タイトル:ぶりっこを救出マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/18 23:59

●オープニング本文


●気付かないのもアレ。

 ヨーロッパ某所、AM10時25分頃の事だった。
 輸送任務に就いているという傭兵からの連絡が、丁度仕事を探している君たちのところ――まあ、斡旋所に依頼が入った。
 任務を簡潔に説明すると、任務途中で傭兵が一人はぐれてしまったらしいので、その回収だ。
 現在彼らが就いている輸送業務、重要である他時間『厳守』の為、その傭兵を拾いに戻れない。
 だから君たちにその保護というか回収というか‥‥そういったものを頼みたいということだ。
 引き受けた傭兵たちも、依頼した傭兵たちも楽な仕事‥‥仕事と言うほどでもないと思っている。
 しかし、追加情報『必読』が更新されると、そうも言っていられなくなった。
 依頼主の傭兵が最後に接触対象と交信した折‥‥キメラの出現を伝えていたからだ。

●その頃の回収(される)予定者 

(「こっちこないで、早くどっか行って! お願いっ‥‥誰か助けて‥‥」)
 その当事者‥‥ティリスは巨木の陰に隠れて、息を潜めながらお迎えが来るのを待っている。
 胸中は不安と恐怖でいっぱいだ。

 なぜなら。

 彼女が隠れている木の近くでは、キメラが複数出現しているのだ。
 そっと息を殺し、木の裏から窺い見るティリス。
 木の近く‥‥とはいえ木から10mくらいは離れているが、この程度の距離なら無いも同然だ。
 大きさは1mほどだろう。黄緑で、艶はあるのだが出来そこないのゼリーのような、凝固しきれていない半液体状の物体。俗に『スライム』と呼ばれているものの姿。
 そして全長3m近くあると思われる黒い巨大蜘蛛。毛の生えた巨大な足を器用に動かし、ゆっくりと周囲を歩き回っていた。
 ティリスは幸いにして、この蜘蛛に気付かれなかったようだ。蜘蛛の眼は後ろも見えるというのに本当にそこだけは幸運である。
 最後に‥‥何故か、ハニワキメラ。目と口が同じ大きさだ。見た目の愛らしさ(?)ゆえに特に害はなさそうに思えるが、これもまたキメラ。足も無いくせにサッ、サッと恐ろしく移動が速い。
 気付かれないようにそーっと、かつ素早く顔を引っ込めたティリス。漏れそうになる溜息も押さえつつ、繋がらないように電源を切っている無線機。
 仲間を呼ぶのだから電源は入れておきたいが、もしもその連絡でキメラが自分に気づいたら――? そう思うと無線を入れることが出来なかった。
 以前、仲間がいっていたのを思い出す。一人でも戦えるようにならないと危ないのは自分だと。
 その身をもって自覚するティリス。しかし、やる気を起こしたとしても。どれから倒せばいい?
(「わかんないよ‥‥どうしよう‥‥怖い‥‥」)
 手にした無線機をぎゅっと握りしめ、心細さに泣きそうになった。

――その時だった。

 がさ。と、草をかき分ける物音。

 バッと視線をそちらに移動させたティリス。
「ハ?」
「‥‥ニ?」
「ワ?」
「‥‥っ!?」
 3匹のハニワと眼があったのだ。
 思わず立ち上がり、逃げ腰になった彼女の方へとハニワが近づいてきた。
「ハーニワー」
「ちょっとっ‥‥あっち行って!」
 声を潜めたにも関わらず、蜘蛛に見つかってしまったらしい。くるりと方向を変えて、ざかざかと木のほうへ進んでくる。 
 今回ばかりは、誰もいない。
 誰も助けてくれない。

――もう、ダメかも。

 無線機を握りしめ、ティリスは涙で滲む世界と、キメラの姿を見つめていたのだった。
 絶望の中にあってもただ一つ『希望』があったとするなら。

 無線機の電源が、握り直した拍子にオンになった事だった。

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
如月(ga4636
20歳・♂・GP
アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
リネア・フロネージュ(gb9434
22歳・♀・HG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
輪島 貞夫(gc3137
25歳・♂・CA
火神楽 恭也(gc3561
27歳・♂・HG

●リプレイ本文

●ティリス?

