●リプレイ本文
●波乱の予感。
――俺は宵藍(
gb4961)。
今回もティリスと付き合っての依頼な訳だが‥‥心配かと言われれば、色々な意味で心配だな。
‥‥主に周囲が。
という宵藍の心配通り。ティリスは『よろしくお願いしますねー!』と愛想を無駄に男性へ振りまいていた。宵藍に気づいたティリスが手を振ってくる。
「宵藍さんっ、今日の退治頑張ってくださいね! 私、応援しますッ」
「っておい、ティリスもやれよな!?」
怖いですもん、とぶりっこ全開のティリス。そこへ、ツインテールの少女が笑顔でやってくる。
「ティリスおねーちゃん、ユウはユウだよ。宜しくねッ」
「あ、うん。よろしく」
ユウ・ターナー(
gc2715) が天使の微笑みを向けてティリスに挨拶をしてくれたのだが、やっぱり女の子にはアッサリ気味の返答のティリス。同性の友達がいないだろう事も頷ける。
「わ、すごい。態度変わった」
ティリスの態度を見たオルカ・スパイホップ(
gc1882)が感嘆に似た声を発する。
「相変わらず、と申しますか‥‥」
宵藍と同じく、ティリスと一緒に依頼をこなすのは2回目となる綾野 断真(
ga6621)もある程度性格は見抜いているらしい。
彼女と眼が合うと、戸惑うこと無く微笑み返していた。
「で、今日の依頼ですけどぉ‥‥皆さんに頑張ってもらうとして――」
「ティリス‥‥といったか」
須佐 武流(
ga1461) が、面頬の下から鷹のように鋭い眼光を彼女へ送る。
「はっ‥‥はいっ!?」
武流に少しビビっているらしく、やけに声が上ずる彼女。それを見てか、武流は少し間を置いてから再び話しかけた。
「まぁ、今回はよろしく頼む。‥‥だが、俺は他の連中と違って甘くない。それだけは覚えておけ」
最後の発言に危機を感じ取ったティリス。
「え、と‥‥?」
武流のほうを上目遣いで見たが、彼はもう何も言わない。
(「えっ、やだ、どうしよ‥‥あの人怖そうだし、ここは誰かを巻き込むしかないわよねっ!?」)
と、一人悶々と作戦を練っている間。傭兵たちは高速艇を待つ間に作戦会議である。
「今回キメラが出現した場所は民間人の御宅の池ですか‥‥本当にどこにでも現れるのですね、キメラという物は」
リュティア・アマリリス(
gc0778) が依頼書を見つめながらほぅ、と溜息をついた。憂いのあるメイドさんというのもまた魅力的である。
「この、『六六魚』というのは一体?」
メイドさんがいれば元執事もいる。セバス(
gc2710)は依頼書の説明に有る魚の種類を指し示すと、皆の表情を伺った。
「六六魚‥‥? ユウ良く分かんないや。本、ってあるし、お魚なの?」
ツインテールを揺らしつつユウが肩をすくめた。
「まぁ、普通は日本人でも読めないだろう」
しかし、答えを知っている武流はこの状況を楽しむことにしたらしい。敢えて答えは言わないでいたのだが――
「キメラの正体は鯉のキメラで、4尺は1.2メートルくらいやな。普通の魚は匹やけど、大きめの魚の時は本で数えるから依頼人は間違っとらへん」
鯉の場合、正確には『折』と数えるんやけどな、と正倉院命(
gb3579) が鈴の音のような声で笑いながら答え、武流の密かな楽しみは開始1分を持たずして消えた。しかしそれを残念に思うわけでもなく、首肯する武流。
命の後ろに控えている板前が気になるのだが、そこを指摘すると『まあまあ、うまいもん食わせたるさかい』とあしらわれる。
「謎のキメラの正体とは鯉でしたか。正倉院さんに感謝ですね、これで対策が取りやすくなりましたよ」
ソウマ(
