タイトル:rainy dayマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/10 00:05

●オープニング本文


●Stray Cat

 ここ数日降り続く雨。傘を持ち歩くのが鬱陶しい以外に特別何かを思うでもなく、ユーディーは右手に傘、左手に買い物袋を下げて家に帰る途中だった。
 ふと彼女は何かに気付き、立ち止まると耳を澄ませる。

 にゃあ。

 どこからか小さく、か細い鳴き声が届く。

 にゃあ。

 どこか悲しげに聞こえる――猫の声は、彼女の右手奥、ビルとビルの間‥‥路地の中より聞こえてきた。
 ふと顔をそちらに向けてみれば、薄汚い子猫が雨に打たれ、震えながら鳴いている。
 猫が街に居て佇んでいる、それはなにも珍しい事ではない。
 水を嫌う猫がびしょびしょになっているのは、雨宿りが出来ぬ状況だったのだろう。それも気にするところではない。
 その場を離れた彼女の背中へ、追い縋るかのように猫が再びにゃあと鳴く。
 普段ならばそのままスタスタと行ってしまうのに気が咎めたので振り返れば、猫はぶるぶると震えながらもまだ彼女を見つめていた。
(「怖いの? 寒いの?」)
 動物にも他者にもあまり関心のなかったユーディーには、震える猫が何を求めているのかも、どうしてやればいいのかも推し量ってはやれなかった。
 そこで考えたのは『腹が減っている』のだろうということ。仕方なしに傘を置いて猫の近くに屈む。
 買い物袋からパンを取り出して一口大にちぎってミルクを浸してやっても、猫はくんくん匂いを嗅いだだけで口をつけない。
 腹が減っていないのなら、食べたくないなら構わない。排水溝に浸したパンを捨てると、立ちあがる。
 今度こそ帰ろうとした彼女に、猫は三度にゃあと鳴いて引き止める。ただそれだけを繰り返す猫。
「‥‥」
 手を差し出してみれば、猫は後ずさる。
 人に接するのが怖いのだったら、近くに寄らなければいいのに――と思ったところで。

「‥‥ユーディーさん?」
 と、後方‥‥先程彼女が入ってきた方向から声がかけられた。

「何してるんですか?」
 自分のそばにやってきて、彼女と猫を見比べる能力者。
「‥‥猫が、鳴いてて」
「ちっさ! うわ、可愛い〜」
 猫を見て顔をほころばせた能力者を見ながら人と接するのは苦手だ、と感じた彼女はハッとした。
 人の厚意を素直に受けられないのは、何も人間同士に限った話ではなかった。
 暫し押し黙った彼女を不思議に感じた能力者は、彼女の顔を覗き込む。
「ユーディーさん、どうしたの?」
「接し方‥‥どうしたらいいのか、わからなくて‥‥」
――この猫も、私も、他人(ひと)と。
 表情が変わらないので良く判らないが、彼女なりに困っている。
 能力者は少し考えた後に猫に手を伸ばす。にゃあにゃあと嫌がる猫をそっと抱きあげると、ユーディーに家が近いのか聞いた。
「なぜ?」
「猫、寒がってるみたいだから。ユーディーさんちが近かったら、そこであっためてあげようよ」
 にこっと無邪気に微笑む能力者に、知らず知らずユーディーは頷いていた。

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
鉄 迅(ga6843
23歳・♂・EL
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
鈴木 一成(gb3878
23歳・♂・GD
リュウナ・セルフィン(gb4746
12歳・♀・SN
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP
榊 那岐(gb9138
17歳・♂・FC

●リプレイ本文

●雨の日

(「雨は‥‥嫌いなんだが‥‥」)
 季節外れの長雨に、西島 百白(ga2123)は思う。
「ニャンコ用のオモチャと、御菓子とか、御菓子を買うなり!」
 そんな彼の視線の先には、買い物のメモを持った東青 龍牙(gb5019)と、お菓子に目を輝かせるリュウナ・セルフィン(gb4746)の姿があった。
「ダメですよ?」
 ニャンコ玩具よりも、お菓子のほうに心が傾いているらしいリュウナを、やんわりと注意する龍牙。
(「子猫を拾う‥‥か。うん、良い兆しだよ」)
 百白の隣、ユーディーの心の変化を密かに喜んでいる鉄 迅(ga6843)。

