●リプレイ本文
●many happy?
「くくく‥‥復活の時は来たのだよ」
龍深城・我斬(
ga8283)はたぎる嫉妬を抑えきれぬまま(抑えるつもりもないのだが)言った。
「アレをこうして〜、ああそうそう縛られた時様に腕の所に苦無を仕込んでおかないと」
ねずみ花火やら、お面を黒く塗ったりという作業をうきうきと行う様は非常に楽しそうである。
「皆、集まったようだにゃー」
ミニスカサンタの衣装で不敵な笑みを見せる白虎(
ga9191)
「さぁて、楽しませてもらおうかなっ」
白虎の後方には重たそうな袋を担いだ大泰司 慈海(
ga0173)
「思いっきり暴れちゃいますよっ」
「楽しくいたずらしたいですね!」
白い犬耳尻尾装備のサンタ、真白(
gb1648)と相澤 真夜(
gb8203)が可愛らしく張り切っている。
話がかみ合っていないが、テンションのみで会話は成立している。
「クリスマスは歪んでいる! この聖なる夜は奴らのデート記念日ではない!」
もとよりぱっちりした瞳を大きく見開き、街へ向けバッと片手を広げる白虎。
『総統! 総統!』
誰ともなしに総統を讃える声が上がり、白虎は大きく頷いた。
「そう‥‥僕が総帥。そして『しっとのプロフェッショナル』とは我々の事‥‥歪みを‥‥僕達が正す! 僕が! 僕達が! しっ闘士だ!!」
一際大きな歓声。しっとの心が結束したことに満足げな白虎。
雪野 氷冥(
ga0216)が美味しそうなクッキーの入った包みをいくつかサンタ部隊宛てに渡す。
「これも配って頂戴ね。美味しそうでも皆は絶対食べちゃダメよ?」
彼女の特技は『普通に作っても破壊力のある料理ができる』事。味はつまり‥‥?
兎も角、覚醒すると飛躍的に増加するその腕前。サンタ部隊は爆発物を扱うかのように慎重に袋へと入れる。
「それじゃ、皆出発だにゃー!」
白虎の合図とともに、一同は街へ雪崩れて行った。
長門修也(
gb5202)は皆を見送り、一人きりになったところで無線を取り出す。
「‥‥こちら長門。暴徒側、行動を開始いたしました」
何処かへ連絡を取っている彼の表情には、少し憂鬱な色が現れていた。
●表裏一体
Xmasの街。カップルも普段の数割増である。
「おのれ‥‥破廉恥どもめ、許すわけにいかないぜ」
ビルの上から幸せムード漂う街を見下ろすチームエンヴィー(以下TEとする)。
奴らに粛清をと誓った途端。何処からか無線に通信が入った。
『TE、聞こえているか? 応答願う』
「‥‥こちらTE。誰だ?」
そう尋ねると、カンタレラ(
gb9927)が運転するランドクラウンの中から秋月 祐介(
ga6378)が静かに答える。
「しっと側作戦司令部。教授、とでも呼んでくれたまえ‥‥私が諸君を導こう、さぁ、乗るか否か!」
『申し出はありがたい‥‥しかし万年しっと三昧のお前たちとは違うんでね。遠慮する』
無線の向こう。嘲笑の混じる言葉と裏腹に、微かな動揺が感じられた。無論糸口を見逃すほど教授は甘くない。
「ほう。いつかは自分も、リア充‥‥と?」
手元のウェアラブルPCの液晶が、教授の眼鏡を怪しく照らす。彼の瞳には一種の狂気すらあった。
艶やかな唇の口角を微かにあげたカンタレラ(以下、秘書とする)の助手席に座っている鳳覚羅(
gb3095)は、教授の声に耳を傾けながら街の景色を眺めている。
「いつかは!
やがていつかはと!
そんな甘い毒に踊らされ、数多の者が幾つものクリスマスを過ごしてきた!
知れば誰もが望むだろう。リア充のようになりたいと!
リア充のようでありたいと!
