タイトル:trial travelマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/09 04:46

●オープニング本文


●春のとある日

 春になって、窓から室内に降り注ぐ日差しが暖かい。
 ここ数日は任務も予定も無いので、ユーディーは猫のメアと遊ぶ以外は特にすることが無い。
 しかも、メアはどこかへ遊びに出掛けているようだ。
 完全にすることがなくなった状態のユーディーは、うららかな陽気にまどろんでしまったらしい。
 読んでいた本を持ったまま眠りに落ちていた。

――‥‥にゃー。

 猫の声が間近で聞こえた。遠慮がちなこの声はメアだろうか。
「ん‥‥?」
 ゆるゆると目を開け、自分の近くに寄ってきた灰色猫、メアを見つめる。もう子猫の時期は過ぎてしまって、中猫くらいの大きさでである。
 そのメアは、赤いインクで刷られた紙を咥えている。最近、何かを獲ってきてはユーディーへ報告するようになったのだ。
 咥えていた紙を床に置き、にゃあ、と甘えた声を出す。どうやらご褒美をくれと言うらしい。
 紙を拾い上げてから、メアにはちょっと高級なカリカリフードを少量与え、拾ってきた紙には何が書いてあるのかと文字を読む。

『マーケット福引券 2000c以上のお買いもので(略)』

 どうやら、一回福引が出来る紙らしい。期限は今日まで。
「このマーケット‥‥買い物、良く行くけれど‥‥」
 確かに今日も買い物に行こうと思っていた。しかしニ等の『【Steishia】ニーソックス詰め合わせ』に興味を持った彼女。
 ニーソックスは依頼でよく破れてしまうのでちょっと欲しい、気がする。
「出なければ、買えばいいだけ‥‥よね」 
 ちょっと興味を覚えたユーディーは、買い物ついでに福引へ(実際は逆であるはずだが)行ったのだった。

●ティッシュじゃない。

 福引でコロリと金色の玉が出た所。
 ガラーン、ガラーんと大きな鐘を鳴らされて、顔に出ないが微かに驚いているユーディー。
「お客さん、おめでとう! 特賞だよ! なんと豪華宿泊団体券!」
「だん‥‥たい?」
「お友達とか知り合い誘って行ってきな! いつも買い物してくれてありがとね!」
 と、封筒に入った無料宿泊券を押しつけるマーケットの従業員。しかしなかなか気前良いマーケットだ。

 しかし、困ったのはユーディーである。
(「友達‥‥」)
 もしくは、知り合い。
 さほど人と交流を取っていなかった彼女には、その手の事が一番困るのである。

(「知り合い‥‥」)
 考えながら来たせいで、結局マーケットで物を買うのも忘れている。
「メア‥‥どうしよう‥‥」
 家に帰り、寝ていた猫にわざわざ報告するユーディー。意外に律義なのかバカな子なのか、報告官にも分からない。
 メアはメアで起こされたのを根に持ったのか不機嫌そうな眼でユーディーを見ていたが、いきなり招待状をひったくると駆け出して行く。
「メア!」
 ひらりと床に一枚招待状が落ち、それを拾っている間に猫は夕暮れの街を駆けだしてしまった‥‥。


●その券は貴方に。

 夜になろうかという頃。あなたは通りすがる道で猫の姿を発見した。
 よく見れば知っている猫のようにも見え、良く知らないようにも思える。
「にゃー」
 と、その猫は数枚の招待状をあなたの前に置く。
「‥‥?」
 全部を取ろうとすると、猫は前足でペチとその手を押さえた。全部はやらん、ということだろう。
 一枚を抜き取ると、猫はそれを咥え直して再びどこかへ立ち去っていく。

「‥‥団体、宿泊券?」
 しかも日時指定の宿泊券だ。
 裏を明かせば、あのマーケットの社員旅行がその日に行われるはずだったのだが‥‥その日に本部の視察が来ることになり、泣く泣く営業することになってしまったためだ。
 無論そんな事を知る由も無い貴方は、猫の不思議な贈り物を見つめていた。


●当日。

 うさんくさいと思いつつ、結局魅力的な『豪華宿泊』招待状。貴方がその宿に来ると、数人が同じ券を持って集まっていた。
 銀髪の女性、ユーディーが貴方の手元にある招待状を見て、口を開きかけたところ――

