タイトル:【BV】チョコレート泥棒マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/16 06:51

●オープニング本文


●奴は心を盗みました

 LH内。食堂にて、数人の女性能力者たちが集まって楽しそうにお菓子のカタログを見つめて笑っていた。
 いや、女性たちが集まればいつでも楽しそうなのだが、今回は余計楽しそうである。
「これをあげようと思うんだけど」
「きゃー! 可愛い!」
「義理だけどね、バラまこうと思うの! お返しは三倍を狙うわ!」
 内容も様々に、きゃっきゃと弾んで楽しそうな女性たちの声。
「ねえねえ、誰にあげるの〜?」
 という言葉に男性能力者たちは素知らぬふりで耳に全神経を傾ける。次の言葉は聞き逃せない!! と!
「ねえねえ、大変なのよぅ!」
 だが、それは食堂に駆けこんできた別の能力者の女性によって阻まれてしまった。
『こっちの方が一大事なんだよ!!』
 という男性諸君の心の叫びは当然聞こえないだろうが。慌ててきた能力者に、女性たちはどうしたのと視線と言葉を投げかけた。

「最近、チョコレート会社のトラックばっかりキメラに狙われてるんだって!」
 ピクリ。と、その場にいた能力者達の表情が本気と書いてマジになった。
『どうせ俺たちやチョコなんか貰えないんだよ!』という嫉妬の心がキメラに分かるわけはないだろうが、
 それは全く命知らず。この時期の人類からそれを奪うとは、龍の逆鱗に触れてしまったようなもの。
「‥‥支度しようか。丁度この手が血に飢えておるわ」
「いい考えだ。オレも食後の運動に丁度良いぜ!」
 率先して動く男性能力者達。
『いいところ見せて、すべりこみセーフしちゃおーっと!』という下心。分かるものには透けて見えそうな有様だ。
「さあお嬢さん方! 共に手を取り合ってキメラ退治に――」
 と、下心という爪を隠して振り返った時には、既に女性陣はそこに居なかった。

 男たちの耳にはカタカタと窓枠を風が揺らす音と、TVの音だけが聞こえていた‥‥。

●参加者一覧

リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
ミカエル・ラーセン(gb2126
17歳・♂・DG
井上冬樹(gb5526
17歳・♀・SN
安藤ツバメ(gb6657
20歳・♀・GP
天城・アリス(gb6830
10歳・♀・DF
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
レベッカ・リード(gb9530
13歳・♀・SF
美村沙紀(gc0276
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●許し難き敵

(「チョコレート輸送車の護衛ですか‥‥」)
 ふむ、と用意された車両やトラックのほうを見ながらミカエル・ラーセン(gb2126)が顎先に手を添え思案する。
 そう。今回の敵は、チョコレート配送車を襲うキメラだとか。