故に許されない。リア充という存在は! ‥‥TE、君は我々に従うしか既に道はないのだよ!」
その覇気に気圧されたTE。気がつけば彼の口車‥‥いや、説得に従っていたのだった。
通信を切り、にやりと笑う教授。
「そして嫉妬あるところに『彼ら』もまた在り。さあ、どう出るかな‥‥?」
●事の真相
一方その頃。場所は変わってUPC本部。鎮圧依頼を受けた彼らが目の前の依頼人‥‥シアンを見つめていた。
「中尉さん、理由を説明してもらいましょう。2つの依頼はどういうことなんですか!?」
守原有希(
ga8582)が眉を吊り上げ、返答次第では拳で語ってきそうな勢いでシアンへ詰め寄る。
実はと口を開いたシアン。話を聞き終えた彼らも大方理解したようだった。
「幸せを守る軍人が‥‥爆裂的に鎮圧です!」
有希はますますエキサイトしてしまったらしい。怒りも爆裂しているので、まずはそれを鎮静していただきたい。
「‥‥中尉、今度は仲間にまで‥‥」
ハンカチで涙を拭うフリをしながら、レベッカ・リード(
gb9530)はシアンに憐みの表情を向ける。
「そう嘆くな。じきに伍長へ身をもって理解させてやらねばと思っていたところだ。それが今回重なったと思う事にする」
前向き発言をするシアン、ホームで電車を待つ間のおじさんのように軽く素振りをするなど、妙なやる気を出している。
「人の幸福を妨害するにも程が有るでしょうに‥‥何を考えてるんだか。ま、さくっと役割を決めておきましょう」
百地・悠季(
ga8270)の進行を中心に情報班と迎撃班に分かれることにした。
(「拙僧がカップルの前に出るわけにもいかないな、こりゃ」)
自分の格好を見て、苦笑いを浮かべるゼンラー(
gb8572)はHQ‥‥鎮圧側本部を名乗り出てくれた。
有希と、商工会などあらゆる情報網などを把握するため綿密なやり取りを続けている。
「シアン中尉」
そしていざ出陣という段階でシアンの前に進み出る神撫(
gb0167)。心なしか、その表情は厳しいものになっている。
「重ねて聞くが、TEが言うことに心当たりはないのだな?」
「ああ。全くない」
事実なので安心するかと思いきや、神撫はもっと険しい表情をし、踵を返す。
「よろしい。ならば制裁だ」
ある種の決意を固めた神撫は、コートを翻して出て行った。
●Briefing‥‥
メインストリート。大きなツリーを目当てに、たくさんの人が集まる場所で――和 弥一(
gb9315)はベンチに腰掛けつつ誰かを待っている風を装って、情報収集をしていた。
寒さに肩をすぼめ、背を丸めながら襟を立てる‥‥ように見せ、不自然にならぬよう無線を使用する。
『ほい、こちらゼンラー』
「弥一です。今のところ、これと言った情報・不審者無し。収集を継続します。送信終わり」
『了解だよ』
短い報告を定期的に行い、弥一は再び視線を街へ走らせた。
所変わって更衣室。
「女手が足りなそうだからな、アレやっとくか」
アッシュ・リーゲン(
ga3804)はクラーク・エアハルト(
ga4961)とレイン・シュトラウド(
ga9279)を作戦へと誘う。
「LHの平和の為、女装も仕方が無い。アッシュさん、レインさん、まあ頑張りましょう」
「はい。年に一度のクリスマスをぶち壊す輩は許しておけません」
「ったく、自分の立ち位置を変えなきゃ何時まで経とうが同じ事の繰り返し、不毛な行為だって気付かないかねぇ‥‥」
男子更衣室で三人横一列に並んで、鏡に向かってメイクや着替えを行っている。
「私は女、私は女、私は女‥‥」
鏡に両手と額を当てて、小声で囁き続けるクラーク。奥方をモデルにした女装は、とても完璧であった。
クラークが格好いいお姉さん系、アッシュは(タッパのある)清楚系お姉さん、レインは可愛い系のお姉さんと三者三様の‥‥『罠』が完成する。
「では行きましょうか、皆さん。幸運を祈ります」
クラーク‥‥いや、クラリスが二人に声をかけて戦地へと共に歩み出した。
●行動開始
「ホワイトクリスマース!!」
「はぁっはっはっはー! ブラッククリスマース!」
白いサンタ姿の真夜と黒いサンタ姿の飲兵衛(
gb8895)が、カップルにプレゼントを配り歩く。
カップルの男には、
「スナイプッ!」
飲兵衛が黒砂糖の剛速球を投げつけ、イチャイチャと身を寄せ合ってベンチに座るカップルには
「恋人達に白いクリスマスを!」
と、真夜が笑顔で頭の上から角砂糖を降らせた。
悲鳴をあげて立ち上がったカップルらを退かすように、ペンキ缶や刷毛を持った氷冥とTEの一部がぞろぞろとやってきた。
「はいはい、すみませんね。清掃作業ですよー。ごめんなさいねぇ」
規制線を張ってベンチにペンキを塗ったり、清掃作業をおっぱじめたではないか。
「おいおい、今日やんなくたって‥‥」
「何言ってるの!? ごみはこういう日こそ増えるのよ! さ、退いた退いた!」
箒で軽く叩き、カップルを次々退かす氷冥。しかも微妙に掃除も楽しい。
「只今、カップルへプレゼントを配るキャンペーン中なんですっ」
真白がサッと現れ、ラッピングされた小さな箱を笑顔で手渡した。
なんだろう、と貰ったプレゼントに興味を示し紐解こうとする頃。箱が破裂してカップルの視界は黒く染まった。
特製イカ墨爆弾が入っていたのである!! しかも爆竹を使用した時限式の!
