タイトル:【AP】或る少年と身代金マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/19 23:12

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●小さくても不幸

 某月某日。醸造会社マクニール社内。
 秘書が困惑の表情を浮かべながらキーツへ声をかける。
「あの、社長‥‥UPCのユキタケ様より、お電話が‥‥なんでも‥‥ウナ? だそうで」
 UPCアイルランド支部よりキーツ宛てに連絡があった。その電話を取ると、キーツは幾分張りのある声で告げる。 
「はい‥‥ああ、ユキタケ伍長さん。すみません、ウナじゃなくてキチンと『urgent』と言ってあげてくれるかな。それに残念だけど、忙しいから話なら後で――」
『そんな事を言ってる場合じゃありませんよーー!! ちびっこ中尉が、誘拐されたんですよ!』
 電話の向こうで怒鳴りつけてくるユキタケ。それを聞きながらキーツはフッと鼻で笑って、手振りで秘書を部屋から追い出す。
 ドアが閉まるのを見届けた後。

「な‥‥なんだってーーー!? シアンが!? ちびっこ! なんでそんな大事なことを早く言わないんだ!!」
『大事なのはソコじゃないです! 誘拐されたんです! マクニールさんの連絡先知らないからって、キメラがこっちに連絡を‥‥』
 はて。と、一瞬キーツは考えた。今キメラが連絡をと言っただろうか。
「伍長さん。キメラって、頭いいのかな?」
『今回は特殊だそうです! 細かいこたぁ良いんです! 要するに返してほしかったら金を寄こせって言ってるんです、キメラが!』

――キメラが金の無心を。何に使うつもりなんだろう。

 そこでキーツは首を傾げたが、仮にも軍人であり、能力者でもある弟がそんなしみったれたキメラに捕まっているというのも情けなくて溜息をついた。
「‥‥いくらだい?」
『10万cです』
「え‥‥? それだけ? するならもっとドーンと要求すればいいのに。いや、そうじゃない。払ってもいいけど、キメラは討伐しなくていいのかね」
『つまり、払うのはキメラに、ではなく?』
「勿論。能力者にお支払いするよ。どんなキメラか知らないけれどね‥‥生かしておいたら良くない気がするしね。ULTに早速依頼を出して。キメラに支払うのは子供銀行のお金でいいから」
 いいのかなあ。そう思いつつ、伍長も了解と返答をし通話を終える。
(「でも、なんで中尉はそんなキメラに捕まってるんだろう‥‥?」)

●それは数日前の話。

 何故か突然子供の姿になってしまったシアン。
 元に戻る方法を探していたところ‥‥『シガツ・フール』なる花の根っこを煎じて飲むと元に戻るらしいと図書館の本に書いてあった。
 馬鹿正直にそれを信じ、花を探して森に入ったところで女性型キメラに声をかけられた。
 攻撃しなくてはいけないかと思ったが、どうやらこのキメラ目と鼻が悪いらしい。シアンをキメラだと思っているようだ‥‥。
「フール草? それならあるわよ。でも、あまり咲かない大事なものだから‥‥」
 どうしても欲しいので譲ってくれと頼み込むと、女性型キメラは『じゃあ、手を貸してくれるならいいわよ』と快諾してくれたのだ。

