●リプレイ本文
●出撃前
「いやしかし。改めて眺めると凄いものでござるなあ。この『けえぶい』というものは」
整備兵が忙しそうに動き回る中、兼定 一刀(
gb9921)は自機へ乗り込む前に眼を細めた。
直立不動のまま愛機バイパーは彼を見下ろし、共に征こう、と搭乗を心待ちにしているかのようにも見える。
「しかも、物を知らぬ拙者でさえ駆ることが出来るとは‥‥『ええあい』殿様々でござる」
ぱしぱしと機体の足を叩いてからゆっくりと乗り込み、初めの仕事として機体状況のチェックを始めた。
「――モニタ、良好。FCS、OK」
佐賀繁紀(
gc0126)がチェック状況を整備へと送る。
『了解。無線感度は?』
「感度良好」
『こちらも良好。指示があるまで暫く待機をお願いします』
「了解」
単簡に通信を終えると、繁紀はコックピットのシートに深く身を沈め、眼を閉じる。
(「うー‥‥よりによって‥‥」)
依頼を始める前にGooDLuckをかけるのが習慣で、今回もそうしていたレベッカ・リード(
gb9530)は、溜息すら吐けぬ息苦しい状態で自機のコックピット内にいる。
KVに感じているのは初戦への不安ではなく、軽い嫌悪と――これのせいで父を失ったという拭いきれない恐怖。
『ベッキー』
過去を思い出しそうになったレベッカの無線よりシアンの声が聞こえて、驚きで軽く身が跳ねた。
『機体チェックは万全か?』
「ん‥‥大丈夫、です」
『解った。いいか? 戦場で弱気になるなよ‥‥だが、くれぐれも無茶はしないように』
通信終わり、と言って切れた後。シアンはそれなりに励ましてくれたのだと知ったレベッカ。
「でも‥‥ベッキー、って、ヤだな」
レベッカの表情には微かな笑みがあった。
●first campaign
「よろしくなのですよー」
目標地域にやってきた一行。砂地をざしざしと踏みながら索敵を開始する。
「ゴ〜レム〜退治〜は〜初めて〜です〜わ〜」
守部 結衣(
gb9490)とイシュケ=ナイトメア(
gb9499)が、周囲に注意しつつ会話をしていた。
「ごーれむ‥‥?」
「敵の人型KVだと思えばいい」
シアンの説明に結衣は首を傾げ、どんな姿かというイメージを湧かせたが、それが掴めない。悪い不思議な巨人が相手なわけだと思うことにする。
「例え一体でも、相手はゴーレムです。油断せず気を引き締めて挑まないといけませんね‥‥」
皆に促すように語った天城・アリス(
gb6830)。
戦闘前に気を落ちつけようとしていたレベッカは、それを聞いて気の沈む思いがした。だが、再び深呼吸を繰り返して精神を乱さぬよう努めようとしている。
そこに高嶋・瑞希(
ga0259)の緊迫した声が飛んだ。
「‥‥目標確認!」
彼らの前方から威圧的な青い機体――ゴーレムがまばらに点在していた岩の一つより姿を現し、こちらに気づいた敵機は見つめ動きを止めた。
「ふむ‥‥あれが『ごーれむ』でござるな? なるほど、確かに手強そうな相手にござる」
一刀の口調が険しくなり、敵の挙動を注視する。
「では〜皆様〜」
イシュケがかちゃりと眼鏡を外し、
「参ろうか、一機とはいえ、敵もさるもの。何があるかは解らん」
「了解。作戦行動を開始します」
覚醒した結衣が短くそう告げた。
こちらはゴーレムの射程に入っていない。ライフルを手に、地を踏みしめ自身の射程まで駆けてくる敵機を見据えた。
「すぐに展開! 各自戦闘態勢へ!」
シアンの命令が飛び、ゴーレムを包囲しようと素早くKVを駆る。
「包囲陣形までの時間を稼ぐ! リアガード、援護を!」
