タイトル:FirstDay and LastDay2マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/01 02:22

●オープニング本文


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●序

 その日の夜。ベッドに横たわりながら、ユーディーは考えを巡らせていた。
 能力者との筆談で、テオドール・ワルターなる探偵が自分の調査をしていたことなどを知り、どうしてもテオに会わなければならない、と感じたユーディー。
 会って問いただしたい事もたくさんある。恐らくは話し合いで解決しない事も解っている。しかし、このままこうしていても――時間だけが過ぎて、問題は残されたままなのだ。
 後手になればなるほど自分の身は危険に曝されるだろう。ユーディーは覚悟を決めるとベッドからゆっくりと起き上がり、身支度を整えた。
(「テオ‥‥」)
 剣や銃といった武器を幾つか用意し、出て行こうとした彼女はいつの間にか足元に居る猫・メアを見つめる。
 猫は彼女と眼があうと小さく鳴いて すり寄る。それは彼女を慰めてくれているようでもあり、一緒に居たいと甘えているようでもあった。
 屈みこむと無言で抱き上げて喉の下を撫で、すぐに猫を床に下ろすと、ユーディーは静かに言った。

「テオ。聞いているわね? ‥‥あの場所で、待っていなさい」

 メアが離れて行くのを見つめつつ立ち上がり、武器を手に取ると今度こそユーディーは家を出て行く。
 彼女は最後まで気付かなかったが、離れて行ったメアが机に飛び乗った拍子に‥‥彼女が付けているノートを落とした事。
『兄を倒しに、教会に行く。絶対に許してはおけない』
 落ちた拍子にぱらりと数ページめくれて、今日記したページが開かれた。

●真相

 古びた教会。取り壊されずに残っているが、以前ここではキメラが出現するという事件があった。
 それ以来、UPCにより周囲には立ち入り禁止のテープが巡らされていたのだが。
「思ったよりは早かったね、ユーディット」
 テオドール・ワルターは鋭い目をユーディーへと向ける。
「久しぶり。死んだと思っていたわ‥‥テオドラ・ウォルター『兄さん』」
 ユーディーも冷たい目をテオに向けながら言えば、兄さんと呼ばれたテオは薄く笑みを浮かべた。
「‥‥おかしいと思っていた。私が傭兵登録をした時には、出身地不明で偽名を使っている。誰も私の本名や出身地‥‥家族構成を知っているはずはない」
 その他二、三聞きたい事があると言った彼女に、テオは笑った。
「さてユーディー、そんな暇があると思っているのか?」
 無言の返答でテオを睨むユーディー。それをどう取ったのか、テオは愉快そうにニィと唇を増々吊り上げた。
「お前は優れた所がある傭兵だ。その力を有用に使用してみないか。例えばそう、能力者をやめることで、だ――‥‥結論を言えばお前に死んでほしい」
「‥‥バグアの手先になれというの? お断りだわ」
 ジャキッと音を立てながら銃を手にすると、テオに向かってそれを構えた。
「あなたのせいで、家族が、村の人が‥‥皆失われた。私があの日、フランスに行っていなければ今こうしてあなたの前に立っていない。テオ、皆や両親を奪ったあなたを絶対に許さない」
「それは結構。しかし、お前はその恨みを持ったおかげで強くなれたんだろう。逆に感謝してもらいたい‥‥」
 すぅっと目を細めたテオは、まるで空へと語りかけるように両手を広げて天を仰いだ。
「強くなったからこそ、必要だ! お前の力が!」
 語調を強めて言い放ったテオ。そして、ユーディーはテオの近くに複数の何かが潜んでいる気配を感じた。
「一人で来るとは馬鹿な子だ。仲間が一緒だったら――いいや、お前はいつも一人だったな」
 微動だにしないテオ。その周囲、暗闇に光る複数の眼。囲まれたと彼女が悟るには、さして時間はかからなかった。
「フフ‥‥可哀想なユーディット! 父の『一人で何でもできるようになれ』という言葉を大事に守っていたせいで。仲間などできた事も無ければ、誰も信じることなく死んでいくのだな!」
 嘲笑するテオの声が耳を打つ。自分を蔑むテオの表情を、無表情で眺めながらユーディーははっきりと言い放つ。