「‥‥それが、こんな状況だとは」
 不憫に思えてきて、シアンはキメラに包帯を巻きながら眉根を寄せる。

「えーん、いたいよー。能力者怖いよー」
 先日生まれたばかりらしい獣キメラがミーミーと泣いていた。
「はいはい、強いキメラになるんでしょ、泣かないの。怖い人に叩かれちゃうわよ」
 獣の手当てをして微笑んでいる女性キメラ(以下オナゴ)。見れば、あちらこちら白いベッドに横たわったキメラだらけ。
 どうやら、ここはキメラの病院らしい。人手ならぬキメラ手が足りないので、オナゴさんは一人で患者の様子を診ているらしかった。
「うあああ、あの能力者がくるゥゥゥ!! その銃いやあ! もうらめえええ! 体力が持たないよォォォ!」
 夢にまで恐怖を見ているのだろうか。蛇キメラが身をくねらせつつ大声で叫ぶ。
 まだ包帯を巻き終えていないのに暴れたので、身体に絡まる包帯をそっと取ってやるオナゴさん。
「私達の戦い、まだ続くのかしら」
「‥‥」
 人間も同じように思っている。キメラもそれは変わらないのだろうか‥‥そんな風に思っていると。一匹のキメラが、シアンを指さした。

「ていうかーーー! こいつ、人間だァーッ!!!」

 しんと静まり返る病院内。オナゴさんは包帯を解く手を止め、良く分からないシアンのほうを凝視した。
「‥‥きゃぁぁーーー! 本当だわッ! 人間の子供!? ひどい! あなた、だましたわね!?」
「いや、そんな事は無――」「人間は捕まえろ!」
 勝手に誤解したんだろう。そう言おうとしたシアンだったが――、力持ちなキメラのゴリラ(キメゴリさん)が病院内に響き渡るほどに大きな声で吼えつつ胸を叩きながらやってきた。
 なぜ胸を叩きながらなのかなどは特に気にしなくともいいだろう。やってきて早々キメゴリさんはかなり興奮している。そんなキメゴリさんを見かけたキメラは(いろんな意味で)恐怖におののくのである。
 泣いていた獣キメラをメソメソすんなといきなりひっぱたき、シアンを掴もうと手を伸ばす。
 初めは避けていたシアンだが、うっかりと床を這っていた蛇キメラを踏んでしまったせいで、キメゴリさんに捕まった。
「こいつぁどうしてやろうかね。お偉方に差し出して強化人間にしてもらうかァ? ‥‥おっと舌ァ噛んだら、ヨリシロ行きだぜ?」
 シアンは縄で縛りつけられながら反抗的な目でキメゴリさんを睨んでいる。
「コングさん、もうこの子たちのお薬が無いのよ。お薬を買うのもお金がいるの」
「そうか‥‥薬か。っておい、名前違うぞ。コングじゃねえ。ゴリさんだ」
 大変どうでもいい。心の底からそう思いつつ、シアンは微かな不安も覚えた。
「人間から金を巻き上げるぞ! 丁度こいつがいる。金と引き替えに渡そうぜ」
 やはりそうくるか。と、シアンは思ったのだが――

(「どいつも容姿からしてキメラだというのに、どうやって人間の薬を買うつもりなんだ?」)

 そして、10万cという身代金の額を聞いたときにも、俺の命は安いな。と心が寂しく冷えていくのを感じた。


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に『一切関係はありません』。
大事な事なので二度言いました。ホントに関係ないよ!

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
朧・陽明(gb7292
10歳・♀・FC
レベッカ・リード(gb9530
13歳・♀・SF

