タイトル:【MN】海と焼肉とフリーダムマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 35 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/09 02:17

●オープニング本文


●CTS本編とは関係ありません。まじで。

――唐突ですが、うちのお兄ちゃん。能力者とはちょっと違うみたいなんです‥‥そう、まるで人間じゃないみたいなんです。
 出会いも突然で、家の屋根を突き破って――そう、空から落ちてきたの。
『親方! 空から男の人が!』とかいってる余裕も無くて。いきなり、ガラガラー! ドスーン! ってすごい音だったっけ‥‥。

 お兄さんの名前は『シルヴァリオ』って言うんだって。落ちた時に頭を強く打ったらしく‥‥自分の名前以外の事は何も覚えていないそうです。
 拾った、といえば失礼だけど。そのまま放りだすのもかわいそうなので、ウチの家族として暮らすことに。

 そんなシルヴァリオ兄さんは、ちょっと不思議な力を持っています。物にぶつかると赤く光る。
 他の人を『地球人』と呼んだりしますし、ちょっと変わった人、なのかも。かといって悪人‥‥でもなく、結構面倒見はいいようです。

 一体何者なのかな? とか時々思ったりもするけれど、結論を言えば普段はいいお兄さん。

 そんな、とある日の事。
「よし、出かける」
 朝食を終えた兄さんが、したり顔で言いました。
「どこ行くの?」
「今日はな――‥‥」
 ごそごそと新聞と一緒に入っていたチラシを広げる兄さん。
 開かれたチラシには『いろいろできる! 海の家!』という赤い文字と、網の上でいい感じに焼かれている肉の写真があった。

「海だっ! ついでに肉!」
 今ご飯食べたばっかりですよね? 兄さん。ていうかそれバーベキューっていうんじゃ‥‥? 
 しかし。
 バァーン!! という効果音が出ていそうな程、兄さんは嬉しそうな顔をする。家族でいけるっていうのが良いらしいよ。
 
『今、車持ってくる』と外に出て行った兄さんですが。マイカー、ウチにはないんですよね‥‥。

 数十分後、帰ってきた兄さんは――車に乗っていました。だけど、着ていたコートはあちらこちら破けているし、何より車には『UPC』ってロゴが書いてあるんですけど。

「盗った‥‥の?」
 こわごわ訊ねると、『あいつらめ‥‥借りたくらいで撃ってくるなんて、どうかしてるぜ‥‥』とぼやく兄さん。いや、奪ったんだね。
 でも、何を言ってもだめだと感じた私は、諦めて助手席に乗り込んだのでした。

「そーだ、お前も友達呼んだらどうなんだよ? 折角だからみんなで遊ぼうぜ」

 友達っていうか。仕事仲間なんだけど‥‥でも、そう言ってもらえるのは嬉しい。
 私はとりあえず(というか、こうするしかなかったんだけど)ULTに依頼を出すことにしたのでした。

●参加者一覧

/ セシリア・D・篠畑(ga0475) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / 西島 百白(ga2123) / UNKNOWN(ga4276) / ラルス・フェルセン(ga5133) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / 百地・悠季(ga8270) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 白虎(ga9191) / 最上 憐 (gb0002) / 神撫(gb0167) / 澄野・絣(gb3855) / 橘川 海(gb4179) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / 宵藍(gb4961) / 東青 龍牙(gb5019) / 周太郎(gb5584) / 白藤(gb7879) / 相澤 真夜(gb8203) / ソウマ(gc0505) / 紫翠 瀬良(gc1079) / サキエル・ヴァンハイム(gc1082) / ラヴィア・ディアーボ(gc1811) / ラスティーナ・シャノン(gc2775) / 市川良一(gc3644) / イレイズ・バークライド(gc4038) / 南 星華(gc4044) / ヘイル(gc4085) / ティナ・アブソリュート(gc4189) / 巫部 香奈枝(gc4319) / 紅 和騎(gc4354) / ダンテ・トスターナ(gc4409) / 蒼波 憩(gc4428) / 一条(gc4446) / グレン・(gc4465

●リプレイ本文

●最初の名前紹介、省略させていただきました。

――燦々と照りつける太陽。沖へ行くにしたがいその色を濃くする碧海。潮風は穏やか。
 きめ細かく白い砂は、降り注ぐ陽光の熱を吸って熱くなってきていた。

 しかし、暑いのは砂だけではない。

「リュウナ! イン! ウゥミィ(海)! にゃあぁ!」
 両手を上にあげ、ニャー! と元気いっぱいに叫びながら、遊び倒すことにしているリュウナ。

「‥‥久しぶりに‥‥来たな‥‥海‥‥」
 暑くてたまらないといった表情で額の汗を腕で拭い、百白は面倒だと思いながら呼ばれた方へ歩く。
「リュウナ様! 落ち着いて下さい!」
 大きな声でリュウナへ呼びかけながら、龍牙は百白と共について行く。
 リュウナは早く早くと一緒に来ている龍牙と百白へと手を振りながら、海を指さした。
――おっと。『海』では本日お友達といらっしゃっている橘川さんが混乱する。
「ん? 私?」
 おっと失礼。そのままお気になさらず。そうそう。スルーで。
‥‥よって、以下橘川さんは『海』、水の海を指す時には『渚』とさせていただこう。日本は自然に関する言葉がたくさんあるので報告官も大変助かる。

