしかなかったのであろうが――中々にしぶとい。
「御神木より、離れろ」
 地面から1.5m程の場所にしがみついた蝉へ、胸のあたりにアミッシオを構えて駆けだす蜷。
 むき出しの胴めがけ、シールドスラムもかけて力いっぱいアミッシオをぶつけた。
 小さく蝉が鳴くが、木から引きはがす為にヴィアで肢を突く。
「哀れとは思うがのぅ、こちらも護る者がある故。神妙にせい」
 ネイも駆け寄ると急所突きでセミの弱点を突きながら、蜷と二人がかりで木から落とす。
 そして仲間達が、武器を持ち変え地に落ちた蝉を囲んだ。

「よし、翅を取ってしまえばもう鳴き声も怖くないですね」「それは――」
 ソウマが耳栓を取ったのを見ていたドクターが咄嗟に止めようとした時だった。
『ジジジッーー!!』
 怒った蝉がけたたましく鳴きはじめたのだ。耳栓をしていても、その鳴き声は激しく鼓膜を揺する。
「うわあああ〜! なんという大声だ! は、発音筋か発音膜を破壊するのだ!」
 ドクタが自身の身体‥‥胸や腹を指し示し、キメラにやれ、というようなジェスチャーを繰り返した。
「セミの鳴き声も巨大セミだと、風流なんてものじゃなく唯の騒音ですね‥‥! うう、耳栓を外したとたんに鳴き出すとは‥‥」
 ソウマは運がなかったと諦めてほしい。そう、蝉は翅を鳴らして鳴いているわけではない。ドクターが言うとおり発音筋や発音膜を震わせ、空洞になっている腹部で音を大きくさせている。
 一瞬怯んだ能力者達へ、セミはさらなる攻撃として毒液を吐く。やや上に向けて放つので、見てから軌道を予測して回避する傭兵達。
「うむ、ヤツはコレを排出ではなく吐きだした‥‥!」
 ドクターが唸るのも仕方がない。蝉は通常排出である。しかし、それを吐きだすというのは当然のことながら普通の蝉と同じような構造のまま巨大化したわけではではなさそうだ。
 再び毒液を吐きだそうとする蝉。どんな成分なのか分からない為避けろと皆に告げるが、耳栓を着用した者にもきちんと届いているのだろうか?
「そんなもの、当たってやりませんわよ!」
 麗奈が疾風で回避し、飛べなくなった虫を槍で突き刺す。蜷は盾で降ってくる毒液を防御した。
「お行儀の悪い蝉ですのね‥‥」
 毒液を流し斬りで回避したロジー。手早く倒す為にスキルも併用し二刀小太刀で素早く関節部分を狙っていく。
 体は空洞ゆえか、装甲は左程硬くは無い。彼女の小太刀は易々と胴を穿つ。続いて、ネイの天照と月詠が蝉の背を割る。
 蝉は狂ったように鳴き続け、肢をばたつかせながら能力者達へ応戦し続けるが‥‥隼瀬がその邪魔な肢を薙刀で斬り飛ばす。
「翅をもがれ地上に落ちたら、後は大人しく眠りにつけ!」
 宵藍が月詠を空洞の腹へ深々と突き刺し、横に薙いだ。その途端に鳴き声はかなり小さくなったものの、まだ蝉は生きている。
「しぶといですわね!」
「これで終わり‥‥!」
 麗奈と蜷が腹に武器を突き刺し、縦に切り裂く。
 翅も肢も無くし細長い体を芋虫のようにくねらせた蝉は、しばし抵抗すべく体を揺らしたり毒液をわずかに吐いたりしたのだが、能力者達からのスキルをのせた連続攻撃を食らい続け、とうとう動かなくなった。

●採集不能

「倒したかな‥‥?」
 つんつんと武器でつついて死亡を確認する寧々。彼女もきちんと活動していたのだ。
「動いて汗もかいて余計暑くなりましたわ‥‥心身共に涼を取れるのでしたら是非とも移動したいのですけれど」
 額から流れる汗を拭き、日陰に移動した麗奈。
 周りを見て、一瞬動きを止めたソウマ。小さい声を上げると、茂る木々のほうへ歩いて行く。
 ガサガサと分け入る音の後、ソウマが手に蝉の抜け殻を携えて戻ってきた。
「見てください。こんな大きな蝉の――」「まだキメラがいたの!? このっ!」
 驚いた寧々が鞘で抜け殻を叩く。ソウマの悲鳴と共に、木端微塵に砕ける抜け殻。
「あああー‥‥! 自由研究の宿題に使えそうだと思ったのに‥‥!」
「ふむ? バグアの関連物はUPCが回収するから、持っていたとしても、ソノ抜け殻は没収されると思うよ〜」
 謎の毒液を採集しながら、落ちた破片を見やるドクター。寧々はサンプルを採っているドクターは平気なのかな? と思いつつ、ソウマに両手を合わせて謝っていた。
「特に社なんかにも破損個所はないようだし、安心したよ」
 社務所より掃除用具を借りてきた隼瀬は、散らばった殻や肢をそっと掃き取る。
「神木も大きな傷などが無くて良かったな。しかし、足をかけた詫びに二胡の演奏を奉納して帰ろうと思うのだが」
「日本の神社‥‥興味深いですわ! まあ! 杜なんかも在りますのね!?」
 宵藍の持っていた二胡を見て、素敵ですわと拍手を送りながら改めて境内を眺めるロジー。
 やはり異文化は興味深いのだろう。依頼も終えたし、帰るまでに少しでも日本の夏を満喫したいと思ったようだ。
「あ、社務所でお茶を出して下さるそうです」
 討伐完了の報告から戻ってきた蜷が、社務所のほうを振り返りつつ皆に告げる。
「それは結構だね〜。まずはこちらも一休みとしよう〜」
 眼鏡の位置を調整しながら、ドクターは肯定の意味合いで頷く。
 神社の奥、木々が生い茂る森からは蝉の鳴く小さい声が響いていた。
 あの蝉達は放っておいても実害はないだろう。
「夜とか蝉怖いよねー。歩いてて、うっかり蹴っちゃったら足元で鳴くの」
「えっ、暗闇でそれは恐ろしいですわ‥‥!?」
 
 蝉や夏に対する事を話題に交えつつ、しばしの涼を求めて社務所に向かう能力者達の後姿。
 御神木の枝葉を風がさわさわと揺らす。
 まるで、能力者達に礼を言っているかのようにも聞こえ――ネイは振り返り、良い風じゃの、と微笑んだ。