●リプレイ本文

●まぁびっくり

 伍長から大雑把な事情を聞いた能力者達。
「誘拐って‥‥中尉が、ですか?!」
 蒼白になった顔で伍長に詰め寄るリゼット・ランドルフ(ga5171
「‥‥人質をとって金銭を要求とは‥‥」
 ナンナ・オンスロート(gb5838)は胸の前で腕を組んで、容赦しないと口にする。
「シアンくんを人質にするなんて、何て卑劣なっ!」
「ちびっこシアン‥‥デジャヴじゃのう」
 レベッカ・リード(gb9530)と秘色(ga8202)が既視感を覚えながら依頼書を見つめていた。
「しかし身代金が10万cぽっちとは、何ともお買い得な命じゃわい」
 洗剤もおまけでついてきそうな激安特価だと秘色は揶揄する。
「今なら中尉もセットで、とかね」
「むしろ10万cならわしが買う」
 冗談を交える二人の間に話を元に戻そうと優(ga8480)が入ってくる。
「キメラが金銭を要求することも気になりますが、シアン中尉が子供になったという方が気になりますね。もし本当だとしたら‥‥」
「‥‥無事じゃなかったら、保護者代行の伍長さんを恨むしか‥‥」
「なんで僕なんですかー!?」
 リゼットの本気っぽい目に怯むユキタケ。
「シアンが人質‥‥か。大変だな、うん」
 UNKNOWN(ga4276)が竜の着ぐるみを着こみ、絆創膏を貼りつけ包帯で腕を吊り、怪我をしているキメラのように偽装する。
「ふっ、人質の命の確保『だけ』は任せたまえ」
 いつも通りのダンディな姿で言えば良かったのに、着ぐるみ姿では何とも頼りない。
「ま、人質も、キメラぶっ倒しゃ結局救えるコトになんだろ?」
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)が煙草を吸いながら、地図上の一点――キメラの病院を指す。
「巣窟みてェなトコがあるじゃねーか。これは一網打尽にすべきだな。うん、すべきだぜ」
 中尉なら恐らく大丈夫だろう。しかし、と集まってくれた能力者の表情を見つめる伍長。

――なんか、数人凄くやる気なんですけど。

 しかも、邪念のような‥‥形容しづらいが『良くなさそうな気』を肌で感じた。
「と‥‥とにかく、皆さんよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる伍長に、ヤナギがひらひらと手を振って笑顔で応えた。
「おう。任せとけって。ギッタギタにしてやるからよ!」
(「ちょ‥‥ギッタギタって‥‥」)
 絶句する伍長を残し、能力者らは早速その場へと向かって行った。

●病院での珍事

 それから数十分後の病院内。
(「参ったな‥‥」)
 蓑虫状態で吊られているシアンは、他にする事も無いといった具合にぶらぶらと揺れていた。かなり大丈夫そうである。
 しかし、キメラにも病院があるというのが驚いた。そして、先程からキリキリ働くオナゴさん。
 恐らく和気あいあいとしているらしいキメラ達。
 そして薬の投与をするため、その場を離れて行ったオナゴさん。キメゴリさんはガツガツとバナナを食べている。

「食事だよ、交代しよう。怪我をしていても、見張りぐらいなら私だけでもできるさ」
 見た目より良い声で胸を張る竜キメラ。その声に聞き覚えがありそうななさそうな。キメラ達のほうでも『こんな奴いたかな』と言うような微妙な表情を浮かべていた。
「‥‥食事が無くなってもいいのか!?」
 慌ててその場を離れるキメラ達。それを見送った後でノシノシと近寄り、視界いっぱいに顔を近づけてくるキメラ。
「‥‥安心しろ。私は傭兵だ」
「!?」
 ぼそっとつぶやいた声に、シアンはバッと青い目を向ける。こくりと頷く竜こそ隠密潜行を使用してまで単独で中までやって来たUNKNOWNその人なのだ。
「どうやってここへ? 他にも――」「シッ‥‥いいかシアン。今から何があっても大人しくしているんだ」
 外で皆も待機していると告げ、何故かシアンに猿轡を噛ませるUNKNOWN。
 不思議に感じつつ素直に従うが、どこからかエノコロを取り出して、シアンの身体をくすぐりはじめた‥‥!
「‥‥う!?」
 くすぐったさにシアンは身をよじったが、何故か執拗にエノコロは追ってくる。
「ん、ふぅ‥‥ッ!(おい、何をしている!)」
「暫くの辛抱だ。ん? ここもくすぐったいか」
「んむ‥‥!」
 少年をくすぐるキメラ? の図。ちっとも男性諸氏にとっては楽しくない場面だが、安心してほしい。報告官的にも楽しくない。
「この、能力者め」
 遊んでいると子供キメラがやってきて興味深そうに見つめている。教育によろしくなさそうな事を、UNKNOWN(キメラ名、虎次)が子供にもやらせ始めた。
 我慢も限界。ブチ切れ始めたシアンだったが、キメラズの猛攻は止まらない。
「身の安全の為だ、我慢してくれ、うん」
――絶対嘘だろ。
 シアンは確信しつつ、いつ終わるともしれない救いを待ちつつ小突きまわされていると――