 彼らがこうして買い物にいそしむ理由は、数十分前にさかのぼる。
 
●数十分前のこと

 路地からニャーニャーと聞こえたので、偶然近くを通りかかった鈴木 一成(gb3878)はつい路地を覗き込む。
「ユーディーさん、はやくいきましょう」
 猫の体を軽くハンカチで拭いて榊 那岐(gb9138)が、じっと猫を見つめているユーディーに声をかけている所だった。
 那岐の腕に抱かれている猫、一成からも明らかに恐怖と寒さでブルブルと震えているのだと見える。
 二人が路地から出てきたところで、一成に気づいたユーディー。猫を指しつつ『あなたの猫?』と聞いた。
「い、いえ‥‥」
 そう言ってサッと眼を逸らす一成。丁度同じ場所へ、買い物の帰りらしいラルス・フェルセン(ga5133)も現れた。
 子猫に目を輝かせるラルスだったが、猫の状態を一目見て心配したところに、どこからか獣の匂いを嗅ぎつけたと思われる火絵 楓(gb0095)や、リュウナらと出会ったのだ。
 動物の世話をした事もないユーディーと、寒さに震える猫のため。そこに幸か不幸か居合わせた彼らは猫班と買い物班に分かれて行動し、後に彼女の家で合流しようという運びになったのである。

●そして現在

「子猫用のゴハン、遊び道具‥‥」
 龍牙が、ラルスの書いてくれたメモを見ながら商品を買い物カゴへ入れて行く。メモに書かれていた子猫用ミルクと子猫用哺乳瓶、ペットシーツは手に入ったのだが、
 ペット商品が充実している店だったせいか、紙・木・おから・ゼオライト製‥‥猫砂の種類も膨大だ。猫砂選びは愛猫家にとって重要なのだ。
「‥‥ん?」
 リュウナと二人で迷っていると、様子に気づいた百白と迅がやってきて一緒に調べてくれた。
 皆で相談して決めた猫砂を一袋取り、レジへと持っていく。
「面倒だ‥‥俺が‥‥出す」
 猫一匹分とて、結構な買い物である。龍牙が財布から小銭を出していると、百白が進み出て会計を済ませてしまった。
「結構多いですね‥‥あ、少し持ってもらえますか?」
「少しと言わず、荷物持ちはお任せを!」
 龍牙が百白と迅に頼めば、迅は笑顔で、百白は無言だが好意的であろう物腰で荷物を全て持ってくれた。
「では、これで買い物も終わりですね。それではユーディーさんの所に向かいましょう♪」
「にゃー! 子猫と遊ぶなり!」
 リュウナはお菓子を片手に、非常に楽しみにしている様子。その笑顔を見つめ、龍牙もつられて微笑むと、ユーディー(の家にいる猫)に会うため、一行は向かっていった。