視界を拭うのに慌てるカップルの前へ、我斬が『大丈夫ですかぁ〜?』と偽りの親切を振り撒き、足元を狙ってねずみ花火を投げる。
くるくると足元で舞い踊るねずみ花火。パニックを起こし、泣き声に変わりそうな怯えた悲鳴が心地よく感じる。
「クカカカカ、暗闇の中足元からはい寄る恐怖におびえるが良いリア充どもめ!!」
しかしまだまだ恐ろしい『しっとコンボ』は繰り広げられる。
「メリークリスマース♪」
その近くでは蓮角(
ga9810)と、白い髭をつけ人相を誤魔化した慈海も、専らカップルの男性へプレゼントを押しつけ、開けた時の反応を楽しんでいる。
「やめてくれ! 俺たち付き合ったばっかりなのに割れたハートチョコとか何だ!」
「ぎゃぁ!? ムカデー! ‥‥なっ、そっくりのゴム製だと!?」
「このフィギュア、怖ぇよ!」
時々氷冥の作ったクッキーを持たせては、悶絶し倒れるカップルと料理の威力に驚きもしていた。
「ククク‥‥たまらんですな、サンタさん」
「まったくですよ、オニタロスさん」
にやにやと厭らしい笑いを浮かべるしっとの者ども。
――という様子を隠しカメラで教授へと送っているのだが‥‥
「‥‥地面ばかりが映っているな‥‥」
音声は届くので想像できるものの、カメラの位置が若干ずれてしまっているようだ。
「移動しながらプレゼントを出してますものね」
画面を覗き込んで首を傾げる鳳覚羅(以下カオス)に、微動だにしない教授と、艶っぽく笑う秘書だった。
『こちら白野威。教授、応答を』
無線から白野威 奏良(
gb0480)の怒気混じる声が聞こえてきた。
「ん? どうかしたのかね」
『女が路上撮影会をやってるんよ!』
撮影会。怪しい‥‥教授は数秒沈黙し、にたりと笑む。
「‥‥そうだ、諸君。そうこなければ、面白くない‥‥!」
存分に楽しもう。この夜を!!
●策と罠は使いよう
「ん?」
噴水の前で松茸水を撒き散らしていたTEの一人が、可愛いストラップのついた携帯が落ちているのに気づいて拾う。
困っているだろうから交番に届けてやろうとした矢先、携帯からオルゴール調の着信音が鳴りだした。
無視していたのだが、しつこく鳴り続ける着信に堪りかねて通話ボタンを押す。
「こりゃ落としモンのケイタ‥‥」『私の携帯なんです! 親切な人に拾われて良かった‥‥ありがとうございます!』
女性の声が聞こえ、少なからず動揺したTEの男。是非会ってお礼がしたいと言われ、劇的な展開を妄想して一人舞いあがる。
(「おいおいこりゃ、マジモンか‥‥!?」)
受け渡し場所を指定し電話を切った同僚の顔を、もう一人のTE仲間は悔しそうに眺めていた。
(「バッカじゃねーのオレ‥‥仲間にまで嫉妬しちまうぜ‥‥これだから嫉妬の道から逃れられないってのによ‥‥」)
妙なところでセンチになったアイツへ、どすんと誰かぶつかった。
「ってーな! てめ、どこ見て‥‥えっ?」
不機嫌に振り向いた男の足元、ぼろぼろと涙を流している白蓮(
gb8102)がへたり込んでいた。
「ちょっ、怒ってねーし。悪かった! 泣くなって!」
「一緒にいようねって、約束したのにっ‥‥! よりによって今日、別れようってっ‥‥!」
顔を覆ってわっと泣き出す白蓮。宥めながら、周りから白い目で見られる男。同僚の姿はもう既に消えていた。
しばらく宥めてもらった後、涙を拭いながら白蓮がぎこちなく微笑む。
「‥‥取り乱して迷惑掛けてごめんなさい。んと、貴公さえよかったらお詫びってことで少し付き合ってほしいですっ」
「いやそのオレは今‥‥えーと、あーと」
「‥‥駄目、ですかっ?」
眼を潤ませ、上目遣いでおねだりをする白蓮に負けたらしい。ちょっとならという約束で承諾した。
「ありがとう! 実はですねっ、ちょっと行きたいお店があるんです! 一緒にお願いっ!」
と、有希の屋台へと連れて行く。
TEの彼が事実に気がつくのは、確保されてからの事。電話を返しに行った同僚もまた、アッシュの見事な作戦と演技に騙され確保された事だろう。
「一緒に、記念として撮影しませんか?」
『クリスマスチャリティ撮影会』と小さな看板が立てられ、ジェーン・ドゥ(
gb8754)が、笑って手招きをする。
何人かTEが混ざっていて順調に思える足止め。しかしちょっとした誤算があった。
