タイトル:【AP】vampireHunterマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/15 02:10

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●軍人とか知りません

 ゴトゴトと揺れる馬車に乗りながら、今日何度目かの違和感を覚える。
――なんか‥‥おかしい気がする。
 そう感じ続けている、とある能力者。頭ではおかしいとはっきり感じているのだが、あの真面目な軍人が真面目な顔で『ヴァンパイアを倒しに行く』‥‥などとファンタジーみたいな冗談を言うはずはない。
 きっとヴァンパイア型キメラ(?)の事なのだろうと、記憶の書き換えに努力してみる自分が少しいじらしい。
 確かこの黒髪の男、シアン・マクニール『中尉』‥‥だった気がする。見慣れた気がする軍服ではなく、今日は白いロングコートを羽織り、銀のレイピア。
 こちらのほうが見慣れているような気がしなくもない。面倒だったので考えるのも止めようかと思った頃。
「何をボーっとしてやがる。行かねェっつーなら帰んな」
 と、物思いにふける能力者を無遠慮に見つめるロビン・ベルフォード『大尉(だった気がする)』の眼。
 シアンと同じように黒いロングコート、大剣に‥‥鞭。大剣はともかく、何故に鞭が必要なのか。
 そう尋ねると、『ヴァンパイア退治か、冒険と言えば欠かせないアイテムだ』という答えだった。
 最初は不思議そうに首を傾げていた能力者も、最早どうにでもなれ状態である。
「で、中尉。ヴァンパイアはどこに居るの? どこに向かってるの? ルーマニア?」
「中尉じゃないと言っている。まあいい‥‥もうスロヴェニアだ。奴は必ず居城にいて、次の満月になるまで大人しくしているに違いない」
 吸血鬼は数十年か数百年に一度復活するという、実に曖昧な情報を聞かされた能力者達。
 復活の兆しと根城は掴んでいるといいながら、羊皮紙を一枚道具袋から取り出した。
 そこには数人の名前が書かれており、シアン曰く『連れ去られた被害者』らしい。名前の上に赤く線を引かれていた。
「この赤線は僕(しもべ)の量産や食事として、人間としては、死亡した状態と確認された者だ‥‥我々の敵として生存しているが」
 表情を曇らせたシアンを見て、ロビンは『これは俺らが倒すから、心配はいらない』と能力者達に告げる。
「君たちにやってもらうのは、吸血鬼と従属型‥‥魔の存在を倒すということだ。数は多いので気をつけてくれ」
 そうして、一通り説明すると、シアンは馬車の窓から外を窺う。
 遠い為小さく見える吸血鬼の城を見据え、怨敵である吸血鬼の名を口にした。

●吸血鬼って

「ハンターどもが来ているそうですけど。準備のほうはどうなんですか、ティリスさん」
 玉座に座って、眼鏡を拭いている吸血鬼がユルい感じで黒いボンテージ姿のサキュバス‥‥ティリスに声をかけた。
「ユキタケ様よりずっとイケメンなハンターが来てるのでぇ〜、おイタされてもいいのでサクっとお色気で誘惑したいなって思いますぅ☆」
 女性は時として非情である。真実を言ってはいけない事もあるというのに、ついうっかり言ってしまった。
 ピタ。と、吸血鬼の眼鏡を拭いていた手が止まると同時、背中からどす黒いオーラが物凄く噴き出てきた。
「僕にもしてくれたことが無いのに‥‥! よし、リア充はどんどん殺しちゃってください。イケメンとか金持ちとか。その二つを兼ね備えてる中尉‥‥あれ、なんだっけ。そう、ハンターとか特に大歓迎です。いいんです。闇の者ですからそういうこと言っても許されてるんです僕。しかしイチャイチャしたらティリスさんもリア充とみなして制裁ですから」
「ふぇ〜、吸血鬼様あのハンターさんへの妬みオーラが凄いですねぇ。前世からの因縁とかですかぁ?」
「とにかく僕はまだ完全に目覚めたわけじゃないので、満月まで時間稼いでおいてください。お願いしますよ」
 前世というかなんというか。とにもかくにも、行ってらっしゃいと送り出されたティリス、は可愛らしく首を傾げたと思えばポムと手をうつ。
「女の子も面倒なのでぇ、コウモリさんと、ゾンビさんと、ガーゴイルさんと、ワンコさんにお願いしちゃいましょう〜。私、危なくなったら逃げますねぇ〜」
『えっ、姐さんそりゃないッスよ!? 俺たちもハンターとかマジ怖ェっす!』
 特にコウモリさん方に至っては鞭の一振り、銃の掃射で終わるので猛抗議である。
「大丈夫ですぅ〜。戻ってきたらティリスが、抱きしめながら怪我治してあげますからぁ」
『じゃあ頑張るッス!』
 俄然やる気になった手下どもを見送り、ティリスは舌を出してぺろりと自分の指先を舐めた。
「それじゃ、私は大広間で男の人達を待っちゃおうかな‥‥?」


 これはリア充を滅ぼす為に復活しそうになっている吸血鬼と、リア充達の延々と続く物語の一部である‥‥かもしれない。

●参加者一覧

/ ペルツェロート・M(ga0657) / 終夜・無月(ga3084) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / UNKNOWN(ga4276) / クラーク・エアハルト(ga4961) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / 秋月 祐介(ga6378) / 秘色(ga8202) / 百地・悠季(ga8270) / 優(ga8480) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 三枝 雄二(ga9107) / 白虎(ga9191) / 真白(gb1648) / セレスタ・レネンティア(gb1731) / 周太郎(gb5584) / 龍鱗(gb5585) / 桂木穣治(gb5595) / 諌山美雲(gb5758) / 相澤 真夜(gb8203) / 八尾師 命(gb9785) / アセリア・グレーデン(gc0185) / 八房 太郎丸(gc0243) / ソウマ(gc0505) / サキエル・ヴァンハイム(gc1082

