●リプレイ本文
●いざ
温泉所であるヨーロッパ某所。依頼という名目の旅行へ向かっている最中だ。
「穢れを知らない清純派美幼女の空も、疲れを癒しに参上しましたよ!」
最上 空(
gb3976)が自分で美幼女とそう言い切る。自信があるのは良い事だ。
「義理チョコのお返しが旅行とは、豪勢じゃのう」
「ご招待ありがとー中尉‥‥いやプライベートだしシアンさんかな?」
秘色(
ga8202)が一番前に座っている彼を見ながら言い、レベッカ・リード(
gb9530)も自分がコーディネートした服は似合うかという彼女の問いに、可愛らしいと笑顔で返したシアン。
優(
ga8480)もホテルのパンフレットや周辺の有名スポットなどをきっちりチェックしていた。
「食事が他人任せで温泉‥‥幸せです」
幸せに浸っているのは女性達だけではなかった。守原有希(
ga8582)もそれを噛みしめているようだ。
周囲が温泉気分に浮かれる中。
(「シアンさん‥‥ゆっくり休んで、早く元気になってくださいね‥‥」)
時折心配そうな表情でシアンを気遣うリゼット・ランドルフ(
ga5171)のように、彼の様子がどことなく違う理由を知っている者もいる。
神撫(
gb0167)は移り行く窓の景色に目をやりながら思う。
(「少しでも気分を持ち直せるきっかけになったら‥‥いいな」)
●やってきました
無事宿に着いて部屋割を決める段階になると、
「俺はこれ。おい、シアン。荷物持て」
個室のカギをふんだくって、大尉はシアンを伴って行ってしまう。
桂木穣治(
gb5595)が神撫とシアンとの3人部屋を希望する。
男性用の残り部屋は2人部屋2つ。有希は白虎(
ga9191)との相部屋は遠慮したいと申し出たため、部屋割も適当で構わないと言ってくれた賢木 幸介(
gb5011)と有希を同じ部屋にしてもらい、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が必然的に白虎と2人部屋となる。
幸介に『学級委員長みてぇ』と言われつつ、優は早速行動。
天城・アリス(
gb6830)の希望を考慮し、3人部屋を2つということでリゼット・秘色・アリス、レベッカ・空・優の部屋割で決まった。
廊下の避難経路を真面目に確認している。
そんな折、フロントから一行にキーツより言伝があるとメッセージを渡された。
『伍長とチームエンヴィー(以下TE)がやってくるかもしれないので、頼みます』
「やれやれ‥‥この間のこともあってのんびり休めていいやと思ったのに。困ったもんだ」
穣治が苦笑しながら言って、有希は額を押さえて『伍長‥‥』と呟く。
レベッカや幸介は、自分たちに迷惑がかからなければいい、と純粋に温泉を楽しむ事にしているようだ。
秘色はそれらしき奴らを見かけたら、暗号的な館内放送などで伝えてくれとフロントに念を押しておく。
ユーリはそれを聞いてすぐに同室予定の白虎を窺う。
白虎は今の会話を聞いていなかったのか、知らぬふりかホテル内の間取りや通路などを良く見ているではないか。
――あの態度、気になる。
「‥‥あ、このパフェ美味しそうだなー。奢るから付き合わない?」
何か怪しいと感じた彼。喫茶室のメニューが目に入ったので勧めてみれば、
「んー? 食後でいいなら誘ってくれにゃー」
と、すぐには行動しない雰囲気である。これはどうした事かとユーリが考えを巡らせている所で、
「夕食まで時間があるので、この付近の名所を散策しようと思っていますが‥‥もし他に行く方がいらっしゃるなら、と思いまして」
と優のお誘いがあったので折角だからと同行する事にしたユーリ。
「さて、空は早速温泉に行って来たいと思います!」
「なら一緒に温泉行こうかな?」
空の提案にレベッカが乗り‥‥皆は話をしながら早速部屋へと荷物を置きに向かっていく。神撫は総帥を振り返ったが、特に会話をするでもなく皆の後に続いた。
●TE参る!