「目線くださーい」
「ちょっと肩を抱いてみてくださいー」
(「‥‥注目を浴びすぎたわ」)
一般の男性諸氏に囲まれているのだ。
チャイナドレスからすらりと伸びる脚に見とれ鼻の下を伸ばした男の煩悩は消えることがない。
(「‥‥あら?」)
彼女の視界にちらりと映った黒い装いの男。姿を正確に視る間もなく人垣に阻まれ、たが‥‥見間違えはないだろう。
「ごめんなさいね、ちょっと衣装を替えてくるわ。もう少し大胆にしようかしら‥‥すぐ戻るから待ってて?」
ジェーンがそう言って人垣をすり抜け、ゼンラーへ嫉妬側のメンバーが人垣にいるようだと連絡をし、捕獲を要請する。
丁度その頃。秘書の無線から夕凪 沙良(
ga3920)へ連絡が入った。
『UNKNOWN(
ga4276)を発見。現場付近へ向かわれたし』と。
●闇の中の正義
「ひゃっふー、クリスマスを黒歴史にしてやるぜー!」
ぽいぽいと投げている内にハイテンションになってきた飲兵衛。白い服を着たカップルを選んで投げつけ、黒く染め上げている。
隣の真夜にも風船を渡し、投げるように促す。
「メリークリスマー‥‥」
真夜の視界内、こちらを見て、煙草を取り出し近づいてくるUNKNOWNの姿が映った。
「!! アンノーンさんだ!」
風船を取り落とし、野兎のように震えながら覚醒する真夜は、瞬天速を連続で使用して一気に逃げ去る。
「相澤、さん?」
飲兵衛がどうしたのかと、真夜が去っていったほうを見つめている間に――足元に投げられたUNKNOWN特製煙草型煙幕が発動した。
「な、なんだっ!?」
もくもくと煙に包まれる飲兵衛。視界が奪われている間、彼は確かに聞いたのだ。
「騒ぎすぎるのもいかん。騒がれたいのなら、手を貸そう」
お仕置きだ、という声とともに。
「‥‥あれ?」
煙幕が消える頃にはバニースーツに着替えさせられ、縄で手足を縛られて転がされている飲兵衛の姿があった。
街行くカップルが驚き、次の瞬間にくすくすと嘲笑を浴びせられる。
「くっそ、女に逃げられたわ‥‥ん?」
女性の豊かな胸に嫉妬した奏良は悔しそうにミニツリーを抱えながら歩いている。
そこで飲兵衛を発見し、思わず駆け寄ったところであられもない姿に固まってツリーを取り落とした。
落ちたツリーは、飲兵衛の尻に突き刺さる。
「‥‥んぎゃぁぁーー!!?」
「いやあああーーー!!」
飲兵衛の絶叫と奏良の悲鳴が木霊する。
彼らにとって、まさにクリスマスは黒歴史になったことだろう。
「見ていたわ、UNKNOWNさん」
先程抜けだしてきたジェーンが、街行く彼に話しかける。
丁度沙良もUNKNOWNを発見したところだったので隠密潜行を使い、道行く人に混じり悟られぬよう近づいていく。
「嫉妬側を吊るすなんて、やっぱり貴方――」
「私は静かに本でも読んでいたいのだよ」
そう眼もとで微笑むと。UNKNOWNは去っていく。
(「‥‥危険な‥‥」)
沙良はそっと、彼の尾行を続ける。
ローゼ・E・如月(
gb9973)が『きみらのためだから!』と軽くチョップをして微笑んでは去っていくを繰り返している。
当然攻撃されたカップルは嫌そうな顔をしたり、呼びとめて文句を言ったりするのだが、ちょっと立ち位置が危なっかしいローゼは意に介さず。極めて自由だ。
悠季が無線でゼンラーを呼ぶ。
『ほい、どうしたね?』
「女がカップルに攻撃を繰り返してるのよ。カップルと見れば見境ないの」
『修羅場ではなさそうかねぇ? だとすると嫉妬側の可能性も高いねぃ。近くにいそうな人を探すから、危険そうでなければ足止めをお願いだよぅ』
「人目につくのはリスク高いわね。しょうがない、やってみるわ」
『ほい。無理はしない程度にねぃ』
通信を終えると、悠季はローゼの方へ注意深く歩み寄り‥‥声をかけた。
「ちょっと。人の迷惑になるわよ、止めたら?」
「雨降って地固まるのに、止めろなんてとんでもない!」
ローゼは反論しているが、悠季も『とんでもないのはそっちよ』と思いつつ、会話を根気よく続ける。
悠季が言葉を選びながら説得を試みるが――効果は薄そうだ。足止めしているはずが、自分も足止めされている。
そして仲間より一足早く、嫉妬側に見つかってしまったのだ!