「いい天気ですね〜? よし! イレイズさん、あの近くに見える岩場まで泳ぎで勝負です!」
「却下」
 ティナの提案は言い終わるか終らないかのうちに、不機嫌そうなイレイズから即座に拒否され、ガーンという効果音が似合いそうなほどショックを受けていた。
「即効拒否っ‥‥泣きますよ!? ていうか何で!? 鍛錬の為だから!?」
「貝殻を拾ってほしいって弟妹からの頼みだ。そっちを優先するに決まってる」
 誘って貰ったので無下にはしないが、優先順位という物がある。しかしティナは譲らない!
「‥‥よし! 勝負して私が負けたら手伝います!」
 ビッシー、とイレイズに指を向けて勝負を挑む。渋々と勝負を受けたイレイズは、のそりと立ち上がった。

「渚に来るのは久々です。折角ですし、皆で楽しく過ごせるといいですね」
 リゼットが、隣のシアンへと笑顔で告げる。彼もまた、そうだなと頷き――じっと依頼人の家族らしき男を見つめた。
「車両盗難した男の外見と似ているんだが。急所を狙ったはずなのに逃してしまったから、顔は見ていないのが悔やまれる」
 発砲したのはお前か。
 リゼットも『どこかで会ったことあるような気がしますね』と、首を傾げていた。まあ気にしないで貰いたい。
「車両窃盗犯‥‥捕まえてくればいいのか、ね?」
 しかし――彼らの眼前に、黒ずくめの男が現れた。
 シュコー、という機械的な呼吸音がする黒いメットと黒鎧‥‥つまりスターでウォーズっぽいアレ。両手にはエネルギーキャノンという物騒なものまで携えて、だ。
 この炎天下、本人が暑くて仕方がないのではないかと心配である。あ、言わなくてはたぶん分からないだろうがUNKNOWNである。
「いや、まだ瞭然とは――」「了解した。その依頼を受けよう‥‥」
 いや一緒にビールでも飲もう、そういった声も聞こえないのか、フシューと呼吸音を響かせながら去っていく。

「何処までも続く青に吸い込まれてしまいそう‥‥」
 言いながら渚を見つめているケイに、親友のセシリアはこくこくと頷く。
「‥‥楽しみ、です‥‥ケイさんと一緒ですし、肉も食べれるようですし‥‥肉も食べれるようですし‥‥」
「あ‥‥あたしも楽しみにしてきたのよ? 一緒に楽しみましょう!」
 ニコッと微笑むケイだが、内心
(肉って2回も言ったーーッ!)
 と驚愕していた。セシリアは肉が大事。その事実をまざまざと認識させられてしまったわけだ。
 肉と言えば。彼女も忘れてはいけない。

「‥‥ん。肉が。私を。呼んでいる。気がしたので。来た」
――呼んでねーよ!!
 と、シアンか海の家の店主が聞いていたら突っ込んだであろう。
 底なしの胃袋を持つ娘、憐。渚ではなく視線は海の家である。
 道場破りならぬ海の家破りに来たに相違ない。
 トコトコと中へ入り、焼きそばやら何やらを注文して平らげていく。
「‥‥なんか、怪しい店だな」
 注文した物がウェイト0秒で店の奥から出てくる。しかもカウンターの中は暗くて見えない。
 アルバイトに来たヘイトも気味の悪さを感じながら応対していた。

「おー、姫サンじゃねーかァ。今日も可愛いぜェ? ‥‥あん、どうした?」
 サキエルに頭をわしゃりと撫でられながらも、白藤は肘までずり下ろしたパーカーを気にしていた。
「タトゥーあるよって‥‥なんやみっともない、やろか‥‥?」
 きょろきょろと周囲を気にする白藤だったが、サキエルはニカッと笑って全然、とはっきり答えた。
「馬ァーッ鹿、気にする事じゃねーって。すくなくともあたしは綺麗だと思うけど?」
 そう言われて嬉しかったのか、花が咲くようなほわっとした笑みをサキエルのみに見せながら抱きつく白藤。
「ほな一緒に、いっぱい楽しもうな‥‥? 目いっぱいやよ?」
「おう。当然ッ!」
 なんという可愛らしい友情か! しかしその近くの場所で、何やら険悪な雰囲気があった。

「まさかここに来てあなたに会うとは‥‥というか、またそれ? なんで相変わらずそんな格好を‥‥」
 憩が盛大な溜息をつきながら、じろりと瀬良を見やる。
「あなただっていつも燕尾服着てるじゃないですか」
 彼女の姉の仕業か。原因は不明だが、女性用の水着を持ってきてしまったゆえコートとマフラーを着こむ瀬良。
 瀬良の指摘に憩もぐっと言葉を詰まらせる。なんだ、ただの似た者同士か。
「自分の格好を見なよ。そして早く着替えな」
 着替える服がないのでモゴモゴ言葉を濁す瀬良だが、それを反抗と取ったのだろう。
「ちょうどいい。昔の決着が付いていなかった筈だもの。決闘、しましょ」
 こくりと頷きエアーソフト剣をお互い手に取り、覚醒した。
「セーちゃんがこのわたくしに勝てるとでも?」
「お前に男の娘と言われた私の悲しみがわかるかッ!?」
 双方、激しい打ち合いを開始したのであった。

「‥‥綺麗な子ね」
「ライラ、といいます〜。メアと仲良くするんですよ〜?」
 海の家に荷物を置いたラルスとユーディー。お互い連れてきた猫をそっと床へ置く。
「撫でても、いい?」
「どうぞ〜」
 そっと手を伸ばし、ライラを撫でるユーディー。その手にメアもじゃれついてくる。
 そんな彼女たちの姿が見えたのだろう。海辺のほうからユーディー達を呼ぶ龍牙の声が聞こえた。
「おや、呼ばれているようですしー、行ってみましょうか〜。そうそう、ユーディー君はー、泳げますか〜? もし、泳げないのであればー、お教えしますがー?」
「ドイツ、あまり海に入れないし‥‥湖とかで泳いだ事なら、少しだけ」
 明確には答えなかったが、あまり泳ぎは得意でもなさそうだ。