●リプレイ本文

●結構早起き

 忌々しい陽光が世界にその祝福を与えている頃。ユキタケの覚醒を阻止しようとするハンター達を迎撃するため、ほぼ城内総出で対策中である。
「トラップ満載にしたら楽しいだろうな〜」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)らはせっせと罠を設置していた。
「こんなもんか、っと‥‥こっちは終わったぞー」
 罠の作成を終えた宗太郎=シルエイト(ga4261)が80匹の蝙蝠を従えつつ姿を現すが、蝙蝠のお陰で彼の顔はほとんど見えない。
「こっちも粗方終えたよ。今頃ラグナは‥‥キツネ狩りかな」
 ラグナとは、ユーリの飼っている雪狼の事である。狐狩りはさておくとして他の仲間達も、今頃同様に罠を張っている事だろう。餌食となるであろう狩人らの悲鳴や混乱ぶりを想像しつつ、宗太郎はくつくつと笑った。
「ククク‥‥待っているぞ、ハンター共‥‥」

●fox hunting

「吸血鬼退治かあ‥‥殴りがいのある奴いないかな」
 八房 太郎丸(gc0243)が期待に満ちた声で呟けば、ロビン(以下大尉)は『沢山居るだろうぜ』と手にした鞭を見つめながら答えた。
 鬱蒼と茂る森に入ると徐々に光の加護は遮られ、薄暗い道を進む馬の足音のみが狩人達の耳に規則正しく聞こえていた。
「リミットは10時間。なんとしてもユキタケの復活を阻止しなくてはいけませんね」
「問題ありません。神の加護は常に我らと共にあります」
 優(ga8480)がシルバークロスのネックレスに触れながら硬い声音で告げると、三枝 雄二(ga9107)が確信に満ちた声で応えた。
「ユキタケを甦らせる訳にはいかぬのう」
「無論だ。復活を阻止し、永遠に封じてやる‥‥!」
 秘色(ga8202)がそう言えば、シアンは煙草を取り出して口に咥える。
「それは私も同じ気持ちですが‥‥あの、中尉。煙草‥‥全然吸いません‥‥よね?」
 どんな経緯でハンターになったのか、さっぱり思い出せないリゼット・ランドルフ(ga5171)。そんな彼女は、シアンが今まで煙草を吸っていたかどうかは分かっているようだ。
「――本来なら永久の生命とかは渇望される対象なのに、『吸血鬼』という属性を持つが故に忌諱される事となる‥‥まあ、人の命が代償なら尤もなのよね。‥‥煙草、狭いところでは止めてよね」
 新婚ほやほやの若妻、百地・悠季(ga8270)がシアンの煙草を奪い灰皿に置いて言った時。秋月 祐介(ga6378)(以下教授)が皆へ訊ねる。
「しかし君ら、こんな昼間から吸血鬼が活動するはずがないだろう‥‥などとは思っていないよね?」
 それと同時。

 うおぉぉぉ‥‥ん

 おぉぉん

――犬の遠吠えが聞こえた。
「なっ、何だ‥‥?」
 ソウマ(gc0505)が内心の焦りを抑え気忙しくキョロキョロと付近を窺えば、教授はやれやれといった調子で窓の外に視線をやる。
「奴らは日の光に弱くとも、僕(しもべ)がいる。昼間も光を全身に浴びなければどうってことも無いよ」
 終夜・無月(ga3084)が剣に手をかけ『来る』と短く告げた。
 馬車を左右から挟むように並走してくる四足の獣の群れ。先頭に居るのはユーリの雪狼。
「先生方! 犬が‥‥走ってきますぜ! 白い犬が率いてきた仲間は‥‥死んだ犬だ!」
 御者が悲鳴交じりの声で報告してくると、大尉は『馬に鞭を』と命令し銃を取り出す。
「待て、銃声で馬が怯える!」
 シアンが大尉に言ったが、馬と御者が食い殺されるよりはマシだろうと逆に怒鳴られた。
「吸血鬼退治の前に肩慣らしといくぜ! いいか、犬を馬へ近寄らせるんじゃねぇ!」
 銃を持っている仲間は大きな窓を開けて、犬どもへ向けて発砲した。
 しかし、統率のとれた犬らは敏捷性を発揮して馬車の前へと躍り出る。
 馬の脚や胴に数匹が食らいつき、馬と御者を恐怖へと陥れた。
「徒歩で城に行くなど冗談じゃないな。ここは馬と御者をなんとかしなくては‥‥」
 龍鱗(gb5585)がレライエで犬を狙い撃つ。
「銃は刃がないから無問題です!」
 聖職者であるリゼットも銃で犬を蹴散らし、悠季もデヴァステイターを発砲。
 犬には当たっているものの、被弾すると一定距離を置いてから再び複数で襲いかかってくる。
「哺乳類あんまり殺したくないっ!」
 言いながら犬達へスカーレットを向けている相澤 真夜(gb8203)に、無月が苦笑した。
「俺に殺せというのかな? さておき、蹴散らすにはそれしかない、か‥‥」
「腐りきった狗が神の創られた大地を汚すなどという罪跡、断じて見過ごすわけにはいきません!!」
 雄二は機械剣を両手に携えて馬車の扉を蹴って開け放つと、外に飛び出した。犬の頭部に深々と機械剣を突き入れ、もう片方の機械剣で胴を抉る。
「ま。理由はどうでもいい。進めないから殺っちゃうかァ!」
「仕方ありませんか‥‥それでは、皆さん援護を宜しくお願いします」
 太郎丸と優も続いて飛び出し、銃弾をものともせず馬に食らいついている犬へと向かっていった。