「ホテルにキメラが出たー!!」

 という男性従業員の悲鳴に反応した貴方達。
「どこですか、出たのは!」
「あ、貴方達は!?」
「我々は――『かくかくしかじか』こういう者です」
 それは心強い、と従業員は安堵に顔を緩ませた。
「ではお願いします、キメラを退治してください! このままでは客足にも影響が――」
 お礼は出来る限りでしますから、という言葉に反応した貴方達。
「よし、やろう」
 全員一致で決まったのだが。ひとつ、問題があった。

「キメラが出たのは、入浴場なんです」
『え』

●参加者一覧

新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
常世・阿頼耶(gb2835
17歳・♀・HD
リュウナ・セルフィン(gb4746
12歳・♀・SN
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP
ザインフラウ(gb9550
17歳・♀・HG
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
殺(gc0726
26歳・♂・FC
カーディナル(gc1569
28歳・♂・EL
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●偶然にも程がある

「宇宙人がやってくる時代だし、早々のことには慣れたけどね」
 空からエビが降ってきたという。一体何があったのだろうと新条 拓那(ga1294)は水着に着替えつつ思う。
 ソウマ(gc0505)とカーディナル(gc1569)は己の持つ不運を軽く嘆いていたが、二人も不幸属性がいれば空からエビくらい降ってくる‥‥ことも、まあ、稀である。
「周りに迷惑が掛かる。さっさと倒して、温泉を堪能しよう」
 水着持参と実に用意周到の殺(gc0726)。チケットはどうやって入手したのかと皆に問えば、ラルス・フェルセン(ga5133)がユーディーの猫が配っていたのを貰ったと答えた。
 聞けば、皆入手方法は同じだったようだ。

 ‥‥報告官は出来事を報告している身だが、なぜ女性側の事情をも知っているのかと詮索しないでほしい。

「やはりAU‐KVは使用できないそうよ‥‥」
 ホテル側に聞いてきたユーディー。
「な、何だってー!?」
 浴槽を傷つける恐れがあるからだというが、ドラグーンの常世・阿頼耶(gb2835)と 御剣 薙(gc2904) は愕然とする。
「スキル使えない、かぁ‥‥ま、どーにかこーにかやってみますか」
 努めて明るい口調で阿頼耶は応えた。白いスクール水着にジャージを引っかけるという、なんとも学生的で健康的な萌えを存分に纏っている。
 薙はワンピース型で花柄の白い水着。鏡を見ながら首にかかる水着の紐を結んでいた。女の子らしい甘めの水着姿だ。
「キメラとはいえ‥‥エビが温泉に浸かって平気なのか?」
 ザインフラウ(gb9550)がもっともな意見を言いながら黒と青の生地を使用した競泳水着姿を鏡に映して整える。フィットする水着なので身体のラインも浮き出るが、滑らかな曲線は美しくも見えた。
 武器を携えつつ水着の紐を結ぶのに手間取っているユーディーに近づき、ネック部の紐を結んでやりながらザインフラウは彼女の装備品が何かと質問する。
「問題なさそうだな‥‥出口からキメラが出ないよう、ユーディーさんにも協力してもらいたい」
「わかったわ」
 ユーディーが頷き、ザインフラウは微かな笑みを浮かべてポンとユーディーの肩を叩いた。
「では、露天風呂の前に行こう。男性陣も待っている頃だろう」