「私は、もう一人じゃない。一人なのは‥‥あなたのほうよ、テオ」

 ぴたりと嘲笑が止んだ。
「聞き違いか、ユーディー? 一人なのはこのテオだと言ったか。バグアに信頼される、このわたしを」
「ええ。私は、確かに誰も信じなかった。それでいいって思った――でも、今は違う」
 ぎりっ、と銃のグリップを握る指に力がこもる。
「あなたの策略にも引っ掛からず私を信じてくれた人がいる! 仲間だと、そう言って笑ってくれた。温かい言葉と心を。私はあの人達に応えたい」
――だから、もう一人なんかじゃない。
「そう伝えてやれば良いんだな、ユーディー。もうお前の声は誰にも届くまい」
 テオが小さな希望を消さんばかりに冷たい言葉を投げかける。以前の彼女なら、肯定してこの危機的状況も受け入れただろう。
 しかし彼女はガトリングを向けながらはっきりと否定する。
「いいえ。必ず来てくれる‥‥!」
 自分の行動はあらかじめ伝えてある。もし誰一人来なかったとしても――こんな自分に人を信じる事を教えてくれたのだから、それだけでも十分だった。
(「だめ。まだ、十分じゃない」)
 まだ、ありがとうも言えていないではないか。
「私が彼らと共に築いた信頼は、バグアのうわべだけの信頼なんかとは違う!!」
「そこまで言うのなら賭けてみろ!! お前の命を!」
 テオの叫びと共に、一斉にキメラが襲い掛かってくる!
「死なない。絶対に‥‥! 生き抜いて、証明する!」
 覚醒し、銃弾をばら撒きながらユーディーは生まれて初めて『生きたい』と強く願いながら戦闘を開始した。

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
鉄 迅(ga6843
23歳・♂・EL
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
リュウナ・セルフィン(gb4746
12歳・♀・SN
上条・瑠姫(gb4798
20歳・♀・DG
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP
YU・RI・NE(gb8890
32歳・♀・EP
ザインフラウ(gb9550
17歳・♀・HG

●リプレイ本文

●Hurry up!

 ユーディーがいるであろう教会。
 過去に依頼で向かった事があるラルス・フェルセン(ga5133)と鉄 迅(ga6843)の二人を先頭に山道を駆けて行く能力者達。
 この緩く続いている坂を下れば、あの教会が見えてくるはず。
(「お一人で先に行かれるとは‥‥」)
 ラルスの危惧するところは彼女の安否だけではない‥‥テオが親バグア派となると、どのような敵が待ち受けているかもわからないのだ。
「ユーディーさんは絶対に助ける‥‥」
 そう呟くザインフラウ(gb9550) の言葉を首肯する上条・瑠姫(gb4798)。
(「もう‥‥私は失うわけにはいかないのです。必ずお助け致します‥‥!」)
 揺ぎ無い決意で急かす心を抑えつつ走る。
 しかし、その一方で気になる事があった。
(「あのスーツの男性‥‥余りにも似ています。名前は違えど、あの仕草‥‥」)
 前を走るリヴァル・クロウ(gb2337)の背中を、ぼんやりと見つめた。
 一方、努めて焦らぬように意識している迅。そうは思っても、無事なのかという思考は心から離れない。
(「まだまだ伝え切れてないことがある‥‥。だから‥‥無事でいてください、ユーディーさん‥‥!」)

●Blood and Guns

 廃墟の教会から聞こえるキメラの叫びと銃声。
 テオは腕組をしたまま、キメラに囲まれ傷を増やしていく実妹の姿を眺めていた。

――絶対に、あなたなんかに負けない。

 向かってくるキメラに対処し続けているユーディー。その眼に、諦めの色など映っていない。
 その視線を忌々しく思いながら、テオは血と空薬莢が彼女の周辺に散るのを眺めていた。