●こうもりが飛ぶ頃に

 御者と馬を助けつつ戦い、皆大きな手傷も負っていないのだが、襲撃は時間稼ぎだと知った頃は闇の力が徐々に発揮されようとしている逢魔が刻。
 能力者達は今だ足止めを食っていた。
「クソッ‥‥思ったより手慣れてやがる。こんなに手こずるとは思っても無かったぜ」
 賢しい狼め、と大尉が毒づいて見やる先には、白き狼ラグナの姿。己の役割は果たしたという事か――森の外を見つめ、ラグナは小さく啼いた。
 それは撤収を促す合図か、城のほうへと走り去っていく。
 残された狩人達は傷の具合をざっと確認した後、御者と馬を先に帰らせて城へと徒歩で向かったのだった。


 ユキタケ城(正式な名が無かったので、この名で押し通すとする)にやってきた吸血鬼、八尾師 命(gb9785)は身を隠しやすそうな場所を探す。
 何者かが既に入り込んでいるのか? 城の側塔などには防衛の為の兵は置かれていない。しかし喧騒が聞こえない事から察するに、吸血鬼とハンター達はまだ出会っていないようだ。
(「双方が出会えば戦闘になるでしょうし。ある程度落ち着いた頃合を見計らってから侵入したほうが良さそうですね」)
 そうして、気配を消して城門近くの闇に潜‥‥もうとしたところで、べたりとしたものが体にくっついた。
「なっ‥‥?!」
 ユーリの配置した超強力粘着マットを踏んでしまったようである。嗚呼、トリモチは敵味方中立問わずひっつくのだ。
 もがけばもがくほど、トリモチはべたべたと絡まる。
「高性能多目的ツールがあって本当に良かったですぅ‥‥」
 ナイフと鋏を使い分けつつ、トリモチ地獄から脱出した命は、今度こそマットを踏まないように気を配りつつ姿と気配を消した。

 一方その頃。

「良い夜だな‥‥。こんな夜は暴れたくもなるものだ」
 じきに、朱い満月が天に輝く。ざわざわと血が滾るのを感じつつ、黒コートにサングラス、鍔の広い帽子という闇に溶け込む服装で回廊を歩いているクラーク・エアハルト(ga4961)。
 床を規則正しく打っていた靴音が、不意に止まった次の瞬間。クラークは大型の拳銃を引き抜いて柱へ照準を合わせた。
「こんな所で貴様に会うとは、奇遇だな? ‥‥アセリア・グレーデン!」
 柱の陰から姿を現したアセリア・グレーデン(gc0185)は銃口を向けられていても尚、静かな口調で仇敵クラークをまっすぐ見つめる。
「ちょうど良い、いつかの決着をつけようか!」
「待て。私もそれは是非にと思うがここへは違う目的でやって来た」
「‥‥チッ、貴様もユキタケの排除が目的か‥‥」
 貴様『も』という話ぶりから察するに、アセリアと彼、双方の主は同じ目的でここへと派遣したようだ。
「マスターが言っていた協力者とはお前か‥‥主命には従うが‥‥気に入らん‥‥」
「それは此方も同じ。お互い主の命令では抗えん。今回は共闘と行こう。決着をつけるのはこれが終ってからだ」
 アセリアもクラークへ了承の返事をし、共闘することになった二人は情報交換をしながら回廊の先へと進んでいった。

●悪魔の城へようこそ

 ようやくハンターらは深き森を抜け、目的の城へとやってきた。
「ここが噂のヴァンパイア城ですか‥‥」
「‥‥何かどんよりしてるなここ」
 真夜がごくりと生唾を飲み込み、龍鱗が眼前にそびえ立つユキタケ城を見つめながら口にした。
 邪念というか、闇の力というか‥‥ぶっちゃけると嫉妬のオーラで空気が淀んで見える城の迫力に、さしもの狩人達も少なからず圧倒されたようだ。
「恐れる事はありません。さあ、参りましょう。愚者共を刈りに‥‥」
 優しい口調で雄二は先を促した。扉に手をかける前に、秘色は罠の有無を警戒する。先程まであったトリモチシートはもうなくなっていたが。
「扉は罠の匂いがプンプンじゃのう‥‥」
 だが、そんな秘色の警戒をものともせず。
「よし、私も覚悟も出来たし、いってきまーっす!」
 真夜が扉に手をかけるが、扉はビクともしない。体当たりを数度喰らわせると扉が勢いよく開き、真夜は暗い城内へそのまま突撃していった。
「ほれ、おぬしも男ならば行ってこーい」
「吸血鬼の復活を阻止す‥‥って、うぉお!?」
 不意に後方から秘色に突き飛ばされ、ソウマもまた先の見えぬ城内へと進むことになったが‥‥
 二人の足元には――床が無かった。暗くて分からないだろうが、彼らの足元には宗太郎とユーリが掘っていた落とし穴がぽっかりと空いていたのである。
「なんのっ‥‥これしきィィィ!」
 ソウマが運良く床の縁に手を伸ばし、もう片方で落ちそうになる真夜の手を掴んで落下を防ぐ。
 牡丹灯籠を手に落とし穴を照らした教授が申し訳なさそうに告げた。
「おのおの方、心配は無用。どうやら下には‥‥ふむ、トリモチが張ってある。剣山トラップではないようだ」
 教授の解説に、秘色は『落とし穴に誘い込むとは吸血鬼め‥‥!』と歯噛みするが、シアンに『ソウマ君のはどう見ても君のせいだろう』と突っ込まれていた。
 その先に広い落とし穴も見えていたので、ロープを使用し皆渡り終える。
「‥‥どうやら、この先幾多の罠や試練が用意されているみたいだね」
 不吉な予感がしたので、ふと頭上を見上げた無月。瞬時に右側へ大きく飛び退いて落下物を避けた。
 落下物‥‥大きな金ダライは、隣に居たソウマの頭に大音響を立てつつ命中。その衝撃で一瞬気が遠のく。
「ああ、も、もしやあなた方は‥‥人間の狩人様でございますですか!?」
 玄関に一番近い客間の扉が小さく開いており、此方の様子を伺いつつ声を震わせながら一人の女性が訊いてきた。
 敵かと一瞬身構えた一行だったが、その女性‥‥ペルツェロート・M(ga0657)は両手を軽く上げながら皆のそばへやって来る。
「わたくしめはペルツェロートと申しますです。吸血鬼に捕まり城へ攫われてきた者にございます」
 ペルツェロートが一人では怖いからと同行を申し出た事に対し、敵ではないかと警戒する者もいたのだが『一般人が一人では危険だから』という理由で結局同行を許された。
 丁寧に礼を言った後に、ペルツェは先程金ダライで昏倒中のソウマを見つけて心配そうに駆け寄った。
「そこのお方。だ、大丈夫でございますですか!?」
 と言いながらソウマの上半身をそっと抱き起こし、タライの落ちた頭だけではなく‥‥何故か胸やら下腹部あたりやらをまさぐろうと手を伸ばす。
「うわぁ!? なんですか一体! その手つき止めてください!」
 慌てて、というより必死に危機的状況だったペルツェの腕から逃れるソウマ。色々と無事で何よりである。
「も、申し訳ございませんです! つい勢いで!」
 ペコペコと頭を下げたペルツェだったが、見ていた男性陣に何らかの戦慄を与える結果となった。