商工会、警察、仲間の報告や対処に、有希とゼンラーは忙しい。
「変態がバイクを乗り回している? ‥‥斥候にしては暴れすぎですね」
『単独で引っかき回す者もいるようだねぃ』
ゼンラーは周波数を切り替え、HQとして借りたホテルの一室で窓の外を見つめながら弥一に連絡を取る。
『こちらゼンラー。弥一っちゃん、暴れてる人居ないかねぇ?』
「今ですか? バイクの音が聞こ――」
弥一の視線の先。悠季が後ろを時折振り返りつつ通りを走っている。その後から爆音が一つ続いていた。
「これは私怨ではない‥‥聖戦だ!」
フェイスマスクを着用し、臍までしかファスナーがあがっていないツナギ姿の湊 影明(
gb9566)が後を追う。
しっとのパワーで彼はここまで変貌を遂げたようだが、HENTA‥‥いや、目立つ姿で爆走するものだから、すぐ見つけてくれというようなものだ。
「‥‥メイン通り、ツリー前から公園方面へ移動中の仮面のバイク野郎、括弧湊影明括弧閉じる、を確認。オーバー」
(「あれは‥‥」)
しっと側で情報収集をしている加賀 環(
gb8938)が、妙に煩いバイクと、それを見てこそこそしている弥一を発見した。
「環です。鎮圧側の男を発見。迎撃に移行するよ」
『うむ。存分にやりたまえ』
教授の許可も下り、環はそっとハンドバックから納豆入り風船を取り出す。
(「覚悟!」)
いざ、ぶつけるという段階。
掌中で風船がぱちんと爆ぜ、地面に糸を引きながら落ちて行く納豆。
「なっ‥‥!?」
環も驚きを隠せぬまま周りを見ると、足元に小さいベアリングが落ちていた。
気付かなかっただけかもしれないが、風船が割れたタイミングといい、不自然だ。
納得できるものとして誰かがベアリングを飛ばして風船を割った、という仮説が導かれた。人ごみの中、眼を凝らして探すが、それらしき者は見当たらない。
恐らく制圧側が潜んでいる。これはまずい。手も臭いしベタベタするし、捕まらないうちに一刻も早く離れるが得策。
まだやりたい事は多いが、捕まるほど阿呆らしいものもない。
●正しくない
「あ、伍長さん」
リゼット・ランドルフ(
ga5171)が偶然を装い、水鉄砲へ給水している伍長を発見した。
「あれ、確か‥‥リゼットさん? ここは危険ですよ」
「そ、そうなんですか?」
重い気持ちでリゼットは『何時も貴方を見ています☆ラヴレター作戦』を発動し、伍長へ手紙を差し出した。
「あの、丁度良かった。女性から伍長さんに渡してくれと頼まれたんです」
「僕に?!」
上ずった声を出しながら、手紙を受け取るとすぐに文面を確認する伍長。若干鼻息が荒い。
「‥‥リゼットさん。誰にも、特に嫉妬メンバーに内密でお願いします」
「も、勿論です」
サッと懐にしまい、弾む足取りで指定先‥‥有希の屋台目指して駆けて行く伍長。
心の中で詫びつつ、伍長を追いかけ向かおうとするが‥‥右方面より姿を見せ、にやりと意地悪く笑っている別の男に気がついた。
「一部始終見てたぞ。ありゃ罠なんだろ? 可愛いお嬢さんでも‥‥容赦しないぜ」
近づいてくると、水鉄砲を彼女につきつけた。
「‥‥誰ですか、貴方」
気丈にもきゅっと目の前の男を睨むリゼット。
黒い髪に見慣れた軍服。この条件に当てはまるのは――
「知らないのかい? オレは嫉妬側TE指揮官。シア、」
ぴこっ!!
言い終わらぬうちに、偽中尉の顔めがけてリゼットの巨大ピコハンが打ちつけられた。
「違います! 変態さんと一緒にしないでください!」
ピコ、ドカッという音が連続で聞こえる。痛そうな音の割に大した威力はない。
「中尉は、巻込まれ体質で薄幸でドSとか言われてるけど、本当はいい人なんだから! あと、もっと美人さんです!」
「なんだっ、このアマ‥‥いい加減にしろっ!」
偽中尉もピコハンを片手で抑え、水鉄砲を再び構え直した。黒髪のカツラは既に取れてしまって、金の自毛が現れている。
「いい加減にするのは、貴様のほうだ」
冷ややかで落ち着いた男の声が聞こえたため、思わず振り向いたリゼット。
二人より少し離れた場所で水鉄砲を構えたレベッカと、神撫が仁王立ちしていた。
神撫は『行け』とアイコンタクトをリゼットに送る。
彼女は頷いて素早く離れ、浮かれているはずの伍長を追っていった。
「‥‥チッ、誰だっ、てめえら!」
神撫は冷たく光る眼差しで偽中尉を見つめ、武器を握る。
「‥‥しっと団、しっ闘神、神撫」
「‥‥レベッカ!」
偶然居合わせたので、特にうまいこと思いつかなかったらしいレベッカ。
「しっ闘神、だとォ〜? フン、そのしっと団と手を組んだ俺たちを知らないとは。皆の者、であえー!!」
ピィィ、と指笛を吹いた偽中尉。するとどこからともなくTEが集まってきたではないか!