 鷹の爪に肩を裂かれ、やってくる黒豹の体当たりを左側に跳んで躱す。
 ミシリと軋んだ床板に肝を冷やしつつ、制圧射撃をかけるユーディー。銃弾を体中に受けたキメラは仰け反り、数体は後退する。
 迫るキメラにガトリングを見舞い、足場の悪い場所で戦闘している彼女。
 幾ら間隔を取ろうとも、地からは黒豹が、空からは鷹が。キメラは距離を詰めて続々と襲い掛かってくる。
 両手で足りる程度であれば避け続ける事も出来たであろうが、キメラの数は多く、避け続けることも困難‥‥いや、不可能であった。
「くっ!」
 黒豹が左右より跳びかかって来た。銃でダメージを与える事が出来ても、近づかれればこちらが不利になってしまう。
 後方に避けようかと思ったが、既に他の黒豹が回り込んでおり――間近に鋭い牙を見せていた。
 身を捻って首筋に迫った牙を避けたが、脇腹を豹の爪が裂く。がくりと片膝をついたユーディー。
 もう御終いだ、と。そう呟いたテオの顔を、睨みつけるユーディー。
「もう少し早く終わると踏んだのに‥‥なかなか頑張ったじゃないか、ユーディット?」
「まだ、終わってない‥‥! 私はまだ、生きてる!」
「フン‥‥なら、お前の命を刈り取れば完了だ!」
 テオの言葉と同時に――襲い掛かってくるキメラの群れ。
 痛みと怒りに唇を噛み、彼女は血に濡れた指でガトリングを掴む。死を覚悟してトリガーを引く前に――
「ユーディーさん!」
 幻聴だろうか? 自分を呼ぶ聞き慣れた声があった。そして自分がやったわけではない攻撃を受けて倒れるキメラ。
 瞬時に声がしたほうへと視線を送るユーディー。
 血まみれの自分を見つめ、驚いている瑠姫がいる。そして彼が撃ったのだろう、SMGを構えているラルス。

――やっぱり。あなたたちは‥‥
 そこに居てくれた。自分を仲間だと言ってくれた面々が、来てくれたのだ。
 
(「あれだけの数の中で孤立か‥‥状況が悪い。早期の打開が必要か」)
 ピンを引き抜きながらリヴァルが声を張り上げ、大きく振りかぶって投げる。
「眼を閉じろ! 閃光弾を使用する!!」
 言われたとおりにユーディーは目を閉じ、ハッと気付いたテオも近くに居たキメラを自分の前に配置させると瞳を閉じ腕で目元を覆う。
 ほぼ同時に目も眩まんばかりの光が薄暗い室内に溢れ、光の洪水が止んだ時には‥‥双眸を開けていたキメラ達はその場で大きく身悶えしていた。
 ユーディーが脇腹を押さえ、小銃を構える。出血具合から深手を負っているらしいと知った迅の不安はますます大きくなった。
「‥‥道を作ります! ユーディーさんの事、お願いします!」
 一刻も早く合流しなければ。キメラを蹴散らして向かってやりたい心を懸命に抑え、ラルスやYU・RI・NE(gb8890)と共に前衛班のサポートへ回る。
「リュウナ・セルフィン! 黒龍神の名のもとに、ユーディーっちの救出及びテオ周辺のキメラの排除を開始します!」
「地上の敵は私が! リュウナ様は空中の敵をお願いします!」
 リュウナ・セルフィン(gb4746) と東青 龍牙(gb5019)が覚醒し、後方より前衛援護に移る。
「敵は黒い豹型キメラと鷹のキメラがいるわ。あのテオって人の後ろにも豹が隠れている」
「20mほど先に、脆そうな部分がありますので、近くに来たらなるべく右側を通ってください」
 YU・RI・NEと龍牙が探査の眼で待ち伏せしているキメラや床の脆い部分などを伝達。
「面倒だ‥‥」
 負傷しても尚、立ち向かおうとするユーディーを一瞥し。
――あいつも‥‥面倒だな。