●ラスホプコレクション2010

 と、状況の説明だけではだらけてしまう男性陣も多いだろう。
 折角女性が多いので、さらっとだが水着姿のご説明もしようではないか。
「白虎くん、何時見ても小さくて可愛いわね〜」
「あばばば、海の家の看板娘をしなくちゃいけないのにゃー!」
 羨ましくも豊満な胸にむぎゅっと収められている総帥こと白虎は置いておき、朱色のビキニ姿の星華。
 白虎は白いスク水と、高度な女装である。下の方はパレオ着用だったのか? ‥‥記憶から削除されているので報告官も悩むところだ。
「んしょ、焼肉祭も大変よね」
【AQUA】の白地に紺のドット柄ビキニとマリンカラーのロングパレオを着用し、忙しく働く若奥様、悠季。
「悠季さん。たまねぎ、串に刺しておきますね?」
 お揃いの水着姿で、同じく補佐に回る絣。
(‥‥仲良く、したいなぁ‥‥)
 青が基調のスポーティな水着姿の我らが海ちゃん、ビーチパラソルの下で寛いでいるセシリアとケイを見つめている。
 セシリアの水着姿はオレンジ色のビキニ。ケイのほうはといえばホルターネック、紫のビキニ。左胸にラインストーンの蝶がついているのが彼女のお気に入りのようだ。

「シ・ア・ンさんv御覚悟ー♪」
「何をする!」
「快気祝いと面白そうだからってことで、砂埋めを」
 パステルブルーの、ホルターネックのトップスとスカートの水着姿のリゼットに押され、砂浜にどしゃりと倒される黒いラッシュガード着用のシアン。
 その上からどさどさと砂をかけ始めた神撫。
「や〜ん、宵藍さんっ、砂が熱いです‥‥」
「裸足で歩くからだろ! ほら、靴」
 ぶりっこ傭兵のティリス、ペイズリー柄にリボンとフリルをあしらったセパレート式の水着だ。下がキュロット状になっている。
 相変わらずなティリスに呆れながら彼女のサンダルをぽいと投げ渡すサーフパンツにパーカー姿の宵藍。
「屈むと胸元が気になるので、靴履かせてくださいっ」
「ばっ‥‥! 違、見てたわけじゃ‥‥」
「?」
「な、なんでもない。うん。わかった‥‥ほら‥‥足上げて」
 着やせするタイプらしい。何気にスタイルの良いティリス。指摘されたものかとどぎまぎした宵藍。
 なるべく目の前にある危険物を見ないようにと気をつけつつ、宵藍も健全な男の子。やっぱりちらちらと目をやっていた。

「‥‥しかし。俺は泳げんのに、なぜ渚に居るのか」
 周太郎の呟きは潮騒に消える。トランクス調の水着で砂浜に立っていた。
「仕事もないので夏休みという事で来た訳ですが‥‥困りました。私は『遊び』ということをした覚えがなくて‥‥とりあえず普段やっていることをすればいいんでしょうか?」
 と、同じようにラヴィアもメイド服姿で考えていた。海にメイド。これは新しい。
「周太郎様。共に遊泳を楽しむと致しましょう」
 ラスティことラスティーナがグイグイと周太郎の腕を引っ張り泳ごうとしている。
 落ち着いた紫色のヘソ出し水着姿の美少女が積極的に勧誘しているのに、周太郎は嫌だとかぶりを振った。
「って、今ちゃんと俺の泳げないって言葉聞いてた? ラスティ!」
「またご冗談を。使用人たるもの泳げて当たり前ですよね」
 イヤーと言いながら引きずられる周太郎をよそに、次に行こう。
「前よりは少しおよげる様になってますよ! ‥‥浮き輪付きで」
 ちょっと赤くなりつつ、浮き輪をしっかりと片手で握る龍牙。青いビキニ姿がまぶしい。
「水から顔を出し‥‥口から空気を吸って‥‥水に顔を付けて鼻から出す」
「にゃー! 龍ちゃん、ユーディーっち、頑張るなりよー♪」
 百白の指導とリュウナの声援を受けつつ、息継ぎの練習を始めている龍牙。
「泳ぐの‥‥久しぶり、だから‥‥」
 彼女なりの強がりなのだろうか。ラルスに手を引かれつつ、その近くでユーディーも泳いでいた。
「大分〜〜、勘をー、取り戻しましたかー?」
 水の中だとあまり見えないのだが、サーフパンツ姿のラルスが『飲み物をかけて競争もいいですね』と笑っている。

「貝殻、綺麗な貝殻多く拾った方が勝ち! ってことで、よーいスタートっ!」
「あっフライングしやがって、待てっ!」
 ビキニ姿のティナの後を追うイレイズ。先程の勝負には勝ったようだが、今回は勝ち目があるのだろうか。
「この戦いは余りにも不毛だね‥‥もうお開きにしてかき氷でも食べよう」
「賛成‥‥友達同士で駄目だよね‥‥」
 ゼーハーと肩で荒い息をしつつ、最初からそうすればいいのに憩と瀬良は共に健闘をたたえ合いつつ海の家へ帰って行く。