15人いたチームの数が5人と減っているのは、皆のお陰である。
TEの面々を無言で眺める神撫を指し、偽中尉は声高々に言う。
「こいつらはしっと団の名を語る偽物だ!! 倒せ! 吊るしてしまえー!」
私はしっと団じゃないというレベッカの声を無視し、TE勢は水鉄砲で射撃を行う。
レベッカも松茸水に泣きそうな顔をしながらジョロキア水鉄砲で応戦。口を狙って撃ちまくる。痛みと辛さに敵は怯んだ。
神撫は怯むことなく突っ込み近くの一人を打ち倒し、言い放つ。
「貴様らはしっとの仕方を間違った。正しいしっとと言う物を教えてやろう。いざ、参る!」
疾走する神撫。松茸水を食らっても止まらない。
「おい、この男、効かないぞ!? まさか」
日本人か――!? という叫び声は、神撫の教えにかき消された。
「ひと〜つ、事実に対してのみしっとするべし!」
妄想のみでの嫉妬など勘違いも甚だしい。事実を誤認しないよう各自で『しっと眼』を身につけるべきであるという。
水鉄砲が効かないと知ったTEは武器での戦闘を試みるが、レベッカの射撃と神撫のトンファーでことごとく返され、痛烈な痛手を負う。しかもジョロキア臭も彼らの目鼻を地味に襲う。
「ふた〜つ、しっとは自己責任で!」
中尉の名前で依頼を出さず、自分の名前で堂々としっとする事。
神撫は最後に残った偽中尉へ鋭い眼光を送った。
他のTEメンバーは、既に彼の足元で呻いている。
「くっ‥‥お前ごときにぃぃぃ!!」
視線に怯みながらも、自棄になった偽中尉は突撃を試みた。
「みぃ〜つ、やるからには徹底的に制裁するべし!」
神撫は腰を軽く落とし、グリップを回転させて持ちかえると、肩を強く打ち据えた。
その場に膝をつき肩を押さえる偽中尉へ神撫は一段と熱く言い放った。
「何故その場でシアン中尉を拘束のみに留めた‥‥? トドメをささないでどうする!?」
そこが一番重要だったらしい。レベッカと偽中尉は肩の痛みも忘れ茫然と、詰めが甘いとダメ出しをしてくる神撫を見つめていた。
「いとも簡単に引っ掛かるのも嘆かわしいぞ、伍長‥‥」
有希の屋台で待ち伏せしていたシアンの制裁を食らってぐったりしている伍長を公園のベンチ(氷冥にペンキを塗られたもの)に縛り付けておく。
「しかし妙だ。TEを伍長と偽者が操っていないならば、他に司令塔があるはずだ。しっとの総帥はどうしている?」
『確保はされていないねぃ‥‥妨害活動で街にいるようだから、指令をしているかはどうか』
「‥‥あちらにも司令部、か。よしんば場所や人数の手掛かりがなければ潰すのも困難だ」
『それなら任せてくれないかねぇ? 作戦があるんだよぅ』
と、ゼンラーは事前に知らされた周波数を回し、『作戦始動』を執り行ったのだった。
結果と有力な情報を伝えられたシアンは頷き、
「それは――素晴らしい策だ。ひとつ俺からも頼みがある」
提案を持ちかけるとその方角へと走っていった。
「こちら、秘書です‥‥ええ、了解しました」
秘書は仲間からの無線を切ると、教授へと話しかけた。
「今しがたカップルの女性へスカートめくりを続けていた長門が、鎮圧側に捕縛されましたわ」
「随分と美味しい作戦をしていたな」
しーんと静まりかえる車内。場の空気を変えるため、秘書は咳払いをする。
「TEは壊滅。数人捕縛され、どちらにも属さない第三勢力も動いているようです。いかがなさいますか、教授?」
「鎮圧側など恐るるに足らんと思いきや、なかなかやる‥‥こちらも情報は密に。全てのメンバーへ現況を報告させろ」
「はい」
●過冷却と攻防戦
先程から影明より逃亡中の悠季。
一般人にもしもの事があってはならないと裏道を辿ってきたのだが。途中トリモチや何やらくっついてベタベタである。
「一張羅なのにどうしてくれるのよ、もう!」
イカ墨を撒き散らし、微妙にHENTAIチックな装いの男に追われ、髪も乱れるし、服は汚れるしで泣きたい心境である。
そうして走り回っているうちに公園へとやってきた。
「何よ、うるさいわね‥‥暴走族? クッキー食べさせるわよ‥‥」
ちょっと掃除に熱中してしまっていた氷冥。大音量のバイクに眉を顰め、驚いた。
「って、あれはもしかして鎮圧側! 確保して吊るさなくちゃね」
ぽいっと箒を投げ捨て、走る氷冥。悠季の進路上に立って覚悟しなさいと身構える。
「どいてどいてっ! 轢かれるわよ!」
悠季は速度を緩めることなく、進路を変更することなく氷冥のほうに走ってくる。
当然バイク速度も変わらない。ヤバそう――氷冥もじりじり後退しはじめた。
「ちょ‥‥速度緩めなさいよ!」
「仲間だったらあの男に言って!」
氷冥もくるりと方向転換して悠季と一緒に駆けだした。氷冥が曲がれば、悠季も同じ方向に曲がってくるではないか!
「私も巻き込むつもり!?」
「当り前よ! こうなりゃこっちは自棄なのっ!」
ワーワー騒ぎ走り回る彼女たち。
(「湊さん、妹さんが式近いのに‥‥」)
当然注意深くあたりを見ていた有希は呆れながらゼンラーと白蓮へ報告を行っていた。
同じ公園内にUNKNOWNもいたのだが、暗い場所に佇んでいるので気付きにくいのだろう。その一本向こう、公園の外ではレベッカに追われている真夜がいた。
「いっやぁぁー! ユーリ君! ユーリ君!! ユーリくーん!!!」
瞬天速で振り切っているのに、無線で義弟の名を呼びつつ軽いパニックに陥っている。
「もう大丈夫‥‥かな」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は要請を受けてすぐにやってきた。
自分を通り過ぎて逃げ出す真夜へ手を振るとレベッカと対峙する。
「ハバネロ水を浴びたくなければ、大人しくしてね」
「‥‥こちらはジョロキア水。同じ言葉を返すよ」
お互いに譲る気配はない。
「眼は撃たない約束で」
「うん。そっちも」
そこは頷き合って、いざ――!