gc0505)が感謝の意を表すと、命は『純和風なうちに隙はないで』と胸を張った。
「名前の由来として、鯉の鱗が36枚だと言われているので六六魚と言うのだ。中国の故事に『六六変じて九九鱗となる』とあり、鯉は滝を登ると龍になると伝えられていて、九九というのは81枚の鱗を持つ龍を示す」
宵藍がそう講釈すると、ユウとオルカからぱちぱちと拍手が送られた。
「そいじゃ、キメラを退治に行くとするかっ!」
陸奥四朗さんの家へと出発するため魔津度 狂津輝(
gc0914)は告げ、やってきた高速艇に軽く手を上げた。
●いませんってば。
「遠いところよりよくおいでなすった。わたしが依頼主の陸奥四朗です」
純和風の陸奥邸。和服姿の翁が彼らに頭を垂れて出迎えた。きょろきょろと命はアレを探している。
「ムツゴ「わー、これが日本の家なんですねぇ〜?」――はんはおらへんのか?」
いろいろと報告官の心臓に悪い肝心な部分がティリスの歓声でかき消えた。が、四朗は『このような名前ですが生憎兄弟もおりませんで』と笑う。
(「いないのか、五郎‥‥」)
ひっそりと宵藍も落胆したが、すぐに気を取り直して陸奥邸内部を珍しそうに眺めていた。
「わぁ‥‥欧州なのに和風! 素敵だねっ」
「なんでヨーロッパに和風な家を立てとるん? 悪いけど馴染んでないで?」
ユウが歓声を上げた次の瞬間、命は空気を読まぬ天然ぶりを発揮し、セバスもぎくりとしたような表情をして陸奥氏と命を交互に見つめる。
「はっは‥‥手厳しいですなあ‥‥」
幸い寛容なのか、既に言われ慣れているのか陸奥氏は自慢の庭へと向き直った。
深さ2mほどの池。やや離れた軒先からも巨大な魚影が(まあ魚としてはさほどでかくは無いが)確認できるほどであった。
「‥‥何が目的で現れたのかは分かりませんが、早々に御掃除してしまいましょう」
リュティアが雷遁を手に皆を促し、庭先へと降り立つ。
「調理して食うと聞いたが、本当か?」
「鯉キメラを食べる‥‥どんな味がするんだろうね」
狂津輝とソウマの疑問にも、命はニヤリとして答えない代わりに料理人と陸奥氏を安全な場所へと退避させていた。
「それじゃ、みなさんがんば――」「お前は俺と来るんだ」
応援のために手を上げていたティリス。彼女の細腕を掴んで問答無用で皆の後へ続く武流。
「た、武流さぁん。私が気になったからって、強引なのは困りますぅ」
「馬鹿な事を言うな。自力で問題を解決できるようになってもらうために、あんたを前に出して戦わせる」
――冗談ではない!!
どこの大尉だか知らないが、そう言い放ちそうになりつつもティリスは潤んだ瞳で宵藍に助けを請うた。
「頑張れ」
超棒読みに宵藍も言い放ち、頼みの綱である断真ですら『常に頼れる仲間がいる訳ではありません。いつかは自分が矢面で戦う時が来ます、その時の為に今回は頑張ってみてください』と同じような返答をする。
「うう、この中の男性は女性の大切さがわかっていませんっ‥‥」
無茶苦茶な事を言いながらも、ティリスは自前の雷光鞭をおずおずと取り出すのだった。
●滝は登れない
「こちら、準備完了です」
池の南側よりリュティアがサインを出し、東側の狂津輝もスキルを使用し武器や命中精度を高める。
「それじゃ、始めるとしましょう。運も僕の実力なんですよ?」
覚醒し、虹色の精霊達が舞う中。ソウマは探査の眼やGooDLuckを使用して側にいた命にお茶目に告げた。
ラッパ銃を手にしていた彼は、水面に向かって発砲する。
轟音とともに発射される弾丸。あまりの爆音に、水中に居た鯉たちでさえ驚いて飛び跳ねると、身を躍らせ水面に姿を現した!