「中尉め。温泉旅行キャッキャウフフ許すまじ」
内容は暴走気味だが、伍長とTEは悔しさに歯噛みする。
「だが、このホテル、入るにしろ生意気な値段取りやがる!」
TEのリーダーが『金持ちももげろ!』と泣きだす。十数人分までは出してやれない。
ホテルの入り口付近で中の様子を窺う怪しい集団。そこで伍長は背中からポミポミと肩を叩かれた。
「今日もいい感じに燃えているかにゃー?」
振り返ると‥‥白虎がそこに立っている!
「トラさん!? 実は制裁を加えようと来たんだけど、ホテル高くてみんなが入れないよー」
誰がトラさんにゃ、とピコハンで殴ってから『しょうがないな、伍長さんは』と勿体ぶる白虎。
「かの傭兵も単独任務でご愛用の、コレを使うにゃー!」
白虎はポケット‥‥からではなく、ホテルのゴミ捨て場から拾ってきた段ボール(みかん)を組み立てる。
TEに陽動作戦実行を伝えると白虎と伍長はすっぽりと段ボールを被り、『目標はシアン中尉』として別行動を開始したのだった――!!
「行くぞ伍長! 今日から『しっと仮面V3』と名乗るのを許可する!」
「嬉しいですけど、白虎さんの団に2号いましたっけ?」
●満喫中?
「ふっふっふー、極楽です。良い湯ですね、溶けそうな位」
空が露天風呂に浸かりながらイイ顔をする。
「んーっ、気持ち良い。招待してくれた中尉に感謝しないとね」
露天風呂が初めてだったレベッカも、気に入ったようで微笑みながら肩に湯をかけた。
秘色に至っては風呂からの景色を楽しみつつ、一升瓶をラッパ呑みするというおっさん臭さ。
「俗世の穢れを落とした後のコーヒー牛乳が楽しみですね〜。その後にエステで10歳ほど若返り、レストランや飲食店で甘い物をたらふく食べたいと思います!」
折角清めて穢れを落としたというのに、既に煩悩がついているとも気付かない空。この後の予定に心を弾ませていた。
今頃は優とユーリで散策でも楽しんでいる事だろう。リゼットや有希はTEと伍長を探しにホテル側と連携をとって行動していた。
その様子から幸介は『なんか騒がしくなりそうな雰囲気だな』と思いながらも怪我したら治療くらいはしてやるか、とロビーでKV情報誌などを見ている。
「‥‥皆と合わないな」
「自由に行動してるんじゃないか?」
その頃、他愛ない返事と笑顔を向けている穣治だが、心臓はヒヤヒヤのバクバクだ。
神撫も最初は一緒に居たのだが、先に出てしまっている。
シアンも『そうか』と言いながら足湯に浸かり、風の音に耳を澄ませ、眼を閉じた。
それを見て安らげているんだなと穣治とアリスは顔を見合わせて微笑む。
そこへ、アリスの無線に神撫からの呼び出しが入る。
「ちょっと、行ってきますね」
すぐに足湯から出て、神撫の居る場所へと出かけて行くアリスを目で追いながら、シアンは呟いた。
「もしや、皆プールのほうへ行っているのか?」
「さてね。ま、混浴は後で皆を誘って楽しもうぜ」
穣治もあたりを見回しながら、携帯していたザフィエルの感触を確かめた。
●闘争開始
フロントの前でTEとスタッフが問答しているのだが、TEの言っている事は『友達がいるので中に入れろ、金はそいつにツケとけ』と言いがかりの部類である。
事務所内で能力者達に連絡したのも当然気付かず、大声でTEはゴネていた。
「前に言ったはずだが‥‥事実でないことで騒動を起こすなと‥‥また言いがかりをつけているのか!」
TEの背後で聞き覚えのある声がする。
振り返れば、覚醒した神撫、アリス、リゼットが彼らを見つめているではないか。
「あ、あの男‥‥! しっと団の奴だ!」
一人の男が神撫を指して悲鳴を上げた。