●家にて

 一足先に家へやってきた4人は、すぐにそれぞれ行動を開始する。
 ピンク色の鳥の着ぐるみを着こんでいる楓は、犬のようにブルブルと玄関先で体を震わせ、水気を弾き飛ばす。
 大変そうだから、その着ぐるみは脱げばいいのではないか‥‥と指摘する者は誰もいなかった。
「ユーディーさん。タオル、タオル。早くしないと猫が風邪ひいちゃいます」
 那岐が猫の様子を見ながら若干慌てて言い、ユーディーは頷くとタンスまで走り、引き出しを開けてタオル数枚を一気に引っ張り出す。
 ずるずるとタオルを出した後、すぐに一枚を那岐へ渡そうとした。
「できれば、ユーディーさんが拭いてあげてほしいです」
 毛が水に濡れているせいか、痩せ細って見える猫の体。
「‥‥動物に、触ったこと無くて」
 当惑する彼女に怖くないですからと那岐は微笑み、そっと手渡す。
 ゆっくりと受け取り、タオルを猫の体にそっと当てると、おぼつかない手つきで拭きはじめる。
 それを近くで見つつ、ラルスはユーディーからタオルを受け取り、ファンヒーターの近くで暖めていた。
(「温かい飲み物が手元にあると落ち着きますし、間が空いてもお茶を飲んでいればなんとなく誤魔化せますしね」)
 空気を読むことに長けている一成はキッチンを借り、家の主人よりも甲斐甲斐しく動いている。
「うお〜、出会ってすぐにおんにゃの子の部屋に上がれるなんて今日はついてるじぇ♪」
 ややオヤジ的発言であるが、楓がユーディーの部屋の中を遠慮なく物色し始める。
 時折ユーディーの冷たい視線が向けられているのだが、ちっとも気にしない。
 猫の水気を大分拭き取ったところで、ラルスが先程まで暖めていたタオルに猫をそっと包む。
「子猫はー、体温調節が〜苦手なのでー、これで包んでー保温をー、しましょう〜」
 那岐が適当な空き箱をユーディーから受け取ると、猫用の寝床を作る。
 茶を淹れている一成の側へ行って、ペットボトルが変形しない程度に調整した湯を入れると、タオルをくるくると巻いて箱に収めた。
 猫用湯たんぽである。同じ場所にそっと猫を入れて、落ち着けるように少し離れた。
「ユーディーさん‥‥あの、お茶が入りました‥‥お買い物をされている皆さんが、いらっしゃるまで‥‥我々も、その、ゆっくり致しましょう」
 テーブルの上に、現状の人数分用意された茶。ユーディーは解ったと応えると、すたすたと先にやってきて座る。なんとも気配りの無い女性である。
 が、それに気を悪くする事もない出来た方々である能力者たちは、彼女にならって床に座ると小さいテーブルに集った。
 茶を手にして無言になる一同。
「子猫は、か弱いですからー、ユーディー君に見つけて頂いて、お宅が近くでー、命拾いしましたね〜」
「ユーディーさんは、動物がお好きなんですか?」
 ラルスが微笑みを浮かべて言うと、一成も皆とユーディーの会話が繋がる様話しかける。なんとも心遣いあふれる人だ。
 が、ユーディーは手中のお茶へ視線を落として『触ったことがほとんど無い』と仰天発言をする。
「じゃあ、さっきのがユーちんと、こにゃんこのファーストコンタクト?」
 楓がお茶を飲みながら言うと、空箱の中から子猫が一度鳴いた。ユーちん、とは、楓がつけてくれたユーディーの呼び方らしい。
「ほー、そーだったにゃー? よしよし後でお前も覚醒にゃよ〜?」
 にゃー、と猫が鳴くのに対して楓は嬉しそうに返事をするのだが、猫との相互理解は成立していないのが残念だ。
 お茶を手に、ぽつぽつと会話をしていたところで、玄関の呼び鈴が鳴る。