「わしらは使いじゃ! 身代金として希望の金額10万cを持ってきた故、人質との交換に応じてもらおうぞ!」
 バァンとドアが開き、先頭に秘色、その後ろに優、ナンナ、朧・陽明(gb7292)、レベッカと続いている。
「シアンくん助けに来たよー。大丈夫?」
 シアンにはこの時、彼女達が女神に見えたらしい。崇敬の念を持って彼女達を見つめていた。
 この薄暗い室内に負傷した大小様々なキメラ。彼らも傷つき、病院までもがある――陽明は全身に衝撃が走るのを感じた。
(「なんということなのじゃ‥‥! キメラもかように小さき者まで‥‥」)
 思わず口元を隠し、目元が潤んでも涙を零さないようにと気を張っている。
「‥‥大丈夫ですか?」
 優が陽明の事を気付いて声をかけてきたが、陽明は何でもないと顔を背けてしまう。
 それに首を傾げつつ、AU−KVを着装して万全の態勢であるナンナ。『なんだてめーらは!』と荒々しくやって来たキメゴリさんを見据える。
(「あのゴリラ‥‥普通のゴリラとは違うようですね」)
 キメラだからというのはさておき、強敵と見受けた彼女は血がざわめくのを感じる。
「おう。まず金を寄こせ。話はそれからだ」
 キメゴリはオナゴさんを呼びつけ、秘色もあいわかったと金の入った袋を持って前へと踏み出した。
「‥‥おっと手が滑ったぁ!!」
 銭形の旦那よろしく、小銭をキメゴリとオナゴさんに向けて投げつける‥‥ように見せかけぶちまける秘色。
 床に落ちたコインは様々な音色を奏で、盛大な輪唱が室内に響いた。
「そら、今じゃーっと‥‥!」
 虎次を押し退け、秘色はシアンの元へと走る。
 その間ナンナと優は、お金を拾っているキメラ達の行動に目を向けており、陽明は幼体キメラ達を気にして視線をちらちらとそちらへやっている。
「おぬしも難儀じゃのう。とりあえず聞いておくが、無事だったかえ?」
 宙ぶらりんになっているシアンの縄を切ってやり、猿轡も取って下ろしてやる秘色。
 頭を左右に振りながら、シアンはギロリと虎次を怒りの形相で見やったが――もうその場にいなかった。
「おらおら、刀の錆になりたくなければ、どかぬかキメラ!!」
 シアンを守りながらソニックブームで道を開けさせ、連れ立って走る秘色。
 優は外で待機している仲間に向かって無線を手に、告げた。

●本陣急襲!

『‥‥こちら優です。シアン中尉の安全が確保できましたので、そろそろ始めましょうか』
 ハラハラしつつも祈るような気持ちで連絡を待っていたリゼットと、
 小屋の周辺に落とし穴等を張り巡らせるガテン作業もこなし終え、一服していたヤナギが無線の声に顔をあげた。
「おっしゃ、出番だな?! 行くゼ!」
 ワルい笑みを浮かべながら小屋に突撃していくヤナギ。
 人質が無事だと知ったリゼットも、ヤナギに続いて小屋へと向かって走る。

 小銭を拾い終わったキメラが見たのは、自分たちに立ちはだかる能力者達であった。
「罠か! 人質がどうなってもいいのかァ!?」
 キメゴリが吼えたが、優が『人質の身の安全は確保しました』と冷静に告げる。
「‥‥出会いたく無かったわ。ましてや病院内で‥‥」
 オナゴさんが悲しそうに呟いて悲しげなそぶりを見せる。しかし、すぐに能力者達のほうに向き直ると戦闘態勢に移行した。