 輸送車を狙うキメラというのは比較的良くある依頼のひとつである。

 だが――
 この時期。
 チョコを『この時期のチョコ』と組み合わせて言ってしまうほど重要な時にキメラは襲ってしまったのだ。

「今の時期にチョコを狙うなんて、何て命知らずな‥‥!」
 と憤るリゼット・ランドルフ(ga5171)に、許しがたいですねと同意する天城・アリス(gb6830)。
「如何にも。チョコレートばかり狙うなぞ、独り身嫉妬野郎が許そうが、わしが許さぬ」
「そーだよ! キメラにあげるような義理も無いんだよね!」
 秘色(ga8202)や安藤ツバメ(gb6657)も同じく怒りを露わにしている所から、どうやら皆あげる立場なのだろう。
「ったく‥‥この時期はただでさえ物価が上がるってのに。ま、お陰で依頼になって稼ぎが増えるって意味じゃありがてーかもな」
 ウェイケル・クスペリア(gb9006)の言葉は前半は女性(のお財布事情)として、後半は傭兵としての真理に違いない。
 ともかく、女性たちを敵に回してしまったキメラはさておき、神撫(gb0167)が女性一同を見た後‥‥覚悟を決めたような顔をしていた。
(「若い女の子ばっかりか‥‥ちょっと場違いかなぁ‥‥俺」)
 怒れる乙女たちを前にして、この状態でそう思うのは無理もない。
(「まぁもらえるあてがない‥‥かもしれないが、滑り込めたらラッキーかな」)
 が、彼はそういった少しの期待も胸に秘めている。本当にその下心があったとは報告官も想像していなかった。
 それはいいとして。高速艇までの護衛ということで、リゼットは運転手らへ『キメラが現れた場合には全車揃って停車する』などを伝えながら、地図を見せてもらいつつ打ち合わせを始める。
 他のメンバーは、護衛用車両として用意されたジーザリオに荷物を積んだりと準備に追われていた。
 護衛車が運搬用トラックの間に入る隊列となり、ミカエルのAU‐KVは二番目のトラックの後方に位置する。
「あの‥‥よろしく‥‥お願い、します‥‥」
 ミカエルと同じ名を持つAU‐KVの後方に乗せてもらう事になっている井上冬樹(gb5526)は、簡単に挨拶を済ませて頭を深々と下げた。青の髪が彼女の肩口から、さらりと胸元のほうへと滑り落ちた。
(「‥‥なんか弱気な子だけど、大丈夫かな?」)
 冬樹の事をじっと見つめているミカエルの視線に耐えかねたのか、一度逸らしてからはあまり視線を合わせてくれない。
 自分も自己紹介をしながら、AU‐KVの後方に冬樹を乗せる。
 聞き覚えのある名字だ、とミカエルの後方に乗りながら、冬樹は口には出さずに思う。
「運転手さん、安全運転でよろしく。事故ってチョコがダメになったら泣くよ?」
 レベッカ・リード(gb9530)に言われた運転手が、それは大丈夫だがキメラは頼んだぞ、と笑顔で言うのでそれに応えると、自分の担当車両に乗り込む。
「銃は使いなれませんが、四の五の言ってられませんね‥‥」
 アリスが車両内で銃の手入れをしながら呟き、ウェイケルは幌を外された車両に苦笑した。
「オープンカーにするには、ちと季節はずれだったかな。ま、後で暖けぇ飲み物でも奢ってやるから我慢してくれ」
 護衛車1の運転を担当するリゼットが、にこりと微笑んでから無線を手にする。
「各車両、準備完了ですか?」
 それに対し2号車を担当する神撫、AU‐KVのミカエル、3号車の秘色が出発準備完了と報告する。
「了解です。それでは、出発致します」
 と、ゆっくりと車を走らせた。

●索敵開始

「おー、風が気持ち良いねぇ〜」
 2号車ではツバメが眼を細めつつ、ドライブでもしているかのような口調で言う‥‥が、各車両オープンカー状態。寒さに弱い彼女はまだ大丈夫だろうか。
 ガタゴトと揺れる道を、運転を担当する者は前方を、助手席や後方に位置する者は護衛のため周囲に目を光らせる能力者達。
「こちら2号車。索敵報告願います」
 神撫の声が無線から聞こえ、
「こちら最後尾異常無し」
 運転に集中する秘色に代わって美村沙紀(gc0276)が、無線で報告する。その他の車両も問題ないようだ。
「道が良くないゆえ速度が出せぬ。襲うには都合が良かろうの」
 秘色が言うように大小様々な岩が多く存在する道のり。ジーザリオも上下に激しく揺れるが、乗り物酔いをしている者もおらず、速度は出ないにしろ今のところは順調だった。
「なんか緊張するなぁ‥‥女の子の夢が掛かってるんだもんね。ちょっと大げさだけど」
 レベッカがそう言い、言葉通りいつもより緊張した面持ちで警戒に当たっている。
 先頭のアリスが双眼鏡を覗き込みながら周囲の様子を窺っている。彼女が見つめる先――山の上に、動物か何かの影があった。
「不審な影が見えました、キメラかもしれませんので警戒してください」
 同車両のリゼットを見つめながら無線でそのように伝えた時の事だった。
「ん、確かに何かいる‥‥!」
 沙紀が言った瞬間。山の上からオンコットが3匹素早く駆け降りてきた! ミカエルが後方の危機を思って3号車へと向かおうとした時のこと。
「来ました! みなさん、こっちからも!」
 斜面からは2号車を狙った猿、3号車後方からもサーベルタイガーが2匹駆けてくる。
 中央を挟み打ち。走りながら牽制できるものではない、そう判断した能力者達。
「全車緊急停止! 側面及び後方より急襲! 前後は第二波も警戒頼みます」
 言うが早いか、神撫はシートベルトを外して後方へと場所を変え、銃を撃てる視界と射角を確認。
 ツバメは助手席から飛び降り、狙いの虎よりも到達速度の速い猿を倒すことに決めたようだ。
 ミカエルが車列を抜け3号車の方面へ。

