タイトル:狐の森マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/28 01:08

●オープニング本文


●結構面倒見が良い。

「――お天気雨ですね」
「そうだな」
 アイルランド支部。食堂でたまたま顔を合わせたシアン・マクニール中尉と彼の元部下・ユキタケ伍長。
 昼食をとり終え、窓の外に目をやる。
 生命の源である太陽が暖かい光で燦々と照らし、小雨であったが恵みの雨は大地に降り注ぐ。
「日本では、このお天気雨って『狐の嫁入り』とも言われています。本当は‥‥夜、野山に狐火が一列に続いているのを昔の人は『狐の嫁入り提灯』と呼んだのだそうで、しいて言えば昼間の結婚でしょうかねえ」
「ほう」
 狐もそういう時期なのか。と、シアンはちょっと違う事を想像しているとはユキタケも思っていまい。
 詳しいな、とシアンが微笑むと、ユキタケは照れたように『おばあちゃんから聞いたんです』と言った後で、思い出したのか寂しそうに笑う。
「――‥‥いつか戦争が終わったら、田舎に帰って。山で暮らすのもいいな、って。なんだか最近、そう思ってしまうことが多くて」
 戦線もどんどんと拡大されている。自分にそういった感傷がほとんどないのは、こうして祖国に身を置いているせいもあるのだろう。
 ユキタケだけでなく、祖国から離れている者にとってはそう思うのも無理はないのかもしれない。
 眉根を寄せたまま昼食のカレーを平らげたシアンは、ある事を思い出した。
「‥‥伍長、そうだ。この近くにあった池でカルガモの親子を見かけたぞ。教えようと思っていて忘れていた」
「ええっ!? カルガモたんですか! 見たいです!」
 生き物の中で鳥が一番大好きな伍長。目を輝かせつつ身を乗り出してくる。迫られた分だけシアンも仰けぞった。
「わかった。じゃあ、すぐそばだからいってみよう」
 と、シアンは伍長を連れて徒歩10分ほどの池へ向かったのだ。


●しかしこの軍人たち、大げさすぎである。

「なっ‥‥なんだ、これは!?」
 池に向かった二人が目にしたものは――水面に散らばった羽根。
 草むら付近には、草に大小様々な赤い斑点が付着している。
「まさかカルガモたんたちは、何者かにポケポケにされてしまったんでしょうか、上官!?」
「‥‥そんな心ない事をするようなやつがいるはずはない、と思うんだが‥‥とありあえず『カルガモたん』は止せ」
 つ、と葉の表面へ手を滑らせる。血液とおぼしき液体は、擦れて指の跡を残していく。

 そのとき、ガサリと音がした。
「!?」
 思わず腰の銃を引き抜いた伍長。『誰だ!』という声が微妙に震えていた。
 シアンはゆっくりと剣に手を添え、音のしたほう――草むらを睨む。

 そのとき、バッと此方に向かって巨大な物体が飛び出してきた!!
「ぎゃあっ!? なんかキター!?」
「ばかっ、伍長! 危ないから伏せろ!」
 思わず顔を覆って硬直した伍長。シアンは体当たりしつつ引き倒すと、その頭上を通り過ぎて着地したらしい。スタッという軽い足音と、草が揺れる音がした。

 草むらから飛び出してきたのは――数匹のキツネ。いや、狐と呼ぶには少々大きく、身体が発達していた。
「中尉、これって――」
「ああ、間違いない。キメラだ」
 狐キメラの鼻には小さな羽毛がついている。それを注視した伍長は悲しげに言った。
「あの羽毛の色は、間違いなくカルガモのものです! きっと、あいつらが可愛らしいカルガモ一家を‥‥」
 それを肯定したわけではないが、鼻の頭についた羽を取ろうと狐の一匹が大きく縦に頭を振った。
「‥‥くそっ。罪も無いカルガモまでも手にかけるとは‥‥!」
 シアンは剣を引き抜き、キメラ相手に声を荒げる。伍長も許せないと眉を吊り上げた。