「あ、お客様‥‥ですか? 申し訳ございません。生憎、当主は睡眠中なのです」

 猫耳メイドの冴木美雲(gb5758)が食堂よりやってきて、狩人達の姿を認めると礼儀正しく頭を下げて出迎えた。教授は美雲をじっと注視し、ブツブツと何やら口の中で呟いていた。脳内はナウローディング状態に入っているらしい。
「もうすぐ当主様も目覚める頃ですので、それまでこちらでお飲み物など召し上がってお待ち下さい」
 と、笑顔を向けつつ食堂へと案内しようとするのだが、シアンは険しい顔で美雲へと告げる。
「では尚更悠長にしている暇はない。目覚める前に、二度と封印が解けぬよう倒――」「でも、ちょっと歩き通しだったから喉は乾きましたね! 疲労回復に砂糖とか食べたい!」
 真夜がシアンの言葉を遮り、美雲に優しい笑顔を見せる。砂糖は食い物ではない、というツッコミも聞こえていないようだ。
 という事で食堂に入った一行。すると、そこには――温かい料理と、良質のワイン。そして‥‥とろんとした目をハンター達へと向けている吸血鬼、桂木穣治(gb5595)がいた。
 穣治はハンター達と目が合うと驚いて席を立ち、どういう事かと美雲に視線を投げかけた。
「お客様だよ。遠いところから当主様に会うため来てくれたようだから、きちんとしたお持て成しをしなくちゃね?」
 人数分のグラスを用意して説明する美雲。説明を聞いてますます目を丸くする穣治。
「お客さん!? うわ、こんなに! 凄いなあ、ユキタケは」
「‥‥あの、伍長さん‥‥らしき吸血鬼の事なんですが。この城のどちらに居らっしゃるんでしょうか」
 ユキタケと聞いて、リゼットが穣治に詰め寄る。伍長という言葉にも聞き覚えがあるのか、穣治はグラスに入ったトマトジュースを口にしつつ答えた。
「ああ、ユキタケ? 3階とかにいるんじゃないかな‥‥そんなことより腹減ってないか? 飲みとかにも付き合ってくれる奴がいなかったんでなあ、寂しかったんだよ」
 新しいグラスをリゼットに勧めたが、彼女はやんわりと拒否して受け取らない。寂しそうな顔をする穣治。

「我らの敵である吸血鬼は、全て倒さねばならない。お前の命はここで――」
 雄二がズパァッと機械剣を取り出すと、驚きのあまり硬直する穣治。それを見ていた美雲も一瞬固まったが、スッポンの生き血をトレンチに乗せたまま、雄二の前に割り込もうと走って来た。
「待ってください、父は人を襲うような吸血鬼じゃな――きゃぁっ!?」
 何もないところでいきなり転ぶ美雲。ベチャッと顔から行ったほど勢いが良かった。
 彼女が持ってきたドリンクは宙を舞い、前に居た穣治と雄二に引っ被り、トレンチはソウマにガツンとブチ当たる。彼は不幸としか言いようがない。
 穣治は『鉄臭い』といって泣きそうな顔になり、雄二はグイと顔にかかった血を拭って匂いを嗅ぎ、ソウマは額を抑えてうずくまる。
「あ‥‥あのネコ耳メイド‥‥まさか、あのミクモンだというのか!?」
 脳内検索が一件ヒットしました。驚愕に目を開き、クイと眼鏡を押し上げる教授。
「何、知っているのか教授!?」
 不機嫌そうな声の雄二に、教授はゆっくりと頷く。
「周囲にありとあらゆる災難を撒き散らすとは聞いていたが、まさかこれ程とは‥‥あれほど敵に回すと心強く、味方になると恐ろしい者はおるまい‥‥」
 それでは敵のままのほうが良いのではないだろうか。と、雄二は一瞬思ったが、美雲の味方である(と思われる)穣治の被害よりも、仲間の被害のほうが多い。
「そこのメイドさん。命が惜しければ‥‥このままユキタケの居場所まで案内してもらえませんか。急を要することですから」
 優が言った事に対し、事の重要さを感じた美雲は深刻な表情になって頷く。ちょっと暇だったらしい穣治も行く気になっていた。
「急用なのですね? わかりました‥‥。では、こちらへどうぞ」
 美雲の案内の元、食堂から出てロビーに戻ってきた一行。そこで、美雲はエプロンのポケットを漁る。
「あらら‥‥? 扉のカギがありませんね‥‥? ちょっと探してきます」
 待っててくださいね、と美雲は客間から探しに入っていく。一つの部屋を探し、無ければ次と行くのだが‥‥