「ははははははははhaはっはっははぁはぁぁ」
そんな緊迫した中に突如笑い声が聞こえてきた。
街路樹の上でむせ返る火絵 楓(
gb0095)。息ができないらしく酸素ボンベを取り出すと、屈みこんで吸入。
興が過冷却された二人は、お互いに銃を納める。
「はぁ‥‥次は撃つから」
「うん。それじゃ、活動ほどほどにね‥‥」
お互い背を向けて違う場所へと向かっていった後、ようやくリカバリーした楓。
「うん、もう大丈夫!! 我こそは怪人レッドファントム!! 醜き争いをぉ‥‥アレ、誰もいない‥‥」
楓が口上を述べようとした時には、既に彼らはいなかったのだ。
折角考えたのに、と残念そうにしつつ街路樹から降り立って、道行くファミリーにプレゼントを配っていた。
「あの屋台‥‥!」
悠季を追う(氷冥は巻き込まれた)影明は、視界の端に有希の屋台を発見した。
「リア充は‥‥修正する!」
キュッと方向転換して、屋台目がけてバイクを走らせる影明。突っ込んでくる気なのだ‥‥!
「湊さん、あなた――!」
やめなさいと言う有希の言葉には耳も貸そうとしない。
影明の目的は破壊だ。仕方ないと応戦しようとした有希。
もう猶予がない。全てを傍観していたUNKNOWNは煙草を一本取り出して吸口を破り、影明の進路上へと投げて自分も走る。
地に落ちた煙草は強い閃光を発し、影明を包みこむ。一時的に視覚を奪われた彼は、確かに聞いたのだ。
「私はお祭り騒ぎも見るは好きだが、人を害するのを是とする行為には容赦はせん」
お仕置きだ、と静かなUNKNOWNの声を。
視界が回復してきた頃。遠くで有希が茫然とし、こちらを見ている。が、影明の見る景色は逆様だった。
「‥‥あれ」
いつの間にか大きな木に吊らされている。大音響を振り撒くスピーカーもコードを切られ止められていた。
帽子を軽く押さえて颯爽と去っていく黒きものの背を見送り、有希は無線を手に取る。しかし、問題はこれだけではなかった。
「湊さん、UNKNOWNさんが確保です‥‥うわ!? 全器具停止、商品保護っ!」
UNKNOWNを追ってきた沙良が、敵対勢力とみなし屋台へロケット花火を撃ってきたのだ。
過冷却水が漏れたら、程度に関わらずたくさんの人が被害に遭う。
『任せろ。標的を確認した。排除に移る』
象さん滑り台に伏せ、赤い霧(
gb5521)が応え、沙良の手にあるロケット花火だけを狙いゴム弾で撃ち落とす。
「‥‥!」
赤い霧に注意を向けた沙良へ、同じく救援要請を受けたレインも水風船や黒胡椒入りの布袋を投げつけた。
しかし沙良も素早く躱すと、不利と悟って爆竹に火をつけ地面すれすれに投げて逃走した。
撃退することに成功したが、赤い霧はすぐにその場を離れ、レインは影明の縄を切り、下ろすと笑顔を見せた。まぁ、女装中なので女の子が微笑んだようにも見えるのだが。
「さあ、お待ちかねのお仕置きタイムですよ」
目の前の女(レイン)は天使かと思いきや悪魔であった。『特製・激☆苦汁』をお腹一杯飲まされ、影明は何度か気を失う羽目になった。
有希も移動したほうが良いと判断し、屋台を引いて公園を後にする。
●竜虎相撃つ
佐渡川 歩(
gb4026)は、打ちひしがれて一人トボトボと歩いていた。
(「教授も『こっち側』の人だと信じてたのにっ‥‥!」)
しかもむっちむちの、きゅっとしてぼーんな美人秘書。やや開いた胸部、険しい山脈すらも悩ましげな和服姿だ。
歩でなくともしっとに燃えてしまうのは無理もない。カップルにその悔しさをぶつけても(演技が下手すぎて)相手にされない。
「こんな所で如何したの、ボウヤ?」
そんな彼の前に、次の獲物を求めるクラリスこと、クラークが現れた。
「えっと‥‥ちょっと、クリスマスの活動を、していて‥‥」
そこでクラークは表情を幾許か柔らかくした。
「大変ね。そうだ、良かったら一緒に食事でも行かない? 折角のクリスマスに、私も一人は寂しいのよ」
歩はぱあっと表情を輝かせ、僕が気に入ったってことですね! と言いだした。
「‥‥え、ええ。そうよ」
「今日の占いは1位だったんです。いい事ないなって思ったけどこういう事なんですね。皆さんご免なさい、僕は愛に生きます!!」
暗闇すら吹き飛ばしそうな歩の勘違い。これは厄介だなと思ったクラーク。とっとと路地裏で縛りあげてしまおうと――
「騙されるな! そいつはリア充派だー!!」
ロリサンタこと白虎が現れて、クラークをびしっと指した。
「やだなー、そんな事言って僕を試すつもりですか?」
「ホントだって!」
白虎が言うのも聞かず、歩はウザいくらいの眩しい笑顔で応えた。
「どんな事があっても、僕は君の事を信じてるから!」
勘違いというのはすごいものだ。とりあえず悪く思うなと謝って、当て身を喰らわせ昏倒させた。
「‥‥やはり、姿を変えただけでは判ってしまいますか」
気絶した歩をそっと寝かせ、クラークは白虎を見据えて声色もいつもの調子に戻す。
「無論だにゃー。ここで見つけたのも好機。クラーク・エアハルト! 勝負だにゃー!!」
ざっ、と身構えたロリサンタに、ゆっくり戦闘態勢に移行する女装青年。
「では決着といこうか、我が宿敵よ。覚悟は良いか?」
「今日は負けないにゃー!!」
通行人が投げ捨てたドリンクの缶が落ちる音を合図に、どちらともなく駆ける。
宿敵同士の戦いが、今切って落とされた!!