「フォーs‥‥エミタを信じるのだ‥‥」
「なんなんだっ、お前は!」
 覚醒して、スキルまでもを使いながら逃げるシルヴァリオを追うジェダ‥‥スナイパーのUNKNOWN。
 射撃の技能、彼自身の傭兵としての能力、そしてキャノンの性能。どれをとっても凶悪であった。
 しかしシルヴァリオも記憶がないといっても猛者である。体が避ける術や防御の仕方を覚えていた。
 大人しく当たればそれで済むのに、プライドが許さなかったのだろうか。
「野菜剥いたッスよー。巫部さん、これ調理お願いするッス」
「はい」
 トランクス水着姿のダンテから食材を渡され、網の上に置いていく香奈枝。
 口数は少ないが、楽しい思い出にしたい、という気持ちは強く、皆の為にと手伝ってくれている。
 そんなのんびりとした空気が流れる砂浜に、暫くの後――ドカーンとひときわ大きな音が聞こえた。

●まあ、この時期ですので。

「‥‥いいですなあ、リーダーさん。羨ましいと思いませんか」
「まったくですな、ユキタケさん。このキャッキャぶり、如何にも壊してくれと言っているようなものです」
 海の家ラストホープ。その実態は、チームエンヴィーというモテない人々が戦う、三大行事の為の活動資金を稼ぐ手段である。
「くっ‥‥シアン大尉め。恋人がいつの間にか出来て、なおかつ膝枕ですよ。そこから眺める絶景‥‥うう、僕は子供の頃に見たお母さんのしかないのに‥‥」
「泣くな兄弟よ! 俺も悲しい!」
 焼きイカを売りながら、おいおいと泣く男ども。イカは涙の味に染まっているのではないだろうか。
「‥‥クジラとか。マグロとか。獲れなかった‥‥でも、ウニとか。降ってきた‥‥イカの匂い。カレー、ないかな」
 微妙にしょんぼりとした様子で帰ってきた憐。目についた焼きイカを片っ端から片付けていく。
「泣いている場合ではないぞユキタケ君! 毎度のリア充粛清をやるぞー!」
「さっきまで美味しい思いしてたくせに‥‥」
 微妙に最近説得力が薄くなってきた総帥、白虎。しかし、近くに居た真夜はノリノリである。
「じゃあバレーボールでぼっこぼこですねっ! ユーリくんもやるよね!?」
「結局こうなるのか‥‥」
 姉のいうことには逆らえないのか、困った顔で渋々頷くユーリ。
 ヘイトにビーチバレー用のボールを頼むと、何故かトゲ付きで落とすと爆発する仕様を渡された。
「‥‥あの待ってください皆さん。僕一般人なんでこれは‥‥」
 ユキタケの辞退にも『軍手してれば大丈夫だから』と意味の分からない解釈で無理やり参加させる皆。
「それじゃーこれから『もげろ! リア充杯』を開催にゃー!」
 ぱちぱちー、と投げやりな拍手を受けつつ、数人ずつチームを組んでの開催となった。

「ケイさん‥‥向こうでビーチバレー‥‥やるみたいです‥‥一緒に行きませんか?」
 活気づいてきた行事。セシリアは思い切って、隣でトロピカルジュースを飲んでいるケイに訊いてみた。
「あら、楽しそうね。セシリアからの提案だもの。乗らないワケないわ?」
 スッと立ち上がったケイは、んー、と伸びをして行きましょうと手を差し伸べた。
「はい。肉の前に身体を動かして、肉に備えるのです」
 結局肉なのか、セシリア。しかし、ケイと一緒に遊べるのが一番大きいところ。
「楽しみはしますが、やるからには勝ちたいのです‥‥」
「そうね、やるからにはトップを狙うわよ?」
 こうして美しき娘たちも、ビーチバレー大会へと足を運んだ。

「アンタも記憶が無いのか‥‥」
「ああ。別にどうってことないけどな‥‥こういうとき以外は」
 自身も記憶喪失だったため。シルヴァリオが気になるのだろう。隣に座った彼にそう聞いた。
 シルヴァリオは不機嫌そうに『くっそあの黒ずくめ‥‥ライトセイb‥‥いや、剣があれば』とブツブツ呟いていた。
「シル‥‥ヴァリオ、やんな? うちとサキで、一緒にビーチバレーせえへん?」
 おず、と紫地で黒の茨模様が入ったビキニ姿の白藤が彼を誘いに来た。ちなみにショートパンツである。
「面倒くせえよ。オレは肉を食いに来たのに――」「男がぐだぐだ言うなや、ちっちゃいやっちゃなぁ‥‥! あ、サキ反対側宜しゅうv」
 がうっ、という擬音がつきそうなくらい可愛く怒ってから、がっしとシルヴァリオの右腕を捕まえて引っ張り立たせる。
「姫サンがああ言ってんだ。こういう機会も無ェ。付き合えよ、色男サン?」
「あ、シルヴァリオさんも一緒に遊びましょうよー!」
 真夜もじゃれつくようにシルヴァリオの服を引っ張りながら、彼を出迎える。

「‥‥白虎さん、なんですかあの銀髪はモテモテじゃないですか。なんか人類の敵な気がしてきましたが、リア充ですよね?」
「うにゅ。僕もそう思ったにゃー。リア充の粛清要因にと思ったのだが旗取りは難しかったねー」
 巨大フナムシ(ラジコン)を走らせながら相槌を打った白虎。ビーチは驚きと混乱である。
 先程バラ撒いたウニやナマコといった海産物は、片っぱしから憐に拾われていたので彼女が美味しくいただいたのだろう。
 しかし、どこにでも正義の味方は居る物で――
「やらせんよ総帥!!」
 良一がフナムシラジコンをバットで叩きまくって駆除‥‥いや、ガワであるハリボテを破壊する。
「にゅっ、良一君、邪魔するのかにゃっ!?」
「人の迷惑になる事はしない、という教えがあるでしょう!」
「なにをいう。人の嫌がる事は進んでやれ、という言葉もあるのにゃー!!」
 やらせんよと言いながら良一は白虎を追いかける。一人残された店番、ヘイトは『オイル塗りますよー』と呼びかけていた。