 キメゴリが胸を大きく張って威嚇の態勢をする直前。自分ではなくミカエル姿のナンナがドラミングをしているではないか!
「なっ‥‥てめぇ、この俺とタイマン張ろうってのか!?」
 面白い、と笑った(ように見える)キメゴリさん。意思が伝わったことを理解したナンナは、ドラミングを止めて無言で『かかってこい』という意味を乗せ手の甲を上に向けた手招きをする。
 そちらの方へとまっすぐに向かって行くキメゴリ。ナンナも武器を装備せず、キメゴリへと向かって行く。
 拳を繰り出し、力強い一撃をお互い放つ。『貴様の野生と私達の機械、どっちが上か決めようじゃないか』そうナンナが拳で語っている‥‥気がする。
『やるじゃねぇか、人間ン!』
 そう言っているかのようなキメゴリの張り手を捌きつつ、ナンナも小さく不敵な笑みを向けていた。
 バッサリ言えば笑顔で殴り合いを続ける二人。凄まじさに、周囲のキメラも戦いを忘れて見入ってしまうほどだ。
「おらおら、もたもたしてっとヤっちまうゼェ?」
 ヤナギが咥え煙草のままでイアリスを振り回し、キメラ達を容赦なく蹴散らす。
 円閃を使って叩き込めばキメラ達は悲鳴を上げつつ宙を舞い、立ちふさがるキメラも二連撃で倒す。
 赤いホスト‥‥じゃない、赤い悪魔。戦慄するキメラ達。
「駄目だ‥‥ッ、勝てない‥‥っ!」
「ばかやろー! 諦めてどうする!」
 怯え、じりじりとあとずさるキメラ。それを叱咤する虎次。
「明日のために! 打て!」
「お‥‥おおっ!」
 なんだかよく分からないうちに行けと言われて、向かう男キメラ。結果、赤い悪魔に屠られたが。

「早く逃げるのじゃ、今後人を襲うでないぞ? 穏やかに生きれば危険も無かろう」
「何をしてるんだ?」
「な、何でもないのじゃ‥‥」
 陽明の手元をシアンが覗きこもうとするが、サッと後ろ手にキメラを隠しながら陽明は物陰で震えているキメラ数匹を見つけ、窓を開け逃亡の手助けをする。 
 しかし、窓の外‥‥小屋の周囲にはヤナギが仕掛けた罠が幾つもある。小さい悲鳴がいくつか聞こえたが、何匹かは無事に逃げる事が――出来たのであろうか?
「‥‥じゃ私も敵を根絶やしにしてくるから」
 レベッカは電波増幅を使用し、フレイムシュートで火炎弾を打ち出す。
「悪い事する人‥‥じゃないけど、OSIOKIだよ!」
「やめてェェ! 病院内は禁煙・火器厳禁よ!」
 オナゴさんが攻撃を繰り出しながら悲痛な声を出すが、ヤナギもレベッカも『知った事か』の姿勢である。
「人間の病院だけだろ、禁煙なのは!」
 どう見てもワルである。

「ごめんなさい、でも痛くしませんからっ」
 可哀想に思いながらもリゼットが急所狙いでキメラにサックリと止めを刺す。
 陽明も向かってくるキメラには気を切り替えて戦う。
 舞うように攻撃を躱し、柔らかそうな袖から急に伸びてくる武器。
 扇で叩き、爪で斬り裂き、盾扇で攻撃を受け止める。
 入口から外に脱出しようとするキメラを月詠・凄皇の二刀を振るって切り裂く優。
「絶対にここから逃しません」
 静かな顔には僅かにキメラ達に対する憎しみが見えた。
 流し斬りとソニックブームの嵐。そして火炎に包まれる室内。
(「人間を連れてきてしまったせいでこんな事に‥‥」)
 オナゴさんはリゼットから近距離戦を挑まれて、勝手の違う間合いに戸惑いつつ後退していた。
 リゼットの攻撃は隙が無く、全くと言っていいほど手が出せない。
 完全に後手に回ったオナゴさん相手に、リゼットは勝負を決める。
 豪破斬撃と急所突きを乗せて、オナゴさんの胸部を突いたのだ。ヨロリと倒れるオナゴさん。
 同じ頃、ナンナとキメゴリの戦いも終盤にあった。
「そろそろキめようじゃねぇか。人間」
 ぐるぐると腕を回すキメゴリ。軽く肘を曲げたまま、雄叫びをあげてナンナへと突っ込んでくる。
 どういうわけかナンナは思い切り身体をねじり、背を見せる。
 