「なんか、変なのが増えてない?」
 悠季が指摘する『変なの』とは――石像‥‥美雲の後はガーゴイルの大行列なのである。
「美雲さん、あの‥‥後ろ‥‥!」
 真夜が心配そうな声を上げるも、大尉は『知覚武器用意しとけ』とベルフォード家の先祖より伝来され‥‥てもいない鞭を取り出した。
「あ、皆さん! 鍵がありました。さっきお掃除した時に落とし‥‥」
 笑顔で振り返った美雲が見たものは‥‥鳥のような、獣のような怪物。
「あ、あは‥‥。何ですかコレっ!? 皆さん助けてください!」
 脱兎の如き勢いで此方に向かってくる美雲。『こっちくんな!』と言われようが関係ない。
 しかも、どこからともなくゾンビが8体やってくるではないか。
 その持っている武器が牛乳をつけて放置一週間後の雑巾やら数年熟成の靴下を軍手のようにはめたものだとか。精神的なダメージの方が強烈な代物ばかりである。
「塵は塵に、灰は灰にで目には目を。と‥‥え、違う?」
 太郎丸はガーゴイルの攻撃を避けつつ言うが、雄二が違いますね、と静かに言った。
「塵は塵に、灰は灰に。この世ならざるものはあるべき場所へ。貴様らはここにいるべきではない‥‥さあ、あるべき場所へ! 送って差し上げよう!」
 両手に持った機械剣を眼前で交差させ『我等神の代理人、神罰の代行者』と唱えた後に
「エィメン!!」
 ガーゴイルへ切りかかっていく雄二。
 無月もブラックホールを手にしてガーゴイルへと射撃する。龍鱗も容赦なくゾンビに剣を向けた。
「えいっ」
 真夜が何故か銃で敵を殴りつける。が、その銃が暴発して、シアンの後髪を数本散らす。
「‥‥セーフティは、かけてくれ。仲間に吹き飛ばされたくない」
「あっ、ごめんなさいっ!」
 そんな敵の迎撃に移行した一行の姿をこっそりと影から見つめる白虎(ga9191)。
「む‥‥流石というべきかミクモン。侵入者用にガーゴイルを配置したけど、こっちには好都合なほど身体を張って被害を大きくしてるにゃー」
 彼はリア充撲滅のため、ユキタケを助けに来た人間の協力者である。次の作戦準備の為、すぐにその場を離れる白虎。背後では銃声や怒号が聞こえていた。


 2階の大広間には、3つの影があった。
「夜は貴族(吸血鬼)の時間だ‥‥」
 銀髪に指を通しながら、周太郎(gb5584)は新聞を読みつつ呟く。
 所用でやって来ただけなのに、勝手知ったるものなのか妙にくつろいでいる。
 ティリスが周太郎に近づくが素っ気無くあしらわれ、頬を軽く膨らませつつ離れる。
「‥‥あーァ、早くこねーかなァ‥‥」
 サキエル・ヴァンハイム(gc1082)も銃の手入れをしながら大きな扉を眺めるが、まだ彼らは来ない。
 階下では争いが起こっているようだ。もうじきここまでやってくるだろう。
「誰がどう復活しようが倒されようが関係ないけど‥‥頑張るなぁ、ハンター共もこの城の奴も」
 城に居る吸血鬼の大半がユキタケの従属ではないという事実に驚くのだが、そこは細かく聞かないエイプリルの御愛嬌としておくべきだろうか。
 周太郎が紅茶を飲みつつ、美味いと呟いている。
「早くハンターさん来て欲しいな‥‥ここ、喫茶店みたいになっちゃって‥‥」
 柱にもたれかかりながら、ハァ、と溜息をこぼしていた。


「騒がしすぎる、な‥‥」
 純白のシルクハットにフロックコートといった装いの吸血鬼UNKNOWN(ga4276)が呟いた。
 諸国流浪の途中、ユキタケ城へと立ち寄った彼。
 天井も高く、大きな窓を持ったゴシック様式の装飾が気に入り、それらをゆっくり鑑賞するため暫し滞在しようかと思った時のこと。
 彼はふと耳を澄ませる。風に乗って聞こえた階下での抗争は、静やかなる時間を愛する彼の表情をごく僅かに曇らせた。
 吸血鬼狩人と同胞らが争っているようではないか。
 激しくも美しい死闘ではなく、あちらこちらに落とし穴やら、熟成靴下などのエコな罠や武器を配置し、わぁわぁと争っている――。
「――吸血鬼も、随分と俗な者が増えた、のだな」
 吸血鬼の今後について少々悩ましく思えたが、夜という時間を奪われるのは本意ではない。
 狩人だろうと同胞だろうと、やり過ぎたる者には静かにしてもらおう。
 コートを翻し、UNKNOWNもまた別の思惑で戦場へと身を投じるのであった。

●加速する攻撃

 ガーゴとゾンビを駆除したハンター達。階段を駆け上がっていく途中‥‥踊り場では白虎が待ち構えていた!
「あれは‥‥嫉妬あるところに現れるという『しっと団』の総帥!? よもや此所にしっとの大御所がやってくるとは‥‥!!」
「しっとの総帥‥‥?! リア充の具現者、若妻なあたしとは相容れないわね‥‥」
 何でも知ってる教授先生。そこにうまく相槌を打ってくれる悠季もいい腕である。
「ふははー、解説ご苦労様にゃー! 紹介の手間も省けた所で、歓迎の樽でも喰らうがいいわー! 死ねリア充っ!」
 最後の『リア充』あたりを吐き捨てるように言いながら樽を落とす。
「こんなもの、どうって事は‥‥ぐはあッ!」
 ソウマがひょいと跳んで避けた‥‥が、彼の着地寸前に白虎が足元のスイッチを踏む。
 すると階段自体の段差が消え、バランスを崩しまくったソウマに次の樽が直撃。悲鳴を上げながら階段だった場所から彼は転げ落ちる。
「ソウマさん!」
 優が次々降り注ぐ樽に気をつけつつ、後方を伺うが‥‥暗さも相成って樽と共に去りぬ状態の彼を発見する事は出来なかった。
 真夜は瞬天速で樽が来る前に駆け抜けており、白虎を驚かせていた。
「うかつ‥‥! 移動スキル持ちを忘れていたにゃー‥‥!」
 隙を見て狩人達が全速力でやってくる。
「さらば! ここで捕まるわけにはいかないのだにゃー☆」
 猛スピードで逃げ出す白虎。アッという間に消えた彼の姿を見送った後、美雲は2階へ続く扉を開けた。