言いながら銃器を構え、トリガーを引いたシアン。後方からの援護射撃が雨のように降り注ぎ、ゴーレムへと突き刺さる。
被弾しようとも射程圏内にこちらを入れるため、この程度のダメージなど省みない敵機。
遮蔽できるものがほとんどない距離で、ゴーレムもようやく反撃しようとライフルを構えた。
「やらせませんよ」
アリスがライフルを構えたゴーレムの手を狙って、その銃を落とそうと射撃を行った。一射目は外したが、二射目で敵の持つライフルに当たり、落とす事は出来なかったが射撃の妨害をする。
「接敵。‥‥戦闘開始(オープン・コンバット)」
前衛位置担当の結衣は疾走する。その勢いでゴーレムの右側面へ走り込むと、ガシャリと重い音を立てながらMSIバルカンを手にした。
弾をばら撒き、ゴーレムの注意をひきつけている間に、ゴーレムの左側面へはイシュケが砂を蹴りつけながら滑り込むように位置取り、足元を狙ってガドリングを撃つ。
ゴーレムの正面に立って、ガドリングを撃つ繁紀の後方より瑞希が射程の長いD‐02で支援する。ゴーレムの装甲に数多の銃弾が当たり、火花を散らし、足元や周囲の砂も跳ねる。
ダメージは些細なものだとしても、数機からの射撃を長く食らっていればゴーレムとて損傷の拡大は免れない。事実、行動にも幾分の遅れが出ていた。
「尋常の立会いともなれば一対一を所望するところでござるが‥‥」
ひゅん、と大刀を振るい、ゴーレムへ切っ先を向けた一刀。
「此度は戦働き。ご覚悟めされよ。いざ‥‥!」
疾走と同時、足裏のブースターが砂を巻き上げる。一気に間合いを詰めて一刀はゴーレムを大刀の射程に捉えた。
「せぇいッ!!」
味方の攻撃に合わせ、突きと払いをゴーレムへ牽制の役目も含め繰り出す。
敵もやられてばかりではない。前衛に位置するレベッカに狙いを定め、駆ける。
「ッ‥‥!」
回避行動か、受けかで一瞬迷った。判断が遅れてしまった彼女に向かって、大剣を振りかぶる敵。
力任せに振り下ろされた大剣は、レベッカの前に出てきたシアンが陽光で受け止めた。
「無事だな?」
金属同士が擦れ合う音を聞きながら、レベッカが大丈夫だと返事をすると打ち込まれた剣を跳ね上げて外す。
「この距離なら!」
瑞希の射撃が頭部を撃つ。甲高い音と共に、ゴーレムは数歩よろめいた。
「悪いが、遠慮等と言う選択肢はない。覚悟はしておいて貰おう」
イシュケが不敵に言い放ち、前衛の攻撃の隙を見て機槍に持ち替えるとゴーレムを突く。
右側腹部を貫通し、装甲は剥がれ、損傷した部分からスパークが生じていた。
「悪く思うなよ。たった一機で来た、てめぇが悪いんじゃ」
繁紀が多少動きの鈍った感のあるゴーレムへコックピット内から呟く。袋叩きであろうが相手には同情の欠片すら乗せていない。
鈍ってきたといっても敵はまだしっかりと稼働できる。呟きが聞こえたはずはないのだが、反応したかのようにゴーレムは横薙ぎに剣を繰り出す。
唸りを上げて迫りくる剣を、繁紀はしっかりと機盾アイギスで防いだ。
「戦いを長引かせる必要はありませんね」
アリスがそうはっきりと応え、シラヌイの超伝導アクチュエータを発動する。
彼女と同様に、結衣もそう結論付けたのだろう。砂を噴きあげつつ、ブーストでゴーレムへと肉薄し――ソードウィングで斬りつけ、離脱。
結衣が駆け抜けた後すぐにミサイルポッドが撃ち込まれ、ゴーレムに反撃の機会を与えないとばかりにSAMURAIソードに持ち替えた一刀とアリスから交互に斬撃が繰り出される。
青白い光、細かな金属片と共にゴーレムの片腕が斬り落とされ砂上に落ちた。
「奴は大分弱ってきた! いけるぞ!」