●エビ、種類不明。

「『ろてんぶろ』初めてなり! 楽しみなのら!」
 リュウナ・セルフィン(gb4746)が目を輝かせ、露天風呂の入り口で待機していた。しかし、その初めてが男性用風呂だというのは申し訳ない所存である。
 早く終わらせて一緒に入りましょうと東青 龍牙(gb5019)が微笑んでいるが、一緒に入ろうと誘っているのはリュウナに対してだ。男性の皆はこの後仲良く入ってほしい。
「それじゃ‥‥行きますか!!」
 ホテル側には湯の供給を一旦止めてもらっている。簡単に役割の確認を行い、女性陣の水着姿にどぎまぎすると同時にささやかな後ろめたさも感じつつ、拓那が扉に手をかけると一気に引いた。
 引き戸が開放され、なだれ込むように入っていく能力者達。浴槽の前に鎮座した巨大なエビが触角を動かしつつ振り返る。
 右手側に展開したラルス、阿頼耶、カーディナル。
 龍牙が浴槽の栓を抜くため向かおうとしたが、拓那はそれを制して瞬天速で駆ける。猛スピードで迫ってくるように見えたので、キメラも鋏をブンと振ってみたが、もうその位置に拓那はいない。
「これ、だなっ‥‥!」
 事前に教えてもらっていた位置。拓那が浴槽内の栓を見つけて、抜いた。
 ギュルル、と空気と水が一緒に巻き込まれる音の後、静かに浴槽内の湯は抜けていく。
「リュウナ・セルフィン! 黒龍神の名のもとに敵キメラの排除を行います!」
 左側より隠密潜行を使用し、回り込んでいたリュウナが高らかに名乗りを上げて黒蝶で狙い撃つ。
「泡を吐かなければ、こっちのモンだしっ‥‥!」
 まだ湯は抜かれたばかりだが、出来れば浴槽に入るんじゃない、と阿頼耶は願いつつシャドウオーブで後方より支援する。
 殺はシャドウオーブでの攻撃が当たった部分の近く‥‥主に他より装甲が柔らかい関節を狙い、颯颯で突きを繰り出す。
「招き寄せようか。味方には強運を、敵には凶運ぅを‥‥ぉっ!?」
 朱い褌姿のソウマがクールに微笑んで言ったまでは良かったが一歩踏み出したところで、何故か置き去りにされていた石鹸を踏みつけ、滑る。
 その拍子にミルトスが作動し、エビが大きく怯んだ。
「う、運も実力のうち‥‥! いたた‥‥」
 しかし落ちた拍子にお腹を強打したのでプラマイゼロである。 
「良く狙えば、施設に損傷を与えずキメラに当てられるはず‥‥」
 入口付近ではユーディーとザインフラウが後方から射撃支援を行い、前衛に加勢していたラルスが大きな鋏を蛍火で受け止める。
「攻撃手段は早々に無力化したいので‥‥いい加減もげませんかっ!」
 捉えられても、力で押し返そうとするエビ。押され気味のラルスだったが、付根部分にEガンを押し当てて近距離射撃でも攻撃した。
「厳しいけど、やれるだけやってやるさ!」
 リンドフィンガーネイルで胸脚や顎を殴りつけては素早く離れる薙。
 エビの右側よりカーディナルがホーリーベルで、後方より拓那が戻ってきて左に回り込みながらツーハンドソードを大きく振りかぶる。
「海老なら海老らしく、高級スパよりまな板の方がお似合いだよ!」
 二人は体重を乗せた一撃を見舞い、触角を切断。
 痛みのせいか、エビが大きく暴れて二人にハサミや尾で打撃を与える。
「殻が堅くたって――関節は脆い筈!!」
 龍牙はエビの胸脚を狙ってイグニートで突き刺し、払う。幾本もの胸脚部分がバラバラと散った。
 これで動きも鈍ったはずだ。後方より知覚攻撃でさらに弱らせていく。
「鋏に気をつければ今のところは‥‥押せる」
 ザインフラウが冷静に判断を下し、リュウナの狙い撃った矢はエビの腹と胸の間、装甲の隙間に突き刺さった。
「今だ! 僕が――」
 タッ、と走り出そうとしたソウマ。しかし、彼の足首があらぬ方向にぐきりと曲がって――バランスを失い後ろに倒れこむ。
 またお腹を強打するのかと思いきや、今度は柔らかいものに当たった感触があった。
「――え?」
 同時に声を発したのはユーディー。大きく眼を見開いて、自分の腕の中にすっぽり入っているソウマを見つめた。
「‥‥すみません! ちょっと得した気もしますが――痛ッ!?」
「ソウマさん‥‥遊んでいる場合じゃないぞ」
 ゴリ、とザインフラウの拳がソウマの頭を擦る。微妙に――いや、結構痛い。とりあえずユーディーから銃口を頭に突きつけられていないので、それは幸運だろう。
 そのゴタゴタの間に、カーディナルが盾で鋏を受けつつ『一気に押すぞ!』と仲間に攻撃を合わせるよう告げた。
「身は船盛り位にゃしてやるさ‥‥これで、倒れろぉッ!」
 拓那が渾身の一撃を胸部に叩き込み、先程リュウナが射った矢を、殺が円閃で狙って更に突き入れる。
「はああっ‥‥!」
 顎脚の中心‥‥口に当たる部分を龍牙が狙い、両手でしっかりと握り突く。
 がちち、と硬く小さな顎脚が音を立てたが、次々に割られてとうとう脳にまで至る。
 残った脚がまばらに激しく動いたのもつかの間、痙攣を数度繰り返してエビは沈黙。ほぅと龍牙は溜息をつく。
「やったっ! 龍ちゃん、さすがです!」
「リュウナ様や皆さんとの連携のお陰ですよ」
 と、彼女は微笑みを返していた。