 そして女性陣に囲まれるシルヴァリオを見つめながら、嫌な予感を感じ取ったソウマ。
(‥‥勘違い、でしょうか‥‥っと、しかし――相変わらずユキタケさんもシアンさんも巻き込まれてるし‥‥)
「宵藍さん、ビーチバレーやりましょう〜? ティリス、一人じゃ怖い〜‥‥っと、ユーディー、邪魔っ」
 周りには見知った顔がちらほらとある。宵藍を誘って参加するらしいティリスを発見した。ジュースを持ちながら前を歩くユーディーを押し退けていく。
(凄いなあ‥‥)
 はたから見ていたソウマはある種尊敬の念を抱く。一緒に居る宵藍もティリスのぶりっこは気付いているのだろうが、相変わらず裏表が激しいのだ。
 ジュースを零さないように歩くユーディーを見つめながら、以前転びそうになった時に受け止めてくれた人だという認識を持っていたソウマ。
 またなんか嬉しい事件が起こらないかなと思っていると、突然目の前に星が散った。
「あらやだ、ごめんなさいね〜? ‥‥まだコントロールに難があるかしら」
 ビキニの紐がほどけたらしく、遠くから星華が胸元を押さえつつ謝罪した。近くの女性に結び直してもらっている。
 強烈なスパイクは彼女の物らしい。ちなみに不埒な事を考える男性に当たる仕様なので仕方がない。運がなかったと諦めてほしい。
 ガクリとソウマが倒れ、ボールもごとりと落ち――チュドーン、という爆発が起こった。安心してほしい。火薬は微量だ。重体も無い。

「リア充大尉、お覚悟ーー! もげろ!」
「くっ!」
 ユキタケのアタックをレシーブしつつ、可哀想にシアンは集中的にアタックやらスパイクを受けていた。
 特に恨みは無いのだが、ユキタケの豹変ぶりが面白いのでユーリはちょっと加減しながらアタックしてやる。
「赤くないけど三倍だ!!」
 和騎は瞬天速でそれを拾い、仲間に繋ぐ。
 ビシバシと球を食らっている最中に、シアンの顔つきが変わってきた。
「こんなにしごかれたのは新人以来だ‥‥よく先輩たちから理不尽にスパルタを受けたものだ! 不屈の闘志がわき上がってきたぞ!」
――それいじめだったんじゃ‥‥
 思わず神撫とリゼットは声に出すところだったが、シアンが超やる気だ。
「シアンさん、結構、熱い人だったんですね‥‥」
「ぶつけるところがスポーツしかなかったんじゃないの?」
 ひそひそと話す彼らに目もくれず、恐ろしいアタックを繰り出しては『まだまだっ!』と構えていたシアン。真夜たちもちょっとその闘志にタジタジである。

「えへ、蒼海の竜騎兵、いきますっ!」
 海が絣とペアになって、絶妙なコンビネーションで立ちまわる。特に絣は風向きを読み、正確に揺さぶりをかけていた。
「打て、ティリス!」
 しかし、迅雷まで使用して拾い続ける宵藍は、ティリスへと繋ぐ。
――俺より背高いんだから任せたっ!!
 という心からの叫びが聞こえるような気もする。
「はいっ! ティリスアターック!」
 へにゃり、とネットにぶつかるボール。ピピーと笛を吹きながらタッチネットとして海たちに得点を入れる悠季。
 配膳や備品管理等もしながらだというのに、その働きっぷりには頭が下がる。
「ティーリースぅ‥‥お前バレーも出来ないのかよ‥‥」
「う‥‥ごめんなさぁい、あのボール怖いですぅ」
 がっくりと項垂れる宵藍達をよそに、白藤がエエ顔でシルヴァリオ目がけて打つ。
「白藤の気持ち‥‥うけとってぇや‥‥っ♪」
 眼は笑っていない。本気で顔面を狙って思い切り打ってきている!!
 しかし、易々とレシーブするシルヴァリオ。隣のサキエルを顎でしゃくる。
「ほら、思い切りやっとけ。やりたくても日ごろ出来ないんだろ?」
「姫サンに対してンな事思うわけ無ェだろーがッ! あんたに打つぞ!?」
 サキエルも怒りながら、白藤にアタックを返す。何気にビーチバレーは覚醒しつつのスキルOKの本気対決である。

「にゅ! (胸が)大きいのはリュウナの敵なり!」
「リュウナ様! 落ち着いてくださいっ!」
 女性なら誰しも一度は思う悩み? なのかもしれない。リュウナはセシリア、ケイへとアタックを打つ。
 なかなかいいスパイクだったが、それをすかさず拾うセシリア。
「‥‥ケイさんっ!」
 そう親友を呼ぶが、ケイはすでに動いていた。彼女の身体は綺麗な弧を描き、跳ねる。
「ナイストス、セシリアっ!」
 強烈かつ、ドンピシャなタイミングで放たれたスパイク。
「落としませんっ!」
 龍牙が回転レシーブで拾い上げる。なかなか気合の入った拾い方である。
 友情対決は苛烈さを増しているが、ここで臨時ニュースです。
 先程、ラスティさんに拉致られた周太郎さん(外見年齢23歳)、なんと金槌だったため沈んでいたところを先程無事ラヴィアさんとラスティさんの手により救助されました。
 被害者である周太郎さん曰く『俺は深い水は全然駄目』との事ですが、加害者のラスティさんは全くと言っていいほど自覚は無く、
『使用人たるもの、海も泳げないとはどういうことか』と加害者を正座させ、説教するという状況です。
 救助に当たったラヴィアさんからのコメントは『お任せください。メイドですから。救助を開始します』とのことで、
 尚、事態は和解の方向に向かっており、一刻も早い解決が望まれています。以上、現場からお届けいたしました。