「ふはははは! 埴輪が俺を待っている! 今回の埴輪はどんな埴輪かな、と」
 出落ち感が否めないが、アルト・ハーニー(ga8228)が車内で高笑いし期待に胸を膨らませていた。
 そこで、冷静に輪島 貞夫(gc3137)は『我々と同じ能力者の傭兵を救出する任務ですね』と内容を確認。
「さて、埴輪‥‥もとい、救助対象はどこにいるんだぞ、と」
 アルトも誤魔化すかのように外を探す。あくまで第一はハニワらしいのも、『ハニワ軍団総帥』であるから仕方がないのだろう。

「またティリスか‥‥」
 うん、すまない。『また』なんだ。だが、見殺しにするわけにもいかない。止む無し、といった体で宵藍(gb4961)はあのぶりっ子傭兵の顔を思い浮かべる。
 あの仕事の出来なさを見る限り、戦力外通知でも突き付けられて放り出されたと言われた方が納得できる。
「ティリス様は余り戦闘が得意ではなかった筈。かなり危険な状態なのは疑いようもありません‥‥」
 リュティア・アマリリス(gc0778)が愛車のハンドルを握りながらそう口にし、
「少しでも早い方が良いでしょうから、急ぎましょう!」
 助手席のリネア・フロネージュ(gb9434)が真剣な顔で頷いた。

 一方、時任 絃也(ga0983)の車でもムーグ・リード(gc0402)がティリスの事を思い浮かべていた。
(‥‥アノ時、ノ、彼女、デス、カ‥‥)
 一緒に同行した女性、程度にしか思っていなかった。そういえば、不安そうな様子もあった気がすると彼は思う。
――良い方に解釈しているムーグには悪いが、それはあの女の芝居だ。
 ムーグは窓の外を注意深く眺めながら、今回も彼女は不安だろうか、と思う。
(‥‥ナント、シテ、も、助け、ナクテハ、DEATH、ネ)

(15分‥‥まだ、間に合うはずですね)
 もう、死なせたりはしない。だから、護る‥‥!
 蓮角(ga9810)も同じく。
 固い誓いを胸に秘めつつ、窓の外に映るものを見逃さないよう眺めていた。

●最後には希望が

『ティリス。大丈夫か』
 突如無線から宵藍の声がした。一瞬の安堵が胸を熱くさせたが、出てきた言葉は『大丈夫なわけ、ないよぉ‥‥』という、泣き言だった。
 鋭い爪で攻撃してくる蜘蛛。殴りかかってくるスライム、体当たりを敢行するハニワ。
 無我夢中で避けていても、避けきれぬ攻撃は背中や腹部より衝撃として伝わり、目の前が赤く点滅する。
『今向かってる最中だ。もう少しだから頑張れ』
「ティリス、頑張ってる‥‥!」
――すごく痛いけど。
 ぶりっ子する余裕も無い。まっすぐ立っていられぬほどに痛かったが、仲間が助けに来てくれるという微かな希望が湧いてきた。
 ここで倒れては‥‥いいや、死なない。
「っく‥‥!」
 恐怖と苦しさを堪え、練成治療を施しながら距離をとるティリス。本当なら練成弱体などで少しでも有利にしたいところだが、回復を切るわけにはいかなかった。
 避けつつ傷を癒しながら時間を稼ぐ彼女の耳には‥‥車のエンジン音が聞こえてきた。

「‥‥あれはキメラ?」
 外を見ていた宵藍が大きな蜘蛛を発見し、ほぼ同時に如月(ga4636)も、その近くで赤毛の娘‥‥ティリスが逃げ惑っているのを発見。無線で他車の仲間に連絡を取る。
「お姫様発見、繰り返す、お姫様発見」
 了解と言ってから火神楽 恭也(gc3561)が手近な場所に車を停めて、仲間を先に出させる。
 敵の注意を引き付ける為、蓮角は車から降りるとすぐに呼笛を吹く。ピィィという甲高い音が鳴り、敵の気は蓮角へと引き付けられた。
「今のうちに彼女を!!」
 絃也、如月、宵藍、リュティアが移動スキルで駆け、
「ティリスさんに手出しするのはそこまでです!」
 リネアとムーグが動きを止めたままのキメラへと射撃を浴びせかける。
 蜘蛛の目の前で、道服の裾を翻しながら宵藍はティリスを背に護るように立ちふさがり月詠を構えた。
「どうやら死に水を取る必要は無かったようだ」
 同じく黒猫で牽制しながら駆け付けた絃也もティリスに近づくと、背を向けたまま烏龍茶を投げてよこす。
「それでも飲んで一先ず落ち着け」
 反射的に受け取った掌中の烏龍茶の栓を開けて口に運ぶ。まだ冷たさの残る茶は、彼女に潤いと落ち着きを与えてくれた。