「弾幕張るよ! 流れ弾注意してね」
「了解」
 ツバメが返事をする前に、神撫のガトリング砲が無数の弾丸を撃ちだす。それに怯んだ猿の牽制にもなっている間、
 1号車より走って援護に来たアリスがスコールを構え、2号車を目指して降りてきた猿を狙う。
 味方が飛び出して来ないのを確認してから指を離すと、猿の足の付け根を撃ち抜いた。一匹の猿がバランスを崩して斜面を転がり落ち‥‥その身を神撫のガトリングの前に曝した。
 体を撃ち抜かれて悶絶する猿。弾丸の嵐が止んだところで、ツバメがストラスの鋭利な爪で引き裂く。
「敵接近、数は猿2匹! 来ます!」
 沙紀の注意喚起の声。無事だった2匹の猿がトラックめがけて走ってくる前へと秘色が、虎の前には味方とキメラの間にドリフトで滑り込むようにやってきたミカエルが立ちふさがる。
「俺の点数になりに来たのかな? ‥‥木っ端微塵に片付けてあげるよ」
 その場で冬樹を降ろすとAU‐KVをアーマー形態にし、ミカエルが不敵な笑みを浮かべた。
「この下郎共、大事な荷に近づくでないわ!」
 彼女もバレンタインに夫と息子の仏前に供えようとしているチョコレート。その貴重なものに手を出すとは、全世界の男が許したとしても秘色や恋する女性は許さない。
「全世界の乙女の夢、ぬしら如きにくれてやる気はない!」
「そうそう、女の子を敵に回した愚か者は撲滅だねー?」
 それに呼応するかのように、レベッカも普段の微笑みとは違うものが混じっていた。要するに、怖い笑みだ。
 ゴゴゴとか音が出そうなほど凄まじい闘気である。この時期女の子を敵に回す勿れ。今月の教訓だ。
「チョコの代わりに、これをあげるよ!!」
 電波増幅をかけたレベッカはPBでの攻撃を虎に向けて繰り出す。赤いプレゼントボックスからは目に見えぬ強力な電磁波が飛び出した。
「よ〜く狙って発射ですわ」
 虎を良く狙い、ルドルフで後方援護する沙紀。
(「き、きちんと‥‥守り、きれる様に‥‥頑張り、ます‥‥!」)
 冬樹は心の中で呟くと覚醒し、弓を引いてミカエルの援護に回る。
 虎の胴体をよく狙って射ると、ミカエルが槍で虎を薙ぐ。
 ミカエルの胴を狙い、もう一匹の虎が噛みつこうと飛びかかる。
 身を捻って噛まれるのだけは避けたが、すれ違いざま腕が鋭い爪で引っかかれた。
 虎の着地を狙い、秘色が蛍火で虎の喉元を狙う。足場は悪いにしろ、踏み込みは問題なかった。
 喉を真一文字に掻き切られ、虎が一匹倒れる。残る一体も、レベッカとミカエル、冬樹が応戦中だ。
「私は、警戒に回ります。陽動の可能性がありますからね。前方も、警戒を怠らないようお願いします」
「了解しました」
 沙紀が無線で注意を喚起するとリゼットが応え、ウェイケルと共に移動を控え周囲の警戒に念を置く。
 その間、2号車では足元と仲間の銃弾に気をつけつつ猿をトラックに近づけぬよう立ち回るツバメと神撫。
 横をすり抜けようとした猿を、神撫がステュムの爪を装着し、蹴り飛ばす。
「‥‥簡単にはやらんよ。失敗したら女の子がこわいんでね」
 前髪を風に揺らし、神撫は落ち着いた声音で呟く。言っている事は冗談のように聞こえても、メンバーの意気込みから察するに彼も相当覚悟している‥‥かもしれない。
 神撫のガトリングに撃ち抜かれ怯んだところでツバメに引き裂かれ、アリスが止めとばかりにスコールで狙う。
 素早さを持ち味とする猿も、弾幕の前にはそれを生かしきることが出来なかったようだ。