「よぉし、頑張って退治しちゃうんだからっ! いくよ、セバスおにーちゃんッ!」
「はい。銃はあまり慣れてないのですが、頑張ります。ユウ様もお気をつけて」
セバスの柔和な表情はたちまちのうちに引き締まり、スコーピオンを構える姿も凛々しい。鯉キメラ(以下鯉)を狙い、射撃。
仲間がそうして戦っている間。ティリスの専属コーチ、武流はティリスの相手をしていた。
「拗ねている暇があったら練成治療や練成強化とかスキルがあるだろう。まずはそれで仲間を支援してみろ」
「拗ねてませんよ〜。危なくなったら武流さんに庇ってもらいますからねっ」
十二分に拗ねている。が、些細な抵抗は無駄である。ティリスは集中して練成強化をソウマへと飛ば――そうとして、雷光鞭の電波を飛ばしてしまったらしい。
「に゛ゃーっ!?」
「きゃあぁあ!? ごめんなさい!」
しかし『慣れてるから』と気にせず戦闘を続行するソウマ。見事な不運体質、ドンマイ。としか言いようがない。
「回復を使え。出来るだろう」
武流コーチがティリスに促しながら生意気に飛びかかってくる鯉を手刀で叩き落とし、ティリスも掌を掲げつつ集中した。
(「ティリスさんには良い先生が就いたようですね」)
鯉のエラを狙って正確な射撃を行っていた断真も、ティリスと武流を見て小さく笑む。
そんな微笑ましい空気とは違い、オルカは跳ねる鯉の攻撃を躱す。
「うわわ、暴れないでー!!」
先程の爆音で興奮しているらしい鯉は、すぐに跳ね上がっては体当たりを食らわそうとしてくるのだ。
「さぁ乱獲だ、乱獲だぜぇ!! ひゃーひゃひゃひゃ!!」
覚醒の効果で目が血走り、顔には狂気が宿る狂津輝。言動からしてもワルにしか見えない。
そのまま鯉へアサルトライフルを撃ちまくっている。今にもヒャッハー! とでも言いそうだ。
「大した攻撃もしてこないんだな」
宵藍が飛び上がってきた鯉に円閃を放ち、芯で捉えて陸へと打ち上げる。地面でもがき苦しむ鯉に、オルカは『ごめんね』と瞳に悲しげな色を浮かべつつもエラ横へと武器を思い切り差し込んだ。
「少々試したい事がありますので、宜しいでしょうか」
リュティアが皆に断りつつ、機械巻物『雷遁』を広げる。池に放たれた雷遁の電磁波。
直線状に居た鯉へダメージを与える事は出来たが、感電して浮かび上がるかも、という期待通りにはいかなかった。
「そううまくはいきませんでしたか‥‥ですが、ダメージがいっただけでも良しと致しましょう」
深紅の瞳をやや細め、残念そうなリュティア。水中より出でる鯉に対して雷遁から抜刀・瞬でツヴァイメッサーに持ち替え、スキルを使用しつつ短く、鋭く踏み込むと円閃で痛烈な一撃を喰らわせた。
「丸々しとって、ほんまにうまそうなキメラや‥‥」
命にはこのキメラも食べ物にしか‥‥いや、料理人を同行させている以上、最初から食べ物にしか見えていなかったのだろう。言動はこうだが、仕事はキッチリと鋭覚狙撃で確実に急所へ当てていく。
銃弾を受けつつも近距離で跳ね上がった鯉。その絶好の機会を待っていた。
「‥‥特別に用意した雷属性の銃、その身でとくと味え!」
無防備な鯉の胴を、ソウマの銃弾が深々と食い千切る。後方で命が『穴は極力あけんといてな』と悲しそうに呟くのが聞こえたが、一寸遅い。
威力を増している銃弾は鯉の胴を通りエラを抜け、頭にまで達していったのだから。
ばしゃと大きな水音を立てた後、絶命した鯉はぷかりと池に浮きあがる。
水中でゆらりと動く魚影も残すは2匹。タクティカルゴーグルを装着し、特殊銃ヴァルハラでブチ柄の鯉を狙うユウ。
ソウマ達の倒した鯉が立てた水音に反応し、ブチ鯉が激しく身をよじった後に跳ね上がる。
「セバスおにーちゃん、今だよッ☆」