 しかし、狐もどうやらこの危機を察したのだろう。

「くぉおおおおんっ‥‥!」
 声高に鳴く。

 すると先程狐が飛び出してきた草むらの先、同じような声が聞こえてきた。
「中尉、まずいです! 仲間がいるのかも!」
「焦るな、伍長! とりあえず‥‥牽制でもいい、戦えそうか?」
「‥‥」
 シアンの隣で生唾を飲み込む音が聞こえた。伍長はキツネ達をギッと見据えて暫し黙した後、シアンに力強く――

「かわいすぎますね‥‥キツネがこんなに格好かわいいとは」
 きっぱり無理だと否定した。
「――聞かなければ良かった。精々死なないようにしていてくれ。しかし数が多いので手助けがいるな。幸いにして午後から、俺は新人講習の教官だ。丁度良い、彼らにここまで来てもらおう」
 そこで、シアンは兵舎から眼と鼻の先で、カルガモの仇を討つハメになっていたのだった。

●参加者一覧

ファティマ・クリストフ(ga1276
17歳・♀・ST
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
リリー・W・オオトリ(gb2834
13歳・♀・ER
常 雲雁(gb3000
23歳・♂・GP
矢神小雪(gb3650
10歳・♀・HD
レベッカ・リード(gb9530
13歳・♀・SF
天原 慎吾(gc1445
16歳・♂・FC
テトラ=フォイルナー(gc2841
20歳・♂・DF

●リプレイ本文

●教官は来ず

「こちらが新人講習の教室ですね? 本日の講習は、実技に変更となりました」
 教室に入ってきたのは――シアンではなく、彼と同じ小隊のミネルヴァ曹長。無線を手にしつつ教室内部を見渡し、能力者達に笑みを向けた。
「偶には講習もいいかと思ったんだけど、いきなり実戦とは」
 常 雲雁(gb3000)がしょうがないよね、と言いつつ肩をすくめた。蓮角(ga9810)も同じく、戦闘の勘を取り戻すなら、リハビリではなく実践が早いだろうと左肩に手を置きつつ自分に言い聞かせる。
「‥‥ん。実戦。一体。何?」
 最上 憐 (gb0002)が椅子に座ったまま足をプラプラと揺らしつつミネルヴァに聞くと、曹長は『狐キメラの退治です』と答えた。
 聞けば、兵舎の近くで子育てをしていたカルガモを殺されてしまったかもしれないというのだ。
 被害に遭ったのが人間ではなかったにしろ、キメラの脅威があることには変わりなく、人が住んでいる場所の近くまでキメラが来ていることにテトラ=フォイルナー(gc2841)は一刻も早い対応が必要だと考えた。
「カルガモさんを食べちゃうような悪い狐にはお仕置きが必要だよね‥‥」
 と、爽やかに微笑む矢神小雪(gb3650)だが、立ち上る黒い何かが感じられる。
「衝撃、カルガモ一家殺人事件‥‥!! とか言うと、お昼のニューステロップで流れそうな感じだね。で、中尉はそれを退治してるの?」
 レベッカ・リード(gb9530)が問えば、曹長は「ユキタケ伍長も一緒ですわ。ただ、『一般人の伍長を護りながらでは部が悪い』と‥‥」
 そう説明しながら曹長は小脇に抱えていたバインダーを持ち替え『他に参加してくださっている傭兵もいらっしゃいますから、兵舎前に行きましょう』と、教室内にいた彼らに移動するよう促した。

●速やかに移動

「距離は然程ないとしても、伍長の事もある。到着は早い方が良いだろう」
 兵舎付近にキメラが出たということで、援護に来てくれたリヴァル・クロウ(gb2337)。
 簡略ではあるが現状の説明を受けたリヴァルは早々に決断し、彼が所有している車両を用意してくれた。そして憐も同様に車両を出す。
「じゃ、行こう蓮角さん! 振り落とされないように注意してね」
「分かった」
 AU‐KVで一足早く現場に着き、攻撃と護衛支援の開始を提案する小雪。その案に誰も異論は無く、バイク形態にしたミカエルの後部座席へ蓮角を乗せて出発した。
 残った傭兵たちも次々と車両に乗り込む。先にリヴァルがバイクの後をついて出発するが、憐は足元のペダルを見つめたまま動かない。
「どうしたの?」
 GooDLuckをかけて乗り込んできたレベッカが不思議そうに聞いて、憐は淡々と理由を口にした。
「‥‥ん。実は。運転するの。初。アクセルが左?」
「えっ‥‥」
 思わず絶句するレベッカ。助手席からテトラも神妙な顔で憐を見つめ、口には出さずとも、『大丈夫なのか』と顔に表れている。
「‥‥ん。大丈夫。KVの。操作よりは。簡単‥‥多分」
――多分って、ちょっとそんな。
 心配する同乗者もどこ吹く風。憐はアクセルを踏み、ゆっくりめに出発したのであった。