●ラスホプの海から

 ぷかぷかと浮かぶゴムボートの上では、ダンテが悠々とふんぞり返って楽しんでいた。
 一方、砂浜では。
「何故、僕が埋められてるにゃー!?」
 スイカがあるから来て、と呼ばれた先には落とし穴。うっかり埋まった瞬間に埋められてしまった。
「いや、なんで僕もですか!?」
 ソウマも隣に埋められ、不安そうな眼をして星華を見上げる。
 うふふ、と笑いながら良一が海の家から持ってきたスイカを受け取り、二人の間にそのスイカを置くと――
「さぁ皆さん? 白‥‥じゃなくてスイカ割りはじめましょ?」
 と、目隠しをして木刀を振り下ろした。
「ぎにゃーーー!? かすった、今耳かすった!」
「あら失礼、こっちかしら」
 ヒュン、と今度はソウマの髪を数本飛ばしていく。
「なんで僕がこんな目に!?」
「‥‥なんでって‥‥さっき私の胸を見たから、お・仕・置。よ?」
 はずれのたびに悲痛な声が木霊するフェイクスイカ。はずれの確立が三分の二という高確率。ある意味当たり。
「総帥。贖罪と思って」
 良一の淡々とした声がして、いやだーと絶叫する白虎。
「何か既視感が‥‥」
 自分の姉に行動が似ている星華をやや警戒しつつ瀬良は焼肉を食べようと海の家を目指す。
 動くスイカと聞いて、狙い撃とうとするリュウナを龍牙が慌てて止め、ゆっくりとスイカの元まで声で誘導する。
 危険だらけなので、龍牙の苦労は測り知れないものだったに違いない。
 スイカが割れた後。和騎がぶぉんと木刀を振りかざした。
「見える! 私にもスイカが見えるぞ!!」
「ちげえええぇぇ!!」
 ゴッ。という鈍い音が、聞こえた。誰がこの一撃を食らったのか? それは自己申告制にしておこう。

「‥‥ん。シアン。お土産。良く分からない。水生生物が。捕れた」
 焼きそばを神撫とリゼットの三人で食べていたシアンの前に差し出された袋。中にはにゅるっとしたものが入っている。
「ナマコもいるようだが‥‥こっちのは本当によく分からんな」
「‥‥ん。何やら。怪しく。蠢く。ぬめぬめとした。物体」
 いつの間にかシアンの焼きそばを奪って食べている憐。
 ぬめる生物、でリゼットがやや引いたので、シアンは『こういうものだ』と見せようとぬめぬめしたものを手に取る。
「そ、それを私に見せたら覚醒しますから! シアンさんでも叩きますッ!」
 ちょっと青ざめて涙目になっている。どうやらこういうものは本当に駄目らしい。
 再び袋に戻し、自身の手を見ると――真っ赤に染まっていた。
「‥‥ん。シアン。血? 噛まれた?」
「‥‥いや、これは‥‥」
 赤い物を拭った後再び袋を見て、シアンは肩をすくめた。
「理解した。アメフラシだ」




 海の家の中では、じゅうじゅうと水が爆ぜる美味しそうな音と、かぐわしい香りがあちらこちらから聞こえ、響き、モノが焼ける匂いは充満していた。
「肉追加ーっ!」
 一条が黙々と肉を食す。彼の前には何枚かの皿があって、察するところビーチバレーが始まったあたりから食していたようだ。
 追加の皿を持って、あちらこちら歩き回るラヴィア。予想外に早く減る肉。
「最高のお食事にして差し上げます。ご安心ください。給仕には自信があります」
 ラヴィアはクールな顔でてきぱきと皿を片づけ、運んでいるのだが――楽しそうだ。
「いや、いったいあの奥には‥‥やめておこう。飯は美味いうちに食べたい」
 ヘイトはようやく放免されたのか、皆に混じり、バイトの体験談をしつつ肉を食している。
 周太郎は、結局皆のために肉をとりわける方へと回ってしまっている。もともと気を配る人なのだろう。
 その横ではやはり同じくして周りのために尽くすラスティが。
 ビールを飲んで大はしゃぎする星華へと静かな(怖い、と言ってもいい)雰囲気で注意し、再び作業に戻る。
「ラスティ。ほれ、肉。自分も食わないとな」
 苦笑しつつラスティの分も肉を取ってやり、それに気づいた彼女もぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます。どうしても自分の事は二の次になってしまいがちで」


「あつ、あ‥‥っつ‥‥あぁもぉ‥‥っ!」
 白藤は食べごろの肉が取りたいのに、熱くて取ることができないという悲しい状態になっていた。
 仕方なく端に追いやられた肉を口に運ぶ。だが、サキエルが周りのために肉を焼いては各自の皿に入れていた。
「おおきにな、サキ‥‥あーんv」
 白藤より差し出された肉を、反射的にパクッといただくサキエル。いい食い付きっぷりだ。
 それに気を良くしたのか、近くに連れてきたシルヴァリオにも差し出した。
「シルヴァリオ‥‥なんやめんどいなぁ。シル、あーん?」
 それを面白くなさそうに見たシルヴァリオは、ついと目を背けた。
「‥‥自分で食えよ」
「黙って食べ!」
 仕方なく、と言った顔で食べるシルヴァリオ。餌付けに成功したのが楽しいのか、白藤はニパっと笑う。
 それを観察していたサキエルも何を思ったか、スッとシルヴァリオへ肉をつまんで差し出した。
「‥‥おい。お前も何のマネだよ」
「べっ、別にあんたの為とかじゃねーからな!? に、肉が残ってたから仕方なく。熱いうちにだな」
 慌てる必要もないのに、わたわたとするサキエル。じーっと訝しむシルヴァリオだったが、急かされて再びパクついた。
「ど、どうだ。美味かったか?」
「どれも同じだろ」
「可愛げないやっちゃな、ほんまにもぉ‥‥」
 熱々だな、お三方。という神撫の冷やかしを、三人は絶対的に否定した。