 別の場所。
 セレスタ・レネンティア(gb1731)は白銀に輝く長剣で白い吸血鬼に斬りかかる。
 UNKNOWNは巧みに躱しつつ、鋭い双眸を真っ向から受けていた。
「このような良い夜に、剣を握るのは無粋ではないかな」
「ええ、良い夜ですね‥‥吸血鬼をのさばらせるには勿体無いくらいの」
 セレスタが横薙ぎに繰り出した攻撃を後方に飛び退くとゆっくり着地する。
 追撃するため踏み込んでいく彼女。攻撃もせずにUNKNOWNは避けるのみだ。
「全て肉なるものは草に等しく、人の世の栄光は草の花の如し」
 先手必勝とばかりにセレスタが動き、急所を狙って突きを繰り出す。白き紳士は咄嗟にステッキで捌き、致し方ないね、と口にした。
「何となれば、草は枯れ、花は散るものなれば‥‥」
 最速で踏みこみ、遠心力を利用した薙ぎ払いと見せかけて側面からの流し斬りを発動させる彼女。
「――されど主の言葉は永久に変わる事なし!!」

 UNKNOWNを、捉えた‥‥!!

 セレスタはそう確信し、剣を振り切った先には――何も、無かった。
「なっ‥‥!? どこへ、消え‥‥」
 左右を確認するセレスタだったが、吸血鬼はどこにもいない。
 逃がしたのだろうか? そう思った瞬間。

「静かな夜を、信仰深きお嬢さん」
 背後から優しい声がし、セレスタの全身を粟立たせた。
 トンと首筋に打ち込まれ、意識が遠のくのを感じながら、悔しげにセレスタは呻く。
「このような‥‥事、が‥‥!」
 吸血鬼が『God Bless You』と呟くのを聞きながら、セレスタは最大の屈辱を抱えながら意識を手放した。


「さて、そろそろ偵察に向かいますよ〜」
 戦闘も片付いたらしいと判断し、そーっと城内に侵入した命。
 壊れた石像‥‥ガーゴイルだったものの破片が転がっているほかは1階に誰かが居るような気配が無い。
 食堂の扉はハンター達がぞろぞろと出て行った時から開け放たれていて、食べ物の良い匂いが流れてくる。
「偵察も重要ですが、そろそろお腹がすきましたね〜」
 と、フラフラ食堂へ入っていく命。吸血鬼が人間と同じようなものを食えるのかという疑問は、この際食えるのも居るということで気にしないでいただきたい。
 テーブルに並べられたご馳走を前に、命は目を輝かせた。
「やっぱり味もみておかなくちゃいけませんねっ!」
 命は偵察という名の腹拵えの為、一皿目に手を伸ばした。


●大広間での決闘

 ばたん、と大広間の扉が開く。その音に反応したティリスとサキエル。
「よーやく来たかァハンター共ッ! っしゃァ! かかって――」
「期待に添えなくて残念だが、ハンターではないな」
 アセリアが肩をすくめて応えると、目に見えてがっかりするサキエル。
「ンだよ。つまんねェ」
「私も〜‥‥あ、でもぉ、そちらの人はちょっと興味ありますよ?」
 そう言ってアセリアのそばに居るクラークに色目を向ける。
「浮気する訳にはいかん。嫁が怖い」
 この吸血鬼は恐妻家なのだろうか。思わず呆気にとられるティリス。
「‥‥男は遊んでこそ価値が上がりますよ?」
 妖艶に笑う彼女。
「男を誘惑するようないけない娘にはお仕置きが必要だな?」
 そう言いつつクラークは一歩前に進む。
「遊んでくれるのなら、喜んで‥‥ねーサキエル、女の子の方やってくれない?」
「テメー何言ってんだ。つまみ食いにあたしまで巻き込もうとしてんじゃねェよ」
 けんもほろろに拒否されて、ケチと言いながらティリスは身構える。
「じゃあ、楽しみは後にしようかな。女の子は帰ってもらわないと‥‥ね!」
 鋭い攻撃がアセリアを襲い、彼女も捌きつつ応戦した。