ライフル弾を右に移動して回避しつつ、好機と取ったイシュケが叫ぶ。
「高速二輪モードに移行! 駆けろSleipnir! そして叩き潰せっ!」
鋭い気迫を込めブーストで加速し、機槍でチャージアタック。威力を受け切れずがくりと片膝をつくゴーレムめがけて、レベッカが雄叫びを上げつつ二輪モードで駆けた。
すぐに射撃態勢に移行したシアンがレベッカ以外の皆へ伝える。
「一斉! ゴーレムに迎撃の機会を与えるな!」
集中射撃を浴び、火花と閃光を散らすゴーレムを睨みつけるレベッカ。せり上がる感情を押し殺し、戦いの女神の名を冠する機槍を構え、
「‥‥これでも食らえッ!!」
突撃を敢行した。
機体を通り抜けて伝わる硬さと振動。串刺しになったゴーレムから槍を引き抜く。
――多大なる損傷を受け、ついにゴーレムは沈黙した。
ドシャリと後ろに倒れ込んだゴーレムに、確認のためもう一度槍を突き刺し反応がないのを見届けてから、レベッカは大きな溜息を吐いた。
(「精神的にかなり疲れたよ‥‥」)
●頑張ったね
「終ったわね。皆、お疲れ様」
お迎えの高速艇内で、瑞希が皆に微笑みかけながら仲間を労わる。
外していた眼鏡をかけて、まったりとした表情を浮かべるイシュケ。仲間の視線が何となく妙なものなので、一刀へと尋ねた。
「‥‥あら〜あら〜皆〜様〜いかが〜しました〜か〜?」
「おぬしは覚醒すると、口調からして勇ましきものであり申した! まっこと頼もしい武士(もののふ)にござった」
モノノフじゃありませんよ〜、とイシュケは笑ったが、その表情に若干の照れが見える。
「ともかくKVでの実戦にて、ゴーレム相手で大きな損傷もなく撃破できた事は非常に喜ばしい。君たちの戦いぶりは実に見事だった」
シアンもそう褒めてから、ありがとうと口にする。
「大した事あらへん。時には楽な戦もええもんやな」
繁紀にとっては予想していたよりも楽だった、としても――、そうでないものも確かにいる。
シアンは特に何も言わずにその場を離れた。
「あ、マクニールさん‥‥」
やってきたシアンに気づいて、アリスと結衣が顔を上げた。
椅子に座りやや青ざめた表情のレベッカを見据えると、彼女はシアンの視線に気がついてぎこちなく笑った。
「汗びっしょり‥‥早くシャワー浴びたいな、なんて」
「LHへ戻ったら、そのままプールに飛び込んだって構わん」
よくないだろ。と誰も突っ込みは入れなかったが、シアンはぽつりと聞いた。
「ゴーレムの感想はどうだった?」
「うに? ‥‥やっぱり、不思議かな?」
結衣が首を傾げつつゴーレムの姿を思い浮かべた。再び見る事があればイメージの確立ができるだろうが、青っぽくてごつごつした巨人、だ。
「皆さんのお力があって撃破できました」
アリスも柔らかく笑みを浮かべて、小さく頷く。シアンは『そうか』と言って、レベッカを見る。
それを誤魔化すようにレベッカは自分の手を見つめて、あははと笑った。
「本当に疲れた‥‥、まだ少し手が震えてるよ」
小刻みに震える手に視線を落とし、気の利いた言葉が出ないシアンは黙考する。
いくら考えてもきっと見つからないので、レベッカの頭をポンポンと二度軽く叩いてから優しく撫でた。
「よくやったぞ、ベッキー」
そう言われたレベッカは、泣きそうな顔をした後――肩をすくめて。
「安心したらお腹空いた」
と腹部を押さえて小さく笑う。
「疲れてすぐにでも眠りたいわけでなければ、飯でも奢ろう。LHで好きな店があるなら言ってくれ」
シアンはアリスや結衣にも言って、別の部屋にいる仲間にもそれを伝えに出て行った。