「手加減はしない。が、選択肢を2つやろう‥‥」
この場で神撫に潰されるか、女の子たちとプールで遊ぶか。という天国と地獄のコースである。
神撫の隣には、いつの間にかやってきた有希の姿もあるではないか。
「1はその場を動くな。2は女の子の誘導に従え。制限時間は10秒だ。10・9‥‥」
「今回はうちや神撫さんに手ば上げさすんな」
死への秒読みが始まった。有希も指をぽきぽきと鳴らす。長崎弁が出ることからして、彼はやる気である。
この二人にフルボッコされた経験のあるTEは、その恐ろしさが骨身に染みていた。
死ぬのは嫌だと早々に数人が女性二人に御助け〜と跪き、数人はオロオロしながらその場に佇んでいた。
「‥‥1・0、よろしい。では、残った諸君――」『ごめんなさい降参します』
と、全てのTEが今回降伏したようだ。
ある意味つまらないが、これで丸く収まるならと有希も安堵の息をつく。
アリスが水泳で勝負です、と可愛らしくいうので‥‥TEはキャッキャしながら彼女の先導に着いてプールに行ったではないか。
それをユーリが見ていたら『温泉来てまで何やってんだコイツら?』と思ったに違いなかった。
一安心するところなのだが‥‥リゼットは不審に思う。その場には、探している伍長の姿が無かったのだ。
その頃、白虎と伍長は隙をつき段ボールを被ってホテル内へ侵入を開始。
(「戦力差は圧倒的不利‥‥けどそれが、勝敗の全てじゃないぞ!」)
白虎はそのまま来てもいいようなものだが、伍長を誘導する関係上こうなったのだろう。
木を隠すなら森。ホテルのそこかしこに段ボールを配置したお陰か、玄関先の段ボールが動くことなど誰も気がつかない‥‥と思いきや。
「誰だ、邪魔くせぇモノをその辺に置きやがっ‥‥」
レストランへ行きがてら置かれていた数々の段ボールを蹴飛ばし――家政婦じゃなく、大尉は見た。
嗚呼偶然かな。そこには、シアンの部下である伍長の姿があった。
「うわっ、大尉!」
大尉の姿に驚きを隠しきれない伍長。
「ユキタケ!? お前、なんでここに――」
双方驚いている所に。
「‥‥おお、ようやく見つけたわい。おぬしにちょーっと用があるでの、付き合え」
運が良いのか悪いのか。すぐに秘色に首根っこを捕まえられる伍長。白虎が助けるかと思いきや、彼はそのまま何処かへと走り去る。
逃げつつ、プチ悪戯として男湯・女湯・混浴という看板を入れ替えておくのも忘れない。
「フフフ‥‥リア充から変態への転落人生を味わうがいい!」
しばしの後、宿泊客からの苦情がフロントに殺到したとか――。
●諭します
「空の乙女の感によると、あっちからケーキバイキングの気配が!?」
「食うだけ食うつもりなだけじゃねーのか‥‥?」
つい幸介はそう言ってしまったが、
「甘味食べ放題ですね? 当然無料ですよね? 経費で落ちますよね?」
「それは自腹で――」「じゃ、シアンへツケて貰いますがね」
シアンの言葉を遮って切り捨て、問題なしにレストランへ入っていく一行。メニューを眺める空がエステ前と今で10歳ほど若返っているかは、彼女にしか分からない。
その頃伍長が引っ張られていった先は、秘色たちの部屋。
とある事件以来シアンの様子が変わった事は、傍にいる伍長こそよく分かっているだろうとか、この旅行もキーツの配慮だということ。
「‥‥少しシアンを休ませてやってはくれぬかのう」
そこでリゼットと秘色と酒を酌み交わし(むしろ酌ばかりしながら)諭されていた。リゼットは、暴走した伍長と女性を二人きりにするのは危険だからと同席している。