 ユーディーは立ちあがって玄関へ近づくと扉をそっと開けて、顔ぶれを確認すると中へ通す。
「始めまして♪ エキスパートの東青龍牙です♪」
 買い物班を代表して、龍牙が笑顔と礼儀正しい態度でユーディーへと挨拶を行い、手土産の菓子を渡す。
 ユーディーにも人付き合いスキルがあれば『お菓子までありがとう! 寒かったでしょう、早く暖房器具の側にどうぞ? 今お茶淹れるわね!』と言えるのだろうが。
「私は‥‥ユーディー。スナイパー‥‥。お菓子、ありがとう‥‥」
 どこぞの空飛ぶ鉄道に乗って旅をする女性のような自己紹介である。が、龍牙は気にすることなくお邪魔しますねと言って入って行った。
「にゃー♪ ニャンコ〜ちっちゃいなり♪」
 箱の中で大人しくしていた子猫は、リュウナの歓喜の声に耳をピクリとさせて顔を上げる。
 大きな眼でリュウナと、その横に来た百白を見上げていた。
「それが‥‥例の‥‥?」
 百白の問いに、頂いたお茶菓子に合わせ、(家主が動かないので)コーヒーの準備をしつつ『ハイ』と答えた那岐。
「ところで、このニャンコは、男の子なりか? 女の子なりか?」
 リュウナの疑問に、百白が無言で猫を抱きあげると性別を確認する。
「コイツは‥‥雌だ」
「にゃ〜、女の子〜♪」
 毛も大分本来の柔らかさを取り戻した様子だ。百白からリュウナが猫を受け取り抱き上げると、にいにいと鳴きながら指の匂いを嗅いでいた。
「子猫は〜、お腹が空いたのでしょう〜、ミルクの用意を〜しましょう〜」
「本当は‥‥母猫のミルクで‥‥免疫作るんだが‥‥」
 と、ラルスは猫用のミルクと哺乳瓶を袋から出して、準備をしてくれる。百白も哺乳瓶の洗浄を率先して行っている。
 そういえば母猫はどうしたんだろうか。この子猫は捨て猫なのか、野良猫なのか。残念ながら誰にも分からない。

「ユーディーさんは、どういう理由で能力者になったんですか?」
 龍牙が運ばれてきたコーヒーの香りを味わいながら、穏やかに聞く。
「‥‥一人で、生きて行かないといけなかったから」
 色々と端折って答えているが、彼女もそれなりに和んだ空気を読んだらしい。場を悪くしない程度に答えたようだが‥‥。
 龍牙は『そうですか』と相槌を打ち、
「人って、結構変われるものですよ。ユーディーさんも、そうなるかもしれません」
 自分の事を言っているのか、そう言って龍牙は微笑んでいる。
 ラルスが哺乳瓶に入れたミルクを持ってくる。リュウナの横からそっと猫をタオルで包むと、口許へ吸い口を運ぶ。
 温かいものが口に押し当てられたので小さく口を開いた猫。その形状からか、手で哺乳瓶をぺたぺたと押しながら思い出したように吸い始めた。
 猫を驚かさないようにと大勢で詰め寄らず、そこそこ距離を取って注視。可愛らしい物を見て、一成も顔が緩みそうになったが、すぐにきゅっと引き締める。
「うむむ‥‥なかなかおいしいそうなのだ‥‥ジュルリ‥‥」
 猫が美味そうにミルクを飲むのを見ていた楓。迅が先ほど買ってきたお菓子を笑顔と共に手渡す。
「ユーディー君も、飲ませてみますか〜?」
 ラルスにそう訊ねられ、ユーディーは迷ったようだったが、小さく頷くとやり方を教わりながら猫にミルクを与えた。
 先程まで体は冷たくて震えていたのに、今は一生懸命ミルクを飲んでいる。
「懐かしいなぁ‥‥俺も昔飼ってたんですよ、猫」
 彼女の手の中に居る猫の頭を、人差し指で撫でつつ迅が優しい顔つきをしたまま言った。動物と接することで、他者を理解しようとする気持ちが生まれた、と。
(「‥‥猫、温かい‥‥」)
 能力者達の優しい眼差しが注がれているのも気付かず、彼女はずっと猫を見つめていた。