●お狐こんこん

 一方、シアン達はというと。伍長を庇いながらレイピアに持ち替えて狐を睨んでいた。
「中尉、僕食べられちゃう‥‥お願い、護ってください! 頼れるのは中尉しかいません!」
「そういう言葉は、女性から聞きたかったな‥‥」
 それはそうだろう。男にぴったり寄り添われてそんな言葉を投げられても面白い事はない。
 飛びかかる狐に対して突きや払いで応戦するも、背中の伍長が軍服をぐいぐい引っ張るので自由に動けないのだ。
「伍長。君も軍人のはしくれだろう。そう怖がらな‥‥」
 見れば、伍長は緩く笑っている。
――モエている、とかいう状態か。こんな時に!!
 シアンのイラッとゲージはぐんぐん溜まる。が、ここで気を散らしては共倒れになってしまう。
 後で処遇は考えるとして、寄せ付けぬよう対処せねばならない‥‥そう思っている所で、だんだん近づいてくるエキゾーストノート。
「実技講習受けに来ましたよー!」
 小雪がそう叫び、近くで蓮角を降ろして黒いAU‐KVを装着。
「狐共、覚悟しろォっ!」
 蓮角がまずは先手必勝を使い、大声を出しながら手近な一匹の狐へと蛍火を振りかざす。
 多くの狐は、大声を出した蓮角に気を取られている。その隙に小雪は伍長の側へ駆けより、無線を手渡した。
「今向かってる仲間に状況を伝えてね。ただし、余計な事は言わないよーに」
「は、はい‥‥もしもし、こちらユキタケです‥‥」
 小雪の厳しい監視を受けつつ、状況を報告する伍長。その間、シアンは左右に展開していた狐を拳銃で中央へ追いやっていく。
 中央には蓮角がおり、風火輪で攻撃を受け流し、右手に持った蛍火で有効打を狙っていくという攻撃で徐々にダメージを与えている。
 そう時間をかけぬうちにリヴァルの車が到着。車両は味方と狐の間に割って入り、中から傭兵たちが飛び出して合流した。
 雨後の為足場は良くない状態だったが、雲雁は瞬天速で素早く移動し伍長に近づくと、むんずと伍長の腕を掴んでリヴァルの車へと連れて行く。
「な、なにを!? 狐、きつねがっ‥‥」
「まずは車内にっ。怪我したら大変だよ?」
 そこで好きなだけ狐萌えしてていいから。と呆れつつ伍長を車に押しこむ雲雁。恐らくリヴァルもそうするほうがいいと解っているとは思う。
 押しこむ間にリリー・W・オオトリ(gb2834)がフェアリーエッジを抱えつつ警戒し、その後方より天原 慎吾(gc1445)が浮かぬ顔をしながらついてくる。
 車に押し込まれた伍長をどことなく羨ましそうに見つめた慎吾。
(「狐キメラ‥‥ボクに退治出来るのだろうか」)
 動物に武器を向け、攻撃するなどということが‥‥。
 しかし、気は進まなくとも事は進ませなくてはならない。憐たちはまだ来ていないし、無理に‥‥戦う必要は――‥‥ほんの少し、そう思った時だ。