 プルプルと揺れているスライムの隙を狙い、疾走するリュティアは双短剣でスライムを十文字に斬りつけティリスの側へと着地し、
「食らえ!」
 如月が瞬天速の勢いを乗せてリアトリスで斬りかかる。
 リネアが後方で支援してくれているお陰で、敵の追撃はない。
「ティリス様、失礼致します」
 リュティアは一礼しティリスを抱え上げ、何かを言う暇すら与えず迅雷で敵味方の間を駆け抜け――シールドを構えながら此方へ走ってくる貞夫の姿を確認し、声を張り上げた。

「貞夫様、ティリス様を御願い致します!」

 承知致しました、と貞夫は告げ、彼の後方へと保護されるティリス。
「弱きを助けるは紳士の務め。この輪島が、命に代えてもお助けいたしましょう!」
 爽やかかつ頼りがいのあるその言葉に、ティリスの心はキューンと打たれた。
(そうよ、これよっ! こういう男性が女性を護るっていう姿勢が大事なのっ‥‥)
 一寸ウットリしそうになるティリス。が、ハニワが素早くこちらにやってきたため、戦闘態勢に入った貞夫は覚醒した。
 黒いスーツの下でモコモコと何かが隆起したと思った刹那、バシュッというかボンッというか、ともかく筆舌に尽くしがたい効果音を出しながらスーツは弾け飛ぶ。安心してくれ、ズボンは無事だ。
「いやあああーー!? 何!?」
 ハニワもビビったようで動きを止めたが、一番ビビったのはティリスである。いきなり何かが起きている。が、貞夫は気にもせずティリスに『私のダメージはお気になさらず、姫君を守るのは紳士の務めです』と言ってのけた。
「――というか邪魔なので持っててください、私超機械使いますから」 
 ポイとティリスへシールドを投げるように渡し、懐から試作型機械眼鏡「OSR」を取り出す貞夫。もしや、この眼鏡『オサレ』と読むのか‥‥という野暮な記述は駄目だっただろうか。
 ともかく、その眼鏡を装着し数秒のタメを作った後。首ごとハニワへ向き直る!!

「必殺! メガネ光ーー線ッ!!」
 七色の光が眼鏡から溢れ、ハニワを弾き飛ばした!!

「イヤーーッ!? めがね、めがねぇぇっ!?」
「イヤーーっ! ハニワ、俺のハニワァーー!!」
 ティリスとアルトの絶叫が森に木霊する。弾き飛ばしただけで、ハニワはまだピンピンしているのだが‥‥。
「いやはや、応援とは恐縮です」
 何を勘違いしたかガチムチの貞夫が照れたように微笑む。

「‥‥なんか、凄いことになってるみたいだけど‥‥」
 如月が後方の喧騒を背で聞きながら苦笑いを浮かべたのも一瞬。スライムの硬化攻撃を俊敏に避け、
「疾きこと風の如く、侵し掠めること火の如くってね。いきますよ?」
 すぐに一歩踏み込み急所突きを喰らわせた。
「銃ハ、当タリマス‥‥ネ?」
 ムーグの放った銃弾がスライムの胴に噛みつく。硬い抵抗があり、通常の攻撃でも押せると判明した。
「ならば任せろ‥‥!」
 絃也はすかさずイオフィエルを喰らわせ、離れた間合いを瞬天速で詰め。脚甲を装着した足でスライムを蹴り上げると、スライムの弱点へ疾風迅雷の一撃で蹄を突き入れる。
「おおおぉッ!!」
 更に銃弾を撃ち込んで止めとばかりに踏みつけながら『次』と淡々と零す絃也。後方では蜘蛛と戦う宵藍達と、ハニワに射撃しているリネアが見えた。