 体に刻め!! とばかりに、跳躍して、強固な防御力を持つ傭兵の装甲を貫通したとかしないとか言われるソレ――黄金の右肘撃ちをキメゴリの顔に当てた。
 そんな物を食らってはひとたまりも無い。FFとかそういう物はこの際色々気にしないで頂こう。
「見事だった‥‥強敵(とも)よ‥‥」
 ようやく喋ったナンナ。キメゴリも『ありがとよ‥‥良いパンチだったぜ』と言って天へ還っていった。
 いや、エルボーだけど。というナンナの声も聞こえないまま。

「ああ‥‥静かに暮したいだけなのに‥‥」
 仲間の声も聞こえなくなった。燃えていく病院の熱さと、キメゴリや病キメラの事を思いながら、オナゴさんも沈黙した。

●なんということでしょう

「ふぅ‥‥いい仕事したなぁ」
 晴れやかな笑顔で汗を拭うレベッカに、AU−KVを脱いで『ムキムキな人とかキメラってちょっと』とか、あんまりな事を言うナンナ。
 その後ろでは。
「UNKNOWN! 何故良く分からん作戦を行った!」
「ん〜? 知らんなぁ」
「とぼけても無駄だ! 君の声だった!」
「似たような声のキメラくらいいただろう、ね」
 災難だったねとしらばっくれる彼に、ガルルと牙をむきそうなシアン。
「ちびっこの蓑虫を見られなくて残念だったなァ。ま、その姿も似合ってんじゃねーか?」
 ニヤニヤと笑うヤナギに『君もやってみたらどうかね』というジト眼を向ける。
 そんなシアンの元へ、リゼットが救急セットを持ってやって来たかと思えば、ガッシと頭を掴んで傷が無いかを確認し始めた。
「痛い所とかないですか? 頭は打ってませんね?」
「ああ、笑いすぎて腹が痛いくらいだったが」
「何言ってるんですか! こっちは心配で胸が痛かったんですよ!?」
 怒られて思わずビクッとするシアン。だんだんリゼットの眼が潤んできた気がする。
「すまん。泣くな」
「泣いていません! まだ!」
 泣き顔を見せたくないと、シアンをむぎゅっと腕の中に抱き寄せるリゼット。
「待っ‥‥、子供の姿をしていてもだな、落ち着け!」
 抵抗しようとするシアン。あまり暴れると胸に顔をうずめてしまいそうなので、手をばたつかせるだけだ。
「どうして無茶したんです? ‥‥凄く、凄く心配したんですよ‥‥」
 安心して涙声になったリゼット。顔は見えないが、本当に泣いているのかもしれない。
「悪かった。元に戻りたかったので、つい。迷惑をかけた」
 謝罪したのに、ギュッと増々抱き締められる。彼女、豪力発現まで使っているようだ。
「反省するまで離してあげません」
「羨ましいのぅ。リゼット、その後はわしにも抱かせい」
「やめろーッ!」
 ぬいぐるみのような扱いをされるシアン。
「シアン中尉、お疲れ様です。無事で何よりでした‥‥とは言えないみたいですね。その状態を見る限り」
 傍観している優の言うとおり結局、彼の目的シガツ・フールも貰えなかったのは明らかであった。