「外見で誑かされるほど、俺は甘くない」
 心を見透かしたようなリヴァルの言葉に、慎吾の心臓はどきりと高鳴った。
「その通りだ。キメラ全てが可愛らしい外見だったとしたらどうなる? 殺せないままならば己か護るべき人達が――死ぬぞ」
 シアンがそう呟きながら二連撃を繰り出し後方を振り返る。
 その言葉は慎吾だけに言ったわけではなく‥‥車内で此方を見つめているユキタケに宛てた言葉だった。
 と、そこにようやく憐の車が到着する。ぴょんと車から降り、シアンに軽く手を振るレベッカの姿。
「中尉ーっ、助けに来たよー‥‥って地味に邪魔だなぁ、この草」
 合流しようかと思ったが草が伸び放題になっているため、足元に気をつけながら莫邪宝剣で草を切り払って進む。
「‥‥ん。助けに。来た。急いで来たので。お腹空いた。後で。カレー。奢ってね」
「カレーくらい構わんが、急いだ割には少々遅かったな」
 急がば、回れ。そう言いながら車の上へよじ登って戦況を俯瞰する憐。 
「‥‥ん。丸見え。大体。把握」
 突撃。そう言って瞬天速を使用し、レベッカを追い抜いて一気に距離を詰めると大鎌ハーメルンで正面の狐を薙ぐ。

「あっ、傷付いた方は遠慮なく言ってくださいね」
 ファティマ・クリストフ(ga1276)が練成強化をかけつつ柔らかく微笑む。
 彼女は長い旅より戻ってから久々の依頼‥‥大事な人に弱い自分は見せたくない。あの人が誇れるくらいになりたい。
 その思いが彼女をこうして戦場に立たせている。本当は戦いたくないけれど、支援なら。
 狐に練成弱体をかけて、皆のサポートを続けるファティマ。
「さぁて、リハビリに付き合ってもらいますよ、狐ども?」
 蓮角が練成強化された蛍火を握って軽く振れば、狐は尻尾を揺らしつつ出方を見ている。
「狐狩りは英国人のお家芸だからね」
 ボク貴族じゃないからやったことないけど、と言ったリリー。
「初めての経験だ。やってみればいいじゃないか」
 こんなふうに追い込んで――ソニックブームを放ちながらテトラが告げる。
 邪魔な草も刈りつつ、同時にキメラへの威嚇も行うと、狐はびっくりしたのか瞬時に右へ逃げた。
「狐って言うから可愛いのかと思っえば‥‥さすがにこれだけ大きいと‥‥遠慮しなくていいからいいんだけどっ!」
 電波増幅をかけ、クロッカスで攻撃しながらレベッカは狐を中心へと追い込もうとする。
 狐とはいえ流石に2m超のものである。全然可愛くない。しかし――伍長にとってはこれも、きっと‥‥かわいいのだろう。
 カプロイアだから仕方が無い、くらい動物に関して言えば伍長だから仕方が無いのだ。

●授業は実技でしたね

「じゃあ、実技講習開始ですね」
 雲雁が砂錐の爪を着けた靴で狐へ蹴りを見舞う。
 きゃぅっ、と中々可愛らしい声で鳴きながら雲雁の攻撃を食らったキメラ。胸元に出来た傷の匂いをフンフンと嗅いだ。
「やっぱり、狐は斬れません‥‥」
 弱々しくかぶりを振った慎吾。巨大な狐といえど、動物の仕草だ。
 だけど、仲間が――‥‥
 弱い心を払うように、慎吾は拳をぐっと握って狐を睨む。
 小銃をそっと掴み、手に跡が残りそうなほど強くグリップを掴む。
(「仲間が危険ならば‥‥全力を持って戦います!」)