秘色が『ぬしらも一緒に楽しもうぞ?』と微笑んだ。秘色の言葉に項垂れる伍長だが、美人なお姉さんに頭を撫で撫でされるとポッと頬を染めて『あなたとならこの先ずっとだって‥‥』とフザけた事を言う。
言われた秘色は『‥‥其れも面白い』と意味深長な笑みを浮かべていた。
結果。今回の件については、自分たちが来いと言ったから、という事で口裏合わせをし。レストランにいるらしいシアンの元に連れて行くことになったのだが‥‥
「これ美味しい! 食べる?」
レベッカが自分のケーキをシアンの口元へ持っていくところだった。シアンの代わりに穣治が大きく口を開けてアピールしていたりする。
「楽しそうですね‥‥僕には落ち込んでいるように見えませんが」
伍長の嫉妬オーラが高まっていくのが目に見えるようだ。慌てたリゼットが取り成すよりも早く、テーブルの下に隠れていた白虎が飛び出し、伍長に走り寄った。
「いけ! しっと仮面V3! 今こそ君の執念と想いを、見せてやるのだー!」
巨大ピコハンを握らせ、伍長を差し向ける。
「ていうか、そこで出番ずっと待ってたのかよ?」
幸介のツッコミは全力スルーだ。
「伍長!? 一体どうし――‥‥」
突然出てきた伍長に、驚くシアン。そこに、怒りの色を露わにする穣治とレベッカが立ちふさがった。
「お前らの鬱憤晴らしかどうか知らねえけどな、人の迷惑になることはするな、何てのはその辺の子供だって知ってるぞ!?」
「そうだよ! 余計な心労かけないようにしたいって思ってたのに!」
「若いうちの苦労は買ってでもするんだにゃー!」
白虎はピコハンを握り、煙幕などで伍長の為に支援する。
散歩から戻って来た優とユーリ。
「何してるんですか貴方達はー! 一般の方まで巻き込んで!」
優は怒りのスリッパを振りかぶる。
レストランに大きな音が響いたが‥‥スリッパではなく、大尉が掌をテーブルへ叩きつけるように置いた音だった。
「ったく、ここはLHじゃねーぞ。揃いも揃って‥‥原因と目的は何だァ?」
白虎へそう尋ねる。実は、非能力者という事で無力だと悩んでいる伍長に『非能力者は決して無力ではない』と教える事と、中尉の為を思って行動してくれる人達の奮闘振りを見せる事で中尉にも『一人で抱え込んでないで、もっと回りの人間を頼れ』と伝える事を実践するはずだったのだ。
こうして介入されてしまった為、中断となってしまったが。
「形は違っても、ここまでしてくれるなんざ良い友人を持ったなァ、伍長、シアン?」
大尉が言うと、伍長は白虎にすがりついて感動にむせび泣く。
「大人は優しく言っても伝わらないから困る」
白虎ははにかんだような笑みを向けた。
「ほら、折角来たんだし‥‥皆で温泉楽しもうよ」
ユーリが優しく言えば、秘色が『食後に混浴に行こうかの』と提案し皆も賛成した。白虎が札を元に戻していないせいで温泉が大混乱になっているのは、誰もまだ知らない。
夜は(TEと伍長は当然自腹)レベッカと優のお酌を受けながら料理を楽しみ、混浴に入った後。
早く就寝する空と同じ部屋、ベッドの上で小説を読むアリス。ゆっくりジャグジーに浸かっている優に、全風呂制覇と意気込む秘色。
有希が悲しそうに今だ姉達は良縁なしと言うのや、神撫の経験談を聞いたり。ユーリは念願だったアイスを白虎、幸介も誘って食べながら耳を傾ける。
「総帥。そういえば噂の人との下調べも兼ねてここへ?」
「な、何言ってるにゃ!?」
有希が茶化せば白虎は動揺する。普段恐ろしい事を発案するのに、なんというウブな少年だろうか。
男性陣のほうが、恋愛話やら愚痴やらで喋り通しだったのだが――それぞれ、有意義に夜を過ごしたのだった。