 そしてようやくハンター達が大広間に突入し、サキエルは歓喜の声を上げた。
「っしゃァ、来たな〜! 早速やっちまうかァ! 精々楽しませてくれやァ、ハンターさんよォ!」
 サキエルが跳びかかろうとする直前、周太郎がのんびりとした声を出した。
「‥‥って、ハンターが来たと思えばお前か、龍鱗」
「‥‥めちゃくちゃ暇そうだな。だったら手伝えよ」
 え。こいつ知り合い? と怪訝そうな顔をしたサキエルをよそに、周太郎と龍鱗の交渉は進んでいく。
 よし、じゃあ手伝おうか、なんて言いつつティーカップを置いて、周太郎は立ちあがる。驚いたのはハンター達だけではなくサキエルもだった。
「おま‥‥いや、それはねーよ。簡単に裏切ってどーすんだオイ!」
「裏切りとかじゃないよ、別にあいつ他人だし。御使いで来ただけだもん」
 戦場はドライに立ちまわる場所である。そうかよ、と冷たく言い放ったサキエルは周太郎と龍鱗に銃を向けた。
「‥‥で、サキ、その構えてる銃は何だ」
 嫌な予感に周太郎が後退りながら聞くと、サキエルは暗い笑いに肩を震わせつつギラついた目を向けた。
「‥‥上等だ。よし、面貸せ。オメーから先に‥‥って逃げてンじゃねぇぞコラァアア!」
 周太郎につられ、一緒に龍鱗までも逃げ出した。それを追撃し大広間を飛び出して行ったサキエル。
「‥‥淫魔、男が来たぞ。私を相手にしていていいのか?」
 アセリアがそうチラつかせると、ティリスは攻撃の手を止めてハンター達を見つめた。
「共に行かないか‥‥?」
 無月が艶のある声でティリスに問うと、彼女は首を横に振る。
「‥‥どこへも行く必要はないですよ?」
 その隙にアセリアは戦闘を止め、大広間を出て先を急ぐ。
 途中、雄二の鋭い視線が彼女に突き刺さったが――今回だけは見逃そう、と聞こえる。
 ティリスが青年誌のグラビアポスターっぽいポーズと、危険な香りのする誘惑の言葉で男性を誘惑する。
「たしかに見事な魅了だ‥‥だがそれだけだ。自分を誘惑したければ、せめて『質量のある残像』が出せる様になってからにするんだな‥‥」
 指を左右に振りながら、豪語する教授。しかし、要するに胸部主兵装の破壊力を示す数値が彼の好みに合わなかったらしい。
 だが、ティリスの魅力に惑う男がいたのである。
「なんて、抗いがたい攻撃だ‥‥!」
 シアンはついティリスの胸部だとか、太ももだとかをガン見してしまう。健全な成人男性なのだからしょうがない。
「ウフフ‥‥遠慮せず触っても良いんですよ?」
 罠だと分かっていても、男の何かを刺激してくるようなお誘いである。
 が、そんなシアンに嫌悪の眼を向けたリゼット。
「女の子をそんないやらしい目で見るなんて不潔ですっ! 中尉のケダモノッ! 大っ嫌い!」
 いきなりシアンの胸倉を掴んで平手打ちを往復で喰らわせ、ついでに嫌いとまで言っている。
「しっと団より早く粛清完了ですか‥‥」
 何故か急に真顔になる美雲。何がおかしいのか、穣治はうひゃうひゃと笑っていた。
 実際いやらしい目で見ていたので反論できず、シアンは押し黙るばかり。

 そのすぐ後、クラークから吸血され、弱ったところを太郎丸に尻尾を掴まれフルボッコにされ気絶したティリスを残し、一行は先を急ぐのだった。


 聖なる力が僅かに残る教会で、しばし休憩。実は、休息をとる以外ないのである。
「ゆっくりしていってね!」
 教会に入ったところで、戸口は白虎に封じられガーゴイルでドアを押さえつけてある。
 押しても引いても開かぬ扉。
 おもむろに懐中時計を見つめ、息を飲んだ優。
「‥‥もう、1時間しか‥‥!」
 不安が彼らを包む。まずは気を落ち着けることですよ、とペルツェが身をもって無毒であると証明したうえで配った水も、秘色が『怪しいのぅ』と疑う。
 意外と警戒心が強いハンター達に、内心ペルツェはがっかりしていた。
「だったら、トマトジュースを飲めばいいじゃない〜」
 嬉しそうに穣治が飲むか? と誘うのだが、今は飲みたい気分でもないと断られてしょんぼりする。
 扉を壊して進むしかない。そう結論付けた彼らだったが。
 外で何者かが戦っているようだった。
「そこに居るのは誰だ? 何と戦っている?」
 シアンはそう尋ねたが、依然として返答は無い。問うのは諦めかけた頃だった。
 カギが外される音がしたので扉を押してみると‥‥そこにはクラークとアセリアがいた。
「助けたわけじゃない、全員閉じ込められるという間抜けなハンターを笑いに来ただけさ」
 そう言いつつ進む目的は同じ場所。彼らの前に、絶対領域も完備、ミニスカメイドの真白(gb1648)がユーリと共に現れた。
「おお‥‥! あのメイド‥‥領域の対比、良く分かっているとしか言いようがない‥‥」
 絶賛する教授。この辺の事は今度教えてもらうとして、真白はバトルモップを構えている。
「この廊下とっても綺麗になってますから、気をつけてくださいね?」
 ちょっと進めばたちまち滑って転んで、塩水入りの落とし穴にドボン、だ。
 得意げな真白だったが――
「自分で手入れした床を渡りなッ!」
 豪力発現を使った大尉は意を決して駆ける。自制が効かないスピードに方向。
 雄叫びをあげて鞭を振るうと真白のバトルモップに絡み付けて力の限り引っ張り、その勢いで床トラップを乗り越えた。
「ひゃぁっ!?」
 勢い余って壁に叩きつけられるかと思われた真白だったが壁を蹴り、床を磨いた本人のみぞ知る安全なタイルへと着地した。
「鞭が無いのが残念だな」
 それを見ていた周太郎は本当に残念そうに言ったが、真白とて二度は同じ手を食わない。
「‥‥困ったよ‥‥?」
 と言いつつ、真夜は義弟であるユーリをじーっと見つめた。助けてコールである。
「独り事だからね? 確か‥‥ヌルヌルは水溶性だった気がするから、拭けば取れるはず」
 あらぬ方向を見やり、ユーリが助言した。真白がショックを受けたような顔でユーリを振り返った。
「ほんとだー! 感謝だよっ、ユーリ君!」
 床を拭きながら歩くハンター達。
「ちょ、ちょっと! それは〜反則です!」
「すまん、時間が無いんでな」
 妨害する真白の攻撃に耐えつつ大雑把に拭いたシアン他一行は、3階へと向かう。
 後ろでは、嘆く真白の声が小さく聞こえていた。