「悪い狐は容赦しないよー?」
 小雪が二刀ならぬ二フライパン(?)を左右それぞれに構えて笑みを漏らす。小雪の明るい笑顔にただならぬものを感じ取ったらしい狐。身を低くして唸りを上げている。
 雲雁達のお陰で伍長の護衛は必要ないようだし、安心して戦えるというものだ。
「お仕置きよーっ!」
 竜の爪で武器能力を高めつつ、竜の翼で素早く踏み込んだ小雪。目の前に突如現れた小雪に驚く狐だったが、その脳天にフライパン・アサルトがヒット。
 ごゎーん。という柔らかいのか鈍いのか解らぬ音があたりに響く。
 リリーがシアンの手にひっかき傷があるのを見つけたが、彼はやんわりと手当てを断って戦闘を続行する。
「変な病気にかかっても知りませんよ?」
「‥‥頼もう」
 素直に受ければいいのにとくすくす笑いながらリリーは練成治療をかけた後、皆が戦いやすいようにと援護射撃を行う。
 慎吾も距離を詰めようとした狐の足元を狙って射撃した。
 狐もただやられてはいない。トンと軽く砂を蹴って走り、ジャンプすると発達した鋭い爪をテトラに向けて振り下ろす。
「そんなもの!」
 爪をプリトウェンで受け止め機械剣βで狐の腹を突き刺す。くぐもった声が狐の口から出たが、振るい落とされると血に濡れた前脚で立ちあがろうとする。
「はあっ!」
 そこを雲雁が疾風脚と急所突きで一気に仕留める。
 傭兵たちの側面から回り込んで、死角より噛みつこうとした狐。
「狩りは待つものだ。機会がやってくるまで、な」
 リヴァルがその肢を斬りつけ、返す刀で急所を狙い叩き込む。
 吐血し隙だらけの狐に容赦なく豪破斬撃を、そっ首に叩き込んだ蓮角。狐の首が転がって血だまりに沈む。
「皆さんっ、残っている狐には弱体をかけました! お願いします!」
 ファティマが純白のマフラーを左手で握りしめつつ、前衛に頼む。
「ん。任せて」
 憐が大鎌で狐の腹を裂き、小雪が素早く駆けてくると下から大きくスイングして狐の顎をフライパンで捉えた。
「っ〜、ちょっと痺れたけどいい当たり?」
 アサルトを持ったまま手首を振り、倒れた狐を見て満足そうな顔をする。
 レベッカが超機械で攻撃し、怯んだところにテトラの流し斬りが二度叩き込まれた。
 息も絶え絶えな狐がふらつきながら立ち上がる。
 止めを刺そうと雲雁が側面へ回り込んで蹴りを放ち――そのまま、爪を狐の頸椎に突き刺した。

●全伍長が泣いた

「うう、カルガモたん‥‥狐さん‥‥」
「いい年して泣かないの。ね、伍長。カルガモのお墓でも作ってあげよっか?」
 さめざめと泣く伍長に、レベッカが近寄って背中を撫でてやる。
「俺もそれが良いと思ったんだ。池のほとりに埋めてあげよう」
 蓮角もそれを提案して、池のほとりを示す。
「戦闘‥‥あまり出来なくて、やっぱり迷惑だったかな‥‥?」
 慎吾がしょんぼりとしつつ倒れている狐を見つめていたが、リヴァルが『君の中で何かが変わったらそれでいい。次にもっと頑張れ』と肩をポンポンと叩いて労う。
 テトラは狐・カルガモ問わず動物に対して黙祷を捧げていたが、激しい頭痛を感じてその場にうずくまる。
「テトラさん、大丈夫ですか!? どこか痛みますか!?」
 ファティマが慌てて駆けより、そっとテトラの様子を伺う。仲間も緊張した面持ちでそれを見つめたが、テトラは大丈夫だと頭から手を離しゆっくり立ち上がった。
 激しい痛みは既に収まり、テトラ自身も当惑しつつ気にしないでほしいと周りに告げる。
「天国でも親子一緒にいるといいね」
 カモも天国に行けるかどうかは気になるところだったが。リリーはそう言いつつも、埋める作業を手伝ってやる。
 蓮角はシアンを褒めて、『機会があれば模擬戦でもしてみたい』と微笑む。
 シアンも『そういうのもたまにはいいかもしれないな‥‥』と笑って返したところに雲雁がシアンを呼んだ。
「ご挨拶が遅れましたが初めまして、マクニール中尉。友人から噂は兼ね兼ね‥‥」
「? ‥‥どういう友人かは聞かないが、察するにいい噂じゃなさそうだな。ともかく、今日の任務は終了した。長居は無用。早々に帰――」
「ん。シアン、カレー。奢るって。言った」
 憐が約束を反故にするなと見上げてくるので、そうだったなと苦笑して食いに行くかと促した。
「軍人ってカレー好きなの?」
 小雪が不思議そうに訊ねるが、シアンはそんな事はないと否定した。
「ゆっくり食う時間が無い時は便利だ」
「‥‥ん。カレーは。飲み物」
 憐がそう言い、黙って聞いていたリヴァルの表情は『キーマカレーも飲むのか?』と密かに疑問に思った‥‥ようにも見えた。


 食堂で憐がカレーを何杯食べ‥‥飲んだか。それを聞くと、シアンは『しばらくカレーはいらない』と胸を押さえて苦い表情をしたそうだ。