「‥‥ん。その肉は。頂く。早い者勝ち。弱肉強食」
「さっき沢山食べていただろう。まだ食べるのか」
 さっきまで海の家のメニューを食べていたくせに。しかも料金はシアンが支払うはめになっていた。
 シアンが取った肉を片っ端から取って行く憐。素早く取っても、憐の素早さからは逃れられなかった。
「‥‥ん。肉を。皿に取る瞬間に。最大の。隙が。発生する。貰った」
 シュッと残像が走ったと思えば、既に手元に肉は無い。
「まあ、シアンさん。肉はあげますから‥‥」
 と、肉を口元に運んでやるリゼット。少々照れつつ、シアンはそれを口にした。
「大尉の不潔!!」
 わっと顔を両手で覆って泣き出すユキタケ。リゼットが憐れんでアーンしてくれるかなとも思ったのだが――しかし、なにもおこらなかった。

「さあ、砂糖がお肉をおいしくしてくれるんですよ!」
 ざばっ、という擬音語が適切である程に。砂糖を肉にかけまくる真夜。
「普通はそんなにかけないよッ!」
 ユーリが的確な突っ込みを入れるのだが、食べたいのだと勘違いし、ユーリの分も砂糖をかけるという暴挙に出てしまう真夜。
 何を言っても無駄だとやはり諦めモードに入りつつ、隣で焼きおにぎりを焼きはじめたユーリ。醤油が焦げる匂いと、おこげが食欲をそそる。
(俺のには頼むからかけないでくれよ‥‥?)
 側で食べていたイレイズと一条が眉を顰める。砂糖の量が半端ないのだ。見ていると此方まで胸やけしそうだなと一条は口に出さないまでも思う。
「美味いのか、それ」
 グレンの問いに対して、美味しいよと笑顔で応えた真夜につられ、グレンは一切れそれを口にした。
「甘ッ!!!」
 がくりと突っ伏すグレン。一条とイレイズが『無茶するから』と、水を差しだしたり背中を叩いたりする。
(美味しくなるなら‥‥是非皆さんに美味しく食べてほしいです‥‥)
 香奈枝もそれにならって少量かけているのだが、下ごしらえでやるものだというのを、頼むから気付いてほしい。

「‥‥肉です、肉」
 次から次へケイに肉を取り分けるセシリア。彼女の瞳は狩人のそれと同等に鋭く、宝石のように輝いていた。その輝きは通常時の倍、とケイは語る。
「セシリア、ちょ、ちょっと! こんなに肉ばっかり、あたし食べれないわよっ!」
 やんわり拒否するケイへと何故だ、という眼を送るセシリア。しかし、それも数秒。
「‥‥いっぱい食べないと、大きくなれませんよ!」
 言っている側から肉を網の上よりゲットしまくるセシリア。一体何が彼女をこんな風へと変えてしまったのだろうか。
「‥‥美味しいですね‥‥」
 ごきゅりとビールを喉へと流し込み、アツアツの肉をはむはむと噛みしめ、幸せを実感するセシリアだった。
 幸せそうな友人の顔を見、同じく満足そうな顔で肉を取ってやるケイ。
「美味しいビールにお肉、大切で大事な友人‥‥最高の贅沢ねv」

「宵藍さーん! さっきはかっこよかったですよ〜。私、キュンッてしました!」
「そうか‥‥そう言われると悪い気はしない、けど‥‥動けん」
 心身ともにお疲れモードの宵藍。ぐったりと机に突っ伏している。
 つんつん、とつつくと反応するが、やはりすぐにぐったりしてしまう。
「‥‥‥‥」
 そっ、っと席を立ったティリス。気配が消えたのでどこに行ったのだろうと思った宵藍だったが、間もなくしてティリスはトレーにビールと肉を乗せて戻ってきた。
「しゃ、宵藍さんっ‥‥ビール、ビール取ってくださァい。零しそう‥‥!」
「でかしたぞティリス! 気が利くじゃないか!」
 思わずガバッと起きて、ビールを両手に持ってやる宵藍。撫でてやりたいところだが、身長差だけではなく、相手はまだ立っていたので止めた。
「それじゃ、乾杯。‥‥宵藍さん。今日はありがとうございます。すごく楽しいです」
 乾杯しつつ、感謝の気持ちを上目遣いで言うのだが、裏がありそうだと分かっていてもあまり嫌な気はしない宵藍。
「そりゃ良かった‥‥また、依頼頑張ろうな。少しでも働けるように」
「ふぇ。それは、言わないでくださぁい‥‥」
 しょぼん、とするティリスを見つつ、宵藍はビールを美味そうに飲むのであった。

「‥‥エビ、好きなの?」
「‥‥ん?」
 じっと自分の手元を見つめているユーディーの視線には気づいていたが、指摘が『エビは好きか』なのか。
 百白は返事にならない声を上げつつ、彼女の皿へ大量に積まれた肉を見る。
「肉、好き‥‥か?」
「‥‥もらった、から」
 隣では、適度に冷ました肉を猫たちにやっているラルスがいて『傭兵の仕事はー、体力勝負ー、ですからね〜』とのんびりと言ってまた大きくなってきたメアを撫でていた。
 ユーディーの皿に乗った肉は、彼が取ってくれたものらしい。
「メア! 後で一緒に遊ぶのら! ‥‥にゅ?! 野菜は嫌いなのら! ひゃくしろにあげるのら!」
「リュウナ様! ちゃんと食べないと大きくなりませんよ?」
 彼女の野菜嫌いを直そうと尽力する龍牙。しかし、リュウナは素早く百白の皿へと投げる。当の百白は我関せず、エビの殻を剥いていた。