 西島 百白(ga2123)はそう口癖を呟き、ミシミシと軋む床に気を配りつつキメラの動けぬうちにと急ぐ。
 その間彼の頭上を旋回していた鷹は、リュウナのアサルトライフルで落とされた。
「空中の敵はリュウナ達に任せて下さい!」
 柱の陰から、顔を覗かせつつ前衛に向かって言うリュウナ。任せたという返事の代わりに頷くリヴァルは、迫るキメラの爪を刀で受ける。
(「しかし‥‥あのドラグーン、まさか‥‥? いや‥‥」)
 思うところがあったリヴァルは、床板に気を配りつつユーディーへ近づこうとする瑠姫へ視線を投げたが、すぐに戻す。
 今は任務に専念しよう、とキメラを数体挟んでユーディーの近くへと着いたリヴァルは、『要請を受けて来た』と彼女に伝える。
「君の友人もすぐそこまできている」
 石楠花を振るう瑠姫や後衛のメンバーを示しつつ、近くに居たキメラの急所を月詠で狙って斬りつけ、道を開く。
 瑠姫も、後衛の支援を受けながら道を阻むキメラを片づけていく。
「大丈夫か? 無茶するな」
 ザインフラウもSMGで向かってくる敵を撃ちながら移動しつつ、近くへと合流し‥‥ようやく彼女に近づく為の道は開かれた。
 前衛メンバーが無事に彼女と合流できそうなのを確認し、YU・RI・NEらが移動を開始。
「テオの後ろから、潜んでいた敵が出てきます!」
 最初は優勢であったキメラも徐々にその数を減らし、数匹程度になったあたりでYU・RI・NEと龍牙が注意喚起を促す。
「邪魔だ! どけぇぇぇッ!!!」
 道を塞ごうとするキメラを全力で攻撃し、一刻も早い合流をと急ぐ。途中、前衛に近づく豹や鷹を撃ちながらラルスや龍牙も進んでいく。
 瑠姫は急いでユーディーの側に行き、止血程度の応急処置を施す為近くの柱にもたれかかるように促した。
「装甲面では多少自信がある。この程度で致命傷を受けるほど軟ではない」
 その間、百白とリヴァルはキメラが仕掛ける攻撃やユーディーに近づこうとする敵を妨害等して防いでいた。
 彼女の背中を護るようにザインフラウは立って、背中合わせで敵を見据える二人。
「背中は私に任せろ、ユーディーさんは前の敵を集中してくれ。絶対に背中は撃たせはしない」
 後衛のメンバーも徐々に合流し、心配そうな顔で駆けてくるリュウナ。
「ユーディーっち! 大丈夫ですか?」
 ありがとう――小さい声だったがはっきりと聞こえた、ユーディーの声。だが顔色は青白く、立っているのも辛いはずなのだ。
「メアちゃんが待ってます! 死ぬなんて許しませんよ?!」
 そんなユーディーを叱咤する迅に。
「‥‥あなたたちが来てくれたから、絶対に大丈夫」
 応急処置をしてもらったユーディーは再び銃を手に取る。
 まだ戦う。あの男を野放しにはできない、と。
「ユーディー君、戦えそうですか? いけそうなら一緒に戦いましょう‥‥これからも!」
 ラルスの問いかけに無言で頷くユーディー。YU・RI・NEは探査の眼で付近を探って、もう隠れている敵はいない事も告げた。
 百白の鋭い視線の先――憤りを隠せぬテオ。
「それにしても、人の信を裏切るどころか自らの妹までも自分の欲望のために手に掛けようとするなんて‥‥恥を知りなさい!!」
「ほざけ小娘! バグアの素晴らしさをも分からぬ者がっ!!」
 ふつふつと怒りが湧いていた瑠姫はテオを戒めたが、テオは激昂と共に数匹のキメラをけしかける。
「さて‥‥狩りでも‥‥始めるか‥‥」
 百白が戦闘態勢になり、豹型キメラに言い放った。
「来いよ‥‥猫科‥‥喰らってやるよ」