●ラストバトル

 美雲が案内した先はなんとユキタケの寝室。大きな間違いを犯しつつ来た道を戻り、ようやくたどり着いた時には。既にアウトである。
「よく来たなぁ。葬儀屋には予約とっといたか?」
 謁見の間、扉前。腕組みしてハンター達を待っていた宗太郎。
 戦いに入る前に無月は真夜を呼び、血を貰えるかという許可を願い出る。承諾され、そっと真夜の首筋に唇をあてた。
「乙女の血‥‥頂きます‥‥」
 ぷつりと柔肌に牙を立てて、その血液を味わう。
「んっ、うー‥‥」
 痛みは無く、陶然とし頬を染める真夜。ちょっとばかし、羨ましい光景である。
 しかし、血の嫌いな穣治だけは顔をしかめていた。
「成人してなお子供心満載な宗太郎さんめ‥‥成敗してくれます!」
 ビシッと宗太郎を指す真夜。一蹴した後宗太郎は拳を握った。
「‥‥俺を倒す? 寝言はあの世で言ってろやぁ!」
 日頃の恨みが出ているのだろうか。彼の攻撃に容赦はない。
 真夜の防御の上から、逆に攻撃されても怯まず拳を当て続ける。
「そろそろ、くたばりやがれェっ!」
 重いパンチを当てて大きなダメージを与え、がくっと膝をついた真夜をすかさず捕まえた。
「いーやー!! 宗太郎さんのおにー!!」
「当ったり前だろ? 吸血『鬼』だからなァ! ‥‥そら、地獄で喚け!」
 用意していた棺の蓋を開けると、そこに真夜を突っ込み鍵をかけて監禁する宗太郎。
「いーやー!! 臭いし、匂うし、くさーい! 出してー!!」
 中にはゾンビ集団が持っていた武器と同じものが入っている。そう、あの雑巾とか靴下だ。
 喚く真夜を無視し、宗太郎は無月を見つめた。
「くっくっく‥‥待ってたぜぇ、無月。綺麗に爆ぜ飛ばしてやらぁ‥‥!」
 無月は明鏡止水を構え、仲間に先に行けという。
「相手は俺で良いだろう、宗太郎? ‥‥ユキタケも復活してしまったしな‥‥」
 無月はもう一度仲間を促し、宗太郎と打ち合いを始めた彼に、すまんと詫びて謁見の扉を開き、中へと突入するハンター達。

●まさかの結末

 玉座には――足を組んで、こちらを見据えている男。その傍らには、どこからやって来たのか真白と白虎がいた。
「先程の借りは返します!」
 モップから銃に持ち変えた真白。メイドと銃の相性とは恐ろしい。
「白虎! 今日はどうやら運が良い! まさか貴様とも会えるとはな!」
「にゃ? クラーク‥‥よし来い! リア充もろとも退治てくれるわー!」
 嫉妬の槍を装備した白虎はクラークと一騎打ちを始めた。
「むぅ‥‥あれは使い手自身がリア充になっていくという、ある意味ラッキーアイテム‥‥そんなものを総帥が持っているとは」
 教授の有難い解説、残念ながら今回はガチバトルとお取り込み中で誰も聞いていない。
「ようこそ、狩人方」
「ユキタケ‥‥!」
 そう、覚醒したユキタケの姿があった。鞭を構え、大尉とシアンはユキタケに怒鳴る。
「これで何度目だ! 人々の平和を脅かすお前を倒す!」
「完全覚醒した僕を倒す!? 笑わせてくれますね二人とも! 永遠の闇へと送ってあげましょう!」
 リア充爆ぜろという呪文を唱えつつ、ユキタケは強力な衝撃波を飛ばしてくる。秘色にはユキタケに対し何らかの策があったようだが、この状態では近づけぬ。
「大尉! なんか、こう‥‥聖なる力で出来た巨大な十字架とか飛ばせないか!?」
「そんなの出せるハンターがいるかよ!」
 ソニックブームしか出せない大尉は、言いつつも威力を相殺しようと飛ばす。
「無駄だ、そんなものは効かな‥‥」
 ぼこっ。という謎の音と共に、ユキタケは玉座から転がり落ちた。
 何が起きたのかと後ろを振り返ったユキタケは、驚愕する。
 なんとソウマが何故か玉座の壁を壊して出てきたのだ。
「罠に引っ掛かりすぎて、隠し通路を当てちゃったみたいで。本当に凶運かつ強運ですよ」
 そう言いながらソウマが怒りを乗せてユキタケに殴りかかる。
 最初は真祖の復活を阻止する事だったのだが、罠にかかり過ぎて目的が『こんな罠を仕掛けた奴を殴ってやる』に変化したのだった!
 そして結局罠を仕掛けた人物とは出会えず、ユキタケのところまで来てしまったというわけだ。そこは不幸である。
「コレが八つ当たりだと自覚している。だが、僕は、お前を、殴り、続ける!!」
 泣くまで止めないのか、泣いても続けるのかは彼次第だが。
「‥‥俺達はどうすればいい?」
「一緒に叩くか、見てるかだけだろ」
 結局、総攻撃しかないかもしれない。じりじりと近づくハンター達。
 ハッとユキタケが気付いた頃には、眼前に様々な武器が振り下ろされていた。



 ユキタケが倒され、ようやく静かになった城内。
 ハンター達はユキタケの心臓に杭を打ち、聖水を振りかけたうえで大尉が責任を持って灰に還すという約束をして城を後にした。
 はぐれ吸血鬼達は、各々の役割を果たした故に主のところや、新天地を探して去っていく。

「決着がついた感じですかね〜? 他に何か出来ることはないかな〜?」
 命は、ユキタケが倒されたという事実以外に最早得るところが無いと知ると撤収。

 それらを屋根の上から、赤いワインを飲みつつ眺めていたUNKNOWN。
 静かな時間が再び訪れた事に目を細め、ヴァイオリンを手にしてセレナーデを弾きはじめた。
 はたして、リア充とは何なのか。皆、それほど充実した生き方をしていないのか?

 それは永遠の謎である。その謎が解き明かされた時にこそ、人々は平和になるのかもしれない。