カオスはゆっくりと顔をあげる。
「‥‥教授」
「何かな」
「お客さんのようだ。オーダーを」
歩道側からこちらに向かってくるシアン、修也、赤い霧の姿。
「依頼主‥‥意外だが、なるほど。ハハ、面白い。実に面白いぞ!」
歪んだ笑みを見せながら教授はウィンドウを半分開き、ようやくその顔を覗かせた。
「これは我らが依頼主、シアン中尉。いかがされたかな?」
「どうして来たかは‥‥君は全て把握しているだろう?」
シアンの言葉に続いて、修也が教授へと言い放つ。
「確保されたついでにこちらに回りました。‥‥最初からそのつもりでしたが」
「そうか。スカートめくりは楽しかったかね、長門君? ‥‥カオス、遊んでやれ」
と、カオスに振るのだが‥‥彼はスッと片手を差し出した。
「いいけど、ここからは割増し付きの別料金だからね?」
「なっ‥‥くっ、仕方がない。後で支払う」
「了解」
短い返答をすると、秘書と共に外へ出るカオス。
「俺にとってはビジネスなんだ。悪く思わないでね?」
「‥‥ほう。金で絆の取引は好きでないが――」
この額なら此方に着くか? と懐から高額の小切手を見せるシアン。カオスは少なからず動揺したようだ。
「教授‥‥上乗せはない?」
「いいから早くやらんか!」
教授に叱咤され、赤い霧へ素手での接近戦を試みるカオス。
赤い霧もそれに応じて初撃を払うが、肘を極めようと腕を掴む。
カオスは素早く察知して赤い霧の鳩尾へ拳を突き出すものの、素早く身を引き間合いを離される。
「教授のお命は、差し上げられません‥‥」
「命まで取ろうなんて思ってないけど、人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやらですし」
二人が格闘している横、秘書の装いに多少どぎまぎしつつも修也は努めて冷静に応える。
「即、制圧させてもらいます」
「お相手致しましょう‥‥」
と、巨大ハリセンを構えた秘書だが、教授がPCを見つめながら良く通る声で告げた。
「――いや、もういい。カオス、秘書、引け。‥‥中尉、どうやら今回はお互い決着がつかぬようだ。我々は撤退する」
「何?!」
どういう事かと聞いたが、教授はすぐに判るさと言い、カオスと秘書が車に戻るのを待つ。
「では次の闘争でまた会おう。さらばだ‥‥!!」
煙幕を使用し、車は去っていく。
後に残ったシアンらは、その煙幕が立ち込める様を苦々しく眺めていた。
●終了、そして‥‥
「逃げたものもいたようだが、騒ぎの鎮静化という点だけは完了。皆の協力、感謝する」
シアンが満足げに応え、一足先にUPC本部へ連れて行くからと伍長を引きずって去っていく。
が、彼の後始末はここからなのだ。
「中尉。この騒ぎはどういうことだ!!」
「ん‥‥?」
本部へ着くなり怒鳴声が後方よりあげられ、怪訝そうに振り向いたシアンと伍長は凍りつく。
「ミハイル‥‥大佐‥‥」
「話は聞いた。お前の完全な監督不行き届きだ! この馬鹿者どもが!」
シアンの持っていたハリセンをひったくる様に奪い、二人の頭の上に落とす。
スパーンと二度いい音がした。
どうやらアイルランド支部(シアンの上司)より通達があり、ULTを通じて依頼に参加した者たちへ撤退と注意が下ったらしい。そのため撤収していったのだろう。
その後ミハイル大佐の説教はしばらく行われ、その間に多額の請求書があちこちから軍あてに来るのだが、それはもう語らずともいいだろう。
争いが収まり、静かな街に輝くイルミネーションは、光を放ち夜を彩り続けるのだった。