●sweet ハニー

「ハニワ軍団総帥としては味方に引き入れたいが‥‥攻撃してくるなら仕方ない。叩き潰すのみ!」
 妙にやる気のあるアルトだが、顔は無表情。しかし、背中にハニワ型のオーラが立ち上っていた。やる気なんだかそうでないのか実のところ判断は困難だ。
「動き、素早いですね‥‥」
「速かろうが関係ない。攻撃するときはこちらに向かってくるはず!」
 自信たっぷりに語るアルト。蓮角が風火輪で小刻みに誘いつつ攻撃を当てていく。ハニワももどかしいのか、揺れるペースがちょっとだけ大きくなった時。
「ハニッ!」
「呼んだか!」
 飛びかかるハニワに、嬉しそうな声を上げるアルト。‥‥残念だが呼んでない。
 だが、アルト・ハーニー、ただのハニワ好きではない。自分を狙うハニワへスキルを付与しつつ100tハンマーを振りかぶり、最良のタイミングで頭部を捉えた。
「ハ、ニィッ‥‥!?」
 驚愕の声と共に頭部の一部が砕けるハニワ。無表情だが満足そうに胸を張るハーニー‥‥じゃなくてアルト。
「お前の実力はこんなものか! 気持ちが足りん!」
「気持ちは込めなくていいです‥‥その変な顔が二度とできないよう、ハチの巣にして粉々にしてあげますよぉ!!」
 倒れたハニワの顔面へ容赦なくSMGを撃ち込むリネア。嗚呼、ハニワの命ともいえる顔に穴が‥‥!!
 恐ろしい行為を垣間見てか、棒立ちになっていた2体のハニワ。そのうちの1体に目を付けて蓮角が跳躍した。
「ハッ‥‥!?」
 気づいた時にはもう遅い。ハニワの眼前‥‥いや、身体? に、赤く輝く蓮角の脚が迫っていた。
「おおらぁーーーっ!」
 スキルと渾身の力を押しこみ、衝撃でハニワの顔から腹がガシャリと砕ける。
 だが、ハニワも最後の力を振り絞って抵抗し、残りの一匹も体当たりをかましつつ蓮角とアルトを手こずらせていた。
「むっ、歯向かうか! この総帥に!」
「的から、逃がしませんっ‥‥」
 リネアが正確にハニワを狙い、強力なダメージを確実に与えていった。

●巨大蜘蛛と舞踏

 と、何かと騒がしく立ち回っている中。蜘蛛を捉える三人はシリアス路線だった。
 蜘蛛の脚先、鋭い爪が大きく振られてリュティアに迫るが、ダメージ軽減の為後方に跳びつつ双短剣で受けて引き付ける。
 自分に背を向けている状態の蜘蛛の側面から、弱点はどこか? 特殊な攻撃はないか? その他位置取りを考えながら恭也は援護射撃を当て、蜘蛛の動向を見逃さないようにしていた。
「宵藍!」
 恭也の声と同時に、宵藍が迅雷で蜘蛛に向かっていく。
「デカい図体でちょこまかと‥‥まずはその足、止める!」
 月詠の刃が煌めき、蜘蛛の黒く太い脚へ――関節部分を狙って幾度も打たれた。
 脚の数本から緑色の体液を吹き出しつつ、蜘蛛は後方へと数歩下がると彼らを見据え、鋏角を鳴らす。
「――何か一計を案じたようですが、そうはさせません」
 静かに口にしたリュティアは長い髪をなびかせつつ蜘蛛へ近づき、機動力を削ぐ為同じように斬りかかる。
「参ります‥‥死の舞踏(ダンスマカブル)!」
 足元にいたリュティアめがけ、蜘蛛は粘着液を吐いたが――迅雷で移動した彼女の姿はそこにない。
 迅雷と円閃で円を描くように移動し、まるで軽やかなダンスを踊るかのように蜘蛛の脚を幾度も切りつけた。
 その好機を逃がしはしない。
「リュティア、恭也、当たるなよ!」
 宵藍は蜘蛛の腹を円閃で切り裂き、傷口にEガンを押しつけてトリガーを引き続ける。
 引き金を引くごとに関節や傷口からあふれ出た緑の体液が地を濡らし、異様な色に染めていく。
「宵藍様、恭也様、止めを!」
 宵藍を狙った蜘蛛の爪は、振り下ろす前にリュティアの受けによって軌道を弾かれた。
 恭也の構えに反応し、飛び退くリュティアと上空に跳躍する宵藍。
 射線に味方の姿はない。雄叫びをあげながら恭也は引き金を引く!
「ブリットッ‥‥ストォォーム!! いけぇえッ!」
 銃弾の嵐が蜘蛛の身体を穿ち、抉り、貫く。素早くリロードをすると後方に跳ぶ恭也。
 なぜなら、宵藍が蜘蛛の頭胸部を狙って、己の全体重を刀にかけて降下していたからだ。
「これで、どうだ!」
 ズドォン、と刀が蜘蛛の甲殻を割りながら深く突き刺さる。数度脚をばたつかせてもがいた蜘蛛だったが――脚が地へ投げ出されると、再び動く事はなかった。