 一方、1号車。敵襲に備えていた二人の前方。ちらと何かが見えた。眼を凝らしたウェイケル。その刹那に覚醒したリゼットも同じものを見たのだろう。
 フン、と鼻で笑って、ウェイケルが無線を手に取った。
「――こちら1号車。前方より敵‥‥猿2匹と虎1匹が来たぜ!」
 無線で報告後、座席の上へ立ちあがるとジーザリオのフレームにしっかりと手をかけて体を固定し、扇を構えて敵が接近するのを待つ。
 射程圏内にキメラ達が入ると、渾身の力でソニックブームを放つウェイケル。
 そのすぐ後にリゼットが銃で猿の足を射抜く。
(「残念でした、奇襲もちゃーんと対応できてるのよね」)
 1号車の敵襲も、神撫が支援指示を飛ばし、アリスとツバメが呼応する。
 あらかじめ予測し事前対応できていた事に、沙紀は安堵しつつほくそ笑んだ。
 虎も足掻き、冬樹を狙って飛びかかる。が、冬樹はひらりと躱してミカエルと共に最後に残っていた虎めがけ攻撃をする。
 冬樹は弓を銃に持ち替えて虎に浴びせる。
「ラーセンさん。今です」
 機械的に話す冬樹に頷きを返し、ミカエルは槍を振り上げる。
「キメラのクセに獲物選り好みとか、生意気なんだよッ!」
 怒鳴るような口調で言って、ミカエルはとどめに虎の頭部へ槍を突き刺した。
 これで2号車と3号車を襲ったキメラは迎撃完了と相成った。

 1号車もトラックに気をつけつつ囲まれないように陣を組み、ウェイケルとリゼットは連携を重視しつつ敵の機動力を徐々に奪っていく。
 猿の攻撃を扇で防ぎ、両断剣で叩き飛ばす。そこにリゼットが莫邪宝剣で止めを刺す。
「お待たせっ!」
 1匹を始末したところでツバメとアリスが合流し、迎撃態勢の強化を図る。
 忍刀「颯颯」に持ち替えたアリスは、猿に流し斬りを使用して痛手を与えていく。
 虎の牙を飛び退いて避けたツバメ。着地と同時に走って接近。
「全力全開! ゼロブレイカァァァ!」
 渾身の力を込めた必殺技。虎に素早く強力な攻撃を叩き込むと虎も絶大なダメージを負い、絶命する。
「止めだ! 報酬の露と消えやがれ!!」
 ウェイケルが動きの鈍った猿に肉薄して扇を振りかぶり、その頭部に扇を叩き込み――敵の掃討は完了した。

●任務完了

 敵が死んでいる事を確認した能力者一行。安全も確認した後再び移動を開始する。
「ランドルフさんはチョコレートとか作るの得意ですか?」
 1号車内では、アリスがリゼットにはにかんだ笑みを向けながら訊ねる。
「あの‥‥お得意でしたら、作り方を教えてもらえませんか?」
 誰かにあげたいのだろうか。なんとも初々しい会話である。
 後方で聞いていたウェイケル。『親しい相手に物を送る日』だと思っているので。
 感覚で言えばお中元だとか年賀状だとか、その程度の認識でバレンタインデーがどのようなものか、いまいちよくわかっていないようである。

 そんな和んだ会話もしながら、無事に高速艇が待つ場所まで着いた時の事だった。
「無事に任務を果たしてくれたようだな。心配はしていなかったが、依頼主に代わって先に礼を言わせてもらおう」
 能力者の到着を待っていた高速艇から出てきたのは、シアン・マクニール。
 驚く皆に、シアンは貨物の引き取りと報酬を渡す為だと言って数枚の小切手を見せた。
「無事到着‥‥チョコレートさん、がんばるのですよ」
 少しばかり愛着が湧いたのか、優しい口調で沙紀はトラックのコンテナに声をかける。
 貨物が高速艇に収容されたのを見届けてから、シアンは小切手を渡した。
「マクニール中尉、お会いできて光栄です!」
「ん? ああ‥‥ありがとう」
 正規軍採用を目指しているミカエルは、自分を印象付けるためシアンに礼儀正しく挨拶をして微笑むのだが、シアンは軽く首を傾げ、肯定でも否定でもない返事をする。
「でも、何でチョコレートを狙ってきたんでしょうね?」
 ミカエルが疑問を口に出すが、その答えは誰にも分からない。
 そこへ、トラックの運転手がやってきて、能力者達にチョコレートを感謝の気持ちとして渡した。
 無論、配達していたものだが――依頼主は快く彼らに差し上げてくれと言ったのだそうだ。

「君らの任務は完了だ。LHに行くのなら、同乗するといい」
「ふふ。ある意味、戦いは此れからじゃの」
「――‥‥君たちにとって、色々大変なんだろうな」
 秘色が苦笑しながら言って、シアンは曖昧に微笑んだ。
 その戦いが、女性にとってなのか、傭兵にとってなのかは‥‥言った本人たちにしか分からない事であったが。
 とにもかくにも、乙女たちの夢と希望と愛の為、全力を尽くしてくれた能力者達は帰還したのであった。