●いざ豪華旅行。

 キメラ退治が終了してから、改めてゆっくりとどんなホテルなのか‥‥と見渡す彼ら。
 大きく開けたフロントロビー。天井はとても高く開放感があり、白壁に電球色の明かりが薄く反射する。
 艶のある黒で統一されたテーブルセットは、高級感溢れる中にもスタイリッシュな雰囲気を漂わせていた。
「これが、なんてーの。『せれぶ!』とか、『らぐじゅありー!』とか言う世界なのか‥‥」
 場違い感にさいなまれた拓那が思わず息を潜めて小声で話したところ、客室係の日本人らしき男性がご安心くださいと微笑んだ。
「当ホテルは、それぞれエリアごとによって作りが違っています。顔ともいえるこの場所は、伝統と威厳を示すものですが――」
 ホテルのサービス的な話になるとヨーロピアンらしいが、まあとりあえず独自の発想も取り入れた豪華ホテルという認識で大丈夫そうだ。
「部屋もまた‥‥凄いな」
 殺の言うとおり、広い室内。大きな窓から街の景色が一望できる。ベッドも一つ一つが広くてフカフカだ。
 こんなホテルにご招待してくれるとは、気前の良いマーケットに感謝しなくてはならぬだろう。部屋は無論男女別である。

●暫し自由行動

「ああ‥‥なんだか疲れが抜けていくようですね‥‥」
 もう水着着用の心配もいらない。ソウマ達は安らぎの吐息を洩らしつつ先程の露天風呂に浸かっている。
「ここは空が見えるのか‥‥ってここからキメラが‥‥」
 上を向いた殺は思わず呟き、カーディナルも釣られて空を見つめた。二人はどうやら先程の激戦を振り返っているらしい。
「スパはー、ちゃんと肩までつかってー、百数えるんですよ〜」
「なんか懐かしいなー。子供の頃はそう言われましたよね‥‥数は『ゆっくり十』でしたけど‥‥」
 ラルスの言葉に拓那は『百かー‥‥』と呟いてから、素直に心の中で数え始めている。
「にゃー! 『ろてんぶろ』なり!」
「リュウナ様、走ると危ないですよ!」
 そこに、隣の露天風呂から女性達の声が聞こえ始めるのはお約束なのである。
 報告官は真実を報告するので女性達の様子も伝えたいと思う。
 画像をお伝えすることは出来ないので、至極残念だ。

「ゆきまるも入れてあげたかったけど‥‥お部屋のお風呂になっちゃうかな」
 浴室内を駆けたリュウナは龍牙に止められ、その後浴室内に入ってくる薙。
 ゆきまる、とは薙の飼っている子猫。ホテルに着いてすぐキメラ討伐だった為、フロントに預けている。
「やはり先程の露天風呂とは様式が違うな」
 ザインフラウが浴室内を眺め、感想を漏らす。こちらは木製のチェアも数脚あり、ゆっくりできる仕様のようだ。
「戦いの後のお風呂っていうのも最高かも。これでキメラがいなければ尚良かったんですけど」
 阿頼耶が洗面器を手に取って、カランからお湯を注ぎつつ言う。
 タオルで前を隠しながら、皆の様子を見ているユーディー。彼女以外は皆開放的な姿である。
「‥‥ユーディーさん。そのまま入るつもりじゃないだろう?」
「一緒に入りましょう♪」
 意外と面倒見の良いザインフラウと、笑顔の龍牙が彼女を呼ぶ。リュウナはスポンジにボディーソープを含ませて泡をもこもこと発生させていた。
「にゃー! 洗いッこなり! みんなでやれば楽しいなりー!」
「あ、それ面白そうですね。ボクも参加ー!」
 薙も微笑んで自分のスポンジを手に取る。遠目に見ていた阿頼耶も(強制的に)参加させられてしまった。
 身体を洗い終えた後は、ゆっくりとお湯に浸かる。
「え、もう猫ちゃん預けてあるの?! 見たい!」
「メア、というの。リュウナ‥‥が名前を付けてくれた」
 薙やユーディーの会話を聞きながら、ザインフラウは白い肩にお湯をぱしゃりとかけるその仕草に色気がある。
「こうして誰かと入る風呂もなかなかいいものだな‥‥」
 