強弾撃を数発撃ちこみながら、この狩りをも楽しんでいるような声でセバスへ声をかけた。
ゼロに持ち替えたセバスも『承知いたしました』と応じ、
「はあァッ!」
ユウの射撃が終わった瞬間を狙い、短い気合の声を発しながらエラを黒く鋭いゼロの爪で深々と突き通す。
「やったー! ふふふッ‥‥大漁大漁♪」
「ユウ様のお陰ですよ。鯉料理楽しみですねぇ‥‥」
と、爪に刺したままの鯉を見てご馳走への思いを馳せる二人。
「っきゃー! 大きい魚がーっ! 武流さん怖い!」
「抱きつくな、蹴りが打てない」
間近に飛んできた魚に驚いて、武流にしがみついて悲鳴を上げているティリスと辟易しているらしい武流。武流が怖いのか、魚が怖いのかを言及したいところである。
止むを得んとティリスを抱え上げて応戦していたのだが、やはりティリスが足を引っ張っているようだ。
「あんたほど使えない傭兵を見たことが無い」
「ひどいっ、頑張ったのにー!」
ティリスを下ろしながらオルカに協力を要請する武流。そのまま池へ放り投げてやればいいのに。
「ティリスさんが困ってたら助けてあげてもよかったんだけど‥‥相方さんのほうが困ってるみたいだしねー」
軽口を挟んだ後、鯉が泳いでいた近くを狙って石を投げ込むオルカ。跳ね上がってきた鯉に蛇剋を突き刺し、聞きかじった鯉のぼりの歌を口ずさみながら武流が戦いやすいよう宙へとトスした。
「武流さん‥‥っ!」
ティリスが思い出したように練成超強化を武流へとかけた。
虹色の光に包まれつつ、武流は『上出来だ』と述べてから落ちてきた鯉に回し蹴りを浴びせ脚爪を食いこませると、蹴り主体の連携で仕留めたのだった。
●料理は愛情
「終わった、終わったよ‥‥ふぅ、疲れたびぃ」
狂津輝がそう言いつつも嬉しそうな顔で料理人に仕留めたばかりの鯉を手渡す。
「黒はさて置き、金やブチは明らかに‥‥錦鯉な訳だよな」
流石に抵抗を感じる宵藍は苦笑しつつ、柄の分からない範囲を味見しようと思っているようだ。
「あ‥‥でもユウ、ナマは無理かもー‥‥」
悲しそうにしていたユウへ、命はうきうきとした声で大丈夫やと言う。
「鯉こく、龍田揚げ、甘煮となんでも出来るんよ。一匹はまるまる使って塩焼きや」
「食べるのに勇気が必要そうですけど、酒の肴には困りませんね」
断真も涼しげな顔に笑みを浮かべつつ、それに合う酒を考えているようだ。意外とノリノリである。
「御邪魔でなければ手伝いたいのですが、よろしいでしょうか」
「差し支えなければ私も。鯉は扱ったことが有りませんので良い勉強になりそうですから」
セバスとリュティアが意欲的に手伝いを進み出た。
「ん。頼むわ。ほなゴロウさん、調理場借りるで」
「シロウじゃよ。どうぞどうぞ、御使いなさい」
さらっと訂正しつつも台所を借りる許可も下りた。
料理が出来る間、ユウは庭園でハーモニカを吹いて軽やかな曲を響かせ、陸奥氏とオルカは水槽に入れてあった小さな鯉を鑑賞している。
数匹貰えると聞いて、目を輝かせて喜んでいるオルカ。『それも食えるのか』と狂津輝が口を挟んで、陸奥氏が食べないでくださいと驚く。
料理が運ばれてきた後。セバスが料理を皆へ取り分け、仲間を見やる。
「‥‥意外とおいしい」
その美味しさは料理の腕か、キメラの味なのか。悩みつつもソウマは鯉料理を食す。宵藍は柄の分からない龍田揚げを味わっていた。
鯉はクセがあるのが堪らん、と舌鼓を打って大満足の命。
ティリスが『お疲れさまでしたっ。武流さん素敵でしたよ』と、武流にわざとブチの部分をアーンで食べさせようとしていた。
断真はリュティアから酒を注がれ、鯉のアライに手を伸ばす。
無駄に和洋折衷‥‥ヨーロッパの和風な陸奥邸で、賑やかな宴会を楽しむ彼らであった。