●君の手中にあり

「くっ‥‥素早いですね」
 イグニートで豹の爪を防ぎつつ攻撃を当てようとする龍牙だったが、地上のキメラも空中のキメラも俊敏であり、大振りを誘発するかのように立ちまわる。
 彼女も軽傷を負ったが、スキルを使用したりなどして耐えている。
「‥‥面倒だが‥‥仕方ない‥‥か」
 百白もソニックブームを飛ばしてキメラを攻撃。身を低くしていつ飛びかかろうかと身構えている敵。
「‥‥確かに一見すると攻撃を当てずらいように見えるが、必ず法則というものが存在する」
 リヴァルが周囲にいる敵の挙動を注意深く見ながら応えている最中に、彼へ跳びかかってきたキメラ。
「そこを――抑える!」
 好機とばかりにリヴァルは月詠で急所突きを喉元に打ちこみ、地に沈める。
「空の敵も、的が大きければ当て易いものです」
 ラルスが翼の付け根を狙い、射撃で落とす。羽ばたけぬ鳥に脅威はない。
 リュウナと迅が落とした敵に、YU・RI・NEとザインフラウが確実にダメージを与えていく。
 テオの周囲に数多あったはずのキメラは、たかだか10人程度の傭兵にことごとく倒されていた。

「ばかな‥‥! あれだけのキメラを‥‥」
 自分が不利に陥っていると信じられないテオは、思わず流れ出る汗を袖で拭う。
「テオ。信頼しているバグアは助けに来てくれるの?」
 ユーディーが問えば、テオは黙れと鋭く告げるだけ。よろよろと数歩後退する。
「逃がしません!」
 素早く武器を構えるリュウナと瑠姫。だが、それよりも速くリヴァルの拳銃がテオの右足を撃ち抜いた。
「こんな‥‥こんな事があるか‥‥!」
 傷ついた足を押さえて、倒れるのは堪えたテオ。どうやら彼は強化人間ではなく、ただの一般人だったようだ。
「ガアァァァァァッ!!」
 しかし、雄叫びをあげつつ無防備なテオへ近づいた百白は彼の胸座を掴み、勢い良く壁に叩きつける。
 ゴホッと咳込んで苦しげにもがくテオだったが、百白の腕は解かれない。
「今の俺は‥‥最高に‥‥気分が悪い」
 ぐっ、と胸座を掴んでいる手は怒りに震えて、見据える金色の瞳は憎しみを宿す。
「故郷と家族を‥‥奪われた者の気持ち‥‥貴様にはわかるか?」
 瑠姫や龍牙の表情が曇り、ザインフラウに肩を貸してもらっているユーディーは百白の表情を見つめていた。
 そのユーディーに向き直った百白は『どうするのか』とテオの処置を問うている。
 殺してやるつもりで探していた人物――テオ。

 この男のせいで全てが――‥‥!!

 喉元まで出そうになる憎しみの言葉を堪え銃を握るユーディー。それを見たラルスは、殺意に満ちた銃身をやんわり握って軌道を外す。
「いけませんよ、ユーディーさん」
 それを見た百白はテオの左足首に発砲し、足を押さえて苦悶の表情を浮かべるテオを見下ろす。
「如何なる理由であれ、貴女に兄殺しはさせたくありませんから」
 ラルスがそう言いながら手錠をかけ、覚醒を解いた迅がテオを軍に引き渡す為捕縛する。軍と車両の手配を終えたYU・RI・NEが念の為、舌を噛み切らないように轡もさせておいた。

 疲労のためか、気が抜けたのか。ユーディーはそれを見つめつつ明瞭でない思考を巡らせる。
 テオを殺しても皆が生き返る事は無い。それも知った上で仇討のような事をし始めた。
――これで、よかったの?
 それに対しての答えは出ない。

「ユーディーさん、傷の手当てを‥‥」
 ザインフラウと龍牙が彼女の具合を心配して、あちこちに出来た傷を診てくれる。
 龍牙のそばで心配そうにしているリュウナ。しかし、彼女たちも先程の戦いで怪我をしている。そちらの傷を治療してからでいいと言えば、
「ユーディーさんの心の傷に比べたら、大したことありません」
 微笑む龍牙と、静かにユーディーを諭すザインフラウ。
「私たちは仲間だ、何かあったらいつでも頼ってくれていい‥‥あ、あとな。パートナーを組もうと言ったのは本気だ‥‥余裕があったら考えて欲しい‥‥」
 後半は少し声が弱まったが、やや早口で言い終えて黙るザインフラウ。
「‥‥ありがとう。私の命と‥‥心を助けてくれた事。感謝してもしきれない」
 ぺこりと頭を下げたユーディーだが、
「それにしても‥‥一言相談があっても良いのではないでしょうか。お友達として少し寂しいです」
 本当に心配してくれたのだろう。ユーディーの包帯を巻いている瑠姫は軽く拗ねたような口調で言う。
 ハッとした表情で能力者達を見つめた彼女。
(「友達‥‥」)
 じわりと胸に広がった温もり。絶望を与える者も居れば、幸福を与えてくれるものもある。
 俯きながら有難うと繰り返すユーディーの頭を、礼は要りませんと告げて撫でてやるラルス。
「面倒な‥‥奴だ‥‥」
 呆れたような声音だったが、百白の表情はいつもと変わらず。
 彼女の周りに出来ている輪を見つめ、リヴァルは小さく口元を緩めた。



「俺達を見ても‥‥まだユーディーさんは一人かい?」
 迅がテオに訊いたが、不愉快そうな顔で視線を背けたテオ。それだけで十分、不本意な結末と証明されている。 

「傭兵は依頼を果たすだけにあらず。だからやめたくないの」
 家族には心労をかけてしまうけれど、と苦笑するYU・RI・NE。
「そうですね。うまく言えないけど、わかります‥‥」
 出会ってから間もないとしても。依頼や日常で自分たちが築いた絆は強固なものだったと確信できた。
 知らずの内に、迅の表情には優しい笑みが浮かんでいた。