 隣からキャッキャと楽しそうな声が聞こえてくるのに対し、思わず言葉少なになってしまう男性陣。
「僕らも洗いっこ、やりましょうか‥‥?」
「‥‥やらない」
 話題を逸らす為に言ったソウマの提案は、男性からは絶不評であった。きっとここに運は関係ない。

●心も体もぽかぽか

 フロントに預けていたゆきまるとメアを受け取って、猫の周りに和気あいあいとした輪が出来ている中。
 カーディナルが、輪よりやや離れて立っていた彼女に近づきコーヒーを投げて寄越した。
「コーヒー牛乳、じゃ無いのが多少アレだがな。まぁ飲め」
「‥‥ありがとう」
 手の中から伝わる冷たさは、風呂上がりの温まった体に気持ちいい。
 先程リュウナと一緒に牛乳を飲んだが、ほろ苦いコーヒーもまた美味しく思える。
「‥‥人と一緒に居るのは、嫌いか?」
 カーディナルが黒瞳を彼女に向けて、静かに訊いた。
「人は温かいと知ったのも最近。それを知ってもどう向き合えばいいか‥‥よくわからないの」
 距離感が分からないところもある。人と接するのが難しいなと思うのは、彼女だけではないのだが。
「‥‥一人で居るのが悪い、とは言わん。だが少しは、心を預けられる仲間を持ってたっていいんじゃねぇのか」
 咎めるでもなく伝えられた言葉に、ユーディーは小さく頷く。
「ええ。でも、一緒に居て‥‥温かいと思える人がいるから、きっと――」
 ザインフラウがフロアマップを持ってユーディーを呼ぶ。一緒に施設を廻ろうと話していたのだ。もう行くからと告げてそっと離れつつ、ユーディーはありがとうと再度礼をいう。
「『心を預けられる仲間』‥‥見つかると嬉しい」
「そう願うぜ」
 その細い背を見送りながら飲んだ冷たいコーヒーは、ほんのりと甘く感じられた。


 お待ちかねの夕食。
「夕食も豪華‥‥だな‥‥」
 薙も思わずそう漏らす。こんな贅沢な事をしていいのだろうか、と逆に不安すら覚えた。
 いつもは簡単に済ませる食事だった殺も、テーブルに並べられた料理の豪華さに小さく感嘆の声を上げる。
 そして『これはサービスです』と出てきたものにエビを使用したものがあったのだが、妙にエビの身が大きい。
(「あの料理に有るのって、どこかで見た様な‥‥」)
 しかし気にしてはいけない。そう思って食べてみると、これがなかなかイケる。
 舌鼓を打っている中、ラルスなどは既に数本目のワインを頼んでいる。なかなかそちらもいけるクチのようだ。
 相方がいない寂しさもあるのか、拓那は仲間と大いにはしゃぎ合っている。今日撮った写真の仕上がりも気になるところだと零していた。
 
 その後、ラルスは酔い冷ましにとユーディーを夜の散歩に連れ出してくれた。
「友達が増えてー、良かったですね〜。こういう時間も、良いでしょう?」
 メアにお礼もしなくてはいけませんねとラルスは微笑んでいたが、ユーディーは少し赤らんだ顔で問う。
「こ、心を、預けられる仲間‥‥って、友達のこと?」
「はい。ユーディーさんがーそう思えるなら〜。私もその中のお一人に加わりたいですね〜」
――ともだち。 
 ユーディーはそっと自分の胸に手を置く。とくとくと心臓が速い。やっぱり――嬉しい事だ、と自分が思っている。
「仲間、とか‥‥友達って、嬉しい」
 ラルスは頷いてから『他のお友達が心配するといけません。そろそろ戻りましょう』とユーディーの手を取った。


 翌日。家に着いてから、入れ物に詰めたエビキメラの身をホテルに置き忘れてきたと嘆くリュウナの姿があったとか。