「はう、太っちゃう‥‥。というか、みんななんでそんなに体重軽いの〜?!」
 皆の体重をご存じか、海ちゃん。‥‥あなたまさかちょっと重いのか。
「え!? ね、念のためいっておきますけど、私の体重は平均ですよっ!?」
 ブンブンと否定する海。彼女を見つめて絣と悠季は首を傾げる。
「さっきから海さん、誰と話してるんですか?」
「さあねぇ? あ、肉焼けたわよ」
 やっぱりここでも取りわける悠季。目の前に積まれる肉の山。少食なのと、食べるのが遅いので涙目になる海。

「それで? この後どうするの?」
 憩が瀬良に訊ねると。暗くなったら花火があるらしいと教えてもらう。
 そういえば、誰かがそんな事を言っていたなと憩も思い出した。

●輝く花火

「今日は楽しかった‥‥ありがとう」
 花火をしながら、ユーディーはラルスに礼を言う。猫は危ないので籠に入れてある。
「いえいえ〜。何処か行きたい時はー、遠慮なく、お声をかけて下さいね〜?」
 またご一緒したいですね、と笑うラルスに、ユーディーは嬉しいと感じたのにうまく言えないので黙りこくる。
「‥‥そうそう、水着、よくお似合いでしたよ〜?」
 彼女の着ていた水着は、ショップの店員に選んでもらった白いビキニであった。
「‥‥ありがとう。でも、なんか‥‥恥ずかしい」
 早口に言って、ユーディーは線香花火に目を落とした。

「にゃー! ねずみ花火っ!?」
 自分の足元にやってきたねずみ花火からあわあわと逃げ惑うリュウナ。
 龍牙は、やはり一人で花火を楽しんでいたであろう百白を探してみたのだが――どこかに行ってしまったようで見当たらない。
(皆で花火した方が楽しいのに‥‥)
 残念だったが、きっとまた戻ってくるだろう。そう思いなおし、リュウナと花火を楽しむことにした。

「花火、好きですか?」
 瀬良はシルヴァリオにそう話しかけてみる。
「初めてだ」
「‥‥綺麗ですよね」
 返事を言う前に、海がにこりと笑顔を見せて、近くにしゃがみこむ。香奈枝が海に花火を手渡し、再び違う花火に点火して他の者にも配る。
「えへ、楽しかったですっ。また一緒に遊べたらいいですねっ!」
 海はシルヴァリオにそう話しかけ、彼は彼女と花火を交互に見つめた後。
「――‥‥」
 小さく何かを、呟いた。

「今日は色々あったが手伝ってくれて助かった‥‥ありがとう」
 緑色の花火を見つめながら、イレイズはティナに礼を言う。
 此方こそ、とティナも嬉しそうに言って。
「また鍛錬付き合って貰えますか?」
 と訊ねて。機会があればと言った彼に、ティナは笑顔を見せていた。

「見て、綺麗」
 悠季が手持ち花火を廻し、うっすらと流れる光の跡を楽しむ。
 儚く、そして鮮烈な光を見つめ、悠季は呟く。
「想い出が‥‥何時までも胸に輝いてると良いわよね」
 その近くでは、絣の横笛が静かに、優しく、切ないような旋律を奏でていた。



●夏の思い出

 皆と別れ、盗んだバイ‥‥車で帰ろうとしたシルヴァリオ。
 そこに、再びUNKNOWNが現れた。
「てめ‥‥」
 シルヴァリオは舌打ちして依頼人を思い切り突き飛ばし、自身はEキャノンの直撃を受ける。
 派手な音と共に吹き飛ばされるシルヴァリオとUPCの車両。それを確認したUNKNOWNは暫し残骸を見つめた。
「よし、これで証拠は隠滅‥‥いやいや」
 1カメの場所を捉え、UNKNOWNは表情を切り替えた。
「くっ、バグアめ。なんて酷い事を。コーホー‥‥」

 よろよろとシルヴァリオが倒れているあたりに近づく依頼人。
 しかし、シルヴァリオは痛がるそぶりは無く、上空に浮かぶ赤い月を見つめていた。
「‥‥そうか。そうだったな」
 むくりと起き上がると、依頼人やUNKNOWNを気にすることなく数歩離れると――指を鳴らした。
 どこからともなくやってくるHW。車両盗まないで最初からそれ使えよというのはいわないお約束なのである。
「世話になったな、地球人。もう遊びは終わりだ」
 兄さん、と声を投げられたが、記憶が戻ったらしいシルヴァリオは『兄なんか居なかったろ?』と呟いてHWに乗り込んでいく。
 HWが見えなくなる。そして帰ろうと思った彼らの前に、車から降りて向かってくる警察官の姿があった。
「この状況について話を聞きたい。盗難された車両ですよね?」
 UNKNOWNが目の前を歩いていたシアンとユキタケを指さす。
「バグアと友好的だった軍人だ。彼らに聞いてくれないかね?」
 なにっ、と絶句して一目散にそちらへ走っていく警察官。これは知れたら大事件になるだろう。
 その近くでは、星華がごみ袋を持って歩いていた。
「皆帰るわよ、ゴミなんか残していったら関節技だからね」

 海辺と思い出は、綺麗にね。