「にゃ〜にゃ〜! おまえも運が良いにゃ〜、こんな優しい人たちにあえてうれしいかにゃ〜? うれしいよにゃ〜」
 猫槍エノロコを装備した楓。鳥の着ぐるみの下、最高の笑みを浮かべながら猫と巧みに遊び始める。
 リュウナと龍牙も、買ってきた猫玩具を使って猫の気を引く。
 百白は、ミルクの後で猫のお尻を拭くのに使ったティッシュを片づけていた。面倒といいながらもテキパキよく動いてくれるお兄さんである。
(「‥‥ん?」)
 それを眼で追っていた迅は、タンスの引き出しから何か出ているのに気がついた。
 肌触りのよさそうな白い小さな布‥‥である。周りに細かいレースがついているが‥‥。
(「こ‥‥これは、まさか‥‥!!」)
 あの形状、色、艶。迅の脳内で結論が下された。
 赤い顔をしながら、脳内で浮かびそうになるものを打ち消し、ラルスの淹れてくれたお茶を飲みながら、皆と一緒に猫の処遇会議に参加する。
「動物‥‥飼ったことないの」
 ユーディーがそう言えば、ラルスは彼女が飼うならそのためのサポートの約束はするし、飼わない場合は自分が引取るといってくれている。
「子猫も〜、気付いて貰えてー‥‥嬉しかったと思いますが、どうして良いか分からず〜、鳴くしかなかったのでしょうねー?」
 お互いどうしたら良いか分からなくて、見つめ合っていた猫とユーディーを最初に発見した那岐や、言葉には出さないまでも、成り行きを見守っている一成がユーディーに飼ってもらい、これを機に猫や皆と仲良くなってもらいたいと心から思っている。
「ユーディー君も、人と接するのは苦手なようですが‥‥マイペースで良いと思いますよ。まずは猫と練習なんて如何ですか〜?」
 ラルスの後に、迅が『俺からもお願いします』と真剣な眼を向けた。
「子猫を見捨てなかったユーディーさんの優しさ、この子に注いでくれませんか?」
 ユーディーは一旦目を閉じ、自問自答した後。
「わかった。私‥‥責任を持って、飼う。あなたたちがいてくれたから‥‥出来たことばかり、だから」
 短い答えだったが、彼女の決意と皆に対する感謝がその中にはあった。
 壁に背を持たせて成り行きを見ていた百白も、その返事を聞いていた。
 楓らと遊んでいた猫をひょいと拾い上げると、ユーディーのところに持って行く。
「お前が‥‥母親だ‥‥面倒見てやれ‥‥」
 それをそっと受け取ると、ユーディーは猫と見つめあった。
「‥‥おかあ、さん‥‥に‥‥?」
 猫は大きな眼で彼女を見つめると、にゃあと元気良く鳴く。
「‥‥カップ、洗ってくる」
 バッと猫を隣にいた一成に押しつけると、空いたカップを持って早足で行ってしまった。
「照れちゃったんでしょうか。ユーディーさんって、何だか西島さんに似てますね。何となく」
「‥‥そうか?」
 龍牙の言葉に不思議そうな顔をしつつ、皆と同じように背中を見せているユーディーを見る百白。
 ただ、一成だけは背を向けて誰にも見せないような笑顔を浮かべ、猫と大いに戯れていた。

●名前を。

「そう言えばこの子名前はどうするのかにゃ? ゴンザレス? いやタマクローも捨てがたい気が‥‥ユーちんはどう思う?」
 楓がそう訊ねれば、ユーちんは自分の名称や猫名前候補を特になんとも思わず『決めていない』と言う。
「にゃ! 子猫に名前付けてあげるなり! 『メア』なんて、どうなりか?」
 リュウナが決めてあげると出した名前。
「‥‥ええ。それでいいわ」
 即答したユーディーだったが、きっと天下の『カプロイア』とつけられても悩みもせずにそう答えただろう。
『早!!』
 一同のツッコミが入ったが、結果ユーディーがそれでいいなら、という結論に至った。

 日も暮れはじめたことから、今日のところは帰ると立ちあがる能力者達。
 皆に頭を下げて礼を言って、メアと名付けられた猫と共に、彼らが見えなくなるまで見送るユーディー。

 家に戻ってから、タンスからはみ出る物に気がついた。メアを足元に置いて引き出しを開けて取り出すと、布をぱっと開く。
 レースのついたハンカチである。綺麗に折りたたんで、再びタンスに戻すと‥‥その場に座って、眼を閉じると能力者達の顔を思い浮かべ少しの余韻に浸る。

「ありがとう‥‥みんな」

 メアだけでなくたくさんの優しさを受け取ったユーディーは、その表情に微かな笑顔を浮かべていた。