●ま、いいか。

「ん、あちらも終わったみたいですね〜‥‥さて、と」
 キメラを片付け終えた彼らは、もう一度周囲を確認し、改めて『殲滅完了』と付け加えた。
「ハニワ軍団総帥に勝とうとするのが間違いだったようだな‥‥さて、コレクションに破片は貰っていくとするか。今回の焼きはなかなかの出来のようだ」
 念のためにと蓮角が砕いたハニワの破片を拾い上げ、大事そうにポケットにしまうアルト。
「独りキリ、デ、隠れテ‥‥お疲レ、デショウ‥‥」
 憔悴しているティリスに、そっと近づいてレーションとミネラルウォーターを差し出すムーグ。
「ありがとう、ございます‥‥」
 食欲はなかったので、ミネラルウォーターだけを受け取った。
「先日、ハ、初依頼、ト、知らズ‥‥何、ノ、手助ケ、デキマセン、デシタ、ネ‥‥」
 申し訳ありませんでした、と真摯な顔で謝罪するムーグだったが、ティリスは首を横に振った。
「来てくれただけで嬉しかったです。こちらこそ、ごめんなさい」
「よく頑張ったな、ティ‥‥」
 と、宵藍がティリスの頭を撫でようと手を伸ばしかけたのだが――身長差‥‥ティリスを見上げている事に気づいてしまった宵藍。
「‥‥だ、だがそもそもお前がはぐれなければ、こういう事態には陥らなかったんだからな」
 慌てて手を引っ込めると、何してたのかと急に問い詰めて話を逸らす。
「えと‥‥休憩の時間を10分多く間違って‥‥車、行っちゃって‥‥」
「馬鹿かお前は‥‥」
 やっぱり、と頭を抱えてしまう宵藍。誰も無線で教えてくれなかったもん、と反論するティリス。
「噂通りか、頼るなとは言わんが、自身を鍛え見直す事は必要だろうに‥‥詮無き事か」
 此方も呆れ果てたらしい。リュティアにティリスを頼むと言い残して自身の車に乗り込む絃也。
「大丈夫ですか? 怪我は、どこか痛い所とかないですか?」
「御無事なようで良かったですよ、ティリス姫 」
 蓮角と如月がそう尋ねる。あまり調子に乗らせないでほしいのだが、おかげでティリスは心配してもらった事が嬉しいのか、ホゥっと切ない溜息を洩らした後‥‥自分を見ている貞夫に気がついた。
 貞夫はティリスの洋服を、ウサギのぬいぐるみに着せたら可愛いだろうなと思って見ていただけなのだが、先程の世紀末覇者のような体格や大味かつド級の攻撃を思い出すティリス。
「すごく怖かったっ‥‥!!」
 主に眼鏡ビーム。キメラも怖かったのにそれすらも忘れ、様子を見に来た恭也にガッシとしがみついた。
「はいはい。治療もしようなー?」
 ティリスの肩を数度軽く叩いて落ち着けて、笑顔で救急セットを見せる恭也。
「終わり良ければすべて良し、ですね」
 リネアが優しい笑みをリュティアに向け、頷き返す彼女は皆に高速艇へ戻りましょう、と声をかけた。

 高速艇に乗り込むと、無事にティリスの保護とキメラの殲滅を件の傭兵たちに報告し終えた頃。
 LHに着くしばしの間、ティータイムと相成ったのだった。